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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47L
審判 全部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  A47L
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A47L
管理番号 1089928
異議申立番号 異議1998-70751  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-02-13 
確定日 2003-11-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第2648043号「電気掃除機」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2648043号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.本件特許及び本件特許異議事件の手続の経緯
本件特許2648043号(以下「本件特許」という。)は、昭和62年2月13日に出願された実願昭62-18859号(以下「原々出願」という。)の変更出願である特願平3-36595号(以下「原出願」という。)の分割出願として平成3年5月16日に特許出願され、平成9年5月9日に設定登録がされたものであり、本件特許異議事件に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
1)特許権の設定の登録:平成9年5月9日
2)特許掲載公報の発行:平成9年8月27日
3)特許異議の申立て(特許異議申立人・丸尾昭恵):平成10年2月13日付け
4)特許異議の申立て(特許異議申立人・東芝テック株式会社):平成10年2月27日付け
5)特許異議の申立て(特許異議申立人・株式会社日立製作所):平成10年2月27日付け
6)審尋書:平成10年7月1日付け
7)回答書(特許権者):平成10年8月7日付け
8)取消理由通知(第1回):平成10年9月25日付け(発送日:平成10年10月9日)
9)特許異議意見書(第1回)(特許権者):平成10年12月7日付け
10)異議決定(第1回)(特許を取り消す):平成10年12月21日付け(送達日:平成11年2月12日)
11)出訴(東京高裁平成11年(行ケ)第62号:平成11年3月8日
12)判決(決定取り消し):平成11年10月28日言渡
13)取消理由通知(第2回):平成12年7月17日付け(発送日:平成12年8月1日)
14)特許異議意見書(第2回)(特許権者):平成12年10月2日付け
15)訂正請求:平成12年10月2日付け
16)訂正拒絶理由通知:平成13年2月9日付け(発送日:平成13年2月23日)
17)意見書(特許権者):平成13年4月23日付け
18) 第2回異議決定(特許を取り消す):平成13年5月7日付け(送達日:平成13年6月20日)
19)出訴(東京高裁平成13年(行ケ)第321号):平成13年7月17日
20) 判決(決定取り消し):平成14年12月12日判決言渡
21) 取消理由通知(第3回、訂正拒絶理由を含む):平成15年3月7日付け(発送日:平成15年3月25日)
22) 意見書(特許権者):平成13年5月22日付け

2.平成12年10月2日付け訂正請求の適否について
1) 訂正事項
特許権者は、平成12年10月2日付け訂正請求書により、願書に添付した明細書について、以下の訂正を求めている。
(1)訂正事項a.請求項1に、
「掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホースと、該ホースの他端側が接続される接続パイプと、該接続パイプに回転自在に接続される把手パイプと、該把手パイプに接続される延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え、前記把手パイプに把手部を形成し、把手部の延長管側にリモートコントロールスイッチを配設すると共に、前記把手パイプに、リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体を設け、前記接続パイプに、導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片を配設したことを特徴とする電気掃除機。」とある記載を、「掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホースと、該ホースの他端側が接続される接続パイプと、該接続パイプに回転自在に接続される把手パイプと、該把手パイプに接続される延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え、前記把手パイプに把手部を形成し、把手部の延長管側にリモートコントロールスイッチを配設すると共に、前記把手パイプに、リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体を設け、前記接続パイプに、導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片を配設し、前記接続パイプと把手パイプとを回転自在に抜け止めする抜け止め部材を設けたことを特徴とする電気掃除機。」と訂正する。
(2)訂正事項b.明細書の【発明の詳細な説明】の【課題を解決するための手段】の欄に、
「本発明は、掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホースと、該ホースの他端側が接続される接続パイプと、該接続パイプに回転自在に接続される把手パイプと、該把手パイプに接続される延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え、前記把手パイプに把手部を形成し、把手部の延長管側にリモートコントロールスイッチを配設すると共に、前記把手パイプに、リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体を設け、前記接続パイプに、導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片を配設したことを特徴とする。」とある記載を、
「本発明は、掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホースと、該ホースの他端側が接続される接続パイプと、該接続パイプに回転自在に接続される把手パイプと、該把手パイプに接続される延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え、前記把手パイプに把手部を形成し、把手部の延長管側にリモートコントロールスイッチを配設すると共に、前記把手パイプに、リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体を設け、前記接続パイプに、導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片を配設し、前記接続パイプと把手パイプとを回転自在に抜け止めする抜け止め部材を設けたことを特徴とする。」と訂正する。

2) 独立特許要件について
上記訂正事項a.は、「接続パイプと把手パイプとを回転自在に抜け止めする抜け止め部材を設けた」点を、請求項1に記載された発明の構成要件として追加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。そこで、訂正後の請求項1に記載された発明(以下、「訂正発明」という。上記1)(1)訂正事項a.参照)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか検討する。
まず、本件出願は分割出願であるため、訂正発明が特許法第44条に規定する分割要件を満たしているかどうかにつき検討する。

