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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  C03C
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 一部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1091403
異議申立番号 異議2003-70604  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-12-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-03 
確定日 2003-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3321414号「光偏光制御素子」の請求項1ないし11、13ないし19に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3321414号の訂正後の請求項1ないし4、6ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.訂正の適否
1-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項を、
「【請求項1】P2O5-BaO系のガラスであって、PbO及びLa2O3を含まず、P2O5を20〜70重量%、及び、BaOを30〜60重量%、含有し、構成成分の数が3〜7であるリン酸ガラスからなり、光弾性定数が、+0.8×10-12Pa-1〜-0.3×10-12Pa-1の範囲であり、かつ400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)であることを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項2】P2O5-BaO系のガラスであって、PbO及びLa2O3を含まず、P2O5を30〜60重量%、及び、BaOを40〜60重量%、含有し、構成成分の数が3〜7であるリン酸ガラスからなり、光弾性定数が、+0.8×10-12Pa-1〜-0.3×10-12Pa-1の範囲であり、かつ400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)であることを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項3】請求項1又は2記載の光偏光制御素子において、前記リン酸ガラスが、さらに、重量%で、B2O3を0〜4%未満、Al2O3を0〜3%未満、Nb2O5を0〜2%未満、WO3を0〜6%、MgOを0〜5%、CaOを0〜6%、SrOを0〜6%、ZnOを0〜6%、TiO2を0〜5%、Li2Oを0〜1%未満、Na2Oを0〜3%未満、K2Oを0〜3%、Cs2Oを0〜3%、Li2O+Na2Oを0〜6%未満、Na2O+K2Oを0〜3%未満、Sb2O3を0〜0.5%未満、As2O3を0〜2%、SnO2を0〜2%、Sb2O3+Bi2O3+Ti2O3を0〜0.5%未満、含有することを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項4】屈折率(nd)が、1.57〜1.73の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光偏光制御素子。
【請求項5】重量%で、P2O5を23〜42%、PbOを50〜73%、Nb2O5を0.5〜5%、含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項6】粉末耐水性(DW)が0.3重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至5記載の光偏光制御素子。
【請求項7】光偏光制御素子が、液晶プロジエクタ用のプリズムであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光偏光制御素子。
【請求項8】光偏光制御素子が、偏光ビームスプリツタであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の光偏光制御素子。
【請求項9】請求項1乃至8のいずれかに記載の光偏光制御素子を組み込んだことを特徴とする液晶プロジエクタ。」と訂正する。
1-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
上記訂正事項aは、詳細にみるとa-1.請求項1〜5、7、9、14〜16を削除し、、a-2.請求項6を請求項1とし、「PbO及びLa2O3を含まず」、「構成成分の数が3〜7である」、「400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)である」と限定し、a-3.光弾性係数の単位を「Pa-1」と訂正し、a-4.請求項8を請求項2とし、「PbO及びLa2O3を含まず」、「構成成分の数が3〜7である」、「400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)である」と限定し、a-5.請求項10〜13、17〜19をそれぞれ請求項3〜9とし、引用項番も訂正するというものである。
上記訂正事項a-1.は請求項の削除であるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。上記訂正事項a-2.、a-4.は構成成分の数等で限定したのであるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。上記訂正事項a-3.は誤記の訂正である。上記訂正事項a-5.は請求項の削除に伴い項番を繰り上げたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
2.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜4、6〜9に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4、6〜9(上記1-1.)に記載されたとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1〜4、6〜9」という、なお訂正後の請求項5は訂正前の請求項12に対応するから、異議申立てされていない請求項である)。
3.特許異議申立てについて
3-1.取消理由通知の概要
当審の取消理由通知の概要は、
(1)請求項1〜11、13、17〜19に係る発明の特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであり、(2)請求項1〜11、13、17〜19に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであり、(3)本件特許は特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであるというものである。
3-2.特許法第29条の2違反について(上記3-1.(1))
3-2-1.先願明細書の記載内容
先願明細書:特願平9-368212号(特開平11-199269号)の願書に最初に添付した明細書:異議申立人の甲第1号証
(a)「重量%で、B2O3 0.1〜4%、Al2O3 0〜5%、P2O5 35〜60%、MgO 0〜4%、CaO 0〜30%、SrO 0〜30%、BaO 31〜60%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO 41〜60%、ZnO 0〜5%、La2O3 0.5〜7%、Y2O3 0〜7%、Gd2O3 0〜7%、Nb2O5 0〜5%、Ta2O5 0〜10%、WO3 0〜10%、ただし、Nb2O5+Ta2O5+WO3 0〜10%、Li2O 0〜4%、Na2O 0〜4%、K2O 0〜4%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜4%、Sb2O3 0〜4%の範囲の各成分からなることを特徴とする請求項1または2に記載の光弾性定数が小さい光学ガラス。」(請求項3)
3-2-2.対比・判断
上記先願の出願日は、平成9年12月26日である。しかしながら、本件の優先権主張の出願のうち特願平9-176506号には、P2O5-BaO系の低光弾性定数ガラスについては記載されていないので、本件の優先日は平成10年3月27日である。
そこで、本件訂正発明1〜4、6〜9と上記先願明細書に記載された発明とを対比すると、上記訂正により、本件訂正発明1〜4、6〜9では「La2O3を含まず」だが、上記先願明細書に記載された発明ではLa2O3を含んでいる。
したがって、本件訂正発明1〜4、6〜9は上記先願明細書に記載された発明と同一とすることはできない。
3-3.特許法第29条第2項違反について(上記3-1.(2))
3-3-1.刊行物の記載内容
(1)刊行物1:特開平9-48631号公報:異議申立人の甲第7号証
