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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て 特29条の2  C12N
管理番号 1089840
異議申立番号 異議1998-75612  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-04-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-18 
確定日 2003-12-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第2752819号「新規サイトカイン」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2752819号の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。 同請求項12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯:
本件特許第2752819号は、出願日が平成3年11月6日である特願平3-290121号の特許出願に係り、平成10年2月27日に設定登録がなされたもので、その後山之内製薬株式会社(以下、申立人という。)から特許異議の申立てがなされ、当審において取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年4月15日に、特許異議意見書が提出されたものである。さらに、申立人及び特許権者の双方に審尋がなされてそれぞれから回答書を得た後、特許権者に申立人からの回答書副本を平成12年10月4日に送付したが、それに対するさらなる回答、もしくは上申はなかった。

2.本件発明:
本件請求項1乃至12に係る発明(以下、本件発明1乃至12という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1乃至12に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
遺伝子操作によって得られ、ヒト由来の他の蛋白質を実質的に含有せず、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜178までのアミノ酸配列を含むことから成る、脂肪細胞化抑制活性を有する蛋白質、又は、該蛋白質の一つ若しくは二つ以上の部位において、一つ若しくは二つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入若しくは置換されている該蛋白質の同効物。
【請求項2】
遺伝子操作によって得られ、ヒト由来の他の蛋白質を実質的に含有せず、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜178までのアミノ酸配列を含むことから成る、脂肪細胞化抑制活性を有する蛋白質。
【請求項3】
N末端に水素原子又はMetを有する、請求項1又は2記載の蛋白質。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の蛋白質をコ-ドするDNA。
【請求項5】
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列のうち、ヌクレオチド番号81から614までのヌクレオチド配列又はそれと同効のヌクレオチド配列を含むことから成る、請求項1記載の蛋白質をコ-ドするDNA。
【請求項6】
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列のうち、ヌクレオチド番号81から614までのヌクレオチド配列を含むことから成る、請求項1又は2記載の蛋白質をコ-ドするDNA。
【請求項7】
請求項4、5又は6記載のDNAの5’末端にATGを有するDNA。
【請求項8】
請求項4、5、6又は7記載のDNAを含み、該DNAが発現可能かつ複製可能である、組換えDNA発現ベクタ-。
【請求項9】
請求項8記載の組換えDNA発現ベクタ-で形質転換せしめた宿主。
【請求項10】
請求項1、2又は3記載の蛋白質をコードしているDNAを含み、該DNAが発現可能かつ複製可能である、組換えDNA発現ベクターで形質転換せしめた宿主を培養し、その細胞抽出液またはその培養液から該蛋白質を回収することから成る該蛋白質の製造法。
【請求項11】
請求項1、2及び/又は3記載の蛋白質を有効成分とする血球減少症改善剤。
【請求項12】
請求項1、2及び/又は3記載の蛋白質を有効成分とする抗肥満剤。」

3.本件発明1と刊行物1の対比・判断:
3-1.本件発明1について:
本件発明1における「配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜178までのアミノ酸配列からなる脂肪細胞化抑制活性を有する蛋白質」は、刊行物1などで定義される「インターロイキン-11(IL-11)」のうちのヒト由来の「IL-11」であり、当該「アミノ酸番号1〜178」がヒトIL-11成熟体に対応することは、申立人、特許権者双方が認めるとおりであるから、以下「アミノ酸番号1〜178からなるヒトIL-11成熟体」を「ヒトIL-11」といい、「脂肪細胞化抑制活性を有する蛋白質」を「IL-11活性を有する蛋白質」という。
また、特許明細書の【0018】には、「本発明のDNAは例えば脂肪細胞化抑制活性を有する蛋白を産生する能力を有する哺乳動物細胞等から該蛋白質をコードするmRNAを調整した後、既知の方法により2本鎖cDNAに変換することによって得られる。」と記載されていることからみて本件発明1の目的蛋白質はヒト由来のもののみに限定されないことは明らかである。IL-11活性を有する蛋白であって、ヒトIL-11成熟体配列の「一つ若しくは二つ以上の部位において、一つ若しくは二つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入若しくは置換されている」といえる程度の変異の幅にある(相同性の高い)蛋白質であれば、ヒト以外の他の哺乳動物の蛋白、例えばサルIL-11も「該蛋白質の同効物」に包含されるといえる。
そして、ヒト以外の宿主細胞を用いた遺伝子操作によって得られた蛋白質には当然に「ヒト由来の他の蛋白質」は実質的に含有されないから、結局のところ本件発明1には、「ヒトIL-11もしくはサルIL-11をコードするcDNAを含む組換えDNAを用いてヒト以外の宿主細胞を用いた遺伝子操作によって得られる蛋白質であって、IL-11活性を有する蛋白質」が包含されていると認めることができる。

