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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01C
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01C
管理番号 1091578
異議申立番号 異議2003-71449  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-01-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-03 
確定日 2004-02-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3353037号「チップ抵抗器」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3353037号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3353037号の特許請求の範囲の第1項に係る発明についての特許は、昭和62年10月22日に出願した特願昭62-267839号の一部を分割した特願平6-180814号のさらに一部を分割した特願平6-281306号のさらに一部を分割した特願平9-261053号を、さらに平成11年4月19日に分割して新たな特許出願としたものであって、平成14年9月20日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明の要旨
本件発明の要旨は、特許明細書及び図面(特許公報ではない点に注意)の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものであると認める。
「絶縁性セラミックの基板の表面に形成された一対の第1電極と、前記基板の裏面の前記基板を挟んで前記一対の第1電極と対向する位置に形成された一対の第2電極と、前記一対の第1電極間に形成された抵抗体と、前記一対の第1電極及び前記一対の第2電極上に一部重畳し前記一対の第2電極との間に段差を形成するように前記基板の一対の側端部に形成された導電性塗料からなる一対の第3電極と、前記一対の第1電極の露出部、前記一対の第2電極の露出部及び前記一対の第3電極の外面を覆うメッキ層とを具備してなるチップ抵抗器。(以下、「本件発明」という。)」
(特許公報の特許請求の範囲には、平成14年4月30日付補正事項の脱落という誤植が認められる。)

3.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人平塚瞭子は、証拠として甲第1乃至第4号証を提出し、本件発明は、甲第1号証又は甲第1乃至第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許を受けることができないものであると主張している。
また本件特許明細書には不備があり、特許法第36条第3項(「第4項」とあるは、申立の趣旨からみて「第3項」の誤記と認定した。)に規定する要件を満たしていないため、特許を受けることができないものであると主張している。

