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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1090772
審判番号 不服2002-5572  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-03 
確定日 2004-01-15 
事件の表示 特願2000-560045「半導体製造装置用成形材料または部品の包装材、それを用いた包装方法および包装された半導体製造装置用成形材料または部品」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 1月27日国際公開、WO00/03928]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本件出願に係る発明
(1)本件は、1999年7月14日(優先権主張1998年7月17日及び1999年1月12日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし16に係る発明(以下順に「第1発明」、「第2発明」のようにいい、これらを合わせて「本件発明」という。)は、当審において提出された平成15年8月4日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1ないし5の記載は次のとおりである。
「【請求項1】80℃で15分間加熱したときに発生するガス(ただし水蒸気は除く)の合計量が包装材1gあたり5μg以下であり、基材が合成樹脂である半導体製造装置用成形材料または部品の包装材。
【請求項2】80℃で30分間加熱したときに発生する水分の合計量が包装材1gあたり13μg以下であり、基材が合成樹脂製である半導体製造装置用成形材料または部品の包装材。
【請求項3】被包装物に面する側に用いる表面に存在する粒径0.2μm以上の微粒子が5000個/cm2以下である請求項1または2記載の包装材。
【請求項4】40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が30g/cm2・24hr以下である請求項1〜3のいずれかに記載の包装材。
【請求項5】被包装物に面する側に用いる表面に存在する粒径0.2μm以上の微粒子が5000個/cm2以下であり、80℃で15分間加熱したときに発生するガスの合計量(ただし水蒸気は除く)が包装材1gあたり5μg以下であり、かつ80℃で30分間加熱したときに発生する水分の合計量が包装材1gあたり13μg以下であり、基材が合成樹脂製である半導体製造装置用成形材料または部品の包装材。」
(2)なお、(a)本件明細書の段落【0035】〜【0038】等の記載を技術常識と勘案すると、特許請求の範囲にいう(i)「半導体」とは、シリコンウェーハーに代表される被加工材料にエッチング、洗浄、露光等の種々の加工を施して製造されるところの、半導体集積回路等に用いられる半導体素子を意味し、(ii)「半導体製造装置」とは、本件明細書の段落【0037】〜【0038】に例示されるような、前記(i)の加工に使用する装置全般(通常この装置はクリーンルーム内に設置される。)を意味し、(iii)「半導体製造装置用成形材料または部品」とは、本件明細書の段落【0035】〜【0036】に例示されるような、前記(ii)の「半導体製造装置」を構成する部品又は同「半導体製造装置」に使用する部品(ウェーハーキャリアもその1つとして例示。)及びこれら部品を製造するための未加硫混練物等の成形材料を意味し、(iv)「半導体製造装置用成形材料または部品の包装材」とは、前記(iii)の「部品及びその成形材料」を密封包装するための包装材料を意味することがそれぞれ明らかである(このことから見ると、「半導体製造装置用成形材料または部品の包装材」というより、むしろ「半導体製造装置用部品またはその成形材料の包装材」と表現すべきものである。)。
また、(b)本件明細書の段落【0025】〜【0027】等の記載を参酌すると、特許請求の範囲にいう「包装材」は、被包装物の形状によって種々の形態を取り得るものであり、フィルム状、袋状その他形態を問わないものであることが理解される。
そして、(c)特許請求の範囲で、「基材が合成樹脂である半導体製造装置用成形材料または部品の包装材」、「基材が合成樹脂製である半導体製造装置用成形材料または部品の包装材」というのは、それぞれ、包装材の基材が合成樹脂(製)であることを意味するものであることはいうまでもない。

2 当審の拒絶理由における引用刊行物
(1)これに対して、当審では、平成15年5月30日付けで通知した拒絶理由において、本件出願前に国内において頒布された刊行物である次の刊行物1及び2を引用した。
刊行物1:国際公開第97/14628号パンフレット(1997)
刊行物2:特開平10-116889号公報
(2)刊行物1には、次の1a〜1gの事項が記載されている。
