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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  D21H
管理番号 1089894
異議申立番号 異議2001-72784  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-05 
確定日 2003-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3155145号「難燃性シート」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3155145号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許3155145号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成6年4月4日に特許出願され、平成13年2月2日にその特許の設定登録がなされ、その後、西田実より特許異議の申立てがなされ、平成14年9月18日付で取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年11月26日に意見書の提出と共に訂正請求がなされ、この訂正請求に対して訂正拒絶理由通知がなされ、平成15年4月22日付で、意見書が提出されたものである。
II.訂正の適否について
平成14年11月26日付けの訂正請求は、特許請求の範囲の記載の【請求項1】〜【請求項6】を「【請求項1】パルプと板状粒子からなるブルーサイトを主材として含み、セピオライト及び補強繊維を必須成分とし、かつ、高分子化合物からなり、全体に対して5重量%までの割合でバインダを添加したスラリーを抄造してなることを特徴とする難燃性シート。
【請求項2】パルプ紙の少なくとも一方の表面に、板状粒子からなるブルーサイトの被覆を形成したことを特徴とする難燃性シート。
【請求項3】前記被覆は、バインダを含むこと特徴とする請求項2に記載の難燃性シート。」と訂正することを請求している。
願書に添付された明細書(段落0016)には、「難燃性シート」における割合として、「難燃性シートにおいて一般に5重量%までの割合で含まれるように調整される。」と記載されるにすぎず、高分子化合物からなるバインダのスラリーへの添加量について、「全体に対して5重量%まで」を上限とすることは、願書に添付された明細書には何も記載されていない。
そうすると、スラリーへの添加量について、高分子化合物からなるバインダを全体に対して5重量%までの割合と特定することは、願書に添付された明細書に記載されていないし、また、該記載から導かれる事項であるとも認められないから、請求項1における「高分子化合物からなり、全体に対して5重量%までの割合でバインダを添加したスラリー」の訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものとは、認められない。
よって、本件訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合していないので、当該訂正請求は認められない。
特許権者は、意見書において、請求項1の記載は、「パルプと板状粒子からなるブルーサイトを主材として含み、セピオライト及び補強繊維を必須成分とし、かつ、高分子化合物からなり、全体に対して5重量%までの割合でバインダを添加した・・・・ことを特徴とする難燃性シート」で、それを「スラリー」とし、「抄造」してなると特定したものであり、「全体に対して5重量%までの割合でバインダ」とは、「パルプ、ブルーサイト、セピオライト、補強繊維及びバインダに対して当該バインダが全体に対して5重量%の割合であること」を記載したものである旨主張しているが、「高分子化合物からなり、全体に対して5重量%までの割合でバインダを添加したスラリー」を文言通りに読めば、「スラリー」について規定したものと解するのが相当と認められる。
また、請求項1の難燃性シートは、「主材として含み」、「必須成分とし」と記載していることからみても、特許権者の主張のように難燃性シート「全体」を「パルプ、板状粒子からなるブルーサイト、セピオライト、補強繊維及び高分子化合物からなるバインダ」からなると解釈することには、根拠がないと認められる。
したがって、特許権者の主張は採用することができない。
III.特許異議申し立てについての判断
1.本件発明
本件請求項1〜4に係る発明は、特許明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 パルプと板状粒子からなるブルーサイトを主材として含むスラリーを抄造してなることを特徴とする難燃性シート。
【請求項2】 前記スラリーに、高分子化合物からなるバインダを更に添加したことを特徴とする請求項1に記載の難燃性シート。
【請求項3】 前記スラリーに、セピオライトを必須成分として追加したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃性シート。
【請求項4】 前記スラリーに、補強繊維を必須成分として追加したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の難燃性シート。」
2.取消理由の概要
平成14年9月18日付で当審が通知した取消理由の概要は、請求項1〜4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物a(特開平5-279991号公報)及び刊行物b(特開昭61-28081号公報)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3.刊行物の記載
(1)刊行物aには、難燃性シートに関して、次の記載がなされている。
a-1「【請求項1】 主材としての繊維状の水酸化マグネシウム及び木材パルプを必須成分としたスラリーを抄造してなることを特徴とする難燃性シート。
【請求項2】 主材としての繊維状の水酸化マグネシウム及び木材パルプと、バインダーとを必須成分としたスラリーを抄造してなることを特徴とする難燃性シート。