(1)本件特許については、平成11年(行ケ)第62号東京高裁判決(平成11年10月28日判決言渡、以下第1次判決という。)及び平成13年(行ケ)第321号東京高裁判決(平成14年12月12日判決言渡、以下第2次判決という。)がされた。
そして、第1次判決において、「把手部の構成において、・・・・・本件発明は、『把手パイプに把手部を形成し、』との構成を有するものであるから、・・・『把手パイプに把手パイプから離間して把手部を一体的に形成し』との構成のもののほか、上記構成ではない態様で把手パイプに把手部を形成したものをも含むことは明らかであり、このことは、本件明細書の発明の詳細な説明の欄に『ここで把手部1Aは、曲がりパイプ1から離間して形成したものとして説明したが、曲がりパイプ1自体を握るものであっても構わない。』と記載されていることによっても裏付けられる。」(判決第11頁第11行〜同第12頁第6行)と判示されていることから、訂正発明における「把手パイプに把手部を形成」とは、曲がりパイプに把手部(図示実施例における「把手部1A」)を離間して形成することのほか、それ以外の態様である「曲がりパイプ自体を握るもの」をも含むこととなる。
また、第2次判決においては、「特許法44条1項は、『特許出願人は願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。』と規定する。この規定は、原出願の明細書又は図面に二以上の発明が記載されていること、及び、分割出願の対象とされた発明が上記二以上の発明のいずれかであることを適法な分割出願の要件として定めたものであると解されている。そして、二以上の発明を包含する原出願の明細書又は図面とは、本来、『分割直前の原出願の明細書又は図面』であるが、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(当初明細書)について補正がされた場合も、当初明細書に記載された発明は補正によりこれを分割直前の原出願に係る発明となし得たものであるから、結局、分割出願の適否は、分割出願に係る発明が当初明細書に記載されていたか否かを基準とすべきことになる。これを本件発明についていえば、平成3年5月16日の本件分割出願の適否は、本件分割出願に係る発明が本件原出願の当初明細書に記載されていたか否かを基準として決すべきである。」(判決第6頁第21行〜同第7頁第8行)と判示すると共に、「本件については、本件原出願の当初明細書に記載された発明の課題、課題の解決手段、発明の効果及び実施例に照らして、訂正請求に係る発明が原出願に含まれた発明であるかどうかを、特許庁において改めて審理判断することが相当である。」(判決第12頁第4〜7行)と判示している。

