ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A63B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A63B 審判 全部申し立て 2項進歩性 A63B |
---|---|
管理番号 | 1091495 |
異議申立番号 | 異議2001-72229 |
総通号数 | 51 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-01-20 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-08-07 |
確定日 | 2004-01-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3138641号「ゴルフクラブヘッドおよびその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3138641号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.経緯 特許第3138641号(以下、「本件」という。)の特許に対する特許異議申立てについて、本件決定に至る経緯は以下のとおりである。 平成8年7月5日 特許出願 平成12年12月8日 設定登録 平成13年8月7日 特許異議申立人 黒田光水より特許異議申立 平成13年12月3日 取消理由通知 平成14年2月12日 特許権者より意見書 2.本件発明 本件の請求項1に係る発明、請求項2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」のようにいい、双方の発明を総称して「本件発明」のようにいうことがある。)は、その特許請求の範囲に記載された、 「【請求項1】中空体であり、その内部の所定箇所に、加熱することにより中空体ヘッド内部に容易に注入し得る程度の流動性を有し、かつ常温では流動性を失い、常温で中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも常温で柔軟性を有する重量調整材料を設けた金属製ゴルフクラブヘッドにおいて、該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着した比重7以上を有する粒状または粉状の金属素材を配し、該重量調整材料の量が5〜10gであり、該重量調整材料:該金属素材の重量比が2:1〜1:1であることを特徴とする金属製ゴルフクラブヘッド。」、 「【請求項2】 流動点が50°C〜300°Cの熱可塑性材料を重量調整材料として用い、中空ヘッドの開孔部よりこの材料を注入し、これを冷却後、粒状または粉状の金属素材をヘッド開孔部より投入することによって得られる請求項1記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。」であり、符号(A)〜(G)を挿入して分説すると、その要件とする事項は、次のとおりである。 【請求項1】 (A)中空体であり、その内部の所定箇所に、加熱することにより中空体ヘッド内部に容易に注入し得る程度の流動性を有し、かつ常温では流動性を失い、常温で中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも常温で柔軟性を有する重量調整材料を設けた金属製ゴルフクラブヘッドにおいて、 (B)該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着したこと。 (C)比重7以上を有する粒状または粉状の金属素材を配したこと。 (D)該重量調整材料の量が5〜10gであること。 (E)該重量調整材料:該金属素材の重量比が2:1〜1:1であることを特徴とする金属製ゴルフクラブヘッド。 【請求項2】 (F)流動点が50°C〜300°Cの熱可塑性材料を重量調整材料として用いること。 (G)中空ヘッドの開孔部よりこの材料を注入し、これを冷却後、粒状または粉状の金属素材をヘッド開孔部より投入することによって得られる請求項1記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。 3.特許異議申立てにおいて顕出した刊行物等 3-1.刊行物等 刊行物1 甲第1号証(米国特許第4502687号明細書) 刊行物2 甲第2号証(特開平7-148288号公報) 刊行物3 甲第3号証(特開平9-28841号公報) なお、刊行物3は、本件の特許出願日(平成8年7月5日)後の平成9年2月4日をその公開日とするものであるから、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前」に「頒布」された「刊行物」に当たらない。 刊行物4 甲第4号証(特開平4-221579号公報) 刊行物5 甲第5号証(特開昭62-41674号公報) 刊行物6 甲第6号証(特許第2916390号公報) なお、刊行物6は、本件の特許出願日(平成8年7月5日)後の平成11年7月5日を、一応の頒布日とするものであるから、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前」に「頒布」された「刊行物」に当たらない。 (文書) 文書1 甲第7号証(平成11年異議第74643号の異議決定謄本)(写) なお、文書1は、特許第2916390号(この公報が本件特許異議申立事件における刊行物6(甲第6号証)に当たる。)に対する特許異議申立事件(平成11年異議第74643号)の決定謄本(写)であって、文書1において、同事件において証拠として顕出された米国特許第4502687号明細書(本件特許異議申立事件における刊行物1(甲第1号証)に当たる。)に記載された発明について説示された経緯があり、その文書1において説示された事項に基づいて、刊行物1に記載された事項を立証するとの趣旨で提出された文書である(特許異議申立書第12頁18行〜第13頁3行)。 3-2.刊行物等に記載された事項 (1)刊行物1 甲第1号証(米国特許第4502687号公報) ア. 刊行物1(異議申立書に添付された甲第1号証の翻訳文(以下、「翻訳文」という)参照。)には、第5欄55行〜第8欄24行において、 「請求項1 内部のチャンバを画定する壁とそのチャンバに連通するホーゼルを有する中空なゴルフクラブヘッドを加重する方法において、前記方法は、固体状態で粘着性のある所望の重量の重量組成物を前記チャンバに導入し、前記クラブヘッドと重量組成物を、該重量組成物が流動化しその粘着性が高まる温度まで加熱し、 前記重量組成物が固化するまで冷却し、ゴルフクラブヘッドの通常使用時に該重量組成物が前記壁から遊離しない程度まで当該重量組成物を前記壁に強固に接着する工程により構成されることを特徴とするゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項2 前記重量組成物は、固体状態で柔軟性があることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項3 前記チャンバ内の重量組成物の体積は、前記チャンバの容積より小さいことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項4 前記チャンバ内に発泡プラスチック材を提供することを特徴とする請求項3記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項5 前記内部チャンバはゴルフクラブヘッドの全域に広がり、前記壁は底壁を備え、更に、前記工程は前記重量組成物を前記底壁上に提供する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項6 前記流動化した重量組成物が重力により前記チャンバ内の所望の位置に流れるようにクラブヘッドを第1の位置に位置決めし、そのクラブヘッドを前記第1の位置に配置した状態でその重量組成物を冷却する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項7 前記重量組成物は固体状態では柔軟性があり、粒状材料と粘着性の接着剤組成物を備え、前記チャンバ内の重量組成物の体積は、前記チャンバの容積より小さいことを特徴とする請求項6記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項8 前記重量組成物は、粒状材料と接着剤を備え、固体状態では少なくとも多少は柔軟性があることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項9 前記導入工程は、前記重量組成物をホーゼルを介してチャンバに導入する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項10 前記加熱工程は、前記重量組成物を約500°F以下で230°F以上の温度に加熱することを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの加重方法。 