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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1089943
異議申立番号 異議2003-71385  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-19 
確定日 2003-12-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3351497号「ビニル化合物の重合防止方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3351497号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3351497号(平成8年1月18日出願、平成14年9月20日設定登録)の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりである。

「【請求項1】ビニル化合物の製造プロセスにおいてジアルキルジチオカルバミン酸金属塩を用いてビニル化合物の重合を防止するに当たり、(A)ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩とともに、(B)N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及び/又はその塩と、(C)無機酸,無機酸塩及び水の中から選ばれた少なくとも一種とを用いることを特徴とするビニル化合物の重合防止方法。
【請求項2】ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩が、ジブチルジチオカルバミン酸銅である請求項1記載の重合防止方法。
【請求項3】N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンの塩が、アンモニウム塩である請求項1記載の重合防止方法。
【請求項4】無機酸が、リン酸又はホウ酸である請求項1記載の重合防止方法。
【請求項5】ビニル化合物が、アクリル酸又はメタクリル酸である請求項1記載の重合防止方法。」

2.異議申立て理由の概要
特許異議申立人平居博美は、証拠として本件出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である下記の甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、本件発明1ないし5は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの発明の特許は特許法第113号第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。


甲第1号証:特開昭64-42443号公報
甲第2号証:特表平3-503896号公報
甲第3号証:エヌ.ヴェー.コジェニコフ,ヴェー.アー.ジュービン,
テー.ゲー.ツゥイガノーヴァ,エリ.ヴェー.アイゼンベ
ルグ「クペロン及びその誘導体によるアクリル系モノマ類の
重合禁止」(エヌ.ゲー.ネルヌイシフスキー記念サラトフ
国立大学)、化学物理講座、1987年7月24日編集部着
(以上、日本語訳文による)
甲第4号証:特開平5-51403号公報
甲第5号証:特公昭49-3514号公報
甲第6号証:特開平7-228548号公報
甲第7号証:H.H.ユーリック「腐蝕反応とその制御-原理と応用-」
産業図書株式会社、昭和44年5月25日第3刷発行、第2
18〜221頁

3.甲号各証の記載等
甲第1号証には、「反応生成物を精製と回収のため蒸留する工程を含む重合性エチレン性不飽和有機化合物の製造方法において、上記生成物をフェノール性重合禁止剤と可溶性マンガン化合物又は可溶性セリウム化合物を含む液相重合禁止剤を酸化窒素およびN-フェニル-N-ニトロソヒドロキシルアミンアンモニウム塩より成る群からえらばれた蒸気相重合禁止剤と組合せて成る液相-蒸気相重合禁止剤系の存在において蒸留することを特徴とする方法」が記載されており(特許請求の範囲請求項1)、「アクリル酸、アクリル酸エチルおよび他の重合性エチレン性不飽和有機化合物の処理においてこの液相と蒸気相両禁止剤の存在によりより高温高圧の使用が可能となって精製回収用の蒸留塔能力が増加できる。」と記載されている(公報第4頁右上欄11行〜14行)。

甲第2号証には、「アクリル酸の重合を禁止する方法であって、前記酸をa)予備酸素活性N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及びb)ヒドロキノンモノメチルエーテルで処理することを含む方法」に係る発明が記載されており(特許請求の範囲第7項)、「液相及び/又は気相におけるアクリル酸の熱重合は予備酸素活性N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン(NPH)及びパラメトキシフェノール(本明細書ではヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)と呼ぶ)を含む組成物により非常に有効に禁止できることが判明した。」と記載されている(公報第3頁右上欄12行〜16行参照)。

甲第3号証には、添付された日本語訳文を参照すれば、クペロン(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩)及びその誘導体(ナトリウム、カリウム及び銅塩)が空気中及び無酸素条件でのメチル及びブチルアクリレートの重合を効果的に禁止すること、モノマ中の水の存在がクペロンの塩類のモノマへの溶解性を増加させることが記載されている。