(2)そこで、原出願の願書に最初に添付した明細書をみると、次の記載が認められる。
イ.「一方に延長管を接続し、他方にホースを接続するパイプにおいて、第1の接続パイプと、一端が前記ホースに結合されると共に他端が前記第1の接続パイプに回転自在に嵌合される第2の接続パイプとを備え、前記第1の接続パイプと第2の接続パイプとが導電性リングにより電気的に接続されることを特徴とする電気掃除機のパイプ。」(【請求項1】、原出願の公開公報である特開平4-212323号公報第1欄第2〜8行参照)
ロ.「従来より、…電気掃除機の曲がりパイプに取っ手をつけたものが提案されている。…この取っ手付曲がりパイプを使用したものは、取っ手のないものに較べて、床用吸込口の移動が片手で楽に行なえる上、家具や天井と言ったある高さ以上の箇所を掃除する際、手に余分な負担をかけずに吸込口を動かすことができ掃除がやり易いといった利点がある。」(段落【0002】〜【0003】、同公報第1欄第14〜23行参照)
ハ.「しかしながら、従来の電気掃除機の取っ手付曲がりパイプにはホースが固定されており、延長管を取っ手付曲がりパイプの先に嵌合して電気掃除機を組立てたときや掃除中、あるいは経年変化によりホースのスプリングが製造当初の位置より巻き戻されるスプリングバックが生じていたりすると、ホースがねじれて使い勝手が悪いという問題点があった。」(段落【0004】、同公報第1欄第25〜31行参照)
ニ.「そこで本発明は、ホースのねじれを防止し、より一層使い勝手の良い電気掃除機の取っ手付曲がりパイプを提供することを目的とする。」(段落【003】、同公報第1欄第32〜34行参照)
ホ.「本発明は、ホースと取っ手付曲がりパイプとを管周方向に回転自在に接続するようにしたものである。」(段落【0006】、同公報第1欄第36〜38行参照)
ヘ.「これにより、ホースがねじれても、手に持った取っ手付曲がりパイプに対してホースが自動的に回転してねじれをなくすことができ、より一層掃除がやり易くなる。」(段落【0007】、同公報第1欄第40〜43行参照)
ト.「図1は本発明の一実施例による電気掃除機の取っ手付曲がりパイプを使用した電気掃除機の全体図を示したものである。
・・・電気掃除機の取っ手付曲がりパイプ1の吸込側には、図示のように、床用吸込口2への延長管3が接続され、またその反対の掃出側には本体4に連結されたホース5が接続される。」(段落【0009】〜【0010】、同公報第1欄第47行〜第2欄第3行参照)
チ.「この取っ手付曲がりパイプ1には、図2(a)の側面図に示すように、吸込側と掃出側に橋絡された取っ手部1Aが形成されており、この取っ手部1Aにはリモートコントロールスイッチ6が付設されている。また、吸込側は延長管3と接続する吸込部1Bとなっており、掃出側はホース5との接続部分を覆うサクションホースカバー部1Cとなっている。」(段落【0011】、同公報第2欄第4〜10行参照)
リ.「この取っ手付曲がりパイプ1の内部には、図3(a)の平面図に示すような接続パイプ8が内蔵されている。…溝8A,8Bの2本には導電性リング9がはめ込まれている。これら導電性リング9には、それぞれ1本づつのリード線10が接続されており、2本のリード線10はリモートコントロールスイッチ6に接続される。また、この接続パイプ8には外側の取っ手付曲がりパイプ1の締結部1Dとビスで固定するための締結部8Dが形成されている。…ホース5には同図(b)の平面図に示すように、接続パイプ11が取り付けられている。この接続パイプ11の外周にも3本の溝11A,11B,11Cが形成されており、このうち、溝11A,11Bには導電性リング12がはめ込まれている。これら導電性リング12にもリード線13が1本づつ接続されており、リード線13はさらにホース5内を通って本体4に向かうホース鋼線14に接続される。」(段落【0012】〜【0013】、同公報第2欄第14〜32行参照)
