• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1089940
異議申立番号 異議2003-71212  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-12 
確定日 2003-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3342977号「塗膜保護用シート」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3342977号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3342977号(平成6年11月18日出願、平成14年8月23日設定登録)の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】ポリプロピレン系ポリマー20〜94.9重量%、酸化チタン5〜20重量%、及び紫外線安定化剤0.1〜2重量%を少なくとも含有し、150μm以下の厚さにおいて初期の降伏点強度が15〜50N/25mmのPP系フィルムに、粘着剤層を設けてなり、前記のポリプロピレン系ポリマーがエチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー、ポリプロピレンのホモポリマー又はランダムポリプロピレンの2種以上のブレンド物からなることを特徴とする塗膜保護用シート。
【請求項2】PP系フィルムにその他のオレフィン系ポリマー又はその他の添加剤の少なくとも1種を74.9重量%以下追加配合してなる請求項1に記載の塗膜保護用シート。
【請求項3】PP系フィルムの当該降伏点強度が20〜35N/25mmである請求項1又は2に記載の塗膜保護用シート。」

2.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人 白崎吉子は、証拠として、本件特許出願前に頒布されたことが明らかな下記の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件発明1ないし3は、甲第1号証、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、また、本件出願は、その明細書の記載が、特許法第36条第4項及び第6項(なお、特許異議申立書の主張の内容から特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項に関する主張と認める。)に規定する要件を満たしていないため特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし3に係る特許は、それぞれ対応する特許法第113条各号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。


甲第1号証:特開平6-271821号公報
甲第2号証:社団法人高分子学会編「高分子データ・ハンドブック-応用編-」(株式会社培風館 昭和61年1月30日発行)第20〜27頁

3.甲各号証の記載
3-1.甲第1号証の記載
3-1(1)
産業上の利用分野について、「本発明は、再剥離可能な再剥離型粘着保護テープに関し、さらに詳しくは自動車の塗装完成車などを始めとする塗装鋼板の輸送時あるいは屋外保管時に、塗装面に発生する傷付き、汚染、腐食、変色などを防止するために一時的に塗装表面に貼付し、上記目的を達成した後は塗装表面から容易に剥離することができ」(明細書段落【0001】)と記載されている。

3-1(2)
単層又は多層フィルムについて、「本発明の再剥離型粘着保護テープにおいては、単層又は多層フィルムは熱可塑性樹脂フィルムで構成される。本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、種々の熱可塑性樹脂を使用することができるが、・・・プロピレン単独重合体又は・・・エチレン含有量が1〜10重量%であるエチレン・プロピレンランダム共重合体が好ましい。」と、また、「熱可塑性樹脂は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。」(明細書段落【0006】)と記載されている。

3-1(3)
実施例1として、「プロピレン単独重合体84.6重量%にルチル型酸化チタン15重量%及び4-位に置換基を有する2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体系ヒンダードアミン光安定剤(チバガイギー社のキマソルブ944LD(商品名))0.4重量%を配合したものを押出機に供給し、押出機で溶融混練し、T型ダイからフイルム状に押出し、厚み50μmの単層の白色系層1からなる白色フイルムを製造した。」と、また、「次に、この単層白色フイルムの一方の表面をコロナ放電処理し、長鎖アルキル系剥離剤を0.1g/m2になるように塗布し、剥離剤層3を設けた。さらに、単層白色フイルムの他方の表面にコロナ放電処理を施し、ポリイソブチレンゴムを主成分とする粘着剤を10g/m2になるように溶剤溶解法により塗布して再剥離型粘着剤層2を設け、再剥離型粘着保護テープを製造した。」(明細書段落【0022】)と記載されている。

3-2.甲第2号証の記載
3-2(1)
ポリプロピレンの分子構造および特徴的性質について、「ポリプロピレンには,ホモポリマーの他に主エチレンとのランダムコポリマー,ブロックコポリマーがあり広範囲に使われている。このうち,ブロックコポリマーは,文字どおりのブロックコポリマーではなく,プロピレンのみからなるホモポリマーセグメントとエチレンとプロピレンの共重合体からなるエラストマーセグメントが,各々独立の分子を形成している点に注意を要する。」(第20頁左欄第6〜13行)と記載されている。