3-2.刊行物1との対比・判断:
これに対して当審の取消理由で引用した刊行物1(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.87 (1990), p.7512-7516)には、Fig.2としてサル(「霊長類」と記載されている。)IL-11のコード領域を含む塩基配列及びヒトIL-11のコード領域を含む塩基配列と共に、サルIL-11及びヒトIL-11それぞれのシグナルペプチドを包含する蛋白質(以下「プレIL-11」という。)に対応する推定アミノ酸配列が記載されているが、当該プレIL-11アミノ酸配列のうちプレヒトIL-11アミノ酸配列は、特許明細書に記載される「配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列」と実質的に同一の配列である。プレサルIL-11アミノ酸配列は、当該配列と極めて相同性が高い(塩基配列で約97%、アミノ酸配列レベルで約94%)ことも明らかである。
そこで、まずサルIL-11に関して検討する。
(3-2-1)サルIL-11について:
刊行物1には、上記プレサルIL-11をコードするcDNAを含むDNAを組み込んだ発現ベクターpXMをCOS-1細胞に導入して培養して発現させ、T1165増殖活性アッセイによりスクリーニング、トランスフェクションを繰り返し、高T1165増殖活性プラスミドpC1R6を単離したこと、そしてその細胞培養上清中に、IL-11特有の活性である、(1)プラズマサイトーマ増殖刺激活性、(2)イムノグロブリン産生B細胞のT細胞依存的発達活性(3)及びIL-3と共同したマウス巨核球コロニー形成の刺激活性を確認したことが記載されている(第7514頁右欄第7行〜第7515頁左欄第23行、第7515頁図4説明など)。そして、当該pC1R6導入COS-1培養上清をSDS/PAGEアッセイした結果、上記IL-11活性蛋白の分子量は20kDaと見積もられた(第7514頁左欄)。なお、刊行物1に対応する甲第1号証ではFig.3が不鮮明で20kDa付近に3つのスポットが存在するように見えるが、甲第9号証として再提出された同文献Fig.3のより鮮明なコピーによれば、強いスポットは20kDaのみであるから、上記記載は妥当であるといえる。
上記COS-1細胞培養上清中の蛋白の(1)〜(3)のIL-11活性がいずれもクリアに観察されていることからみて、通常の形質導入哺乳動物細胞での発現と同様、COS-1細胞内でプレIL-11の形で発現した後シグナルペプチドが正常に切断されて培養上清中に分泌されたことが窺われるから、上記培養上清中の蛋白質は、N末端がProであるアミノ酸番号1〜178のサルIL-11成熟蛋白であると解釈するのが自然である。当該蛋白の分子量についても、最初のSDS/PAGEアッセイの結果からは20kDaであると見積もられたものの、校正時の付記(第7516頁左欄)によれば「最初のポリアクリルアミドゲル(図3A)では、我々はCOS-1により産生されるIL-11は20kDaと見積もったが、より最近のゲルでは、見かけの分子量は23kDaにより近いことが示された。」と再度の実験結果に基づき23kDaと訂正されており、サルIL-11の分子量計算値ともほぼ一致している。
なお、たとえ両アッセイの結果の差異が対象蛋白質の差異に基づくものであり、当初の上清中の蛋白が完全な成熟体配列を有していなかったために20kDaという数値結果であったとしても、当該蛋白が高いIL-11活性を示すことは確認されているから、サルIL-11成熟体配列からさらに「一つ若しくは二つ以上の部位において、一つ若しくは二つ以上のアミノ酸残基が欠失」した配列を有する蛋白であったというだけであり、本件発明1における「同効物」の範囲を逸脱することにはならない。
そうしてみると、宿主細胞COS-1はサルの腎細胞由来であるから当然に上記COS-1細胞培養上清中には「ヒト由来の他の蛋白質」が含有されていないので、当業者が通常の精製手段を組み合わせて単離できるのであれば、サルIL-11を含有したCOS-1培養上清が取得できた刊行物1において、サルIL-11が単離された蛋白質として実質的に提供されたに等しいとみることができる。
そこで、以下、サルIL-11が当業者が蛋白質を精製する場合に通常用いている手段を組み合わせて容易に取得できるか否かについて検討する。