甲第4号証には、ジチオカルバミン酸マンガン塩のうちの少なくとも1種を有効成分として含む重合防止剤を用いるビニル化合物の重合防止方法に係る発明が記載されており(特許請求の範囲請求項3参照)、従来の問題点として、ジブチルジチオカルバミン酸銅等のジチオカルバミン酸銅塩を含む重合防止剤(A)は、(メタ)アクリル酸の水溶液の共沸分離塔(水分離塔)のように(メタ)アクリル酸の重合が極めて起こりやすい場合においては重合防止効果が低く、また、腐食性を有する銅塩を含むため蒸留塔が腐蝕しやすいことが記載されている(明細書段落【0007】参照)。

甲第5号証には、「オレフィンまたは不飽和アルデヒドの酸化による不飽和カルボン酸またはそのエステルの製造における蒸留・濃縮工程において、重合防止剤としてジブチルジチオカルバメート銅塩を添加することを特徴とする不飽和カルボン酸またはそのエステルの重合防止法」に係る発明が記載されており(特許請求の範囲)、従来から公知の重合を抑制する化合物として、ハイドロキノン、P-メトキシフェノール、フェノチアジン、ジメチルジチオカルバメートが例示されている(公報第1頁第2欄4行〜8行参照)。また、他の重合防止剤との併用について、「また本発明における重合防止剤は単独に使用しても、公知の重合防止剤たとえばハイドロキノンなどと併用してもよい。」と記載されている(公報第2頁第3欄41行〜44行)。

甲第6号証には、「気相接触酸化法アクリル酸にヒドラジン化合物およびジチオカルバミン酸銅を添加した後、100℃以下で蒸留することを特徴とするアクリル酸の精製方法」に係る発明が記載されていおり(特許請求の範囲請求項1)、ジチオカルバミン酸銅として、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジプロピルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等を用いることが記載されている(特許請求の範囲請求項3参照)。また、ジチオカルバミン酸銅の添加量に関して、「ジチオカルバミン酸銅の量が過少な場合には特に蒸留初期時の重合防止の効果が十分ではない。過度の添加は重合防止効果上は特に問題はないが、蒸留時に缶液中のジチオカルバミン酸銅濃度が高くなりすぎることによる装置の腐蝕を起こす恐れがあるので好ましくない。」と記載されている(明細書段落【0010】参照)。

甲第7号証には、不働態化剤についての記述があり、「ある種の物質は,酸素の吸着が容易な条件を作り出すことによって,間接的に鉄(および,おそらくは他のいくつかの金属)の不働態化を助ける作用をもっている.このような物質としては,NaOH,Na3PO4,Na2O・nSiO2,Na2B4O7などのアルカリ性化合物がある.」と記載されている(第220頁9行〜11行)。

