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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1091288
審判番号 不服2002-24716  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-11-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-24 
確定日 2004-02-05 
事件の表示 特願2001- 96666「薄い、変形可能なフィルム」拒絶査定に対する審判事件[平成13年11月 9日出願公開、特開2001-311808]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、昭和61年11月20日(パリ条約による優先権主張1985年11月21日、米国)に出願された特願昭61-277790号の一部を、平成9年3月27日に分割した特願平9-113286号の更に一部を、平成13年3月29日に新たな特許出願としたものであって、平成14年9月17日付で拒絶査定がなされ、これに対し同年12月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成14年4月1日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。

「一方の側に構造面を、
該構造面とは反対の他方の側に滑らかな面を含み、
透明の高分子材料で形成された薄い変形可能なフィルムであって、
前記構造面が複数の突起と溝とを形成するために並置された、
概ね直角の二等辺をもつ微小なプリズムの直線配列を含み、
前記プリズムの直角の二辺が前記構造面と反対側の前記滑らかな面に対して概ね45度の角度をなし、
前記フィルムは、直径が45.7センチメートルの曲率で曲げることができる程度に十分薄いことを特徴とするフィルム。」

3.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である、米国特許第4,120,565号明細書(以下、「引用例」という。)、実願昭54-58380号(実開昭55-159304号)のマイクロフィルム(以下、「周知例1」という。)、及び米国特許第2,248,638号明細書(以下、「周知例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(3-1)引用例: 米国特許第4,120,565号明細書

(ア)第1欄第39行〜第48行
「放射エネルギーの集中及び収集装置において、与えられた受け入れ角に対して高い反射性を有する改良された反射壁が提供される。この改良された反射壁は、各プリズムの前面が隣接するするように配置された複数の矩形プリズムからなる。前面及び稜線の形状は、ラインフォーカスパラボラ、ポイントフォーカスパラボラ、トラフ型及びコーン型のような各種のエネルギー収集装置においてよく知られた理想的な形状に対応する。」

(イ)第1欄第65行〜第2欄第11行
「Fig.1には、矩形プリズム10が立体的に示されている。矩形プリズムは、同じ長さで互いに90°を成しプリズムの稜線14を形成する2つの側面11、12を有する3側面のプリズムである。前面16は第3面であり稜線14に対向している。前面16上の入射エネルギー線Sに対するプリズムの作用を考察する。Fig.2はxy平面でのSの射影を、また、yz平面でのSの射影を示す。Fig.1、2及び3において、Pはプリズムにより理想的に反射された光線である。プリズム10の材料の屈折率nはこれを取り囲む環境の屈折率に対して十分高いとすると、側面11及び12からの反射はTIRによるものである。」

(ウ)第2欄第23行〜第37行
「太陽エネルギー集中装置のための反射性壁としての複数のプリズムの応用は、Fig.4、Fig.5、Fig.6及びFig.7に示されている。それぞれの場合において、複数のプリズムは互いに接するように配置されている。Fig.4において、複数の隣接するプリズム20はラインフォーカスパラボリックリフレクターの反射性壁を構成し、与えられた受け入れ角内で各プリズム20の前面22上に入射するエネルギーはラインフォーカス24に沿って入射するように方向付けられる。太陽エネルギーの収集のため、装置は通常、ラインフォーカスが東西方向となるような方角に置かれる。隣接する各プリズム間の溝26は南北方向に平行とし、鏡面反射された光線及び逆反射された光線の双方ともラインフォーカス24に方向付けられる。」

(エ)第3欄19行〜第30行
「太陽や1次エネルギーの収集装置のような放射エネルギー源からのエネルギーを集中させるためにプリズムを利用するにあたって、各プリズムの背面を通る放射漏れを最小化する必要がある。すなわち、放射の好ましい入射角度に対するTIRが最大化されなければならない。Fig.3において、屈折率nで、Sがyz平面のy軸と形成する与えられた角度Aに対して、Fig.2に示すyx平面のy軸とxが形成する角度Bは臨界値Bcより小さいと面12及び11でTIRが生じる。他方、Bc≧Aであれば、一部の放射が逃げていく。」

(オ)第4欄第23行〜第44行
「図示された収集装置の形態及びプリズムはプラスチックのような材料から形成できるという事実によって、この反射性壁の形成によく知られた大量生産技術を用いることを可能にする。特殊な材料又は製造技術は必要とされない。ガラスはその耐久性から魅力的ではあるけれども、その融点により、プラスチックよりモールドするのが困難である。プラスチックの中では、アクリル(n=1.491)、NAS(n=1.562)、ポリカーボネート(n=1.586)及びスチレン(n=1.590)が満足できる材料の例である。プリズムの厚さは、一般的に1cmの半分のオーダーであって、押出又は注入モールディングによりプラスチックで製造することができるサイズである。・・・Fig.9には、隣接するプリズムの他の形態が示されている。ここでプリズム60は、全てのプリズム60が取り付けられる一様な上部分62とともに1部材として形成されている。ある材料において、この形態は、取り扱いと製造を簡単にし、より強度のある反射性壁を形成する。」

