• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  C10M
審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C10M
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C10M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01F
管理番号 1089925
異議申立番号 異議2002-71177  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-10 
確定日 2004-01-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3226925号「表面改質粒子使用の磁気レオロジー材料」の請求項1ないし5、8、9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3226925号の請求項1ないし5、8、9に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3226925号の請求項1ないし5、8、9に係る発明についての出願は、1993年10月27日(パリ条約による優先権主張、1992年10月30日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成13年8月31日にその特許権の設定登録がなされ、その後、バンドー化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、当審より特許権者に対し審尋がなされ、特許権者より回答書が提出されたものである。

II.特許異議申立てについての判断
1.本件発明
特許第3226925号の請求項1ないし5、8、9に係る発明(以下、「本件発明1ないし5、8、9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5、8、9に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 常磁性、超常磁性又は強磁性であるコア粒子成分から成る磁気活性粒子から成り、コロイド磁性流体を除き、優れた高降伏応力を示し、該粒子が1〜50μmの範囲内の粒子直径を有し、該粒子が粒子表面に汚染生成物を実質的に含まないように改質されていることを特徴とする磁気レオロジー材料。
【請求項2】 前記汚染生成物が、研磨加工、化学処理またはそれらの併用によって、粒子表面から除去されている請求項1記載の磁気レオロジー材料。
【請求項3】 前記研磨加工が、粒子の表面に研磨材を高速で衝突させることによって前記汚染生成物を物理的に除去することを含む請求項2記載の磁気レオロジー材料。
【請求項4】 前記研磨材が、ステンレス鋼、セラミック、ポーセレン、フリント、高炭素鋼、高マンガン鋼、鋳造ニッケル合金、低炭素鍛造鋼、タングステンカーバイド、ガラス、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムからなる材料から選択できるボール、ペレット、ペブル、グリット又はショットから成る請求項3記載の磁気レオロジー材料。
【請求項5】 前記化学処理は酸洗浄、アルカリ洗浄、電解洗浄、超音波洗浄、又はそれらの組合せによって行う請求項2記載の磁気レオロジー材料。
【請求項8】 前記磁気活性粒子が、常磁性、超常磁性または強磁性化合物から成る請求項1記載の磁気レオロジー材料。
【請求項9】 前記磁気活性粒子が、鉄、鉄合金、窒化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、ケイ素鋼、ニッケル、コバルトおよびそれらの混合物から成る請求項8記載の磁気レオロジー材料。」

2.申立ての理由の概要
特許異議申立人バンドー化学株式会社は、証拠として下記の甲第1〜5号証を提出し、本件発明1ないし4、8、9は、本件特許出願の日前の我国を指定国として含む国際出願(甲第1号証の2)であって、翻訳文(甲第1号証の1)が提出された出願の優先権の基礎となった出願の明細書(甲第1号証の3)に記載された発明であるから、特許法第29条の2により特許を受けることができないものであるとし[理由1]、また、本件発明1ないし5、8、9は、本件出願前に頒布された刊行物(甲第2〜甲第4号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり[理由2]、さらに、甲第5号証を参照すれば、本件出願は、その明細書の記載が特許法第36条第4項、第5項又は第6項に規定する要件を満たしていないため、本件発明1ないし5、8、9は特許を受けることができないものである[理由3]として、本件発明1ないし5、8、9に係る特許は、特許法第113条第2号および第4号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。


甲第1号証の1:国際特許出願PCT/US93/3487の明細書及び特許請求の範囲の特許法第184条の4第1項の規定による翻訳文(以下、「特許法第184条の4の翻訳文」という。)、及び、特許法第184条の8第1項の規定による補正書の翻訳文(以下、「特許法第184条の8の翻訳文」という。)
甲第1号証の2:国際公開第93/21644号パンフレット(PCT/US93/3487の国際公開)
甲第1号証の3:国際出願PCT/US93/3487の優先権の基礎となった米国出願出願(07/868466号)の明細書

甲第2号証:オーストラリア特許公開第162371号公報
甲第3号証:アメリカ合衆国特許第3764540号公報
甲第4号証:特開平4-221808号公報
甲第5号証:高分子学会高分子表面研究会編「高分子表面技術」、昭和62 年8月28日 日刊工業新聞社発行、第20〜23頁、第32 〜35頁、第42〜51頁、第54〜61頁、第74〜79頁

