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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C07C 審判 一部申し立て 2項進歩性 C07C |
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管理番号 | 1089922 |
異議申立番号 | 異議2002-72883 |
総通号数 | 50 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-08-04 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-12-02 |
確定日 | 2003-12-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3287288号「ポリハロアルキルエーテル誘導体とそれらを含む液晶組成物及び液晶表示素子」の請求項1ないし4、7ないし10、12ないし19に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3287288号の請求項1ないし4、7ないし10、12ないし19に係る特許を維持する。 |
理由 |
(1)手続の経緯 特許第3287288号の請求項1〜4,7〜10,12〜19に係る発明は、平成9年10月15日(優先権主張平成8年11月22日)に特許出願され、平成14年3月15日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、セイミケミカル株式会社及び旭硝子株式会社により特許異議の申立てがなされたものである。 (2)本件発明 本件の請求項1〜4,7〜10,12〜19に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜4,7〜10,12〜19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 一般式(1) 【化1】 で示される化合物。(式中、R1は炭素数1〜20のアルキル基を示し、基中の1つ以上のメチレン基は酸素原子、-NR-(RはHまたはCH3)または-CH=CH-で置換されてもよく、該基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子または塩素原子で置換されてもよいが、2つ以上のメチレン基が連続して酸素原子に置換されることはなく、Y1はハロゲン原子、CN、CF3、CHF2あるいは基中の1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換され、さらに1つ以上の水素原子が塩素原子で置換されてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基を示し、Z1、Z2及びZ3は互いに独立して共有結合、-CH2CH2-、-CH=CH-、または-CF2O-を示し、環A1、A2およびA3は互いに独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン、3-シクロヘキセン-1,4-イレン、3-フルオロ-3-シクロヘキセン-1,4-イレン、ピリミジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、トランス-1-シラ-1,4-シクロヘキシレン、トランス-4-シラ-1,4-シクロヘキシレンまたは1つ以上の水素原子がフッ素原子または塩素原子で置換されてもよい1,4-フェニレンを示し、環A4は1つ以上の水素原子がフッ素原子または塩素原子で置換されていてもよい1,4-フェニレンを示し、m及びnは0または1を示し、ただし、Z1、Z2およびはZ3のうち、少なくとも1つは-CF2O-であり、また、-CF2O-の炭素原子と直結する環A1、A2あるいはA3はトランス-1,4-シクロヘキシレン、3-シクロヘキセン-1,4-イレンまたは3-フルオロ-3-シクロヘキセン-1,4-イレンから選択される基である。) 【請求項2】 一般式(1)においてm=n=0であり、Z1が-CF2O-であり、環A1がトランス-1,4-シクロヘキシレン、3-シクロヘキセン-1,4-イレンあるいは3-フルオロ-3-シクロヘキセン-1,4-イレンのいずれかであり、環A4が水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい1,4-フェニレンである請求項1に記載の化合物。 【請求項3】 一般式(1)においてm=n=0であり、Z1が-CF2O-であり、環A1がトランス-1,4-シクロヘキシレン、環A4が水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい1,4-フェニレンである請求項1に記載の化合物。 