(a)「酸化物換算のmol%表示でB2O3 0 〜 57.0 % Al2O3 0 〜 13.0 % 但しB2O3+Al2O3 0.1 〜 57.0 % SiO2 0 〜 54.0 % 但しSiO2+B2O3+Al2O3 43.0 〜 57.0 % PbO 43.0 〜 45.5 % R2O(R:Li,Na,K) 0 〜 3.5 % R’O(R’:Mg,Ca,Sr,Ba) 0 〜 12.0 % As2O3+Sb2O3 0 〜 1.5 %の範囲にあり、かつ、(F2/F2+O2) 0 〜 0.1の範囲でフッ素を導入することを特徴とする偏光光学系用光学ガラス。」(請求項1)
(2)刊行物2:特開平9-48633号公報:異議申立人の甲第17号証
(a)「屈折率ndが1.43〜1.65、アッベ数νdが62〜96の範囲の弗化物燐酸系光学ガラスであって、使用する光の波長における光弾性定数Cの絶対値が1.0×10-8cm2/N以下であることを特徴とする偏光光学系用光学ガラス。」(請求項1)
(b)「【実施例】所望の屈折率、アッベ数を有する弗化物燐酸系偏光光学系用光学ガラスを各成分の原料として対応するメタ燐酸塩、弗化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩などを用意し、それらを所定の割合に秤量し混合して調合原料とし、900〜1300℃に加熱して電気炉中で熔解、清澄、攪拌を行って均質化した後、予め予熱された金型に鋳込み徐冷することにより製造した。」(第4頁右欄第31〜37行)
(3)刊行物3:「JOURNAL of the American Ceramic Society」Vol.68、No.7 p389〜391(1985):異議申立人の甲第5号証
(a)「RO-P2O5ガラス(R=Mg,Ca,Sr,BaおよびZn)の応力-光定数を測定し、ガラスの光弾性定数、弾性係数、屈折率間の関係を表す公式に基づいて光弾性機構を分析した。」(第389頁左欄第1〜5行、訳文)
(b)第390頁のTableIには、組成の欄(mol%)に、BaO-P2O5、45 55、50 50、55 45が記載されている。
(4)刊行物4:特開平7-196336号公報:異議申立人の甲第9号証
(a)「以下の組成
MgO 2〜 6 重量%、 SiO2 0〜2 重量%、
CaO 0〜 8.5 〃 、 Al2O3 0〜3 〃 、
SrO 0〜 8 〃 、 Li2O 0〜2 〃 、
BaO 32〜51 〃 、 Na2O 0〜2 〃 、
ZnO 0〜 1 〃 、 K2O 0〜2 〃 、
ΣRO 46〜56 〃 、 Σアルカリ酸化物0〜2 〃 、
(RO=ZnO+MgO+CaO+SrO+BaO)
P2O5 38〜49 〃 、 La2O3 0〜2 〃 、
Ta2O5 0〜2 〃 、
F 0〜 3.5 〃 、 WO3 0〜2 〃 、
F2-O 0〜 2 〃 、 ZrO2 0〜2 〃
を有し、必要に応じて慣用の清澄剤を含み、かつΣRO/P2O5の比が11.4であり、スペクトルの青色領域で正異常部分分散を示し、屈折率nd >1.57,アッベ数νd >64で、結晶化安定性及び透過性に優れた光学燐酸塩ガラス。」(請求項1)
(b)第4頁表1には、酸化物4として、MgO 5.34、BaO 50.20、P2O5 44.46の例が、酸化物5として、MgO 5.10、CaO 1.10、SrO 2.61、BaO 46.65、P2O5 44.54の例がそれぞれ記載されている。
(5)刊行物5:特開昭51-37108号公報:異議申立人の甲第11号証
(a)「下記の成分を組成(重量%)とすることを特徴とする光学的物性が ne=1.59〜1.65 ve=55〜46の範囲にある温度安定性の経路を有する光学ガラス P2O5 40〜55 アルカリ土類金属酸化物 34〜54 Nb2O5 6〜12(ただし、アルカリ土類金属酸化物およびNb2O5の合計の含有量は少なくとも46重量%である。)」(特許請求の範囲第1項)
(6)刊行物6:特開昭61-251537号公報:異議申立人の甲第13号証
(a)「重量%で、P2O5+GeO2 25〜65%、ただし、P2O5 5〜65%、GeO2 0〜55%、Sb2O3+BiO3+Ti2O3 0.5〜65%、Sb2O3+Bi2O3+Tl2O3+PbO 34〜74%、ただし、Sb2O3 0〜50%、Bi2O3 0〜25%、Tl2O3 0〜20%、PbO 0〜63%、Y2O3+La2O3+Gd2O3+Yb2O3+Lu2O3+Ga2O3+In2O3+Al2O3 1〜15%、ただし、Y2O3 0〜10%、La2O3 0〜10%、Gd2O3 0〜15%、Yb2O3 0〜10%、Lu2O3 0〜10%、Ga2O3 0〜10%、In2O3 0〜15%、Al2O3 0〜5%、Li2O+Na2O+K2O+Cs2O 0〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜20%、ZnO 0〜20%、As2O3 0〜10%および上記金属酸化物成分と置換した弗化物成分F2としての合計 0〜10%を含有することを特徴とする異常部分分散性光学ガラス。」(特許請求の範囲第1項)
(7)刊行物7:特開平2-188442号公報:異議申立人の甲第15号証
(a)「重量%で下記の組成よりなり、かつTi、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuの元素含有率が合計で5ppm以下で、添付の第1図に示す点A(1.60,69)、点B(1.62,64)、点C(1.62,47)、点D(1.55,73)、点E(1.50,68)、点F(1.50,73)及び点G(1.56,73)の7点に囲まれた範囲内の光学恒数値を有するリン酸系光学ガラス。記 P2O5 20〜75% Al2O3+B2O3 0.5〜20% R2O(RはLi、Na、K) 0〜14% RO(RはMg、Ca、Sr、Ba、Pb) 1〜60% F 0〜20%」(請求項1)
(b)「本発明は、紫外域での光線透過率が極めて高いリン酸系光学ガラスに関する。」(第1頁右下欄最終行〜第2頁左上欄第1行)
3-3-2.対比・判断
(1)本件訂正発明1について
刊行物3には、「応力-光定数を測定し、ガラスの光弾性定数、弾性係数、屈折率間の関係を表す公式に基づいて光弾性機構を分析したP2O5 45〜55mol%、BaO 55〜45mol%のガラス」という発明(以下、「刊行物3発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と刊行物3発明とを対比すると、両者は「P2O5-BaO系のリン酸ガラス」という点で一致し、P2O5とBaOの組成成分量で重複しているが、次の点で相違していると云える。
相違点:本件訂正発明1では、「PbO及びLa2O3を含まず、構成成分の数が3〜7であるリン酸ガラスからなり、光弾性定数が、+0.8×10-12Pa-1〜-0.3×10-12Pa-1の範囲であり、かつ400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)である光偏光制御素子」であるのに対して、刊行物3発明では、光弾性定数に言及されているものの、PbO、La2O3、構成成分の数、光弾性定数の数値、400nmにおける外部透過率、光偏光制御素子については何も特定されていない点
上記相違点について検討する。
刊行物1には、本件訂正発明の「光偏光制御素子」に相当する「偏光光学系用光学ガラス」について記載されているものの、該ガラスは必須成分としてPbOを43.0 〜45.5mol%含んでいるから、PbOを含まないP2O5-BaO系の「光偏光制御素子」用リン酸ガラスにおけるLa2O3や構成成分の数が示唆されているとは云えない。
刊行物2には、本件訂正発明の「光偏光制御素子」に相当する「偏光光学系用光学ガラス」について記載されているものの、該ガラスの具体的な組成は明らかでないから(上記(2)(b))、P2O5-BaO系の「光偏光制御素子」用リン酸ガラスにおけるPbO、La2O3、構成成分の数が示唆されているとは云えない。
刊行物4には「スペクトルの青色領域で正異常部分分散を示し、屈折率nd>1.57,アッベ数νd >64で、結晶化安定性及び透過性に優れた光学燐酸塩ガラス」、刊行物5には「光学的物性が ne=1.59〜1.65 ve=55〜46の範囲にある温度安定性の経路を有する光学ガラス」、刊行物6には「異常部分分散性光学ガラス」、刊行物7には「紫外域での光線透過率が極めて高いリン酸系光学ガラス」についてそれぞれ記載されているものの、いずれも「光偏光制御素子」について何も記載されていないから、P2O5-BaO系の「光偏光制御素子」用リン酸ガラスにおけるPbO、La2O3、構成成分の数が示唆されているとは云えない。
してみると、上記相違点は、刊行物1、2、4〜7から当業者が容易に想到し得るものであると云うことはできない。
なお、異議申立人は平成15年10月7日付け審尋回答書で、刊行物3に関し「当業者であれば当然に3成分以上の構成部分にてガラスの設計を行う」と主張しているが(第2頁第26〜27行)、刊行物3では2成分のみで著述されており、3成分以上にした場合に、P2O5-BaO系の「光偏光制御素子」においてPbO、La2O3を含まないことが当然知られているとは云えない。
したがって、本件訂正発明1は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、請求項1のP2O5とBaOの組成成分量を減縮したものであるから、上記(1)と同じ理由で、本件訂正発明2は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(3)本件訂正発明3、4、6〜9について
本件訂正発明3、4、6〜9は、少なくとも請求項1又は2を引用しさらに限定したものであるから、上記(1)又は(2)と同じ理由で、本件訂正発明3、4、6〜9は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