請求項11 ゴルフクラブヘッドの全域に広がる内部のチャンバを画定する壁とそのチャンバに連通するホーゼルを有する空中な(当審注:刊行物1の翻訳文第9頁8行の「空中な」は「中空な」の誤記と認める。)ゴルフクラブヘッドと、固体状態で粘着性があり適正位置で凝固する接着剤重量組成物であって、それ自体の接着成分によりゴルフクラブヘッドの通常使用時に前記壁から遊離しない程度まで前記壁に強固に接着される重量組成物を備え、前記チャンバ内の重量組成物の体積は、前記チャンバの容積より小さく、これにより前記重量組成物の主要部分と前記チャンバ壁の間の空隙を生じ、かつ前記重量組成物は、固体状態で少なくともやや柔軟性がある、ことを特徴とする加重ゴルフクラブヘッド。 請求項12 前記チャンバ内の空隙の少なくとも主要部を充填する発泡プラスチックを備えることを特徴とする請求項11記載の加重ゴルフクラブヘッド。 請求項13 前記重量組成物は、粘着性の接着剤組成物に散在させた粒状材料を備えることを特徴とする請求項11記載の加重ゴルフクラブヘッド。 請求項14 前記重量組成物は、主として約7〜100重量%の接着剤組成物とこの接着剤組成物に散在させた約0〜93重量%の粒状材料から成り、前記粒状材料は前記接着剤組成物より比重が大きく、前記接着剤組成物は約230°F〜500°F以下の融点を有することを特徴とする請求項11記載の加重ゴルフクラブヘッド。 請求項15 前記接着剤組成物は、主として約20〜75重量%のポリイソブチレンと、約0〜20重量%のポリブテンと、約0〜10重量%のミネラルオイルと、約0〜10重量%のへキサンと、約0〜50重量%の密蝋と、約5〜50重量%の石油系炭化水素樹脂とから成ることを特徴とする請求項14記載の加重ゴルフヘッド。 請求項16 前記ポリイソブチレンは、約48〜68重量%の範囲で存在し、前記石油系炭化水素樹脂は、約9〜19重量%の範囲で存在することを特徴とする請求項15記載の加重ゴルフクラブヘッド。 請求項17 前記接着剤組成物は、接着剤重量組成物の約13重量%を占めることを特徴とする請求項16記載の加重ゴルフクラブヘッド。 請求項18 前記接着剤組成物の成分は、 成分 重量% ポリイソブチレン 58% ポリブテン 9% ミネラルオイル 6% へキサン 6% 密蝋 7% 石油系炭化水素樹脂 14% から成ることを特徴とする請求項15記載の加重ゴルフクラブヘッド。 請求項19 内部のチャンバを画定する壁とそのチャンバに連通するホーゼルを有する中空なゴルフクラブヘッドを加重する方法において、前記方法は、粘着性の接着剤組成物と該接着剤組成物に含まれている粒状材料からなる所望の重量の重量組成物を固体状態で前記チャンバに導入し、前記クラブヘッドと重量組成物を、該重量組成物が流動化する温度まで加熱し、前記重量組成物が固化するまで冷却し、ゴルフクラブヘッドの通常使用時に該重量組成物が前記壁から遊離しない程度まで当該重量組成物を前記壁に強固に接着する工程により構成されることを特徴とするゴルフクラブヘッドの加重方法。」(翻訳文第7頁〜第11頁の特許請求の範囲の項) が記載されている。 イ. 更に、その第2欄51行〜第3欄51行において、 「前記接着剤重量組成物は、ゴルフクラブヘッドを通常に使用している間は、その壁から当該重量が遊離しない程度にゴルフクラブヘッドのチャンバ壁に強く接着する材料であれば、どのようなものでもよい。勿論、重量組成物は所望の重量を付加することができなければならず、本発明の方法では、その重量組成物は高温で流動化しなければならない。 『好適な重量組成物は、接着剤組成物を含み、粒状材料を含んでいてもいなくても、どちらでもよい。この粒状材料は、好適には、粒子の接着剤となる前記接着剤組成物より比重が大きい。例えば、この粒状の材料は、砂や、鉛粉、鉄粉、銅粉等の金属粉末でもよい。この粒状材料は、約0〜93重量%で存在し、前記接着剤組成物は、 約7〜100重量%で存在する。好適な重量組成物では、前記接着剤組成物は約13重量%で、粒状材料は約87重量%で存在する。』(当審注:当審において二重括弧を便宜挿入した。この二重括弧内の段落を、以下、「記載事項p」という。) この接着剤組成物は約500°F以下の温度で十分に流動化しなければならず、この温度は融点と考えてもよい。一般的にいえば、接着剤重量組成物は、通常の室温下で蜂蜜に類似した粘度を有すれば、十分に流動化できる。重量組成物がこの温度以下で流動化しない場合は、ゴルフクラブヘッドを損傷する可能性がある。前記接着剤組成物は、ゴルフクラブヘッドの製造に伴いゴルフクラブヘッドが受ける可能性のあるいかなる適正な温度においても融点を有さず、流動化してはならない。一般的には、融点は230°F未満であってはならず、また、接着剤組成物は固体状態で柔軟性を有するべきである。 上に規定した物理的な必要条件を満たす如何なる接着剤組成物も使用可能である。例えば、タール及び、又は種々のタール状接着剤を使用しても良い。好適な接着剤組成物は、粘着性の接着剤成分を備える。好適な接着剤組成物では、ポリイソブチレンと石油系炭化水素樹脂の両者を使用する。ポリイソブチレンの量は、約20〜75重量%であるべきである。約48〜68重量%のポリイソブチレンが良好な結果をもたらすことができる。少なくとも20重量%のポリイソブチレンが所望の接着剤組成物には必要だが、75重量%を超えると、該接着剤組成物は過度に流動化する。前記石油系炭化水素樹脂は、上昇温度で粘着性をもたらし、約5〜50重量%の量で存在するべきである。約9〜19重量%の石油系炭化水素樹脂が良好な結果をもたらすことができる。該石油系炭化水素樹脂が5%未満だと組成物は高温で所望の粘着性を持たず、50%を超えると過度に脆くなる。 前記接着剤重量組成物は、また好適には、ポリブチレン等の粘度安定剤を備える。ポリブチレンは、それ自身も粘り気のある粘着物質なので好ましい。このポリブチレンは、約20重量%存在する。20%を超えると、組成物は、充分に堅い固体状態にならない。」 (翻訳文第3頁14行〜第4頁20行) と記載されている。 ウ. また、刊行物1(甲第1号証)によれば、その第1欄5行〜第2欄37行、及び第5欄13行〜23行において、 「ゴルフクラブヘッド及びその加重方法 発明の背景」(翻訳文第1頁2〜3行)と題して、『ゴルフクラブヘッドは、通常、金属製で、(翻訳文第1頁4行)・・メタルウッド等のゴルフクラブヘッドの多くは中空で、内部チャンバを形成する壁と、そのチャンバに連通するホーゼルを有する。鋳造の後に、そのチャンバに発泡プラスチックを充填するのが通例で、これにより重量が付加される(翻訳文第1頁4行〜12行)・・ゴルフクラブヘッドに付加される重量を増やすには、ケイ砂や鉛充填材等の粒子状の材料を、前記発泡プラスチックの導入前にホーゼルを介しチャンバに導入する。発泡プラスチックが凝固する前に、前記粒子を発泡材の全体に配分するために攪拌する。不都合なことに、多くの粒子が、その発泡材に取込まれず、ガタガタと雑音を発する。(翻訳文第1頁14行〜18行)・・・結局、この技術を用いてゴルフクラブヘッド内部の重量分布を調整することは不可能であるということが言える。(翻訳文第1頁22行〜23行)』(当審注:当審において二重括弧を便宜挿入した。この二重括弧内の段落を、以下、「記載事項y1」という。以下において二重括弧箇所は同様に便宜記載としたものである。)と記載され、 発明の要約と題して、『本発明は、一般に上述の問題を克服するゴルフクラブヘッドの加重方法を提供するものである。本発明によれば、ゴルフクラブの重量とそのクラブ内の重量分布は正確に調整できる。さらに、クラブヘッドに導入された重量は遊離せずガタガタ音を発しない。本発明は、ゴルフクラブヘッド内のチャンバ壁に強力に接着できる接着剤重量組成物を利用する。(翻訳文第2頁3行〜9行)』(以下、「記載事項y2」という。)と記載され、 『前記重量組成物は(翻訳文第2頁25行)、通常の雰囲気温度では固体状態で、好適には、その固体状態のまま、前記ホーゼルを介してチャンバに導入される。重量組成物は、流体状態でチャンバ内に導入してもよいが、固体状態で導入したほうが、工程が安全かつ調整しやすい。その後、重量組成物を内部に備えたゴルフクラブヘッドは、重量組成物が流動化する温度まで加熱される。