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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1089755
異議申立番号 異議2002-70927  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-09-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-15 
確定日 2003-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3217759号「その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素及びその製法、これを含有するトナー、シリコン組成物及びシリコンエラストマー」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3217759号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3217759号の請求項1乃至14に係る発明は、平成10年12月16日(パリ条約による優先権主張1997年12月19日、ドイツ国)に特許出願され、平成13年8月3日に特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1乃至14に係る特許について特許異議申立人 渡邉順之、同植田茂樹、及び、同東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社より特許異議申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年4月25日に訂正請求がなされ、当該訂正請求書に対し、手続補正指令(方式)が通知され、その指定期間である平成15年5月27日に手続補正書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
上記手続補正書による補正により上記手続指令(方式)で通知した方式上の不備が解消された平成15年4月25日になされた訂正請求は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を上記補正後の訂正請求書に添付された明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるもので、その内容は以下のとおりである。
(1)請求項5を「酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用い、該シリル化剤及び水を、存在する高熱分解二酸化珪素のシラノール基に対して、モル過剰で加え、かつ、シリル化反応を、塩基の存在下、少なくとも15分間行うことを特徴とする、請求項1に記載の二酸化珪素の製法。」と訂正する。
(2)請求項7、8、及び11を削除し、項数を繰り上げるように訂正すると共に、引用する請求項の項番を訂正された項番に訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許明細書の請求項5に記載された「シリル化剤を」を「酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用い」と限定すると共に、シリル化剤と共に「水を」、存在する高熱分解二酸化珪素のシラノール基に対してモル過剰で加えるように限定し、さらに、「シリル化反応を、塩基の存在下、少なくとも15分間行うこと」を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと云える。そして、「酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用い」ることは、特許明細書【0022】〜【0025】段落に記載されている事項であり、シリル化剤と共に「水を」、存在する高熱分解二酸化珪素のシラノール基に対してモル過剰で加えることは、特許明細書の請求項5及び6の記載の記載に基づくものであり、また、「シリル化反応を塩基の存在下で行うこと」、及び、「シリル化反応を少なくとも15分間行うこと」は、夫々、特許明細書の請求項7及び11に記載されているところであるから、この訂正事項1は、特許明細書に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであり、新規事項を追加するものではない。しかも、この訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
訂正事項2は、請求項の削除及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであることは明らかであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。
2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
特許第3217759号の請求項1乃至11に係る発明(以下、「本件発明1」乃至「本件発明11」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素において、高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)(ここで、aは1、2又は3であってよく、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基である)とからの合計は、非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きいことを特徴とする、二酸化珪素。
【請求項2】高熱分解二酸化珪素表面に結合している、構造:Ra(OH)bSiOc及び(OH)dSiOe(ここで、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基であり、aは1、2又は3であり、bは0、1又は2であり、cは1、2又は3であり、a+b+cは4であり、dは0、1、2又は3であり、eは1、2、3又は4であり、d+eは4である)の単位からなる部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の二酸化珪素。
【請求項3】全シリル化剤層中の高熱分解二酸化珪素表面に結合している、構造:Ra(OH)bSiOc(ここで、R、a、b及びcは前記のものを表す)の単位からなる部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造のモル割合は、全シリル化剤層中の全構造Ra(OH)bSiOcと(OH)dSiOe(ここで、R、a、b、c、d及びeは前記のものである)の合計に対して75%より小さいか又は同じであるが、25%より大きいか又は同じである、請求項1又は2に記載の二酸化珪素。
【請求項4】二酸化珪素は、非処理の親水性二酸化珪素の活性で酸性のSiOHの全含量に対して25%より少ない二酸化珪素のSiO2-表面の活性で酸性のSiOHを含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の二酸化珪素。
【請求項5】酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用い、該シリル化剤及び水を、存在する高熱分解二酸化珪素のシラノール基に対して、モル過剰で加え、かつ、シリル化反応を、塩基の存在下、少なくとも15分間行うことを特徴とする、請求項1に記載の二酸化珪素の製法。
【請求項6】水をシリル化剤と少なくとも同じモル量で存在させる、請求項5に記載の二酸化珪素の製法。
【請求項7】付加的に、酸素含有有機珪素化合物自体を25%より少ないモル割合で反応させる、請求項5から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】シリル化を20〜150℃の温度で行う、請求項5から7のいずれか1項に記載の二酸化珪素の製法。
【請求項9】請求項1から4のいずれか1項に記載の又は請求項5から8のいずれか1項により製造された二酸化珪素を含有することを特徴とするトナー。
【請求項10】請求項5から8のいずれか1項により製造された請求項1から4のいずれか1項に記載の二酸化珪素を含有することを特徴とする架橋可能なシリコン組成物。
【請求項11】請求項5から8のいずれか1項により製造された請求項1から4のいずれか1項に記載の二酸化珪素を含有することを特徴とする架橋可能なシリコンエラストマー。」
3-2.申立ての理由の概要