1a 「技術分野 本発明は清浄度の高いプラスチックフィルム又はシートに関するが、とりわけ半導体、精密機器、電子機器等の製造、医療やバイオに関連する器具等、あるいは清浄室内で使用される衣服、手袋等を包装するために使用される特に清浄度の高いプラスチック製の袋に関する。背景技術 半導体の製品や部品はゴミ、ホコリ、チリ等の塵埃(原文の「塵俟」は誤記。以下同じ。)は極端に嫌われる。従ってこれらの製品等は清浄室内で製造され、また作業員の衣服、手袋、その他治具等も全て清浄なものが使用される。清浄室内は所定の清浄度を維持するように管理される。半導体の製造に関連する清浄な部材、治具類や衣服等を袋に入れて清浄室内に持ち込む場合、袋の内面に塵埃がないことは勿論、外面に塵埃が付着していると清浄室内を汚染するので袋は内外面とも塵埃のない清浄袋が要求される。」(1頁3〜17行)
1b 「本発明は、プラスチックフィルム又はシートの試験体を超純水に浸漬し、該試験体の表面近傍から超純水を採取し、その超純水中に脱離、拡散している0.3μm以上の微粒子の濃度(個数)を測定したとき、その濃度がフィルム又はシートの両面(袋ではその内面及び外面)とも1000個/ml以下…である高清浄プラスチックフィルム又はシートである。」(4頁8〜14行)
1c 「プラスチックフィルム又はシートの材質は一般的に用いられるポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニリデンクロライドなどであり、フィルム又はシートに成形できるものであれば特に制限なく使用できる。また、これらは単層あるいはラミネートされた多層であってもよい。」(4頁15〜20行)
1d 「試験体を超純水に浸漬すると、試験体表面(原文の「試験表面」は誤記。)から離脱する微粒子の量は試験体の表面に付着している微粒子の濃度に比例し、脱離した微粒子は次いで超純水中に拡散するが、その拡散した粒子の濃度は脱離した微粒子の濃度に比例する。従って、試験体表面に近いこの微粒子が拡散している領域の超純水中の微粒子の濃度は、試験体表面に付着していた微粒子の濃度にほぼ比例する。…その後、この測定方法は当業界において確立されるに至っている。」(6頁1〜12行)
1e 「チューブ状のフィルム又はシートからつくられる袋では袋の内面の洗浄は困難なので、袋の内面は本発明の清浄度の範囲に入るようにインフレーション法による成形を行なう。それにはインフレーションフィルム又はシート成形において高清浄ガス、例えば高純度窒素ガスを0.2〜0.3μm以上の塵埃微粒子を除去するフィルターを通して高清浄ガスとし、そのガスをチューブ内に送入してフィルム又はシートを成形する方法が適する。これによって得られるフィルム又はシートの場合、チューブの内面の洗浄は不要となり、洗浄が効率的であり、本発明のプラスチックフィルム又はシートとして好適である。」(6頁下から5行〜7頁5行)
1f 「高清浄プラスチックフィルム又はシートであって、そのプラスチックフィルム又はシートの試験片を超純水に浸漬し、該試験片の表面近傍から超純水を採取し、その採取した超純水中に分散している寸法0.3μm以上の微粒子の濃度(個数)を測定したとき、その濃度がプラスチックフィルム又はシートの両面とも1000個/ml以下である高清浄プラスチックフィルム又はシート。」(14頁請求の範囲1)
1g 「請求の範囲第1項記載の高清浄プラスチックフィルム又はシートで構成された高清浄プラスチック袋。」(14頁請求の範囲5)
(3)刊行物1の前記1a〜1gの記載事項とその他の記載事項とを総合すると、1fにいう「高清浄プラスチックフィルム又はシート」の材質はポリエステル系樹脂であってよいこと、1gにいう「高清浄プラスチック袋」はポリエステル系樹脂フィルムで構成されてよいことがそれぞれ理解されるから、結局、同刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】ポリエステル系樹脂フィルムで構成される、半導体の製造に関連する清浄な器具、部材、治具類を包装するための袋。
(4)刊行物2の特に段落【0003】〜【0013】、【0021】等の記載からは、次の技術的事項A及びBが知られる。
【技術的事項A】半導体の製造に際して用いられるポリエステル系樹脂成形物は、加熱を受けたときに発生するガスの合計量の少ないものが好ましいこと。
【技術的事項B】ポリエステル系樹脂成形物を加熱したときに発生するガスの合計量を表すのに、例えば150℃で60分間加熱したときの、「サンプル1gあたりの全発生ガス量のμg数」というパラメーターを用いること。

3 対比判断
(1)第1発明について
(1-1)第1発明と引用発明とを対比すると、
(i)引用発明にいう「半導体の製造に関連する清浄な器具、部材、治具類」は、前記1の(2)の(a)で説示したところから、第1発明にいう「半導体製造装置用成形材料または部品の包装材」(以下、下線部分を「半導体製造装置用部品等」という。)に相当することが明らかであり、
(ii)第1発明にいう「包装材」は、前記1の(2)の(b)で説示したように、その形態を問わないものであり、しかも、第1発明においても、前記1の(2)の(c)で説示したように、包装材は、基材が合成樹脂(製)であって、具体的には例えばポリエステル系樹脂フィルムで構成される(本件明細書段落【0016】参照)ものであるから、
