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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580227 審決 特許
無効200480150 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A23K
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A23K
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A23K
管理番号 1092062
審判番号 無効2002-35015  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-10-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-01-21 
確定日 2003-09-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2640533号発明「多孔性養魚飼料及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2640533号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第2640533号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成1年3月29日に特許出願(優先権主張昭和63年12月27日)され、平成9年5月2日に特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、平成12年9月18日に訂正請求がなされ、さらに、本件無効審判が請求され、平成14年11月28日付けで無効理由を通知したところ平成15年2月3日に訂正請求がなされ、この訂正請求について平成15年4月30日に請求人から回答書が提出され、平成15年6月20日に被請求人から上申書が提出されたものである。

2.請求人の主張
請求人は、下記の証拠方法を提示し、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、次の理由により特許法第123条第1項第1号及び第3号の規定に該当するから、無効とすべきものである旨主張する。
(1)本件請求項1及び2に係る発明は、下記の甲第1〜8号証及び下記の甲第15〜17号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)本件特許明細書は、次の(A)及び(B)の点で明細書の記載が不備であるから、本件請求項1及び2に係る発明の特許は特許法第36条第3項及び第4項(平成5年法)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(A)本件明細書には、本件発明の養魚飼料の嵩比重の測定法について記載がなく、しかも、異議12-70618号における平成12年9月18日付け特許異議意見書(甲第21号証)で被請求人が提示した嵩比重の測定法は、当該技術分野における慣用手段でもないから、本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載では、本件請求項1に記載された嵩比重がどのようなものであるかを当業者が明確に理解ないしは把握することはできず、また、本件特許請求の範囲の記載は不明瞭であることは明らかである。
(B)本発明における養魚飼料の硬度の測定法では、同じ硬度の成型品であっても、成型品の円形断面の面積が異なれば、算出される硬度は大きく異なることになることは明らかであり、本件請求項1に記載された硬度については、全く客観性がなく、本件特許請求の範囲の硬度についての記載が不明瞭であることは明白である。

甲第1号証:「エクストルージョン クッキング」(株式会社光琳 昭和62年11月10日発行)第319頁〜331頁
甲第2号証:「最新造粒技術の実際」(神奈川県経営開発センター出版部 昭和59年6月20日発行)第338頁〜339頁
甲第3号証:PREPARATION OF FISH AND SHRIMP FEEDS BY EXTRUSION」1988年10月2〜7日、シンガポールで開催されたThe World Congress on Vegetable Protein Utilization in Human Foods and Animal Feedstuffsで発表、第1頁〜31頁
甲第4号証:「Revue de l'Alimentation Animale-Decembre 1987」第12頁〜15頁
甲第5号証:「INFOFISH MARKETING DIGEST NO4/86」第43〜44頁
甲第6号証:クレクストラル社のパンフレット
甲第7号証:発注書
甲第8号証:荻野珍吉編「魚類の栄養と飼料」(株式会社 恒星社厚生閣 昭和55年11月15日発行)第166頁〜177頁
甲第9号証:坂本飼料株式会社 坂本浩志による実験報告書(平成12年6月5日付け)
甲第10号証:宮崎大学農学部 村田寿による試験報告書(平成13年12月12日)
甲第11号証:高知大学農学部栽培漁業学科教授 細川秀毅による実験報告書(平成13年12月17日)
甲第12号証:株式会社 京都動物検査センターによる試験報告書(平成13年12月17日)
甲第12号証の1:財団法人 日本穀物検定協会九州支部分析センターによる分析試験成績書
甲第12号証の2:財団法人日本食品分析センターによる分析試験成績書
甲第13号証:日本農産工業株式会社浜松水産研究所による追試実験報告書
甲第14号証:日本配合飼料株式会社中央研究所海洋開発センターによる報告書「製造方法の異なるEPにおけるブリ2歳魚の摂餌性の検討」
甲第15号証:日本粉体工業協会編「造粒便覧」(株式会社オーム社 昭和50年5月30日発行)第540頁〜546頁
甲第16号証:特開昭61-202662号公報
甲第17号証:「養殖」第29巻第7号1992年(平成4年7月1日発行)第73頁〜79頁
甲第18号証:「標準計測方法」(食糧庁、昭和56年3月)第54〜59頁
甲第19号証:日本粉体工業協会編「造粒便覧」(株式会社オーム社)第524頁
甲第20号証:平成10年異議第70618号における平成12年6月27日付け取消理由通知書
甲第21号証:平成10年異議第70618号における平成12年9月18日付け特許異議意見書
甲第22号証:「造粒ハンドブック」第606〜607頁
甲第23号証:「コンクリートの圧縮強度試験方法」
甲第24号証:「日本水産学会誌」第63巻第4号(平成9年7月)第518頁〜521頁
甲第25号証:日本配合飼料株式会社中央研究所品質管理グループによる実験報告書「測定容器の違いによる嵩比重測定値の変化について」
甲第26号証:「養鯉用“うきえ”」日本配合用飼料株式会社のパンフレット
甲第27号証:「指定調査研究総合助成事業「新飼料開発研究」昭和44年度〜46年度とりまとめ」(水産庁研究第二課)第47頁〜52頁
甲第28号証:竹内昌昭の意見書
甲第29号証:「飼料添加物の評価基準の制定について」(水産庁長官通達)957頁〜957ノ11頁
甲第30号証:宮崎大学農学部 村田寿の意見書(平成14年7月7日)
甲第31号証:高知大学教授 細川秀毅の意見書(平成14年7月19日)
甲第32号証:林恒美編著「粉体技術ポケットブック」((株)工業調査会 1996年11月20日発行)120頁〜123頁
甲第33号証:高山幸英の意見書
甲第34号証:JIS「造粒物-強度試験方法 JIS Z 8841」(日本工業標準調査会審議、平成5年2月19日官報公示)
甲第35号証:本荘鉄夫・原武史著「養殖講座第8巻 ヤマメ・アマゴ」(5版)(株式会社 緑書房 昭和63年1月20日発行)102頁
甲第36号証:明邦印刷株式会社 代表取締役社長 服部星之助作成の証明書
甲第37号証:「日配六十年の歩み-昭和の時代と共に」(日本配合飼料株式会社 平成3年6月発行)193頁
甲第38号証:武田澄男(現在、株式会社タテノコーポレーション福島県営業所長)作成の証明書
甲第39号証: クレクストラル社のスクレッチング社に宛てた書簡
甲第40号証: 配合飼料講座・上巻・設計編」第2版(チクサン出版社 昭和55年3月15日発行)598頁〜599頁