4.記載不備について
(1)特許異議申立人の主張
a.本件発明は、平成14年2月19日起案の拒絶理由通知書における拒絶理由の対象である、平成13年8月21日提出の手続補正書で補正された内容の発明であり、平成14年2月19日起案の拒絶理由通知書に記載された拒絶理由の通り、「このチップ抵抗器は、チップ抵抗器の端面を導電性塗料の第3電極で覆い、第3電極の強度を高めるとともに、クラック等の発生を防止し、電気的信頼性を高いものにしている。また、第2電極と第3電極との間に段差が形成されることにより、ハンダ付け領域が確実に制限され、回路基板に対する固着力も極めて強いものとなる」という明細書記載の発明の効果が得られるかどうか不明な、特許法第36条第3項(「第4項」とあるは、申立の趣旨からみて「第3項」の誤記と認定した。)に規定する要件を満たしていない発明である。
b.更に、本件図面の図2、図3(及び明細書の対応説明)には、「一対の第1電極6及び一対の第2電極7上に一部重畳し一対の第2電極7との間に段差を形成するように基板2の一対の側端部に厚さ約20μの導電性塗料を塗布して第3電極8を第2電極との間に段差を有するように形成し、第1電極6の露出部、第2電極7の露出部及び第3電極8の外面がメッキ層9,10で覆われているチップ抵抗器」が記載されていることから、本件発明を訂正して、特許請求の範囲の記載を係る図2、図3(及び明細書の対応説明)に記載されたチップ抵抗器の構成に訂正することも考えられる。しかしながら、特許請求の範囲の記載を係る図2、図3(及び明細書の対応説明)の構成に訂正したとしても上記効果を奏しないことは明らかである。
即ち、本件明細書の実施例及び図面には、チップ抵抗器をどのようにして回路基板に実装するのかの説明、また、実装基板上における実装状態の説明がまったくなく、図2、図3の構成及び明細書の対応説明のみでは、第2電極と第3電極との間に段差が形成されることにより、どのようにして「ハンダ付け領域が確実に制限され」るのか、更に、仮に「ハンダ付け領域が確実に制限され」るとしたとしても、これがどうして「回路基板に対する固着力も極めて強いものとなる」との作用効果が得られるのか明らかではない。
本件明細書の発明の効果欄に記載された作用効果を奏するための技術的かつ具体的な構成は、特許請求の範囲のみならず発明の詳細な説明の欄にも何ら記載されておらず開示もない。
(2)判断
<aの点について>
特許請求の範囲の請求項1において、「前記一対の第2電極上に一部重畳するように前記基板の一対の側端部に形成された一対の第3電極」なる記載及び「前記一対の第1電極の露出部、前記一対の第2電極の露出部及び前記一対の第3電極の外面を覆うメッキ層」なる記載では、「このチップ抵抗器は、チップ抵抗器の端面を導電性塗料の第3電極で覆い、第3電極の強度を高めるとともに、クラック等の発生を防止し、電気的信頼性を高いものにしている。また、第2電極と第3電極との間に段差が形成されることにより、ハンダ付け領域が確実に制限され、回路基板に対する固着力も極めて強いものとなる。」という明細書記載の発明の効果が得られるかどうか不明である旨の平成14年2月19日付拒絶理由は、「絶縁性セラミックの基板の表面に形成された一対の第1電極と、前記基板の裏面の前記基板を挟んで前記一対の第1電極と対向する位置に形成された一対の第2電極と、前記一対の第1電極間に形成された抵抗体と、前記一対の第1電極及び前記一対の第2電極上に一部重畳し前記一対の第2電極との間に段差を形成するように前記基板の一対の側端部に形成された導電性塗料からなる一対の第3電極と、前記一対の第1電極の露出部、前記一対の第2電極の露出部及び前記一対の第3電極の外面を覆うメッキ層とを具備してなるチップ抵抗器。」と補正されたことにより解消している。
<bの点について>
特許請求の範囲の記載及び図2のチップ抵抗器の構造からみて、一対の第2電極との間に段差を形成するように基板の一対の側端部に形成された導電性塗料からなる一対の第3電極を有するチップ抵抗器において、一対の第1電極の露出部、前記一対の第2電極の厚み方向端面を含む露出部及び前記一対の第3電極の外面を覆うメッキ層が存在するために、ハンダ付けの際に回路基板との間で、第2電極7が独立のランドとして機能し、ハンダ付け時には、第2電極7と回路基板との間にハンダが表面張力より侵入し、ハンダ付け領域が制限されること、及びハンダが第2電極7の下方に吸い付けられるので、電極間距離を短くすることができることは明らかである。またこのようなチップ抵抗器では、絶縁効果が高いとともに、回路基板に対する固着力も極めて強く、さらに表面実装型抵抗器の端子電極の小型化及び回路基板の高密度実装を可能にすることが十分予期されるものである。
以上のとおりであるから、チップ抵抗器の実装方法について本件明細書の実施例及び図面に具体的に記載が無くても、「ハンダ付けの際に回路基板との間で、第2電極7が独立のランドとして機能し、ハンダ付け時には、第2電極7と回路基板との間にハンダが表面張力より侵入し、ハンダ付け領域が制限され、絶縁効果が高いとともに、回路基板に対する固着力も極めて強いものである。また、ハンダが第2電極7の下方に吸い付けられるので、電極間距離を短くすることができ、チップ抵抗器の端子電極の小型化及び回路基板の高密度実装を可能にするものである。」旨の明細書記載の作用効果が得られることは明らかであり、これに反する特許異議申立人の主張は採用できない。

