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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C10M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1089773
異議申立番号 異議2000-71466  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-10-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-10 
確定日 2003-10-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2960788号「水溶性加工油剤」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2960788号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2960788号は、平成3年3月5日に出願され、平成11年7月30日にその特許権の設定登録がなされ、その後、長田 正、大塚裕子、及び板倉昭夫より特許異議の申立てがあり、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年6月21日付けで訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否
1.訂正事項
本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

〔訂正事項a〕
特許請求の範囲請求項1の、
「【請求項1】カチオン性抗乳化剤を含有する水溶性加工油剤。」との記載を、
「【請求項1】混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤(但し、ポリアルキレンイミンおよびその誘導体を除く)を含有する水溶性加工油剤。」と訂正する。

〔訂正事項b〕
特許請求の範囲の請求項2の、
「【請求項2】カチオン性抗乳化剤が、(i)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩の単独重合物またはこれらの共重合物(ii)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩と、塩基性窒素原子およびカチオン性窒素原子を含有しないビニル系単量体またはその塩との共重合物、(iii)ポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルとの重縮合物、(iv)ポリアルキレンポリアミンとジハロアルカンとの重縮合物、(v)アルキレンジアミンとエポキシ化合物との重縮合物、(vi)ポリエチレンイミン、(vii)デンプンまたはセルロースのカチオン変性物および(viii)キトサンおよびその塩、から成る群から選択される1種もしくは2種以上のポリマーである請求項1記載の水溶性加工油剤。」との記載を、
「【請求項2】カチオン性抗乳化剤が、(i)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩の単独重合物またはこれらの共重合物(ii)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩と、塩基性窒素原子およびカチオン性窒素原子を含有しないビニル系単量体またはその塩との共重合物、(iii)ポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルとの重縮合物、(iv)ポリアルキレンポリアミンとジハロアルカンとの重縮合物、(v)アルキレンジアミンとエポキシ化合物との重縮合物、(vi)デンプンまたはセルロースのカチオン変性物および(vii)キトサンおよびその塩、から成る群から選択される1種もしくは2種以上のポリマーである請求項1記載の水溶性加工油剤。」と訂正する。

〔訂正事項c〕
明細書段落【0004】の、
「カチオン性抗乳化剤」との記載を、
「混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤(但し、ポリアルキレンイミンおよびその誘導体を除く)」と訂正する。

〔訂正事項d〕
明細書段落【0005】の、
「本発明に使用するカチオン性抗乳化剤としては、次の(i)〜(viii)のポリマーが例示される」との記載を、
「本発明に使用するカチオン性抗乳化剤としては、次の(i)〜(vii)のポリマーが例示される」と訂正する。

〔訂正事項e〕
明細書段落【0005】の、
「(v)アルキレンジアミンとエポキシ化合物との重縮合物、(vi)ポリエチレンイミン、(vii)デンプンまたはセルロースのカチオン変性物および(viii)キトサンおよびその塩、」との記載を、
「(v)アルキレンジアミンとエポキシ化合物との重縮合物、(vi)デンプンまたはセルロースのカチオン変性物および(vii)キトサンおよびその塩、」と訂正する。

〔訂正事項f〕
明細書段落【0017】及び【化9】の式(9)を削除するとともに、段落番号【0018】〜【0030】をそれぞれ一つずつ繰り上げて【0017】〜【0029】とする。

〔訂正事項g〕
明細書段落【0018】(訂正後の段落【0017】)の、
「ポリマー(vii)」「一般式(10)」「【化10】」「(10)」との記載を、それぞれ「ポリマー(vi)」「一般式(9)」「【化9】」「(9)」と訂正する。

〔訂正事項h〕
明細書段落【0019】(訂正後の段落【0018】)の、
「ポリマー(viii)」「一般式(11)」「【化11】」「(11)」との記載を、それぞれ「ポリマー(vii)」「一般式(10)」「【化10】」「(10)」と訂正する。

〔訂正事項i〕
明細書段落【0026】(訂正後の段落【0025】)の、
「水溶性加工油剤1〜17」との記載を、「水溶性加工油剤1〜13」と訂正する。

〔訂正事項j〕
明細書段落【0027】(訂正後の段落【0026】)の【表1】において、実施例10、15〜17の欄を削除し、実施例11〜14をそれぞれ繰り上げて10〜13とする。

〔訂正事項k〕
明細書段落【0027】(訂正後の段落【0026】)の【表1】において、抗乳化剤の欄の「ポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルの重縮合物」の後に「2)」を挿入する。

