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審決分類 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 一部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1091563
異議申立番号 異議2003-71649  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-04 
確定日 2004-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第3360826号「コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントの検出用のイムノアッセイ」の請求項1、4、6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3360826号の請求項1、4、6に係る特許を維持する。 
理由 1.本件特許発明
本件特許第3360826号(平成5年7月28日(パリ条約による優先権主張、1992年7月29日、ドイツ連邦共和国)国際出願、平成14年10月18日設定登録)の請求項1、請求項4および請求項6に係る発明は、本件明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、4および6に記載された次のとおりのものである。(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明4」、「本件発明6」という。)
「【請求項1】
コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチドを含む結合パートナーを、合成線状ペプチドと結合できる抗体および試料と共にインキュベートし、そして結合パートナーへの抗体の結合を適当な方法で測定することを特徴とする、試料中のコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントを検出するための競合イムノアッセイ。
【請求項4】
コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントに対する抗体を産生させるための抗原であって、コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチドを含むことを特徴とする抗原。
【請求項6】
請求項4に記載の抗原により免疫し、免疫した動物の血清から目的の抗体を単離することにより得られるか、または免疫した動物の脾臓細胞を不死化し、目的の抗体を産生する不死化脾臓細胞をクローニングし、そしてそのクローン化細胞もしくはそれらの培養上澄みから抗体を単離することにより得られる、コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントに対する抗体。 」

2.申立ての理由の概要
申立人オステツクス・インターナシヨナル・インコーポレイテツドの申立は、概略、以下のものである。
<引用刊行物>
刊行物1: L.A.Ransnaes et al、”Quantitation of a Guanine Nucleotide Binding Regulatory Protein by an Enzyme-Linked Immunosorbent Competition Assay”、ANALYTICAL BlOCHEMISTRY 176,185-190(1989)(甲第1号証)
刊行物2: 国際特許公開WO91/08478号明細書(1991年6月13日公開)(甲第2号証)

(1) 申立理由1
本件の請求項1、請求項4、請求項6に係る各発明は、刊行物1でも確認できる競合イムノアッセイという周知の方法論で必須の原理をそのままコラーゲン(テロペプチド)の検出で必要となる抗体と合成線状ペプチドに当てはめたものであり、刊行物2により教示されているテロペプチドを競合イムノアッセイで測定するために解決されるべき課題それ自体をもって、請求項にかかる発明を規定しているに留まるものである。
すなわち、本件の請求項1、請求項4、請求項6の各発明は、テロペプチドを競合イムノアッセイで測定する方法を研究する当業者にとっては自明の着想それ自体に過ぎず、かかる着想は刊行物1及び刊行物2に記載された発明あるいは本件特許出願時の技術水準から容易に想到し得るものである。
そうすると、刊行物1〜刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件の請求項1、請求項4、請求項6の各発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2) 申立理由2
競合イムノアッセイの発明を実施するためには、特異的な組合せにかかる抗体及び合成線状ペプチドを使用することが必要であるところ、本件特許明細書は、特定の3種類の合成線状ペプチドと、該ペプチドを抗原として調製した抗体との組合せ以外について、どのような構成からなる抗体及び合成線状ペプチドであれば本件特許発明を実施することができるかについては、一切開示するところがない。
そうすると、本件特許明細書は、本件の請求項1、請求項4、請求項6の各発明を当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成、効果を記載していない。
したがって、本件の請求項1、請求項4、請求項6の各発明に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3.申立理由1について
3.1 引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
「グアニンヌクレオチド結合調節タンパク質の酵素結合イムノソルベント競合アッセイ」と題する論文である刊行物1には、(1a) 膜調製物中のグアニンヌクレオチド結合調節タンパク質、Gs、の定量を目的とした、競合酵素結合イムノソルベント競合アッセイ、ELISAを用いた新規な方法が開発されたこと(185頁、左欄冒頭の要約部分)、そしてその方法について、(1b)N末端システインをもつGs αサブユニットの28〜42アミノ酸残基に相当する合成ペプチドをBSAとカップリングさせ、ウサギに注射して、該ペプチドに特異的な抗体を調製したこと(「Antibody Preparation」の項、186頁左欄下から16行〜6行)、(1c)上記合成ペプチドを、プレートに固相化したこと(「coating of Microtiter plates」の項、186頁左欄下から5行〜右欄17行)、(1d)刊行物1には、膜調製物あるいは精製Gsと調製した抗体を合成ペプチドが固相化されたプレートに加えて、一晩インキュベート後、洗浄によりプレートから除去し、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗-ウサギIgG抗体を加えて、イムノアッセイを行ったこと(「Enzyme-linked Immunosorbent Assay」の項、186頁右欄18行〜45行)が記載されて、(1e)同方法を用いて膜調製物中のGsを測定した結果が記載されている (189頁左欄1〜15行)。