5.容易性について
(1)甲各号証記載の発明
甲第1号証として提出された、特開昭57-184202号公報には、チップ抵抗器が第1乃至4図とともに開示されている。そしてその2頁左下欄2行〜18行には、「チツプ抵抗用基板5の表裏両面縁部分にAg/ρd系導電ペーストを印刷し、高温にて乾燥,焼成して抵抗体用電極6を焼付けてある。そして、正の温度係数をもつ抵抗体となる抵抗ペーストを基板5の片面Aに印刷,乾燥し、他の片面Bに負の温度係数をもつ抵抗体となる抵抗ペーストを印刷,乾燥して焼成し、正の温度係数をもつ抵抗体10と負の温度係数をもつ抵抗体11を形成してある。そしてこれらの抵抗体10,11の表面にオーバコートガラス9を印刷し、乾燥し、焼成してある。
前記の如く、基板の表裏両面に形成した温度係数の異なる2つの抵抗体10,11は、その基板5の両側面に硬化形成した導電性の樹脂4,4′により電気的に接続してある。すなわち、基板5の表裏両面に形成した抵抗体10,11は導電性樹脂4,4′によつて接続され、1つの合成抵抗体としてある。」と記載されている。
甲第2号証として提出された、実願昭56-4597号(実開昭57-119501号)のマイクロフィルムには、チップ抵抗が第1乃至4図とともに開示されている。そしてその実用新案登録請求の範囲の(1)には、「(1)基板上に印刷抵抗体を設け、かつこの基板の抵抗体配置面側に上記基板とほぼ同じ大きさの保護板を固定して、基板と保護板とで抵抗体を挾んだ積層構造になし、この積層構造体の両端に上記抵抗体のリ-ド電極を形成したチップ抵抗。」と記載され、明細書2頁5行〜3頁9行には、「まず従来のチップ抵抗の構造は第1図,第2図に示すように、・・・(中略)・・・そして、その組立てはまずアルミナ基板1上に、バインダーとしてガラスフリットを使用した銀パラジウム系導電ペーストで内部電極2a〜2dを印刷形成し約800℃の温度で焼成する。次に、抵抗体材料のメタルグレーズペーストをスクリーン印刷で塗布し約800℃の温度で焼成して抵抗体3を形成する。その上にガラスを塗布し、保護膜4を焼成する。最後に、基板1の端面に銀パラジウムを塗布焼成して電極4aを形成し、内部電極2a〜2dと端面電極4a,4b上に順次ニッケルメッキ,ハンダメッキをしてリード電極を形成する。」と記載されている。
甲第3号証として提出された、実願昭48-134667号(実開昭50-79945号)のマイクロフィルムには、磁器積層コンデンサが第1乃至3図とともに開示されている。そして明細書2頁4行〜16行には、「3はこのコンデンサ素体1の両側端部に付与されてなる第1電極、4はこの第1電極3の上に重畳して付与されてなる第2電極であり、この第1および第2電極3、4により外部電極5が構成されている。この場合前記第1電極3としては、耐マイグレイシヨン、耐熱性および磁器積層コンデンサ素体1との密着強度を上げるべく、銀中にパラジウム、ガラスフリツトを適量含有させてなるものを用い、また第2電極4としては、半田付性を考慮した銀のみよりなるものを用いる。そしてまたこの場合、重畳された第2電極4は、その端部が、第1電極3の端部からはみ出ることのないように付与されている。」と記載されている。
甲第4号証として提出された、特開昭53-10855号公報には、チップ型半導体磁器コンデンサの製造方法が第1乃至5図とともに開示されている。そしてその2頁右上欄5行〜13行には、「分割された1つの素体3を第5図に示すように溝6,7と平行な一対の両側面に電極として銀ペースト10,11を塗付し約800℃で約15分間焼成する。この電極10は電極4の面積の小さい部分と電極5の面積の大きい部分とに接し、全体として略コ字状の電極を形成し、電極11は電極4の面積の大きい部分と電極5の面積の小さい部分とに接し、全体として略コ字状の電極を形成する。」と記載されている。

(2)対比・判断
本件発明と甲第1乃至4号証記載の発明とを対比すると、甲第1乃至4号証には、本件発明の必須の構成要件である、「一対の第2電極との間に段差を形成するように基板の一対の側端部に形成された導電性塗料からなる一対の第3電極」を有するチップ抵抗器において、「一対の第1電極の露出部、前記一対の第2電極の露出部及び前記一対の第3電極の外面を覆うメッキ層」(第2電極の厚み方向端面を含む露出部を覆うメッキ層)を設ける点について記載も示唆もされていない。
そして本件発明では、上記の点の構成を採用することにより、「また、ハンダ付けの際に回路基板との間で、第2電極7が独立のランドとして機能し、ハンダ付け時には、第2電極7と回路基板との間にハンダが表面張力より侵入し、ハンダ付け領域が制限され、絶縁効果が高いとともに、回路基板に対する固着力も極めて強いものである。また、ハンダが第2電極7の下方に吸い付けられるので、電極間距離を短くすることができ、チップ抵抗器の端子電極の小型化及び回路基板の高密度実装を可能にするものである。さらには、この第2電極7間の回路基板表面に、回路パターンを通すことも可能であり、ハンダの不要な広がりが防止されることによる実装密度の向上効果は極めて大きい。」という明細書記載(段落0013参照)の作用効果を奏するものである。
よって、本件発明が甲第1号証又は甲第1乃至第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-01-30 
出願番号 特願平11-110663
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01C)
P 1 651・ 531- Y (H01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 義男平塚 義三  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 松本 邦夫
浅野 清
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3353037号(P3353037)
権利者 北陸電気工業株式会社
発明の名称 チップ抵抗器  
代理人 西浦 ▲嗣▼晴  

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