〔訂正事項l〕
明細書段落【0028】(訂正後の段落【0027】)の、
「一般式(10)」との記載を、「一般式(9)」と訂正する。

〔訂正事項m〕
明細書段落【0028】(訂正後の段落【0027】)の、
「前記の一般式(9)」との記載を、「下記の一般式(11)」と訂正する。

〔訂正事項n〕
明細書段落【0028】(訂正後の段落【0027】)の、
「分子量が10000のポリマー」の後に、
「【化11】

(式中、m+nは8〜80000の数を示す)」を挿入する。

2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項aは、訂正前の特許請求の範囲請求項1において、「カチオン性抗乳化剤」が「混入油の乳化抑制用」に係るものであることを特定し、かつ、「カチオン性抗乳化剤」から、引用例に記載された発明において用いられている「ポリアルキレンイミンおよびその誘導体」を除くもので、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。またこの訂正は、訂正前の明細書段落【0001】、【0003】、【0025】、及び【0030】の記載により支持されており、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項bは、訂正前の特許請求の範囲請求項2において、「カチオン性抗乳化剤」として選択されるポリマー群から、引用例に記載された発明において用いられている「ポリエチレンイミン」を除くもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。またこの訂正は、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項c〜j、l〜nは、特許請求の範囲の訂正によって生じた明細書の記載中の不整合部分を訂正後の特許請求の範囲の記載に合わせて訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また訂正事項kは、脱落していた番号を挿入するもので、誤記の訂正を目的とするものである。そしてこれらの訂正は、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.訂正の適否の結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立について
1.本件発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件請求項1ないし4に係る発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲請求項1ないし4に記載された以下のとおりである。

「【請求項1】混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤(但し、ポリアルキレンイミンおよびその誘導体を除く)を含有する水溶性加工油剤。
【請求項2】カチオン性抗乳化剤が、(i)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩の単独重合物またはこれらの共重合物(ii)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩と、塩基性窒素原子およびカチオン性窒素原子を含有しないビニル系単量体またはその塩との共重合物、(iii)ポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルとの重縮合物、(iv)ポリアルキレンポリアミンとジハロアルカンとの重縮合物、(v)アルキレンジアミンとエポキシ化合物との重縮合物、(vi)デンプンまたはセルロースのカチオン変性物および(vii)キトサンおよびその塩、から成る群から選択される1種もしくは2種以上のポリマーである請求項1記載の水溶性加工油剤。
【請求項3】ポリマーの平均分子量が1000〜10,000,000である請求項2記載の水溶性加工油剤。
【請求項4】カチオン性抗乳化剤を0.01〜30重量%含有する請求項1記載の水溶性加工油剤。」

2.申立の理由の概要
(1)特許異議申立人長田 正は、証拠として本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である下記の甲第1号証ないし甲第4号証及び甲第6号証ないし甲第9号証、並びに、甲第5号証を提出し、訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明であるか、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、従って本件請求項1ないし4に係る発明の特許は取り消すべきものであると主張している。

甲第1号証:「LUBRICATION ENGINEERING」AUGUST,1988 第677〜680頁(以下、「刊行物9」という)
甲第2号証:米国特許第4816303号明細書(以下、「刊行物10」という)
甲第3号証:特開昭59-232180号公報(以下、「刊行物11」という)
甲第4号証:日東紡績株式会社カタログ「PAS Polyamine Series」1988.5(以下、「刊行物12という)
甲第5号証:日東紡績株式会社カタログ「PAS Polyamine Series」(以下、「刊行物13という)
甲第6号証:米国特許第4,614,593号明細書(以下、「刊行物14」という)
甲第7号証:特開昭50-51104号公報(以下、「刊行物15」という)
甲第8号証:特公昭39-20070号公報(以下、「刊行物16」という)
甲第9号証:特開昭60-63297号公報(以下、「刊行物17」という)

(2)特許異議申立人大塚裕子は、本願出願前に頒布されたことが明らかな下記の刊行物を甲第1号証及び甲第3号証として提出し、訂正前の本件請求項1及び4に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明は甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項に該当し、いずれも特許を受けることができないものであることから、訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第113号第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。

甲第1号証:特開平1-223198号公報(以下、「刊行物1」という)
甲第2号証:大森英三著「高分子凝集剤」株式会社高分子刊行会、昭和55年2月20日第4刷発行、第2〜7、34〜59、182〜193頁(以下、「刊行物2」という)
甲第3号証:石油学会編「石油用語解説集」株式会社幸書房、昭和52年5月31日初版発行、第66、67、86、87、178、179、212、213頁(以下、「刊行物3」という)