3.被請求人の反論
被請求人は、下記の証拠方法を提出し、次のように反論する。
(1)本件特許発明は、当業者の常識を覆す画期的なものであり、当業者にとって容易であるとの本件審判請求人の論理は、本件請求項1に係る発明の内容を知った後に、関連する文献を調査により選び出して組み合せた後知恵に基づくものであり、又、本件審判請求人は、甲第10号証〜甲第14号証を提出して、本件請求項1に係る発明の効果が通常のものであって予期せぬものではないと主張しているが、甲第10号証〜甲第14号証に示された実験結果そのものが本件発明1の予期できない効果を示すものであるから、本件審判請求人の主張は合理的根拠が無く、本件請求項1に係る発明は甲第1号証〜甲第8号証、甲第15号証〜甲第17号証の開示を超えた進歩性を有するものである。
(2)養魚飼料の嵩比重の測定法について
日本で通常行われている嵩比重の測定方法は、本件審判請求人が提出した甲第18号証に記載のへクトリットルキログラム法に示されるように、所定の容器に衝動を与えないようにして試料を充填し、容器から盛り上がった部分をかき落とすことを基本とするものである。
そして、本件特許権者が、特許異議の審理において提出した意見書(甲第21号証)において説明した1合枡を用いる嵩比重の測定方法は、このような通常行われている嵩比重の測定方法を現場で測定するために簡易の方法として採用されたものであって、ヘクトリットルキログラム法に沿うものである。
又、1合枡を用いる嵩比重の測定方法は、甲第25号証(日本配合飼料株式会社が行った測定結果を示している)に示されているように、10mm径のペレット(本件特許発明の実施例で用いている)の嵩比重の測定値は、1合枡を用いた場合が0.67であり、644.1ml円柱を用いた場合の0.69と極めて近い値となっており、1合枡と644.1ml円柱を用いた場合との間に実質的な差異がない。尚、ペレットの径が大きくなれば、ヘクトリットルキログラム法に記載のように、1リットルの容器を用いて測定するべきである。
さらにいえば、本件特許権者が特許異議の審理において提出した意見書(甲第21号証)において説明した1合枡を用いる嵩比重の測定方法は、明細書の記載が特許法第36条第3項及び第4項の規定の違反となる事態をもたらすものではない。(答弁書19頁17行〜20頁7行)
(3)養魚飼料の硬度の測定法について
木屋式硬度計を用いる硬度測定法は、円柱状ペレットを立ててその円形断面に木屋式硬度計のプランジャーを当て荷重をかけるのではなくて、ペレットを横置きし、円柱状ペレットの柱状側面に木屋式硬度計のプランジャーを当て直径方向に荷重をかけてペレットが押しつぶされる力を測定するものである。そして、このことは、本件審判請求人が提出した甲第22号証の造粒ハンドブックに「ペレットを横置きして直径方向に押しつぶす力(kg)を求める」との記載、及び乙第4号証として提出する配合飼料講座下巻製造編の第163頁の7-3-3 硬度の測定法の項の「ペレットの硬度は、ペレット直径方向に押しつぶすのに必要な力(kg)で示され、・・・ペレットの径と長さにより硬度が異なるので、正確には単位面積当たりに直して破壊圧(kg/cm2)として求めるべきである」との記載から明らかである。
従って、本件明細書に記載されているように、円柱状のペレットを寝かせ、ペレットを直径方向に押しつぶすのに必要な力(kg)を求め、得られた力(kg)をペレットの円形断面積で割って硬度を求めるのである。
実際、本件特許発明の養魚飼料ペレットは、2軸エクストルーダーの円形の孔を有するダイから細長い棒状物として空気中に押し出され、そこで高速カッターにより所望の長さに切断されて円柱状のペレットとなるものであるが、ダイから押し出された際の膨張及び高速カッターにより正確な円形断面となり難い点から、円柱状のペレットを真っ直ぐ立てて測定することは通常ペレットの安定性が悪く、又、円形断面の直径はプランジャーの平面直径よりも大きいことからみても、本件審判請求人が主張するような測定方法とそれに基づく主張は正当なものとは到底思えない。(答弁書20頁20行〜21頁12行)