【請求項4】 一般式(1)においてm=1、n=0であり、且つZ1が-CF2O-であり、A1あるいはA2の少なくとも一方がトランス-1,4-シクロヘキシレンである請求項1に記載の化合物。 【請求項7】 一般式(1)においてm=1、n=0であり、且つZ2が-CF2O-であり、環A1がトランス-1,4-シクロヘキシレン、環A2がトランス-1,4-シクロヘキシレン、3-シクロヘキセン-1,4-イレンあるいは3-フルオロ-3-シクロヘキセン-1,4-イレンのいずれかであり、環A4が1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい1,4-フェニレンである請求項1に記載の化合物。 【請求項8】 環A2がトランス-1,4-シクロヘキシレン、Z1が共有結合である請求項7に記載の化合物。 【請求項9】 一般式(1)においてm=n=1であり、且つZ2が-CF2O-であり、環A1がトランス-1,4-シクロヘキシレン、環A2がトランス-1,4-シクロヘキシレン、3-シクロヘキセン-1,4-イレンあるいは3-フルオロ-3-シクロヘキセン-1,4-イレンのいずれかであり、環A3および環A4が共に1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい1,4-フェニレンである請求項1に記載の化合物。 【請求項10】 環A2がトランス-1,4-シクロヘキシレン、Z3が共有結合である請求項9に記載の化合物。 【請求項12】 一般式(1)で表される請求項1に記載の液晶性化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする、少なくとも2成分からなる液晶組成物。 【請求項13】 第一成分として請求項1に記載の液晶性化合物を少なくとも1種類含有し、第二成分として、一般式(2)、(3)及び(4)からなる化合物群から選択される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする液晶組成物。 【化2】 (式中、R2は炭素数1〜10のアルキル基を示す。基中の隣り合わない任意のメチレン基は、酸素原子または-CH=CH-で置換されてもよい。また基中の任意の水素原子はフッ素原子で置換されてもよい。Y2はフッ素原子、塩素原子、OCF3、OCF2H、CF3、CF2H、CFH2、OCF2CF2HまたはOCF2CFHCF3を示し、L1及びL2は互いに独立して水素原子またはフッ素原子を示し、Z4及びZ5は互いに独立して-CH2CH2-、-CH=CH-、1,4-ブチレン基、-COO-、-CF2O-、-OCF2-または共有結合を示し、環Bはトランス-1,4-シクロへキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、または水素原子がフッ素原子に置換されてもよい1,4-フェニレンを示し、環Cはトランス-1,4-シクロへキシレン、または水素原子がフッ素原子に置換されてもよい1,4-フェニレンを示す。また、各々の式中で使用されている各原子は、同位体で置換されていてもよい。) 【請求項14】 第一成分として請求項1に記載の液晶性化合物を少なくとも1種類含有し、第二成分として、一般式(5)及び(6)からなる化合物群から選択される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする液晶組成物。 【化3】 (式中、R3及びR4は互いに独立して炭素数1〜10のアルキル基を示す。基中の隣り合わない任意のメチレン基は酸素原子または-CH=CH-で置換されていてもよい。また基中の任意の水素原子はフッ素原子で置換されてもよい。Y3は、CN基またはC≡C-CNを示し、環Dはトランス-1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイルまたは1,3-ジオキサン-2,5-ジイルを示し、環Eはトランス-1,4-シクロへキシレン、水素原子がフッ素原子に置換されてもよい1,4-フェニレン、またはピリミジン-2,5-ジイルを示し、環Fはトランス-1,4-シクロへキシレンまたは1,4-フェニレンを示し、Z6は-CH2CH2-、-COO-または共有結合を示し、L3、L4及びL5は互いに独立して水素原子またはフッ素原子を示し、a、b及びcは互いに独立して0または1を示す。また、各々の式中で使用されている各原子は、同位体で置換されていてもよい。) 【請求項15】 第一成分として、請求項1に記載の液晶性化合物を少なくとも1種類含有し、第二成分として、一般式(7)、(8)及び(9)からなる群から選択される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする液晶組成物。 