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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A63B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A63B
管理番号 1089800
異議申立番号 異議2001-70534  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-16 
確定日 2003-11-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3117768号「ガット」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3117768号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3117768号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成3年12月16日に出願され、平成12年10月6日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人株式会社ゴーセンにより特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年11月13日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項2を削除する。
b.特許請求の範囲の請求項3を削除する。
c.明細書段落【0015】に記載の実施例3及び【0016】に記載の実施例4を削除する。
d.図3及び図4を削除する。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a、bは、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項c、dは、効果についてに記載のない実施例の削除であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正は願書に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲を越えるものとは認められないから、新規事項の追加に該当せず、また特許請求の範囲を実質的に拡張または変更するものではない。

ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)申立ての理由の概要
申立人株式会社ゴーセンは、甲第1号証、甲第2号証の1、甲第2号証の2、甲第3号証および甲第4号証を提出し、請求項1ないし3に係る発明は、甲第1ないし4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消すべきものであり、また、請求項1ないし3にかかる発明の特許は、その明細書が特許法第36条第4項および第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。

(2)特許法第29条第2項違反について
ア.本件発明
上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】芯糸の外周に複数本からなる少なくとも1層の巻糸を巻回し、その周囲にすくなくとも1層の樹脂被覆層を有するガットであって、芯糸あるいは巻糸の構成繊維の1部がメタ系芳香族ポリアミド繊維であることを特徴とするガット。」