・・・さらに、クラブヘッドを所望の位置に略位置決めすることにより、流動化した重量組成物は重力の影響を受けつつチャンバ内の所望の位置まで流れるため、チャンバ内の重量の位置決めが正確に調整できる。(翻訳文第2頁25行〜第3頁7行)』(以下、「記載事項y3」という。)と記載され、及び 『さらに、重量組成物31の流動は、チャンバ17内での重量組成物の最終的な位置決めを補助する。高温で12〜30分間経過後、ゴルフクラブヘッド13及び重量組成物31は、固定部35、あるいは他のところで冷却される。これにより重量組成物は、固化状態で柔軟性があり、前述したように底壁23及びフェース25に強く接着する。(翻訳文第6頁22行〜27行)』(以下、「記載事項y4」という。)と記載されている。 エ. そして、加重ゴルフクラブヘッドについて規定している請求項11〜18の記載によれば(ア.参照)、 「ゴルフクラブヘッドの全域に広がる内部のチャンバを画定する壁とそのチャンバに連通するホーゼルを有する中空なゴルフクラブヘッドと、固体状態で粘着性があり適正位置で凝固する接着剤重量組成物であって、それ自体の接着成分によりゴルフクラブヘッドの通常使用時に前記壁から遊離しない程度まで前記壁に強固に接着される重量組成物を備え、前記チャンバ内の重量組成物の体積は、前記チャンバの容積より小さく、これにより前記重量組成物の主要部分と前記チャンバ壁の間の空隙を生じ、かつ前記重量組成物は、 固体状態で少なくともやや柔軟性があり、(請求項11に基づく。) 前記チャンバ内の空隙の少なくとも主要部を充填する発泡プラスチックを備え(請求項12に基づく。)、 前記重量組成物は、粘着性の接着剤組成物に散在させた粒状材料を備え(請求項13に基づく。)、 前記重量組成物は、主として約7〜100重量%の接着剤組成物とこの接着剤組成物に散在させた約0〜93重量%の粒状材料から成り、前記粒状材料は前記接着剤組成物より比重が大きく、前記接着剤組成物は約230°F〜500°F以下の融点を有し(請求項14に基づく。)、前記粒状材料は約87重量%で存在する(「記載事項p」に基づく。)、 前記接着剤組成物は、主として約20〜75重量%のポリイソブチレンと、約0〜20重量%のポリブテンと、約0〜10重量%のミネラルオイルと、約0〜10重量%のへキサンと、約0〜50重量%の密蝋と、約5〜50重量%の石油系炭化水素樹脂とから成り(請求項15に基づく。)、 前記ポリイソブチレンは、約48〜68重量%の範囲で存在し、前記石油系炭化水素樹脂は、約9〜19重量%の範囲で存在し(請求項16に基づく。)、 前記接着剤組成物は、接着剤重量組成物の約13重量%を占め(請求項17に基づく。)、及び 前記接着剤組成物の成分(重量%)は、ポリイソブチレン(58%)、ポリブテン(9%)、ミネラルオイル(6%)、ヘキサン(6%)、密蝋(7%)、石油系炭化水素樹脂(14%)から成り(請求項18に基づく。) 、とする加重ゴルフクラブヘッド。」 が認められる。 オ.刊行物1において、記載事項pによれば、「重量組成物」は、「接着剤組成物」を含み、「粒状材料」は含んでいてもいなくてもどちらでもい、と規定されているから、「接着剤組成物」は重量を調整する材料として重量組成物を形成するものであり、且つ、鉛粉、鉄粉、銅粉等の金属粉末から成る粒状材料は比重7以上であり、粒状材料は約0〜93重量%で存在し、接着剤組成物は約7〜100重量%で存在するから、刊行物1には、重量調整材料:該金属粉末(素材)の重量比が2:1〜1:1を充足するものが記載されていることが認められる。 カ. 以上のア.〜オ.の記載事項を含む明細書及び図面、並びにこれらの記載事項によって認定された事実関係によれば、刊行物1には、ゴルフクラブヘッドに係る発明として、便宜符号a.〜d.を挿入すると、 「中空体であり、その内部の所定箇所に重量組成物を設けたゴルフクラブヘッドであって、該重量組成物を形成する重量調整材料である接着剤組成物が、 常温では流動しない特性を有し、かつ流動点が50°C°〜300°Cの熱可塑性材料であり、 50°C以上の高温にして流動性を持たせ、中空ヘッドの開孔部よりヘッド内部に注入し、これを冷却することによって得られ、 常温では流動性を失い中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも柔軟性を有し、 前記重量組成物は、粘着性の接着剤組成物に散在させた粒状材料を備えており、 a.この粒状材料は、粒子の接着剤となる前記接着剤組成物より比重が大きい砂や、鉛粉、鉄粉、銅粉等の金属粉末でもよく、且つ、この粒状材料は、約0〜93重量%で前記接着剤組成物に散在させて存在し、 b.前記接着剤組成物は、 約7〜100重量%で存在し、 c.前記重量組成物では、前記接着剤組成物は約13重量%で、粒状材料は約87重量%で存在し、(a.〜c.は、記載事項p、請求項13、14、及び17に基づく。) d.重量調整材料:該粒状材料(金属粉末)の重量比が2:1〜1:1である ゴルフクラブヘッド。」(以下、「刊行物1の第1発明」という。)の発明が記載されている。 また、特に、請求項1〜10及び請求項19の記載によれば、刊行物1には、ゴルフクラブヘッドの製造方法に係る発明として、 「内部のチャンバを画定する壁とそのチャンバに連通するホーゼルを有する中空なゴルフクラブヘッドを加重する方法において、前記方法は、固体状態で粘着性のある所望の重量の重量組成物(又は粘着性の接着剤組成物と該接着剤組成物に含まれている粒状材料からなる所望の重量の重量組成物)を前記チャンバに導入し、前記クラブヘッドと重量組成物を、該重量組成物が流動化しその粘着性が高まる温度まで加熱し、前記重量組成物が固化するまで冷却し、ゴルフクラブヘッドの通常使用時に該重量組成物が前記壁から遊離しない程度まで当該重量組成物を前記壁に強固に接着する工程により構成される、ゴルフクラブヘッドの加重方法。」(以下、「刊行物1の第2発明」という。)の発明が記載されている。 キ. そして、刊行物1によるも、 『重量調整材料(接着剤組成物)表面に該重量調整材料の粘着力によって粒状材料(金属粉末)を固着すること』、及び『重量調整材料の量が5〜10gであること』についての記載は認められない。 (2)刊行物2 甲第2号証(持開平7-148288号公報) 刊行物2には、ゴルフクラブヘツド及びその製造方法に係るものとして、 「【請求項1】 以下の構成を備えることを特徴とするゴルフクラブヘツド: a)中空内部を規定し、ホーゼルを有する底部シェル、及びボールを打撃する前面と、トウと、ヒールと、を規定する壁; b)及び該中空内部内にあり、該壁の少なくとも1つに接着した粒子若しくはピースゲッター; c)該ゲッターは、ボールを打撃するクラブヘッドの使用中、粘着性を維持する表面を中空内部に与える物質を備え、こうして、接着により、該表面にピース若しくは粒子を捕獲する。 【請求項12】 中空内部を規定し、ホーゼルを有するシェルと;ボールを打撃する前面、トウ及びヒールを規定する壁と;を含むゴルフクラブヘッド内で、以下の工程を備える遊離粒子を捕獲するゴルフクラブヘッドの製造方法: a)前記中空内部に粒子ゲッターを導入する工程; b)粘着性表面に接着させることにより中空内部内の粒子を捕獲するために、粘着性を維持する表面を中空内部に現出させながら、該ゲッターを少なくとも1つの壁に接着させる工程。 【請求項13】 前記シェルに開口を設ける工程と、前記中空内に流動体状態で前記ゲッターを導入する工程と、を含むことを特徴とする請求項12の方法。 【請求項17】 前記ゲッターが、以下の組成物のうち、少なくとも2つの組成物の混合物からなることを特徴とする請求項1のゴルフクラブヘッド: i) ポリブテン; ii) ポリイソブチレン; iii)鉱物油; iv) 蜜ろう; v) 石油系炭化水素樹脂。 【請求項18】 前記ゲッターが、以下の組成物を以下の含有量にて含有してなることを特徴とする請求項17のゴルフクラブヘッド: i) ポリブチン9重量%; ii) ポリイソブチレン64重量%; iii)鉱物油6重量%; iv) 蜜ろう7重量%; v) 石油系炭化水素樹脂14重量%。」と記載され、 更に、【0002】、【0015】、【0017】には、 「【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 中空メタルウッドヘッドのガラガラ音の問題は、相変わらず存在している。かようなガラガラ音は、例えば、クラブをスィングするにつれヘッドが迅速に移動する間に、中空ヘッド内の粒子が移動することで、ヘッドメタル壁の内部表面に衝突し、可聴ノイズを生じることにより発生する。該粒子は例えば、小さい金属ピースあるいはプラスチックピースからなる。ゴルフボールが打撃される際にヘッドが「鳴る」ことを防止するために、ヘッド内部が部分的にあるいは全体的に軽量プラスチック材料で最初に充填される場合には、ブラスチックピースである。