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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 発明同一  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1091498
異議申立番号 異議1998-72278  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-05-01 
確定日 2004-01-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2679955号「一級、二級または三級アミン基を含むパラ-フェニレンジアミン、メタ-フェニレンジアミンおよびパラ-アミノフェノールまたはメタ-アミノフェノールからなるケラチン質繊維の酸化染色のための組成物、およびこの組成物を用いる染色方法」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2679955号の請求項1ないし14に係る特許を取り消す。 
理由 (1)手続の経緯
特許出願 平成7年1月23日(優先権主張1996年2月6日フランス国)
特許権の設定の登録 平成9年8月1日
特許異議の申立て(ウェラ アクチェンゲゼルシャフト) 平成10年5月1日
特許異議の申立て(ホーユー株式会社) 平成10年5月18日
取消理由通知 平成10年7月21日
期間延長請求 平成10年11月18日
訂正請求 平成11年2月18日
訂正拒絶理由通知 平成11年3月11日
期間延長請求 平成11年7月16日
手続補正書 平成11年10月22日
審尋 平成12年2月1日
回答書 平成12年7月24日
(2)訂正の適否について
(2-1)訂正請求に対する補正の適否について
平成11年10月22日付けの手続補正書による補正は、訂正請求書の訂正事項aにおいて、特許明細書の請求項1の記載中、
「-または下記式(IV)のメタ-アミノフェノール型の、少なくとも第2のカプリング剤:
(式(IV)の化学構造式省略)
(式中、R11は水素原子、1または2炭素原子を含むアルキル基または2から3までの炭素原子を含むヒドロキシアルキル基を表す。)および/または式(IV)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;のいずれか、からなり、ただし、
(i)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含むものであって、式中のR1およびR2がベンゼン環上の2,6位にあるメチル基を表し、R3、R4、R6、R7およびR8が水素原子を表し、R9がアミノエチルオキシ基を表し、かつR11がβ-ヒドロキシエチル基を表す組成物、および(ii)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含むものであって、式中のR1、R2、R3、R6、R7、R8およびR11が水素を表し、R4がメトキシエチル基を表し、かつR9がβ-ヒドロキシエチルオキシ基を表す組成物を除外してなることを特徴とするケラチン質繊維のための酸化染料組成物。」
とあるのを、
「-または下記式(IV):
(式(IV)の化学構造式省略)
(式中、R11は1または2炭素原子を含むアルキル基または-CH2-CH2-CH2-OHを表す。)のメタ-アミノフェノール型であって、2-メチル-5-N-(β-ヒドロキシエチルアミノ)フェノール及び2-メチル5-アミノフェノールを除く少なくとも第2のカプリング剤;および/または式(IV)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;のいずれかを含み、 ただし、
(i)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含む場合は、式中のR1およびR2がベンゼン環上の2,6位にあるメチル基を表し、R3、R4、R6、R7およびR8が水素原子を表し、R9がアミノエチルオキシ基を表し、かつR11がβ-ヒドロキシエチル基を表す組成物、および(ii)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含む場合は、式中のR1、R2、R3、R6、R7、R8およびR11が水素を表し、R4がメトキシエチル基を表し、かつR9がβ-ヒドロキシエチルオキシ基を表す組成物を除外してなることを特徴とするケラチン質繊維のための酸化染料組成物」(訂正明細書の請求項1式(IV)の下2〜3行の「アミノフェノール型であって」の重複は誤記と認める。)
と訂正するのを、さらに、
「-または下記式(IV):
(式(IV)の化学構造式省略)
(式中、R11は1または2炭素原子を含むアルキル基または-CH2-CH2-CH2-OHを表す。)のメタ-アミノフェノール型であって、2-メチル-5-N-(β-ヒドロキシエチルアミノ)フェノール及び2-メチル5-アミノフェノールを除く少なくとも第2のカプリング剤;および/または式(IV)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;のいずれかを含んでなることを特徴とするケラチン質繊維のための酸化染料組成物」
と補正するもの等合計4箇所の補正をするものであり、この補正は訂正事項の削除に該当するものではなく、訂正する範囲を増加させるものであるので、訂正請求書の要旨を変更するものと認められ、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に違反するものであり、この補正を採用しない。
(2-2)訂正明細書の請求項1に係る発明
平成11年2月18日付けの訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1に係る発明は、その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「染色に好適な媒体中、
(a)下記式(I)のパラ-フェニレンジアミン類から選ばれた少なくとも第1の酸化染料先駆体:


(I)
(式中、基R1、R2、R3およびR4は以下の条件に適合する:
-R3およびR4が、独立に、-(CH2)n-OHにおいてnが2、3または4に等しい基を表すとき、R1およびR2がいずれも水素原子を表すか、
-またはR4が、-(CH2)n-OR5においてR5がメチルまたはエチル基でありnが2または3に等しい基を表すか、またはモノ-またはジヒドロキシプロピル基を表すかのいずれかであるとき、R1、R2およびR3が水素原子を表すか、
-またはR1およびR2が、独立に、メチルまたはエチル基を表しかつベンゼン環の2,3;2,5;または2,6位に配位するとき、R3およびR4が水素原子を表すか、
-またはR1がイソプロピル基を表すとき、R2、R3およびR4が水素原子を表すかのいずれかである。)および/またはこれら式(I)の化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;
(b)下記式(II)の、メタ-フェニレンジアミン型の少なくとも第1のカプリング剤:


(II)
(式中、R6は水素原子、アルキル基またはモノ-またはポリヒドロキシアルキル基を表し、R7は水素原子、アルキル基またはモノヒドロキシアルキルコキシ基を表し、R8は水素原子またはアルキル基を表し、R9はアルコキシ基、アミノアルコキシ基、モノ-またはポリヒドロキシアルキルコキシ基または2,4-ジアミノフェノキシアルコキシ基を表し、上記のアルキルまたはアルコキシ基が1から4までの炭素原子を含み、上記のモノ-またはポリヒドロキシアルキル基およびモノ-またはポリヒドロキシアルキルコキシ基が2から3までの炭素原子を含むアルキルまたはアルコキシ基でかつ1から3までのヒドロキシル基からなるものを表し、R7またはR8の少なくとも一方は水素原子を表すと理解されるべきものである。)および/または式(II)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;
(c)-下記式(III)の、パラ-アミノフェノール型の、少なくとも第2の酸化染料先駆体:


(III)
(式中、R10はアルキル、モノヒドロキシアルキルまたはモノアルコキシアルキル基を表し、上記のアルキルおよびアルコキシ基が1から4までの炭素原子を含むものである。)および/または式(III)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩であるか
-または下記式(IV):


(IV)
(式中、R11は水素原子、1または2炭素原子を含むアルキル基または-CH2-CH2-CH2-OHを表す。)のメタ-アミノフェノール型であって、2-メチル-5-N-(β-ヒドロキシエチルアミノ)フェノール及び2-メチル5-アミノフェノールを除く少なくとも第2のカプリング剤;および/または式(IV)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;のいずれかを含み、ただし、
(i)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含む場合は、式中のR1およびR2がベンゼン環上の2,6位にあるメチル基を表し、R3、R4、R6、R7およびR8が水素原子を表し、R9がアミノエチルオキシ基を表し、かつR11がβ-ヒドロキシエチル基を表す組成物、および(ii)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含む場合は、式中のR1、R2、R3、R6、R7、R8およびR11が水素を表し、R4がメトキシエチル基を表し、かつR9がβ-ヒドロキシエチルオキシ基を表す組成物を除外してなることを特徴とするケラチン質繊維のための酸化染料組成物。」

(2-3)引用刊行物に記載された発明
当審が訂正拒絶理由通知で引用した刊行物1、刊行物2、刊行物9には以下の記載がある。
(2-3-1)刊行物1(特開昭53-34734号公報)には、
「(6)発色剤として、一般式


(I)
(式中のRは水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基およびヒドロキシアルキル基から成る群から選ばれた基であり、そしてZはヒドロキシアルキル基、・・・から成る群から選ばれた基である)で表される化合物少くとも1種を含む酸化ベース少くとも1種を水溶液中に含有するケラチン質繊維そして特に毛の染色用組成物。」(特許請求の範囲第6項)、
「(11)一般式


(II)
(式中のR1とR2とR3とは同じであるかまたは異り、水素原子・・・であり、R4とR5とは同じであるかまたは異り、水素原子であるかアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基の炭素原子数が1〜2のアルコキシアルキル基、・・・)で表わされるp-フェニレンジアミンまたはその相当する酸の少くとも1つを酸化ベースとして含むことを特徴とする前項(6)〜(10)の1つに記載の組成物。」(特許請求の範囲第11項)、
「(13)酸化ベースとしてp-アミノフェノールまたは2-メチル-4-アミノフェ
ノールを含む前項(7)または(8)の1に記載の組成物」(特許請求の範囲第13項)に係る発明が記載されており、その組成物の具体例として、例19には、例1の化合物((2,4-ジアミノ)フェノキシエタノールのジヒドロクロリド、本件訂正発明1の式(II)の化合物に相当する。)、2-メチル-4-アミノフェノールジヒドロクロリド(本件訂正発明1の式(III)の化合物に相当する。)、4-アミノ-N-メチルアニリンジヒドロクロリド(p-フェニレンジアミン系化合物)等を含む染色用組成物が、例25には、例2の化合物((2-アミノ-4-N-メチルアミノ)フェノキシエタノールジヒドロクロリド、本件訂正発明1の式(II)の化合物に相当する。)、p-アミノフェノール(パラアミノフェノール型化合物)、4-アミノ-N-β-メトキシエチルアニリン硫酸塩(本件訂正発明1の式(I)の化合物に相当する。)、m-アミノフェノール(メタアミノフェノール型化合物)等を含む染色用組成物がそれぞれ示されている。

(2-3-2)刊行物2(特開昭55-145762号公報)には、
「(1)一般式


(I)
(式中nは2、3または4である)で表わされる化合物またはその相当する(酸との)塩。」(特許請求の範囲第1項)、
「(3)前項(1)または(2)に記載の一般式(I)で表わされる化合物少くとも1種を発色剤として含むことを特徴とする、酸化塩基少くとも1種を化粧用担体中に含む、ケラチン繊維特に毛髪の染色用組成物。」(特許請求の範囲第3項)、
「(7)酸化塩基として一般式


(II)
〔式中のR1、R2およびR3は同じかまたは異っていてもよく、そして水素原子・・・であり、R4とR5とは同じかまたは異っていてもよく、そして水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基の炭素原子1〜2個を含むアルコキシアルキル基、・・・〕で表わされるパラ-フェニレンジアミンまたはその相当する酸との少くとも1種を含む前項(6)に記載の組成物。」(特許請求の範囲第7項)
「(8)酸化塩基として一般式