イ.甲号証記載の発明
甲第1号証(米国特許第4016714号明細書)には、
「ストリング構造
背景技術並びに発明の概要
テニス用のストリングスあるいはバドミントン、スカッシュなどのその他の運動用のラケット、更には、楽器用のストリングスの製造においては、ストリングが、伸長性(弾性率)及び弾力性(振動減衰)の適切なコンビネーションを有することが重要である。」(1欄1〜11行)、
「1.必須構成成分として、熱可塑性プラスチックの芯、キュアーされたカチオン性滑剤からなる当該芯上への第1のコーティング、それを取り囲んでいて第1のコーティングに結合している熱可塑性樹脂からなる第2のコーティングを有するストリング構造。
2.前記芯が、次の熱可塑性材料:ナイロン、ポリエステル、グラスファイバー又はアラミド繊維類の一つからなる請求項1のストリング。
3.熱可塑性樹脂がナイロン処理剤からなる請求項1のストリング。
4.……(略す)……
5.……(略す)……
6.前記第2のコーティングを包囲している熱可塑性の防護さや層、及び、前記防護さや層を包囲し且つ前記さや層と前記第2のコーティングと一体になっている前記熱可塑性樹脂の更なるコーティングを有する請求項1のストリング。
7.前記防護さや層が組みひもからなる請求項6のストリング。
8.前記防護さや層が螺旋状巻き糸からなる請求項6のストリング。
9.前記芯が、互いに撚り合わされた複数本の繊維束(end)からなり、前記繊維東は、、ナイロン、ポリエステル、グラスファイバー又はアラミド繊維類の一つからなり、前記熱可塑性樹脂がナイロン処理剤からなり、前記第2のコーティングを包囲している実質的にナイロンからなる熱可塑性の防護さや層、及び前記防護さや層を包囲し且つ前記さや層と前記第2のコーティングと一体になっている前記熱可塑性樹脂の更なるコーティングからなる請求項1のストリング。」(特許請求の範囲(6欄5〜36行))、
「図1は、ストリングの芯を形成するのに使用し得る各ストランドの一つの斜視図。
図2は、互いに撚り合わされている図1に示された複数本のストランドである。
図3は、本発明で用いられるコーティング及び乾燥手段を示す概略図。
図4は、滑剤でコーティングされた後の図2の芯を示す拡大断片斜視図。
図5は、熱可塑性プラスチック処理剤で、コーティングされた後の図4の芯を示す。
図6は、螺旋状の糸がその上に巻きつけられた図5のストリングを示す。
図7は、更に熱可塑性プラスチック処理剤で、再びコーティングされた後の図6のストリングを示す。
図8は、その上に反対向きの第2の螺旋状の糸が設けられた図7のストリングを示す。そして
図9は、それに最後のプラスチックコーティングが施された図8のストリングを示す。」(1欄62行〜2欄13行)、
「発明の開示
次に図面を参照すると、特にその図1と図2において、製造されるストリングの芯ないし繊維束の形成に用いられる熱可塑性プラスチックの単糸ないしストランドが10で示されている。ストランド10はナイロン、”DACRON”(デュポン社商標)などのポリエステル、グラスファイバー、または、”KEVLAR”、”NOMEX”(両者ともデュポン社商標)などのアラミド繊維からなることができる。図2は、3本のストランド10が互いに撚り合わされて形成された芯ないし繊維東12を示している。……(中略)……。芯12は3本の撚り合わされた繊維東である必要はなく、芯の形成には、より多数本の又はより少数本の繊維束を用いても良く、ストランド10のデニールは何本のストランドを用いて芯を形成するかに依存する。」(第2欄第15〜34行)
「図14に示された様に、芯12が力チオン性滑剤18でコーティングされた後、次の工程はストリングを熱可塑性プラスチック処理剤、好ましくは重量でおよそ14.4%のナイロン、61.1%のメタノール、4.9%のテトラヒドロフルフリルアルコール、及び19.6%の水からなるナイロン溶液中を通す事である。上記の調合割合は限定的なものではなく、むしろ適切な濃度のナイロン溶液を提供するのに好適であることを見つけたものである。図3に示した装置と同じ装置が図5の26で示される様に、ストリングに熱可塑性プラスチック処理剤を塗布する為に使用される。」(3欄13〜24行)、
「ストリングを増強あるいは強化するために、コーティングされたストリングの外側に、外糸を設けることが好ましく、例えば、図6に示した様に、その上にナイロンモノフイラメントの螺旋巻き糸28を設けても良い。この螺旋巻き糸は前述した米国特許第3,745,756号に示されている糸と同様のものである。……(中略)……。しかし、その他の態様の糸又は組みひも、例えば、本出願人の以前の米国特許第2,649,833号、米国特許第2,712,263号、米国特許第2,7 3 5,2 58号及び米国特許第2,861,417号に示されているような、他の糸又は組みひもなども、螺旋巻き糸28の代わりに使用することができる。螺旋巻き糸28を施した後、その上に外側コーティング30を施す為、図8に示されるように、一定の間隔をおいて巻かれた螺旋巻き糸28が施されたところに、次に前記糸28の方向とは反対方向に更にナイロンモノフィラメントの螺旋巻き糸32を設けることが好ましい。そしてそのストリングは再び前述のナイロン処理剤と装備された加熱室に複数回通され、この複合ストリングの上に、外側ナイロンコーティング34が施される。」(3欄36〜58行)、
「あまりにも高い弾性率を有するストリングスは、程良い伸びを示さないので望ましい結果が得られないであろう。一方、同様に、高い内部制振性を有するストリングスは、十分な反発性を示さないので望ましい結果が得られないであろう。」(1欄11〜15行)
「上記すべてのストリングスはテストの結果、効果的な伸びと反発性を有し、特に振動が生じた時に改善された内部制振性を示す。」(第5欄第25〜28行)、
と記載されている。

甲第2号証の1(「NOMEXブランド繊維の技術ガイド」米国デュポン社発行)には、「NOMEXは、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)類のデュポン社の登録商標です。このファミリーには、短繊維、連続フィラメント糸・・・が含まれます。」(1頁左欄2〜4)、
「商標NOMEXナイロンの採用は、パイロットプラント設備の運転を開始した1963年に発表された。1967年までには、NOMEXは商業的に入手できる様にされた。1972年に商標NOMEXアラミドが採用された。MONEX メタ-アラミド、ポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド)はアミド溶媒中でメタ-フェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドから作られる。」(1頁右欄8〜14行)、
と記載されている。

甲第2号証の2(「繊維學會誌」第43巻第4号、昭和62年4月10日、社団法人繊維学会発行125頁)には、
「1960年には、メタ系芳香族ポリアミド繊維ノメックスが開発された。」(125頁左欄下から6〜5行)と記載されている。

