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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21C
管理番号 1089941
異議申立番号 異議2003-71178  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-09 
確定日 2003-12-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3343382号「伸線前処理剤用石灰石けん組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3343382号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3343382号の請求項1ないし3に係る発明は、平成5年1月18日に出願され、平成14年8月23日にその特許権の設定登録がなされ、その後、共栄社化学株式会社により特許異議の申立てがなされたものである。

2.特許異議の申立てについての判断

(1)本件発明

本件請求項1ないし3に係る発明は、明細書の特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものである。

「【請求項1】 固形分濃度30〜60質量%である脂肪酸のカルシウム塩の水分散物、キャリヤー粉末及び所定量の水を含有してなる混合物であって、水分10〜40質量%のウェット状粉末よりなることを特徴とする伸線前処理剤用石灰石けん組成物。
【請求項2】 キャリヤー粉末が、消石灰、炭酸カルシウム、クレー、タルク及びベントナイトからなる群から選択される1種または2種以上である請求項1記載の伸線前処理剤用石灰石けん組成物。
【請求項3】 ウェット状粉末が、防錆剤、付着剤、密着剤、消泡剤、潤滑付与剤及びスカム防止剤の1種または2種以上を合計量で10質量%以下含有してなる請求項1記載の伸線前処理剤用石灰石けん組成物。」

2.特許異議の申立ての理由の概要

異議申立人 共栄社化学株式会社は、証拠として、甲第1号証(特開昭49-53609号公報)、甲第2号証(特開昭54-163275号公報)、甲第3号証(特開昭59-219400号公報)および甲第4号証(特開平3-68697号公報)を提示し、本件請求項1ないし3に係る発明は、甲第3号証および甲第4号証を参照すれば、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものであると主張している。

3.甲号各証に記載の発明

甲第1号証(特開昭49-53609号公報)には、乾式線引き用潤滑剤に係る発明が記載され、「潤滑剤は、それがワイヤに適用される時点では粒状である。すなわち、潤滑剤はその時点では融解されておらず、また溶液の形でもない。」(2頁左上欄8〜10行)とあり、「本発明の組成物を形成するに当たって、脂肪又は脂肪酸、アルカリ中和剤、水、充てん剤およびさび止め剤の如き種々の反応体を攪拌機付きの加熱された反応器に供給することにより、石けん処方物が先ず調整される。・・・・。反応の間、反応生成物は生パン(ドウ)様のペーストから粉末へと変化する。粉末は終局において通常約7〜12%の水分を有する。次いで、この粉末は、・・・・乾燥に付される。」(2頁右下欄6〜19行)と記載され、かつ「最終的乾燥作業において・・・遊離水含量が約0.5〜0.75重量%になるようにすることは本発明にとって不可欠である。」(5頁左欄1〜4行)と説明され、石けんとしてはカルシウム(又は石灰)石けんが、充填剤としては炭酸カルシウム、クレー、タルクなどが挙げられている(4頁左下欄および右下欄)。
甲第2号証(特開昭54-163275号公報)には、「ウエット状金属石鹸に界面活性剤を添加、混合して得られる安定かつ均一な分散性がすぐれた金属石鹸サスペンジョンから成る金属加工用潤滑剤」(特許請求の範囲)に係る発明が記載され、「本発明で使用する金属石鹸とは、ソーダ、カリ石鹸と金属塩の複分解法(湿式法)において得られる乾燥、粉砕前の水分を含有したままの中間製品を意味するもので、複分解反応により生成した不純物を除去しただけの含水金属石鹸を意味し、以下これをウエット状金属石鹸と称する。」(1頁右欄4〜9行)と説明され、「ウエット状金属石鹸は水分を含み且つ乾燥工程にかけてないために粒子表面が水に濡れた状態にあるので、容易に界面活性剤によってサスペンジョンを形成する。また、このウエット状金属石鹸は複分解反応工程で生成される不純物としての・・・などは水洗、除去されたものであって、金属石鹸含有量は製造工程により若干の相違はあるが、約10〜40%、水分含有量は約60〜90%の範囲内にある。」(2頁左上欄14〜右上欄2行)と記載されている。
甲第3号証(特開昭59-219400号公報)には、「金属石鹸38〜60重量%、水36〜62重量と、特定の界面活性剤1.6〜6重量%より構成される金属石鹸の水分散体」(特許請求の範囲)が記載され、甲第4号証(特開平3-68697号公報)には、「金属石鹸4〜160g/lと固体潤滑剤50〜400g/lと界面活性剤0.5〜40g/lとを含有する金属の冷間塑性加工用水系潤滑処理液」(特許請求の範囲)に係る発明において、「金属石鹸:固体潤滑剤(タルク)が重量比で2:5〜1:50の範囲」に選ぶと優れた潤滑効果が得られることが記載されている。

4.対比・判断

本件請求項1に係る発明と、甲号各証に記載された発明を比較すると、甲第1号証の発明は遊離水含量が約0.5〜0.75重量%の乾式の潤滑剤である点で、水分10〜40質量%のウェット状粉末よりなる潤滑剤である本件発明とは大きく相違している。たしかに、甲第1号証には潤滑剤の中間製品として「脂肪酸、アルカリ中和剤、水、充てん剤およびさび止め剤の如き種々の反応体を攪拌機付きの加熱された反応器に供給することにより調整された、約7〜12%の水分を有する粉末」が記載され、これは本件請求項1に係る発明の「ウェット状粉末」に近似したものではあるが、甲第1号証には、これを潤滑剤である伸線前処理剤として、そのまま石灰石けん液槽に投入して使用するという技術思想は開示されてない。甲第2号証には、単に、ウエット状金属石鹸が容易に界面活性剤によってサスペンジョンを形成することが示されているだけで、甲第1号証の上記の中間製品である約7〜12%の水分を有する粉末が、伸線前処理剤として、そのまま石灰石けん液槽に投入して使用できることを示唆するものではない。
したがって、甲第3号証により「金属石鹸38〜60重量%・・・の水分散体」が本件出願時に極めて当たり前のものであり、かつ、甲第4号証により金属の潤滑処理液として「金属石鹸:固体潤滑剤(タルク)が重量比で2:5〜1:50の範囲」に選ぶと潤滑効果が得られることが知られていても、「ウェット状粉末」の形の伸線前処理剤を、そのまま石灰石けん液槽に投入して使用するという技術思想がない甲第1号証および甲第2号証から本件発明を想到することは当業者にとって容易であるとはいえない。
請求項2および3に係る発明は、請求項1に係る発明をさらに特定したものであるから、同様の理由により甲第1号証および甲第2号証に基いて当業者が容易に発明をすることができるものではない。

5.むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由および証拠によっては、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に該発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-11-25 
出願番号 特願平5-6062
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 佐藤 修
唐木 以知良
登録日 2002-08-23 
登録番号 特許第3343382号(P3343382)
権利者 井上石灰工業株式会社
発明の名称 伸線前処理剤用石灰石けん組成物  
代理人 大西 浩之  
代理人 小宮 良雄  

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