【化4】 (式中、R5及びR6は互いに独立して炭素数1〜10のアルキル基を示す。基中の隣合わない任意のメチレン基は酸素原子または-CH=CH-で置換されてもよい。また、基中の任意の水素原子はフッ素原子で置換されてもよい。環G、環I及び環Jは互いに独立して、トランス-1,4-シクロヘキシレン、ピリミジン-2,5-ジイル、または1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されてもよい1,4-フェニレンを示し、Z7及びZ8は互いに独立して、-C≡C-、-COO-、-CH2CH2-、-CH=CH-または共有結合を示す。) 【請求項16】 第一成分として、請求項1に記載の液晶性化合物を少なくとも1種類含有し、第二成分として、前記一般式(5)及び(6)からなる群から選択される化合物を少なくとも1種類含有し、第三成分として、前記一般式(7)、(8)及び(9)からなる群から選択される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする液晶組成物。 【請求項17】 第一成分として、請求項1に記載の液晶性化合物を少なくとも1種類含有し、第二成分として、前記一般式(2)、(3)及び(4)からなる群から選択される化合物を少なくとも1種類含有し、第三成分として、前記一般式(5)及び(6)からなる群から選択される化合物を少なくとも1種類含有し、第四成分として、前記一般式(7)、(8)及び(9)からなる群から選択される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする液晶組成物。 【請求項18】 請求項12〜17のいずれかに記載の液晶組成物に加えて、さらに1種以上の光学活性化合物を含有することを特徴とする液晶組成物。 【請求項19】 請求項12〜18のいずれかに記載の液晶組成物を用いて構成した液晶表示素子。」 (3)申立ての理由の概要 特許異議申立人セイミケミカル株式会社及び旭硝子株式会社は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-112778号公報)、参考文献1(松本、角田著「液晶の基礎と応用」(1992年11月20日工業調査会発行)、第137-139頁)、参考文献2(岡野、小林著「液晶 基礎編」(1989年6月15日培風館発行)、第190頁)を提出し、本件の請求項1〜3、12〜19に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1〜4、7〜10、12〜19に係る発明は、参考文献1、2を参酌すれば、甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件特許は取り消されるべきであると主張している。 (4)申立人が提出した刊行物の記載事項 甲第1号証(特開平5-112778号公報)には、下記事項が記載されている。 ア.「一般式(1) R1-(A1)m-Y1-A2-Z-CF2-A3-Y2-(A4)n-R2 ・・・(c) A1、A3、A4は相互に独立してトランス-1,4- ジ置換シクロヘキシレン基または1,4-ジ置換フェニレン基であり、A2は1,4-ジ置換フェニレン基であり、A1、A2は置換基として1個もしくは2個以上のハロゲン、シアノ基を有していてもよく、A3、A4の基中に存在する1個もしくは2個以上のCH基は窒素原子に置換されていてもよく、・・・(f) Zは酸素原子もしくは硫黄原子であり、(g) m、nは0または1であり、(h)R1は1つ以上の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アシル基もしくはアルコキシカルボニル基、ハロゲンまたはシアノ基であり、・・・で表されるジフルオロメチレン化合物を含有してなることを特徴とする液晶組成物。」(特許請求の範囲、請求項1) イ.「請求項1・・・の液晶組成物を、一対の電極付きの基板間に挟持して電圧を印加して時分割駆動することを特徴とする液晶表示装置。」(特許請求の範囲、請求項5) ウ.「本発明の一般式(1)の化合物は、大きな誘電率異方性(Δε)を有しており、かつ、他の液晶又は非液晶との相溶性に優れ、化学的にも安定な材料であるので、混合した液晶組成物の誘電率異方性を大きくすることができる。」(【0010】) エ.「本発明の式(1)の化合物は、他の液晶、非液晶に、少なくとも1種を混合することにより液晶組成物として使用される。」(【0029】) オ.「実施例22・・・さらに光学活性物質を加えて・・・液晶組成物とした。」(【0170】)。 カ.「本発明の具体的構造としては、主な化合物として以下のような化合物がある。なお、Zは前述のように酸素または硫黄原子である。」