甲第3号証(実願昭59ー57122号(実開昭60ー168857号)のマイクロフィルム)には、
「複数本のアラミッド繊維と数本のナイロンとを集束したものを加熱して、上記ナイロンを溶解して複数本のアラミッド繊維を融着した芯材よりなるガット。」(実用新案登録請求の範囲)、
「第1図はその斜視図、第2図はその拡大断面図であり、図中符号(1)は、アラミッド繊維、(2)は融着ナイロンであり、これは多数本のアラミッド繊維と複数本のナイロンとを集束したものを加熱して、ナイロンを溶解してアラミッド繊維を融着した単体(A)で、この単体(A)3本を撚り合せた撚糸(B)の外周面に、アラミッド繊維(3)の無撚または片撚したものを複数本とナイロンマルチまたはナイロンフィラメント(4)の数100〜1000デニールの数本とを並列したのち巻回または編組したもの(C)をフェノールまたはエポキシ樹脂等で固定し、さらにその外周をナイロン6またはナイロン66でコーティング被覆(D)したのである。」(2頁12行〜3頁4行)、
と記載されている。
上記記載及び図面の記載から、刊行物1には「多数本のアラミッド繊維と複数本のナイロンとを集束したものを加熱して、ナイロンを溶解してアラミッド繊維に融着した芯糸と、その外周に1層のアラミッド繊維の複数本とナイロンマルチまたはナイロンフィラメント数本とを並列した巻糸を巻回し、その周囲に1層のナイロン被覆層を有するガット」が記載されているものと認める。

甲第4号証(実願昭61ー81858号(実開昭62ー192755号)のマイクロフィルム)には、
「第2の実施例を第2図に示す。第2の実施例では、ガット2aがモノフイラメントからなる芯材6と、この芯材6の回りに設けた巻回層8とからなる。巻回層8は、芯材6よりも小径の多数のポリアミド製のモノフイラメント10を引きそろえて接着剤12によって芯材6の回りに接着したものである。この巻回層8の外表面に第1の実施例の樹脂層4と同一の樹脂層4aが形成されている。
第3の実施例を第3図に示す。第3の実施例は巻回層8aが2層構造になつている点で、第2の実施例で異なる。すなわち、巻回層8aは、径の細いモノフイラメント10aと、径の太いモノフイラメント10bとからなる。
第4の実施例を第4図に示す。第4の実施例は、樹脂層4aと巻回層8との間に熱可塑性ウレタンエラストマ層13が介在している点が第2の実施例と異なる。この熱可塑性エラストマ12を設けたのは、耐摩耗性が大きく、摩擦係数を大きくする機能を果すからである。
第5の実施例を第5図に示す。第5の実施例は、樹脂層4aと巻回層8aとの間に熱可塑性ウレタンエラストマ層12aが介在している点で第3の実施例と異なる。熱可塑性エラストマ層12aを設けたのは、第4の実施例と同一の理由である。」(3頁17行〜4頁20行)、
「また 第2乃至第5の実施例の巻回層8、8aのフィラメントはモノフィラメントとしたが、マルチフィラメントを用いることもできる。」(5頁5〜8行)、と記載されている。

ウ.取消しの理由に引用した刊行物
刊行物3(繊維学会編「繊維便覧ー原料編ー」、昭和45年10月30日第2刷、丸善株式会社発行、642〜643頁「a.ポリーm-フェニレンイソフタルアミド(ノメックス)」の項)には、
「全芳香族ポリアミドの中で、まず選択されるものはポリーmーフェニレンイソフタルアミドであり、Du Pont(米)はノメックスなる商標のもとにその繊維を生産している。〜ポリーmーフェニレンイソフタルアミドは次式の反応に従って合成される。〜たとえば、炭酸ナトリウムを含有するmーフェニレンジアミン水溶液に、かきまぜながらイソフタル酸クロリドのテトラヒドロフラン溶液を加え、生成するポリマーをろ別する方法」(642頁下から10行〜下から3行)と記載されている。

刊行物4(特開昭61ー193679号公報)には、
「表面層4の樹脂材料としては、〜ポリアミド、〜ポリエチレン、〜テフロン等を使用することができる。」(2頁右上欄17行〜左下欄4行)と記載されている。