結局、両者は、次の一致点アで一致し、相違点カでのみ相違すると認められる。
【一致点ア】基材がポリエステル系樹脂フィルムである、半導体製造装置用部品等の包装材。
【相違点カ】包装材について、第1発明では、「80℃で15分間加熱したときに発生するガス(ただし水蒸気は除く)の合計量が包装材1gあたり5μg以下」(以下、この要件を「特定要素3」という。)と規定するのに対し、引用発明では、この点の言及がない点。
(1-2)この相違点カについて検討する。
(1-2-1)請求人が平成14年9月25日付けで提出した本件発明に関する「技術説明書」(ファクシミリにより送信されたもの)に添付されたところの、「東洋紡工業用フィルム」製品カタログ〔東洋紡績株式会社、1997年9月作成(1999年1月)〕の写しには、同社製の二軸延伸ポリエステルフィルム「東洋紡エステルフイルム(登録商標)」の1つである「E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムが記載されており、さらに、この銘柄のポリエステル系樹脂フィルムが一般包装用途に使用できることも記載されている。
一方、本件明細書段落【0040】、【0041】等の記載によれば、第1発明においては、包装材の基材である合成樹脂フィルムの具体例として、「(株)東洋紡製のTOYOBO E5100」なるポリエチレンテレフタレートフィルム(すなわちポリエステル系樹脂フィルム)を用いており、請求人は前記技術説明書において、このポリエステル系樹脂フィルムは、前記製品カタログ記載の「東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムであることを自認している。
してみると、第1発明は、前記製品カタログによって本件出願前に当業界に周知となった「東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムを、これが一般包装用途に使用できる旨の前記製品カタログの教えるところに従って、引用発明における包装材の基材であるポリエステル系樹脂フィルムとして単に選択使用したにすぎないものということができる。
ところで、前記製品カタログには、「東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムが、特定要素3を満たすものであることは記載されていない。しかし、このポリエステル系樹脂フィルムが特定要素3を満たすものであることは、請求人が前記技術説明書において自認するところであり、しかも、本件明細書段落【0040】、【0041】等の記載から見ると、第1発明では、このように、当業者が容易にできる包装材の基材の選択をした後、得られた包装材について、請求人が独自に、「80℃で15分間加熱したときに発生するガス(ただし水蒸気は除く)の合計量」なるものを測定してみたところ、それが「包装材1gあたり5μg以下」の範囲にあったというにすぎないものと認められる。
そうすると、第1発明におけるこのような特定の包装材の基材の選択には、何ら格別の技術的意義は見いだせないのである。すなわち、東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」を包装材の基材として選択したことによって、例えば、他の銘柄の「東洋紡エステルフイルム(登録商標)」又はその他の一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として選択した場合に比べ、半導体製造装置用部品等の包装材として格別の作用効果を奏すると認めるに足りる資料がないばかりか、かえって、本件明細書段落【0044】、【0045】等の記載(一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として使用したと認められる包装材5、6の例)によれば、一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として使用した包装材も、特定要素3を満たしているものであることが理解されるのである。
したがって、特定要素3を要件とする相違点カをなす事項は、前記の周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たものというべきであるから、第1発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-2-2)さらに、別の面から相違点カについて検討すると、もともと、半導体の製造に際して用いられるポリエステル系樹脂成形物は、加熱を受けたときに発生するガスの合計量の少ないものが好ましいことや、ポリエステル系樹脂成形物を加熱したときに発生するガスの合計量の表し方として、「サンプル1gあたりの全発生ガス量のμg数」というパラメーターを用いることは、刊行物2記載の技術的事項A及びBが教えるところであり、第1発明において、加熱条件を「80℃で15分間」と設定した点に格別の意義を認めるに足りる資料はない(例えば、「80℃で20分間」、「90℃で15分間」などとしても差し支えないはずである。)から、この点から見ると、第1発明は、引用発明におけるポリエステル系樹脂フィルムを基材とする包装材について、加熱を受けたときに発生するガスの合計量の少ないものが好ましいことを考慮して、請求人独自のパラメーターを用いて、それを加熱したときに発生するガス(ただし水蒸気は除く)の合計量の上限値について単に規定したにすぎないものということもできるのである。