3.各甲号証に記載される事項
甲第1号証の1について
(なお、甲第1号証の2、甲第1号証の3にも同じ内容の記載がある。)
甲1-1
「1.相対的により大きなマグネトソフト(magnetosoft)粒子の表面に吸着されたマグネトソリッド(magnetosolid)粒子と、安定剤と、そして約-50〜120℃の温度にわたって磁性粒子を実質的に凝集又は沈降させないのに十分な比率で芳香族アルコール、ビニルエーテル及び有機溶剤を含むキャリング流体とを含んでなる磁気レオロジー流体組成物。
・・・
3.前記マグネトソリッド粒子が酸化鉄と二酸化クロムからなる群より選ばれる、請求の範囲第1項記載の組成物。
4.前記マグネトソリッド粒子が直径約0.1〜約1.0μmのものである、請求の範囲第3項記載の組成物。
5.前記マグネトソフト粒子がカルボニル鉄から作られている、請求の範囲第4項記載の組成物。
6.前記カルボニル鉄粒子が直径約1〜約10μmのものである、請求の範囲第5項記載の組成物。」(特許法第184条の4の翻訳文の請求項1、3〜6)

甲1-2
「本発明の磁気レオロジー流体組成物は、安定剤を含有しているキャリング流体に懸濁された非コロイド強磁性粉末を含む。本発明の強磁性粒子は、粗大なマグネトソフト粒子と細かいマグネトソリッド粒子の混合物である。マグネトソフト粒子は好ましくはカルボニル鉄から作れる。マグネトソフト粒子は一般に球形である。好ましい粒子寸法(粒度)範囲は約1〜約10μmである」(特許法第184条の4の翻訳文の3頁18〜23行)

甲1-3
「マグネトソリッド粒子は、好ましくは、マグネトソフト粒子の表面に吸着され、磁性粒子にブラシ様の効果を与える。マグネトソリッド粒子は、好ましくは小さな針状磁石であって、これらは一端でより粗いマグネトソフト粒子にくっつく。マグネトソリッド粒子のマグネトソフト粒子への吸着は、得られた流体組成物の安定性をより高くし、また磁場の作用下での相対粘度変化をより大きくすることが示されている。」(特許法第184条の4の翻訳文の4頁16〜22行)

甲1-4
「好ましくは、・・・キャリング流体成分を混合し、キャリング流体の第一の混合物に安定剤とマグネトソフト粒子を加え、キャリング流体の第二の混合物にマグネトソリッド粒子を加え、そしてこれらの二つの磁性粒子含有キャリング流体組成物を一緒にすることを含む多段階プロセスを使って作られる。キャリング流体は、好ましくは、周囲温度でビニルエーテルと芳香族アルコールを灯油に溶解させて作られる。
第一のキャリング流体混合物は、10部のキャリング流体に対し5〜25重量部のマグネトソフト粒子を含有し、そして連続の攪拌下で作られる。安定剤は、好ましくは、微粉砕機を使って第一のキャリング流体混合物に導入される。ゼラチン状の組成物が得られるまで、十分な量の、典型的には第一のキャリング流体混合物の約5〜15重量%の、安定剤が加えられる。次に、マグネトソフト粒子をこの組成物に加え、これを例えばボールミルを用いて均質化させる。ボールミルの磨砕は、組成物に加えると起きることがあるマグネトソフト粒子の凝集を最小限にする。
マグネトソリッド粒子は、キャリング流体の第二の混合物に加えられ、例えば攪拌して均質化される。キャリング流体10重量部当たり約1〜15重量部のマグネトソリッド粒子が存在するの好ましい。好ましくは、プロセスのこの段階で界面活性剤を使用して、マグネトソリッド粒子の完全な分散を促進する。界面活性剤は好ましくは脂肪酸であり、オレイン酸が特に好ましい。界面活性剤は、分散したマグネトソリッド粒子の凝結を最小限にして、粒子を懸濁液に安定に分散させるのを助ける。好ましくは、第二のキャリング流体混合物では5重量%未満の界面活性剤を使用し、1%未満が特に好ましい。
粒子を含有しているこれらの二つのキャリング流体混合物を一緒にして均質化させる。このためにはボールミルが適している。好ましくは、第二のキャリング流体混合物100重量部当たり、マグネトソフト粒子を含有しているおよそ5〜10重量部の第一のキャリング流体混合物を加える。結果とし得られた懸濁液は安定であり、磁界の適用に応答する。」(特許法第184条の4の翻訳文の6頁11行〜7頁16行)