なお、取消しの理由に引用した刊行物1は、甲第3号証であり、刊行物2は、甲第1号証である。

エ.対比・判断
本件発明と甲第1ないし4号証および刊行物3、4に記載の発明を対比すると、これら甲号証および刊行物には、本件発明の構成要件である、芯糸の外周に複数本からなる少なくとも1層の巻糸を巻回し、その周囲にすくなくとも1層の樹脂被覆層を有するガットにおいて、「芯糸あるいは巻糸の構成繊維の1部がメタ系芳香族ポリアミド繊維である」ことについての記載も、このことを示唆する記載も認めらない。
そして、本件発明は、上記構成を備えることにより、明細書記載の効果を奏するものであるから、甲第1ないし4号証および刊行物3、4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

甲第1号証には、芯を、ナイロン、ポリエステル、グラスファイバー又はアラミド繊維類で構成すること、アラミド繊維としてKEVLARと共にNOMEXが例示され、甲第2号証の1、2及び刊行物3の記載らみれば、NOMEXはメタ系芳香族ポリアミド繊維であることは認められるが、「前記芯が、次の熱可塑性材料:ナイロン、ポリエステル、グラスファイバー又はアラミド繊維類の一つからなる請求項1のストリング。」(請求項2)、「前記芯が、互いに撚り合わされた複数本の繊維束(end)からなり、前記繊維東は、、ナイロン、ポリエステル、グラスファイバー又はアラミド繊維類の一つからなり、前記熱可塑性樹脂がナイロン処理剤からなり、前記第2のコーティングを包囲している実質的にナイロンからなる熱可塑性の防護さや層、及び前記防護さや層を包囲し且つ前記さや層と前記第2のコーティングと一体になっている前記熱可塑性樹脂の更なるコーティングからなる請求項1のストリング。」(請求項9)と記載され、芯として、実施例1ではナイロン、実施例2、3ではKEVLARの単独使用しか記載されていないことからみれば、芯の構成繊維としては、上記熱可塑性繊維類の一つの単独使用であって、NOMEXと他の繊維を組み合わせることについての記載も示唆もない。また、螺旋巻き糸28、32についてもナイロンのみの記載であり、NOMEXを使用することも、NOMEXと他の繊維を組み合わせることも記載されていない。
甲第3号証には、多数本のアラミッド繊維と複数本のナイロンとを集束したものを加熱して、ナイロンを溶解してアラミッド繊維に融着した芯糸と、その外周に1層のアラミッド繊維の複数本とナイロンマルチまたはナイロンフィラメント数本並列した巻糸を巻回し、その周囲に1層のナイロン被覆層を有するガット、即ち、芯糸の外周に複数本からなる少なくとも1層の巻糸を巻回し、その周囲にすくなくとも1層の樹脂被覆層を有するガットであって、巻糸の構成繊維の1部がアラミッド繊維(芳香族ポリアミド繊維)であるガットは記載されているが、「アラミッド繊維(1)の元来の伸度は2〜5%であり」(3頁5〜6行)、「上記撚糸(B)の外周面のアラミッド繊維(3)をナイロンに混列するのは、ガットの腰折れを保護すると共に伸度の少ないアラミッド繊維を補強するものであり、」(3頁12〜15行)と記載されているように、ここでのアラミッド繊維(芳香族ポリアミド繊維)はパラ系芳香族ポリアミド繊維と推認でき、この繊維の低伸度と高強度という特性を利用して、「低伸度で反発力が増強され、しかも強力増大なガット芯材を提供する」(2頁2〜3行)ものであるから、アラミッド繊維(芳香族ポリアミド繊維)として高伸度を有するメタ系芳香族ポリアミド繊維を選択する理由がない。

C.特許法第36条第4、5項違反について
申立人は、(dー1)、(dー2)、(dー3)(特許異議申立書14頁下から7行〜16頁23行)を理由として上記違反を主張しているので検討する。
(dー1)について、実施例3、4が削除されたので、対象がなくなった。
(dー2)について、本件発明では、耐摩耗性と動的剛性の両者をもって衝撃に対する耐久性の指標としたものであって、これら指標によって衝撃に対する耐久性が確認できないとする理由はないし、表1は、動的粘弾性試験により測定した動的剛性値を相対比較値とし、動的粘弾性として無名数で表示したものとすれば、単位の記載がないことをもって意味をなさないデータとすることはできない。
(dー3)について、本件発明は、メタ系芳香族ポリアミド繊維の特性を利用して、該繊維を芯糸あるいは巻糸の1部としたことに特徴を有するもので、特定の数値範囲において特有の効果を奏するような数値限定の発明ではない以上、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が請求項1に記載されていないとすることはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

