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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1091286
審判番号 不服2000-1786  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-02-15 
確定日 2004-02-05 
事件の表示 平成 9年特許願第320380号「複数の非分岐命令と分岐命令とを有する基本ブロックにおける分岐実行システムおよび方法」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 7月21日出願公開、特開平10-187443]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯等
本願は、1986年10月30日(パリ条約による優先権主張1985年10月31日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願昭61-506185号の一部を平成9年11月6日に新たな特許出願として出願した、というものであって、当審において、平成14年8月13日付で拒絶の理由が通知され、その指定した期間内である平成15年2月20日付で意見書及び手続補正書が提出されたものであり、上記平成15年2月20日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、「複数の非分岐命令と分岐命令とを有する基本ブロックにおける分岐実行システム及び方法」に関するものと認める。

2.当審の拒絶理由
当審の平成14年8月13日付で通知した拒絶の理由は、以下のとおりである。
「1)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

・請求項1乃至44
刊行物:特表昭63-506185号公報
(備考)
本願の請求項1に記載された発明及び請求項2に記載された発明は、それぞれ本願の原特許出願の請求項32に記載された発明及び請求項33に記載された発明と実質的に同一と認められ、また、本願の請求項20に記載された発明、請求項30に記載された発明及び請求項36に記載された発明は、本願の原特許出願 の明細書及び図面に記載された範囲を超えたものを含むと認められるから、本願についての分割出願は適法なものではない。
したがって、本願の出願日の原出願の出願日へのそ及を認めることはできないので、本願の出願日を、本願の現実の出願日である平成9年11月6日と認める。
そして、本願の請求項20乃至請求項29に係る発明、請求項30乃至請求項35に係る発明及び請求項36乃至44に係る発明は、原特許出願の明細書に記載された事項をも含むものと認められるから、本願の請求項1乃至請求項44に係る発明は、原特許出願の明細書及び図面の内容を記載した上記刊行物に記載された発明である。

2)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

1.請求項1に記載された「前記プログラムを受け入れることができ、前記プログラムの前記各基本ブロック内の分岐命令を決定するための手段」が発明の詳細な説明に記載されたどの事項に対応するかが明確でない。当該「分岐命令を決定するための手段」に含まれるものとして、「全基本ブロ ックの最後に実行されるべき命令の実行時間前に起こり得る可変の数(以下、可変数と記す)の命令サイクル数で決まる前記分岐命令の実行時間を識別する発火時間情報を前記分岐命令に加える決定手段」との記載からはTOLLとも解されるが、一方、同じく当該「分岐命令を決定するための手段」に含まれるものとして、「各基本ブロック内の受け入れられた非分岐命令に作用して、前記命令を処理するための手段」との記載からは、その「命令を処理するための手段」に関連した「前記発火時間情報に応答して前記基本ブロック内の前記の受け入れられた分岐命令に作用して、前記処理手段が前記基本ブロック内の最後に実行されるべき非分岐命令を処理するのと同じ時間より遅くなく前記分岐命令の実行を完了するための手段」という記載を勘案すると、TOLL出力を処理する命令実行部分とも解され、不明確である。
また、基本ブロックの最後は分岐命令であるから、文言上も、「分岐命令を決定するための手段」など存在するはずはないから、この点においても不明瞭である。
さらに、上記不明確な点は、請求項1に限らず、請求項2等他の請求項においても同様である。
2.特許請求の範囲に記載された、分岐命令の実行を完了するタイミングに関する記載は、非分岐命令の実行完了前に分岐命令が実行完了する場合も含みうるから、不明瞭である。」