3-2(2)
ポリプロピレンの一般的な性能データについて、ポリプロピレンのホモポリマー、ランダムコポリマーの引張り降伏点応力が、それぞれ330〜360kg・cm-2、250〜300kg・cm-2であること(第21頁、表1・3・1)及びポリプロピレン・ブロックコポリマーの引張り降伏点応力が、エラストマーの含量や、流動性に応じて180〜350kg・cm-2であること(第22頁、表1・3・2)が記載されている。

4.対比・判断
4-1.特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項について
特許異議申立人は、本件明細書中の「エチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー」という記載について、エチレン及びプロピレンはともにモノマーであってゴム成分ではないし、また、本件明細書には汎用のブロックポリプロピレンであることも明示されていないことから、上記記載における「ポリプロピレンのブロックポリマー」の意味が不明であり、どのようなポリマーを規定したものかが理解できず、発明が把握できない旨主張している。

しかしながら、本件請求項1には、「ポリプロピレン系ポリマーがエチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー、ポリプロピレンのホモポリマー又はランダムポリプロピレンの2種以上のブレンド物からなる」と記載されており、本件明細書段落【0010】には、「ポリプロピレン系ポリマーとしては、・・・エチレン及びプロピレンをゴム成分として含有する、特に5〜30重量%含有するポリプロピレンのブロックポリマー、ポリプロピレンのホモポリマー、ランダムポリプロピレンの内の2種以上をブレンドして用いられる。」と記載されており、また、本件実施例には、ホモポリプロピレン及びランダムポリプロピレンのブレンド物、或いは、エチレンとプロピレンをゴム成分として11重量%含有するポリプロピレンのブロックポリマー、ホモポリプロピレン及び低密度ポリエチレンのブレンド物が記載されている。

これらの記載からすれば、本件明細書記載の「ポリプロピレンのブロックポリマー」とは、「エチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー」であることは明らかである。

また、甲第2号証の上記3-2(1)を参照すれば、ポリプロピレンのブロックポリマーは、プロピレンのみからなるホモポリマーセグメントと、エチレンとプロピレンの共重合体からなるエラストマーセグメントとからなることは、当業者に知られたことである。

以上のことから、本件明細書に記載された「エチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー」とは、エチレンとプロピレンをゴム成分として含有する、すなわち、エチレンとプロピレンの共重合体をエラストマーセグメントとして含有するポリプロピレンのブロックポリマーのことと、甲第2号証の上記3-2(1)の記載とも矛盾することなく、当業者であれば理解できることであり、本件明細書には、他のものを意味すると解される記載もない。

したがって、本件明細書における「エチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー」という記載は不明りょうとはいえず、当業者が本件発明1ないし3を実施できないともいえない。

4-2.特許法第29条第2項について
本件発明1は、
(A)ポリプロピレン系ポリマー20〜94.9重量%、(B)酸化チタン5〜20重量%、(C)紫外線安定化剤0.1〜2重量%を少なくとも含有し、(D)150μm以下の厚さにおいて初期の降伏点強度が15〜50N/25mmのPP系フィルムに、(E)粘着剤層を設け、(F)前記のポリプロピレン系ポリマーがエチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー、ポリプロピレンのホモポリマー又はランダムポリプロピレンの2種以上のブレンド物からなる(G)塗膜保護用シート、
に係るものである。

一方、甲第1号証の実施例1には、上記3-1(3)を参照すれば、
(a)プロピレン単独重合体84.6重量%、(b)ルチル型酸化チタン15重量%、(c)4-位に置換基を有する2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体系ヒンダードアミン光安定剤0.4重量%を配合したものから、(d)厚み50μmの単層の白色系層1からなる白色フイルムを製造し、(e)その単層白色フイルムの表面に再剥離型粘着剤層を設けた、(f)再剥離型粘着保護テープ、
が記載されているものと認められる。

そこで、本件発明1の塗膜保護用シートと、甲第1号証の実施例1に記載された上記の再剥離型粘着保護テープ(以下、引例保護テープという。)とを比較すると、上記(A)は(a)と、(B)は(b)と、(C)は(c)と、(E)は(e)とそれぞれ一致もしくは重複するものであるから、両者は以下の相違点(イ)〜(ハ)で相違し、その余の点では一致するものである。