(2)刊行物2
刊行物2には、生体内におけるコラーゲン分解の検出方法の発明に関して、次の事項が記載されている。
(2a)発明の技術分野(1頁8〜12行)
「この発明は、生体内におけるコラーゲン分解を検出し観察する方法に関する。さらに詳しくは、コラーゲンタイプIIおよびIIIの分解時に生体内で生成する架橋テロペプチドを定量する方法に関する。」
(2b)架橋テロペプチドの構造(10頁23行〜14頁5行)
「タイプIコラーゲンから誘導される架橋テロペプチドの構造
骨タイプIコラーゲンのN-末端(アミノ末端)テロペプチド構造から誘導される3-ヒドロキシピリジニウム架橋を有する特異的テロペプチドは、以下のアミノ酸配列を有する:
式3
( アミノ酸配列は省略 )
式中、K-K-Kはヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリンであり、そしてGlnはグルタミンまたはピロリジンカルボン酸である。」(10頁23行〜11頁2行)との記載を始め、式4〜式6のタイプIコラーゲンから誘導される架橋テロペプチドと、式7のタイプIIコラーゲンから誘導される架橋テロペプチドと、式8〜式11のタイプIIIコラーゲンから誘導される架橋テロペプチドとのアミノ酸配列の記載に続き、「また、上記した親配列(式8、及び9)に対応するこれら二つのペプチドのより小さい及びより大きい類縁体(それぞれの組成構成鎖の1〜3のアミノ酸が異なる)が存在し、体液中で測定可能である。ここに開示されたそれぞれのペプチドのより小さい及びより大きい類縁体もまた、本発明の一部を形成する。」と記載されている。
(2c) 図9、抗体HB10611の反応性(15頁下7行〜下4行)
そして、横軸にペプチドの濃度、縦軸に450nmでの吸光度をとったグラフである図9について、「図9は、代表的なモノクローナル抗体HB10611と:P1ペプチド(ここでは式3.白ヌキ四角);a2(I)N-テロペプチド(QYDGKGVGC、黒菱形);及びa1(I)N-テロペプチド(YDEKSTGGC、黒四角)との結合実験の結果を示す。」と記載されている。
(2d) 図10、N-テロペプチド領域の構造とP1ペプチド(15頁下3行〜末行)
3つのペプチドがK-K-K結合により架橋された「α1(I)」のアミノ酸配列が記載された図10について、「図10は、脱灰されたヒト骨コラーゲンのN-テロペプチド領域の構造の一部を示す。P1ペプチド(式3)は箱の中に囲われている;それは骨吸収と関係するエピトープを含有する。」と記載されている。
(2e)ペプチド定量方法の例として、25頁下から5行〜32頁6行に、「A.ペプチド定量用の免疫学的方法」が、次のような具体的手順を含めて記載されている。
(2e-1)P1ペプチドのモノクローナル抗体(29頁21行〜30頁23行)
「(i)モノクローナル抗体の製造
以下、上記式3に基づくペプチド免疫原に対するモノクローナル抗体の製造例である。
式3(骨コラーゲン分解を示す)のペプチドに富んだ分画を、逆相及び分子篩クロマトグラフィーを用いて青年のヒトの尿から調製した。
・・・式3のペプチド(以下において、P1と言及する)・・・
・・・ELISAフォーマットにおいて、抗体は、如何なる濃縮または清浄工程を経ることなく健常人の尿中に存在するP1を検出し、そして測定することが可能であった。この好ましいモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、寄託番号HB10611のもとにメリーランド20852、ロックビル、パークローン・ドライブ12301のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されている。このハイブリドーマは以下において1H11として示されており、それが産生するモノクローナル抗体は以下においてMAb-1H11として示されている。
サンドウィッチ分析は、また、P1-特異的モノクローナル抗体及び接合P1に対するウサギで培養されたポリクローナル抗血清を用いて機能することがわかった。P1-特異的モノクローナル抗体、ポリクローナル抗血清、その結合断片、等は何れも、標準ELISA及び他の免疫分析プロトコルを用いる検出可能な仕様で、尿からのP1と特異的に結合するために使用することができる。」
(2e-2) 抗体MAb-1H11の認識(30頁24行〜31頁3行)
「(ii)好ましいエピトープの特性
抗体MAb-1H11によって認識されるエピトープは、P1の構造中に体現されている。エピトープは、純粋なP1中で、及びP1構造(例えば、P1のN-末端アスパラギン酸残基を介してチロシン残基に結合したP1)を含有する、或るより大きいペプチド中に認識される。エピトープは、ペプチドP1の構造中に体現された二つのテロペプチドの両方の化学的特徴を含んでいる。ヒトa1(I)及びa2(I)N-テロペプチド配列と適合するように合成され、ウシ血清アルブミンと結合するようにC-末端システィンを付加したペプチド(即ち、YDEKSTGGC及びQYDGKGVGC)は、MAb-1H11によっては認識されなかった。このことは、プレートアウトしたP1(図9参照)に対し、競合する、または直接、結合パートナーとしてBSAに接合し、プレートアウトした遊離のペプチドを使用するELISAにより示される。図9に言及すると、検出可能なマーカーの450nmにおける吸光度を、遊離P1ペプチドの濃度に対してプロットしている。遊離P1の量が増大するに従い、固定(プレートアウト)されたP1に結合した検出可能なマーカーの量は減少する。比較として、a2(I)及びa1(I)N-テロペプチドは、MAb-1H11との如何なる重大な競合結合も殆どないことを示している。」