異議申立人 渡邉順之は、下記の甲第1号証乃至甲第5号証を証拠方法として提出し、特許明細書の請求項1乃至6及び11乃至14に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、特許明細書の請求項1乃至6及び10乃至14に係る発明は甲第2号証に記載された発明であるから、特許明細書の請求項1乃至6及び10乃至14に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものであり、また、本件は、明細書の記載が特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許明細書の請求項1乃至14の特許は取り消されるべきものである旨主張している。また、異議申立人 植田茂樹は、本件は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、特許明細書の請求項1、5、12、13、及び14に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。さらに、異議申立人 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社は、下記の甲第1号証乃至甲第4号証を証拠方法として提出すると共に、参考資料1及び2を提出し、特許明細書の請求項1乃至6、10、11、13、及び14に係る発明は甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるか、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許明細書の請求項12に係る発明は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許明細書の請求項1乃至6及び10乃至14に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものであり、また、本件は、明細書の記載が特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許明細書の請求項1乃至14の特許は取り消されるべきものである旨主張している。
異議申立人 渡邉順之が提出した証拠方法
甲第1号証:特開平7-10524号公報(以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証:西独国特許出願公開第2403783号公報(以下、「刊行物2」という。)及びその翻訳文
甲第3号証:日本アエロジル株式会社 カタログ「TECHNICAL BULLETIN AEROSIL」No.13 初版90.5
甲第4号証:高分子論文集 Vol.44,No.9,pp675-679(Sept.,1987)
甲第5号証:表面科学 第5巻 第1号(1984)第35〜39頁
異議申立人 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社の提出した証拠方法
甲第1号証:特公昭60-6379号公報(以下、「刊行物3」という。)
甲第2号証:特開平7-187648号公報(以下、「刊行物4」という。)
甲第3号証:特公昭55-39574号公報(以下、「刊行物5」という。)
甲第4号証:特許2642751号公報(以下、「刊行物6」という。)
参考資料1:ラバーダイジェスト社編「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品〔最新版〕」株式会社ラバーダイジェスト社、1989年3月30日発行、第217〜223頁
参考資料2:ラバーダイジェスト社編「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品〔新訂版〕」株式会社ラバーダイジェスト社、2001年4月27日発行、第200〜205頁
3-3.取消理由通知で引用した刊行物に記載された事項
(1)刊行物1(異議申立人 渡邉順之が提出した甲第1号証)には、下記の記載がある。
1-ア.「本発明は、表面に十分な量の疎水基を有し、しかもOH基の量は少なく、高い疎水性を示す微細シリカおよびその製造方法に関する。」(【0001】段落)
1-イ.「本発明は、単位表面積当たりの表面のOH基の数が0.3個/nm2以下であり、且つ修飾疎水度が60%以上であることを特徴とする疎水性微細シリカである。」(【0011】段落)
1-ウ.「本発明の疎水性微細シリカは、比表面積が50〜500m2/g、特に150〜300m2/gの微細粒子よりなるシリカである。このような微細シリカは、通常、ハロゲノシランの火炎熱分解あるいは加水分解で製造することができる。」(【0012】段落)
1-エ.「本発明のように、ヘキサメチルジシラザンとの接触を水蒸気の存在下に行うことによって、表面のOH基の量が少ない微細シリカを使用するにもかかわらず、得られる疎水性微細シリカの表面に、以外にも十分な量のトリメチルシリル基を導入することができ、しかも、表面OH基の数を極めて少なくすることができた。」(【0022】段落)
1-オ.「本発明の疎水性微細シリカは、ある種の樹脂、たとえば、シリコーン樹脂に混合した場合、濡れ性と分散性がよいために粘度の上昇が小さく、また、粘度の経時安定性を向上させることができる。粘度上昇が小さいことは、その樹脂に多量の微細シリカが充填できる可能性がある。また、本発明の疎水性微細シリカを各種シーラントや樹脂に増粘剤として混合した場合、粘度やチキソトロピー性の経時的な安定性を高めることができる。
さらに、本発明の疎水性微細シリカは、上記した用途の他にも、各種粉体、例えば、乾式コピー機のトナー、粉状樹脂等、各種粉体の流動化剤としても好適に用いることができ」ること。(【0031】、【0032】段落)
1-カ.「実施例1
テトラクロロシランの火炎熱分解で得られた製造直後の比表面積300m2/gで表面OH基数が1.4個/nm2の親水性微細シリカ5Kgを内容積300Lのミキサー中において攪拌混合し、窒素雰囲気に置換を行った。反応温度170℃において、ヘキサメチルジシラザンを200g/分、水蒸気を22g/分で75分供給して疎水化処理を行った。反応後毎分40Lの窒素を30分間供給し脱アンモニアを行った。結果を表1に示した。」(【0043】段落)として、【0053】段落の【表1】には、実施例1により得られた微細シリカの比表面積(m2/g)、炭素量(wt%)、OH基数(個/nm2)等の値が記載されている
(2)刊行物2(異議申立人 渡邉順之が提出した甲第2号証)には、下記の記載がある。
2-ア.「本発明は、シラザン基に由来する有機珪素化合物と水との混合物で酸化物粒子を処理することによる疎水性珪酸充填剤の製造方法に関わる。」(翻訳文第1頁、発明の名称に続く1〜3行)
2-イ.「本発明の対象は、炭素含有量の高い、疎水化された、高熱分解法珪酸を製造するための方法であって、水と極めてゆっくり反応するシラザン、好ましくはへキサメチルジシラザン、および使用されるシラザンのそれより少なくとも50%多い水との混合物を、0ないし100℃の温度にて攪拌された高熱分解珪酸の上にスプレ-し、こうして得られた製品を130℃ないし170℃の温度で、揮発性の成分から分離することを特徴とする。」(翻訳文第3頁19〜25行)
2-ウ.「本発明による方法を用いることによって、・・・高熱分解珪酸の場合、10重量%までの炭素含有量に達することが可能となる。」(翻訳文第4頁18〜20行)
2-エ.「粉末状の珪酸の両液体との衝突は、本発明によれば0℃乃至100℃の間、好ましくは10℃と30℃の間で行われる。この温度区間は、有利に室温で作業を行うことができるということ、しかしまた両方の物質(シラザン、水)の液体領域内での他の温度も同じように選ぶことができる、ということを意味している。」(翻訳文第5頁8〜12行)
2-オ.「本発明よる方法は、ヘキサメチルジシラサンの他に
[R1R2R3・Si]2・NH
の一般式で表される他のシラザンでも実施することができる。」(翻訳文第5頁21〜23行)
2-カ.「実施例1
格子状攪拌機を備えた円筒状ガラス容器に、BET法 比表面積が310m2/gの高熱分解法珪酸60gを入れて強く攪拌し、20分以内に2本のガラス製毛細管を用いて水30g、ヘキサメチルジシラザン16.2gを加えた。両液体は攪拌されている珪酸に添加される直前で合流させた。添加後の珪酸を150℃の乾燥機で5時間乾燥した。生成物は疎水性でBET法による比表面積は241m2/g、炭素含有量は7.6重量%であった。」(翻訳文第7頁1〜8行)
(3)刊行物3(異議申立人 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社が提出した甲第1号証)には、下記の記載がある。
3-ア.「少なくとも50m2/gの比表面積を有するシリカ粉末と有機けい素化合物とを室温〜110℃の温度で30分以上接触させ、ついでこのものを130℃以上の温度で加熱処理することを特徴とするシリカ粉末の表面改質方法。」(特許請求の範囲)
3-イ.「本発明の方法によればシリカ粉末を容易にしかも高度に表面改質することができ、このようにして表面改質されたシリカ粉末は充分な疎水性,親油性を示し、シリコーンゴム用充填剤としての分散性、補強性にすぐれた性質を示す。」(第1頁第2欄下から2行〜第2頁第3欄3行)
3-ウ.「本発明の方法において、処理の対象とされるシリカ粉末は、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、・・・などである」(第2頁第3欄10〜13行)
3-エ.「これらシリカ粉末は完全に無水状態であるよりも若干の水分を含有している方が、本発明の方法による処理効果をより向上させるうえから望ましく、そのための水分量は乾燥シリ力を基準にして0.2〜7重量%好ましくは2〜5重量%とすることがよい。この水分の存在により処理効果がより向上されるのはシリカ粉末の表面におけるシラノール基の存在が確実となり、より多くのシリル基が導入されるようになるためと考えられる。」(第2頁第3欄18〜27行)
3-オ.「上記シリカ粉末を処理するために使用される有機けい素化合物は、・・・その代表的なものとしてはつぎの3種類があげられる。
(1)一般式(R3Si)aZで示されるシラン化合物。式中Rは一価の炭化水素基、aは1または2、Zは水素原子、ハロゲン原子、水酸基または式-OR’、・・・-O-,-N(X)-、・・・を示し、ここにR’は炭素原子数1〜4のアルキル基、Xは水素原子またはR’と同様のアルキル基である。」(第2頁第3欄28行〜39行)