上述の如く刊行物1Fig.2にはプレサルIL-11の推定アミノ酸配列が記載され、シグナルペプチドの長さもほぼ正確に認識されているから、成熟体として培養上清に分泌されたサルIL-11蛋白質についておよその分子量のみならず、等電点、親水性率等の各種理化学的性質も必然的に導かれる以上、当業者であれば最適な精製手段、及びその組み合わせを容易に決めることができるものと認められる。即ち、当業者であれば、配列情報から直ちにサルIL-11の塩基性度が非常に高いという特異な理化学的性質を認識するといえるから、当該性質を利用した精製手段である陽イオン交換クロマトグラフィーを精製手段の一つとして選択し、そのうちで出願時広く精製に使用されていた典型的な陽イオン交換樹脂であるCM-トヨパールを選択することに格別の困難性は見出せない。(例えば、CM-トヨパールを塩基性の高い蛋白質の精製に使用した例として、pI11のリゾチーム(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85(24) (1988) p.9411-9415)、pI9.5〜9.8のマウスRen2プロレニン切断酵素(J. Biol. Chem. Apr 15, 265(11) (1990) p.5930-5933、pI9.2のアルカリ性プロテアーゼ(Appl. Microbiol. Biotechnol. 30(1989) p.120-124)、pI9.1のステロールキャリア蛋白質2(J. Chromatogr., 482(1) (1989) p.117-123)等知られていた。)しかも、CM-トヨパールを用いる以外の周知精製方法ではサルIL-11を単離できないことが立証されたわけでもない。
なお、特許権者は、平成11年8月30日付回答書(第7頁第7〜27行)において、5種類の陽イオン交換樹脂の試験結果に基づき、陽イオン交換樹脂による精製IL-11の回収率の悪さを論じているが、そもそも精製方法に係る発明ならともかく、蛋白質自体の発明においては目的蛋白質が化学物質として特定される程度に取得されればよく、その収量は本質的な論点ではない。そして、当該IL-11に適用した場合、回収率が低いといっても50〜20%程度の回収率で精製蛋白が取得できるのであるから、陽イオン交換樹脂による精製自体を断念させるほどの阻害要因とはいえない。
してみれば、上述したように、刊行物1には、遺伝子操作によりヒト由来の他の蛋白質を実質的に含有しないサルIL-11含有培養上清が得られたことが記載されており、当業者が通常の精製手段を適宜組み合わせることでサルIL-11を容易に単離できると認められるから、本件発明1は、刊行物1に実質的に記載された発明であるか、少なくとも周知技術を組み合わせることで刊行物1の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2-2)ヒトIL-11について:
刊行物1で用いたPU-34株は、サル骨髄細胞由来であるが、広い動物種における造血細胞と微環境との相互作用を解析するため樹立された株であり(第7512頁要約欄)、またヒト及びマウスの多能性始原細胞の培養を3週間以上維持する能力を有することが実証されている(第7513頁右欄結果の項)などと記載されているように、種を越えた普遍的機能を有するサイトカイン産生を前提として研究されている株である。そうであるから、当該株から得られるIL-11に対してもむしろ当然にヒトを含む普遍的なIL-11活性が想定されており、当該IL-11に対する表現も霊長類IL-11もしくは単にIL-11と、上位概念を用いている。そして、pC1R6をプローブとしてヒト胎児性肺繊維芽細胞株(MRC5)から得られたcDNA配列の解析に基づくヒトIL-11のコード領域(Fig.2)も極めて当該IL-11との相同性が高い(塩基配列で約97%、アミノ酸配列で94%)のであるから、同様な普遍的IL-11活性、理化学的性質、さらには類似した立体構造を有するであろうと期待することは当業者にとってむしろ当然である。
してみれば、上記ヒトプレIL-11をコードする配列を含むcDNAを、サルIL-11と同一の宿主・ベクター系を用いて発現させ、同一培養条件で培養すれば、ほぼ確実に培養上清中にIL-11活性を有するヒトIL-11成熟体として取得できるといえるものであり、さらにサルIL-11の場合と同様に周知の精製手段の組み合わせで容易に精製できるといえるから、結局、ヒトIL-11についても実質的に刊行物1に開示されているか、もしくは少なくとも周知技術を組み合わせることで刊行物1の記載に基づき当業者が容易に想到できる範囲内のものである。
(3-2-3)したがって、本件発明1は特許法第29条第1項第3号もしくは第2項の規定に該当する。