ヌ.「図4は、…取っ手付曲がりパイプ1のサクションホースカバー部1C部内に接続パイプ11を挿入して内蔵する接続パイプ8と挿入した接続パイプ11との結合状態を示したものである。…導電性リング12がはめ込まれた2本の溝11A,11Bの一部に貫通穴11Eが設けられているため、この部分だけ半球形状になった導電性リング12は内側の接続パイプ8の溝8A,8Bにはめ込まれた導電性リング9に圧接される。また、溝11Cにはめ込んだ抜け止め用樹脂リング15は一部が凸部15Aとなっており、この凸部15Aは溝11C内の貫通穴11Dを通って接続パイプ8の溝8Cに係合される。」(段落【0014】、同公報第2欄第34〜48行参照)
ル.「このように、本実施例の取っ手付曲がりパイプ1によれば、取っ手付曲がりパイプ1に締結部1D,8Dでビス7にて固定された接続パイプ8が内蔵されており、この接続パイプ8の外周にホース5の取り付けられた接続パイプ11が嵌挿されると共に、…抜け止め用樹脂リング15の凸部15Aが回転自在となる。従って、取っ手付曲がりパイプ1を手に持ったときホース5がねじれていてもホース5を回転させることによりホース5のねじれをなくすことができる。」(段落【0015】、同公報第2欄第49行〜第3欄第11行参照)
ヲ.「以上のように本実施例によれば、取っ手付曲がりパイプ1とホース5を回転自在に結合でき、床用吸込口2が取り付けられた延長管3を取っ手付曲がりパイプ1に吸込部1Bで接続したときの延長管3とホース5の位置ずれ、あるいは経年変化によりホース5が巻き戻されるスプリングバック、さらには高い所の掃除等によりホース5にねじれが生じても、ホース5が自動的に回転するため、一層掃除がやり易くなる。」(段落【0018】、同公報第3欄第29行〜第4欄第3行参照)
ワ.「本発明によれば、ホースと取っ手付曲がりパイプを回転自在に接続できることから使い勝手の良い電気掃除機の取っ手付曲がりパイプが得られる。」(段落【0019】、同公報第4欄第5〜7行参照)
また、原出願の願書に最初に添付した図面の図1には、本発明の一実施例による電気掃除機の取っ手付曲がりパイプを応用した電気掃除機の全体図が、同図2には、図1の取っ手付曲がりパイプの側面図および前記取っ手付曲がりパイプとホースを接続したときの平面図が、同図3には、図1の取っ手付曲がりパイプに内蔵される接続パイプの平面図および図1のホースに接続されている接続パイプの平面図が、同図4には、図3の各接続パイプを結合したときの結合部分の断面図が、また、同図5には、図3の接続パイプのリード線埋設処理説明図が、それぞれ示されている。

(3)以上を総合すると、上記記載イ.〜ワ.及び図1〜図5の記載における、原出願の願書に最初に添付した明細書の「電気掃除機本体4に接続されるホース5」は訂正発明における「掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホース」に、その機能・構造からみて相当すると認められる。同様に、「一端が前記ホース5に結合される接続パイプ11」は「該ホースの他端側が接続される接続パイプ」に、「接続パイプ11が回転自在に嵌合される接続パイプ8及び該接続パイプ8が内蔵し固定された取っ手付曲がりパイプ1」は「(ホースの他端側が接続される)接続パイプに回転自在に接続される把手パイプ」に、「取っ手付曲がりパイプ1の吸込側に接続される延長管3」は「把手パイプに接続される延長管」に、「延長管3が接続される床用吸込口2」は「延長管に接続される床用吸込具」に、取っ手部1Aの延長管3側(図2(a)参照)に配設された「リモートコントロールスイッチ6」は把手部の延長管側に配設された「リモートコントロールスイッチ」に、「リモートコントロールスイッチ6に接続される導電性リング9」は「リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体」に、「導電性リング9に圧接され、ホース5内のホース鋼線14を介して本体4に接続される貫通穴11Eの部分だけ半球形状になった導電性リング12」は「導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片」に、また、「凸部15Aが溝11C内の貫通穴11Dを通って接続パイプ8の溝8Cに係合される、溝11Cにはめ込んだ抜け止め用樹脂リング15」は「前記接続パイプと把手パイプとを回転自在に抜け止めする抜け止め部材」に、それぞれ、対応すると認められる。