【請求項3】 主材としての繊維状の水酸化マグネシウム及び木材パルプと、バインダーと、補強材としての前記水酸化マグネシウム以外の無機繊維及び/または合成繊維とを必須成分としたスラリーを抄造してなることを特徴とする難燃性シート。」(特許請求の範囲、請求項1〜3)
a-2「本実施例の難燃性シートは主材として天然の繊維状の水酸化マグネシウム(鉱物名BRUCITE)及び木材パルプを用いた。」(段落【0013】)
a-3「また、水酸化マグネシウムは粉状体または板状体の場合には、抄紙困難であるため、本実施例の如く、繊維状のものとするのが良い。」(段落【0025】)
a-4「また、本発明を実施する場合には、主材としての繊維状の水酸化マグネシウム及び木材パルプと、バインダーとを必須成分としてなるスラリーに、水酸化マグネシウム以外の各種無機繊維及び/または合成繊維を加えることにより、難燃性シートの強度物性を一層向上させることができる。例えば、マウンテンレザーなどと称せられるセピオライトは吸着性、揺変性、固結性を有する粘土鉱物であり、これを加えることによって、前記諸特性をシートに付与することができる。」(段落【0031】)
(2)刊行物bには、難燃性複合シートに関して、次の記載がなされている。
b-1「繊維と無機質粉体とバインダーとから形成されてなるシートにおいて、(a)繊維がシート中に7〜40重量%、(b)無機質粉体として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムの中から選ばれる1種又は2種以上がシート中に40〜90重量%、(c)バインダーとして、塩素含量が30〜65重量%であり、かつ、対定着安定度が20〜100に調整されアニオン性合成樹脂ラテックスの樹脂固形分がシート中に3〜20重量%、の各構成材からなることを特徴とする複合シート。」(特許請求の範囲第1項)
b-2「水酸化アルミニウムの如き無機質粉体はシート中に定着させて高い歩留りを獲得することが非常に難しく、抄紙によってシートを形成させる場合には、ワイヤーパートから逃げる無機質粉体を予め増量仕込みし、かつ、白水をリサイクルする操作が必要であったが、それでも操作できる無機質粉体の量は乾燥シート中に40〜50重量%までであった。難燃性に着目しなければ、繊維と無機質粉体とバインダーから形成されてなる複合シートに関する検討は多く進められ来ており、・・・・無機質粉体の高歩留りを達成する手段として、バインダーのpH調整や結合電荷量調整を行うことやカチオン性のバインダーを用いることが提案されている。」(第2頁右上欄第3〜19行)
b-3「本発明で述べる繊維とは、天然パルプや合成、半合成、再生繊維及びガラス繊維を云う。・・・・強い紙力を持たせるためには、繊維の1〜80重量%を合成、半合成、再生繊維及びガラス繊維の中から選ばれた1種または2種以上の繊維とすることが好ましい。」(第3頁左下欄第2〜14行)
b-4「本発明で述べる無機質粉体とは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムを云い、該無機質粉体は本発明の複合シートに優れた難燃性を付与する。該無機質粉体は、歩留り率やシートの地合、紙力、難燃性の点から平均粒径が1〜25μであることが好ましい。・・・・平均粒径が1μに満たない無機質粉体はシート形成時に抄紙機ワイヤーから逃げ易く、本発明のバインダーを用いても十分な歩留り率を得ることが難しい。25μを超える場合はシート中での分散が悪くシート表面がザラザラした粗面になり、十分な難燃性、紙力、地合、サイズ度が達成されない。無機質粉体は針状、板状、球状、多面体状、六角柱状等何れの形状でも構わないし、・・・・本発明の無機質粉体の平均粒径は3〜20μが最も好ましい。」(第3頁左下欄下から第4行〜右下欄下から第4行)
b-5「複合シートの無機質粉体の量が40重量%に達しないと十分な難燃性能を得ることができないし、90重量%を超えると実用的に十分な地合、紙力が得られない。・・・・本発明の無機質粉の一部に代えてタルク、クレー、炭酸カルシウム等の無機質粉体を使用しても構わない」(第5頁左上欄第11〜19行)
b-6「(ロ)シート作成
方法(1):熊谷理機工業(株)製角型シートマシンを使用した。・・・・繊維・無機質粉体・バインダー(合成樹脂ラテックス)・その他の添加剤の順に各紙料を添加し、最後に抄紙用液体硫酸アルミニウム(濃度:アルミナ換算7%)を添加して定着させた。」(第5頁右下欄第4〜10行)
b-7「方法(2):(株)芙蓉機繊製作所製長網抄紙機(51cm幅)を使用し、抄速22〜27m/分にて抄造した。紙料の添加順序は方法(1)と同様にし、定着時のスラリーの繊維濃度を1.5重量%、抄紙時の繊維濃度を0.5重量%として70メッシュ・ワイヤーにて抄紙した。」(第5頁左下欄末行〜第6頁左上欄第5行)
b-8 実施例2では、シートの仕込み組成の成分として、乾燥重量%で、繊維(NBKP:フリーネス450)25重量%、無機質粉体85重量%(内訳:水酸化アルミニウム:昭和軽金属「ハイジライトH-31」平均粒径17μ、50%、水酸化マグネシウム:旭化成工業「S-35」平均粒径3μ、50%)、バインダー(塩化ビニルデン・アクリル酸エステル系樹脂ラテックス)9.5重量%、紙力増強剤(播磨化成工業「ハーマイドPY-550」)0.4重量%、歩留り向上剤(栗田工業「ハイホルダー102」)0.1重量%を用い、上記100重量部に対して硫酸アルミニウムを18水塩として3.5重量部添加して、方法(2)で複合シートを調製したこと(第7頁左上欄第3行〜右上欄第9行、第9頁表2参照)
4.判断
(本件請求項1に係る発明について)
本件請求項1に係る発明と刊行物aの請求項1に係る発明を対比すると、前者における「ブルーサイト」は天然鉱物であって、その化学組成が水酸化マグネシウムであることは当業者に周知であること、後者の「繊維状の水酸化マグネシウム」としては、「天然の繊維状の水酸化マグネシウム(鉱物名BRUCITE)」を用いる(上記摘示記載a-2)ことから、水酸化マグネシウムとして、天然鉱物のブルーサイトを用いる点で両者は共通している。
よって、両者は、「木材パルプ及び水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイトを主材としたスラリーを抄造してなる難燃性シート」で一致するが、ブルーサイトについて、本件請求項1に係る発明では、「板状粒子の」と特定されているのに対して、刊行物aの請求項1に係る発明では、「繊維状の」と特定されている点でのみ相違する。