これらの記載事項及び図面の記載からみて、引用例には、以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)。

「一方の側に側面11及び12を、
該側面11及び12とは反対の他方の側に前面16、22を含み、
アクリル(n=1.491)、NAS(n=1.562)、ポリカーボネート(n=1.586)及びスチレン(n=1.590)で形成された反射性壁であって、
前記側面11及び12が複数の稜線14と溝26とを形成するために互いに接するように配置された、
同じ長さで互いに90°を成す前記側面11及び12をもつプリズムの配列を含み、
前記プリズムの厚さは、一般的に1cmの半分のオーダーであって、押出又は注入モールディングにより製造され、
前記側面11及び12からの反射は内面全反射(TIR)であり、すべてのプリズムと上部分とが1部材として形成されていることを特徴とする反射性壁。」

(3-2)周知例1:実願昭54-58380号(実開昭55-159304号)のマイクロフィルム

(カ)第1ページ第11行〜第20行
「光再帰性(反射光が入射位置に戻るもの)構造体については、従来透明アクリル樹脂などの裏面にキュービック構造を形成し、樹脂-空気界面の屈折率を利用し、入射光が表面上で再帰反射し、反射光が入射光と同一方向に再帰する光再帰性を持たせたものが、安全標識や反射板に用いられているが、このような成形物はいずれも硬質樹脂であり、衝撃で損傷するため、自動車の外装品例えばバンパー、サイドモールに装着することは性能上困難であった。」

(キ)第2ページ第4行〜第6行
「この考案は、柔軟性を有する合成樹脂モールに光再帰性を付与することにより、曲面部に装着可能な光再帰性光輝モールの提供を目的とする。」

(ク)第3ページ第1行〜第14行
「この光再帰性光輝モールは軟質弾性体を素材としていることから、例えば・・・自動車のバンパーモール5又はサイドモール6・・・ステップモール、ランプモール、ラッゲージモールとしても装着可能である。上記のように構成された光再帰性光輝モールは、樹脂モール表面上にキュービック構造面を持つため光再帰性を有し、また軟質樹脂を使用しているため、外部からの衝撃が加わった場合にも損傷することなく光再帰性は維持され、被装着物が自動車外装面のような曲面にも接着剤、両面粘着テープ、クリップ、ボルト、又は相手部品との嵌合などの手段によって容易に装着可能である。」

(3-3)周知例2:米国特許第2,248,638号明細書

(ケ)第1ページ左欄第25行〜第39行
「この発明は、光偏向する複数のプリズム状のエレメントを担持するシートからなり、このシート材が薄く柔軟で、これに担持されるプリズム状エレメントが微小であることを特徴とし、これによりこの材が巻き取られ、さもなくば通常の方法で格納され、又は、必要に応じてシート状にのばすことができる。この光偏向プリズム状要素が反射面を有するならば、それらは所望の方向において、入射光を反射の通常の光路の一方の側に偏向するような角度に配置され、そのような柔軟材料の反射面は本発明の範囲内である。」

(コ)第1ページ右欄第26行〜第44行
「図1において、11は例えばセルロイドからなる透明なシート材料を表し、同図において大きく拡大して示されている。実施の際の実際の厚さは1インチの1/100より小さい。この材料の表面は多数の平行なプリズム状リブ12で覆われている。・・・図示の例では、リブの間隔は1インチの約1/500、すなわち1mmの1/20で、この大きさでリブは裸眼で個別に視認することはできなくなる。図2において、ブラインドとして使用するためのローラ15に巻かれた、リブ12を有する材料11を示す。」

(サ)第2ページ左欄第16行〜第21行
「この発明において、柔軟なリブ付きシートの製造のために特に考慮される材料は、セルロースアセテート、他のセルロースエステル(又はエーテル)のようなセルロース系材料、アルギン材料及び合成樹脂である。」

(3-4)また、本願出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開昭57-165801号公報(以下、「周知例3」という。)には、次の事項が記載されている。

(シ)第2ページ右上欄下から4行〜同ページ左下欄10行
「第3図を参照して、本発明の像移動及び色発生の少ない表面反射の視野外除去装置を構成する表面反射の視野外除去板1’は、人の視認する物体、例えば自動車や測定器等のメーター、テレビ等の画面、ショーウインドケース、住宅等の窓、額縁等に直接的又は間接的に設けられた透明薄板4の表面に、外部光が照射されることで生ずる表面反射光を当該表面の視野外に導き反射させる幾何光学的に設計された多数の連続する微細な傾設面1a’を有する三角状楔プリズム1A’で前記表面を形成し、更にその裏面にも上記傾設面1a’に平行な傾設面1a”を有する多数の連続する三角状楔プリズム1A”を設けている。」