3-カ.「本発明の方法は処理しようとするシリカ粉末と有機けい素化合物とをまず室温〜110℃好ましくは30〜90℃の温度で接触させる。この接触はシリカ粉末の表面に有機けい素化合物を充分に吸着させるために行うもので、上記温度で30分以上行うことが重要とされる。・・・なお、上記接触の際のシリカ粉末100重量部に対する有機けい素化合物の量は5〜30重量部とすることが望ましく・・・。上記のようにして接触させた混合物をつぎに130℃以上の温度で加熱処理することにより目的とする表面改質されたシリカ粉末が得られる。・・・一般には150〜200℃とすることが望ましい。」(第2頁第4欄17〜40行)
3-キ.「本発明の方法によれば、(1)シリカ粉末の表面改質の程度は表面シラノール基に対し、シリル基の投影面積に相当する立体障害の限界まで処理することができる、(2)本発明方法によればシリカ表面の水酸基が必要以上に減少するのが防止される、すなわち粒子内(間)水酸基の縮合による水酸基の減少が防止され、シリル基の導入を増加させることができる」(第3頁第5欄3〜10行)
3-ク.「実施例1
比表面積300m2/gで含水率5重量%のシリカ粉末100重量部とへキサメチルジシラザン15重量部とを均一に混合し、50℃で約4時間保持した。ついでこのものを150℃に昇温し同温度で1時間保持することにより表面改質シリカを得た。この表面改質シリカについてこのものを150℃で窒素ガスを流しなから充分に乾燥した後、燃焼法による炭素量、BET法による比表面積および単位面積当たりの炭素量を測定したところ結果はそれぞれ下記のとおりであった。
炭素量: 4.5重量%
比表面積: 200m2/g
単位面積当たりの炭素量:2.25×10-4g/m2」(第3頁第5欄19〜32行)
3-ケ.「実施例4
実施例1においてヘキサメチルジシラザン15重量部の代わりに、ヘキサメチレンジシランとトリメチルシラノールとの等重量混合物13重量部を用いたほかは同様にして表面改質シリカを得、このものについて乾燥処理した」(第3頁第6欄12〜17行)
(4)刊行物4(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社が提出した甲第2号証)には、下記の記載がある。
4-ア.「BET-比表面積40〜450m2/g、疎水性化により得られる炭素含有率少なくとも0.5重量%及び遷移金属含有率10〜10000重量ppmを有することを特徴とする、疎水性ケイ酸。」(特許請求の範囲 請求項1)
4-イ.「本発明の対象は、本発明によるケイ酸の製法でもあり、その際、親水性ケイ酸と
a)液体又は水又は有機溶剤中に溶かされた遷移金属化合物及び
b)有機又は有機ケイ素疎水性化剤
とを混合する。」(【0015】段落)
4-ウ.「ケイ酸としては、有利に高熱分解法又は沈殿ケイ酸を使用する。」(【0016】段落)
4-エ.「ケイ酸は有機ケイ素化合物で疎水性にするのが有利である。その際、有機ケイ素化合物としては、式:R14-xSiAx 又は (R13Si)yB[式中、R1は、同じか又は異なるものであり、基1個当たり炭素原子1〜18個を有する1価の、場合によりハロゲン置換されている炭化水素基を表し、Aは、ハロゲン、-OH、-OR2又は-OCOR2を表し、Bは、NR33-yを表し、R2は、基1個当たり炭素原子1〜12個を有する1価の炭化水素基を表し、R3は、水素原子であるか又はR1と同じものを表し、xは、1、2又は3を表し、yは、1又は2を表す]のもの又は式:R1zSiO(4-z)/2[式中、R1は、前記のものを表し、zは1、2又は3を表す]の単位からなるオルガノ(ポリ)シロキサンを使用するのが有利である。」(【0022】段落)
4-オ.「有機ケイ素化合物の例は、・・・アルキルアルコキシシラン、例えば・・・トリメチルメトキシシラン・・・線状ジオルガノポリシロキサン、例えばトリメチルシロキシ基により末端ブロックされたジメチルポリシロキサン・・・ジシラザン、例えば・・・ヘキサメチルジシラザン・・・である。」(【0025】段落)
4-カ.「有機ケイ素化合物によるケイ酸の表面処理は、遷移金属化合物による表面処理と同じ工程で行うか又は成分の強力混合による引き続く第二工程で行い、かつ温度5〜350℃、特に15〜200℃で実施してよい。疎水性化は、一般に常圧で、30秒〜24時間、有利に5分〜120分の期間行う。」(【0028】段落)
4-キ.「金属化合物及び有機ケイ素化合物を用いる被覆工程は、有利に5〜150℃、特に30〜90℃で、有利に30秒〜24時間、特に5分〜60分の反応段階に直接引き続いてか又は後で行い、引き続いて、100〜450℃、特に150〜300℃で1分〜12時間、有利に10分〜3時間の加熱工程を行ってよい。」(【0030】段落)
4-ク.「本発明の対象は、本発明によるケイ酸を熱安定剤として含有する付加架橋性2成分-シリコーンゴム材料でもある。」(【0032】段落)
4-ケ.「ヘキサメチルジシロキサン1000g中に懸濁された、BETによる比表面積300m2/gを有する高熱分解法ケイ酸(Fa.WackerでWacker HDKR T30Pとして市販)150gに、塩化セリウム(III)7水和物15.1g/kgの水溶液7.67g並びに引き続いてヘキサメチルジシラザン22.5gを、撹拌下に25℃で混入した。60℃で120分の撹拌、回転蒸発器で60℃及び15hPaより低い圧力で溶剤の除去並びに常圧で窒素流下に、150℃で2時間の加熱後に白色の粉末が得られた。」(【0087】段落)
(5)刊行物5(異議申立人 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社の提出した甲第3号証)には、下記の記載がある。
5-ア.「1グラム当り少なくとも50m2の表面積をもつ微細シリカを式 CH3 O
| ‖
RR’R”Si-(OSi)x-N-C-R'''
| |
R’ R'''
(式中、Rはメチル、・・・基でありR’はメチル・・・基であり、R”はメチル基又はビニル基であり、R'''はメチル又はエチル基であり、xは3〜20のある整数を表す。)で表わされる、あるアミドシロキサンから本質的に成る処理剤と混合し,副生成物のアミドを除去して処理ずみシリカを得ることから成る処理されたシリカの製造方法。」(特許請求の範囲第7項)
5-イ.「本発明はシリコーンエラストマーに使用するためのアミドシロキサン処理微細シリカに関するものである。」(第2頁第4欄42〜44行)
5-ウ.「本発明の製造に用いる強化用シリカは・・・例えばシリコーンテトラクロライドを燃焼して製造される。好ましいシリカは200〜400m2/gの表面積をもつものである。通常、そのシリカ表面は・・・Si-OH結合を含んでいる。ある量の水が、その表面に吸着されている場合もある。」(第4頁第7欄15〜26行)
5-ウ.「この強化用シリカは、まずシリカを処理剤に対して不活性な溶媒、例えばトルエンに分散させ、その後、その処理剤を加えて処理されることが望ましい。通常4〜24時間攪拌し、十分混合させた後、この混合物をロ過してその溶媒を除去する。」(第4頁第8欄2〜6行)
(6)刊行物6(異議申立人 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社が提出した甲第4号証)には、下記の記載がある。
6-ア.「以下の式(1):
(CH3)3Si-(O-Si(CH3)2)n- (1)
ここで、nは1またはそれ以上の整数である、
で表される基を有する有機シリコーン化合物で処理されたシリカ微粉末と、トナーとが混合分散されていることを特徴とするトナー組成物。」(特許請求の範囲 請求項1)
6-イ.「本発明で用いられるシリカ微粉末は、未処理のシリカ微粉末を以下の子(1):
(CH3)3Si-(O-Si(CH3)2)n- (1)
ここで、nは1またはそれ以上の整数である、
で表される基を有する有機シリコーン化合物で処理して得られるものであり、従来の低分子量アクリル基を有する化合物で処理されたシリカ微粉末に比べて疎水性が高いものである。」(第3頁左欄46行〜同頁右欄3行)
3-4.当審の判断
3-4-1.特許法第29条に違反する旨の主張について
(1)本件発明5について
本件発明1が刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明であるとの異議申立人の主張は、刊行物1乃至4のいずれかに記載された方法が本件発明1の物を製造する方法と同じであるから、刊行物1乃至4のいずれかに記載された方法で製造された物は本件発明1の物と同じものであることを根拠とするものである。よって、本件発明1の物の製法に係る本件発明5について先に検討する。
刊行物1の記載事項1-エからみて、ヘキサメチルジシラザンが微細シリカのシリル化剤であり、疎水化処理がシリル化反応によるものであることは明らかであるから、刊行物1には下記の発明が記載されていると云える。
「ヘキサメチルジシラザンをシリル化剤として用い、該シリル化剤及び水蒸気を、テトラクロロシランの火炎熱分解で得られた比表面積300m2/gで表面OH基数が1.4個/nm2の親水性微細シリカ5Kgに対して、該シリル化剤を200g/分、該水蒸気を22g/分で75分供給して疎水化処理を行う疎水性微細シリカの製法。」
本件発明5と刊行物1に記載された発明を対比すると、後者における「微細シリカ」、「テトラクロロシランの火炎熱分解で得られた親水性微細シリカ」は、各々、前者における「二酸化珪素」、「高熱分解二酸化珪素」に相当する。そして、後者においては、シリル化剤としてヘキサメチルジシラザンを用いていることからみて、疎水化処理はヘキサメチルジシラザンに起因するアンモニア、即ち、塩基の存在下で行われていることは明らかである。さらに、後者における「テトラクロロシランの火炎熱分解で得られた親水性微細シリカ」の「表面OH基」は、前者における「高熱分解二酸化珪素」の「シラノール基」に相当し、後者において、上記表面OH基に対して、75分間供給されるシリル化剤であるヘキサメチルジシラザンと水蒸気の各々のモル数は計算上過剰であると認められる。