上記相違点を検討すると、刊行物aでは、水酸化マグネシウムは粉状体または板状体の場合は、抄紙が困難であると記載(上記摘示記載a-3)しているが、刊行物bの記載(上記摘示記載b-1〜b-8参照)によれば、難燃性シートの抄造においては、無機質粉体としては、針状、板状、等何れの形状でも構わずに、使用できることが記載されているから、この記載を考慮すれば、刊行物aの請求項1に係る発明における「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイト」に、板状粒子のものを用いても、抄造によりシートとすることができることは当業者が容易に予測できたことと認められる。
したがって、刊行物aの請求項1に係る発明における「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイト」に「板状粒子の」ものを選定することは、刊行物a及び刊行物bに記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たことと認められる。
(請求項2に係る発明について)
刊行物aの請求項2に係る発明における「バインダー」が高分子化合物であることは当業者に自明のことであるから、本件請求項2に係る発明と刊行物aの請求項2に係る発明とを対比すると、両者は、「木材パルプ、水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイトを主材としたスラリーに、高分子化合物のバインダーを添加したスラリーを抄造してなる難燃性シート」で一致するが、本件請求項1を引用して限定している本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明と同様に、「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイト」について、「板状粒子の」と特定されているのに対して、刊行物aの請求項2に係る発明では、「繊維状の」と特定されている点でのみ相違する。
そして、該相違点について検討すると、本件請求項1に係る発明で述べた理由と同様の理由により、刊行物aの請求項2に係る発明の難燃性シートにおいて、「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイト」に「板状粒子の」ものを選定することは、刊行物a及び刊行物bに記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たことと認められる。
(請求項3に係る発明について)
刊行物aの請求項1に係る発明の難燃性シートは、その成分にセピオライトを成分として加えることを記載(上記摘示記載a-4)しているから、本件請求項3に係る発明と刊行物aの請求項1に係る発明を対比すると、両者は、「木材パルプ、水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイトを主材としたスラリーに、セピオライトを添加したスラリーを抄造してなる難燃性シート」で一致するが、本件請求項1を引用して限定している本件請求項3に係る発明は、本件請求項1に係る発明と同様に、「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイト」について、「板状粒子の」と特定されているのに対して、刊行物aの請求項1に係る発明では、「繊維状の」と特定されている点でのみ相違する。
そして、該相違点について検討すると、本件請求項1に係る発明で述べた理由と同様の理由により、刊行物aの請求項1に係る発明の難燃性シートにおいて、「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイト」に「板状粒子の」ものを選定することは、刊行物a及び刊行物bに記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たことと認められる。
(請求項4に係る発明について)
本件請求項4に係る発明と刊行物aの請求項3に係る発明とを対比すると、刊行物aの請求項3に係る発明における「補強材としての前記水酸化マグネシウム以外の無機繊維及び/または合成繊維」は、本件請求項4に係る発明における補強繊維に対応するから、両者は、「木材パルプ、水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイトを主材としたスラリーに、補強繊維を添加したスラリーを抄造してなる難燃性シート」で一致するが、本件請求項1を引用して限定している本件請求項4に係る発明は、本件請求項1に係る発明で述べたと同様に、「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物ブルーサイト」について、「板状粒子の」と特定されているのに対して、刊行物aの請求項3に係る発明では、「繊維状の」と特定されている点でのみ相違する。
そして、該相違点について検討すると、本件請求項1に係る発明で述べた理由と同様の理由により、刊行物aの請求項3に係る発明の難燃性シートにおいて、「水酸化マグネシウムとしての天然鉱物のブルーサイト」に「板状粒子の」ものを選定することは、刊行物a及び刊行物bに記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たことと認められる。
IV.まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-10-10 
出願番号 特願平6-66271
審決分類 P 1 652・ 121- ZB (D21H)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 克彦
鴨野 研一
登録日 2001-02-02 
登録番号 特許第3155145号(P3155145)
権利者 株式会社常盤電機
発明の名称 難燃性シート  
代理人 樋口 武尚  
代理人 武石 靖彦  
代理人 村田 紀子  
代理人 吉崎 修司  

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