(3)特許異議申立人板倉昭夫は、本願出願前に頒布されたことが明らかな下記の刊行物を甲第1号証及び甲第6号証として提出し、訂正前の本件請求項1ないし3に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明は甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項に該当し、いずれも特許を受けることができないものであることから、訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第113号第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。

甲第1号証:特開昭59-227989号公報(以下、「刊行物4」という)
甲第2号証:特開昭60-63297号公報(上記「刊行物17」と同じ)
甲第3号証:米国特許第4789483号明細書(以下、「刊行物5」という)
甲第4号証:米国特許第4088600号明細書(以下、「刊行物6」という)
甲第5号証:高橋越民等共編「界面活性剤ハンドブック」工学図書株式会社、昭和43年10月1日初版発行、第176頁(以下、「刊行物7」という)
甲第6号証:「カーク・オスマー化学大辞典」丸善株式会社、昭和63年11月20日第2刷発行、第328、330頁(以下、「刊行物8」という)
(4)当審において通知した取消の理由の趣旨は、訂正前の本件請求項1ないし請求項4に係る発明は、上記刊行物1、4に記載された発明であるか、あるいは、上記刊行物1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明は特許法第29条第1項あるいは第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、よってこれらの発明の特許は取り消すべきものである、というものである。

3.刊行物の記載
刊行物1には、「水溶性研削油剤の中に、カチオン系凝集剤を含有させ、浮遊セラミックスの凝集作用を起こさせることを特徴とするセラミックス用研削油剤組成物」が記載されており(特許請求の範囲)、カチオン系凝集剤として、「カチオンモノマーとアクリルアミドとを共重合させたホモポリマー」が例示されている(公報第2頁右上欄11行〜15行参照)。

刊行物2には、高分子凝集剤についての記述があり、廃水処理においては水中にケン濁している微粒子の分離には凝集剤の利用が不可欠であることが記載されている(第2頁7行〜8行参照)。また、カチオン性凝集剤として、「ポリアクリルアミドのカチオン化変性」「カチオン性ビニルラクタム-アクリルアミド共重合体」「スチレンと無水マレイン酸との共重合物にジアミンを作用させて得られる第4級アンモニウム塩」「キトサン」「ポリエチレンイミン」「アルキレンジアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物」等が記載されている(第36〜55頁参照)。

刊行物3には、「凝集」が「フロキュレーション」と同義であること(第67頁参照)、「抗乳化剤」が「エマルションを破壊して2液相に分離するために用いる物質」であること(第87頁参照)、「乳化」が「ある液体の中にその液体と溶解しない他の液体が微細粒子として分散し、エマルションを生成する現象」であること(第179頁参照)、「フロキュレーション」が「微粒子が主として物理的な力によって集合し、それより大きい形をなすこと」であること(第213頁参照)がそれぞれ記載されている。

刊行物4には、「1.(a)分子量250〜10万の範囲にあるポリアルキレンイミン又はその誘導体のpHを5〜12に調整したものから選ばれる1種又は2種以上、並びに(b)水溶性油性向上剤を必須成分として含有することを特徴とする水溶性金属加工油組成物。 2.ポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンである特許請求の範囲第1項記載の水溶性金属加工油組成物。」が記載されており(特許請求の範囲第1項、第2項)、該水溶性金属加工油組成物の特徴として、「当該金属加工油組成物は界面活性を有しないため、油汚れの乳化混入が解消され、被加工材表面及び加工時、周囲の清浄化が図れる。」と記載されている(公報第4頁右下欄11行〜14行)。

刊行物5には、有機エマルション破壊剤を用いて水中油型エマルションの破壊を調整する方法に係る発明が記載されており(ABSTRACT参照)、カチオン系ポリマーが破壊剤(抗乳化剤)として好ましく用いられ、それらの分子量は5万〜50万であり、実際には、ポリアミン、ポリアミドアミン、ポリイミン、o-トルイジンとフォルムアルデヒドの縮合物、4級アンモニウム化合物、イオン性界面活性剤が、低濃度でも良好な破壊をもたらすため好適に用いられることが記載されている(第3欄6行〜13行参照)。

刊行物6には、4級アンモニウム型のカチオン性デンプンを用いることにより油中水、水中油型エマルジョンを破壊する方法に係る発明が記載されており(ABSTRACT参照)、4級アンモニウム型のカチオン性デンプンは、ポリアミンやポリイミンをベースとする抗乳化剤と比較して安価で効果的であることが記載されている(第1欄24行〜27行参照)。また、産業上利用できる分野として石油工業や金属加工工業が挙げられている(第2欄25行〜29行参照)。