3-4.特許法第36条違反について(上記3-1.(3))
取消理由通知では記載不備を、具体的には請求項14の「固有光弾性定数値」、請求項1、2の「BaO及び/又はPbO」の記載について指摘したが、両者とも上記訂正によって訂正されたため、記載不備は解消した。
また、その他の特許異議申立ての理由及び証拠方法は、本件訂正発明1〜4、6〜9を取り消すべき理由として採用することができない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜4、6〜9に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜4、6〜9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光偏光制御素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 P2O5-BaO系のガラスであって、PbO及びLa2O3を含まず、
P2O5を 20〜70重量%、及び、BaOを 30〜60重量%、含有し、構成成分の数が3〜7であるリン酸ガラスからなり、光弾性定数が、+0.8×10-12 Pa -1〜-0.3×10-12 Pa -1の範囲であり、かつ400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)であることを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項2】 P2O5-BaO系のガラスであって、PbO及びLa2O3を含まず、
P2O5を 30〜60重量%、及び、Ba Oを 40〜60重量%、含有し、構成成分の数が3〜7であるリン酸ガラスからなり、光弾性定数が、+0.8×10-12 Pa -1〜-0.3×10-12 Pa -1の範囲であり、かつ400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)であることを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項3】 請求項1又は2記載の光偏光制御素子において、前記リン酸ガラスが、さらに、重量%で、
B2O3を0〜4%未満、Al2O3を0〜3%未満、Nb2O5を0〜2%未満、WO3を0〜6%、
MgOを0〜5%、CaOを0〜6%、SrOを0〜6%、ZnOを0〜6%、
TiO2を0〜5%、
Li2Oを0〜1%未満、Na2Oを0〜3%未満、K2Oを0〜3%、Cs2Oを0〜3%、Li2O+Na2Oを0〜5%未満、Na2O+K2Oを0〜3%未満、
Sb2O3を0〜0.5%未満、As2O3を0〜2%、SnO2を0〜2%、Sb2O3+Bi2O3+Tl2O3を0〜0.5%未満、
含有することを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項4】 屈折率(nd)が、1.57〜1.73の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光偏光制御素子。
【請求項5】 重量%で、
P2O5を 23〜42%、
PbOを 50〜73%、
Nb2O5を0.5〜5%、
含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする光偏光制御素子。
【請求項6】 粉末耐水性(DW)が0.3重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至5記載の光偏光制御素子。
【請求項7】 光偏光制御素子が、液晶プロジェクタ用のプリズムであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光偏光制御素子。
【請求項8】 光偏光制御素子が、偏光ビームスプリッタであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の光偏光制御素子。
【請求項9】 請求項1乃至8のいずれかに記載の光偏光制御素子を組み込んだことを特徴とする液晶プロジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子等に関し、特に、リン酸ガラスからなる光偏光制御素子等に関する。
【0002】
【従来の技術】
低光弾性定数ガラスは、例えば、偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体といった光学素子(光学部品)や、偏光変調を行う空間光変調素等の光学素子などの光偏光制御素子等に使用される。
【0003】
低光弾性定数ガラスは、ガラスに機械的、熱的に外力が加わった場合に生じる複屈折つまり光弾性定数が小さいことの他に、所定の屈折率を有すること、液相温度が低いこと、製造が容易で量産可能であること、所定の波長に対し所定の透過率を有すること、環境汚染の心配がないこと、などの要求特性を満たす必要がある。このうち、屈折率、透過率等については用途に応じ要求特性が異なる。例えば、液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタについては、光弾性定数が+1.0×10-12Pa〜-1.5×10-12Pa(好ましくは+0.8×10-12Pa〜-0.3×10-12Pa)の範囲で、かつ液晶プロジェクタのシステム構成に応じた所望の屈折率(nd)の範囲であることが望ましい。
【0004】
液晶プロジェクタにおいて複屈折(光弾性定数)が問題となるのは以下の理由による。
【0005】
透過型液晶プロジェクタの場合にあっては次の理由による。
液晶内の画素数は映像の高精細化、パソコンの画素数とのマッチング等により年々増加する傾向になり、VGAは640×480画素、SVGAは800×600画素、XGAは1024×768画素で、現在はXGAタイプが主流を占めようとしている。この高画素化の流れはさらに進む傾向にあり、SXGA(1080×1024画素)の登場も近い。
1つの画素は光を透過する開口部と画素を駆動させるトランジスター部分からなる。画素を駆動させるトランジスター部分は光を透過しない。高画素化が進むにつれ、液晶内の1画素の面積は小さくなる。しかしながら、1画素に占めるトランジスターの大きさを小さくすることには限界がある。よって、高画素化が進むにつれて、光を透過しないトランジスターの部分の割合は増えることとなる(図1(a)〜(c)参照)。その結果、液晶が光を透過する率(開口率)が減少することとなり、明るさが低下することを防ぐためにはランプの光の強いもの(高出力)を使用しなくてはならない。
その結果、光のP波、S波を偏光させるPBSプリズムに光による熱分布が生じ、ガラス内に熱応力が働く。
【0006】
反射型液晶プロジェクタの場合の場合にあっては次の理由による。
図2は反射型液晶プロジェクタの簡単な構成図である。反射型は透過型とは異なり、液晶を駆動させるトランジスタが反射面の下側に構成されているため、画素を高精細化の方向に持っていっても開口率が下がらない特徴を持ち、今後の液晶プロジェクターの高画素化には有利である。しかしながら、反射型の構造の欠点としてPBSプリズム1、クロスプリズム2内を光が往復するため光路長が長くなるということがある。複屈折による光路差をδ(nm)とすると以下の関係が成り立つ。
δ=B×σ×d
上式においてσ(105Pa)は熱や力学的な力が加わったときの内部応力、d(cm)は光路長、Bは光弾性定数(10-12Pa)を示す。つまり光弾性定数Bが一定ならば内部応力σ、光路長dが大きくなると複屈折が大きくなることになる。複屈折が大きくなると光のP偏光とS偏光の分解性能を乱す結果となり、特に画素として黒を表現するOFF状態でP偏光からS偏光に変換したはずの光がP偏光のまま残り、黒の画面に不均一さを発生させる(透過型の場合内部応力σ、反射型の場合光路長dが大きくなり問題となる)。
複屈折はB、σ、dの積のためσ、dが大きくなった分はBを小さくして相対的に複屈折を減らすことが可能である。極端なことをいえばBが0ならばσとdが大きくてもδは0である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
第一の課題を以下に示す。
【0008】
特開平9-48631号公報には、B2O3-Al2O3-PbO系の低光弾性定数ガラスが記載されている。このガラスにおいて、PbOは、ガラスに添加可能な成分のうち、光弾性定数を小さくする効果が最も強く、B2O3、Al2O3が光弾性定数を大きくする効果があるため、PbOを多く含むことによって光弾性定数をゼロに近づけることが可能である。しかしながら、PbOは毒性が強いため環境規制の厳しい地域においてはPbOを含んだガラスの使用は困難である。
【0009】
また、特開平9-48633号公報には、フッリン酸系の低光弾性定数ガラスが記載されているが、このガラスはフッ素を含有しているため、熔解時のフッ素の揮発が大きく、光弾性定数や、分散等の光学特性の再現性の高いガラスは得られにくい。また、ガラス内部の脈理も強くなり、良品取得率が極端に下がることになる。なお、Fを含有していても必ずしも光弾性定数が下がるわけではない。特に、多量のFを入れた場合には、ガラス内部の均質性が悪くなる。
【0010】