甲1-5
「例 本発明の磁気レオロジー流体を、次に説明する方法で作った。・・・エーロシル・・・を、・・・キャリング流体に導入して、第一のキャリング流体混合物を調製した。・・・次に、この混合物に鉄カルボキシド粉末を加えた。混合物全体をボールミルで4〜5時間にわたり均質化させた。・・・
二酸化クロム粉末、オレイン酸及び第二のキャリング流体サンプルを・・・混合し、ユニバーサル攪拌機で4〜5時間均質化させた。・・・
次いで、これらの二つの磁性粒子含有キャリング流体混合物を一緒にし、最終組成物にするためボールミルで1時間混合した。鉄カルボキシド含有混合物100グラムを二酸化クロム粉末含有混合物7.5グラムに加えた。その結果得られた生成物は、磁界の適用に応答して変化した粘度、可塑性、弾性、熱伝導性、及び電気伝導性を示した。・・・この組成物を、磁界インダクタにより供給される円筒型同軸回転粘度計で試験した。・・・磁界の強さに対する流体粘度の応答を下記の表1に示す。表1から、磁界の強さを増加させると結果として所定の剪断速度での粘度が上昇することが分かる。表1のデータはまた、剪断速度を増大させると所定の磁界の強さでの粘度が一般により低くなることも示している。最高の粘度は低剪断速度且つ高磁界強度で得られた。」(特許法第184条の4の翻訳文の8頁12行〜9頁29行)

甲第2号証について
甲2-1
「天然油又は合成油である液体キャリア、このキャリア中に懸濁された磁化性又は磁性粒子、水溶性ではあるが、前記キャリアには不溶性である少量のアルコール、メルカプタン、エーテル、アミン又はアミドからなる磁気流体組成物(MAGNETIC FLUID )」(請求項1)

甲2-2
「磁気流体は、水圧システム、ダシュポット、クラッチ等における種々の用途に用いられる」(1頁末3行〜末行)

甲2-3
「この発明の磁気流体を形成するために用いられる・・・粒子は、磁気特性を有すると共に、2〜100μm、好ましくは、5〜30μmの大きさをもつものであれば何でもよい。鉄カルボニルの分解によって製造される鉄粉がこの発明の磁気流体に用いるに特に適している。但し、その他の適当な手段によって製造された鉄及び/又は酸化鉄の粉末もまた、用いることができる」(5頁23〜29行)

甲2-4
「本件発明の目的は、安定性の改良された磁気流体を提供することである」(2頁24〜25行)

甲第3号証について
甲3-1
「磁気流体(MAGNETOFLUIDS)及びその製造」(発明の名称)

甲3-2
「マグネタイト及び元素鉄の安定なコロイド懸濁液からなる磁気流体は、非磁性体又は反磁性前駆体をコロイドサイズまで粉砕し、キャリア流体中に分散して後磁化する。」(要約)

甲3-3
「磁気流体を調製するために必要な粉砕時間が、非磁性前駆化合物の使用により、大幅に低減できた。」(1欄30〜33行)

甲3-4
「安定なコロイダル懸濁液は、最大粒径が約0.01ミクロン(100オングストローム)より小さい時に形成される。」(4欄4〜6行)

甲3-5
「実施例1
・・・得られた混合物をケロシン1Lと鋼製のボール7.3kgを含むボールミルに移し、合計で40時間、磨砕(grinding)を続けた」(5欄12〜14行)

甲第4号証について
甲4-1
「フェライト類微粒子の水性サスペンションに超音波を照射した後、・・・N-ポリアルキレンポリアミン置換アルケニルコハク酸イミドをフェライト類微粒子に吸着させた後、・・・N-ポリアルキレンポリアミン置換アルケニルコハク酸イミド吸着フェライト類微粒子を、・・・基油中に分散せしめることを特徴とする磁性流体の製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1)