(4)そこで、訂正発明の構成要件である「把手パイプに把手部を形成」が、原出願の願書に最初に添付した明細書に記載されているか否かを検討する。
原出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明は、従来の橋絡取っ手部を有する取っ手付曲がりパイプにおける問題点を解決するためになされたものであり(上記記載ロ.〜ニ.参照)、橋絡取っ手部を有する取っ手付曲がりパイプを有するを前提として発明の効果を奏するものである(上記記載ヘ.及びワ.参照)と解されることを考慮すると、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、発明として、且つ、その唯一の実施例として、橋絡取っ手部を有する取っ手付曲がりパイプを有するものに関して記載がなされているというほかない。
また、従来技術の欄には、「取っ手付曲がりパイプ」に対立させて「取っ手のないもの」も記載されており(上記記載ロ.参照)、「取っ手」と「把手」とが同じ「手に持つためにとりつけた、器物の突き出た部分」を意味する(広辞苑第5版)が、上記記載ロ.においは「取っ手付曲がりパイプ」と「取っ手のないもの」とが明確に区別され、「取っ手付曲がりパイプ」を使用したものが「取っ手のないもの」に較べて利点があることが述べられているだけであって,「取っ手のないもの」におけるホースのねじれについては、何も触れていない。したがって、「取っ手のないもの」と原出願の願書に最初に添付した明細書において開示している発明、あるいは実施例とは全くの関係がないと言える。
してみると,原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、訂正発明の「把手パイプ」の一部に対応する「取っ手付曲がりパイプ1」に、同じく「把手部」に対応する「吸込側と掃出側に橋絡された取っ手部1A」を形成したものが示されているものと認められるが、上記訂正発明の構成要件である、「(曲がりパイプ自体を握るものを含む)把手パイプに把手部を形成」することについての記載は全く見当たらないし、示唆する記載も見いだすことはできない。また、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面の記載から、「(曲がりパイプ自体を握るものを含む)把手パイプに把手部を形成」することが自明であるとも言えない。

(5)したがって、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、「(曲がりパイプ自体を握るものを含む)把手パイプに把手部を形成」することを構成要件とする、上記訂正発明は記載されていないから、上記訂正発明は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲外の事項を要旨とするものであり、本件出願は、原出願の一部を新たな特許出願としたものということはできない。
よって、本件出願は、特許法第44条第1項による適法な分割出願ではなく、本件出願については、出願日のそ及は認められないから、本件出願は、本件出願が現実に出願された平成3年5月16日に特許出願されたものとして扱うべきものである。

(6)なお、把手パイプの把手部に関して、特許権者は、平成10年12月7日付けの特許異議意見書(第3頁第1〜11行)において、「本件特許の明細書及び図面に記載された実施例は原出願と実質的に同一でありますが、原出願の明細書及び図面に記載された実施例には、本来2以上の発明が記載されていたものであり、・・・昭和62年当時においては、参考資料・・・に示される如く、『把手パイプに把手部を形成』する構成が一般的で、『把手パイプと離間して把手部を形成』する構成は、むしろ特異な構成であったものであり、このことからも原出願の明細書及び図面に2以上の発明が記載されていた」旨を主張すると共に参考資料3件を提出し、また、平成12年10月2日付けの特許異議意見書(第4頁第9〜12行)においては、「原出願の願書に添付した明細書又は図面には、実施例のものである『把手パイプに、把手パイプから離間して把手部を一体的に形成した』ものは勿論のこと、『把手パイプに把手部を形成した』ものをそれぞれ発明の構成要件とする、『把手部』に関する2以上の発明が包含されていたものであります。」と主張すると共に乙第1〜5号証を提出し、そして、平成13年4月23日付けの意見書(第3頁第11〜12行)において、「電気掃除機の『曲がりパイプに取っ手部を形成したパイプ』の種々の形態のものが周知慣用技術であ(る)」旨を主張し乙第6〜7号証を追加提出している。更に、及び平成15年5月22日付けの意見書において、「原出願の発明は、ホースのねじれに起因して操作性を損なうという課題を解決するものであり、この課題は、『把手パイプに、把手パイプから離間して把手部を一体的に形成し』た構成にして初めて生じるものではなく、把手パイプにホースが固定されていることに起因するものであり、把手部がどのように形成されているかは何ら関わりのないものである。」(第5頁第13〜17行)あるいは「原出願の願書に添付した明細書又は図面の記載から、上記課題を解決する電気掃除機で、把手部に関して上記周知慣用技術として例示したように、出願時の技術水準で判断して、『曲がりパイプに把手部』を有する発明、即ち、『把手パイプに把手部を形成』した構成を有する発明を上位概念の発明として、当業者が把握できることは明白である。」(第6頁第2〜6行)と主張している。
しかしながら、分割出願の要件は、分割出願に係る発明が原出願の願書に添付した明細書及び図面に記載されていることであり、平成11年(行ケ)第304号東京高裁判決(平成14年2月7日判決言渡)にて「客観的にみて周知慣用の技術であって、しかも、問題となっている発明に適用し得るようなものが存在するとしても、これらの技術をその発明に係る明細書又は図面に明示されているものと同視することが許されるのは、明細書又は図面に記載がなくともこれがあると認識できる程度に自明となっているような場合に限られるものというべきである。」と判示されている。
本件についてみると、特許権者が主張しているように、電気掃除機の「曲がりパイプに取っ手部を形成したパイプ」の種々の形態のものが周知慣用技術であると認められるとしても、上記(2)ロ.〜ヘ.及びワ.の記載から明らかなように、「取っ手付き曲がりパイプ」を備えることが唯一の実施例であるだけでなく、原出願の当初明細書に記載された発明が「取っ手付き曲がりパイプ」を前提にし、他の形態のパイプを全く想定していない。これらのことからみて、発明の一部として、「(曲がりパイプ自体を握るものを含む)把手パイプに把手部を形成」することが、原出願の当初明細書及び図面に記載があると認識できる程度に自明となっているとは認められない。
よって、上記特許権者の主張は採用できない。