3.請求人の主張
請求人は、当審で通知した拒絶の理由に対して、平成15年2月20日付の意見書において、概ね次のとおり主張している。
(1)特許法第29条第1項第3号違背について
拒絶理由に対して特許請求の範囲を本日付け提出の手続補正書において補正した。補正前の請求項1、2及びそれらの従属する補正前の請求項5、6を削除し、残りの請求項を再付番した。
請求項1、2、5、6は削除されたので本発明は原特許出願とは異なった発明である。
次に請求項16(旧20)、請求項26(旧30)及び請求項32(旧36)に係る発明はそれぞれの請求項に記載されたとおりのものであり、原出願の明細書に記載されている。
請求項16はプログラムの基本ブロックにおける命令ストリームの通常の順序を変更するための方法である。この変更を行うものはTOLLソフトウエアである。この変更された順序に従って命令は2つの形式、すなわち先行する命令の処理に関連した遅延値を有する型、及び遅延値を有さない型を有する。「第2形式」の命令は例えば条件分岐命令であり、第2形式の命令はその発行後にある関連した演算が終わるまで実行できない。関連した演算が終わるまでの時間が「遅延値」である。例えば条件分岐命令の実行にはある命令サイクルの実行を要する。
この遅延時間が請求項16の「前記第2形式の前記命令に対して前記遅延値に基づき前記第2形式の前記の各発行された命令に対する遅延時間を決定し」という段階である。これは明細書に条件分岐命令に対する発行時間の再配置に関して例示されている(表1〜6とその関連説明)。従って、請求項16の2つの処理段階から分かるように、第1形式の命令はその発行後に直ちに処理される。例えばロード、加算、記憶等である。更に第2形式の命令である条件分岐命令がその発行後の或る遅延後に処理される。
請求項26は命令ストリームを第1の順序で受けた命令を、異なる順序で処理するための命令選択装置である(上記の分岐命令と非分岐命令の関係と同様)。
第1の順序で受けた命令は記憶され、それをある種の選択制御値(例えば命令発火時間)に関連づける。明細書に記載されているように、逐次命令は逐次命令発火時間を有する必要がない。その後、命令選択回路が、記憶された命令に従って実行のために命令を選択する。明細書に記載されているように、システムは命令選択回路に結合したプロセッサ要素を有し、この要素は選択制御値により指示される異なった選択順序で命令を選択するように構成されている。
請求項32はほぼ請求項26を実行するための方法である。従ってこの請求項も原出願の明細書の記載を超えるものではない。
従って、本出願は分割の要件を満足するので、特表昭63-501605号公報は特許法第29条第1項第3号の刊行物ではない。

(2)特許法第36条第4項及び第6項違背について
請求項1(旧請求項3)及び請求項2(旧請求項4)には「前記プログラムを受け入れることができ、前記プログラムの前記各基本ブロック内の分岐命令を決定するための手段」はTOLLソフトウエアに含まれることはその動作から明らかである。ここに決定とはプログラムの各ブロック内の分岐命令がどこにあるかを同定することである。簡単な例が表1〜6とその関連説明に挙げられている。
なお、「基本ブロックの最後は分岐命令であるから、文言上も「分岐命令を決定するための手段」は存在するはずがない」との認定であるが、TOLLソフトはプログラムブロックをチェックして順序を変更するものであるから分岐命令を決定する手段が必要である。
また、特許請求の範囲に記載された「分岐命令の実行を完了するタイミングに関する記載は、非分岐命令の実行完了前に分岐命令が実行完了する場合も含みうるから不明瞭である」との認定は、分岐命令は非分岐命令の前に完了する場合もあり得るので、不明瞭とは言えない。」

4.明細書の記載
(1)特許法第29条第1項第3号違背に関係する記載
(イ)本願の特許請求の範囲の記載
上記当審における拒絶の理由において指摘した、請求項16(旧20)、請求項26(旧30)及び請求項32(旧36)の記載は、次のとおりである。