なお、特開昭50-71708号公報には、P2O5-PbO-Nb2O5系のリン酸塩光学ガラスが記載されているが、このガラスは着色の少ない高屈折率の光学ガラスを得ることを目的としており低光弾性定数ガラスの用途に用いることを目的とするものではない。そのため、その中の実施例ではNb2O5を5重量%以上含んだものが多いので光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまう。Nb2O5が5%未満の実施例についはPbOを50%以上含んでいるため、屈折率(nd)が1.73を越えてしまい、PbOを多く含んでいるため外部透過率が悪くなる場合がある。
【0011】
また、特開平2-188442号公報には、P2O5-Al2O3-B2O3-RO(Mg、Ca、Sr、Ba、Pb)系のリン酸系光学ガラスが記載されているが、このガラスは紫外域での光線透過率の高い光学ガラスを得ることを目的としており低光弾性定数ガラスの用途に用いることを目的とするものではない。そのため、P2O5が36%を超えるガラスではBaOとPbOの合量が40%未満のため光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまう。P2O5が32〜36%の範囲においてはAl2O3を4%以上含んでいるため液相温度(LT)が高くなり、製造には不向きである。
【0012】
上述したように、上述した各種第一の課題を解決し、光弾性定数、屈折率等が所定の範囲内にあり、液相温度が低く、量産可能な低光弾性定数ガラスは未だ得られていない。
【0013】
第二の課題を以下に示す。
【0014】
例えば、投写型カラー表示装置には、ガラス製プリズムが使用されているが(特公平7-109443号公報参照)、この種のガラスとしては、例えば、ホウケイ酸ガラス(BK7:ドイツ ショット社製)が使用されている。しかし、このガラスは、光弾性定数が大きく、投写型カラー表示装置の用途でこのガラスを使用していると、光源の熱によりプリズムは部分的に加熱され、プリズム内に例えば20〜30℃の温度差が生じる。このように温度差が生じると、プリズム内に歪みが生じる。投写型カラー表示装置においても、近年、小型化が進んでおり、上記のような歪みが、映像を乱す原因となる。
【0015】
これに対し、光弾性定数が小さいガラスとして、特開平9-48631号公報に記載されたB2O3-PbO-アルカリ酸化物系のガラスがある。しかし、このガラスは、着色するため光透過特性に劣るといった欠点がある。また、SiO2-PbO-アルカリ酸化物系のガラスは、光弾性定数は小さいが、光弾性定数を1.0×10-12Pa程度以下にするためにはPbOを多く含有させなくてはならず、このため400nm付近の透過率が低くなるといった欠点がある。
【0016】
さらに、JOURNAL OF THE SOCIETY OF GRASS TECHNOLOGY(1957,359T-362T,「The Effects of the Polarisationn of the Constituent Ion on the Photoelastic Birefringence of the Glass」,By MEGUMI TASHIRO)には、P2O5-PbO系の二成分系ガラスが開示されており、P2O5:40.5wt%、PbO:59.5wt%の組成において光弾性定数が0になることが記載されている。しかしながら、この組成のガラスでは、化学的耐久性が悪く、空気中の水分などによりやけを生じやすいという欠点があるので実用性が低い。
【0017】
上述した第二の課題から明らかなように、光弾性定数が小さく、着色がなく透過率が高くて光透過特性に優れ、かつ、化学的耐久性に優れた低光弾性定数ガラスは未だ得られていない。
【0018】
本発明は上述した背景の下になされたものであり、上述した各種第一の課題を解決し、光弾性定数、屈折率等が所定の範囲内にあり、液相温度が低く、量産可能な低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子等の提供を第一の目的とする。
【0019】
また、上述した各種第二の課題を解決し、着色がなく透過率が高くて光透過特性に優れ、かつ、化学的耐久性に優れた低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子等の提供を第二の目的とする。
【0020】
さらに、計算した値に基づいて光弾性定数ガラスを構成する成分及びその含有量を決定して、所望の光弾性定数を有する光弾性定数ガラスを製造することのできる光弾性定数ガラスの製造方法等の提供を第三の目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記第一の目的を達成するために本第一発明に係る低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子等は、以下に示す構成としてある。
【0022】
(構成1)P2O5を20〜60重量%含有し、かつ、BaO及び/又はPbOを含有し、BaO+PbOの含有量が40〜73重量%であるリン酸ガラスからなることを特徴とする光偏光制御素子。
【0023】
(構成2)BaOを10〜60重量%含有することを特徴とする構成1記載の光偏光制御素子。
【0024】
(構成3)重量%で、P2O5を30〜60%、BaOを10〜60%、及び、PbOを0〜50%未満、含有し、かつ、BaO+PbOが40〜70%、であるリン酸ガラスからなることを特徴とする構成1又は2記載の光偏光制御素子。
【0025】
(構成4)重量%で、P2O5を35〜56%、BaOを12〜56%、及び、PbOを0〜46未満%、含有し、かつ、BaO+PbOが43〜65%、であるリン酸ガラスからなることを特徴とする構成3記載の光偏光制御素子。
【0026】
(構成5)P2O5-BaO系のガラスであって、P2O5を 20〜70重量%、及び、BaOを30〜60重量%、含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする光偏光制御素子。
【0027】
(構成6)P2O5-BaO系のガラスであって、P2O5を30〜60重量%、及び、BaOを40〜60重量%、含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする光偏光制御素子。
【0028】
(構成7)構成1乃至6記載の光偏光制御素子において、前記リン酸ガラスが、さらに、重量%で、B2O3を0〜4%未満、Al2O3を0〜3%未満、Nb2O5を0〜2%未満、WO3を0〜6%、MgOを0〜5%、CaOを0〜6%、SrOを0〜6%、ZnOを0〜6%、La2O3を0〜3%、TiO2を0〜5%、Li2Oを0〜1%未満、Na2Oを0〜3%未満、K2Oを0〜3%、Cs2Oを0〜3%、Li2O+Na2Oを0〜5%未満、Na2O+K2Oを0〜3%未満、Sb2O3を0〜0.5%未満、As2O3を0〜2%、SnO2を0〜2%、Sb2O3+Bi2O3+Tl2O3を0〜0.5%未満、含有することを特徴とする光偏光制御素子。
【0029】
(構成8)光弾性定数が、+0.8×10-12Pa〜-0.3×10-12Paの範囲(ゼロを含む、以下同様)であることを特徴とする構成1乃至7記載の光偏光制御素子。
【0030】
(構成9)屈折率(nd)が、1.57〜1.73の範囲であることを特徴とする構成1乃至8記載の光偏光制御素子。
【0031】
(構成10)400nmにおける外部透過率が70%以上(10mm厚)であることを特徴とする構成1乃至9記載の光偏光制御素子。
【0032】
上記第二の目的を達成するために本第二発明に係る低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子等は、以下に示す構成としてある。
【0033】
(構成11)重量%で、P2O5を23〜42%、PbOを50〜73%、Nb2O5を0.5〜5%、含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする光偏光制御素子。
【0034】
(構成12)重量%で、P2O5を25〜40%、PbOを52〜71%、Nb2O5を1〜4%、含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする構成11記載の光偏光制御素子。
【0035】
(構成13)構成11又は12記載の光偏光制御素子であって、前記リン酸ガラスが、さらに、重量%で、MgOを0〜10%、CaOを0〜10%、SrOを0〜10%、BaOを0〜15%、B2O3を0〜10%、ZnOを0〜8%、Sb2O3を0〜2%、As2O3を0〜2%、SnO2を0〜2%、含有することを特徴とする光偏光制御素子。
【0036】
(構成14)構成11乃至13記載の光偏光制御素子であって、前記リン酸ガラスが、さらに、重量%で、TiO2を0〜6%、Li2Oを0〜5%、Na2Oを0〜5%、K2Oを0〜5%、Al2O3を0〜5%、含有することを特徴とする光偏光制御素子。
【0037】
(構成15)重量%で、P2O5を23〜42%、PbOを50〜73%、BaOを0〜15%、Nb2O5を0.5〜5%、ZnOを0〜8%、Al2O3を0〜5%、La2O3を0〜3%、MgOを0〜10%、CaOを0〜10%、SrOを0〜10%、含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする構成11乃至14記載の光偏光制御素子。
【0038】
(構成16)重量%で、P2O5を23〜42%、PbOを50〜73%、BaOを0〜15%、Nb2O5を0.5〜5%、ZnOを0〜8%含有するリン酸ガラスからなることを特徴とする構成11乃至15記載の光偏光制御素子。