3-3.本件発明2、3について
上記3-2と同様の理由で、本件発明2及び3は、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものなので、特許法第29条第2項の規定に該当する。

3-4.本件発明4について
刊行物1には、Fig.2に記載されるサルIL-11のcDNAについて、「199アミノ酸からなるポリペプチドをコードすると予想される、597塩基の1つの長いORFが含まれていた。予想される開始コドンに続いてすぐに、17〜20の疎水性アミノ酸が存在しており、典型的なタンパク質分泌リーダー配列とよく似ている。」(第7514頁左欄)と記載され、培養上清中に成熟体として分泌されたサルIL-11の分子量が最終的には23kDaであることが記載されていることから、サルIL-11についてのほぼ正確な成熟体のコード領域は開示されていたということができる。
また、ヒトIL-11のコード領域についてもサルIL-11と同様の位置でシグナル配列が切断されると予測されるから、同程度に開示されているといえる。
本件発明4に係るDNAを特定するにあたり請求項1〜3を引用しており、本件発明4にはヒトIL-11の成熟体配列のみをコードするDNAのみならず、当該成熟体アミノ酸配列の「一つ若しくは二つ以上の部位において、一つ若しくは二つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入若しくは置換されている」配列、もしくは当該成熟体を含む配列を有するIL-11活性を有する蛋白質をコードするDNAが包含される。
そうであるから、特許権者が主張する如く、当業者であればIL-11成熟体のN末端アミノ酸をAlaと予測すること(即ち正確な配列からみてN末端に1アミノ酸分付加された配列)が自然であるとしても、当該配列を有する蛋白質は成熟蛋白のN末端にさらにAlaが挿入されたものにすぎず、当該1アミノ酸残基の挿入で直ちにIL-11活性が失われるとは考えにくい。
してみれば、上記予測配列からなるサルもしくはヒト由来の蛋白質は、サルIL-11もしくはヒトIL-11のアミノ酸配列のN末端部位において「一つ若しくは二つ以上のアミノ酸残基が挿入されている」配列を有し、かつ「IL-11活性を有する蛋白質」であるといえるので、当該蛋白質をコードするDNAについては実質的に記載されているといえる刊行物1においては、本件発明4に包含される範囲内の「IL-11活性を有する蛋白質をコードするDNA」についての十分な開示があるとするのが相当である。
したがって、本件発明4は、刊行物1に実質的に記載された発明であるか、少なくとも刊行物1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号もしくは第2項の規定に該当する。

3-5.本件発明5及び6について
上記3-4に記したのと同様の理由により、本件発明5及び6は、刊行物1に実質的に記載された発明であるか、少なくとも刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものなので、特許法第29条第1項第3号もしくは第2項の規定に該当する。

3-6.本件発明7について
DNAの5'末端に開始コドンであるATGを設けることは、当業者が適宜なしえることにすぎないから、上記3-4.に記した理由と同様の理由により、本件発明7は刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえるので、特許法第29条第2項の規定に該当する。

3-7.本件発明8について
上記3-4.に記した理由に加えて、刊行物1には発現可能なかつ複製可能なベクターとしてpXM、及びpC1R6が記載されている。
よって、本件発明8は刊行物1に実質的に記載された発明であるか、少なくとも刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものなので、特許法第29条第1項第3号もしくは第2項の規定に該当する。

3-8.本件発明9について
上記3-7.に記した理由に加えて、刊行物1には、発現ベクターpXM及びpC1R6を宿主COS-1細胞に導入したものが記載されている。
よって、本件発明9は刊行物1に実質的に記載された発明であるか、少なくとも刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものなので、特許法第29条第1項第3号もしくは第2項の規定に該当する。

3-9.本件発明10について
刊行物1においては、宿主COS-1細胞でサルIL-11を発現させて培養上清液でIL-11活性を確認しており、本件出願前の周知精製方法を用いて当該培養上清からIL-11活性を有する蛋白質を精製単離、即ち、回収することが当業者にとって容易になし得ることは上記3-1.に記したとおりである。
よって、本件発明10は、刊行物1に実質的に記載された発明であるか、少なくとも刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものなので、特許法第29条第1項第3号もしくは第2項の規定に該当する。