(7)これに対して、本件出願前に頒布された刊行物である、実願昭62-18859号(実開昭63-129557号)のマイクロフィルム(原々出願の願書に最初に添附した明細書及び図面の内容を撮影したものである。以下、「刊行物1」という。)には、以下に示したとおりの事項が記載されている。
イ.「一方に延長管を接続し、他方にホースを接続するパイプの上面に、前後部を橋絡する取っ手部を備えた電気掃除機の取っ手付曲がりパイプにおいて、内部に固定される第1の接続パイプと、一端が前記ホースに結合されると共に他端が前記第1の接続パイプに回転自在に嵌合される第2の接続パイプとを備える」(明細書第1頁第5〜11行)
ロ.「従来より、・・・電気掃除機の曲がりパイプに取っ手をつけたものが提案されている。この取っ手付曲がりパイプを使用したものは、取っ手のないものに較べて、床用吸込口の移動が片手で楽に行なえる上、家具や天井といったある高さ以上の箇所を掃除する際、手に余分な負担をかけずに吸込口を動かすことができ掃除がやり易いといった利点がある。」(明細書第2頁第2〜11行)
ハ.「しかしながら、従来の電気掃除機の取っ手付曲がりパイプにはホースが固定されており、延長管を取っ手付曲がりパイプの先に嵌合して電気掃除機を組立てたときや掃除中、あるいは経年変化によりホースのスプリングが製造当初の位置より巻き戻されるスプリングバックが生じていたりすると、ホースがねじれて使い勝手が悪いという問題点があった。」(明細書第2頁第13〜20行)
ニ.「そこで本考案は、ホースのねじれを防止し、より一層使い勝手の良い電気掃除機の取っ手付曲がりパイプを提供することを目的とする。」(明細書第3頁第1〜3行)
ホ.「本考案は、ホースと取っ手付曲がりパイプとを管周方向に回転自在に接続するようにしたものである。」(明細書第3頁第5〜7行)
ヘ.「これにより、ホースがねじれても、手に持った取っ手付曲がりパイプに対してホースが自動的に回転してねじれをなくすことができ、より一層掃除がやり易くなる。」(明細書第3頁第9〜12行)
ト.「第1図は本考案の一実施例による電気掃除機の取っ手付曲がりパイプを使用した電気掃除機の全体図を示したものである。
電気掃除機の取っ手付曲がりパイプ1の吸込側には、図示のように、床用吸込口2への延長管3が接続され、またその反対の掃出側には本体4に連結されたホース5が接続される。」(明細書第3頁第16行〜第4頁第2行)
チ.「この取っ手付曲がりパイプ1には、第2図(a)の側面図に示すように、吸込側と掃出側に橋絡された取っ手部1Aが形成されており、この取っ手部1Aにはリモートコントロールスイッチ6が付設されている。また、吸込側は延長管3と接続する吸込部1Bとなっており、掃出側はホース5との接続部分を覆うサクションホースカバー部1Cとなっている。」(明細書第4頁第3〜10行)
リ.「この取っ手付曲がりパイプ1の内部には、第3図(a)の平面図に示すような接続パイプ8が内蔵されている。…溝8A,8Bの2本には導電性リング9がはめ込まれている。これら導電性リング9には、それぞれ1本づつのリード線10が接続されており、2本のリード線10はリモートコントロールスイッチ6に接続される。また、この接続パイプ8には外側の取っ手付曲がりパイプ1の締結部1Dとビスで固定するための締結部8Dが形成されている。…ホース5には同図(b)の平面図に示すように、接続パイプ11が取り付けられている。この接続パイプ11の外周にも3本の溝11A,11B,11Cが形成されており、このうち、溝11A,11Bには導電性リング12がはめ込まれている。これら導電性リング12にもリード線13が1本づつ接続されており、リード線13はさらにホース5内を通って本体4に向かうホース鋼線14に接続される。」(明細書第4頁第13行〜第5頁第11行)
ヌ.「第4図は、…取っ手付曲がりパイプ1のサクションホースカバー部1C部内に接続パイプ11を挿入して内蔵する接続パイプ8と挿入した接続パイプ11との結合状態を示したものである。…導電性リング12がはめ込まれた2本の溝11A,11Bの一部に貫通穴11Eが設けられているため、この部分だけ半球形状になった導電性リング12は内側の接続パイプ8の溝8A,8Bにはめ込まれた導電性リング9に圧接される。また、溝11Cにはめ込んだ抜け止め用樹脂リング15は一部が凸部15Aとなっており、この凸部15Aは溝11C内の貫通穴11Dを通って接続パイプ8の溝8Cに係合される。」(明細書第5頁第13行〜第6頁第7行)
ル.「このように、本実施例の取っ手付曲がりパイプ1によれば、取っ手付曲がりパイプ1に締結部1D,8Dでビス7にて固定された接続パイプ8が内蔵されており、この接続パイプ8の外周にホース5の取り付けられた接続パイプ11が嵌挿されると共に、…抜け止め用樹脂リング15の凸部15Aが回転自在となる。従って、取っ手付曲がりパイプ1を手に持ったときホース5がねじれていてもホース5を回転させることによりホース5のねじれをなくすことができる。」(明細書第6頁第8〜20行)
ヲ.「以上のように本実施例によれば、取っ手付曲がりパイプ1とホース5を回転自在に結合でき、床用吸込口2が取り付けられた延長管3を取っ手付曲がりパイプ1に吸込部1Bで接続したときの延長管3とホース5の位置ずれ、あるいは経年変化によりホース5が巻き戻されるスプリングバック、さらには高い所の掃除等によりホース5にねじれが生じても、ホース5が自動的に回転するため、一層掃除がやり易くなる。」(明細書第7頁第18行〜第8頁第6行)
ワ.「本考案によれば、ホースと取っ手付曲がりパイプを回転自在に接続できることから使い勝手の良い電気掃除機の取っ手付曲がりパイプが得られる。」(明細書第8頁第8〜10行)
また、図面第1図には、本考案の一実施例による電気掃除機の取っ手付曲がりパイプを応用した電気掃除機の全体図が、同第2図(a)には、第1図の取っ手付曲がりパイプの側面図が、同第2図(b)には、第1図の取っ手付曲がりパイプとホースを接続したときの平面図が、同第3図(a)には、第1図の取っ手付曲がりパイプに内蔵される接続パイプの平面図が、同第3図(b)には、第1図のホースに接続されている接続パイプの平面図が、第4図には、第3図(a),(b)の各接続パイプを結合したときの結合部分の断面図が、また、第5図には、第3図(a)の接続パイプのリード線埋設処理説明図が、それぞれ示されている。