(III)
(式中R6は・・・、炭素原子1〜4個のアルキル基・・・)で表わされるパラ-アミノフェノールまたはその相当する酸との塩少くとも1種を含む前項(6)に記載の組成物。」(特許請求の範囲第8項)に係る発明が記載されており、その組成物の具体例として、例10には、2,4-ジアミノフェニルγ-アミノプロピルエーテル三塩酸塩(本件訂正発明1の式(II)の化合物に相当する。)、2-メチル-5-〔N-(β-ヒドロキシエチル)-アミノ〕-フェノール(メタアミノフェノール型化合物)、2,3-ジメチル-パラ-フェニレンジアミン二塩酸塩(本件訂正発明1の式(I)の化合物に相当する。)等を含む染色用組成物が、例12には、2,4-ジアミノフェニルβ-アミノエチルエーテル三塩酸塩(本件訂正発明1の式(II)の化合物に相当する。)、2-メチル-5-〔N-(β-ヒドロキシエチル)-アミノ〕-フェノール(メタアミノフェノール型化合物)、N-(β-メトキシエチル)-パラ-フェニレンジアミン二塩酸塩(本件訂正発明1の式(I)の化合物に相当する。)等を含む染色用組成物が、例22には、2,4-ジアミノフェニルβ-アミノエチルエーテル三塩酸塩(本件訂正発明1の式(II)の化合物に相当する。)、2,6-ジメチル-パラフェニレンジアミン二塩酸塩(本件訂正発明1の式(I)の化合物に相当する。)、パラ-アミノフェノール、N-メチル-パラ-アミノフェノール硫酸塩(パラアミノフェノール型化合物)等を含む染色用組成物がそれぞれ示されている。

(2-3-3)刊行物9(特開昭56-5410号公報)には、「少くとも酸化塩基1種と少くともカップリング剤1種とを適当な賦形剤中に含有し、・・・式


で表わされるカップリング剤少くとも1種または相当する塩少くとも1種を含有することを特徴とする、酸化剤の存在下で使用するための染色組成物。」(特許請求の範囲第1項)に係る発明が記載されており、その組成物の具体例として、例6には、2,4-ジアミノ-ブトキシベンゼン二塩酸塩(本件訂正発明1の式(II)の化合物に相当する。)、N,N-ジ-β-ヒドロキシエチル-パラ-フェニレンジアミン二塩酸塩(本件訂正発明1の式(I)の化合物に相当する。)、2-メチル-5-アミノ-フェノール(メタアミノフェノール型化合物)等を含む染色用組成物が示されている。