該小さいピースは、『使用中に分離する。』(当審注:二重括弧は便宜挿入。以下、「記載事項z」という。)さらに、クラブをスィングする間にゴルフボールと衝突するヘッドに発生する力により、クラブの使用期間後、プラスチック繊維は比較的大きなピース若しくは塊に分割されるかもしれない。かような塊は、不快なガラガラ音を生じるように移動する。 【0015】本発明によれば、粒子又はピースゲッターは、シェル内部に設けられ、少なくとも1つのシェル壁に接着している。ゲッターは、中空内部に、ゴルフクラブの使用中に粘着性を維持する拡大された表面あるいは複数の表面を与える物質あるいは組成物からなり、こうして中空内部11内で移動する遊離粒子若しくはピースをゲッター物質表面に接着させることで捕獲し、該粒子若しくはピースが遊離してガラガラと鳴らないようにする。 【0017】図4は、ゲッター表面30a及びヘッド壁12の間こ、エポキシ層34等の接着剤の供給を示す。エポキシ層は、1以上の内部壁表面全体に延びていてもよく、かような表面に粘着性物質を結合させる。ピース若しくは粒子は、図4に35で示されるように、また図3に示されるように、粘着性の層30aに接着する。」 と記載されている。 以上の記載事項を含む明細書及び第1図〜第7図によれば、刊行物2には、ゴルフクラブヘツドに係るものとして、 「 以下の構成を備えることを特徴とするゴルフクラブヘツド: a)中空内部を規定し、ホーゼルを有する底部シェル、及びボールを打撃する前面と、トウと、ヒールと、を規定する壁; b)及び該中空内部内にあり、該壁の少なくとも1つに接着した粒子若しくはピースゲッター; c)該ゲッターは、ボールを打撃するクラブヘッドの使用中、粘着性を維持する表面を中空内部に与える物質を備え、接着により、該表面にピース若しくは粒子を捕獲する。」(以下、「刊行物2の第1発明」という。)、また、ゴルフクラブヘッドの製造方法に係るものとして、 「中空内部を規定し、ホーゼルを有するシェルと;ボールを打撃する前面、トウ及びヒールを規定する壁と;を含むゴルフクラブヘッド内で、以下の工程を備える遊離粒子を捕獲するゴルフクラブヘッドの製造方法: a)前記中空内部に粒子ゲッターを導入する工程; b)粘着性表面に接着させることにより中空内部内の粒子を捕獲するために、粘着性を維持する表面を中空内部に現出させながら、該ゲッターを少なくとも1つの壁に接着させる工程を有し、 c)前記シェルに開口を設ける工程と、 d)前記中空内に流動体状態で前記ゲッターを導入する工程。」(以下、「刊行物2の第2発明」という。)の発明が記載されている。 (3)刊行物3 甲第3号証(特開平9-288411号公報) 3-1.において説示したように、刊行物3は、本件の特許出願日(平成8年7月5日)後の平成9年2月4日をその公開日とするものであるから、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前」に「頒布」された「刊行物」に当たらない。 (4)刊行物4 甲第4号証(持開平4-221579号公報) 刊行物4には、メタルウッドゴルフクラブヘッドの製造方法に係るものとして、 「【請求項1】 中心部に芯材を充填したメタルウッドゴルフクラブヘッドの製造方法において、前記メタルヘッド本体を中空状に形成し、このメタルウッド本体の中空部内に、マイクロカプセル状の発泡性ビーズから成る充填材を、発泡後の発泡体の嵩比重として、0.05g/cm3から0.15g/cm3の範囲で充填することを特徴とするメタルウッドゴルフクラブヘッドの製造方法。」(特許請求の範囲の【請求項1】) と記載され、実施例としては、 「(a)メタルヘッド(中略)中空体の体積(75ml)」(以上段落【0012】)、「嵩比重が0.05g/cm3から0.15g/cm3の範囲で(中略)充填した時に、初速効率が高くなる」(以上段落【0013】)(第3欄33行〜第4欄11行)と記載されており、当該数値からメタルヘッド内に充填する発泡体量は、下記式のように換算すると、3.75gから11.25gである、ことが認められる。 75ml×0.05g/cm3=3.75g 75ml×0.15g/cm3=11.25g これらの記載を含む明細書及び第1図〜第4図、並びにこれらの記載事項から認定された事実関係によれば、刊行物4には、メタルウッドゴルフクラブヘッドに係るものとして、 「メタルウッドゴルフクラブヘッド本体を中空状に形成し、このメタルウッド本体の中空部内に、マイクロカプセル状の発泡ビーズから成る充填材を、発泡後の発泡体の嵩比重として、0.05g/cm3から0.15g /cm3の範囲、すなわち、3.75gから11.25gで充填するメタルウッドゴルフクラブヘッド。」(以下、「刊行物4の第1発明」という。)、及び、メタルウッドゴルフクラブヘッドの製造方法に係るものとして、 「中心部に芯材を充填したメタルウッドゴルフクラブヘッドの製造方法において、前記メタルヘッド本体を中空状に形成し、このメタルウッド本体の中空部内に、マイクロカプセル状の発泡ビーズから成る充填材を、発泡後の発泡体の嵩比重として、0.05g/cm3から0.15g/cm3の範囲、すなわち、3.75gから11.25gで充填するメタルウッドゴルフクラブヘッドの製造方法。」(以下、「刊行物4の第2発明」という。) の発明が記載されている。 (5)刊行物5 甲第5号証(特開昭62-41674号公報) 刊行物5には、ゴルフクラブヘッドの重量バランス調整装置に係るものとして、 「クラブヘッド本体の底部にあげた孔に固定された、内部に雌ねじを有する外筒と、この外筒の雌ねじに螺着される重錘のための内側部材とを有するゴルフクラブヘッドの重量バランス調整装置」(第1頁右下欄4行〜7行)、「1.5gづつ10ポイントの重さの種類の内側部材を作ることができる。」(第2頁左下欄17行〜18行)と記載されている。 これらの記載を含む明細書及び第1図〜第6図によれば、刊行物5には、 「1.5g〜15gの範囲で重量調整できるゴルフクラブヘッド」が記載されている。 (6)刊行物6 甲第6号証(特許第2916390号公報) 3-1.において説示したように、刊行物6は、本件の特許出願日(平成8年7月5日)後の平成11年7月5日を、一応の頒布日とするものであるから、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前」に「頒布」された「刊行物」に当たらない。 7)甲第7号証(平成11年異議第74643号の異議決定謄本) この甲第7号証は、甲第6号証(特許第2916390号)に対する異議申立事件の決定謄本であり、その第5頁には、 「刊行物1(米国特許第45022687号明細書)には、 「中空体であり、その内部の所定箇所に重量調整材料を設けたゴルフクラブヘッドであって、該重量調整材料が(a)常温では流動しない特性を有し、かつ流動点が50°C°〜300°Cの熱可塑性材料であり、 (b)50°C以上の高温にして流動性を持たせ、中空ヘッドの開孔部よりヘッド内部に注入し、これを冷却することによって得られ、(c)常温では流動性を失い中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも柔軟性を有することを特徴とするゴルフクラブヘッド。」(第3頁1行〜6行)と記載されている。 4. 対比・判断 4-1.本件発明1について (1) 刊行物1の第1発明と本件発明1を比較すると、 まず、刊行物1の第1発明の「中空体であり、その内部の所定箇所に重量組成物を設けたゴルフクラブヘッドであって、該重量組成物を形成する重量調整材料である接着剤組成物が、常温では流動しない特性を有し、かつ流動点が50°C°〜300°Cの熱可塑性材料であり、50°C以上の高温にして流動性を持たせ、中空ヘッドの開孔部よりヘッド内部に注入し、これを冷却することによって得られ、 常温では流動性を失い中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも柔軟性を有し」は、本件発明1の(A)の「中空体であり、その内部の所定箇所に、加熱することにより中空体ヘッド内部に容易に注入し得る程度の流動性を有し、かつ常温では流動性を失い、常温で中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも常温で柔軟性を有する重量調整材料を設けた金属製ゴルフクラブヘッドにおいて」に対応する。 次に、重量を調整するために使用する粉状の金属素材を配する箇所について見てみると、刊行物1の第1発明の「前記重量組成物は、粘着性の接着剤組成物に散在させた粒状材料を備えており、a.この粒状材料は、粒子の接着剤となる前記接着剤組成物より比重が大きい砂や、鉛粉、鉄粉、銅粉等の金属粉末でもよく、且つ、この粒状材料は、約0〜93重量%で前記接着剤組成物に存在し、b.