【0039】
(構成17)屈折率(nd)が、1.69〜1.84の範囲であることを特徴とする構成11乃至16記載の光偏光制御素子。
【0040】
(構成18)光弾性定数が、+1.0×10-12Pa〜-1.5×10-12Paの範囲(ゼロを含む、以下同様)であることを特徴とする構成11乃至17記載の光偏光制御素子。
【0041】
(構成19)波長400nmにおける外部透過率が73%以上であることを特徴とする構成11乃至18記載の光偏光制御素子。
【0042】
(構成20)粉末耐水性(DW)が0.3重量%以下であることを特徴とする構成1乃至19記載の光偏光制御素子。
【0043】
上記第三の目的を達成するために本第三発明に係る光弾性定数ガラスの製造方法等は、以下に示す構成としてある。
【0044】
(構成21)光弾性定数ガラスを構成する各成分に任意の固有光弾性定数値を当てはめ、これらの固有光弾性定数値に基づいて光弾性定数ガラスを構成する成分及びその含有量を決定して、所望の光弾性定数を有する光弾性定数ガラスを製造することを特徴とする光弾性定数ガラスの製造方法。
【0045】
(構成22)光弾性定数ガラスを構成する各成分の1mol当たりの固有光弾性定数値(単位は10-12Pa/mol)を、それぞれ、P2O5:0.029±0.01、BaO:-0.021±0.01、PbO:-0.036±0.01、B2O3:0.05±0.01、Al2O3:0.01±0.01、Nb2O5:0.11±0.01、WO3:0.05±0.01、MgO:0.04±0.01、CaO:0.016±0.01、SrO:0.008±0.01、ZnO:0.037±0.01、La2O3:-0.01±0.01、TiO2:0.03±0.01、Li2O:0.015±0.01、Na2O:0.025±0.01、K2O:0.03±0.01、Cs2O:0.03±0.01、Sb2O3:0.04±0.01、Bi2O3:0.05±0.01、TeO2:0.05±0.01、PbF2:-0.03±0.01、BaF2:-0.015±0.01とし、固有光弾性定数値×モル量の総和を計算し、この計算した値に基づいて光弾性定数ガラスを構成する成分及びその含有量を決定して、所望の光弾性定数を有する光弾性定数ガラスを製造することを特徴とする光弾性定数ガラスの製造方法。
【0046】
(構成23)構成21又は22記載の光弾性定数ガラスの製造方法を用い、固有光弾性定数値×モル量の総和が、+0.8×10-12Pa〜-0.3×10-12Paの範囲となるように成分及びその含有量を決定して製造したことを特徴とする光偏光制御素子。
【0047】
また、本発明における他の発明は、以下に示す構成としてある。
【0048】
(構成24)光偏光制御素子が、液晶プロジェクタ用のプリズムであることを特徴とする構成1乃至20又は構成23記載の光偏光制御素子。
【0049】
(構成25)光偏光制御素子が、偏光ビームスプリッタであることを特徴とする構成1乃至20又は構成23記載の光偏光制御素子。
【0050】
(構成26)構成1乃至20又は構成23乃至25記載の光偏光制御素子を組み込んだことを特徴とする液晶プロジェクタ。
【0051】
【作用】
構成1において、BaO及びPbOの両成分を含有する場合にあっては、BaOの固有光弾性定数がマイナスであることを利用し、BaOを含有させることで、光弾性定数値を低く抑えたままで、PbOの含有量を少なくでき、環境に対する安全性を高めることができる。また、BaOとPbOの合量を規定することで液相温度を下げる効果がある。
BaOを含有し、PbOを含有しない場合は、下記構成5〜6等に該当する。
PbOを50重量%未満含有する場合は、下記構成3〜4等に該当する。
PbOを50〜73重量%含有する場合は、下記構成11〜20等に該当する。
【0052】
構成2によれば、BaOの含有量を所定の範囲に調整することで、光弾性定数値を+0.8×10-12Pa〜-0.3×10-12Paの範囲内とすることが可能となる。
【0053】
構成3によれば、構成1及び2の効果に加え、PbOの含有量を規定することで屈折率(nd)を1.73以下にすることができる。したがって、光弾性定数が+0.8×10-12Pa〜-0.3×10-12Paの範囲でかつ屈折率(nd)が1.57〜1.73である液相温度の低い、量産可能な低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子が得られる。
【0054】
構成4によれば、構成3における各組成範囲をより好ましいものとし、各種特性の向上を図ることができる。
なお、液相温度は900℃未満が好ましく、880℃以下がさらに好ましい。
【0055】
構成5によれば、BaOの固有光弾性定数がマイナスであることを利用し、PbOを含まない鉛フリーのリン酸系低光弾性定数ガラスをつくることが可能となる。また、BaOの含有量を所定の範囲に調整することで、光弾性定数値を+0.8×10-12Pa〜-0.3×10-12Paの範囲内とすることが可能となる。
【0056】
構成6によれば、構成5における各組成範囲をより好ましいものとし、各種特性の向上を図ることができる。
【0057】
構成7によれば、構成1乃至6の効果に加え、これらの成分を加えることで、光弾性定数値、液相温度、屈折率、透過率、安定性、耐光性、化学的耐久性などの各種特性を制御し特性の向上を図ることが可能となる。
【0058】
構成8によれば、光弾性定数値を+0.8×10-12Pa〜-0.3×10-12Paの範囲内とすることで、例えば液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体としてより好適に使用できる。
【0059】
構成9によれば、屈折率(nd)を1.57〜1.73の中屈折率の範囲内とすることで、液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体としてより好適に使用できる。
【0060】
構成10によれば、400nmにおける外部透過率を70%以上(10mm厚)とすることで、液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体として好適に使用できる。
【0061】
構成11によれば、P2O5-PbO系ガラスにNb2O5を添加することにより、ガラス化範囲が広がり、光弾性定数が+1.0×10-12Pa〜-1.5×10-12Paの範囲内にあり、10mm厚のガラスの400nmにおける外部透過率が73%以上で、かつ、粉末耐水性(DW)が0.3重量%以下であり、優れた特性を有する低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子が得られる。
【0062】
構成12によれば、構成11における各組成範囲をより好ましいものとし、各種特性の向上を図ることができる。
【0063】
構成13及び14によれば、構成11及び12の効果に加え、これらの成分を加えることで、光弾性定数値、液相温度、耐失透性、着色回避、屈折率、透過率、安定性、耐光性、化学的耐久性などの各種特性を制御し特性の向上を図ることが可能となる。
【0064】
構成15及び16は、構成11乃至14について、製造や実施製品として適した好ましい具体的組成及びその範囲の一例を示したものである。
【0065】
構成17によれば、屈折率(nd)を1.69〜1.84の範囲内とすることで、液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体として好適に使用できる。
【0066】
構成18によれば、光弾性定数値を+1.0×10-12Pa〜-1.5×10-12Paの範囲内とすることで、例えば液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体として好適に使用できる。
【0067】
構成19によれば、400nmにおける外部透過率を73%以上(10mm厚)とすることで、液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体として好適に使用できる。
【0068】
構成20によれば、粉末耐水性(DW)が0.3重量%以下とすることで、化学的耐久性等に優れた光偏光制御素子が得られる。
【0069】
構成21乃至23によれば、光弾性定数ガラスを構成する各成分に任意の固有光弾性定数値を当てはめ、固有光弾性定数値×モル量の総和を計算し、この計算した値に基づいて光弾性定数ガラスを構成する成分及びその含有量を決定して、所望の光弾性定数を有する光弾性定数ガラス等を製造することが可能となる。
【0070】
構成24乃至26によれば、光偏光制御素子として、これらを作成することで、優れた性能を有する製品を得ることができる。
【0071】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0072】
まず、第一の発明について説明する。
【0073】
第一発明の光偏光制御素子は、少なくともP2O5とBaOを含むリン酸ガラスからなることを特徴とする。
【0074】
含有量の限定理由を説明すると次のとうりである。
【0075】
P2O5は、燐酸塩ガラスにおいてガラス形成成分として欠かせない成分であり、20%未満になると失透性が悪くなる。また70%を超えると耐久性が悪化する。よってP2O5の含有量は20〜70%の範囲に限定される。P2O5-BaO系の場合、好ましい範囲は30〜60%、より好ましい範囲は32〜59%である。また、P2O5-BaO-PbO系の場合は、好ましい範囲は30〜60%、より好ましい範囲は35〜56%である。