しかし、刊行物1に記載された発明は、酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用いるものではなく、また、シリル化剤と共に水蒸気を用いるものであって、シリル化剤と共に水を用いるものではない。
そして、本件発明5は、酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用いること、及び、シリル化剤及び水を用いることを構成要件とするものであるから、刊行物1に記載された発明は、少なくともこの点において本件発明5と相違するものである。
よって、本件発明5は、刊行物1に記載された発明であるとは云えない。
つぎに、刊行物2に記載された発明について検討すると、刊行物2の記載事項2-オからみて、[R1R2R3・Si]2・NHがシリル化剤であり、高熱分解法珪酸のシリル化反応が行われていることは明らかであるから、刊行物2には下記の発明が記載されていると云える。
「シリル化剤として[R1R2R3・Si]2・NHを用い、該シリル化剤と水を、攪拌された高熱分解法珪酸60gに対して、水30g及びシリル化剤としてのヘキサメチルジシラザン162gを加えてシリル化反応を行う疎水性珪酸の製法。」
本件発明5と刊行物2に記載された発明を対比すると、後者における「珪酸」、「高熱分解法珪酸」は、各々、前者における「二酸化珪素」、「高熱分解二酸化珪素」に相当する。そして、後者においても、シリル化剤として[R1R2R3・Si]2・NHを用いることからみて、シリル化反応は、[R1R2R3・Si]2・NHに起因するアンモニア、即ち、塩基の存在下で行われていることは明らかである。
しかし、刊行物2に記載された発明において、存在する高熱分解法珪酸のシラノール基のモル数が明確でないため、シリル化剤及び水を該シラノール基に対してモル過剰で加えているか否か明確でない。さらに、刊行物2に記載された発明は、酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用いるものではなく、また、シリル化反応の反応時間について特定がない。なお、記載事項2-カに記載された「20分以内」なる時間は、格子状攪拌機を備えた円筒状ガラス容器に高熱分解法珪酸を入れて強く攪拌し始めた時間から2本のガラス製毛細管を用いて水とヘキサメチルジシラザンを入れるまでの時間について記載したものであって、シリル化反応の反応時間を記載したものではない。
そして、本件発明5は、酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用いること、及び、シリル化反応を少なくとも15分間行うことを構成要件とするものであるから、刊行物2に記載された発明は、少なくともこの点において本件発明5と相違するものである。
よって、本件発明5は、刊行物2に記載された発明であるとは云えない。
さらに、刊行物3に記載された発明について検討すると、刊行物3の記載事項3-カ及びキからみて、有機けい素化合物がシリル化剤であり、シリカ粉末のシリル化反応が行われていることは明らかである。また、記載事項3-オ及びケからみて、該有機けい素化合物には酸素を含有したもの、即ち、酸素含有有機けい素化合物が含まれている。よって、刊行物3には下記の発明が記載されていると云える。
「酸素含有有機けい素化合物をシリル化剤として用い、該シリル化剤を、含水率0.2〜7重量%のシリカ粉末100重量部に対して5〜30重量部加え、室温〜110℃で30分以上接触させてシリカ粉末の表面に該シリル化剤を吸着させ、その後130℃以上の温度で加熱処理してシリル化反応を行う表面改質されたシリカ粉末の製法。」
本件発明5と刊行物3に記載された発明を対比すると、後者における「シリカ粉末」、「酸素含有有機けい素化合物」は、各々、前者における「二酸化珪素」、「酸素含有有機珪素化合物」に相当する。そして、後者においても、シリル化剤として酸素含有有機けい素化合物と共にジシラザン等の塩基を放出するシリル化剤を併用した場合は、シリル化反応は塩基の存在下で行われていると云える。
しかし、刊行物3に記載された発明は、シリル化剤を含水率0.2〜7重量%のシリカ粉末に加えるものであって、シリル化剤及び水を高熱分解二酸化珪素に加えるものではなく、また、シリル化反応を、室温〜110℃で30分以上接触させた後130℃以上の温度で加熱処理する2段階処理で行うものであり、少なくとも15分間の1段階処理で行うものではない。
そして、本件発明5は、シリル化剤及び水を高熱分解二酸化珪素に加えること、及び、シリル化反応を少なくとも15分間行うことを構成要件とするものであるから、刊行物3に記載された発明は、少なくともこの点において本件発明5と相違するものである。
よって、本件発明5は、刊行物3に記載された発明であるとは云えない。
つぎに、刊行物4に記載された発明について検討すると、刊行物4の記載事項4-エからみて、有機ケイ素化合物はシリル化剤であり、疎水化はシリル化反応によるものであることは明らかである。また、記載事項4-ウ及びクからみて、ケイ酸として高熱分解法ケイ酸を用いることは明らかであり、記載事項4-エ、オ及びケからみて、該有機ケイ素化合物には酸素を含有するもの、即ち、酸素含有有機ケイ素化合物が含まれていることは明らかである。してみると、刊行物4には下記の発明が記載されていると云える。
「酸素含有有機ケイ素化合物をシリル化剤として用い、該シリル化剤及び水に溶かされた遷移金属化合物を、高熱分解法ケイ酸に加えて、30秒から24時間シリル化反応を行う疎水性ケイ酸の製法。」
本件発明5と刊行物4に記載された発明を対比すると、後者における「ケイ酸」、「高熱分解法ケイ酸」、「酸素含有有機ケイ素化合物」は、各々、前者における「二酸化珪素」、「高熱分解二酸化珪素」、「酸素含有有機珪素化合物」に相当する。そして、後者においても、シリル化剤として酸素含有有機ケイ素化合物と共にジシラザン等の塩基を放出するシリル化剤を併用した場合は、シリル化反応は塩基の存在下で行われていると云える。
しかし、刊行物4に記載された発明は、シリル化剤と共に遷移金属化合物を用いるものであり、しかも、シリル化剤及び水に溶かされた遷移金属化合物を加えられる高熱分解法ケイ酸のシラノール基の数が不明であるため、シリル化剤及び水を存在する高熱分解法ケイ酸のシラノール基に対してモル過剰で加えるものか否か明確でないものである。
そして、本件発明5は、遷移金属化合物を用いることを構成要件としないものであり、しかも、シリル化剤及び水を存在する高熱分解法珪酸のシラノール基に対してモル過剰で加えることを構成要件とするものであるから、刊行物4に記載された発明は、少なくともこの点において本件発明5と相違するものである。
よって、本件発明5は、刊行物4に記載された発明であるとは云えない。
最後に、本件発明5が、刊行物1乃至4及び刊行物5,6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか検討する。
まず、本件発明5は、「請求項1に記載の二酸化珪素の製法」を構成要件とするものである。そして、「請求項1に記載の二酸化珪素」、即ち、「その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素において、高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)(ここで、aは1、2又は3であってよく、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基である)とからの合計は、非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きいことを特徴とする、二酸化珪素。」は、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料には直接記載されていない。
よって、例えば、刊行物1に記載された方法において、シリル化剤として刊行物3及び4に記載された酸素含有有機珪素化合物を用いたことにより、「請求項1に記載の二酸化珪素」が製造できることを当業者が容易に想到し得たとは云えない。そして、刊行物1乃至4及び刊行物5,6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料に記載された発明を如何に組み合わせても、本件発明5の上記構成は当業者が容易に想到し得たものとは云えない。
したがって、本件発明5は、刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明とは云えず、また、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも云えない。
(2)本件発明6乃至8について
本件発明6乃至8は、いずれも、本件発明5を直接的又は間接的に引用したものであるから、上記(1)で述べた理由と同じ理由により、刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明とは云えず、また、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも云えない。
(3)本件発明1について