刊行物7には、エマルションの安定性に係る記述があり、エマルションの解消においては、分散粒子の凝集がその過程の一つであることが記載されている(第176頁18行〜22行参照)。

刊行物8には、凝集剤に係る記載があり、高分子凝集剤としてポリ(エチレンイミン)等が示されている(第330頁表1参照)。

刊行物9には、カチオン性殺菌剤の金属加工流体への使用に係る記述があり、ポリ[(オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン)ジクロライド]が、金属加工流体に使用される微生物調整剤として米国環境保護機関に登録されていることが記載されている(第679頁左欄8行〜10行)

刊行物10には、金属の腐食防止方法及び腐食防止層に係る発明が記載されており、該腐食防止層は金属成分と有機ポリアミンの結合体よりなり、有機ポリアミンにはポリエチレンイミンが含まれることが記載されている(クレーム1参照)

刊行物11には、油脂、鉱物油及び脂肪酸エステルから成る群から選ばれる1種又は2種以上の潤滑油成分、分子量1000〜1000万の分子中に窒素原子を含有する陽イオン性もしくは両性イオン性の水溶性高分子化合物の1種又は2種以上、並びに極圧剤を含有する金属加工油組成物が記載されており(特許請求の範囲第1項参照)、水溶性高分子化合物として、一般式(IV)(V)(式省略)で示される含窒素単量体又はその塩の単独重合体あるいは2種以上の共重合物が例示されている(公報第4頁左上欄一般式(IV)(V)参照)。また、水溶性高分子化合物の作用として、「特定の水溶性高分子化合物と極圧剤を併用すると、水溶性高分子化合物による保護コロイド的機能の働きによって、潤滑油成分は均一で大きな粒径を保って水中に安定に分散されるので循環安定性がよく」と記載されている(公報第3頁左下欄10行〜14行)

刊行物12には、ニットーボー製の水溶性カチオン系高分子化合物「PAS-H」、「PAS-J-41」がそれぞれジアリルジメチルアンモニウムクロライドの重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドの共重合体であることが記載されている。

刊行物13には、ニットーボー製の水溶性カチオン系高分子化合物「PAS-H」及び「PAS-M-1」の構造式が記載されている。

刊行物14には、モノアリルアミンの水溶性ポリマーを用いた水中油型エマルションの破壊方法に係る発明が記載されており(ABSTRACT参照)、さまざまな分子量のグレードのポリアリルアミン及びポリアリルアミンハイドロクロライドが日東紡績から市販されていることが記載されている(第3欄末行〜第4欄3行参照)。

刊行物15には、潤滑油及びエチレンジアミンのテトラポリ(オキシエチレン)・ポリ(オキシプロピレン)誘導体の1種またはそれ以上からなる潤滑油組成物が記載されており(特許請求の範囲参照)、このような組成物は、錆およびスラッジを防ぐ作用を有することが記載されている(第1頁右下欄14行〜18行参照)。

刊行物16には、ジアルキルジメチル四級アンモニウム塩を含有する水不混和性有機液体が記載されており(特許請求の範囲参照)、このような液体は、水と接触するとき、持続性のヘイズ(haze)および安定な乳濁液の形状を抑制する作用のあることが記載されている(第1頁左欄19行〜20行参照)。

刊行物17には、エステル系潤滑油に、ラノリン脂肪酸の高級アルコールエステル、カルシウム塩およびバリウム塩、ジフェニルアミンまたは1,2-ジフェニルグアニジンを添加してなる回転式空気圧縮機用潤滑油が記載されており(特許請求の範囲参照)、特定のさび止め剤と抗乳化剤の併用により、エステル系潤滑油のさび止め性、水分離性および酸化安定性が大巾に向上したことが記載されている(公報第2頁右上欄16行〜18行参照)。

4.対比・判断
(1)特許法第29条第1項について
(請求項1について)
a)刊行物1との対比
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)と上記刊行物1記載の発明と比較すると、両者は「水溶性加工油剤」である点で共通するものの、本件発明1が「混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤」を含有するのに対して、刊行物1記載の発明は「カチオン系凝集剤」を含有する点で相違するものである。そこで、凝集剤と抗乳化剤とが実質的に等しいものであるか検討するに、刊行物3の記載によれば「抗乳化剤」とはエマルションを破壊して2液相に分離するために用いられるものであり、これに対して「凝集剤」は、刊行物2の記載によればケン濁している微粒子の分離に用いられるものであるが、微粒子がエマルションである場合に限られるものではない。また、刊行物1記載の発明においては、凝集剤が浮遊セラミックスの凝集を起こさせるために用いられていることを考慮すると、刊行物1記載の発明において化合物として本件発明1と共通するものが用いられているとしても、これは浮遊セラミックスの「凝集剤」であって、混入油の乳化抑制用の「抗乳化剤」ではない。
したがって、本件発明1は「混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤」を含有する点において刊行物1記載の発明とは実質的に異なるものであるから、本件発明1は上記刊行物1に記載された発明とは認められない。