前記接着剤組成物は、約7〜100重量%で存在し、c.重量組成物では、前記接着剤組成物は約13重量%で、粒状材料は約87重量%で存在し、d.重量調整材料:該金属素材の重量比が2:1〜1:1である」は、本件発明1の(C)の「比重7以上を有する粒状または粉状の金属素材を配し、該重量調整材料:該粒状材料(金属粉末)の重量比が2:1〜1:1である」に対応する。 しかしながら、刊行物1の第1発明は「粒状材料は約0〜93重量%で前記接着剤組成物に散在させて存在し」のように、「前記接着剤組成物に散在させ」る態様のものであるのに対し、本件発明1は「該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着した」態様のものである点において双方の発明は一致しておらず、また刊行物1には、本件発明1の(B)の「該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着したこと」及び(C)の「比重7以上を有する粒状または粉状の金属素材」に対応する事項、並びに本件発明1の(D)の「該重量調整材料の量が5〜10gであること」に対応する事項は、記載されていない。 そうすると、双方の発明は、「中空体であり、その内部の所定箇所に、加熱することにより中空体ヘッド内部に容易に注入し得る程度の流動性を有し、かつ常温では流動性を失い、常温で中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも常温で柔軟性を有する重量調整材料を設けた金属製ゴルフクラブヘッドにおいて、比重7以上を有する粒状または粉状の金属素材を配し、該重量調整材料:該金属素材の重量比が2:1〜1:1であること」を備える「金属製ゴルフクラブヘッド。」である点において一致し、次のア.イ.の点において相違する。 ア.本件発明1が、(B)の「該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着したこと」及び(C)の「比重7以上を有する粒状または粉状の金属素材」事項を備えているものであるのに対し、刊行物1の第1発明がそのように規定しているものではなく「粒状材料は約0〜93重量%で前記接着剤組成物に散在させて存在し」ているものである点。 イ.本件発明1が、(D)の「該重量調整材料の量が5〜10gであること」とする事項を備えているものであるのに対し、刊行物1の第1発明がそのように規定しているものではない点。 (2) そこで、まず、前記の相違点ア.イ.が有する技術的意義について検討する。 本件発明1は、(A)、(C)、及び(E)の事項を備えた金属製ゴルフクラブヘッドにおいて、(B)及び(D)の事項を組み合せたものとして、「容易に重量調整ができ、更に音鳴り等の心配がなく、またその固着位置の設定や変更、取り外しがいつでも簡単にできるようになるとともに、金属外殻特有の打球音を損なうことのない」(段落【0022】)効果(以下、「本件発明の効果R」、あるいは、単に「効果R」ということがある。)を奏するものである。 まず、重量調整材料に効果Rが得られるように金属粉末(素材)を散在することにより重量を調整しつつ、一方で金属粉末の分離による使用時の音鳴りを防ごうとする観点からは、刊行物1に記載された事項(3-2.(1)のア.〜キ.)によれば、金属粉末(素材)を重量調整材料の表面に固着させるのではなく、重量調整材料中に練り込み散在させる方がより効果的であるという知見が、当業者において刊行物1に基づいて認識されているのであるから、当業者には、「金属粉末を重量調整材料中に練り込み散在させる」ことに想到し得ることは自明であり(特許異議申立人も自認。異議申立書第15頁25行〜29行における「練り込」みを参照。)、このように刊行物1の発明が採る「金属粉末を重量調整材料中に練り込散在させる」ことは技術常識である、ということができる。 ところで、本件発明1では、前示の常識に反し、より有利であると当業者に考えられていた金属素材を重量調整材料中に練り込み散在する方法をあえて採用しないで、本件発明1の(B)のように重量調整材料表面に重量調整材料の粘着力によって金属素材を固着させているのであるから、本件発明1の(B)を採用することによって、「容易に重量調整ができ、更に音鳴り等の心配がなく、またその固着位置の設定や変更、取り外しがいつでも簡単にできるようになるとともに、金属外殻特有の打球音を損なうことのない」という前示の効果Rを得ることのできる金属製ゴルフクラブヘッドに至った点にこそ、本件発明1の特徴があるものと認められる。 (3) ところが、各刊行物には、本件発明1の(B)のように、重量調整材料表面に重量調整材料の粘着力によって金属素材を固着させることは記載されておらず、示唆も一切認められない。すなわち、本件発明1の(B)の事項によって、前述のような特有な効果Rを奏することに照応する技術的事項は、刊行物1、2、4、及び5には記載されておらず、示唆すら認められない(刊行物3、6は、前示のように、本件発明についての法的判断に際し、関係のない資料である。)。 そうすると、第1に、このように、本件発明1の(B)の事項ひとつ取り上げても、特許異議申立人も認めているごとく(前掲した異議申立書第15頁29行の「練り込」を参照。)金属素材を重量調整材料中に散在させる態様が容易かつ一般的であるにもかかわらず、そのような態様を取らずに、本件発明1の(B)の事項に想起しこれを採用して前示の効果Rを奏するものを創出すること自体、自明で常識的な創作能力の域を脱したものであり、当業者にとってたやすくは想到し得ないものであると認めざるを得ないものである。 第2に、また、本件発明1では、上記(B)の事項を採用しつつ前示の効果Rを奏するためには、重量調整材料と金属素材の重量比を特定範囲内に規定する必要がある、として、上記(A)を前提にして、上記(B)の事項に、(E)の事項である重量調整材料:金属素材の重量比が2:1〜1:1であることを加え、更に、本件発明1では、(D)の要件として重量調整材料の量が5〜10gであることを組み合わせることにより、相乗効果として上記のような効果Rが得られるものであるところ、このような特有な効果Rを奏する本件発明1の(A)〜(E)を組合せに係る事項は、刊行物1、2、4、及び5には記載されておらず、示唆も一切認められず、これらの刊行物を相互に適用しても、当業者が容易に想到することができたものとは、認められない。 そうすると、このように、前示の(B)の事項以外の事項(A)、(C)、(D)及び(E)との湊合から成る本件発明1のように、金属素材を重量調整材料中に練り込み散在させるという容易かつ一般的な態様を取らずに、前示の効果Rを奏することを目的とすること自体、当業者にとってたやすくは想到し得ないものであると認めざるを得ない。 (4)次に、以下、(5)〜(11)において、各刊行物に記載された発明について調査し、本件発明1の前示の効果Rを奏するために、異議申立てに顕出した刊行物に記載された発明に基づいてどのような知見が当業者に得られるものであるか、また得られた知見は、当業者が本件発明1を想到するに足りるものであるか否かについて検討する。 (5)刊行物1について まず、そもそも、(1)において説示した上記のア.イ.の相違点に係る構成を有さない刊行物1の第1発明が備える「中空体であり、その内部の所定箇所に重量組成物を設けたゴルフクラブヘッドであって、該重量組成物を形成する重量調整材料である接着剤組成物が、常温では流動しない特性を有し、かつ流動点が50°C〜300°Cの熱可塑性材料であり、50°C以上の高温にして流動性を持たせ、中空ヘッドの開孔部よりヘッド内部に注入し、これを冷却することによって得られ、常温では流動性を失い中空体内部に確実に固着する粘着力を有し、しかも柔軟性を有し前記重量組成物は、粘着性の接着剤組成物に散在させた粒状材料を備えており」という事項中、特に、「接着剤組成物に散在させた粒状材料」に基づいて当業者が得ることのできる知見とは、 s.刊行物1の発明の説明(前示の3-2.刊行物等に記載された事項の(1)ウ.の記載事項y1〜y4を参照。)によれば、当業者は、『発泡プラスチックが凝固する前に、前記粒子を発泡材の全体に配分するために攪拌され(記載事項y1に基づく。)、重量組成物を内部に備えたゴルフクラブヘッドは、重量組成物が流動化する温度まで加熱され、さらに、クラブヘッドを所望の位置に略位置決めすることにより、流動化した重量組成物は重力の影響を受けつつチャンバ内の所望の位置まで流れ(記載事項y3に基づく。)、冷却され、これにより重量組成物は、固化状態で柔軟性があり、底壁23及びフェース25に強く接着する(記載事項y4に基づく。)