上記(1)で述べたとおり、本件発明1の構成要件である「その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素において、高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)(ここで、aは1、2又は3であってよく、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基である)とからの合計は、非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きい二酸化珪素。」は、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料には直接記載されていない。また、かかる事項は、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料には示唆もされていない。
そして、「請求項1に記載の二酸化珪素の製法」を構成要件とする本件発明5が刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明でないことは上記(1)で述べたとおりである。
さらに、本件訂正明細書の【0037】段落の例6には、シリル化剤として、酸素含有有機珪素化合物を用いずにヘキサメチルジシラザンを用いた例が記載されており、同【0042】段落の第1表の記載からみて、この例6の方法により製造された二酸化珪素は、その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素であって、高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)(ここで、a及びRは上記のとおり)とからの合計は、非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きいものであると認められる。そこで、シリル化剤として酸素含有有機珪素化合物を用いない点において本件発明5と相違する刊行物1及び2に記載された発明と本件訂正明細書の例6に記載された方法とを対比すると、刊行物1に記載された発明はシリル化剤と共に水を用いるものではない点において、また、刊行物2に記載された発明はシリル化反応を少なくとも15分間行うものではない点において、本件訂正明細書の例6に記された方法と相違する。
よって、刊行物1乃至4のいずれかに記載された方法と本件発明1の物の製法が同じであり、刊行物1乃至4のいずれかに記載された方法で製造された物は本件発明1の物と同じであるから、本件発明1は刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明であると云うことはできない。
したがって、本件発明1は、刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明とは云えず、また、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも云えない。
(4)本件発明2乃至4について
本件発明2乃至4は、いずれも、本件発明1を直接的又は間接的に引用したものであるから、上記(3)で述べた理由と同じ理由により、刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明とは云えず、また、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも云えない。
(5)本件発明9乃至11について
本件発明9乃至11は、いずれも、本件発明1又は5を直接的又は間接的に引用したものであるから、上記(1)及び(3)で述べた理由と同じ理由により、刊行物1乃至4のいずれかに記載された発明とは云えず、また、刊行物1乃至6並びに異議申立人が提出した他の証拠方法及び参考資料に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも云えない。
3-4-2.特許法第36条に違反する旨の主張について
本件は、明細書の記載が特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるという異議申立人の主張の根拠となる理由をまとめると、以下のとおりである。
(i)特許明細書の請求項1に記載された「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖」の意味が明確でない。
(ii)同請求項2に記載された「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造」において、構造:「Ra(OH)bSiOc」及び「(OH)dSiOe」のいずれが同請求項1に記載された「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖」に該当するのか明確でない。
(iii)同請求項8及び9に記載された「酸素含有有機珪素化合物」と「シリル化剤」との関係が明確でない。
(iv)グラフトされたシリル化剤残基(SiRa)の測定手段、ポリ珪酸連鎖に存在するシラノール基と高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基とを区別して測定する手段、及び、「Ra(OH)bSiOc」及び「(OH)dSiOe」の存在率の確認手段が示されていないため、同請求項1に記載された「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖」の存在、及び、「高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)とからの合計は、非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きいこと」が確認できず、また、同請求項2及び3に記載された「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造」、並びに、同請求項4に記載された「非処理の親水性二酸化珪素の活性で酸性のSiOHの全含量に対する二酸化珪素のSiO2-表面の活性で酸性のSiOHの含有量」が確認できない。
(v)特許明細書の【0027】段落には、内容把握不能な記載がある。
(vi)特許明細書の【0042】段落の【表1】には非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数が記載されていないため、特許明細書に記載された実施例において、シリル化剤を存在する高熱分解二酸化珪素のシラノール基に対してモル過剰で加えているか不明である。
そこで、これらの理由について検討する。
まず(i)及び(ii)の理由について検討すると、本件発明1における「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖」及び本件発明2及び3における「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造」が、二酸化珪素の表面に結合した鎖であって、「(OH)dSiOe」を主鎖とし「Ra(OH)bSiOc」をグラフト鎖とする構造を有する鎖を意味することは、訂正明細書の記載、特に【0018】及び【0019】段落の記載からして明らかである。
つぎに(iii)の理由について検討すると、本件発明5及び7における「酸素含有有機珪素化合物」が「シリル化剤」に含まれるものであることは、訂正明細書の【0022】〜【0025】段落の記載から明らかである。
さらに(iv)の理由について検討すると、公知の29Si-CPMAS NMR法により部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を構成する基が特定されること、公知のSears法により二酸化珪素表面のシラノール基がポリ珪酸連鎖中のシラノール基と区別して測定されること、シリル化剤残基の数は公知の微量炭素分析装置を用い測定、算出できることは、平成15年4月25日付けで権利者が提出した特許異議意見書中に述べられているところであるから、これらの手段により、本件発明1における「部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖」の存在及び「高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)とからの合計は、非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きいこと」、並びに、本件発明4における「非処理の親水性二酸化珪素の活性で酸性のSiOHの全含量に対する二酸化珪素のSiO2-表面の活性で酸性のSiOHの含有量」は当業者が確認できることであると云える。また、公知の29Si-MAS NMR法により部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造中のRa(OH)bSiOc構造及び(OH)dSiOe構造が特定できることも上記特許異議意見書に述べられているところであるから、本件発明2及び3における部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造は上記の手段により当業者が確認できるとことであると云える。
また、訂正明細書の【0042】段落の【表1】には未処理二酸化珪素中のシラノール基量が記載されていることは明らかであるから(vi)の理由は根拠のないものである。
そして、確かに(v)の理由で云う特許明細書の【0027】段落の記載は不明確なものではあるが、本件発明5乃至8の方法の発明について訂正明細書には具体的実施例も記載されているところであるから、かかる記載の存在をもってして、本件発明5乃至8を当業者が実施できないとまで云うことはできない。