【請求項16】 命令ストリームを第1の順序で発行し、前記命令を異なる順序で処理する方法において、
前記第1の形式および第2の形式の命令を含む前記命令ストリームの少なくとも一部を記憶し、
前記第2形式の前記各命令を遅延値と関連付け、
前記の記憶された命令を前記第1順序で発行し、
前記第2形式の前記命令に対して前記遅延値に基づき前記第2形式の前記の各発行された命令に対する遅延時間を決定し、
前記第1形式の前記各命令が発行された後それを処理し、
前記第2形式の前記各命令が発行された後前記の決定された時間遅延後それを処理する
諸段階を含むことを特徴とする命令ストリーム発行、処理方法。
【請求項26】 命令処理装置であって、第1の順序で命令を記憶し、異なる順序で処理するため前記命令を選択するためのシステムにおいて、
記憶された命令が関連する選択された選択制御値を有するように、処理されるべき前記命令の少なくとも一部を保持するように構成されたメモリと、
該メモリに結合され、前記命令の前記関連する選択制御値に含まれる情報に基づいて前記異なる順序で実行のため命令を選択する命令選択回路と、
前記命令選択回路に結合される少なくとも一つのプロセッサ要素とを備え、前記プロセッサ要素が前記異なる選択された順序で前記の選択された命令を処理するように構成されたことを特徴とする命令記憶、選択システム。
【請求項32】 命令ストリームを第1の順序で記憶し、異なる順序で処理のため前記命令を選択する方法において、
前記命令ストリームの少なくとも一部を記憶し、
前記各命令を命令の選択に必要とされる選択制御値と関連づけ、
この記憶された命令を前記異なる順序で選択し、
前記の各選択された命令を前記異なる選択された順序で処理する諸段階を含むことを特徴とする命令ストリーム記憶、選択方法。」
(ロ)原特許出願の明細書及び図面の記載
原特許出願の願書に最初に添付した明細書及び図面には、本願明細書の請求項16に記載されている形式を特定しない一般的な第1の形式および第2の形式の命令、及び本願明細書の請求項26に記載されている選択制御値について何ら記載されていない。

(2)特許法第36条違背に関係する記載
(イ)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の、例えば、請求項1の記載は次のとおりである。
「プログラム内に包含され、基本ブロックが複数の非分岐命令と分岐命令を有する単一入口ー単一出口(SESE)基本ブロック(BB)において分岐を実行するためのシステムにおいて、
前記プログラムを受け入れることができ、前記プログラムの前記各基本ブロック内の分岐命令を決定するための手段であって、さらに前記非分岐命令に関する前記分岐命令の処理をスケジューリングする決定手段と、
前記各基本ブロック内の前記の受け入れられた非分岐命令に作用して、前記命令を処理するための手段と、
前記基本ブロック内の前記の受け入れられた分岐命令に作用して、前記基本ブロックの最後に実行されるべき非分岐命令の実行時間前に起こり得る可変数の命令サイクルの一つにて前記分岐命令の実行を開始し、前記基本ブロック内における最後に実行されるべき非分岐命令の処理中より遅くなく起こる命令サイクル中前記のスケジューリングされた分岐命令の実行を完了するための手段とを備え、それにより前記分岐命令の実行が、前記基本ブロック内の前記非分岐命令の実行と並列に行われ、前記システムによる前記プログラムの全処理を早めることを特徴とする分岐実行システム。」
(ロ)発明の詳細な説明の記載
TOLLソフトウエアについての表1〜6とその関連説明において、TOLLソフトウェアはコンパイラの出力である基本ブロック(非分岐命令の列の最後に分岐命令が続くもの)を受け入れ、各命令を分析して命令発火時間を付加することは記載されているが、「前記プログラムを受け入れることができ、前記プログラムの前記各基本ブロック内の分岐命令を決定するための手段」については文言上の明示的な説明はない。
まして、その手段が、「さらに前記非分岐命令に関する前記分岐命令の処理をスケジューリングする」ことについての記載は存在しない。
また、分岐命令の実行を完了するタイミングに関しては、表6に関連した以下の記載がある。
「それゆえ、本発明の教示にしたがうと、時間T16の間、並列プロセッサ要素0、1および2が命令I0、I1およびI4をそれぞれ同時に処理する。同様に、次の時間T17中、並列プロセッサ要素0およびBEUが、命令I2およびI5をそれぞれ同時に処理する。そして最後に、時間T18中、プロセッサ要素0が命令I3を処理する。命令発火時間T16、T17およびT18の間、並列プロセッサ要素3は表1の例に利用されない。実際に、最後の命令がブランチ命令であるから、命令I3に対して時間T18中に最後の処理が完了するまでブランチは起こり得ない。遅延フィールドが命令I5の処理中に形成されており、命令I5が時間T17内(最先可能時間)で処理されてさえ、命令I3が実行された後ループないしブランチが起こるようにその実行が遅延されるようになされている。」(段落番号0047)
「それゆえ、表6の例では、発火時間T17の命令I5が、この基本ブロック対する最後の発火時間であるT18の完了まで、遅延される。」(段落番号0166)
「それゆえ、表6の論述では、命令I5が発火時間T17を割り当てられるが、発火時間T18まで遅延される。」(段落番号0181)