D.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由および証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 芯糸の外周に複数本からなる少なくとも1層の巻糸を巻回し、その周囲に少なくとも1層の樹脂被覆層を有するガットであって、芯糸あるいは巻糸の構成繊維の1部がメタ系芳香族ポリアミド繊維であることを特徴とするガット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明はテニス、バドミントン、スカッシュ等のラケットに使用するガットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来ラケット用ガットとしては、古くは動物繊維の撚糸からなるガットが用いられていた。このガットを用いると、すぐれた反撥性を有し、弛みが少なくて快い打球音を発するとともに、プレーヤーに快い打球感を与えるが、耐湿性に乏しく使用寿命が短いという欠点があった。
【0003】
また、近年はナイロン、ポリエステル等の合成樹脂を用いたガットが数多く提案されている。例えば、ポリアミド樹脂製モノフィラメントよりなる芯材の外周面に、該芯材を包囲するように芯材よりも小径の多数のモノフィラメントよりなる芯巻糸を接着剤にて接着して巻回層とし、この巻回層の外周面をポリアミド樹脂や熱可塑性ウレタンエラストマーなどで被覆したものや、芯材の外周面に該芯材を包囲するように設けた芯材よりも小径の多数のモノフィラメントよりなる芯巻糸と、その上面に形成した被覆層との間、即ち芯巻糸の外側位置にモノフィラメントの側巻糸を有するものなどがある。
【0004】
しかしながら、このようなガットを張設したラケットを用いた場合、打撃力によりガットが多少伸張して球の衝撃を幾らか吸収することができるが、ガットを所定の張力をかけて張る必要があるので、衝撃を吸収するのに一定の限度がある。また、従来のガットは巻回層の同一の層の芯巻糸が互いに密接して芯材の外周に卷着されており、この比較的多い本数の芯巻糸は殆んど歪まない。従ってガット自体が変形しにくいので球の衝撃を殆んど吸収することができない。
【0005】
また、従来のガットにおいては芯巻糸や側巻糸としてポリアミド樹脂製のモノフィラメントまたはマルチフィラメントが用いられているので、高強度は有するものの、柔軟性、耐摩耗性に欠けるという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
また、最近は上記のような問題点を解消するために、引張り強力、耐摩耗性のよいパラ系芳香族ポリアミド繊維をナイロンやポリエステルを素材とする芯糸の表面に被覆編組したり、パラ系芳香族ポリアミド繊維をナイロン繊維などとともに撚糸したガットが提案されている。
【0007】
しかしながら、そのような構成のガットでは引張強力や耐摩耗性にすぐれてはいるが、衝撃による耐久性に劣るという問題がある。
【0008】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたものであり、高強度で耐摩耗性、衝撃による耐久性にすぐれたガットとすることによって、このようなガットを張設したラケットを用いた時、ガットと球との衝撃を小さくして耐久性を向上させることのできるガットを提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の目的を達成するためにメタ系芳香族ポリアミド繊維、即ちポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維をガットを構成する芯糸や芯巻糸、側巻糸などの巻糸の構成繊維の1部として用いたものである。
【0010】
【作用】
この発明のガットは、上記のようにメタ系芳香族ポリアミド繊維をガットを構成する芯糸、芯巻糸、側巻糸などに、その構成繊維の1部として用いたことによって、高強度は勿論のこと、柔軟性、耐摩耗性を有し、かつ衝撃に伴なう耐久性にすぐれたガットが得られるのである。
【0011】
この発明で用いるメタ系芳香族ポリアミド繊維としては、例えば実質的にメタフェニレンジアミンとイソフタル酸ジクロライドとを主原料とするもののほか、他の原料よりなるものでもよい。上記メタ系芳香族ポリアミド繊維は100〜1500デニール程度のフィラメントを多数集合させた繊維として用いることができる。
【0012】
また、この発明では上記のメタ系芳香族ポリアミド繊維のほかにナイロン6、ナイロン66、あるいはナイロン6とナイロン66との共重合体などのナイロン繊維が芯糸、芯巻糸、外巻糸として用いられる。さらにメタ系芳香族ポリアミド繊維やナイロン繊維を用いて巻回した編糸(組糸ともいうが、この発明では以下編糸と称す)の外周にナイロンコートし、さらにその上にフッ素樹脂、シリコーン樹脂溶液による被覆層を形成することにより、編糸が保護され、最も好ましい特性を有するガットが得られる。
【0013】
【実施例】
以下、この発明の実施例を図について説明する。
実施例1
図1は、この発明の一実施例を示すガットの断面図であって、1はナイロン6とナイロン66の共重合体よりなる0.903mmφモノフィラメントよりなる芯糸であり、この芯糸1の外周にナイロン6の0.128mmφモノフィラメント25本を芯巻糸2として巻回した。この芯巻糸2の巻回に当って芯巻糸2と芯糸1との間に1ケ所だけ内巻糸3として200デニールのメタ系芳香族ポリアミド繊維のマルチフィラメントを巻回した。さらに芯巻糸2の外周に0.234mmφのナイロン6のモノフィラメント6本を2本づつ外巻糸4として撚り合わせ(例えばトリプル巻き)て編糸Aを得、この編糸Aに溶融ナイロン樹脂をコーティングして被覆層5を形成することによって図1に示す構造のガットを得た。
【0014】
実施例2
ナイロン6とナイロン66の共重合体よりなる0.985mmφのモノフィラメントを芯糸1とし、その外周に0.142mmφのナイロン6のモノフィラメント24本を芯巻糸2として、両者間の特定した個所にメタ系芳香族ポリアミド繊維の200デニールのマルチフィラメント2本を内巻糸3として介在せしめて巻回して編糸Bを得た。得られた編糸Bの最外層に実施例1と同様にしてナイロン被覆層5を形成して図2の構造のガットを得た。
【0015】
比較例1
ナイロン6とナイロン66の共重合体よりなる0.985mmφのモノフィラメントを芯糸11とし、その外周に0.142mmφのナイロン6のモノフィラメント24本を芯巻糸12として用いて巻回し、その上にナイロン被覆層15を形成して図3の構造のガットを得た。
【0016】
比較例2
ナイロン6とナイロン66の共重合体よりなる0.985mmφのモノフィラメントを芯糸11とし、その外周にナイロン6の105デニールマルチフィラメント11本とパラ系芳香族ポリアミド繊維(商品名、ケブラー)の200デニールマルチフィラメント1本を芯巻糸12a、12bとして巻回し、さらにその上に0.142mmφのナイロン6モノフィラメント24本を外巻糸14として撚り合わせ、最外層にナイロン被覆層15を形成して図4に示す構造のガットを得た。
【0017】
上記の実施例1および実施例2で得られたガット、および比較例1と2で得たガットについて摩耗試験機による耐摩耗性、さらに動的剛性をテストしたところ表1の結果を得、この発明のガットがすぐれていることが認められた。
【0018】
【表1】