(2-4)本件訂正発明1と引用刊行物に記載された発明との対比、判断
(2-4-1)刊行物1について
本件訂正発明1と刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)を比較すると、いずれも毛髪等のケラチン質繊維のための染料組成物において、パラフェニレンジアミン類(酸化染料先駆体、以下「第1成分」という。)、メタフェニレンジアミン類(カップリング成分、以下「第2成分」という。)、パラアミノフェノール類またはメタアミノフェノール類(以下、「第3成分」という。)の少なくとも3種類の化合物を含むものであり、第1成分についてみると、引用発明1では一般式(II)で表される化合物であり、その式においてR1、R2およびR3が水素原子、R4とR5がヒドロキシアルキル基、アルコキシ基の炭素原子1〜2個を含むアルコキシアルキル基である場合のものは、本件訂正発明1の式(I)において、R3およびR4が、-(CH2)n-OHにおいてnが2、3または4に等しい基を表し、R1およびR2がいずれも水素原子を表す場合のものと一致し、同じく引用発明1の一般式(II)で、R1、R2およびR3が水素原子、R4が水素原子、R5がアルコキシ基の炭素原子1〜2個を含むアルコキシアルキル基である場合のものは、本件訂正発明1の式(I)において、R4が、-(CH2)n-OR5においてR5がメチルまたはエチル基でありnが2または3に等しい基を表し、R1、R2およびR3が水素原子を表す場合のものと一致する。 次に、第2成分についてみると、引用発明1では一般式(I)で表される化合物であり、その式においてRが水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基、ヒドロキシアルキル基で、Zがヒドロキシアルキル基である場合のものは、本件訂正発明1の式(II)において、R6が水素原子、アルキル基、モノヒドロキシアルキル基、R7、R8が水素原子、R9がモノヒドロキシアルコキシ基を表わす場合のものと一致する。
第3成分についてみると、引用発明1の2-メチル-4-アミノフェノールが本件訂正発明1のものと一致している。
具体的に開示された組成物についてみると、引用発明1の例19では、第2成分、第3成分(パラアミノフェノール類)は本件訂正発明1のものと一致しているが、第1成分として4-アミノ-N-メチルアニリンジヒドロクロリドが使用されている。同じく例25では、第1成分、第2成分は本件発明1のものと一致しているが、第3成分に相当するものとしてパラアミノフェノール及びメタアミノフェノールが使用されており、本件訂正発明1の第3成分とは異なっている。
すなわち、本件訂正発明1の組成物の3成分のすべてが引用発明1と一致していることとなるが、ただ、引用発明1では、具体的に開示された組成物の例として、第1成分、第2成分、第3成分の3成分のいずれもが本件訂正発明1の3成分と一致しているものがない点で相違している。
しかしながら、刊行物1においては、染色用組成物として例5〜例26に種々の組合せが示されており、発明の詳細な説明においても、第1成分と第2成分、第3成分の種々の組合せのうち特定の組合せに限定されているものとも認められない。
引用発明1のうち例19についてみると、第1成分として4-アミノ-N-メチルアニリンジヒドロクロリドに代えて、同じく式(II)に包含される他のパラフェニレンジアミン類(例えば、例25の第1成分である4-アミノ-N-β-メトキシエチルアニリン硫酸塩)を選択することは当業者が容易になし得ることであり、例25についてみると、第3成分としてパラアミノフェノール、メタアミノフェノールに代えて、例えば例19の第3成分である2-メチル-4-アミノフェノールジヒドロクロリドを選択することはやはり当業者が容易になし得ることである。この1成分の置換はいずれも本件訂正発明1に該当する組成物を生じる。
その本件訂正発明1に含まれない成分を本件発明1に包含される成分に置換した場合の効果について検討する。本件発明の権利者は平成11年2月18日付け特許異議意見書、平成11年10月22日付け意見書、平成12年7月24日付け回答書において、それぞれ本件発明に包含される組成物と3成分のうち1成分が本件訂正発明1に包含されないものである組成物について退色試験結果を示しているが、いずれも上記引用発明1の1成分の置換に対応する比較を行っているものではなく、その結果を本件訂正発明1の引用発明1に対する効果の顕著性を示すデータとして参照することはできない。また、本件発明の特許明細書の記載においても引用発明1に比べて効果の差が顕著であることを認めるに足りるデータが示されているわけでもない。
よって、前記したとおりの当業者にとって容易な1成分の置換によって生じる効果が顕著であるならともかく、本件訂正発明1の格別の効果を認めることはできないから、結局、本件訂正発明1は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-4-2)刊行物2について
本件訂正発明1と刊行物2に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)を比較すると、いずれも毛髪等のケラチン質繊維のための染料組成物において、パラフェニレンジアミン類(第1成分)、メタフェニレンジアミン類(第2成分)、パラアミノフェノール類またはメタアミノフェノール類(第3成分)の少なくとも3種類の化合物を含むものであり、第1成分についてみると、引用発明2では一般式(II)で表される化合物であり、その式においてR1、R2およびR3が水素原子、R4とR5がヒドロキシアルキル基、アルコキシ基の炭素原子1〜2個を含むアルコキシアルキル基である場合のものは、本件訂正発明1の式(I)において、R3およびR4が、-(CH2)n-OHにおいてnが2、3または4に等しい基を表し、R1およびR2がいずれも水素原子を表す場合のものと一致し、同じく引用発明1の一般式(II)で、R1、R2およびR3が水素原子、R4が水素原子、R5がアルコキシ基の炭素原子1〜2個を含むアルコキシアルキル基である場合のものは、本件訂正発明1の式(I)において、R4が、-(CH2)n-OR5においてR5がメチルまたはエチル基でありnが2または3に等しい基を表し、R1、R2およびR3が水素原子を表す場合のものと一致する。
次に、第2成分についてみると、引用発明2では一般式(I)で表される化合物であり、その式においてnが2〜4であるから、それは、本件訂正発明1の式(II)において、R6、R7、R8が水素原子、R9がアミノアルコキシ基を表わす場合のものと一致する。
第3成分についてみると、引用発明2では、一般式(III)において、R6が炭素原子1〜4個のアルキル基を表わす場合のものは、本件訂正発明1の式(III)において、R10がアルキル(炭素原子数1〜4)を表わす場合のものと一致する。
具体的に開示された組成物についてみると、引用発明2の例10、例12では、いずれも第1成分、第2成分は本件訂正発明1のものと一致しているが、第3成分として2-メチル-5-〔N-(β-ヒドロキシエチル)-アミノ〕-フェノールが使用されており、同じく例22では、第1成分、第2成分は本件訂正発明1のものと一致しているが、第3成分としてパラ-アミノフェノール、N-メチル-パラ-アミノフェノール硫酸塩が使用されていて、いずれも本件訂正発明1と第3成分が異なっている。
すなわち、本件訂正発明1の組成物の3成分のすべてが引用発明2と一致していることとなるが、ただ、引用発明2では、具体的に開示された組成物の例として、第1成分、第2成分、第3成分の3成分のいずれもが本件訂正発明1の3成分と一致しているものがない点で相違している。
しかしながら、刊行物2は、第3成分として本件訂正発明1の第3成分も開示しており、その開示の中から第3成分としていずれを選択するかは当業者が適宜行うことで、例10等において第3成分をアルキル基で置換されたパラアミノフェノールとすることは容易になし得ることである。
その本件訂正発明1に含まれない成分を本件訂正発明1に包含される成分に置換した場合の効果について検討する。本件発明の権利者は平成11年2月18日付け特許異議意見書において、第3成分としてパラアミノフェノールに代えて2-メチル-4-アミノフェノールを使用した場合に退色試験の結果がよくなることを比較実験によって示しているが、第1成分と第2成分の組合せが引用発明2(例10、例12、例22)のものといずれも異なり、また、第3成分についても引用発明2の例10、例12はパラアミノフェノールでもないので、いずれにしても本件訂正発明1が引用発明2に対して格別の効果を示す資料となるものではない。他の2件の比較実験によっても同様である。
よって、前記したとおりの当業者にとって容易な1成分の置換によって生じる効果が顕著であるならともかく、本件訂正発明1の格別の効果を認めることはできないから、結局、本件訂正発明1は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-4-3)刊行物1と刊行物2、刊行物9の組合せについて
引用発明1には、第1成分として本件訂正発明1の第1成分であるN-アルコキシアルキルパラフェニレン誘導体(同式(I)でR4が-(CH2)n-OR5の場合)、N,N-ジヒドロキシエチルパラフェニレン誘導体(本件訂正発明1の式(I)でR3及びR4が-(CH2)nOHの場合)が含まれておらず、第2成分として本件訂正発明1の第2成分であるメタフェニレンジアミンがアミノアルコキシ基で置換されているもの(同式(II)でR9がアミノアルコキシ基の場合)、アルコキシ基で置換されているもの(同式(II)でR9がアルコキシ基の場合)が含まれていないが、引用発明2、刊行物9に記載された発明(「引用発明9」)にはそれらが具体的に示されており、引用発明2、9いずれも引用発明1と同様に耐光性、耐荒天性、耐シャンプー性の染色組成物を目的とするものであるので、引用発明1のそれぞれ対応する成分に代えて引用発明2、9のそれらの成分を使用することは当業者が適宜行えることであり、その効果についても、本件訂正発明1のものが引用発明1、2、9に比して格別のものが得られているものと認められないので、本件訂正発明1は引用発明1、2、9に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-5)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、この訂正は認められない。

(3)特許異議申立についての判断
(3-1)本件発明
本件請求項1ないし14に係る発明は、特許明細書の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】染色に好適な媒体中、
(a)下記式(I)のパラ-フェニレンジアミン類から選ばれた少なくとも第1の酸化染料先駆体

(式(I)省略、前記訂正発明1の式(I)と同じ。)