甲4-2
「【発明が解決しようとする課題】本発明は、フェライト類微粒子を・・・基油中に安定にかつ高濃度で分散させた磁性流体を効率よく製造することを目的としている。」(2欄13〜16行)

甲4-3
「粒径約50〜300Å、好ましくは約70〜120Åのフェライト類」(2欄35〜36行)

甲4-4
「水相中における、フェライト類微粒子の凝集を可能な限り解消し、効率的にN-ポリアルキレンポリアミン置換アルケニルコハク酸イミドをフェライト類微粒子に吸着させるため、形成された水性サスペンジョンは、・・・超音波を照射してから用いられる。」(2欄39〜44行)

甲4-5
「基油を添加しての分散処理は、常法での如く、ホモジナイザ、超音波、振動ミルなどの少なくとも一種を用いて行われる」(4欄9〜11行)

甲第5号証について
甲5-1
「X線マイクロアナライザ(EPMA)・・・は通常、主成分からsub%の濃度範囲で1μm程度の深さが1μm程度の空間分解能で測定される」(20頁16〜19行)。

甲5-2
「X線光電子分光法(XPS),オージェ電子分光法(AES)では1分子層オーダの表面元素分析が可能である.検出感度はsub%である.」(20頁末3〜末2行)。

甲5-3
「二次イオン質量分析法(SIMS)はppmオーダの微量成分の検出に優れた技術である.スパッタ条件によって異なるが,数〜百Åの表面感度、約1μmの空間分解能、測定と同時に削れるので約100Åの分解能で深さ方向の分析が可能である」(21頁7〜10行)

甲5-4
「XPSは表面の状態分析に最も多く用いられている.1分子層オーダの表面の選択的な情報が得られ,sub%の検出感度と100μmの空間分解能をもっている」(22頁15〜17行)。

甲5-5
「SIMSの特徴
・・・表面近傍に存在する元素の分析を行うことができる」(32頁1行〜33頁1行)

4.当審の判断
[理由1]について
本件発明1について
甲第1号証の1の請求項1、3〜5に記載される要件を引用して記載されている請求項6には、「直径約1〜約10μmのカルボニル鉄から作られているマグネトソフト粒子の表面に吸着された直径約0.1〜約1.0μmの酸化鉄と二酸化クロムからなる群より選ばれるマグネトソリッド粒子と、安定剤と、キャリング流体とを含んでなる磁気レオロジー流体組成物。」が記載されていると認められる(摘示事項「甲1-1」参照)。
また、甲第1号証の1には、キャリング流体に懸濁されているのは非コロイド強磁性粉末であることが記載され(摘示事項「甲1-2」参照)、さらに、通常コロイドと称するのは粒径0.001〜0.1μm(化学大辞典3 共立出版株式会社 1989年8月15日発行 「コロイド」の項 参照)の粒子で、甲第1号証の1の直径約1〜約10μmのカルボニル鉄から作られているマグネトソフト粒子はコロイドを形成しえる粒子ではないことからみて、甲第1号証の1の直径約1〜約10μmのカルボニル鉄から作られているマグネトソフト粒子を含んで成る磁気レオロジー流体組成物は、コロイド磁性流体ではない。
従って、甲第1号証の1には、「直径約1〜約10μmのカルボニル鉄から作られているマグネトソフト粒子の表面に吸着された直径約0.1〜約1.0μmの酸化鉄と二酸化クロムからなる群より選ばれるマグネトソリッド粒子と、安定剤と、キャリング流体とを含んでなる、コロイド磁性流体を除いた、磁気レオロジー流体組成物。」(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、本件発明1と上記甲第1号証発明とを対比すると、両者は「常磁性、超常磁性又は強磁性であるコア粒子成分から成る磁気活性粒子から成り、コロイド磁性流体を除き、該粒子が1〜10μmの範囲内の粒子直径を有する磁気レオロジー材料」である点で一致するが、本件発明1の該粒子が「粒子表面に汚染生成物を実質的に含まないように改質されていて、優れた高降伏応力を示す」のに対し、甲第1号証発明の該粒子については表面改質することは記載されておらず、また、高降伏応力を示すことも記載されていない点で、本件発明1と甲第1号証発明とは文言上相違する。
上記相違点が実質的な相違点であるか否か検討するに、甲第1号証発明においても、磁気活性粒子であるマグネトソフト粒子とキャリング流体との混合物をボールミルを用いて攪拌しており(摘示事項「甲1-4」、「甲1-5」参照)、粒子表面が実質的に改質されている可能性がある。
しかし、甲第1号証発明の目的は、マグネトソフト粒子にマグネトソリッド粒子を併用することで、流体組成物の安定性を高くし、磁場の作用下での相対粘度変化を大きくするものであり(摘示事項「甲1-3」参照)、そのために、ボールミルを用いて攪拌することにより、「キャリング流体混合物・・・に、マグネトソフト粒子を・・・加え、これを例えばボールミルを用いて均質化させる。ボールミルの磨砕は、組成物に加えると起きることがあるマグネトソフト粒子の凝集を最小限にする」(摘示事項「甲1-4」参照)、あるいは、「キャリング流体混合物・・・に鉄カルボキシド粉末を加え・・・混合物全体をボールミルで均質化」(摘示事項「甲1-5」参照)させるもので、磁気活性粒子の表面から汚染生成物を除去すること、汚染物質を除去できる条件で攪拌をすることは記載されていない。また、攪拌の程度を変化させることで、最終的に得られる磁気レオロジー流体組成物の物性が変化する旨のことも記載されていない。
そうしてみると、甲第1号証の1の上記した「磁気活性粒子であるマグネトソフト粒子とキャリング流体との混合物をボールミルを用いて攪拌」という記載が、「磁気活性粒子がその表面に汚染生成物を実質的に含まないように改質する程度の攪拌」を実質的に意味すると解することはできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証発明と同一であるとは言えない。