b)刊行物4との対比
本件発明1と上記刊行物4記載の発明とを比較すると、「水溶性加工油剤」である点で両者は共通するものの、刊行物4記載の水溶性金属加工剤組成物はその必須成分として「分子量250〜10万の範囲にあるポリアルキレンイミン又はその誘導体」を含有しているのに対して、本件発明1の水溶性加工油剤は必須成分である「カチオン性抗乳化剤」から「ポリアルキレンイミン又はその誘導体」を除いており、この点において両者は明らかに相違するものである。
したがって、本件発明1は上記刊行物4に記載された発明とは認められない。

c)刊行物9ないし11との対比
刊行物9ないし11に記載された金属加工油等の組成物には、そのいずれにも本件発明1において抗乳化剤として例示されている化合物と同様のものが含有されている。しかしながら、これらの化合物は、刊行物9記載の発明においては微生物調整剤として、刊行物10記載の発明においては防錆機能を有する剤として、刊行物11記載の発明においては保護コロイド的機能を有する分散安定剤としてそれぞれ用いられているものであり、混入油の乳化抑制用の「抗乳化剤」として用いられているものではない。
したがって、本件発明1は「混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤」を含有する点において刊行物9ないし11記載の発明とは実質的に異なるものであるから、本件発明1は上記刊行物9ないし11に記載された発明とは認められない。

(請求項2ないし請求項4について)
本件請求項2に係る発明は本件発明1のカチオン性抗乳化剤を特定するものであり、本件請求項3に係る発明は本件発明請求項2に係る発明のポリマーの分子量の範囲を特定するものであり、本件請求項4に係る発明は本件発明1のカチオン性抗乳化剤の含有量を特定するものであるから、いずれも本件発明1の構成をその主たる構成として含むものである。そして上述したように本件発明1は上記刊行物1、4、9ないし11に記載された発明とは認められず、したがって同様の理由により、本件請求項2ないし請求項4に係る発明も、上記刊行物1、4、9ないし11に記載された発明とは認められない。

(2)特許法第29条第2項について
(請求項1について)
a)刊行物1ないし8および17との対比
本件発明1と上記刊行物1記載の発明と比較すると、上述したように両者は「水溶性加工油剤」である点で共通しており、一方、本件発明1が「混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤」を含有するのに対して、刊行物1記載の発明は「カチオン系凝集剤」を含有する点で相違するものである。
そこで、刊行物1記載の発明において「カチオン系凝集剤」を「混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤」に置き換えることが当業者にとって容易であるかどうか検討するに、一般に「凝集剤」とは、刊行物2の記載によればケン濁している微粒子の分離に用いられるようなものであって、微粒子がエマルションである場合には、エマルションを破壊して2液相に分離するために用いられる「抗乳化剤」(刊行物3参照)の作用をなすものと認められる。しかしながら、刊行物1記載の研削油剤組成物においては、凝集剤は浮遊セラミックスの凝集を起こさせるためにのみ用いられているものであり、混入油のエマルションを破壊するために用いられているものではない。したがって、エマルションを破壊して2液層に分離させるという働きをしていない「凝集剤」を「抗乳化剤」と関連づけてとらえることはできず、「カチオン系凝集剤」を「混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤」に置き換えることが当業者にとって容易であるとは認められない。
また、刊行物4には、ポリアルキレンイミンを配合することにより油汚れの乳化混入が解消される旨の記載があるが、これは界面活性剤を配合しないことによる作用効果であって、エマルション破壊による乳化防止効果を示唆するものではなく、刊行物17には、特定のさび止め剤と抗乳化剤の併用により、エステル系潤滑油のさび止め性、水分離性および酸化安定性が大巾に向上したことが記載されているが、水溶性加工油剤に抗乳化剤を配合することを示唆するものではない。さらに、刊行物5および6にはカチオン系ポリマーやカチオン性デンプンからなる抗乳化剤を用いたエマルション破壊についての記載があるが、これらの抗乳化剤を水溶性加工油剤の混入油の乳化抑制に用いることを示唆する記載はなく、刊行物7および8には凝集や凝集剤についての一般的な記述があるのみである。したがって、刊行物1ないし3の記載に刊行物4ないし8、17の記載を組合せて勘案しても、本件発明1の構成を導き出すことはできない。