ことによって形成された重量組成物を内部に備えたゴルフクラブヘッド』という知見が得られることが認められるところ、 t.この知見によれば、特に、記載事項y1によれば、『当該重量を増やすには、ケイ砂や鉛充填材等の粒子状の材料を、前記発泡プラスチックの導入前にホーゼルを介しチャンバに導入し、発泡プラスチックが凝固する前に、前記粒子を発泡材の全体に配分するために攪拌する』という態様で製造工程を採用することによって得ることのできるゴルフクラブヘッドが当業者の知見となるに止まり、 u.このt.の認定以上に、ゴルフクラブヘッドが完成された時点において、重量組成物が発泡プラスチックの表面においてのみ散在された態様を備えたゴルフクラブヘッドに至ることまでの知見が刊行物1の発明から得られるとは到底認められず、 v.換言すると、刊行物1は、『重量組成物が発泡プラスチックと攪拌され・・流動化され、・・冷却される』工程を経て製造される態様のヘッドを具体的態様として開示し、この具体的態様から当業者が得ることのできる技術思想としては、重量組成物が当該表面には存しないものを射程範囲とし、これとは異なる『重量組成物が発泡プラスチックの表面において散在する』工程を経て製造される態様のヘッドについては、むしろ、そのような技術思想について当業者が想起・適用することを遮断乃至阻害しているものを刊行物1は示しているものである、と認められ、 w.そして、このことは、刊行物1の請求項1、19における「固体状態で粘着性のある所望の重量の重量組成物を前記チャンバに導入し、前記クラブヘッドと重量組成物を、該重量組成物が流動化しその粘着性が高まる温度まで加熱し・・・固化するまで冷却し」とする事項によれば、加熱され流動化した状態の重量組成物を利用するという技術思想を基因として創出された刊行物1の発明の重量組成物が、冷却後に溶融していた金属粉末(素材)が重量調整材料の表面に析出して「表面に散在する態様」に至る思想を表しているものまで包含しているものであるとは、当業者の技術常識からみても、到底認められない、ことからも導くことができることである。 x.なお、前示のs.〜w.の認定に反することを認めるに足りる証拠は、一切存しない。 そうすると、刊行物1に記載された事項によっても、金属粉末(素材)を重量調整材料の表面に固着させるのではなく、重量調整材料中に練り込み散在させる方がより効果的であるという知見が認識され得るに止まる当業者において、「金属粉末を重量調整材料中に練り込み散在させる」ことに想到し得ることは自明であると認めることができるとしても、このように刊行物1の発明が採る「金属粉末を重量調整材料中に練り込散在させる」という技術常識を越えて、前示の常識に反し、より有利であると当業者に考えられていた金属粉末(素材)を重量調整材料中に練り込み散在する方法をあえて採用しないで、本件発明1の(B)のように重量調整材料表面に重量調整材料の粘着力によって金属素材を固着させている、本件発明1の(B)を採用することによって、「容易に重量調整ができ、更に音鳴り等の心配がなく、またその固着位置の設定や変更、取り外しがいつでも簡単にできるようになるとともに、金属外殻特有の打球音を損なうことのない」という前示の効果Rを得ることのできる金属製ゴルフクラブヘッドに至るとは、到底認められないところである。 以上を総合すると、刊行物1の発明は、前示のア.イ.の相違点を充足し得る発明ではない。 (6)刊行物2について 刊行物2の第1発明は、「以下の構成を備えることを特徴とするゴルフクラブヘツド:a)中空内部を規定し、ホーゼルを有する底部シェル、及びボールを打撃する前面と、トウと、ヒールと、を規定する壁;b)及び該中空内部内にあり、該壁の少なくとも1つに接着した粒子若しくはピースゲッター;c)該ゲッターは、ボールを打撃するクラブヘッドの使用中、粘着性を維持する表面を中空内部に与える物質を備え、こうして、接着により、該表面にピース若しくは粒子を捕獲する。」の発明であるところ、 第1に、刊行物2の第1発明における当該「ピースゲッター」は、『使用中に分離する』(記載事項Z参照。)粒子を捕獲するものであって、刊行物2にはそもそも「重量」を「調整」するということ、しかも「表面」に限って「重量」を「調整」することを当業者に意識付けさせる事項が認められないから、本件発明1のように、重量調整材料の表面に金属材料を散在させる態様によって、「重量調整と共に固着位置の設定や変更、取り外しがいつでも簡単にできる、且つ音鳴りの心配を要しない」(本件の明細書段落【0022】)という効果(当審注:前示の効果Rの一部を摘出した。)ゴルフクラブヘッドに至るのに基因となる事項は認められないものである。 第2に、刊行物2に記載された事項によっても、前示の(5)のv.のように、『重量組成物が発泡プラスチックの表面において散在する』工程(単に「表面・散在工程」という。)を経て製造される態様のゴルフクラブヘッドについては、むしろ、そのような技術思想について当業者が想起・適用することを遮断乃至阻害しているものと当業者に認識される刊行物1の発明に組み合わせ適用するに至る起因となる事項、及び、当業者の想起・適用を遮断乃至阻害しているとの認識を解除し払拭させ得る事項(以下、「阻害要因解除事項」という。)、が刊行物2については認められないのみならず(なお、後述するが、その余の刊行物等についても同様である。)、また、刊行物1、2の双方の発明が相俟って共通して、当業者の通常の創作能力の範囲内のものとして前示の「表面・散在工程」の態様で製造されるゴルフクラブヘッドに至ると認識される事項が記載されているとも認めることはできない。且つ、 第3に、また、仮に刊行物1の第1発明に、刊行物2の第1発明を適用したとしても、上記(1)の相違点イ.はさておくとしても、上記(1)の相違点ア.を解消させて、本件発明1のように、重量調整材料の表面に金属材料を散在させて成る金属製ゴルフクラブヘッドに至るものではない。 以上を総合すると、刊行物2の第1発明は、前示のア.イ.の相違点の構成を充足あるいは想到し得る発明ではない。 (7)刊行物4について 次に、刊行物4の第1発明は、「メタルウッドゴルフクラブヘッド本体を中空状に形成し、このメタルウッド本体の中空部内に、マイクロカプセル状の発泡ビーズから成る充填材を、発泡後の発泡体の嵩比重として、0.05g/cm3から0.15g/cm3の範囲、すなわち、3.75gから11.25gで充填するメタルウッドゴルフクラブヘッド」であるから、本件発明1との対比においては、高々、前示の相違点イ.の本件発明1における「該重量調整材料の量が5〜10gであり」とする事項を充足し得るものではあるが(なお、前示の「阻害要因解除事項」((6)参照。)を充足する事項は見出せない。)、前示の相違点ア.の「該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着した」事項を充足あるいは想到し得るものではない。 (8)刊行物5について 次に、刊行物5の発明は、「1.5g〜15gの範囲で重量調整できるゴルフクラブヘッド」であるから、本件発明1との対比においては、高々、前示の相違点イ.の本件発明1における(d)の「該重量調整材料の量が5〜10gであり」とする事項を充足し得るものではある(なお、前示の「阻害要因解除事項」((6)参照。)を満たす事項は見出せない。)が、前示の相違点ア.の「該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着した」事項を充足あるいは想到し得るものではない。 (9)刊行物3、6について なお、刊行物3、6は、いずれも特許法第29条第1項第3号所定の「刊行物」に当たらないものであるから、法的判断の対象にはならない。 (10)効果について そして、本件発明1は、各刊行物の発明が備えていない、特に(B)の「該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着した」という特有の事項を備える構成を併せ有することによって「中空構造を有するヘッドに対して粘着性重量調整材料および金属素材を用いることにより、容易に重量調整ができ、更に音鳴り等の心配がなく、またその固着位置の設定や変更、取り外しがいつでも簡単にできるようになるとともに、金属外殻特有の打球音を損なうことのない良好な結果が得られた。」(段落【0022】)という本件発明に特有な効果を奏するものである。 (11)異議申立人の主張について なお、異議申立人は、異議申立書において、次のア.〜キ.のように主張する。 「ア.本件発明1の(B)の要件である重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって金属素材を固着することについては、本件明細書の【0012】には、「金属素材を重量調整材料の表面に固着させるのは、重量調整が容易であり、重量調整材料中に練り込むよりも工程上容易であり、より好ましい。」