本件発明2〜4、8、9について
本件発明2〜4、8、9は、本件発明1において、粒子表面の改質や磁気活性粒子についてさらに限定を加えるものであるから、本件発明1に対する理由と同じ理由で甲第1号証発明と同一であるとは言えない。

[理由2]について
本件発明1について
甲第2号証には、磁化性又は磁性粒子を含む磁気流体組成物(MAGNETIC FLUID )に係る発明が記載されており(摘記事項「甲2-1」参照)、該磁性粒子は2〜100μmの大きさを有すること、及び鉄カルボニルの分解によって製造される鉄粉がこの発明の磁気流体に用いるのに特に適し、その他の適当な手段によって製造された鉄及び/又は酸化鉄の粉末もまた用いることができること(摘記事項「甲2-3」参照)も記載されている。
そして、上記の磁性粒子の2〜100μmという大きさは、「[理由1]について」で述べたように、コロイド粒子に相当しないことから、甲第2号証に記載される磁化性又は磁性粒子を含む磁気流体組成物はコロイド磁性流体でないことも明らかである。
また、甲第2号証の磁気流体組成物の用途が、水圧システム、ダシュポット、クラッチ等の液体の粘弾性を利用する用途であること(摘記事項「甲2-2」参照)、および、甲第2号証の磁性粒子の大きさからみて甲第2号証の磁気流体は磁気レオロジー材料となりえるものであることから(本件特許明細書において従来例として示されている米国特許第2667237号参照)、甲第2号証の磁気流体は磁気レオロジー材料であると認められる。
従って、甲第2号証には、「磁化性又は磁性粒子から成り、コロイド磁性流体を除き、該粒子が2〜100μmの粒子直径を有する磁気レオロジー材料」(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
そこで、本件発明1と甲第2号証発明とを対比すると、両者は、「磁気活性粒子から成り、コロイド磁性流体を除き、該粒子が2〜50μmの粒子直径を有する磁気レオロジー材料」である点で一致し、本件発明1が、「粒子表面に汚染生成物を実質的に含まないように改質されていて、優れた高降伏応力を示す」のに対し、甲第2号証発明は、粒子表面に汚染生成物を実質的に含まないように改質されていて優れた高降伏応力を示すことが記載されていない点で相違する。
上記相違点について判断する。
本件発明の改質処理は、研磨機加工、化学処理によりできると、本件特許明細書(本件特許公報5欄37行〜39行)に記載されているところ、甲第3号証及び甲第4号証には、研磨機加工に当たる粉砕処理(摘記事項「甲3-2」、「甲3-5」参照)、分散処理(摘記事項「甲4-5」参照)について記載されるものの、粒子表面の汚染生成物の除去については記載も示唆もされていない。また、その処理対象物もコロイド粒子である。さらには、降伏応力については示唆もない。
そうしてみると、甲第2〜4号証に記載されている事項から、本件発明の課題である降伏応力の向上を図ることを創意することは容易ではなく、仮に前記課題を創意することが容易にできたとしても、その解決手段として、磁気レオロジー材料の製造に当たって、磁気活性粒子が粒子表面に汚染生成物を実質的に含まないよう、物理的に除去できるように研磨材を高速で衝突させる等の研磨加工を創意することが当業者にとって容易であるとは認められない。
また、本件発明1は、磁気レオロジー材料の製造に当たって、磁気活性粒子が粒子表面に汚染生成物を実質的に含まないようにすることで、その特許明細書(本件特許公報5欄34〜37行、7欄3〜6行参照)に記載される高降伏応力という効果を奏するものである。
従って、本件発明1は、甲第2〜4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

