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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1089914
異議申立番号 異議2002-70801  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-03-29 
確定日 2004-01-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3214690号「新規な過炭酸ナトリウムおよび該化合物の製造方法」の請求項1〜8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3214690号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯、本件発明
本件特許第3214690号(請求項の数25)は、平成9年3月19日(パリ条約による優先権主張:平成8年3月19日、仏国)に特許出願され、平成13年7月27日に特許の設定登録がなされ、その後、三菱瓦斯化学株式会社より、その特許の一部につき特許異議の申立がなされ、これに基づき取消理由が通知されたところ、権利者より特許異議意見書が提出されたものである。
本件請求項1〜8に係る発明(以下、必要に応じて、「本件発明1」〜「本件発明8」という)は、特許査定時の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】過炭酸ナトリウムの微小結晶凝集体からなる過炭酸ナトリウムであって、
a)微小結晶の粒径は1〜100μmであり、
b)該凝集体の粒径は160〜1400μmであり、その平均粒径が600μmより大きく、
c)該凝集体の見かけ密度が0.75g/cm3〜1.1g/cm3であり、かつ
d)活性酸素含有率が14%より高いことを特徴とする過炭酸ナトリウム。
【請求項2】微小結晶の粒径が5〜20μmであることを特徴とする請求項1に記載の過炭酸ナトリウム。
【請求項3】凝集体の平均粒径が700μmを上回ることを特徴とする請求項1に記載の過炭酸ナトリウム。
【請求項4】凝集体とともに存在する160μm未満の粒径の微粉の重量含有率が2%未満であることを特徴とする請求項1に記載の過炭酸ナトリウム。
【請求項5】凝集体とともに存在する160μm未満の粒径の微粉の重量含有率が1%未満であることを特徴とする請求項1に記載の過炭酸ナトリウム。
【請求項6】15℃の水1リットルに前記凝集体2gのうちの90%を溶解させるのに要する時間が90秒未満である請求項1に記載の過炭酸ナトリウム。
【請求項7】15℃の水1リットルに前記凝集体2gのうちの90%を溶解させるのに要する時間が40〜70秒である請求項6に記載の過炭酸ナトリウム。
【請求項8】ISO規格5937の磨耗試験による微粉損失が1%未満である請求項1〜7のいずれか1項に記載の過炭酸ナトリウム。

II.特許異議申立の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1号各証を引用したうえで、(1)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、本件発明2〜8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり〔理由1〕、
(2)本件特許1〜8は、特許法第36条第6項第2号及び第3号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり〔理由2〕、
したがって、これらの特許は取り消されるべきである旨、主張する。
甲第1号証:特開昭57-71631号公報