したがって、特定要素3を要件とする相違点カをなす事項は、刊行物2に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たものというべきであるから、第1発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできる。
(1-3)請求人は、平成15年8月4日付け意見書の(3-1-3)において、刊行物1及び周知技術を示す「東洋紡工業用フィルムカタログ」のいずれにも、「包装材に内在する汚染の低減化」という本件発明特有の「目的(イ)」も、「特に包装材を構成する合成樹脂は、低分子量物質や加工性、安定性などの改善のために種々の添加剤が配合されており、室温保存化あるいは加熱により種々のガスが発生し、液滴となって被包装物に付着して汚染の原因になることを見出し、発生するガスや水分は樹脂の種類、加工のされ方、添加剤の種類などによって異なるが、たとえばフタル酸ジオクチル、ジブチルフタレートなどが多く発生する。」という本件発明特有の「知見(ロ)」についての示唆も一切ない以上、そのような刊行物1及び周知技術に基づいては、当業者が第1発明を容易に想到することができない旨主張している。
しかし、前記の目的(イ)や 知見(ロ)を経由することなく、当業者が第1発明に容易に到達することができることは前説示のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
さらに請求人は、同意見書の(3-1-4)において、刊行物1に、前記の目的(イ)及び知見(ロ)についての示唆が全くない以上、一般的に、刊行物1に接した当業者であれば、合成樹脂から構成される袋を採用するにあたり、刊行物1の発明の目的に合致するものを採用するのが通常であり合理的であるとして、刊行物1の発明は、「合成樹脂から構成される基材の表面および裏面に付着する微粒子が、所定の測定方法により所定値以下であるようにする」というものであり、具体的には、「特に好ましいのはフィルム又はシートの表面に導電性塗膜を設け、表面電気抵抗を109Ω/□以下として静電気を防止したものである。これによって静電的に微粒子が付着することを防止することができる。」のであって、当業者であれば、通常、このような刊行物1に記載の目的に沿って、周知の合成樹脂から適切な基材を選択するのが限界であり、当業者が周知のフィルムの中から、特に第1発明の特定要素3を満たす合成樹脂からなる基材を選択することは、刊行物1に接した当業者が考慮する合理的な選択基準から大きく外れるもので、非常に困難な選択である旨主張している。
しかし、刊行物1は、引用発明として認定したとおり、「ポリエステル系樹脂フィルムで構成される、半導体の製造に関連する清浄な器具、部材、治具類を包装するための袋。」を教えるものであり、「フィルム又はシートの表面に導電性塗膜を設け、表面電気抵抗を109Ω/□以下として静電気を防止し、静電的に微粒子が付着することを防止することができる」ようにすることは、そのうちの「特に好ましい」態様を示したものにすぎないから、請求人の主張は前提において失当である。

(2)第2発明について
(2-1)第2発明と引用発明とを対比すると、両者は、前記の一致点アで明らかに一致し、相違点キでのみ相違すると認められる。
【相違点キ】包装材について、第2発明では、「80℃で30分間加熱したときに発生する水分の合計量が包装材1gあたり13μg以下である」(以下、この要件を「特定要素4」という。)と規定するのに対し、引用発明では、この点の言及がない点。
(2-2)この相違点キについて検討する。
前記(1-2-1)において相違点カについて説示したのと同様の理由により、第2発明も、前記製品カタログによって本件出願前に当業界に周知となった「東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムを、これが一般包装用途に使用できる旨の前記製品カタログの教えるところに従って、引用発明における包装材の基材であるポリエステル系樹脂フィルムとして単に選択使用したにすぎないものということができる。
ところで、前記製品カタログには、「東洋紡エステル(登録商標)フイルムE5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムが、特定要素4を満たすものであることは記載されていない。しかし、このポリエステル系樹脂フィルムが特定要素4を満たすものであることは、請求人が前記技術説明書において自認するところであり、しかも、本件明細書段落【0040】、【0041】等の記載から見ると、第2発明では、このように、当業者が容易にできる包装材の基材の選択をした後、得られた包装材について、請求人が独自に、「80℃で30分間加熱したときに発生する水分の合計量」なるものを測定してみたところ、それが「包装材1gあたり13μg以下」の範囲にあったというにすぎないものと認められる。