してみると、本件発明1乃至11は明確でないとも、訂正明細書には当業者が実施することができる程度にこれらの発明が記載されていないとも云えない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては本件発明1乃至11についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至11についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素及びその製法、これを含有するトナー、シリコン組成物及びシリコンエラストマー
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素において、高熱分解二酸化珪素表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)(ここで、aは1、2又は3であってよく、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基である)とからの合計は、非処理の高熱分解二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きいことを特徴とする、二酸化珪素。
【請求項2】 高熱分解二酸化珪素表面に結合している、構造:Ra(OH)bSiOc及び(OH)dSiOe(ここで、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基であり、aは1、2又は3であり、bは0、1又は2であり、cは1、2又は3であり、a+b+cは4であり、dは0、1、2又は3であり、eは1、2、3又は4であり、d+eは4である)の単位からなる部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の二酸化珪素。
【請求項3】 全シリル化剤層中の高熱分解二酸化珪素表面に結合している、構造:Ra(OH)bSiOc(ここで、R、a、b及びcは前記のものを表す)の単位からなる部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造のモル割合は、全シリル化剤層中の全構造Ra(OH)bSiOcと(OH)dSiOe(ここで、R、a、b、c、d及びeは前記のものである)の合計に対して75%より小さいか又は同じであるが、25%より大きいか又は同じである、請求項1又は2に記載の二酸化珪素。
【請求項4】 二酸化珪素は、非処理の親水性二酸化珪素の活性で酸性のSiOHの全含量に対して25%より少ない二酸化珪素のSiO2-表面の活性で酸性のSiOHを含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の二酸化珪素。
【請求項5】 酸素含有有機珪素化合物をシリル化剤として用い、該シリル化剤及び水を、存在する高熱分解二酸化珪素のシラノール基に対して、モル過剰で加え、かつ、シリル化反応を、塩基の存在下、少なくとも15分間行うことを特徴とする、請求項1に記載の二酸化珪素の製法。
【請求項6】 水をシリル化剤と少なくとも同じモル量で存在させる、請求項5に記載の二酸化珪素の製法。
【請求項7】 付加的に、酸素含有有機珪素化合物自体を25%より少ないモル割合で反応させる、請求項5から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】 シリル化を20〜150℃の温度で行う、請求項5から7のいずれか1項に記載の二酸化珪素の製法。
【請求項9】 請求項1から4のいずれか1項に記載の又は請求項5から8のいずれか1項により製造された二酸化珪素を含有することを特徴とするトナー。
【請求項10】 請求項5から8のいずれか1項により製造された請求項1から4のいずれか1項に記載の二酸化珪素を含有することを特徴とする架橋可能なシリコン組成物。
【請求項11】 請求項5から8のいずれか1項により製造された請求項1から4のいずれか1項に記載の二酸化珪素を含有することを特徴とする架橋可能なシリコンエラストマー。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素及びその製法、並びにこれを含有するトナー及びシリコンエラストマーに関する。
【0002】
【従来の技術】
DE 1163784及びDE 3211431(DEGUSSA AG)には、高めた温度で二酸化珪素を疎水性化する方法が記載されている。このために、二酸化珪素は、高温で活性化され、予め乾燥される。疎水性の生成物が得られる。
【0003】
DE 4240741(Wacker-ChemieGmbH)には、低級アルキルアルコールの添加下におけるクロロシランを用いる二酸化珪素のシリル化法が記載されている。一様な疎水性の生成物が得られる。
【0004】
DE 2344388(Wacker-chemie)には、機械的圧縮下で二酸化珪素を疎水性化する方法が記載されている。完全に疎水性の物質が得られる。
【0005】
DE 2403783(BAYER AG)には、シリコン組成物中で使用するための二酸化珪素-填料の製法が記載されている。完全に疎水性の珪酸が得られる。
【0006】
DE 3839900及びEP0378785(Wacker-Chemie)には、疎水性化剤を用いる、粒子状のSiOH-基含有固体を疎水性化する方法が記載されている。ジオルガノポリシロキサンをベースとする硬化可能な組成物中で使用するために好適である疎水性填料が得られる。
【0007】
技術水準の欠点は、一般に、この方法を用いて物質の均一な疎水性が望まれ、かつ目的とされることにある。二酸化珪素表面上の部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖はそこでは製造されない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
技術水準のこれらの欠点を克服する課題が存在した。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的物は、その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素であり、この際、二酸化珪素-表面のシラノール基(SiOH)とグラフトされたシリル化剤残基(SiRa)(ここで、aは1、2又は3であってよく、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基である)とからの合計が、非処理の二酸化珪素の表面上のシラノール基の数より大きい。
【0010】
二酸化珪素、殊に高熱分解二酸化珪素の疎水性化は、技術水準によれば、二酸化珪素-シラノール基と有機珪素基との反応として実施され、記載されている。このことは、技術水準によれば、疎水性化が、二酸化珪素-シラノール基とシリル化剤のSiX-基(Xは反応性の離脱可能基)との縮合反応として進行することを意味する。結果として、疎水性化された二酸化珪素が、その表面に、二酸化珪素-表面積nm2当たり最大2個のシラノール基を有する親水性出発二酸化珪素よりも少ないシラノール基を含有する。
【0011】
本発明による二酸化珪素は、その表面に化学結合した部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する。従って、このシリル化剤層は、二酸化珪素-表面に結合した、構造:
Ra(OH)bSiOc及び(OH)dSiOe
(ここで、Rは同じ又は異なるものであってよく、置換又は非置換の炭化水素基であり、aは1、2又は3であり、bは0、1又は2、有利に0であり、cは1、2又は3、有利に1であり、a+b+cは4であり、dは0、1、2又は3、有利に0、1又は2であり、eは1、2、3又は4であり、d+eは4である)の単位からなる部分的に又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造を有する。
【0012】
Rは、同じ又は異なるもので、C-原子数1〜18を有する脂肪族飽和又は不飽和の又は芳香族の置換又は非置換の、好ましくはハロゲン又は擬ハロゲンで置換された炭化水素基であるのが有利である。
【0013】
Rの例は次のものである:アルキル基、例えばメチル基、エチル基;プロピル基、例えばイソ-又はn-プロピル基;ブチル基、例えばt-又はn-ブチル基;ペンチル基、例えばネオ-、イソ-又はn-ペンチル基;ヘキシル基、例えばn-ヘキシル基;ヘプチル基、例えばn-ヘプチル基;オクチル基、例えば2-エチル-ヘキシル-又はn-オクチル基;デシル基、例えばn-デシル基;ドデシル基、例えばn-ドデシル基;ヘキサデシル基、例えばn-ヘキサデシル基;オクタデシル基、例えばn-オクタデシル基;アルケニル基、例えばビニル-、2-アリル-又は5-ヘキセニル基;アリール基、例えばフェニル-、ビフェニル又はナフテニル基;アルキルアリール基、例えばベンジル-、エチルフェニル-、トルイル-又はキシリル基;ハロゲン化されたアルキル基、例えば3-クロロプロピル-、3,3,3-トリフルオロプロピル又はペルフルオロヘキシルエチル基;ハロゲン化されたアリール基、例えばクロロフェニル-又はクロロベンジル基。
【0014】
Rの有利な例は、工業的入手性の理由から、メチル基、ビニル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基である。
【0015】
本発明の二酸化珪素は、非処理の親水性二酸化珪素の活性で酸性のSiOHの全含量に対して25%より少ない二酸化珪素のSiO2-表面の活性で酸性のSiOHの含分を示すのが有利である。
【0016】
二酸化珪素-表面に化学的に結合した部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造は、有利には少なくとも2個で最大20個のSi-原子を含有する。