4.対比・判断
〔本件発明1について〕
甲第5号証には、不飽和カルボン酸またはそのエステルの製造における蒸留・濃縮工程において重合防止剤としてジブチルジチオカルバメート銅塩を添加することからなる不飽和カルボン酸またはそのエステルの重合防止法に係る発明が記載されている(上記摘示事項参照)。
そこで、本件発明1と、上記甲第5号証記載の発明とを比較すると、甲第5号証記載の発明における「不飽和カルボン酸またはそのエステル」、「ジブチルジチオカルバメート銅塩」は、本件発明1における「ビニル化合物」、「ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩」にそれぞれ相当し、甲第5号証記載の発明が製造工程における重合防止方法であることは明らかであるから、両者は、「ビニル化合物の製造プロセスにおいてジアルキルジチオカルバミン酸金属塩を用いてビニル化合物の重合を防止する重合防止方法」である点で一致し、一方、本件発明1においては「(A)ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩とともに、(B)N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及び/又はその塩と、(C)無機酸,無機酸塩及び水の中から選ばれた少なくとも一種とを用いる」のに対して、甲第5号証記載の発明においてはジブチルジチオカルバメート銅塩以外の成分については特定していない点で相違している。
上記相違点について以下に検討する。
本件発明1においては、ジブチルジチオカルバミン酸銅が液相部に対しては優れた重合抑制効果を示すが気相部に対しては効果を示さないこと、また、ジブチルジチオカルバミン酸銅が装置を腐食するという欠点を有することを従来の問題点として認識し(本件明細書段落【0002】参照)、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及び/又はその塩を併用すると液相部及び気相凝縮部の両方に優れた重合防止効果を示すこと、また無機酸や無機酸塩や水を共存させると機器の腐食を防止しうることを見出した(本件明細書段落【0004】参照)上で、「(A)ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩とともに、(B)N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及び/又はその塩と、(C)無機酸,無機酸塩及び水の中から選ばれた少なくとも一種とを用いる」という構成を採用し、これらの問題点を解決したものである。
一方、甲第1号証には、フェノール性重合禁止剤と可溶性マンガン化合物又は可溶性セリウム化合物を含む液相重合禁止剤を酸化窒素およびN-フェニル-N-ニトロソヒドロキシルアミンアンモニウム塩より成る群からえらばれた蒸気相重合禁止剤と組合せて成る液相-蒸気相重合禁止剤系を用いた重合防止法が記載されており(上記摘示事項参照)、これらの記載によればN-フェニル-N-ニトロソヒドロキシルアミンアンモニウム塩が蒸気相において有効な重合禁止剤としてこの出願前に知られていたものと認められる。また、甲第4号証にはビニル化合物の重合防止方法、甲第6号証にはアクリル酸の精製方法がそれぞれ記載されており、ジブチルジチオカルバミン酸銅を含む重合防止剤が装置の腐蝕を引き起こすという問題のあることが指摘されている(上記摘示事項参照)。
しかしながら、甲第5号証には気相部における重合防止効果については何も記載がなく、併用できる公知の重合防止剤として例示されているハイドロキノン、P-メトキシフェノール、フェノチアジン、ジメチルジチオカルバメートが特に気相部の重合防止に寄与しているという根拠もないことから、甲第5号証記載の発明においては、気相部の重合防止効果が不十分であるというような問題点は認識されていなかったものと認められ、併用する重合防止剤として、蒸気相に有効な重合禁止剤として知られているN-フェニル-N-ニトロソヒドロキシルアミンアンモニウム塩を用いるべき理由が存在していない。また、甲第4号証あるいは甲第6号証の記載を参照すれば、甲第5号証記載の発明においても、重合防止剤であるジブチルジチオカルバメート銅塩が装置の腐蝕を引き起こすという問題があることを想起できるものの、甲第4号証あるいは甲第6号証において装置の腐蝕に係る問題を解決する手段として示されているのは、重合防止剤としてジチオカルバミン酸マンガン塩やチウラム類を用いること(甲第4号証参照)、ジブチルジチオカルバミン酸銅を過度に添加しないこと(甲第6号証参照)であり、無機酸や無機酸塩や水を共存させることについては何も記載がない。
したがって、甲第5号証記載の発明において、甲第1号証、甲第4号証及び甲第6号証の記載を参照しても、上記相違点にあげられた「(A)ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩とともに、(B)N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及び/又はその塩と、(C)無機酸,無機酸塩及び水の中から選ばれた少なくとも一種とを用いる」という構成を導き出すことはできない。
なお、甲第2号証には予備酸素活性N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及びヒドロキノンモノメチルエーテルという特定の化合物の組合せにより気相と液相の両方において効果的にアクリル酸の重合を禁止する方法、甲第3号証にはクペロン(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩)が空気中及び無酸素条件でメチル及びブチルアクリレートの重合を効果的に禁止すること、甲第7号証にはNa3PO4、Na2B4O7などが鉄の不働態化を助ける作用を有することがそれぞれ記載されているが(上記摘示事項参照)、これらの記載を併せて勘案しても、上記の構成を導き出すことはできない。
そして、本件発明1は、このような構成を採用することによって、ビニル化合物、特にアクリル酸やメタクリル酸などの製造プロセスにおける蒸留系などにおいて、液相部及び気相凝縮部の両方に対して、該ビニル化合物の重合を効果的に抑制しうるとともに、機器の腐食を防止し、長期間の安定した連続運転が可能となるという明細書記載の効果を奏するものである(明細書段落【0048】参照)。
したがって、本件発明1は、上記甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

〔本件発明2ないし5について〕
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成をその主たる構成として含むものであるが、本件発明1は上述したように上記甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、したがって同様の理由により、本件発明2ないし5もまた、上記甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし5の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-12-08 
出願番号 特願平8-6388
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤森 知郎  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 後藤 圭次
唐木 以知良
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3351497号(P3351497)
権利者 出光石油化学株式会社
発明の名称 ビニル化合物の重合防止方法  
代理人 東平 正道  
代理人 大谷 保  

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