3-10.本件発明11について
先の取消理由で通知した刊行物2(以下、甲第2号証という。)には、上記刊行物1の記載と同様に、プレサルIL-11をコードするcDNAを含むプラスミドpC1R6を導入したCOS-1細胞を培養するとその上清中に約20kDaの分子量の蛋白質が存在し、当該蛋白質の特性として(1)プラズマサイトーマ増殖刺激活性、(2)イムノグロブリン産生B細胞のT細胞依存的発達活性、(3)IL-3と共同したマウス巨核球コロニー形成の刺激活性、が実験的に確認されたといえるから、上述の如く、甲第2号証にもサルIL-11の成熟体蛋白質については提供されているに等しいほどに具体的な開示がなされているということができる。
そして、さらに甲第2号証には、
「これらの医薬組成物は、造血細胞数の減少または造血細胞の活性の減少を特徴とする疾患症状の処置方法において、単独または他の適当な薬剤と組み合わせた形で使用することができる。(第7頁1〜5行)」
「IL-11含有組成物は、IL-3と共同した状態で巨核球の成長及び分化を刺激するのに使用することができる。さらに用途として、血小板形成、後天的な化学療法、または骨髄関連血小板減少症がある。(第7頁9〜13行)」
などとも記載されており、IL-11に対して造血細胞減少症、特に血小板減少症を改善するための医薬組成物としての医薬用途が存在することは明確に認識され記載されている。そして、上述の如く培養上清を用いた細胞レベルの実験ではあるが、サルIL-11のプラズマサイトーマ、B細胞、巨核球に対する増殖もしくは刺激活性が実験的に裏付けられているのであるから、甲第2号証中には少なくともサルIL-11に対する「血球減少症改善剤」についての発明は具体的に開示されているとするべきである。
してみれば、本件発明11は、甲第2号証を優先権の基礎とする特願平3-500597号(甲第3号証参照)の出願当初の明細書及び図面(以下、先願明細書という。)に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本件発明の発明者が先願明細書に係る発明の発明者と同一であるとも、また本件の出願の時に、その出願人が他の出願である前記先願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定に該当するので、取り消されるべきものである。

甲第2号証(刊行物2):米国特許出願526474号明細書
甲第3号証(刊行物3):特許第2688539号公報(特願平3-500597号、1989年11月22日優先日)

4.特許異議の申立について
4-1.申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、
甲第1号証(上記刊行物1に対応。)
甲第2号証(米国特許出願526474号明細書、刊行物2)
甲第3号証(特許第2688539号公報、刊行物3)
甲第4号証(Lymphokine Res., vol.9, no.4(1990) p.601)
甲第5号証(Nature, vol.339, (1989) p.61-64)
甲第6号証(Nature, vol.340, (1989) p.642-645)
甲第7号証(Cell, vol.47 (1986) p.3-10)
甲第8号証(国際公開第91/07495号パンフレット)
を提出し、本件発明1乃至12の特許は取り消されるべきである旨を主張する。このうち、本件発明1乃至11の特許については、上記「3.本件発明と刊行物1の対比・判断」の項に記した理由により取り消されるべきものであるから、残る本件発明12対する申立理由についてのみ検討する。
本件発明12について、申立人は、「本件特許明細書には、組換えヒトIL-11を抗肥満剤として用いることを支持するに足る記載が存在せず、当業者が明細書の記載から、本件発明12を実施することができない。よって、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件発明12の特許は取り消されるべきである。」旨を主張する。

4-2.申立理由に対する検討
本件特許明細書には、実施例9(【0096】及び【0097】表5)として、ヒトIL-11を含むCOS-1細胞培養上清がマウス骨髄前脂肪細胞株H-1/Aに対する脂肪細胞化抑制効果を確認し、実施例11(【0100】及び【0101】表8)として、同培養上清が脂肪細胞の分化誘導されたH-1/A細胞に対してもLPL活性(脂肪細胞への形態変化抑制活性)を低下させることを確認する具体的な実施例が記載されている。
上記各実施例により裏付けられた脂肪細胞化抑制効果及びLPL活性の低下効果は、組換えヒトIL-11を抗肥満剤として用いることを支持するに足る記載であるといえるから、本件発明12に対する申立人の主張を採用することはできない。

5.むすび
以上のとおり、本件発明1〜10は少なくとも当業者が刊行物1に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件発明11は、特願平3-500597号の当初明細書に記載された発明と実質的に同一であるから、本件発明11に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜11に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、申立人の主張する理由によっては、本件発明12に係る特許を取り消すことができず、また、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-06-22 
出願番号 特願平3-290121
審決分類 P 1 651・ 16- ZC (C12N)
P 1 651・ 113- ZC (C12N)
P 1 651・ 121- ZC (C12N)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 鵜飼 健高堀 栄二  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 佐伯 裕子
田村 明照
登録日 1998-02-27 
登録番号 特許第2752819号(P2752819)
権利者 三共株式会社
発明の名称 新規サイトカイン  
代理人 矢野 恵美子  
代理人 長井 省三  
代理人 室伏 良信  
代理人 森田 拓  
代理人 大野 彰夫  
代理人 中田 ▲泰▼雄  

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