本件発明2〜4、8、9について
本件発明2〜4、8、9は、本件発明1において、粒子表面の改質や磁気活性粒子についてさらに限定を加えるものであるから、本件発明1に対する理由と同じ理由で甲第2〜4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

[理由3]について
異議申立人は、本件出願は、その明細書の記載が特許法第36条に規定する要件を満たしていないとして、下記イ〜ハの点を主張している。

イ.本件特許明細書の、「磁気レオロジー粒子の表面から汚染生成物の実質的な除去の確認は、分析化学および表面分析技術の当業者に既知の種々の材料特性法を利用することによって得られる。」という記載、および、列挙されている各種の分析法名の記載(本件特許公報第9欄19〜31行)を摘示し、上記記載はされていても実際にどの程度に汚染生成物が除去され、それによりどの程度に降伏応力が改善されたのか一切記載がなく、また、その確認もされておらず、さらに、列挙される分析手段はそれぞれ特徴、特性が、甲第5号証の記載にみられるように相違するから、実際問題として、いずれの分析手段を用いて、どのような条件下に測定して、どのような結果を得ることができれば磁気粒子が粒子表面に汚染生成物を実質的に含まないように改質されているといえるのかについて記載が無いことから、確認のしようがない点。(異議申立書 15頁6行〜18頁16行)
ロ.本件特許明細書には、磁気レオロジー材料がどのような降伏強さを有するか記載が無く、実施例で磁気レオロジー効果が測定されているが、該レオロジー効果がどのようなものかについても記載がなく、さらに、本件特許明細書の、「本発明の磁気レオロジー材料・・・の機械的性質および特性の評価は平行板および/または同心シリンダのクエット流動計の使用によって得られる」(本件特許公報第16欄40〜43行)という記載、および、「磁界は、流体を充填した間隙間のこれらのセルに、同心シリンダに対しては半径方向に、平行板に対しては軸方向に印可する。」(本件特許公報第17欄14〜16行)という記載を摘示し、上記の記載はされていても、実際にどのようにして磁界強さを測定するのか明らかではなく、平行板型流動計がどのようなものであるかも不明であるため、本件の効果が不明確である点。(異議申立書 18頁17行〜19頁5行)
ハ.本件特許明細書の比較例5、実施例6及び比較例7について、2000エルステッドの磁界強さのときの磁気レオロジー効果から1000エルステッドの磁界強さのときの磁気レオロジー効果を減じた差分についてみれば、比較例5が23.9kPa、実施例6が20.2kPa、比較例7が24.0kPaであって、実施例6よりも比較例5及び7における方が差分が大きい。このような結果を考慮すれば、本件特許による磁気レオロジー材料が、実際、磁気レオロジー効果において改善されているのかどうか不明確である点。(異議申立書19頁6行〜19頁12行)