【0017】
全シリル化剤層中の二酸化珪素-表面に結合した、構造:
Ra(OH)bSiOc
(ここで、R、a、b及びcは前記のものを表す)の単位からなる部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸構造のモル割合は、75%より小さいか又は同じであるが、25%より大きいか又は同じである。
【0018】
二酸化珪素-表面上のシリル化されたポリ珪酸-残基の例は、次のものである(ここで、Zは二酸化珪素-表面の珪素原子であり、二酸化珪素-表面は、単一ではなく、種々異なるシリル化されたポリ珪酸-残基で被覆されているのが有利である):
Z-O-Si[OSiR3]3
Z-O-SiOH[OSiR3]2
Z-O-Si(OH)2[OSiR3]
{Z-O-}2Si[OSiR3]2
{Z-O-}2SiOH[OSiR3]
Z-O-Si[OSiR3]2-O-Si[OSiR3]3
Z-O-SiOH[OSiR3]-O-Si[OSiR3]3
Z-O-Si(OH)2-O-Si[OSiR3]3
Z-O-Si[OSiR3]2-O-SiOH[OSiR3]2
Z-O-Si[OSiR3]2-O-Si(OH)2[OSiR3]
Z-O-SiOH[OSiR3]-O-SiOH[OSiR3]2
Z-O-Si{OSi[OSiR3]3}3
Z-O-SiOH{OSi[OSiR3]3}2
Z-O-Si{OSiOH[OSiR3]2}3
Rは同じ又は異なるものであり、前記のものを表す。
【0019】
有利な例は、次のものである:
Z-O-Si[OSi(CH3)3]3、
Z-O-SiOH[OSi(CH3)3]2、
Z-O-Si(OH)2[OSi(CH3)3]、
{Z-O-}2Si[OSi(CH3)3]2、
{Z-O-}2SiOH[OSi(CH3)3]、
Z-O-Si[OSi(CH3)3]2-O-Si[OSi(CH3)3]3、
Z-O-SiOH[OSi(CH3)3]-O-Si[OSi(CH3)3]3、
Z-O-Si(OH)2-O-Si[OSi(CH3)3]3、
Z-O-Si[OSi(CH3)3]2-O-SiOH[OSi(CH3)3]2、
Z-O-Si[OSi(CH3)3]2-O-Si(OH)2[OSi(CH3)3]、
Z-O-SiOH[OSi(CH3)3]-O-SiOH[OSi(CH3)3]2、
Z-O-Si{OSi[OSi(CH3)3]3}3、
Z-O-SiOH{OSi[OSi(CH3)3]3}2、
Z-O-Si{OSi[OSiOH(CH3)3]2}3。
【0020】
本発明のもう一つの目的は、その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素の製法であり、これは、シリル化剤を二酸化珪素の存在シラノール基に対してモル過剰で添加することを特徴とする。
【0021】
本発明の方法で使用される二酸化珪素は、例えば湿式化学的沈殿により製造された二酸化珪素、又は特に有利には高熱法で、例えばテトラクロロシラン又はメチルトリクロロシラン又はメチルジクロロシランの炎内加水分解により製造された高熱分解二酸化珪素である。有利に使用される二酸化珪素は、10,,mより小さい、好ましくは1μmより小さい、殊に100〜1000nmの範囲の二酸化珪素-凝集物の水力学的直径を有し、好ましくは0.1m2/gより大きい、特に好ましくは20m2/g〜400m2/gの比表面積(DIN66131及び66132によるBET-法で測定)を有するものを使用するのが有利である。親水性及び疎水性の二酸化珪素を使用することができる。
【0022】
本発明の方法で使用されるシリル化剤は、構造:
RfSiXg
(ここで、fは1、2又は3、有利に3であり、gは1、2又は3であり、f+gは4であり、Xは珪素原子に付いている反応性基又は加水分解可能な基、例えばハロゲン原子、例えば-Cl、擬ハロゲン基、例えば-CN、-NCO、-NCS又は-N3、有利にXはC-原子数1〜8を有するアルコキシ基、例えばO-メチル、O-エチル、O-プロピル、O-ブチル、好ましくはO-メチル又はO-エチルである)又は
[RhSi]iY
(ここで、hは3であり、iは1又は2であり、YはO、NR13-i、有利にNHであり、R1は水素又は又はC-原子1〜8を有するアルキル基を表す)の構造の有機珪素化合物又は構造:
[RjSiY]
(ここで、jは1、2又は3、有利に2であり、Yは前記のもの、有利にはOを表し、Rは前記のものを表す)の単位から構成されているオリゴマー又はポリマー有機珪素化合物であり、この際、これら有機珪素化合物は、100mPasまでの粘度を有し、付加的に1個のOH-基、特に有利には2個以上のOH-基を有する。
【0023】
シリル化剤の有利な例は、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ヘキサメチルジサラザン、ビス-(ビニルジメチル)-ジシラザン又はビス-(3,3,3-トリフルオロプロピル-ジメチル)-ジシラザンである。
【0024】
シリル化剤及び酸素含有有機珪素化合物からの混合物を使用するのが有利である。それ自体シリル化のために25%よりも少ないモル割合でのみ使用されるような酸素含有有機珪素化合物が有利である。このような酸素含有有機珪素化合物の例は、式:
(CH3)3SiO-[(CH3)2SiO]x-SiCH3又は[(CH3)2SiO]x(ここで、xは<100、好ましくはxは<10である)のジマー、オリゴマー又はポリマーポリジメチルシロキサンである。
【0025】
シリル化剤と酸素含有有機珪素化合物との特に有利な混合物は、ヘキサメチルジシラザンとヘキサメチルジシロキサンより成る。
【0026】
シリル化の際に、添加物質は、例えば水及び有利には塩基、例えば無機塩基、例えばアンモニア、アルカリ金属-又はアルカリ土類金属水酸化物又は炭酸塩又は有機塩基、例えばアルキルアミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、イソ-オクチルアミン又はアリールアミン、例えばピリジンを含有しているのが有利である。アンモニア及び場合によっては溶剤、例えば脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソ-プロパノール、n-、イソ-ブタノール又はアルコール-/水混合物、エーテル、例えばジエチルエーテル又はテトラヒドロフラン、ケトン、例えばメチル-イソブチルケトン、炭化水素、例えばn-ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン又は鉱油が有利である。
【0027】
量割合二酸化珪素100重量部に、その比表面積100m2/g当たり、シリル化剤の分子量各100g/モルに対して最低5重量部の水及び5重量部のシリル化剤を反応させる。シリル化剤の分子量の各100g/モルに対して10重量部より多い水又はシリル化剤10重量部が有利である。シリル化の間には、シリル化剤に対して少なくとも10モル%、好ましくは25モル%、特に好ましくは50モル%の塩基が存在すべきである。このことは、塩基の付加的添加又はシリル化反応の間に又は前反応でのシリル化剤からの塩基の離脱により行うことができる。酸素含有有機珪素化合物とシリル化剤との量割合は、10モル%〜10倍過剰であるのが有利である。50モル%〜250モル%が特に有利である。
【0028】
反応パラメータ室温での反応時間は少なくとも15分であり、より高い温度では、相応して短く、より低い温度では相応して長い。従って、反応温度は0℃より高く、有利に室温、特に有利に40℃より高く、その際、それはシリル化の個々の成分(又はそれらの混合物)の沸点を下回る。有利な反応時間は、T=40℃で1時間以上であり、特にT=60℃以上で2時間以上である。反応圧は、常圧〜10バール、特に好ましくは1〜2バールである。
【0029】
本発明による二酸化珪素は、有利に、構造粘度、流動限度及びチキソトロピーを生じさせるために液体、ポリマー又は樹脂中の濃凋化剤及びレオロジー添加剤として使用される。
【0030】
更に、本発明による二酸化珪素は、縮合架橋性のタイプのシリコンゴム、例えば縮合架橋性の1成分-又は2成分系中で、付加架橋性のタイプのシリコンゴム中で、かつ過酸化性に架橋するタイプのシリコンゴム中で、粘凋化剤及びレオロジー添加剤として及び強化填料として使用される。粉末状固体、例えば火炎鎮静粉末中の流動化助剤として及び粉末状固体、例えば乾燥トナー、例えば1成分-又は2成分トナー中の流動化助剤として、かつ荷電調節剤として使用することもできる。更に、これは消泡剤として使用することができる。
【0031】
本発明による二酸化珪素の利点は、この二酸化珪素で充填されたシリコンゴム組成物の改善されたレオロジー特性及び架橋されたシリコンエラストマーの改善された機械特性及び充填されたシリコンエラストマーの改善された透明性及びこの二酸化珪素の混合された乾燥トナーの改善された流動特性及び改善された荷電特性である。更に、長い負荷時間でのトナーの安定性が改善され、即ちこの二酸化珪素は良好にトナー表面上に付着するので、同量のトナーで多くのコピーを得ることができると言える。
【0032】
【実施例】
例1
BETによる比表面積200m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK N20なる名称で市販)100g、水40g、ヘキサメチルジシラザン40g及びヘキサメチルジシロキサン20gを強力に混合し、引き続き60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、150℃で2時間の間に、過剰の水、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0033】
例2