これらイ.〜ワ.の記載及び図面の記載を総合すると、上記刊行物1は、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「電気掃除機本体に接続されるホース5と、一端が前記ホース5に結合される第2の接続パイプ11と、該第2の接続パイプ11が回転自在に嵌合される第1の接続パイプ8と、該第1の接続パイプ8を内部に固定される取っ手付曲がりパイプ1と、該取っ手付曲がりパイプ1の吸込側に接続される延長管3と、該延長管3が接続される床用吸込口2とを備え、前記取っ手付曲がりパイプ1に吸込側と掃出側に橋絡された取っ手部1Aを形成し、該取っ手部1Aの延長管3側にリモートコントロールスイッチ6を配設すると共に、該リモートコントロールスイッチ6に接続される導電性リング9を前記第2の接続パイプ11に設け、該導電性リング9に圧接し、ホース5内のホース鋼線14を介して本体4に接続され、貫通穴11Eの部分だけ半球形状になった導電性リング12を前記第2の接続パイプ11に配設し、凸部15Aが溝11C内の貫通穴11Dを通って前記第1の接続パイプ8の溝8Cに係合される、溝11Cにはめ込んだ抜け止め用樹脂リング15を設けた電気掃除機。」

(8)また、本願出願前に頒布された刊行物である実公昭39―5450号公報(特許異議申立人株式会社日立製作所が提出した甲第1号証、以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に、次のように記載されている。
イ.「掃除機主体に着脱自在に挿着したフレキシブルホースとこのホースに回転自在に連結したアタッチメント接続管の双方にこれら両者の所定結合状態で常時接触する互に回転自在の接続子を設け上記接続管に設けた主体制御用リモートスイッチの接続コードを上記両接続子を介して上記主体の電源回路に接続して成る電気掃除機のリモートスイッチ取付装置。」(第1頁右欄第34〜41行)
ロ.「3,4はこの凹み2に一体に重合定着した掃除機のリモートコード、…7は上記フレキシブルホース1の先端を一側口に嵌挿定着しホースの一部を形成する合成樹脂製連結筒、8,9は上記フレキシブルホース1の上記連結筒7の先端に環状溝10,11を形成してその中に嵌合定着した金属製の導電リング、12,13は上記各リング8,9に連通するように連結筒7に設けた孔で上記コード3,4の導出線5,6がそれぞれこの孔12,13を貫通して上記各リング8,9に接続されている。」(第1頁左欄第22〜32行)
ハ.「15は延長管…を取付ける合成樹脂製の接続管で、この接続管15は…上記連結筒7を回転自在に嵌挿する連結部16を該部に形成し、かつ該連結部16の開口端17は…、上記環状溝14と係合し接続管15の抜止めをこの部分でするようにされている。」(第1頁左欄第33行〜右欄第1行)
ニ.「18,19は上記連結筒7と上記連結部16が互に回動した場合でもそれぞれ上記リング8,9と常時接触を保つように先端接触部を上記連結部16を貫通して設けた接点で、上記連結部16の外側に設けた端子板20,21にそれぞれ連結している。」(第1頁右欄第1〜6行)
ホ.「本案は…、ホースとアタッチメント接続管とをその結合部において回転自在に構成しているので使用時におけるホースの捩れがアタッチメントに作用するすることがなく、…上記結合部において二分されたリモートコードの分割端はホースと接続管とが互に回動しても常時接触するように電気的に結合されている」(第1頁右欄第16〜23行)
ヘ.「リモートスイッチ34がコード22を介して接点18,19に接続されるので、コード22の長さを適宜に選定することによってリモートスイッチ24を最も操作しやすい位置でアタッチメント接続管15に設けることができるものである。」(第1頁右欄第28〜32行)
これらイ.〜ヘ.の記載及び図面の記載を総合すると、上記刊行物2は、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「掃除機主体に着脱自在に挿着したフレキシブルホース1と、フレキシブルホース1の先端を一側口に嵌挿定着しホースの一部を形成する合成樹脂製連結筒7と、該連結筒7を回転自在に嵌挿する連結部16を形成した接続管15と、該接続管15に取付ける延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え、前記接続管15に設けた主体制御用リモートスイッチ24を配設すると共に、該主体制御用リモートスイッチ24に接続される接点18,19を前記接続管15に設け、該接点18,19に電気的に接続され、フレキシブルホース1に付設されたリモートコード3,4を介して掃除機主体に接続される導電リング8,9を前記連結筒7に配設し、前記連結筒7と前記接続管15とを回転自在に抜け止めする前記連結部16の開口端17及びこれと係合する環状溝14とからなる抜止め部分を設けた電気掃除機。」

(9)訂正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「電気掃除機本体4に接続されるホース5」は訂正発明における「掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホース」に、以下、同様に、「一端が前記ホース5に結合される第2の接続パイプ11」は「該ホースの他端側が接続される接続パイプ」に、「取っ手付曲がりパイプ1の吸込側に接続される延長管3」は「把手パイプに接続される延長管」に、「延長管3が接続される床用吸込口2」は「延長管に接続される床用吸込具」に、取っ手部1Aの延長管3側(第2図(a)参照)に配設された「リモートコントロールスイッチ6」は「把手部の延長管側に配設されたリモートコントロールスイッチ」に、「リモートコントロールスイッチ6に接続される導電性リング9を前記第2の接続パイプ11に設け」は「前記把手パイプに、リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体を設け」に、「導電性リング9に圧接し、ホース5内のホース鋼線14を介して本体4に接続され、貫通穴11Eの部分だけ半球形状になった導電性リング12を前記第2の接続パイプ11に配設し」は「前記接続パイプに、導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片を配設し」に、また、「凸部15Aが溝11C内の貫通穴11Dを通って接続パイプ8の溝8Cに係合される、溝11Cにはめ込んだ抜け止め用樹脂リング15」は「接続パイプと把手パイプとを回転自在に抜け止めする抜け止め部材」に、それぞれ、その機能、構造からみて相当する。
従って、両者は、
「掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホースと、該ホースの他端側が接続される接続パイプと、該接続パイプに回転自在に接続される把手パイプと、該把手パイプに接続される延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え、前記把手パイプにリモートコントロールスイッチを配設すると共に、前記把手パイプに、リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体を設け、前記接続パイプに、該導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片を配設し、前記接続パイプと把手パイプとを回転自在に抜け止めする抜け止め部材を設けたことを特徴とする電気掃除機。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点A:「把手パイプ」に関して、訂正発明では、接続パイプに回転自在に接続される部分と延長管に接続される部分とが2部材からなると特定されておらず、また、延長管に接続される部分が曲がりパイプであると特定されていないのに対して、引用発明1では第2の接続パイプに接続される「第1の接続パイプ」と、延長管に接続されると共に第1の接続パイプを内部に固定される「取っ手付曲がりパイプ1」との2部材から構成される点
相違点B:「把手部」に関して、訂正発明では「把手パイプに把手部を形成し、把手部の延長管側にリモートコントロールスイッチを配設する」のに対して、引用発明1では「取っ手付曲がりパイプ1に、吸込側と掃出側に橋絡された取っ手部1Aを形成し、取っ手部1Aの延長管3側にリモートコントロールスイッチ6を配設する」点