相違点(イ)
本件発明1の塗膜保護用シートは、(D)150μm以下の厚さにおいて初期の降伏点強度が15〜50N/25mmのPP系フィルムを用いているのに対し、
引例保護テープは、(d)厚み50μmの単層の白色系層1からなる白色フイルムを用いている点

相違点(ロ)
本件発明1の塗膜保護用シートは、(F)前記のポリプロピレン系ポリマーがエチレンとプロピレンをゴム成分として含有するポリプロピレンのブロックポリマー、ポリプロピレンのホモポリマー又はランダムポリプロピレンの2種以上のブレンド物を用いているのに対し、
引例保護テープは、(a)プロピレン単独重合体を用いている点

相違点(ハ)
本件発明1は、(G)塗膜保護用シートであるのに対し、
引例保護テープは、(f)再剥離型粘着保護テープである点

上記相違点(イ)〜(ハ)について以下に検討する。
相違点(ハ)について
甲第1号証の上記3-1(1)の記載を参酌すれば、引例保護テープも塗膜を保護するシートと認められ、上記相違点(ハ)は文言上の相違に過ぎず、実質的な相違はない。

相違点(ロ)について
甲第1号証の上記3-1(2)の記載を参酌すれば、甲第1号証には、プロピレン単独重合体のみではなく、エチレン含有量が1〜10重量%であるエチレン・プロピレンランダム共重合体を組み合わせたものを用いても良いことは記載されている。
しかしながら、本件発明1は、曲面作業性に優れることを目的とし(本件明細書段落【0006】参照)、ポリプロピレン系ポリマーをブレンド物とすることを必須とするものであるのに対し、甲第1号証には、上記課題も、2種以上を組み合わせて用いることを必須とすることも明示されていない。
したがって、上記相違点(ロ)は、甲第1号証の記載から容易に想到し得ることとは認められない。

相違点(イ)について
本件発明1においては、PP系フィルムは、150μm以下の厚さにおいて初期の降伏点強度を、強度に乏しくて腰(自己支持性)が弱く接着作業時に皺が入りやすくなく、剥離作業性にも劣ることなく、かつ、柔軟性に乏しくて曲面に対する接着作業性に劣るものとならないフィルムとするべき最適範囲として、15〜50N/25mmとしたものである。(本件明細書段落【0012】、【0013】参照)
これに対し、甲第1号証には、単層フィルムの強度や曲面への接着作業性、剥離作業性、柔軟性については、何も明示されておらず、単層フィルムの降伏点強度について示唆する記載もない。
また、甲第2号証の上記3-2(2)の記載を参酌しても、甲第2号証には、一般的性質として、ポリプロピレンのホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーの引張り降伏点応力が記載されているのみで、剥離可能な塗膜保護用シートに求められる引張り降伏点応力の範囲が示されているものではない。
したがって、甲第1号証には、課題が示されておらず、甲第2号証には、課題を解決するための手段が示されていないから、これらを組み合わせて参照しても、上記相違点(イ)にあげられた構成を導き出すことはできない。

そして、本件発明1は、上記相違点(イ)、(ロ)にあげられた構成を採用することにより、曲面への接着作業性に優れ、しかも耐候性にも優れて接着した状態で高温屋外下に長期間放置した場合にも、充分なシート強度を保持して破損等のトラブルなく容易に剥離できる塗膜保護用シートを得ることができる、という本件明細書記載の効果を奏するものである。

以上のことから、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

また、本件発明2及び3は、本件発明1の上記構成(D)及び(F)を必須の構成とするものであるから、上記と同様の理由で、甲第1号証及び甲第2号証の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1ないし3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-11-11 
出願番号 特願平6-309624
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09J)
P 1 651・ 531- Y (C09J)
P 1 651・ 534- Y (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 関 美祝
鈴木 紀子
登録日 2002-08-23 
登録番号 特許第3342977号(P3342977)
権利者 関西ペイント株式会社 日東電工株式会社
発明の名称 塗膜保護用シート  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