(式中、基R1、R2、R3およびR4は以下の条件に適合する:
-R3およびR4が、独立に、-(CH2)n-OHにおいてnが2、3または4に等しい基を表すとき、R1およびR2がいずれも水素原子を表すか、
-またはR4が、-(CH2)n-OR5においてR5がメチルまたはエチル基でありnが2または3に等しい基を表すか、またはモノ-またはジヒドロキシプロピル基を表すかのいずれかであるとき、R1、R2およびR3が水素原子を表すか、
-またはR1およびR2が、独立に、メチルまたはエチル基を表しかつベンゼン環の2,3;2,5;または2,6位に配位するとき、R3およびR4が水素原子を表すか、
-またはR1がイソプロピル基を表すとき、R2、R3およびR4が水素原子を表すかのいずれかである。)および/またはこれら式(I)の化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;
(b)下記式(II)の、メタ-フェニレンジアミン型の少なくとも第1のカプリング剤:

(式(II)省略、前記訂正発明1の式(II)と同じ。)

(式中、R6は水素原子、アルキル基またはモノ-またはポリヒドロキシアルキル基を表し、R7は水素原子、アルキル基またはモノヒドロキシアルキルコキシ基を表し、R8は水素原子またはアルキル基を表し、R9はアルコキシ基、アミノアルコキシ基、モノ-またはポリヒドロキシアルキルコキシ基または2,4-ジアミノフェノキシアルコキシ基を表し、上記のアルキルまたはアルコキシ基が1から4までの炭素原子を含み、上記のモノ-またはポリヒドロキシアルキル基およびモノ-またはポリヒドロキシアルキルコキシ基が2から3までの炭素原子を含むアルキルまたはアルコキシ基でかつ1から3までのヒドロキシル基からなるものを表し、R7またはR8の少なくとも一方は水素原子を表すと理解されるべきものである。)および/または式(II)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;
(c)-下記式(III)の、パラ-アミノフェノール型の、少なくとも第2の酸化染料先駆体:

(式(III)省略、前記訂正発明1の式(III)と同じ。)

(式中、R10はアルキル、モノヒドロキシアルキルまたはモノアルコキシアルキル基を表し、上記のアルキルおよびアルコキシ基が1から4までの炭素原子を含むものである。)および/または式(III)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;であるか
-または下記式(IV)のメタ-アミノフェノール型の、少なくとも第2のカプリング剤:

(式(IV)省略、前記訂正発明1の式(IV)と同じ。)

(式中、R11は水素原子、1または2炭素原子を含むアルキル基または2から3までの炭素原子を含むヒドロキシアルキル基を表す。)および/または式(IV)のこれら化合物の酸との少なくとも1種の付加塩;のいずれか、からなり、
ただし、
(i)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含むものであって、式中のR1およびR2がベンゼン環上の2,6位にあるメチル基を表し、R3、R4、R6、R7およびR8が水素原子を表し、R9がアミノエチルオキシ基を表し、かつR11がβ-ヒドロキシエチル基を表す組成物、および(ii)式(I)、(II)および(IV)の化合物を同時に含むものであって場合は、式中のR1、R2、R3、R6、R7、R8およびR11が水素を表し、R4がメトキシエチル基を表し、かつR9がβ-ヒドロキシエチルオキシ基を表す組成物を除外してなることを特徴とするケラチン質繊維のための酸化染料組成物。
【請求項2】式(I)のパラ-フェニレンジアミンが下記の化合物:2,6-ジメチル-パラ-フェニレンジアミン;2,6-ジエチル-パラ-フェニレンジアミン;2,3-ジメチル-パラ-フェニレンジアミン;2,5-ジメチル-パラ-フェニレンジアミン;2-イソプロピル-パラ-フェニレンジアミン;N-(β-メトキシエチル)-パラ-フェニレンジアミン;N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミン、およびこれらの酸との付加塩から選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載の染料組成物。
【請求項3】用いられるメタ-フェニレンジアミンが、式(II)においてR6が水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表し、R7とR8とが水素原子を表し、R9がアルコキシ基、アミノアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはポリヒドロキシアルコキシ基を表し、全てのこれら化合物のアルキルおよびアルコキシ基が1から4までの炭素原子を含むものであり、ただし例外としてポリヒドロキシアルコキシ基においてはアルコキシ基が2から3までの炭素原子からかつ1から3までのヒドロキシル基からなる化合物から選ばれたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の染料組成物。
【請求項4】式(II)のメタ-フェニレンジアミンが、1-(β-ヒドロキシエチルオキシ)-2,4-ジアミノベンゼンおよび1-メトキシ-2-アミノ-4-(β-ヒドロキシエチルアミノ)ベンゼンおよびそれらの酸との付加塩から選ばれたものであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の染料組成物。
【請求項5】式(III)のパラ-アミノフェノールとして、アルキル基がメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチルまたはtert-ブチル基を表しかつヒドロキシアルキルおよびモノアルコキシアルキル基が-CH2OH;-CH2-CH2OH;-CH2-CHOH-CH2OH;-CH2-CHOH-CH3または二者択一的に-CH2OCH3を表すものを用いることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の染料組成物。
【請求項6】式(III)のパラ-アミノフェノールが3-メチル-4-アミノフェノール、3-エチル-4-アミノフェノール、3-ヒドロキシメチル-4-アミノフェノール、2-メチル-4-アミノフェノール、2-ヒドロキシメチル-4-アミノフェノール、3-メトキシメチル-4-アミノフェノール、2-メトキシメチル-4-アミノフェノール、およびそれらの酸との付加塩から選ばれたものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の染料組成物。
【請求項7】式(IV)のメタ-アミノフェノールとして、アルキル基がメチルまたはエチル基を表し、かつヒドロキシアルキル基が-CH2-CH2OHまたは-CH2-CH2-CH2OHを表すものを用いることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の染料組成物。
【請求項8】式(IV)のメタ-アミノフェノールが2-メチル-5-アミノフェノール、2-メチル-5-N-メチルアミノフェノール、2-メチル-5-N-エチルアミノフェノール、2-メチル-5-N-(β-ヒドロキシエチルアミノ)フェノール、2-メチル-5-N-(γ-ヒドロキシプロピルアミノ)フェノール、およびそれらの酸との付加塩からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の染料組成物。
【請求項9】酸との付加塩が塩酸塩、硫酸塩、シュウ化水素酸塩および酒石酸塩から選ばれたものであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の染料組成物。
【請求項10】式(I)の第1酸化染料先駆体が組成物の総重量に対して0.01および10%の間の重量割合で存在し、式(II)の第1カプリング剤がその中に0.001および3%の間で存在し、式(III)の第2酸化染料先駆体がその中に0.01および5%の間で存在しまたは式(IV)の第2カプリング剤がその中に0.005および5%の間で存在することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の染料組成物。
【請求項11】即時使用可能な形態にあって、追加的に酸化剤を含みかつ3および11の間のpHを有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の染料組成物。
【請求項12】ケラチン質繊維を染色するに際して、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の染料組成物(A)をその繊維に施し、次いで使用時においてのみこの組成物(A)に加えられるかまたは同時的にまたは順次的に施される別途の組成物(B)中に存在する酸化剤を用いてアルカリ性、中性または酸性媒体中で色を発現させることを特徴とする染色方法。
【請求項13】ケラチン質繊維を染色するためのいくつかの分室を含む染色具において、少なくとも2分室を含み、その一方の分室が請求項1ないし10のいずれか1項に記載の組成物(A)を含み、他方が染色に好適な媒体中の酸化剤からなる組成物(B)を含んでなるものであることを特徴とする染色具。
【請求項14】請求項13に記載のいくつかの分室を含む染色具を使用してケラチン質繊維を染色することを特徴とする染色具の使用方法。」