(【0017】) 「R3-CO-Ph-Z-CF2-Cy-R2 (2H) R1-Ph-OCO-Ph-Z-CF2-Cy-R2 (5D) 」(【0022】) 「R4-Ph-Z-CF2-Cy-R2 (6D) R4-Ph-Z-CF2-Ph-Cy-R2 (6E) R4-Ph-Z-CF2-Cy-Ph-R2 (6F) R4-Ph-Ph-Z-CF2-Ph-Cy-R2 (7G)」(【0025】) ここで、Cyはトランス-1,4-ジ置換シクロヘキシレン基を、Phは1,4-ジ置換フェニレン基をそれぞれ意味する。 キ.「実施例1と同様にして、次のような化合物を合成できる。・・・n-C3H7-CO-Ph-O-CF2-Cy-C3H7(n)」(【0067】) 「実施例1〜9と同様にして、以下のような化合物も合成できる。・・・n-C3H7-CO-Ph-O-CF2-Cy-CH=CH-Ph-C3H7(n)」(【0103】) 参考文献1(松本、角田著「液晶の基礎と応用」(1992年11月20日工業調査会発行)、第137〜139頁)には、下記事項が記載されている。 ク.「次に列挙する性能や品質,物性などが液晶マテリアルの合成や調製における着眼点となっている。 (1) 低温から高温までの温度範囲で液晶相を示し、広温度領域で使用できる。 (2) 化学安定性と光化学的安定性にすぐれ、長寿命である。 (3) 粘度が低く、高速応答性を発揮できる。 (4) 複屈折率の大きさがディスプレイ方式にマッチングし、表示コントラストの増大に適する。・・・ (7) 誘導異方性が大きく、低電圧動作に適する。」(第137頁第13〜23行) ケ.「液晶ディスプレイデバイスに用いる液晶マテリアルに対し要求される諸特性の主なものは、 (1) 広範な液晶温度範囲 (2) 化学的、光化学的な安定性 (3) 低い粘性 (4) 大きな誘電異方性 (5) 適度な複屈折性・・・などである。」(第139頁第13〜22行) 参考文献2(岡野、小林著「液晶 基礎編」(1989年6月15日培風館発行)、第190頁)には、下記事項が記載されている。 コ.「光学活性体はそれが液晶であってもなくてもネマティック相に添加すればねじれ構造をもったコレステリック相を作ることは古くから知られている」(第190頁第28〜30行) (5)対比・判断 5-1.特許法第29条第1項第3号の理由について A)本件請求項1に係る発明 甲第1号証の一般式(1)には、連結基-CF2O-を有し、連結基-CF2O-の酸素側に環A2として、1,4-ジ置換フェニレン基を有し、該1,4-ジ置換フェニレン環のパラ位にR1-(A1)m-Y1-として、1つ以上の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン又はシアノ基を有し、さらに、連結基-CF2O-の炭素に直結する環A3として、トランス-1,4-ジ置換シクロヘキシレン基を有する化合物が、一応記載されていると認められ(上記摘記ア、カ)、R4-Ph-Z-CF2-Cy-R2(6D)、R4-Ph-Z-CF2-Cy-Ph-R2(6F)で示される化合物や、R4-Ph-Z-CF2-Ph-Cy-R2(6E)、R4-Ph-Ph-Z-CF2-Ph-Cy-R2(7G)で示される化合物の環A3のフェニレン基をシクロヘキシレン基に変えた化合物が、上記化合物に相当するものとして例示されている。 しかしながら、甲第1号証の一般式(1)で表される化合物のうち、実施例1〜21において、具体的に製造方法及び生成物の分析データを示して記載されているのは、環A3が1,4-ジ置換フェニレン基である化合物のみであり、環A3がトランス-1,4- ジ置換シクロヘキシレン基である化合物を製造した例は全く示されていない。また、(6D)、(6F)と類似の構造を有するn-C3H7-CO-Ph-O-CF2-Cy-C3H7(n)やn-C3H7-CO-Ph-O-CF2-Cy-CH=CH-Ph-C3H7(n)が、実施例1〜9に記載の環A3が1,4-ジ置換フェニレン基である化合物と同様にして合成できるとの記載(上記摘記キ)があったとしても、当業者が製造可能な程度に、環A3が1,4-ジ置換シクロヘキシレン基である化合物が、具体的に記載乃至示唆されているとはいえない。 同様にして、(6E)、(7G)で示される化合物の環A3のフェニレン基をシクロヘキシレン基に変えた化合物が、フェニレン基のものと同様に製造できると認められる記載乃至示唆もない。 よって、甲第1号証に(6D)、(6F)、(6E)、(7G)が構造式として示されていたとしても、製造が裏付けられていない以上、(6D)、(6F)で表される化合物や、(6E)、(7G)の環A3のフェニレン基をシクロヘキシレン基に変えた化合物が、甲第1号証に実質的に記載乃至示唆されていると認めることができない。 