b)刊行物9ないし17との対比
刊行物9ないし11には、本件発明1において抗乳化剤として例示されている化合物と同様のものが含有された金属加工油等の組成物が記載されているが、これらの化合物は、上述したように微生物調整剤、防錆剤、分散安定剤として作用しているものであり、混入油の乳化抑制用の「抗乳化剤」としての作用効果を示唆するものではない。また、刊行物12ないし14は本件発明1において抗乳化剤として例示されている化合物自体が公知であることを単に示しているだけであり、刊行物15ないし17には、本件発明1において抗乳化剤として例示されている化合物と重複あるいは類似する化合物が配合された潤滑油組成物が記載されているだけである。したがって、刊行物9ないし17のいずれにも混入油の乳化を抑制するカチオン性抗乳化剤が記載されているとは認められないので、これらの記載をいかに組合せても本件発明1の構成を導き出すことはできない。
そして、本件発明1は、上記の構成を備えることによって、混入油等の乳化に起因する加工油剤の清澄性の低下や粘度増加、切削研削性能等の低下、腐敗悪臭による作業環境の悪化等の諸問題は回避され、従って、水溶性加工油剤の液寿命の延長と維持管理の省力化を計ることができるという明細書記載の効果(本件公報段落【0029】参照)を奏するものであると認められる。
したがって、本件発明1は上記刊行物1ないし8および17に記載された発明、あるいは上記刊行物9ないし17に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(請求項2ないし請求項4について)
本件請求項2に係る発明は本件発明1のカチオン性抗乳化剤を特定するものであり、本件請求項3に係る発明は本件請求項2に係る発明のポリマーの分子量の範囲を特定するものであり、本件請求項4に係る発明は本件発明1のカチオン性抗乳化剤の含有量を特定するものであるから、いずれも本件発明1の構成をその主たる構成として含むものである。そして上述したように本件発明1は上記刊行物1ないし8および17に記載された発明、あるいは上記刊行物9ないし17に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、したがって同様の理由により、本件請求項2ないし請求項4に係る発明も、上記刊行物1ないし8および17に記載された発明、あるいは上記刊行物9ないし17に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

IV.むすび
以上のとおりであるから特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水溶性加工油剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤(但し、ポリアルキレンイミンおよびその誘導体を除く)を含有する水溶性加工油剤。
【請求項2】 カチオン性抗乳化剤が、(i)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩の単独重合物またはこれらの共重合物(ii)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩と、塩基性窒素原子およびカチオン性窒素原子を含有しないビニル系単量体またはその塩との共重合物、(iii)ポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルとの重縮合物、(iv)ポリアルキレンポリアミンとジハロアルカンとの重縮合物、(v)アルキレンジアミンとエポキシ化合物との重縮合物、(vi)デンプンまたはセルロースのカチオン変性物および(vii)キトサンおよびその塩、から成る群から選択される1種もしくは2種以上のポリマーである請求項1記載の水溶性加工油剤。
【請求項3】 ポリマーの平均分子量が1000〜10,000,000である請求項2記載の水溶性加工油剤。
【請求項4】 カチオン性抗乳化剤を0.01〜30重量%含有する請求項1記載の水溶性加工油剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は混入油等の乳化を効果的に抑制する水溶性加工油剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から金属、非鉄金属、ガラスおよびセラミックス等の切削加工、研削加工および塑性加工等においては種々の水溶性加工油剤が使用されているが、この種の水溶性加工油剤の使用に関しては、加工機械等に使用される摺動面潤滑油、作動油、グリース等が該加工油剤に混入して乳化されやすいために、該油剤の清澄性の低下と粘度の増加および切削研削性能等の低下が起こるだけでなく、微生物に起因する腐敗悪臭による作業環境の悪化やガム状塊の生成による循環パイプの閉塞等がもたらされるという問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題の原因となる混入油等の乳化を効果的に抑制する水溶性加工油剤を提供するためになされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、混入油の乳化抑制用カチオン性抗乳化剤(但し、ポリアルキレンイミンおよびその誘導体を除く)を含有する水溶性加工油剤に関する。
【0005】
本発明に使用するカチオン性抗乳化剤としては、次の(i)〜(vii)のポリマーが例示される:
(i)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩の単独重合物またはこれらの共重合物(ii)塩基性窒素原子もしくはカチオン性窒素原子を少なくとも1個有するビニル系単量体またはその塩もしくは第4級アンモニウム塩と、塩基性窒素原子およびカチオン性窒素原子を含有しないビニル系単量体またはその塩との共重合物、(iii)ポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルとの重縮合物、(iv)ポリアルキレンポリアミンとジハロアルカンとの重縮合物、(v)アルキレンジアミンとエポキシ化合物との重縮合物、(vi)デンプンまたはセルロースのカチオン変性物および(vii)キトサンおよびその塩。
【0006】
上記のポリマーの平均分子量は通常1000〜10,000,000、好ましくは1000〜100,000である。
【0007】
ポリマー(i)としては、下記の(a)〜(e)のポリマーが例示される。
【0008】
(a)一般式(1):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2およびR3は各々独立して炭素原子数1〜5、好ましくは1〜3のアルキル基を示し、nは6〜60000、好ましくは10〜1000の数を示す)
で表わされるN,N-ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレートの重合物およびこれらの塩(例えば、第4級アンモニウム塩、硫酸塩または塩酸塩HI塩、HBr塩等)。
【0009】
(b)一般式(2):
【化2】