(3-2)特許法第29条第1項、第2項違反について
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)のうち、本件訂正発明1に含まれる発明が刊行物1、2、9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである点については、前記(2-4)〜(2-4-3)で述べたとおりである。

(3-2-1)刊行物3〜5、8〜10記載の発明
当審が取消理由通知で引用した刊行物1、2、9(それぞれ訂正拒絶理由通知で引用した刊行物1、2、9と同じ。)の記載は前記(2-3)で述べたとおりであり、刊行物3〜5、8、10には以下の記載がある。

(3-2-1-1)刊行物3(特開昭61-263911号公報)には、髪の染色用組成物に係る発明が記載されており、実施例5にはN,N-ビス(β-ヒドロキシエチルアミノ)-p-フェニレンジアミン二塩酸塩(本件発明1の式(I)の化合物に相当する。)、2-メチル-5-(β-ヒドロキシエチル)アミノフェノール(本件発明1の式(IV)の化合物に相当する。)、(2,4-ジアミノフェノキシ)エタノール二塩酸塩(本件発明1の式(II)の化合物に相当する。)を含む組成物が示されている。

(3-2-1-2)刊行物4(特公昭62-7890号公報)には、毛染用組成物の発明が記載されており、実施例8には1-アミノ-(2-メトキシ・エチル)・4-アミノ・ベンゼン・ジクロルヒドリド(本件発明1の式(I)の化合物に相当する。)、N(2-ヒドロキシエチル)-5-アミノ-2-メチル・フェノール(本件発明1の式(IV)の化合物に相当する。)、1-(2-ヒドロキシ・エチルオキシ)・2・4-ジアミノ・ベンゼンジクロロヒドリド(本件発明1の式(II)の化合物に相当する。)を含む組成物が示されている。

(3-2-1-3)刊行物5(西独特許公開第3914394号明細書)には、染毛剤組成物の発明が記載されており、実施例6(Beispiel 6)には、1,3-ジエチル-2,5-ジアミノベンゼン2塩酸塩(本件発明1の式(I)の化合物に相当する。)、2-アミノ-4-(2'-ヒドロキシエチルアミノ)-アニソール硫酸塩(本件発明1の式(II)の化合物に相当する。)、5-アミノ-2-メチルフェノール(本件発明1の式(IV)の化合物に相当する。)を含む組成物が示されている。

(3-2-1-4)刊行物8(特開昭57-44669号公報)には、ケラチン繊維用染色組成物の発明が記載されており、例18には4-〔N-(β-メトキシエチル)-アミノ〕-アニリン二塩酸塩(本件発明1の式(I)の化合物に相当する。)、2-メチル-5-〔N-(β-ヒドロキシエチル)-アミノ〕-フェノール(本件発明1の式(IV)の化合物に相当する。)、2,4-ジアミノフェノキシ-エタノール二塩酸塩(本件発明1の式(II)の化合物に相当する。)を含む組成物が示されている。

(3-2-1-5)刊行物10(米国特許第4330292号明細書)には、ケラチン繊維染色用組成物の発明が記載されており、例5(Example 5)にはN-β-メトキシエチル-パラ-フェニレンジアミン二塩酸塩(本件発明1の式(I)の化合物に相当する。)、パラ-アミノフェノール、2,4-ジアミノフェニル=β-ジエチルアミノエチルエーテル三塩酸塩(パラアミノフェノール型化合物)、2-メチル-5-N-(β-ヒドロキシエチル)-アミノフェノール(本件発明1の式(IV)の化合物に相当する。)を含む組成物、例8(Example 8)には2,5-ジアミノイソプロピルベンゼン二塩酸塩(本件発明1の式(I)の化合物に相当する。)、2,4-ジアミノフェニル=β-ジエチルアミノエチルエーテル三塩酸塩(パラアミノフェノール型化合物)、2-メチル-5-アミノフェノール(本件発明1の式(IV)の化合物に相当する。)を含む組成物が示されている。