(ス)第2ページ右下欄下から3行〜第3ページ左上欄10行
「尚、本発明の視野外除去板1’は透明なプラスチックで形成するのが、安価で理想的であるが、ガラスで形成しても良く、更には折曲自在なシート体とすることのできるシリコン等のゴムで形成しても良い。・・・即ち、除去板1’の硬度は、プラスチック等の材質や形成方法その他目的によって異なり、また目的によって硬質から折曲自在な軟質のものまで種々形成され、その透明度や着色度も種々形成されるものである。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における(a)「側面11及び12」、(b)「前面16、22」、(c)「アクリル(n=1.491)、NAS(n=1.562)、ポリカーボネート(n=1.586)及びスチレン(n=1.590)」、(d)「稜線14」、(e)「溝26」、(f)「互いに接するように配置」、(g)「同じ長さで互いに90゜を成す前記側面11及び12をもつ」は、それぞれ本願発明における(a)「構造面」または「プリズムの直角の二辺」、(b)「滑らかな面」、(c)「透明の高分子材料」、(d)「突起」、(e)「溝」、(f)「並置」、(g)「概ね直角の二等辺をもつ」に相当する。
そして、各プリズムによって形成された溝26が南北方向に平行となることから、当該プリズムは直線配列されるものである。また、側面11及び12は同じ長さで互いに90゜を成すのであるから、側面11及び12が、側面11及び12と反対側の前面16、22に対して45度の角度をなすことは自明である。加えて、引用発明の「反射性壁」及び本願発明の「フィルム」は、いずれも入射する光に対して全反射すなわちTIR作用を及ぼす光学部材である点で一致する。
したがって、両者は、

「一方の側に構造面を、
該構造面とは反対の他方の側に滑らかな面を含み、
透明の高分子材料で形成された光学部材であって、
前記構造面が複数の突起と溝とを形成するために並置された、
概ね直角の二等辺をもつプリズムの直線配列を含み、
前記プリズムの直角の二辺が前記構造面と反対側の前記滑らかな面に対して概ね45度の角度をなしていることを特徴とする光学部材。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明においてはプリズムが「微小」であるのに対して、引用発明はプリズムの厚さは、一般的に1cmの半分のオーダーである点。

[相違点2]
本願発明においては光学部材が「薄い変形可能なフィルム」であり、「直径が45.7センチメートルの曲率で曲げることができる程度に十分薄い」のに対して、引用発明においてはその点が明示されていない点。

5.当審の判断
上記各相違点について検討する。

(5-1)相違点1について
引用発明におけるプリズムの厚さは一般的に1cmの半分のオーダーであって、その厚さは押出又は注入モールディングにより製造されるものであり、Fig.4のラインフォーカスパラボラシステムに示される反射性壁の大きさから見て、1cmの半分のオーダーのプリズムは十分微小といえるものである。また、シート状の光学部材のプリズムを微小なものとすることは、周知例2において、リブの間隔を1インチの約1/500、すなわち1mmの1/20とする例が示されているように何ら格別の困難を伴う技術事項ではない。
よって、引用発明のプリズムを微小なものとすることは、当業者が使用形態、使用目的等に応じて設計上適宜に設定できる事項にすぎない。

(5-2)相違点2について
引用発明における光学部材は、押出又は注入モールディングにより、そのプリズムの厚さが1cmの半分のオーダーとなるよう製造されるシート状の光学部材であるが、このようなシート状の光学部材を薄い変形可能なフィルムで構成することは周知例1〜3に示すように従来周知である。そして、フィルムの薄さをどの程度とするかは、当業者であれば使用目的、使用形態等に応じて適宜選択し得る事項にすぎず、「直径が45.7センチメートルの曲率で曲げることができる程度に十分薄い」と特定した点に格別の技術的意義を見出すことはできない。
よって、上記周知技術を採用し、本願発明のように薄い変形可能なフィルムで光学部材を構成することは、当業者であれば容易に想到できることである。

また、本願発明の効果も引用例に記載された発明及び周知技術から予測される程度のものにすぎない。

出願人は審判請求書において、引用発明は、正面への入射光を正面に戻すことを利用して放出エネルギーを集めるものであるが、本願発明は、プリズムのない面への入射光はプリズムのある面へと放出される点で相違する旨主張する。
しかしながら、本願の明細書には、プリズムのない面への入射光を、プリズムによる全反射にて、プリズムのない面に戻すことが記載されており(段落番号0013、0014)、特許請求の範囲の請求項1の記載からみても、本願発明が、プリズムのない面への入射光の全てをプリズムのある面へと放出するものと解することはできない。加えて、引用例においても、本願の明細書(段落番号0008)の記載と同様、一定範囲外の角度で入射される入射光は全反射されない、すなわちプリズムのある面へと放出されることが記載されている(記載事項(エ)参照。)ので、出願人の前記主張を採用することはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2003-08-26 
結審通知日 2003-09-02 
審決日 2003-09-16 
出願番号 特願2001-96666(P2001-96666)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 康真  
特許庁審判長 鹿股 俊雄
特許庁審判官 谷山 稔男
柏崎 正男
発明の名称 薄い、変形可能なフィルム  
代理人 片山 英二  
代理人 小林 純子  

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