【0019】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明のガットは芯糸と芯巻糸、外巻糸などの巻糸の構成繊維として、その1部にメタ系芳香族ポリアミド繊維のモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを巻回したことによって、高強度、柔軟性、耐摩耗性などの従来のナイロン製ガットが有する性能を備えながら、かつ衝撃に対する耐久性などガットに最も要求される性能を向上させることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明に係るガットの一実施例を示す拡大断面図である。
【図2】
この発明に係るガットの他の実施例を示す拡大断面図である。
【図3】
従来のガットの構造を示す拡大断面図である。
【図4】
従来のガットの構造を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
1 芯糸
2 芯巻糸
3 内巻糸
4 外巻糸
5 ナイロン樹脂被覆層
【図面】




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-10-15 
出願番号 特願平3-353491
審決分類 P 1 651・ 534- YA (A63B)
P 1 651・ 531- YA (A63B)
P 1 651・ 121- YA (A63B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 鈴木 寛治
渡部 葉子
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3117768号(P3117768)
権利者 東亜ストリング株式会社
発明の名称 ガット  
代理人 木村 正俊  
代理人 池内 寛幸  
代理人 田中 浩  
代理人 田中 浩  
代理人 佐藤 公博  
代理人 鎌田 耕一  
代理人 木村 正俊  
代理人 乕丘 圭司  

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