3.2 本件特許発明と上記刊行物との対比、検討
(1)コラーゲン、コラーゲンフラグメント
本件特許発明の競合イムノアッセイが測定対象とするコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントは、本件特許明細書にも、(イ)「コラーゲンは、皮膚、軟骨及び骨の結合組織中の重要な構造タンパク質を代表する。・・・例えば、特定の骨または軟骨中の特定の組織の成熟コラーゲンの特徴的な性質は、ヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリンによる隣接繊維の架橋である(・・・)。これらの架橋はコラーゲンの特異的検出のための生物マーカーとして利用し得る(Z.Gunja-Smithら,Biochem.J.197(1981),759-762)。細胞外コラーゲンが分解される場合、WO91/10141号明細書に記載されているようなヒドロキシリシルピリジノリンもしくはペプチド側鎖を含むリシルピリジノリン誘導体またはリシル残基もしくはヒドロキシリシル残基を有する遊離ピリジノリン誘導体が、血液または尿の如き体液に侵入する。それ故、体液中のこれらの化合物の検出は、例えば、骨粗しょう症において生じたり、また骨組織の腫瘍の結果として生じるような細胞外コラーゲンの分解を示す。尿から単離し得る適当に架橋されたコラーゲンフラグメントによる免疫感作により得られたペプチド側鎖を有するヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリンの検出につきWO89/12824号明細書にモノクローナル抗体が記載されていた。WO91/08478号明細書に記載された方法においては、コラーゲンは生体内で産生されたコラーゲンの天然の、即ち、架橋された分解生産物の抗体によっても検出される。」(本件特許公報3欄13行〜44行参照、以下、明細書記載箇所については本件特許公報における記載箇所で示す。)と記載されているように、まず3本の鎖状のコラーゲンのプロα-鎖が3本らせん状のコラーゲン分子となる部分を形成後、プロα-鎖のN-末端側およびC-末端側の余分なペプチドが除去されて最終的にコラーゲン分子となるものあって、コラーゲン分子は、リジン残基を介して分子内で架橋されているだけでなく、同一分子にない3本の鎖がコラーゲン分子間でもリジン残基を介して架橋されているものである。したがって、1本の鎖状のものからなるポリペプチドや蛋白質と同じように論じることはできない。
そして、体液中で検出されるコラーゲン分解物についても、上記記載(イ)にあるように、ヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリンによる架橋されたコラーゲンフラグメントについての報告が知られているだけである。
申立人が甲第2号証として提出している刊行物2は、上記記載(イ)に挙げられている先行技術にすぎない。