と記載されているように、単に工程を省略するためにすぎないものであり(同書第15頁21行〜25行)、 イ.甲第1号証(当審注:「刊行物1」、以下、同様。)のように重量調整材料中に練り込んでも同様の効果を奏することは勿論、金属素材の分離による使用時の音鳴りを防ぐためには、本件発明のように金属素材を重量調整材料の表面に固着させるよりも重量調整材料中に練り込む方が有利であることは自明である(同書第15頁25行〜29行)。 ウ.次に、本件明細書の【0016】には、「重量調整材料としての粘着性樹脂の注入または粒状または粉状金属素材の投入の工程を2回もしくはそれ以上繰り返すことによって重量調整を実施することも可能である。」と記載されているように、本件発明において複数回の投入工程を操り返すと、金属素材は重量調整材料表面に固着されるだけでなく、内部にまで含まれることは明らかである(同書第16頁1行〜5行)。 エ.いずれにしても、本件発明と同様の粘着性樹脂を用いる甲第1号証においても本件発明と同様に重量調整材料の表面に金属素材を固着できることは明らかであり、この点に本質的な差異は何ら認められない(同書第18頁6行〜8行)。 オ.また、甲第2号証(当審注:「刊行物2」)では、ゴルフクラブヘッドの中空内に本件発明と同じ粘着樹脂の表面にピース(金属ピースを含む)若しくは粒子を捕獲し、該粒子若しくはピースが遊離してガラガラと鳴らないようにすることが記載されており、本件発明1の(A)、(B)の要件を満たしており、本件発明1の(B)の要件である重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって金属素材を固着することが何ら格別なものではないことが明らかである(同書第16頁9行〜14行)。 カ.それ故、甲第1号証には、本件発明1の(B)及び(D)の要件についても実質的に記載されている(同書第16頁15行〜16行)。 キ.なお、甲第1号証の発明の目的は、「ゴルフクラブの重量とそのクラブ内の重量分布を正確に調整できる。さらに、クラブヘッドに導入された重量は遊離せずガタガタ音を発しないものであり、本件発明の目的及び効果と共通する。従って、本件発明1は、甲第1号証に実質的に記載された発明であり、少なくとも甲第1号証又は甲第1〜7号証(当審注:「7号証」は、「文書1」)の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものである(同書第16頁17行〜22行)。」 しかしながら、ア.イ.の主張については、前示の4-1.(1)、(2)において説示したように、本件発明1は、各刊行物の発明が備えていない(B)の「該重量調整材料表面に該重量調整材料の粘着力によって固着した」事項を備えているという事項を備えることにより、「その固着位置の設定や変更、取り外しがいつでも簡単にできる」という特有の効果(当審注:前示の効果Rの一部を摘出した。)をも併せ奏するものであるから、更に、ア.イ.のいずれの主張も、上記カ.の主張における「実質的に記載されている」とする根拠になるものではなく、また、上記キ.の主張における「想到容易論」とする根拠になるものでもないから、ア.イ.のいずれの主張も、理由がない。 ウ.の主張については、指摘する本件明細書の【0016】の「重量調整材料としての粘着性樹脂の注入または粒状または粉状金属素材の投入の工程を2回もしくはそれ以上繰り返すことによって重量調整を実施すること」によれば、当該重量調整の実施によっても、結果として「金属素材を重量調整材料の表面に固着させる」ように工程を繰り返し得ることを説明しているものと認められるから、また、その主張は、上記カ.の主張における「実質的に記載されている」とする根拠になるものではなく、また、上記キ.の主張における「想到容易論」とする根拠になるものではないから、ウ.の主張は理由がない。 エ.の主張については、刊行物1の発明において、ゴルフクラブヘッド内において流動化した重量調整材料が冷却された後に、本件発明1のように、表面に金属素材が固着できる態様に形成されることになるとするその主張を裏付ける根拠・理由が証拠と共に明らかにされていないので、当然に、その主張が上記カ.の主張における「実質的に記載されている」とする根拠になるものではなく、また、上記キ.の主張における「想到容易論」とする根拠になるものではなく、したがって、エ.の主張は理由がない。 オ.の主張については、刊行物2に、ゴルフクラブヘッドの中空内に粘着樹脂の表面にピース(金属ピースを含む)若しくは粒子を捕獲し、該粒子若しくはピースが遊離してガラガラと鳴らないようにすることが記載されていても、前示の4-1.(1)〜(6)において説示したように、刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用する基因を欠くものであるから、その主張は理由がない。 カ.の主張については、刊行物1には、前示の3-2.(1)及び4-1.(1)〜(3)において説示したように、本件発明1の(B)及び(D)の事項については実質的に記載されていないから(異議申立書第14頁22行〜24行の「甲第1号証には・・(D)・・(B)・・について明示されていない。」参照。)、当然に、その主張は理由がない。 キ.の主張については、発明の目的において、「ゴルフクラブの重量とそのクラブ内の重量分布を正確に調整できる。さらに、クラブヘッドに導入された重量は遊離せずガタガタ音を発しないものであって、本件発明の目的及び効果と共通する」ところがあるとしても、本件発明と刊行物1の発明の構成との間には前示の4-1.(1)において説示したとおりア.イ.の相違点を有しているのであるから、その主張は前提を欠いており、また、このように異なる構成をもって奏する効果に仮に共通するところがあっても、共通しているという理由のみをもって、本件発明1は刊行物1に実質的に記載された発明であるとすることはできないことは自明のことである。したがって、その主張は理由がない。 また、「少なくとも刊行物1又は刊行物1〜6、及び文書1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。」という主張は、刊行物3、6が前示のとおり、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前」に「頒布」された「刊行物」に当たるものではないから、その主張は理由がない。 (12) まとめ そうすると、本件発明1は、刊行物1、2、4、及び5に記載された発明ではなく、また、当業者が、刊行物1、2、4、及び5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、その出願前国内において頒布された刊行物に記載された発明ではないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではなく、また、本件発明1は、その出願前国内において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野において通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 4-2.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1におけるゴルフクラブヘッドを製造する際に用いる「重量調整材料」が、「流動点が50°〜300°Cの熱可塑性材料」であることとし、且つ、この材料を用いてゴルフクラブヘッドを製造する方法として、「中空ヘッドの開孔部よりこの材料を注入し、これを冷却後、粒状または粉状の金属素材をヘッド開孔部より投入することによって得られると」いう工程を経る方法であることを限定して規定するゴルフクラブヘッドの製造方法である(以下、この限定して規定された事項を、単に「限定事項」という。)。 ところで、本件発明2の前提となる本件発明1が前示の4-1.において説示するように、刊行物1、2、4、及び5に記載された発明ではなく、また、当業者が刊行物1、2、4、及び5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 そうすると、本件発明2については、刊行物1の第2発明、刊行物2の第2発明、刊行物4の第2発明、及び刊行物5の発明との対比判断のなかにおいて前示の限定事項について判断するまでもなく、本件発明2は、刊行物1、2、4、及び5に記載された発明ではなく、また、当業者が刊行物1、2、4、及び5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。 