III.証拠の記載
III-1.甲第1号証(特開昭57-71631号公報)には、過炭酸ソーダの造粒機及び造粒方法に関し、以下のことが記載されている。
(A-1)「容器内に互にかみ合って回転する二本のスクリューが並設されており、該容器の一端には上方に開口する材料投入口が、他端には下方に開口する吐出口がそれぞれ設けられ、容器上面には押え蓋を設けた押え蓋形式の混練捏和造粒機であって、該造粒機はフィード域、混練捏和域及び解砕域とからなり、前記フィード域は二本のスクリュー共に順送りのスクリューブレードが形成され、前記混練捏和域は、一方のスクリューが逆送りのスクリューブレードに、対応する他方は順送りのスクリューブレードにそれぞれ形成されており、かつ逆送りのスクリューブレードは一部欠損したスクリューブレードとされ、これらが交互になる居く少なくとも二箇所設けられた前半部と、二本のスクリュー共に逆送りのスクリューブレードとされた後半部とからなり、前記解砕域は相方共にスクリュー軸に複数本の突起状の解砕歯が設けられており、容器の押え蓋は前記フィード域及び混練捏和域の前記の前半部に相当する部位は固定蓋であり、混練捏和域の前記の後半部に相当する部位は上下に可動可能な押え蓋が取付けられており、前記解砕域は開放された構造からなる造粒機を使用し、該造粒域の前記材料投入口より過炭酸ソーダ粉、添加剤及び水を供給し、混練捏和造粒させ、吐出口より排出された造粒物を次いで高速回転するナイフカッターを備えた整粒機により整粒することを特徴とする過炭酸ソーダの造粒方法。」(特許請求の範囲第2項)
(A-2)「本発明は、・・・、特に粉体状の過炭酸ソーダを顆粒状に造粒するに好適な造粒機に係る。」(第2頁右上欄第1〜4行)
(A-3)「本発明の造粒機は、・・・、得られる粒子の粒度、硬さ、嵩比重及び水に対する溶解速度等いずれにも十分に満足できる顆粒状過炭酸ソーダを製造する造粒機及び造粒方法を提供するものである。」(第2頁右下欄第1〜7行)
(A-4)「解砕域に送り出される造粒物は、通常、若干凝集しており、また若干チキソトロピー性を有している。該解砕域では凝集物を解砕すると同時にチキソトロピー性の解放がなされるが、この目的を十分に達成するには、該解砕域において造粒物を一定時間滞留させ一種の攪拌が行なわれるようにすることが望ましい。」(第3頁左下欄第17行〜右下欄第3行)
(A-5)「ナイフカッター数が同じ場合、回転数が速く前記円筒状の容器の長さが長い程平均粒径は小さくなる。たとえば円筒状容器の長さが25mmでナイフカッターの数が8枚で、回転数が4000r.p.mの場合には得られる粒子の平均径は610μであり、円筒状容器の長さが150mmのときは、得られる平均粒径は430μである。」(第4欄右上欄第19行〜左下欄第6行)
(A-6)「本発明の方法により得られる造粒された製品の諸物性のうち、粒子の嵩比重、硬さ、溶解速度などは主として造粒機において造粒される際の混練、捏和の状態が影響し、粒度は整粒機の条件により決まる。」(第4頁左下欄第13〜17行)
(A-7)「実施例
図に示したと同様の構造からなる混練、捏和造粒機を用いた。粒度50〜100μ、含水量8〜10%の原料過炭酸ソーダを材料投入口7より20kg/hr.、添加剤としてメタケイ酸ソーダ15%溶液(バインダー水)2l/hr.を供給した。スクリューの回転速度・・・混練捏和造粒を行なった。・・・運転開始1時間後から安定した造粒物が得られた。次いで得られた造粒物を4000r.p.mで回転するナイフカッターを備えた円筒の長さ150mmの整粒機により整粒したのち、乾燥し、製品を得た。製品の諸物性は下記の通りであった。
粒 度:20メッシュonが10%、20〜80メッシュが80%、80メッシュパスが10%
粒 径:450μ
溶解速度:1分で50%、2分で80%、5分で100%
嵩比重:0.75」旨(第4頁左下欄下から第2行〜第5頁左上欄末行の抜粋)