(2)本件発明1について
一方、本件発明1は、試料中のコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントを検出するための競合イムノアッセイに使用する、コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントの結合抗体との免疫反応の競合相手として、「コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチドを含む結合パートナー」 を、そして結合抗体として「合成線状ペプチドと結合できる抗体」を使用するものである。
競合イムノアッセイ自体は、申立人も主張するように、刊行物1でも確認できる周知の免疫アッセイ法の一種ではあるものの、コラーゲン特有の架橋された3本鎖らせん状構造および分子間にも架橋構造が存在することを考慮すれば、本件特許明細書にも、(ロ)「従来、試料中のコラーゲンまたはコラーゲン分解産物の検出のために、架橋結合構造そのものまたはヒドロキシリシル残基もしくはリシル残基の架橋により生成される所謂架橋ペプチドを検出することが必要であることが常に推定されていた。何となれば、このヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリン構造はコラーゲンに特徴的であるからである。このような検出方法の例が、WO89/12824号、WO91/08478号、WO89/04491号およびWO91/10141号に記載されている。」とある(本件特許公報4欄25行〜34行)ように、直ちに「コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチド」が、該ペプチドと結合できる抗体で、体液などの試料中のコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントを検出するための競合イムノアッセイの競合相手として使用できるとすることはできない。
刊行物1、刊行物2のいずれにも、試料中のコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントを検出するための競合イムノアッセイにおいて、「コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチド」を使用することは記載も示唆もされてない。
そして、コラーゲンやコラーゲンフラグメントの検出用ペプチドとして使用できるものとして従来知られている架橋ペプチドについては、本件特許明細書に、(ハ)「天然源から単離されたこれらのペプチドの欠点は、その試験において抗原または結合パートナーの再現可能な産生に信頼できる源がないことである。天然源から単離されたペプチドの更に別の欠点は、感染性物質による汚染のリスクである。
特定の抗原は、例えば、抗原のエピトープに相当するペプチドの化学合成により得られる。約700-1500Dの分子量を有する小さいペプチドがこれに使用される場合、免疫原作用を有する抗原を得るためにはキャリヤー分子への結合が必要である。エピトープの構造は、このプロセスにおいてキャリヤー分子への結合により変化してはならない。・・・・。
架橋コラーゲンの天然分解産物に相当する特定の抗原の化学合成における問題は、架橋により生じるヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリン構造を化学合成することが従来可能ではなかったことである。」と記載されている(本件特許公報3欄45行〜4欄16行参照)問題点を有するものである。
それに対して、本件特許発明は、(ニ)「それ故、本発明の目的は、競合イムノアッセイにおけるコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントの抗体の特異的結合パートナーとして、またコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントの検出のための競合イムノアッセイにおいて標準または較正曲線を作成するための標準物質として使用するためのコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントの抗体の産生のための特定の抗原を提供することであった。」(本件特許公報4欄17行〜24行参照)というもので、(ホ)「今、驚くことに、コラーゲンの非らせん線状C末端またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチドを含む特定の抗原、結合パートナーまたは標準物質の使用が上記の目的を達成するのに適することがわかった。イムノアッセイにおける結合パートナーとして、標準物質として、または抗体産生の免疫原として、合成線状ペプチドを使用することの利点は、これらのペプチドが、天然源からのペプチドとは対照的に、正確に特定された構造で再現可能に生産し得ることである。更に、このような短い合成ペプチドが使用されるイムノアッセイは、干渉に対する低い感受性を示す。」(本件特許公報4欄35行〜44行参照)という特徴、利点を有する方法である。
そして、本件図面の実施例5の競合試験の結果を示す図1には、本件特許発明の方法がRIA値と良く相関関係がある測定値(0.959の相関係数)を生じ、臨床上意味のあるデータを生じることが示されている(本件特許公報13欄〜16欄参照)。
そうすると、コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントの結合抗体との免疫反応の競合相手として、「コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチドを含む結合パートナー」を、そして結合抗体として「合成線状ペプチドと結合できる抗体」を使用する競合アッセイである本件発明1が、刊行物1でも確認できる競合イムノアッセイという周知の方法論で必須の原理をそのままコラーゲン(テロペプチド)の検出で必要となる抗体と合成線状ペプチドに当てはめたものであるとも、また、刊行物2により教示されているテロペプチドを競合イムノアッセイで測定するために解決されるべき課題それ自体をもって、請求項にかかる発明を規定しているに留まるものであるとも、いうこともできない。
そうすると、本件発明1は、刊行物1〜刊行物2の記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