(3-2-2)本件請求項1に係る発明と引用刊行物に記載された発明との対比、判断
刊行物2の例12、刊行物3の例5、刊行物4の例8、刊行物5の例6、刊行物8の例18、刊行物9の例6に記載された組成物は、いずれも、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)の第1成分、第2成分、第3成分を含むケラチン質繊維酸化染色用組成物であるから、本件発明1はそれらの刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するので特許を受けることができないものである。
また、本件発明1の第1成分、第2成分、第3成分はそれぞれ、刊行物1〜5、8〜10に記載されており、各刊行物記載の発明がいずれもケラチン質繊維染色用組成物であって、耐光性、耐久性等を目的とするものであり、しかも各成分の機能もよく知られているものであるから、当業者がそれらの成分を適宜組合せて本件発明1の組合せを創出することは容易になし得ることである。
よって、前記(3-2)で述べた理由と併せて、本件発明1は刊行物1〜5、8〜10記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-2-3)本件請求項2〜14に係る発明と引用刊行物に記載された発明との対比、判断
(a)本件請求項2に係る発明は、本件発明1において、第1成分を式(I)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、2,6-ジメチル-パラ-フェニレンジアミンは刊行物1(請求項12)、刊行物2(例19、22)に、2,6-ジエチル-パラ-フェニレンジアミンは刊行物5(例6)に、2,3-ジメチル-パラ-フェニレンジアミンは刊行物2(例10)に、2-イソプロピル-パラ-フェニレンジアミンは刊行物10(例8)に、N-(β-メトキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンは刊行物2(例12)、刊行物1(請求項12)に、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンは刊行物1(請求項12、例20)、刊行物3(実施例5)にそれぞれ記載されており、
(b)本件請求項3に係る発明は、本件発明1において、第2成分を式(II)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、それらは刊行物1(請求項2)、刊行物2(例10、12、25)、刊行物3(実施例5)、刊行物4(例8)、刊行物5(例6)、刊行物8(例18)、刊行物9(例6)に記載されており、
(c)本件請求項4に係る発明は、本件発明1において、第2成分を式(II)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、1-(β-ヒドロキシエチルオキシ)-2,4-ジアミノベンゼンは刊行物3(実施例5)、刊行物4(例8)、刊行物8(例18)に記載されており、
(d)本件請求項5に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(III)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、それらは刊行物1(請求項13)に記載されており、
(e)本件請求項6に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(III)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で2-メチル-4-アミノフェノールは刊行物1(請求項13)に記載されており、
(f)本件請求項7に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(IV)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中でヒドロキシアルキル基が-CH2-CH2OHであるものは刊行物2(例12)、刊行物4(例8)、刊行物8(例18)に記載されており(なお、この請求項7で「アルキル基がメチルまたはエチル基を表し、かつヒドロキシアルキル基が-CH2-CH2OHまたは-CH2-CH2-CH2OHを表すもの」とあるのは、式(IV)でアルキル基またはヒドロキシアルキル基を表すものがR11という1個の置換基であるので「アルキル基がメチルまたはエチル基を表すか、またはヒドロキシアルキル基が-CH2-CH2OHまたは-CH2-CH2-CH2OHを表すもの」の誤記と認められる。)、
(g)本件請求項8に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(IV)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、2-メチル-5-アミノフェノールは刊行物5(例6)、刊行物9(例6)に、2-メチル-5-N-(β-ヒドロキシエチルアミノ)フェノールは刊行物2(例12)、刊行物4(例8)、刊行物8(例18)にそれぞれ記載されており、
(h)本件請求項9に係る発明は、本件発明1において使用する成分(付加塩)を特定の酸の塩に限定したものであるが、アミンをその汎用の酸の塩の形で使用することは広く行なわれているものであり、例えば、刊行物1ではアミンを塩酸塩、硫酸塩で使用することが例に示されており、
(i)本件請求項10に係る発明は、本件発明1において使用する第1成分〜第3成分の組成物総重量に対する割合を特定したものであるが、それらは通常使用される範囲を記載したものにすぎず、例えば刊行物3(実施例5)、刊行物5(例6)には各成分をその範囲に包含される重量比で使用される場合の組成物が示されており、
(j)本件請求項11に係る発明は、本件発明1において、追加的に酸化剤を含むことを規定し、組成物のpHを特定の範囲のものに限定したものであるが、この種染毛組成物において酸化剤の使用は通常採る手段であり、組成物のpHについても通常の範囲を規定したにすぎない(例えば、刊行物1参照)し、
(k)本件請求項12に係る発明は、染色方法の発明であり、本件請求項1〜11に係る発明の染料組成物に、別の酸化剤を含む組成物を添加して染色する方法であるが、刊行物1〜5においても、いずれも酸化剤を含む組成物を添加して染色を行うことが記載されており、
(l)本件請求項13、14に係る発明は、請求項1〜10に係る染料組成物と酸化剤を含む組成物を別々の分室に含む染色具の発明及びその使用方法に係る発明であるが、使用するときに混合する2つの成分を別の容器に入れておくのは通常採る手段であり、それを一つの容器の分室で行うことも格別の困難性は認められないから、
請求項2〜14に記載された発明は、いずれも、刊行物1〜5、8〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-3)特許法第29条の2違反について
(3-3-1)先願発明
当審が取消理由通知で引用した特願平4-260185号(平成4年9月29日出願、特開平6-107530号公報参照)に係る発明(以下、「先願発明」という。)は、
「【請求項1】下記(a)群から選択される単数または複数の成分と、(b)群から選択される単数または複数の成分とを含有することを特徴とする染毛剤組成物。
(a)N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミンおよびその塩。
(b)p-アミノフェノール、p-アミノ-o-クレゾール、4,4'-ジアミノジフェニルアミン、2-クロル-p-フェニレンジアミン、p-メチルアミノフェノールおよびこれらり塩。」、
「【請求項3】さらに、下記(c)群から選択される単数または複数の成分を含有することを特徴とする請求項1記載の染毛剤組成物。
(c)m-アミノフェノール、・・・2,4-ジアミノフェノキシエタノール、5-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2-メチルフェノールおよびこれらの塩。」
の発明であり、各成分の割合について、「(a)群成分の配合量が3重量%よりも少ないと染毛効果が低下し始め、10重量%以上配合してもその効果は変わらない。したがつて、好ましい(a)群成分の配合量は3〜10重量%であり」(公開公報【0008】欄)、「(b)群成分の配合量は0.01〜10重量%の範囲が好ましく」(同【0010】欄)、「(c)群成分の配合量は0.01〜10重量%の範囲が好ましく」(同【0012】欄)」とされている。