【0076】
BaOは、固有光弾性定数がマイナスなため光弾性定数を小さくするために有効な成分である。また、PbOは、BaOと同様に固有光弾性定数がマイナスなため光弾性定数を小さくするために有効な成分である。
【0077】
BaOとPbOは合量で40%未満になると光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまう。一方73%を超えると液相温度が高くなるためBaOとPbOの合量は40〜73の範囲に限定される。BaOとPbOの合量の好ましい範囲は42〜70%、より好ましい範囲は42〜68%、さらに好ましい範囲は43〜65%の範囲である。
【0078】
なお、BaOは、60%を超えると失透性が悪くなる。また、所望の屈折率、光弾性定数を得るためにはBaOは10%未満が好ましい。よってBaOの含有量は10〜60%の範囲に限定される。P2O5-BaO系の場合、好ましい範囲は30〜60%、より好ましい範囲は40〜60%である。また、P2O5-BaO-PbO系の場合は、好ましい範囲は12〜56%である。
【0079】
また、PbOが50%以上になると屈折率が1.73を越えてしまうことがある。よって屈折率を1.73以下にする場合はPbOの含有量は0〜50%未満が好ましい。同様の観点から、好ましいPbOの範囲は0〜46%未満である。なお、環境に配慮すればPbOは実質的にゼロであることが好ましい。
【0080】
任意成分であるB2O3は、P2O5-PbO-BaO系ガラス、P2O5-BaO系ガラスに適量添加すると液相温度を下げる効果がある。しかしながら、B2O3が4%以上になるとガラスの化学的耐久性が悪くなるか、あるいは光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えることがある。そのためB2O3は0〜4%未満が好ましい。さらに好ましくは0〜2%の範囲である。
【0081】
Nb2O5、WO3は、共にP2O5-PbO-BaO系ガラス、P2O5-BaO系ガラスに適量添加すると液相温度を下げる効果がある。さらに屈折率を高くする効果があるため本第一発明において屈折率が1.65〜1.73付近のガラスを作るのに効果的である。しかしながら、Nb2O5が2%以上で、WO3が6%を超えると着色が強くなるか、あるいは光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまうため、Nb2O5は0〜2%未満、WO3は0〜6%の範囲に限定される。好ましくはNb2O5が0〜1.5%で、WO3が0〜4%の範囲である。
【0082】
MgO、CaO、SrOは適量添加により液相温度を下げる効果があり、屈折率、光弾性定数の調整が可能である。しかしながら、MgOが5%を超え、CaOが6%を超え、SrOが6%を超えると液相温度が上がるか、あるいは光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまうため、MgOは0〜5%、CaOは0〜6%、SrOは0〜6%に限定される。好ましくはMgOが0〜2%、CaOが0〜4%、SrOが0〜4%の範囲である。
【0083】
Li2O、Na2O、K2O、Cs2Oは、P2O5-PbO-BaO系ガラス、P2O5-BaO系ガラスに適量添加すると液相温度を下げ、熔解性を良くする効果がある。しかしながら、Li2Oが1%以上になり、Na2Oが3%を超え、K2Oが3%を超え、Cs2Oが3%を超えると液相温度が上がるか、あるいは光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまう。そのため、Li2Oは0〜1%未満、Na2Oは0〜3%、K2Oは0〜3%、Cs2Oは0〜3%の範囲に限定される。またLi2OとNa2Oの合量が5%以上でかつNa2OとK2Oの合量が3%以上になると液相温度が上がるため、Li2OとNa2Oの合量は0〜5%未満に、Na2OとK2Oの合量は0〜3%未満に限定される。
【0084】
任意成分であるTiO2、Al2O3、ZnO、La2O3は、適量添加によりガラスの化学的耐久性を良くする。しかしながら、TiO2が5%を超え、Al2O3が3%以上で、ZnOが6%を超え、La2O3が3%を超えると光弾性定数が+0.8×10-12Paを超える。したがって、TiO2は0〜5%、Al2O3は0〜3%未満、ZnOは0〜6%、La2O3は0〜3%の範囲に限定される。
【0085】
任意成分であるSb2O3、As2O3、SnO2は消色剤および清澄剤として有効である。しかし、Sb2O3が0.5%以上、As2O3とSnO2を2%を超えて添加すると液相温度が上がる。そのためSb2O3、As2O3、SnO2の含量はそれぞれSb2O3は0〜0.5%未満、As2O3は0〜2%、SnO2は0〜2%の範囲に限定される。
【0086】
Fは、清澄剤として全アニオン中2原子%まで含めることができる。また、均質性に影響を与えない量であれば、例えば、全アニオン中10原子%まで含めることもできる。
【0087】
SiO2、Y2O3、Gd2O3、ZrO2、Ta2O5、Bi2O3、TeO2、GeO2、In2O3、Rb2O3、Tl2O3も本発明の効果を損なわない範囲内で添加可能である。
【0088】
第一発明の低光弾性定数ガラスを製造する際には、原料として、P2O5については正燐酸(H3PO4)、メタ燐酸塩、五酸化二燐等を、また他の成分については炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を適宜用いることが可能である。本発明の光偏光制御素子を製造する方法としては、これらの原料を所望の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを900〜1200℃に加熱した熔解炉に投入し、熔解、清澄後、撹拌し、均一化してから鋳型に鋳込み徐冷することにより得られたガラス塊を、所望形状にカットする方法、予め所望形状の鋳型を用意し、この鋳型に鋳込んで成形する方法等が挙げられる。また、成形後のガラスの表面に光学薄膜やその他の機能性薄膜等を成膜することができる。光偏光制御素子がプリズムである場合の形状としては、三角又は台形の側面をもつ角柱等が挙げられる。
【0089】
次に、第三の発明について説明する。
【0090】
第三発明は、光弾性定数ガラスを構成する各成分に任意の固有光弾性定数値を当てはめ、これらの固有光弾性定数値から計算した値に基づいて光弾性定数ガラスを製造することを特徴とする。
【0091】
具体的には、例えば、光弾性定数ガラスを構成する各成分の1mol当たりの固有光弾性定数値(単位は10-12Pa/mol)を、それぞれ、P2O5:0.029、BaO:-0.021、PbO:-0.036、B2O3:0.05、Al2O3:0.01、Nb2O5:0.11、WO3:0.05、MgO:0.04、CaO:0.016、SrO:0.008、ZnO:0.037、La2O3:-0.01、TiO2:0.03、Li2O:0.015、Na2O:0.025、K2O:0.03、Cs2O:0.03、Sb2O3:0.04、Bi2O3:0.05、TeO2:0.05、PbF2:-0.03、BaF2:-0.015とし、固有光弾性定数値×モル量の総和を計算し、この計算した値に基づいて光弾性定数ガラスを構成する成分及びその含有量を決定して、所望の光弾性定数を有する光弾性定数ガラスを製造する。この際、光弾性定数値だけでなく、屈折率、透過率、液相温度、熔解性、化学的耐久性、着色等を考慮して成分及びその含有量を決定できる。
【0092】
なお、光弾性定数ガラスを構成する各成分の1mol当たりの固有光弾性定数値(単位は10-12Pa/mol)は上記値に限定されず、例えば、P2O5:0.029±0.01、BaO:-0.021±0.01、PbO:-0.036±0.01、B2O3:0.05±0.01、Al2O3:0.01±0.01、Nb2O5:0.11±0.01、WO3:0.05±0.01、MgO:0.04±0.01、CaO:0.016±0.01、SrO:0.008±0.01、ZnO:0.037±0.01、La2O3:-0.01±0.01、TiO2:0.03±0.01、Li2O:0.015±0.01、Na2O:0.025±0.01、K2O:0.03±0.01、Cs2O:0.03±0.01、Sb2O3:0.04±0.01、Bi2O3:0.05±0.01、TeO2:0.05±0.01、PbF2:-0.03±0.01、BaF2:-0.015±0.01とすることができ、この固有光弾性定数値に基づいて光弾性定数ガラスを構成する成分及びその含有量を決定して、所望の光弾性定数を有する光弾性定数ガラスを製造することもできる。
【0093】
なお、上記以外の成分を加える場合についても光弾性定数の実測値からその成分の固有光弾性定数値を簡単に求めることができ、上記と同様に利用できる。
【0094】
第一及び第三発明に係る光偏光制御素子は、偏光変調を行う空間光変調素子、偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体、その他、電子光学用ガラス基板や電子光学用ガラス部品などとして使用できる。特に、投写型カラー表示装置(液晶プロジェクタなど)等の高温になる機器内で使用する場合に最適である。