さらに、本件請求項1に係る発明は、連結基-CF2O-の炭素に直結する環として、「トランス-1,4-シクロヘキシレン、3-シクロヘキセン-1,4-イレンまたは3-フルオロ-3-シクロヘキセン-1,4-イレンから選択される基」を有することにより、大きな誘電率異方性を有し、かつ、高い透明点を有するという顕著な効果を奏するものであるのに対し、甲第1号証には、当該効果についての記載もないから、この点をみても、環A3が「トランス-1,4-ジ置換シクロヘキシレン基」である化合物の発明が、当業者に把握できるものとして、甲第1号証に記載されているとされるものではない。 従って、本件請求項1における式(1)の化合物と甲第1号証に記載の式(1)の化合物を対比すると、「連結基-CF2O-を有し、連結基-CF2O-の酸素側に1,4-フェニレン基を有し、そのフェニレン環のパラ位に1つ以上の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基又はシアノ基を有する化合物」である点で文言上一致するが、甲第1号証には、本件請求項1の、「-CF2O-の炭素原子と直結する環がトランス-1,4-シクロヘキシレン基」である化合物については実質的に記載乃至示唆されていないから、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。 B)本件請求項2,3,12〜19に係る発明について 本件請求項2,3,12〜19に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明をさらに技術的に限定したものであるから、上記と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。 5-2.特許法第29条第2項の理由について A)本件請求項1に係る発明について 上記「5-1.A)」に記載したように、甲第1号証には、環A3として「トランス-1,4- ジ置換シクロヘキシレン基」が選択肢として記載されているものの、環A3が「トランス-1,4- ジ置換シクロヘキシレン基」である化合物を製造した例が全く示されておらず、さらに、具体的に記載された環A3が1,4-ジ置換フェニレン基である化合物と、同様の製造方法で製造できると認められる記載乃至示唆もないから、甲第1号証には、「-CF2O-の炭素原子と直結する環がトランス-1,4-シクロヘキシレン基」である化合物について実質的に記載乃至示唆されているとはいえない。さらに、特許異議申立人の提示した参考文献1の液晶マテリアルに要求される特性に関する記載(上記摘記ク、ケ)、参考文献2の液晶に添加する光学活性体に関する記載(上記摘記コ)をみても、上記判断を覆すことの根拠とならない。 そして、本件請求項1に係る発明は、連結基-CF2O-の炭素に直結する環A3として、トランス-1,4-シクロヘキシレン基等を有することにより、大きな誘電率異方性を有し、かつ、高い透明点を有するという顕著な効果を奏するものであるのに対し、甲第1号証には、当該効果についての記載もないから、環A3が「トランス-1,4-ジ置換シクロヘキシレン基」である化合物を当業者が容易に選択し、製造し得たとはいえない。 よって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものとすることはできない。 B)本件請求項2〜4,7〜10,12〜19に係る発明について 本件請求項2〜4,7〜10,12〜19に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明をさらに技術的に限定したものであるから、上記と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものとすることはできない。 (6)むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜4,7〜10,12〜19に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜4,7〜10,12〜19に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-11-07 |
出願番号 | 特願平9-297678 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(C07C)
P 1 652・ 113- Y (C07C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 守安 智 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
西川 和子 後藤 圭次 |
登録日 | 2002-03-15 |
登録番号 | 特許第3287288号(P3287288) |
権利者 | チッソ株式会社 |
発明の名称 | ポリハロアルキルエーテル誘導体とそれらを含む液晶組成物及び液晶表示素子 |
代理人 | 角田 衛 |
代理人 | 吉見 京子 |
代理人 | 角田 衛 |