(3-3-2)本件請求項1に係る発明と先願発明の対比、判断
本件請求項1に係る発明と先願発明は、いずれも毛髪等のケラチン質繊維のための酸化染料組成物に係るものであり、先願発明の(a)成分の「N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミン」は本件請求項1に係る発明の第1成分に相当し、(c)成分の「2,4-ジアミノフェノキシエタノール」は本件請求項1に係る発明の第2成分に相当し、(b)成分の「p-アミノ-o-クレゾール」は本件請求項1に係る発明の第3成分(式(III)の化合物)に相当し、(c)成分の「5-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2-メチルフェノール」は本件請求項1に係る発明の第3成分(式(IV)の化合物)に相当する。そうすると、(a)群、(b)群、(c)群の組合せで、本件の第1成分、第2成分、第3成分(式(III))の組合せと、第1成分、第2成分、第3成分(式(III))、第3成分(式(IV))の組合せが先願発明に包含されていることとなる。
よって、本件請求項1に係る発明は先願発明と同一であり、請求項1に係る発明の発明者は先願発明の発明者と同一の者でもなく、本件出願時の出願人と先願の出願人が同一の者でもないので、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

(3-3-3)本件請求項2〜12に係る発明と先願発明の対比、判断
(a)本件請求項2に係る発明は、本件発明1において、第1成分を式(I)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンは先願発明のN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミンと同一の化合物である。
(b)本件請求項3に係る発明は、本件発明1において、第2成分を式(II)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、R6が水素原子を表し、R7とR8とが水素原子を表し、R9がヒドロキシアルコキシ基の場合のものは先願発明の2,4-ジアミノフェノキシエタノールを包含するものである。
(c)本件請求項4に係る発明は、本件発明1において、第2成分を式(II)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、1-(β-ヒドロキシエチルオキシ)-2,4-ジアミノベンゼンは先願発明の2,4-ジアミノフェノキシエタノールと同一の化合物である。
(d)本件請求項5に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(III)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、アルキル基がメチル基の場合の化合物は先願発明のp-アミノ-o-クレゾールと同一の化合物である。
(e)本件請求項6に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(III)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、2-メチル-4-アミノフェノールは先願発明のp-アミノ-o-クレゾールと同一の化合物である。
(f)本件請求項7に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(IV)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、ヒドロキシアルキル基が-CH2-CH2OHを表す場合の化合物は先願発明の5-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2-メチルフェノールと同一の化合物である。
(g)本件請求項8に係る発明は、本件発明1において、第3成分を式(IV)の化合物のうち特定の化合物に限定したものであるが、その中で、2-メチル-5-N-(β-ヒドロキシエチルアミノ)フェノールは5-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2-メチルフェノールと同一の化合物である。
(h)本件請求項9に係る発明は、本件発明1において使用する成分(付加塩)を特定の酸の塩に限定したものであるが、先願発明においても請求項1、3では「塩」も含まれており、塩として硫酸塩、塩酸塩等が例示されていて(段落【0008】、実施例参照)、先願発明のものと相違点はない。
(i)本件請求項10に係る発明は、本件発明1において使用する第1成分〜第3成分の組成物総重量に対する割合を特定したものであるが、それらは先願発明の(a)群、(b)群、(c)群の重量割合と重複している。
(j)本件請求項11に係る発明は、本件発明1において、追加的に酸化剤を含むことを規定し、組成物のpHを特定の範囲のものに限定したものであるが、先願発明においても、染毛剤組成物にさらに酸化剤と混合しており(例えば段落【0027】参照)、実施例において染毛剤組成物のpHを9.5に調整しているので、この点において先願発明と相違点はない。
(k)本件請求項12に係る発明は、染色方法の発明であり、本件請求項1〜11に係る発明の染料組成物に、別の酸化剤を含む組成物を添加して染色する方法であるが、先願発明においても染毛剤組成物に酸化剤を加えて染毛剤として染色を行っているから、この点において先願発明と相違点はない。

よって、本件請求項2〜11に係る発明はいずれも先願発明と同一であり、請求項2〜11に係る発明の発明者は先願発明の発明者と同一の者でもなく、本件出願時の出願人と先願の出願人が同一の者でもないので、本件請求項2〜11に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし請求項14に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-09-26 
出願番号 特願平7-8518
審決分類 P 1 651・ 161- Z (A61K)
P 1 651・ 121- Z (A61K)
P 1 651・ 113- Z (A61K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 齋藤 恵  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 宮本 和子
深津 弘
登録日 1997-08-01 
登録番号 特許第2679955号(P2679955)
権利者 ロレアル
発明の名称 一級、二級または三級アミン基を含むパラ-フェニレンジアミン、メタ-フェニレンジアミンおよびパラ-アミノフェノールまたはメタ-アミノフェノールからなるケラチン質繊維の酸化染色のための組成物、およびこの組成物を用いる染色方法  
代理人 足立 勉  
代理人 志賀 正武  
代理人 村田 紀子  
代理人 田中 敏博  
代理人 成瀬 重雄  
代理人 武石 靖彦  
代理人 渡邊 隆  

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