(3)本件発明4、本件発明6について
本件発明4は、コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントに対する抗体を産生させるための抗原について発明であって、コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチドを含むことを特徴とするものであるが、ヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリン架橋構造を有しないコラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の配列に相当する合成線状ペプチドが、コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントに対する抗体を産生させるための抗原となり得ることを、コラーゲンとは全く関係のないない物質の競合法についての刊行物1の記載も、コラーゲンからのヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリン架橋テロペプチド断片についての記載を含む刊行物2の記載も、何ら開示も示唆もするところがないことは、前記(2)においても検討したしたところである。
そうすると、本件発明4は、刊行物1〜刊行物2の記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。
そして、本件発明6は、本件発明4に記載の抗原により免疫して得られるコラーゲンまたはコラーゲンフラグメントに対する抗体についての発明であるから、本件発明4と同様、刊行物1〜刊行物2の記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

4.申立理由2について
本件特許明細書には、本件特許明細書の末尾に具体的な配列も開示されている配列番号1、配列番号2、配列番号3の3種類の線状ペプチドについてだけでなく、コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域のペプチド配列について、(ヘ)「コラーゲンの非らせんのC末端領域またはN末端領域の全ての連続アミノ酸配列は、合成線状ペプチドとして適している。これらの領域は、Chuら,Nature 310,337-340(1984),Clickら,Biochemistry 9,4699-4706(1970),Morganら,J.Biol.Chem.245,5042-5048(1970)およびBernardら,Biochemistry 22,5213-5223(1983)により知られている。5〜25のアミノ酸、特に好ましくは8〜20のアミノ酸を含むペプチドが使用されることが好ましい。この場合、その配列が架橋の領域を含むことは必要ではない。しかしながら、それはまた実際にこの領域と重なることもできる。しかしながら、いかなる場合にも、合成ペプチド中にはヒドロキシリシルピリジノリンまたはリシルピリジノリン架橋結合はない。コラーゲンのC末端領域からの合成ペプチドが最も好適であることがわかった。何となれば、非らせんのC末端領域はコラーゲンの非らせんのN末端領域よりも大きいからである。従って、この領域においては、N末端領域におけるよりもより可能性のあるエピトープが利用できる。コラーゲンのα1鎖のC末端領域からの配列番号1、2または3に示された配列を有するペプチドが特に好適である。」(本件特許公報5欄14行〜34行参照)とあるように、これらの領域のアミノ酸配列が、上記文献により本件特許発明の優先権主張日以前により知られていることも開示されている。また、本願特許明細書には、ペプチド合成についての実施例1、合成したペプチドを用いて免疫し、ポリクローナル抗体を産生させる実施例2〜4、そして競合試験による体液中のコラーゲンおよびその分解産物を測定した実施例5の記載(本件特許公報8欄34行〜14欄37行参照)と共に、競合イムノアッセイにおける当該合成線状ペプチド抗原の、固相結合パートナーとしての用い方や、抗体作成のための免疫感作についての説明なども記載されている(本件特許公報5欄49行〜6欄24行、7欄19行〜31行等参照)
そうすると、本件特許明細書が、特定の3種類の合成線状ペプチドと、該ペプチドを抗原として調製した抗体との組合せ以外について、どのような構成からなる抗体及び合成線状ペプチドであれば本件特許発明を実施することができるかについては、一切開示するところがないという、申立人の主張は、本件特許明細書の前記の合成線状ペプチドについての開示事項を検討すると、妥当でないことは明らかであって、本件特許明細書の記載に平成6年改正前の特許法第36条第4項の規定を満たしていないとするべき不備があるものとは認められない。

5.むすび
したがって、本件申立のいずれの理由によっても、本件の請求項1、請求項4、請求項6に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件の請求項1、請求項4、請求項6に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-01-14 
出願番号 特願平6-504977
審決分類 P 1 652・ 121- Y (G01N)
P 1 652・ 531- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 水垣 親房
山口 由木
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3360826号(P3360826)
権利者 ロシュ ダイアグノスティックス ゲーエムベーハー
発明の名称 コラーゲンまたはコラーゲンフラグメントの検出用のイムノアッセイ  
代理人 平木 祐輔  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  
代理人 坪倉 道明  
代理人 石井 貞次  
代理人 大崎 勝真  
代理人 一入 章夫  
代理人 早川 康  

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