なお、異議申立人は、「本件発明2は、本件発明1を引用するゴルフクラブヘッドの製造方法であり、上述した通り、本件発明1に特許性がない以上、本件発明2も特許性がないことは明らかである。また、本件発明2における重量調整材料と金属素材の投入順序及び予め両者を混合してから投入するが否かは当業者の設計変更事項にすぎないものであり、奏する効果においても何ら差異はない。いずれにしても、本件発明2の重量調整材料を投入後に金属素材を投入する方法は、却って、金属素材の分離により使用時に音鳴りが生じる可能性が高く、換言すれば刊行物1の発明の迂回発明に該当し、特許性は何ら認められないものである。従って、本件発明2は、刊行物1に実質的に記載された発明であり、少なくとも刊行物1又は刊行物1〜6、及び文書1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。」旨主張するが、前示のとおりであるから、その主張は理由がない。 以上のとおりであるから、本件発明2は、その出願前国内において頒布された刊行物に記載された発明ではないから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではなく、また、本件発明2は、その出願前国内において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野において通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 5.明細書の記載不備について 5-1.異議申立人の主張 異議申立人は、「本件明細書の特許請求の範囲には、「金属製ゴルフクラブヘッド」としか規定されておらず、ゴルフクラブの種類が規定されておらず、発明の詳細な説明を参酌してもゴルフクラブの種類の記載がなく、いかなるゴルフクラブヘッドを対象としているのか明確ではない。また、本件明細書の実施例には、内容積230ccを有するチタニウム製中空ヘッドを用いているとの記載があるだけであり、ゴルフクラブの種類の規定がなく、単に中空ヘッドというと、金属製のアイアンヘッドからウッドヘッドの最も大きいドライバーヘッドまで幅広く含まれるため、中空ヘッドの内容積は数十cc〜約200cc〜300cc又はそれ以上の範囲を含むと考えられる。更に、ウッドヘッドといっても、ドライバーだけでなくフェアウエーウッド(百数十cc〜200cc程度)などもあり、ゴルフクラブの種類の規定がなく、ヘッド重量と共に中空ヘッドの内容積が規定されていない以上、必須構成要件である重量調整量(重量調整材料量及び金属素材量)を直接的かつ一義的に導き出すことができず、不明確である。 従って、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明の効果を得るために、当業者が容易にその実施をし得るように記載されておらず、また、本件請求項には必須構成要件が明確に記載されておらず、明細書の記載不備に該当する。」として、本件明細書の記載は特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしているものではない、旨主張する(特許異議申立書第17頁12行〜第18頁11行)。 5-2. しかしながら、本件発明における重量調整とは、本件明細書段落【0002】の【従来の技術】に「ゴルフクラブヘッドにおいては、その用途によって精度の高い重量管理が要求されるが、実際上その要求を満たすことは非常に困難であり、多くの重量不良のヘッドが発生してしまうのが現状である。・・このため現在、・・まずヘッドを軽い目に作製しておいて、その後、重量調整の目的で・・発泡剤・・硬質樹脂を開孔部から注入する方法や・・金属材料を内部に固着する方法が用いられてきた。」旨記載されているように、ゴルフクラブヘッドを完成させておいて、最終的に重量の微調整を行う仕上げの工程で小さな範囲で重量を調整することに係るものであること、したがって、ゴルフクラブヘッド全体からみれば、非常に小さな範囲で重量を調整することに係るものであることが当業者に容易に理解することができるところであって、このような重量調整と共に、重量調整材料の容積が大きくなって金属製ゴルフクラブヘッドの金属外殻特有の打球音を損なうことのないようにと、高比重の金属素材を用いているものであることもまた容易に理解できるところである。 そうとすると、本件発明では、非常に小さな範囲の重量を、容積の小さな重量調整材料と金属素材によって調整するものであるため、特に、それらを納める器であるゴルフクラブの種類は問題となるものであるとは認められ難く、対象となるゴルフクラブヘッドとしては、請求項1に特定されているように、上記重量調整材料等を注入するための中空部を有し、また加熱して流動性を付与した重量調整材料を注入しても問題の起こらない程度の耐熱性を有する金属製ゴルフクラブヘッドであればよい、と理解されるところである。 しかも、本件発明では、上記重量調整材料の量が5〜10gであり、かつ重量調整材料:金属素材の重量比が2:1〜1:1であることを発明を構成する事項として規定しているものであるから、これらの数値関係から計算により求められる重量調整量、即ち(重量調整材料重量+金属素材重量)は、特許異議申立人も自認するとおり(特許異議申立書第15頁6行〜8行)、7.5〜20gとなり、実質的に重量調整量は規定されているものであることを当業者であれば、なんらの困難性もなく理解し得るところであり、このことは、本件明細書中にも「本発明のゴルフクラブヘッドは10〜20gの範囲の重量調整が可能となる。」と明りょうに記載されており(本件明細書段落【0017】参照。)、また、上記重量調整材料が金属素材の2倍より多いと、必要調整重量を得るために重量調整材料を10g以上注入する可能性があり、上述した金属外殻特有の「打球音」が失われる欠点を有し、重量調整材料が金属素材より少ないと重量調整材料表面の粘着力にて固着されない金属素材による使用時の「音鳴り」の欠点を有する(同書段落【0017】)として、上記のような数値範囲の臨界的意義については、表1に実施例として記載されており、更に、本件発明1の(D)の要件として重量調整材料の量が5〜10gであることを規定するに当たっては、5gより少ないと必要調整重量に満たなくなり、10gを越えるとヘッド外殻金属特有の「打球音」が失われ、商品価値が低下する(同書段落【0017】)ことについて記載されているところである。 そうすると、以上の知見を本件明細書から格別の困難性もなく得ることができると認められる当業者にとって、本件明細書は、本件発明に係るゴルフクラブヘッドについて実施をすることができる程度に記載されているものであると認識されることは明らかであり、また、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明は明細書の発明の詳細な説明に記載された事項に基づいて明確に記載されていると認められるものであることは明らかである。 してみると、以上の認定に反する申立人の5-1.の主張は理由がない。 以上のとおりであるから、本件の出願は、その明細書及び図面にあっては、その発明の詳細な説明は当業者が「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない」と規定する同法第36条第4項の要件を満たし、及びその特許請求の範囲は「特許を受けようとする発明が明確であること」に適合しなければならないと規定する同条第6項第2号の要件を満たしているものである。 したがって、本件の出願は、特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定に違反してされたものではない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-12-25 |
出願番号 | 特願平8-176447 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(A63B)
P 1 651・ 121- Y (A63B) P 1 651・ 537- Y (A63B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神 悦彦 |
特許庁審判長 |
佐田 洋一郎 |
特許庁審判官 |
中村 圭伸 藤井 靖子 |
登録日 | 2000-12-08 |
登録番号 | 特許第3138641号(P3138641) |
権利者 | 住友ゴム工業株式会社 |
発明の名称 | ゴルフクラブヘッドおよびその製造方法 |
代理人 | 山本 宗雄 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 古関 宏 |