5.当審の判断
以下、上記3.の請求人の主張を勘案しつつ、特許法第29条第1項第3号及び第36条違背について検討する。
(1)特許法第29条第1項第3号違背について
請求人は、第2形式の命令は例えば条件分岐命令であり、第1形式の命令は例えばロード、加算、記憶等であるとして、請求項16に係る発明は原出願の明細書に記載されている旨主張しているが、命令の形式の分類は、分岐命令か非分岐命令かの分け方に限らず、特権命令と非特権命令等、各種の分類法が可能であり、請求項16には第1形式の命令は非分岐命令であり第2の形式の命令は分岐命令であるとの限定が付されていないのであるから、請求項16に係る発明は、原特許出願の明細書及び図面に記載された範囲を超えるものを含むものであり、同様に、請求項26及び請求項32に係る発明も、原特許出願の明細書及び図面に記載された範囲を超えるものを含むものである。
したがって、本願の出願日の原出願の出願日へのそ及を認めることはできないので、本願の出願日は、本願の現実の出願日である平成9年11月6日と認められる。
そして、本願の請求項1乃至40に係る発明は、原特許出願の明細書及び図面の内容を記載した特表昭63-506185号公報に記載された発明であることは明らかである。

(2)特許法第36条第4項及び第6項違背について
(イ)「前記プログラムを受け入れることができ、前記プログラムの前記各基本ブロック内の分岐命令を決定するための手段」について
請求人は、「各基本ブロック内の分岐命令を決定する」とは、各ブロック内の分岐命令がどこにあるかを同定することである旨、上記「前記プログラムを受け入れることができ、前記プログラムの前記各基本ブロック内の分岐命令を決定するための手段」がTOLLソフトウェアに含まれることは明らかである旨、さらに、TOLLソフトウェアには分岐命令を決定する手段が必要である旨主張しているが、仮に必要だとしても、上記4.(2)(ロ)で述べたとおり、発明の詳細な説明には、当該分岐命令を決定する手段について何ら具体的に説明されていないので、この点に関する記載不備は依然として解消されていない。
(ロ)分岐命令の実行を完了するタイミングに関する記載について
上記4.(2)(イ)に摘記したとおり、例えば請求項1には、「前記基本ブロック内の前記の受け入れられた分岐命令に作用して、前記基本ブロックの最後に実行されるべき非分岐命令の実行時間前に起こり得る可変数の命令サイクルの一つにて前記分岐命令の実行を開始し、前記基本ブロック内における最後に実行されるべき非分岐命令の処理中より遅くなく起こる命令サイクル中前記のスケジューリングされた分岐命令の実行を完了するための手段とを備え」と記載されていることから、請求項1に係る発明においては、非分岐命令の実行完了前に分岐命令の実行が完了しうることは明らかであり、また、請求人も、上記3.(2)のとおり、「分岐命令は非分岐命令の前に完了する場合もあり得る」旨主張している。
しかしながら、発明の詳細な説明には、上記4.(2)(ロ)に摘記したとおり、分岐命令の実行は、非分岐命令の実行の完了まで遅延される旨記載されており、分岐命令の実行を完了するタイミングに関してはそれ以外の記載は存在しないことから、上記請求人の主張は明細書の記載と相反するものであり、分岐命令の実行を完了するタイミングに関する記載不備も依然として解消されていない。

6.むすび
以上のとおりであるので、本願の請求項1乃至40に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであり、また、本願は、特許法第36条第4項及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていないことからも、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-08-25 
結審通知日 2003-09-02 
審決日 2003-09-17 
出願番号 特願平9-320380
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G06F)
P 1 8・ 121- WZ (G06F)
P 1 8・ 537- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 正石井 茂和  
特許庁審判長 斎藤 操
特許庁審判官 平井 誠
徳永 民雄
発明の名称 複数の非分岐命令と分岐命令とを有する基本ブロックにおける分岐実行システムおよび方法  
代理人 風間 弘志  
代理人 倉内 基弘  

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