(式中、R1およびR2は前記と同意義であり、nは6〜6000、好ましくは10〜1000の数を示す)
で表わされるポリ(メタ)アクリルアミドのカチオン変性物。
【0010】
(c)一般式(3):
【化3】

(式中、R1およびR1’は各々独立して水素原子またはメチル基を示し、R2およびR3は各々独立して炭素原子数1〜5、好ましくは1〜3のアルキル基を示し、mは4〜60000、好ましくは4〜500の数を示し、nは4〜100000、好ましくは4〜500の数を示す)
で表わされるN,N-ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリルアミドとの共重合物およびこれらの塩(例えば、第4級アンモニウム塩等)。
【0011】
(d)一般式(4):
【化4】

(式中、R2およびR3は前記と同意義であり、nは6〜60000、好ましくは10〜1000の数を示す)
で表わされるジアリルジアルキルアンモニウムハロゲン化物の環化重合物。
【0012】
(e)一般式(5):
【化5】

(式中、R1、R2およびR3は前記と同意義であり、mは4〜60000、好ましくは4〜500の数を示し、nは4〜100000、好ましくは4〜500の数を示す)
で表されるジアリルジアルキルアンモニウムハロゲン化物と(メタ)アクリルアミドとの共重合物。
【0013】
ポリマー(ii)としては、N,N-ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドまたはジアリルジアルキルアンモニウムハロゲン化物と、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリルまたはスチレン等の共重合物が例示される。
【0014】
ポリマー(iii)としては、一般式(6):
【化6】

(式中、R’は炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基、アルキレン基を示し、nは4〜40000、好ましくは4〜400の数を示す)
で表わされるテトラメチルアルキレンジアミンと2,2’-ジクロロエチルエーテルとの重合物が例示される。
【0015】
ポリマー(iv)としては、一般式(7):
【化7】

(式中、Rは炭素原子数1〜4、好ましくは2〜3のアルキル基、アルキレン基を示し、R’は炭素原子数2〜10、好ましくは2〜6のアルキル基、アルキレン基を示し、nは10〜100000、好ましくは10〜1000の数を示す)で表わされるアルキレンジクロライドとアルキレンポリアミンとの重合物が例示される。
【0016】
ポリマー(v)としては、一般式(8):
【化8】

(式中、Rは前記と同意義であり、nは10〜100000、好ましくは10〜1000の数を示す)
で表わされるアルキレンジアミンとエピハロヒドリンとの重縮合物が例示される。
【0017】
ポリマー(vi)としては、一般式(9):
【化9】
Cell-OR1NR2R3 (9)
(式中、R1、R2およびR3は各々独立して炭素原子数1〜5、好ましくは1〜3のアルキル基を示し、Cellはセルロース、デンプンまたはグアーガム等の多糖類の残基を示す)
で表わされる多糖類のカチオン変性物がおよびその塩類(例えば、第4級アンモニウム塩等)が例示される。
【0018】
ポリマー(vii)としては、一般式(10):
【化10】