IV.当審の判断
IV-1.理由1(特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項)
IV-1-1.本件発明1
甲第1号証には、その前記(A-2)及び(A-7)により、「粉体状の過炭酸ソーダを顆粒状に造粒した造粒物である過炭酸ソーダであって、
(イ)該粉末の粒径が、50〜100μであり、
(ロ)該造粒物の粒度が、20メッシュon10%、20〜80メッシュ80%、メッシュパス10%、かつ、粒径450μであり、
(ハ)該造粒物の見掛け密度が、0.75である、過炭酸ソーダ」に関する発明が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比する。
上記過炭酸ソーダと過炭酸ナトリウムとは同一の化合物であることは明らかである。
次に、甲第1号証の発明の造粒物は、粉体状の過炭酸ソーダから造粒されたものであることからみると、本件発明1の「凝集体」に相当するといえる。
次いで、甲第1号証の発明の粉末の粒径50〜100μは本件発明1の微細結晶の粒径の数値範囲に含まれ、また、甲第1号証の発明の造粒物の見掛け密度0.75は本件発明1の凝集体の見掛け密度の数値範囲に含まれる。
そして、本件発明1の微小結晶と甲第1号証の発明の粉末は、共に、微小物であるといえる。
よって、両者は、
「過炭酸ナトリウムの微小物の凝集体からなる過炭酸ナトリウムであって、
a)該微小物の粒径は1〜100μmであり、
c)該凝集体の見かけ密度が0.75g/cm3〜1.1g/cm3、である過炭酸ナトリウム」という点で一致するが、以下の点で、両者は相違する。
【相違点1】当該凝集体の微小物が、本件発明1では「微小結晶」であるとするのに対し、甲第1号証の発明では、粉末として示されるに過ぎず、当該特定事項を具備しない点
【相違点2】当該凝集体の粒径が、本件発明1では「160〜1400μm」であるとするのに対し、甲第1号証の発明では、その造粒物の80%が20〜80メッシュ(タイラーメッシュに当てはめると、その造粒物の80%が約175μm〜833μmの粒径を持つことが解る)であるものの、当該造粒物の残余の粒径が特定できず、当該特定事項を具備しない点、
【相違点3】当該凝集体の平均粒径が、本件発明1では「600μmより大きい」とするのに対し、甲第1号証の発明では、その造粒物は450μであり、当該特定事項を具備しない点
【相違点4】過炭酸ナトリウムの微小物の集合体からなる過炭酸ナトリウムにつき、その活性酸素含有率が、本件発明1では「14%より高い」とするのに対し、甲第1号証の発明では、活性酸素含有率が具体的に示されておらず、当該特定事項を具備しない点
以下、上記相違点につき、検討する。
【相違点1】について
本件明細書の記載(特に、段落0003、0004及び0039〜0060の記載)によれば、本件発明1は、過炭酸ナトリウムにおいて、その凝集体を構成する微小物が、「微小結晶」である、すなわち、「微小結晶凝集体」であるとの特定事項を具備することにより、その余の特定事項である、当該微小結晶の粒径、当該凝集体の粒径、当該凝集体の見掛け密度、及び、活性酸素含有率に関する事項と一体となって、耐摩耗性及び溶解性に優れた過炭酸ナトリウムを提供できたというものである。
これに対して、その微小物については、甲第1号証の発明では、前記したとおり、粉末として示されるだけであって、その材質につき教示されるものが何もないものである。
してみれば、甲第1号証の発明において、その粉末を、上記意義を有するところの「微小結晶」にすることは当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
そうすると、他の相違点2〜4につき検討するまでもなく、本件発明1は、過炭酸ナトリウムの凝集体が「微小結晶」で構成される点で、甲第1号証に記載された発明であるということはできず、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
IV-1-2.本件発明2〜8
本件発明2〜8は、本件発明1を引用するものであり、したがって、上記IV-1-1.で説示した理由と同様な理由により、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

IV-2.理由2(特許法第36条第6項)
ここでの特許異議申立人の主張は、(イ)本件発明1において、微小結晶の粒径を1〜100μに規定したところの技術的理由が本件明細書に記載されておらず、(ロ)本件発明1は甲第1号証に記載されているとの仮定の下に、本件発明1はその発明を特定するに必要な製造方法を規定しておらず、
したがって、本件特許は特許法第36条第6項第2号及び第3号の規定を満たしていないとするものであるので、以下に検討する。
上記(イ)について
微小結晶の粒径の技術的理由は本件明細書の段落0003〜0005に記載されるものである。しかも、当該微小結晶の粒径に関する特定事項が、不明瞭である、ないしは、本件請求項1の記載が簡潔でないといえるものでもない。
上記(ロ)について
本件発明1は甲第1号証に記載されたものではなく、このことは上記IV-1-1.で説示したとおりであり、その仮定自体が成り立たないものであり、しかも、本件発明1の特定事項は不明瞭である、ないしは、本件請求項1の記載が簡潔でないといえるものでもない。
してみれば、本件発明1及びこれを引用する本件発明2〜8の特許は、特許法第36条第6項の規定の要件を満たしていない出願に対してなされたものであるとはいえない。

V. まとめ
以上のとおりであり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1〜8に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1〜8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-12-18 
出願番号 特願平9-66275
審決分類 P 1 652・ 537- Y (C01B)
P 1 652・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大工原 大二  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 山田 充
野田 直人
登録日 2001-07-27 
登録番号 特許第3214690号(P3214690)
権利者 ソルベイ(ソシエテ アノニム)
発明の名称 新規な過炭酸ナトリウムおよび該化合物の製造方法  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 一入 章夫  
代理人 相馬 貴昌  
代理人 大谷 保  
代理人 川口 義雄  

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