そうすると、第2発明におけるこのような特定の包装材の基材の選択には、何ら格別の技術的意義は見いだせないのである。すなわち、東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」を包装材の基材として選択したことによって、例えば、他の銘柄の「東洋紡エステルフイルム(登録商標)」又はその他の一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として選択した場合に比べ、半導体製造装置用部品等の包装材として格別の作用効果を奏すると認めるに足りる資料がないばかりか、かえって、本件明細書段落【0044】、【0045】等の記載(一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として使用したと認められる包装材5、6の例)によれば、一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として使用した包装材も、特定要素4を満たしているものであることが理解されるのである。
したがって、特定要素4を要件とする相違点キをなす事項は、前記の周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たものというべきであるから、第2発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)第3発明について
第3発明は、第1発明又は第2発明において、さらに、「被包装物に面する側に用いる表面に存在する粒径0.2μm以上の微粒子が5000個/cm2以下である」(以下、この要件を「特定要素1」という。)なる限定を付したものである。
刊行物1の前記1b、1e、1g等によれば、刊行物1は、包装材の内面側(被包装物に面する側に用いる表面)に存在する粒径0.2〜0.3μm以上の微粒子がきわめて微量となるように調製することを教えている。
第3発明では、この微量の程度(清浄度)を、「5000個/cm2以下である」と表現しているものの、これは、刊行物1の前記1b、1f等から把握される「試験片を超純水に浸漬し、該試験片の表面近傍から超純水を採取し、その採取した超純水中に分散している寸法0.3μm以上の微粒子の濃度(個数)を測定したとき、その濃度が袋の内面側で1000個/ml以下である」(以下「要件A」という。)ことと実質上の差異がないか、少なくとも「微量」の程度が重複しているもの(つまり両者の清浄度が同じ。)と推定できる。そして、刊行物1は、もともと、引用発明の袋において、要件Aのようにすることを教えるものである。
してみると、第1発明又は第2発明に要件A、したがって特定要素1を組み合わせて第3発明のように構成することは、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たことであり、また、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たことである。

(4)第4発明について
第4発明は、第1発明ないし第3発明のいずれかにおいて、さらに、「40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が30g/cm2・24hr以下である」(以下、この要件を「特定要素2」という。)なる限定を付したものであるところ、半導体製造装置用部品等の包装材の特性として、水蒸気透過度が一定値以下のものが要求されることは当然のことである。
してみると、第1発明ないし第3発明のいずれかにさらに特定要素2を組み合わせて第4発明のように構成することは、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たことであり、また、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たことである。

(5)第5発明について
(5-1)第5発明と引用発明とを対比すると、両者は、前記の一致点アで明らかに一致し、相違点クでのみ相違すると認められる。
【相違点ク】包装材について、第5発明では、特定要素1、3及び4を要件とするのに対し、引用発明では、この点の言及がない点。
(5-2)この相違点クについて検討する。
特定要素1は、前記(3)で第3発明について説示したように、刊行物1が要件Aとして教えるものである。
また、請求人が平成14年9月25日付けで提出した本件発明に関する「技術説明書」(ファクシミリにより送信されたもの)に添付されたところの、「東洋紡工業用フィルム」製品カタログ〔東洋紡績株式会社、1997年9月作成(1999年1月)〕の写しには、同社製の二軸延伸ポリエステルフィルム「東洋紡エステルフイルム(登録商標)」の1つである「E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムが記載されており、さらに、この銘柄のポリエステル系樹脂フィルムが一般包装用途に使用できることも記載されている。