「イ.」に対する判断
本件特許明細書には、「本発明は、磁気的に分極可能粒子の表面から汚染物質を除去すると粒子が高降伏応力を示すことができる磁気レオロジー材料を作るのに特に有効であるという発見に基づく。汚染生成物は研磨機加工、化学処理またはそれらの組合わせによって金属粒子の表面から効率的に除去することができる。」と記載され(本件特許公報7欄3〜8行)、さらに、実施例(燐酸、硫酸による化学的除去、あるいは、高運動エネルギーによる混合研磨加工をする例)と比較実施例(化学的除去剤を使用せず、あるいは、高運動エネルギーによる混合研磨加工をしない例)とを対比検討した結果には、磁気レオロジー効果が増加していると読みとれる測定データが記載されている。
上記の磁気レオロジー効果は、本件特許明細書によれば、「その磁界で測定した動的降伏応力と無磁界で測定した動的降伏応力との間の差としてさらに定義できる」と記載されているものと解せる(本件特許公報17欄3〜5行)。なお、上記定義は、磁気レオロジー作用についてされたものだが、本件の対応する国際公開パンフレット(WO94/10694)を参照すれば、いずれも原文では「magunetorheological effect」であり、両者は実質的に同じものである。
つまり、本件特許明細書に記載される実施例および比較実施例の磁気レオロジー効果の測定データから、実施例は降伏応力が増加していると言い得るものである。
以上のとおりであるから、汚染物質の燐酸、硫酸による化学的除去、あるいは、高運動エネルギーによる混合研磨加工除去により、降伏応力が増加していることが実施例により確認されていると認められる。
従って、この点についての異議申立人の主張は妥当なものではない。

「ロ.」に対する判断
磁気レオロジー効果は、「『イ.』に対する判断」の項で述べたように、その磁界で測定した動的降伏応力と無磁界で測定した動的降伏応力との間の差として解せる(本件特許公報17欄3〜5行)。
そうすると、本件特許明細書に記載される実施例および比較実施例では磁気レオロジー効果の測定がされていることから、これらの例については降伏応力すなわち降伏強さについて記載されているといえる。
また、実際にどのようにして磁界強さを測定するのか明らかではなく、平行板型流動計がどのようなものであるかも不明であると異議申立人は主張しているが、上記流動計について、本件特許明細書に、「本発明の磁気レオロジー材料・・・の機械的性質および特性の評価は平行板および/または同心シリンダのクエット流動計の使用によって得られる」(本件特許公報第16欄40〜43行)、および、「円心シリンダセルの配置において・・・、単純な平行板の配置における・・・磁界は、流体を充填した間隙間のこれらのセルに、同心シリンダに対しては半径方向に、平行板に対しては軸方向に印可する。次に、せん断応力とせん断歪速度との関係がこの角速度およびトルクTから得られる。」(本件特許公報第17欄8〜18行)と記載されていること、また、当審における審尋に対して本件特許権者が回答書に添付して提出した参考資料1[A.J.PARZIALE and P.D.Tilton,“Characteristics of Some Magnetic-Fluid Clutch Servomechanisms”,AIEE Transactions,Volume69,pp.150-157(1950)]の、「磁気流体(magnetic fluid)の静的剪断特性」とタイトルの付された図6(152頁)で、印加する磁界の強さと静的剪断応力とには関係があることが図示されているように、当該技術分野で磁気レオロジー効果すなわち降伏応力を測定することが知られていることを勘案すると、この分野において磁界強さや降伏応力を測定する装置、方法が当業者にとり不明な事項とは認められず、異議申立人の主張は妥当なものではない。

「ハ.」に対する判断
本件発明の粒子表面の改質処理の有効性は、同一の磁気レオロジー材料を使用して、粒子表面の改質処理の有無を差異とすることにより比較すべきものである。
しかしながら、比較実施例5に使用されている材料はカルボニル鉄粉であり、実施例6、比較実施例7で使用されている材料は還元鉄粉であって、両者は同一の材料を使用するものではない。
したがって、使用する材料が相違する比較実施例5と実施例6あるいは比較実施例7を比較することで本件発明の効果を論じても意味がなく、異議申立人の主張は妥当なものではない。

III.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜5、8、9の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5、8、9についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜5、8、9の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-12-16 
出願番号 特願平6-511272
審決分類 P 1 652・ 161- Y (C10M)
P 1 652・ 121- Y (H01F)
P 1 652・ 534- Y (C10M)
P 1 652・ 531- Y (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 鈴木 紀子
後藤 圭次
登録日 2001-08-31 
登録番号 特許第3226925号(P3226925)
権利者 ロード・コーポレーション
発明の名称 表面改質粒子使用の磁気レオロジー材料  
代理人 ウオーレン・ジー・シミオール  
代理人 牧野 逸郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