(式中、nは3〜30000、好ましくは3〜300の数を示す)
で表わされるキチンの濃アルカリによる加水分解物およびその塩が例示される。
【0019】
上記のカチオン性抗乳化剤は所望により、適宜2種以上混用してもよい。
【0020】
カチオン性抗乳化剤の対アニオンは特に限定的ではないが、塩素イオン、ヨウ素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、低級モノカルボン酸イオンおよびポリカルボン酸等が例示されるが、防錆性等の観点からは、リン酸イオン、ホウ酸イオン、低級モノカルボン酸イオンおよびポリカルボン酸イオンが好ましい。
【0021】
カチオン性抗乳化剤の配合量は特に限定的ではないが、通常は0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜10重量%であり、0.01重量%以下の場合には混入油等の乳化を十分に抑制できない。
【0022】
本発明による水溶性加工油剤には加工油剤の種類に応じて常套の添加剤、例えば防錆剤、潤滑剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、染料、香料等を適宜配合してもよいが、水溶性加工油剤との相溶性の悪いものや、難水溶性のものは避けるべきである。
【0023】
例えば、ポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルとの重縮合物(例えば、株式会社ネオス製EBW-101等)をカチオン性抗乳化剤として含有する水溶性切削油剤の場合、p-t-ブチル安息香酸、セバシン酸、ドデカン二酸、炭素原子数が5〜10の脂肪酸もしくはホウ酸のアルカノールアミン塩もしくは金属塩等の防錆剤、プルロニック系もしくはテトロニック系非イオン界面活性剤、またはリン酸エステルもしくはポリグリコール系合成潤滑剤等は適宜配合してもよいが、オレイン酸のアルカノールアミン塩もしくは金属塩、石油スルホン酸塩またはロート油等は水溶性切削油剤から分離して該油剤の安定性を悪くするので好ましくなく、また、鉱油、動植物油、塩素化パラフィン、硫化油またはジアルキルポリサルファイド等の難水溶性のものは適当な乳化剤を必要とするので不適当である。
【0024】
本発明による水溶性加工油剤に潤滑油、作動油、グリース等が混入してもこれらの乳化は効果的に抑制されて分離するので、このような分離混入油を適宜分別除去することによって該水溶性加工油剤の性能等の劣化を防止することができる。
【0025】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって説明する。
実施例1
表-1の配合処方によって水溶性加工油剤1〜13を調製した。栓付きのメスシリンダー(100ml)内へ各々の油剤試料50mlおよび摺動潤滑油モービルバクトラオイルNo.2(モービル社市販品)(試験I)またはダフニースーパーマルチ46(出光社市販品)(試験II)2.5mlを入れ、密栓し、上下に10回激しく振盪させた後静置し、経時的に清澄性を調べ、結果を表-1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1における脚注は以下の通りである。
1)平均分子量約90000。
2)株式会社ネオス製EBW-101;前記の一般式(6)において、R’がC2H4であるCl塩。
3)三洋化成工業株式会社製サンフロックC609P;前記の一般式(1)においてR1,R2およびR3がいずれもCH3であるCl塩。
4)三洋化成工業株式会社製サンフロックC454;前記の一般式(3)において、R1、R2およびR3がいずれもCH3であるCl塩。
5)ステイン・ハル(STEIN-HALL)社製ジャガーCP-13;前記の一般式(9)において、R1がC3H6、R2およびR3がCH3、Cellがグアーガム残基であるCl塩。
6)株式会社ネオス製PC-70;前記の一般式(8)において、RがC6H12であるC3〜C5kジカルボン酸塩。
7)日本触媒化学工業株式会社製エポミンP-1000;下記の一般式(11)において分子量が10000のポリマー
【化11】

(式中、m+nは8〜80000の数を示す)
8)抗乳化剤の配合量の単位は重量%である。
【0028】
表-1中、A〜Eの評価は水溶液部分の透視度がそれぞれ30度以上、10〜30度未満、3〜10度未満、1〜3度未満および1度未満のことを示す。
比較例1
表-1の配合処方によって水溶性加工油剤1’〜6’を調製し、各々の油剤試料の清澄性を実施例と同様にして調べ、結果を表-1に示す。
表-1中、A〜Eの評価は実施例の場合と同意義である。
【0029】
【発明の効果】
本発明による水溶性加工油剤に加工機械等に使用される潤滑油、作動油またはグリース等が混入してもその乳化は効果的に抑制されるので、該混入油等の乳化に起因する加工油剤の清澄性の低下や粘度増加、切削研削性能等の低下、腐敗悪臭による作業環境の悪化等の諸問題は回避され、従って、水溶性加工油剤の液寿命の延長と維持管理の省力化を計ることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-26 
出願番号 特願平3-38401
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C10M)
P 1 651・ 121- YA (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 鈴木 紀子
西川 和子
登録日 1999-07-30 
登録番号 特許第2960788号(P2960788)
権利者 株式会社ネオス
発明の名称 水溶性加工油剤  
代理人 小川 信夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 村社 厚夫  
代理人 北原 康廣  
代理人 青山 葆  
代理人 中村 稔  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 竹内 英人  
代理人 箱田 篤  
代理人 今城 俊夫  
代理人 西島 孝喜  
代理人 北原 康廣  
代理人 大塚 文昭  
代理人 青山 葆  

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