BETによる比表面積125m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK S13なる名称で市販)100g、水25g、ヘキサメチルジシラザン25g及びヘキサメチルジシロキサン12gを強力に混合し、引き続き60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、150℃で2時間の間に、過剰の水、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0034】
例3
BETによる比表面積300m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK T30なる名称で市販)100g、水60g、ヘキサメチルジシラザン60g及びヘキサメチルジシロキサン30gを強力に混合し、引き続き60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、150℃で2時間の間に、過剰の水、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0035】
例4
BETによる比表面積300m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK T30なる名称で市販)100g、水60g、ビス-(3,3,3-トリフルオロプロピル-ジメチル)-ジシラザン120g及びヘキサメチルジシロキサン30gを強力に混合し、引き続き撹拌下に60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、200℃で2時間の間に、過剰の水、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0036】
例5
BETによる比表面積300m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK T30なる名称で市販)100g、水60g、ビス-(ビニルジメチル)-ジシラザン35g、ヘキサメチルジシラザン35g及びヘキサメチルジシロキサン30gを強力に混合し、引き続き撹拌下に60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、170℃で2時間の間に、過剰の水、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0037】
例6
BETによる比表面積200m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK N20なる名称で市販)100g、水40g、ヘキサメチルジシラザン40gを強力に混合し、引き続き60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、150で2時間の間に、過剰の水、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0038】
例7
BETによる比表面積200m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK N20なる名称で市販)100g、水40g、トリメチルメトキシシラン42g及びアンモニアと水の25%溶液14gを強力に混合し、引き続き60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、150で2時間の間に、過剰の水、メタノール、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0039】
例8
-本発明によらない-
BETによる比表面積200m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK N20なる名称で市販)100g、水40g、ヘキサメチルジシラザン40g及びヘキサメチルジシロキサン20gを強力に混合し、引き続き40℃で5分間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、150で2時間の間に、過剰の水、アンモニア及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0040】
例9
-本発明によらない-
BETによる比表面積200m2/gを有する高熱分解二酸化珪素(WakkerからHDK N20なる名称で市販)100g、水40g、トリメチルメトキシシラン42gを強力に混合し、引き続き60℃で24時間反応させる。紛状反応混合物を、引き続き、弱い窒素気流中で、150で2時間の間に、過剰の水、メタノール及び揮発性珪素化合物から精製する。白色粉末が得られる。
【0041】
例1〜9による二酸化珪素に関する分析データのまとめ
【0042】
【表1】

【0043】
例10
80μmの平均粒径を有するフェライト-キャリア各50gを例1〜5からの二酸化珪素各0.5gと共に室温で、振動下に100ml-ポリエチレン容器中で15分間混合する。測定の前に、この混合物を64UpMで5分間閉じられた100ml-ポリエチレン容器中で回転ボック(Rollenbock)上で活性化させる。ハード-ブロウ-オフ セル(Hard-blow-off cell)(二酸化珪素約3g、容量10nF、45μm篩、空気流1リットル/Min.、空気圧2.4kPa、測定時間90秒)(EPPING GmbH、D-85375 Neufahrn)を用いて、この二酸化珪素の摩擦電気帯電特性を、二酸化珪素-質量当たりの二酸化珪素-帯電の割合(q(電荷)/m(質量))として測定する。
【0044】

例11
25℃での粘度20000mm2/sを有するビニル末端ポリジメチルシロキサン-ポリマー500gを実験室用ニーダー中で150℃に加熱する。例3による二酸化珪素400gを添加し、引き続き混和する。混和下に150℃及び1000hPaで1時間の間に揮発性成分を除去する。硬い相が得られるので、これを引き続き、25℃での粘度20000mm2/sを有するビニル末端ポリジメチルシロキサンポリマー400gを更に添加することにより希釈する。この基本組成物から、成分A及び成分Bを製造する。
【0045】
成分Aの製造:
基本組成物380g、触媒としてのビス-(ビニルジメチル)-ジシロキサンとの錯体としての白金0.2g及び阻害剤としてのエチニルシクロヘキサノール1gを、室温、p=1000hPaで0.5時間混合する。
【0046】
成分Bの製造:
基本組成物380g、架橋剤としての25℃での粘度400mm2/s及び0.5モル%のSiH-含有率を有する線状メチル-H-ポリシロキサン18g及び阻害剤としてのエチニルシクロヘキサノール1gを室温及びp=1000hPaで0.5時間混合する。
【0047】
架橋のために、成分AとBを1:1の割合で混合し、160℃の温度で架橋させる。架橋及び200℃で4時間の熱処理の後に、ショア-A-硬度、引き裂き強度、引き裂き時の伸び及び引き裂き伝搬抵抗を測定し、透明性を評価する。
【0048】
第3a表
基本組成物の粘度 110Pas
基本組成物の評価 澄明及び透明
第3b表
ショア-A-硬度 30
引き裂き強度 9N/mm2
引き裂き時の伸び 680%
引き裂き伝搬抵抗 33N/mm
評価 澄明及び透明
例12
二酸化珪素不含の磁性1-成分-乾燥トナー(負のタイプの電荷、粉砕タイプベースコポリマースチロール/メタクリレート、平均粒径14μm)(例えばFirma IMEX、Japanから入手)100gを、例2による二酸化珪素0.4gと一緒に、振動ミキサー(例えば乱流機)中、室温で1時間混合する。トナーの20分の負荷時間(1000コピー後の負荷に相当)の後に、完成二酸化珪素含有トナーの帯電(組成物当たりの電荷)及び完成二酸化珪素含有トナーの現像ローラに対する流動特性(組成物流動)を”g/m-モノ”-エレクトロメータ/フローテスター(EPPING GmbH、D-85375 Neufahrn)中で測定する。

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-10-08 
出願番号 特願平10-357918
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C01B)
P 1 651・ 537- YA (C01B)
P 1 651・ 536- YA (C01B)
P 1 651・ 121- YA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平田 和男  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 岡田 和加子
野田 直人
登録日 2001-08-03 
登録番号 特許第3217759号(P3217759)
権利者 ワツカー-ケミー ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
発明の名称 その表面に部分的又は完全にシリル化されたポリ珪酸連鎖を有する二酸化珪素及びその製法、これを含有するトナー、シリコン組成物及びシリコンエラストマー  
代理人 廣田 浩一  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 流 良広  
代理人 加藤 恵美子  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  
代理人 加藤 恵美子  
代理人 久保田 芳譽  

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