また、本発明の液晶プロジェクタは、LCDパネル、偏光プリズム、プロジェクションレンズ、光源等を含み、その偏光プリズムとして構成1〜20、構成23〜25の光偏光制御素子を組み込んだことが特徴である。偏光プリズム以外のシステム構成に特に制限はなく、前述した反射型でも、透過型でもよいが、反射型の場合、例えば、図2のような構成が挙げられる。
【0095】
次に、第二の発明について説明する。
【0096】
第二発明の光偏光制御素子は、重量%で、P2O5を23〜42%、PbOを50〜73%、Nb2O5を0.5〜5%、含むリン酸ガラスからなることを特徴とする。
この光偏光制御素子は、屈折率(nd)が1.69〜1.84を実現できる。また、光弾性定数としては+1.0×10-12Pa〜-1.5×10-12Pa、特に、+0.4×10-12Pa〜-0.4×10-12Pa、さらに、+0.2×10-12Pa〜-0.2×10-12Pa、が実現できる。
【0097】
これらの必須成分の含有量の限定理由を説明すると次のとうりである。
【0098】
P2O5は、燐酸塩ガラスにおいてガラス形成成分として欠かせない成分である。P2O5の含有量が、23重量%未満になると耐失透性が悪くなる。また、42重量%を超えると耐久性が悪化する。したがって、P2O5の含有量は23〜42重量%の範囲に限定される。同様の観点から、好ましいP2O5の含有量の範囲は25〜40重量%である。
【0099】
PbOは、光弾性定数を+1.0×10-12Pa〜-1.5×10-12Paの範囲以下とするために有効な成分である。PbOの含有量が、50重量%未満になると光弾性定数は+1.0×10-12Pa以上になってしまう。また、73重量%を超えると耐失透性が悪くなる。したがって、PbOの含有量は50〜73重量%の範囲が好ましい。同様の観点から、好ましいPbOの含有量の範囲は52〜71重量%である。
【0100】
Nb2O5はP2O5-PbO系ガラスに0.5〜5重量%の範囲で添加すると化学的耐久性が良くなるとともに液相温度を大きく下げる効果があるため本発明に有効な成分である。
Nb2O5の含有量が、0.5重量%未満になると上記の効果が得られなくなる。また、5重量%を超えると着色が強くなる。したがって、Nb2O5の含有量は0.5〜5重量%の範囲が好ましい。同様の観点から、好ましいP2O5の含有量の範囲は1〜4重量%である。
【0101】
任意成分であるMgO、CaO、SrO、BaO、B2O3、ZnOは、本発明のP2O5-PbO-Nb2O5系ガラスに適量添加することにより液相温度を下げる効果があるとともに、光弾性定数の調整が可能である。しかし、MgOが10重量%を超え、CaOが10重量%を超え、SrOが10重量%を超え、BaOが15重量%を超え、B2O3が10重量%を超え、あるいは、ZnOが8重量%を超えると耐失透性が悪化する。このため、MgOは0〜10重量%、CaOは0〜10重量%、SrOは0〜10重量%、BaOは0〜15重量%、B2O3は0〜10重量%、ZnOは0〜8重量%の範囲に限定される。好ましくは、MgOが0〜8重量%、CaOが0〜8重量%、SrOが0〜8重量%、BaOが0〜12重量%、B2O3が0〜8重量%、ZnOが0〜6重量%の範囲である。
【0102】
任意成分であるSb2O3、As2O3、SnO2は、消色材及び清澄剤として有効である。しかし、いずれの成分も2重量%を超えて添加すると耐失透性が悪化する。このため、Sb2O3、As2O3、SnO2の含有量は、それぞれ、0〜2重量%の範囲に限定される。
【0103】
任意成分であるTiO2、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3は、適量添加することにより光弾性定数の調整が可能である。しかしながら、TiO2が6重量%を超え、Li2Oが5重量%を超え、Na2Oが5重量%を超え、K2Oが5重量%を超え、Al2O3が5重量%を超えると耐失透性が悪化する。このため、TiO2は0〜6重量%、Li2Oは0〜5重量%、Na2Oは0〜5重量%、K2Oは0〜5重量%、Al2O3は0〜5%重量の範囲に限定される。好ましくは、TiO2が0〜4重量%、Li2Oが0〜4重量%、Na2Oが0〜4重量%、K2Oが0〜4重量%、Al2O3が0〜4%重量の範囲である。
【0104】
Fは、ガラスに含まれる酸素に置き換わってガラス中に入ることにより400nm付近の透過率を極めて良好にする効果がある。しかし、ガラスに含まれる全酸素量のうち30重量%を超えてFに置換すると耐失透性が悪くなるため、置換の範囲は0〜30重量%の範囲に限定される。好ましくは、0〜20%重量の範囲である。
【0105】
その他、SiO2、Cs2O、La2O3、Y2O3、Gd2O3、WO3、ZrO2、Ta2O5、Bi2O3、TeO2、GeO2の各成分も本発明の特性を失わぬ範囲で添加することが可能である。
ここで、耐候性、耐失透性に優れた光偏光制御素子としては、構成15に記載の、重量%で、P2O5を23〜42%、PbOを50〜73%、BaOを0〜15%、Nb2O5を0.5〜5%、ZnOを0〜8%、Al2O3を0〜5%、La2O3を0〜3%、MgOを0〜10%、CaOを0〜10%、SrOを0〜10%、含有するリン酸ガラスからなる光偏光制御素子が挙げられる。特に、構成15に記載の、重量%で、P2O5を23〜42%、PbOを50〜73%、BaOを0〜15%、Nb2O5を0.5〜5%、ZnOを0〜8%、含有するリン酸ガラスからなる光偏光制御素子が好ましい。
【0106】
上記組成を有する第二発明における低光弾性定数ガラスは、粉末耐水性(DW)が0.3重量%以下であって、化学的耐久性に優れる。
【0107】
第二発明における低光弾性定数ガラスを製造する際には、原料として、P2O5については正燐酸(H3PO4)、メタ燐酸塩、五酸化二燐等を、他の成分については炭酸塩、硝酸塩、酸化物、フッ化物等を適宜用いることが可能である。本発明の光偏光制御素子を製造する方法としては、これらの原料を所望の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを900〜1200℃に加熱した溶融炉に投入し、熔解、清澄後、撹拌し均一化してから鋳型に鋳込み徐冷することにより得られたガラス塊を、所望形状にカットする方法、予め所望形状の鋳型を用意し、この鋳型に鋳込んで成形する方法等が挙げられる。また、成形後のガラスの表面に光学薄膜やその他の機能性薄膜等を成膜することができる。光偏光制御素子がプリズムである場合の形状としては、三角又は台形の側面をもつ角柱等が挙げられる。
【0108】
第二発明に係る光偏光制御素子は、偏光変調を行う空間光変調素子、偏光ビームスプリッタを構成する基板やプリズム基体、その他、電子光学用ガラス基板や電子光学用ガラス部品などとして使用できる。特に、投写型カラー表示装置(液晶プロジェクタなど)等の高温になる機器内で使用する場合に最適である。
また、本発明の液晶プロジェクタは、LCDパネル、偏光プリズム、プロジェクションレンズ、光源等を含み、その偏光プリズムとして構成1〜20、構成23〜25の光偏光制御素子を組み込んだことが特徴である。偏光プリズム以外のシステム構成に特に制限はなく、前述した反射型でも、透過型でもよいが、反射型の場合、例えば、図2のような構成が挙げられる。
【0109】
【実施例】
以下、実施例にもとづき本第一及び第三発明をさらに詳細に説明する。
【0110】
実施例1〜17及び比較例1〜5
表1〜3に示す調合組成(重量%)に従って、常法により、低光弾性定数ガラスを作製した。調合原料としては、P2O5については正燐酸(H3PO4)、メタ燐酸塩、五酸化二燐等を用い、他の成分については炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を用いた。これらの原料を所望の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを900〜1200℃に加熱した熔解炉に投入し、熔解、清澄後、撹拌し、均一化してから鋳型に鋳込み徐冷することにより、実施例1〜17及び比較例1〜5の光偏光制御素子を得た。
【0111】
上記で得られた光偏光制御素子について屈折率(nd)、低光弾性定数、及びL.T(液相温度)を測定した。実施例1〜9の結果を表1に、実施例10〜17の結果を表2に、比較例1〜5の結果を表3にそれぞれ示す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
なお、「光弾性定数」は、He-Neレーザー光を用い、20mmφ、高さ15.8mmで対面研磨したガラスに一直線方向に圧縮荷重を加えたときにガラスの中心に生じる光路差を測定して求めた。
【0116】
また、「L.T(液相温度)」は、700〜1100℃の温度勾配のついた炉内にガラスを放置し、30分後に取り出し、軟化したガラスの結晶の有無を顕微鏡にて観察し、結晶が認められない一番低い温度を示す。表中「L.T認めず」はどの温度域でも結晶がなかったことを意味する。
【0117】
評価
実施例1〜17の光偏光制御素子は屈折率(nd)が1.57〜1.73の中屈折率において光弾性定数が-0.3×10-12Pa〜+0.8×10-12Paでかつ液相温度の低いガラスである。
【0118】
比較例1、2は、上述した特開平2-188442号公報の実施例20、26に記載のガラスである。比較例1はBaOとPbOの合量が40重量%未満のため光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまうことになる。比較例2はAl2O3を3%以上含んでいるため液相温度が高い。
【0119】