一方、本件明細書段落【0040】、【0041】等の記載によれば、第5発明においては、包装材の基材である合成樹脂フィルムの具体例として、「(株)東洋紡製のTOYOBO E5100」なるポリエチレンテレフタレートフィルム(すなわちポリエステル系樹脂フィルム)を用いており、請求人は前記技術説明書において、このポリエステル系樹脂フィルムは、前記製品カタログ記載の「東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムであることを自認している。
してみると、第5発明は、前記製品カタログによって本件出願前に当業界に周知となった「東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムを、これが一般包装用途に使用できる旨の前記製品カタログの教えるところに従って、引用発明における包装材の基材であるポリエステル系樹脂フィルムとして単に選択使用し、その際、さらに刊行物1が教える要件A、したがって特定要素1を単に組み合わせて構成したにすぎないものということができる。
ところで、前記製品カタログには、「東洋紡エステル(登録商標)フイルムE5100」なる銘柄のポリエステル系樹脂フィルムが、特定要素3及び4を満たすものであることは記載されていない。しかし、このポリエステル系樹脂フィルムが特定要素3及び4を満たすものであることは、請求人が前記技術説明書において自認するところであり、しかも、本件明細書段落【0040】、【0041】等の記載から見ると、第5発明では、前説示のように、当業者が容易にできる包装材の基材の選択をした後、得られた包装材について、請求人が独自に、「80℃で15分間加熱したときに発生するガス(ただし水蒸気は除く)の合計量」なるものを測定してみたところ、それが「包装材1gあたり5μg以下」の範囲にあり、同じく、「80℃で30分間加熱したときに発生する水分の合計量」なるものを測定してみたところ、それが「包装材1gあたり13μg以下」の範囲にあったというにすぎないものと認められる。
そうすると、第5発明におけるこのような(特定要素3及び4を満たす)特定の包装材の基材の選択には、何ら格別の技術的意義は見いだせないのである。すなわち、東洋紡エステルフイルム(登録商標)E5100」を包装材の基材として選択したことによって、例えば、他の銘柄の「東洋紡エステルフイルム(登録商標)」又はその他の一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として選択した場合に比べ、半導体製造装置用部品等の包装材として格別の作用効果を奏すると認めるに足りる資料がないばかりか、かえって、本件明細書段落【0044】、【0045】等の記載(一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として使用したと認められる包装材5、6の例)によれば、一般的なポリエステル系樹脂フィルムを基材として使用した包装材も、特定要素3及び4を満たしているものであることが理解されるのである。
したがって、特定要素1、3及び4を要件とする相違点クをなす事項は、刊行物1が教える技術的事項(要件A)及び前記の周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に想到し得たものというべきであるから、第5発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、第2発明ないし第16発明について、平成15年8月4日付け意見書の(3-2)、(3-3)において、前記3の(1)の(1-3)摘記の請求人の主張と同旨の主張をしているが、これに対しては、すでに同所で説示したので繰り返さない(同意見書において、「本願の請求項3〜17に係る発明」、「本願の請求項1〜17に係る発明」などというのは、それぞれ、「本願の請求項3〜16に係る発明」、「本願の請求項1〜16に係る発明」の誤記と認める。)。

4 むすび
以上のとおりであるから、第1発明ないし第5発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、第6発明ないし第16発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-11-12 
結審通知日 2003-11-18 
審決日 2003-12-01 
出願番号 特願2000-560045(P2000-560045)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 鈴木 公子
特許庁審判官 杉原 進
祖山 忠彦
発明の名称 半導体製造装置用成形材料または部品の包装材、それを用いた包装方法および包装された半導体製造装置用成形材料または部品  
代理人 佐木 啓二  
代理人 朝日奈 宗太  

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