(10)そこで、これらの相違点について検討する。
・相違点Aについて
引用発明2は、訂正発明あるいは引用発明1と同様に、「ホースのねじりを防止した電気掃除機」に関するものであって、その「接続管15」に注目すると、「連結筒7を回転自在に嵌挿する連結部16を形成した接続管と、該接続管に取付ける延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え」ることから、その「接続管15」は、把手部を形成する点を除けば、その構造及び機能からみて、訂正発明の「把手パイプ」に相当することは明らかである。そして、訂正発明の「接続パイプ」に相当する「連結筒7」に回転自在に接続される部分、即ち、「連結部16」と延長管に接続される部分とが一体であることは明らかであり、また、曲がりパイプであるとも言えない。
してみると、引用発明1の「第1の接続パイプ」と「第1の接続パイプを内部に固定される取っ手付曲がりパイプ1」の2部材からなるものを引用発明2の「接続管15」に置き換え、相違点Aのように構成することは、当業者ならば容易に想到し得る程度のことであり、該置換により生じる作用効果も、当業者ならば予測し得る範囲のものであって、何ら格別のものではない。

・相違点Bについて
刊行物2には、使用者が電気掃除機の何処を把持するのか、記載されていない。しかし、特許権者が提出した参考資料1(特開昭56-68419号公報)あるいは参考資料2(実開昭61-140753号公報)には、ホースのねじれを防止した電気掃除機を対象とするものではないが、ホースと延長管(パイプ)を接続する「握り管8あるいは12」上に引用発明2のリモートスイッチに相当する「手元スイッチ14あるいは11」を設けることが明示されていることからみて、引用発明2の「接続管15」が「握り管」、即ち、「把手部」を機能を有するものであると認められる。(なお、刊行物2と関連する公報である実公昭42-12278号公報には、「一般に、電気掃除機本体の吸込口に差し込まれる可撓ホースと、このホースに取り着けられ・・・・・適宜吸込具が接続される握り柄管との間は、掃除中にホースが捻れるのを防止するために、回転自在な構造にして連結されるいる。・・・・・握り柄管にリモートスイッチを設けたものも実施されてきたが、このものは、スイッチ自身に直接導線を接続すればそれだけでもスイッチとして働くいわば完成品のスイッチを単に握り柄管に設けたものでおのずからスイッチを設けた握り柄管の部分が大きくなる欠点があった。」(公報第1頁左段第18〜34行)と記載されていることからも、上記認定が裏付けられる。)
してみると、刊行物2には、「把手パイプに把手部を形成」することが記載されていることとなり、相違点Aと同様に、相違点Bも、刊行物2の記載に基いて当業者ならば容易に想到し得る程度のことであると言わざるを得ない。

更に、相違点A及びBを合わせ考えても、その効果が格別であるとは言えない。

(11)以上のことから、訂正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3)したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、これを認めることはできない。

3.本件特許に対する当審の判断
1)本件特許に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された以下のものにあると認める。
「掃除機本体に一端部が接続される可撓性ホースと、該ホースの他端側が接続される接続パイプと、該接続パイプに回転自在に接続される把手パイプと、該把手パイプに接続される延長管と、該延長管に接続される床用吸込具とを備え、前記把手パイプに把手部を形成し、把手部の延長管側にリモートコントロールスイッチを配設すると共に、前記把手パイプに、リモートコントロールスイッチに接続される導電性摺接体を設け、前記接続パイプに、導電性摺接体に電気的に接続され、可撓性ホースに付設された導電線を介して掃除機本体に接続される導電性摺接片を配設したことを特徴とする電気掃除機。」

2)しかるに、この発明は、上記訂正発明の構成中、「接続パイプと把手パイプとを回転自在に抜け止めする抜け止め部材を設けた」構成を限定しないものであるから、上記「2.平成12年10月2日付け訂正請求の適否について」において判断したと同様に、特許法第44条第1項による適法な分割出願とは認められず、かつ、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1998-12-21 
出願番号 特願平3-139455
審決分類 P 1 651・ 851- ZB (A47L)
P 1 651・ 856- ZB (A47L)
P 1 651・ 121- ZB (A47L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平城 俊雅  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 平上 悦司
大元 修二
和泉 等
岡田 孝博
登録日 1997-05-09 
登録番号 特許第2648043号(P2648043)
権利者 三洋電機株式会社
発明の名称 電気掃除機  
代理人 樺沢 襄  
代理人 島宗 正見  
代理人 高田 幸彦  
代理人 竹ノ内 勝  
代理人 山口 隆生  
代理人 樺沢 聡  

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