比較例3、4は、上述した特開昭50-71708号公報の実施例における表3中の2と表1中の21に記載のガラスである。比較例3はPbOを50%以上含んでいるため屈折率(nd)が1.73を越えてしまう。比較例4はNb2O5を2%以上含んでいるため光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまうことになる。
【0120】
比較例5は、Fを多く含んでいるため光弾性定数が+0.8×10-12Paを越えてしまい、液相温度も高い。
【0121】
なお、透過率を測定したところ、実施例1〜17の低光弾性定数ガラスは400nm付近の透過率(10mm厚)が70〜90%と高いが、比較例3、4のガラスは400nm付近の透過率が70%未満と低かった。
【0122】
実施例18
表4、5は、表1、2における実施例1〜17の各組成の含有量をmol%で換算表示したものである。また、表4、5において、「光弾性定数:実測値」は表1、2の実施例における光弾性定数の実測値の値であり、「光弾性定数:計算値」は各成分に表4、5に示す「固有光弾性定数値」を当てはめ、これらの固有光弾性定数値から固有光弾性定数値×モル量の総和を計算して求めた値である。「固有光弾性定数値」の算出方法は既存の組成(約100種)と光弾性定数値が公知なものについて各成分に任意のmol固有光弾性定数値を当てはめていき、最も実測値と近似した値を固有光弾性定数値とした。その結果、計算値は実測値に近い値が得られた。
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【0125】
実施例19
実施例1〜17の光偏光制御素子として液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板及びプリズム基体を作製し、これらを組み込み液晶プロジェクタを得た。液晶プロジェクタ使用時に、プリズム基体の加熱側の温度は150℃で冷却側の温度は50℃となり温度差は100℃となったが、光弾性による影響は認められなかった。
【0126】
次に、実施例にもとづき第二発明をさらに詳細に説明する。
【0127】
実施例20〜30及び比較例6〜14
表6に示す調合組成(重量%)に従って、常法により、調合原料を調製した。原料としては、P2O5については正燐酸(H3PO4)、メタ燐酸塩、五酸化二燐等を用い、他の成分については炭酸塩、硝酸塩、酸化物、フッ化物等を適宜用いた。これらの原料を所望の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを900〜1200℃に加熱した溶融炉に投入し、熔解、清澄後、撹拌し均一化してから鋳型に鋳込み徐冷することにより、実施例20〜30及び比較例6〜14の光偏光制御素子を得た。
【0128】
上記で得られた光偏光制御素子について表6及び表7に示す特性評価を行った。
【0129】
なお、表中の「Dw」は、ガラスの比重に相当する質量の粉末ガラス(粒度420〜590μm)を白金かごに入れ、それを純水(pH=6.5〜7.5)80mlの入った石英ガラス製丸底フラスコ内に浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理し、その質量減(%)を示した。
【0130】
「T400nm」は、10mm厚に両面研磨したガラスの波長400nmにおける外部透過率を示す。
【0131】
「光弾性定数」は、He-Neレーザー光を用い、20mmφ、高さ15.8mmで対面研磨したガラスに一直線方向に圧縮荷重を加えたときにガラスの中心に生じる光路差を測定して求めた。
【0132】
「L.T」は、500〜900℃の温度勾配のついた炉内にガラスを放置し、30分後に取り出し、軟化したガラスの結晶の有無を顕微鏡にて観察し、結晶が認められない一番低い温度を示す。
【0133】
【表6】
【0134】
【表7】
【0135】
評価
比較例6は従来技術として上述したP2O5-PbO二成分系ガラスであるが、Nb2O5を含んでいないためDwが0.4重量%と耐水性に劣る。
比較例7は同様にP2O5-PbO二成分系ガラスであるが、Nb2O5を含んでいないため熔解中失透してしまう。
比較例8及び9は従来技術として上述したSiO2-PbO-アルカリ酸化物系のガラスであるが、PbOの多い比較例8は透過率が悪く、PbOの少ない比較例9は低光弾性定数が大きくなる。
比較例10は従来技術として上述したホウケイ酸ガラス(BK7)であるが、光弾性定数が非常に大きくなる。
一方、実施例20〜30の光偏光制御素子は、P2O5-PbO系ガラスにNb2O5を添加することにより、ガラス化範囲が広がり、光弾性定数が+1.0×10-12Pa〜-1.5×10-12Paの範囲内にあり、10mm厚のガラスの400nmにおける外部透過率が73%以上で、かつ、粉末耐水性(DW)が0.3重量%以下であり、優れた特性を有する。
なお、比較例11〜14は第二発明の組成の範囲外であるので第二発明に比べ特性に劣る。
【0136】
実施例31〜45
表8及び表9に示す調合組成(重量%)としたこと以外は、上述した実施例と同様にして光偏光制御素子を作製し、同様に評価を行った。実施例31〜38の結果を表8に、実施例39〜45の結果を表9に、それぞれ示す。
その結果、上述した実施例と同様に優れた特性を有することが確認された。
【0137】
【表8】
【0138】
【表9】
【0139】
実施例46
表10、11は、表8、9における実施例31〜45の各組成の含有量をmol%で換算表示したものである。また、表10、11において、「光弾性定数:実測値」は表8、9の実施例における光弾性定数の実測値の値であり、「光弾性定数:計算値」は各成分に表10、11に示す「固有光弾性定数値」を当てはめ、これらの固有光弾性定数値から固有光弾性定数値×モル量の総和を計算して求めた値である。その結果、計算値は実測値に近い値が得られた。
【0140】
【表10】
【0141】
【表11】
【0142】
実施例47〜55
表12に示す調合組成(重量%)としたこと以外は、上述した実施例と同様にして光偏光制御素子を作製し、同様に評価を行った。その結果を表12に示す。
その結果、上述した実施例と同様に優れた特性を有することが確認された。
【0143】
【表12】
【0144】
実施例56
表13は、表12における実施例47〜55の各組成の含有量をmol%で換算表示したものである。また、表13おいて、「光弾性定数:実測値」は表12の実施例における光弾性定数の実測値の値であり、「光弾性定数:計算値」は各成分に表13に示す「固有光弾性定数値」を当てはめ、これらの固有光弾性定数値から固有光弾性定数値×モル量の総和を計算して求めた値である。その結果、計算値は実測値に近い値が得られた。
【0145】
【表13】
【0146】
実施例57
実施例20〜55の光偏光制御素子として液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタを構成する基板及びプリズム基体を作製し、これらを組み込み液晶プロジェクタを得た。液晶プロジェクタ使用時に、プリズム基体の加熱側の温度は150℃で冷却側の温度は50℃となり温度差は100℃となったが、光弾性による影響は認められなかった。
【0147】
以上好ましい実施例をあげて本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0148】
例えば、実施例に掲げた成分以外の成分を本発明の特性を失わぬ範囲で添加することができる。
【0149】
【発明の効果】
以上説明したように第一発明によれば、光弾性定数、屈折率等が所定の範囲内にあり、液相温度が低く、量産可能な低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子が得られる。
【0150】
特に、光弾性定数が+0.8〜-0.3(×10-12Pa)の範囲でかつ屈折率(nd)が1.57〜1.73である液相温度の低い、量産可能な低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子は、液晶プロジェクタにおける偏光ビームスプリッタ等の用途に適する。
【0151】
また、第二発明によれば、着色がなく透過率が高くて光透過特性に優れ、かつ、化学的耐久性に優れる低光弾性定数ガラスからなる光偏光制御素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
画素数と開口率との関係を示す平面図である。
【図2】
反射型液晶プロジェクタの概略構成を示す平面図である。
【符号の説明】
1 PBSプリズム
2 クロスプリズム
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-10-27 
出願番号 特願平10-186831
審決分類 P 1 652・ 161- YA (C03C)
P 1 652・ 537- YA (C03C)
P 1 652・ 121- YA (C03C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 野田 直人
西村 和美
登録日 2002-06-21 
登録番号 特許第3321414号(P3321414)
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 光偏光制御素子  
代理人 藤村 康夫  
代理人 藤村 康夫  
代理人 坂本 徹  
代理人 原田 卓治  

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