乙第1号証:平成元年日本水産学会春季大会の講演要旨集
乙第2号証:坂本飼料株式会社常務取締役 坂本浩志の陳述書(平成14年4月23日付け)
乙第3号証:能勢健嗣の意見書(平成14年4月18日付け)
乙第4号証:「配合飼料講座下巻 製造編(第二版)」(チクサン出版社 昭和56年3月20日発行)目次9頁、第163頁
乙第5号証:「養殖 10」(2000年10月)110頁〜113頁
乙第6号証:能勢健嗣氏の意見書(平成14年10月15日付け)
乙第7号証:鹿児島大学水産学部教授 越塩俊介の意見書(平成14年10月17日付け)
乙第8号証:東京水産大学大学水産学部資源育成学科教授 佐藤秀一の意見書(平成14年10月22日付け)
乙第9号証:新水産学全集14「魚類の栄養と飼料」(株式会社 恒星社厚生閣 昭和55年11月15日発行)第12頁〜第15頁
乙第10号証:水産学シリーズ「養魚飼料-基礎と応用」(株式会社 恒星社厚生閣 1985年4月発行)目次及び第111頁〜第133頁
乙第11号証:「養殖」1992年7月号第68頁〜第72頁
乙第12号証:クレクストラル社のパンフレットの裏表紙
乙第13号証:クレクストラル社から購入した2軸エクストルーダーの仕様書の一部(1987年10月21日付け)
乙第14号証:クレクストラル社から購入した2軸エクストルーダーの機械部品の仕様書の一部(1993年4月5日付け)
乙第15号証: ビューラー株式会社のエクストルージヨンシステム部・飼料機械部部長 小山信之氏の平成15年6月12日付けの「多孔性養魚飼料製造に使用する2軸エクストルーダーのダイのL/D値について」と題する意見書
乙第16号証:平成10(行ケ)298号(平成14年2月19日付けの東京高裁判決)
乙第17号証:平成11年(行ケ)第246号(平成13年5月23日付けの東京高裁判決)
乙第18号証:特開平9-313114号公報

4.訂正請求について
4-1.訂正の内容
特許権者は、平成12年9月18日付けの訂正請求書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という)を平成15年4月30日付けの訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正すること、具体的な訂正の内容は次のとおりである(下線部分が訂正個所である)。
(1)訂正事項a
特許明細書1頁4行(特許請求の範囲の請求項1)に記載された「2軸エクストルーダーで加熱混練」を、「粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書1頁6行(特許請求の範囲の請求項1)に記載された「粗脂肪含有量が13〜35重量%であり」を、「粗脂肪含有量が20〜30重量%であり」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書1頁7行(特許請求の範囲の請求項1)に記載された「嵩比重が0.35〜0.65」を、「嵩比重が0.52〜0.65」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書1頁9行及び13行(特許請求の範囲の請求項1及び2)に記載された「多孔性養魚飼料」を、「ブリ用多孔性養魚飼料」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許明細書1頁10行(特許請求の範囲の請求項2)に記載された「養魚飼料原料に」を、「粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に」と訂正する。
(6)訂正事項f
特許明細書1頁10行(特許請求の範囲の請求項2)に記載された「油脂添加後」を、「油脂1〜6重量%添加後」と訂正する。
(7)訂正事項g
特許明細書2頁3〜5行の「本発明は、ハマチ、ブリ、ヒラメ、シマアジ、マグロ、サケ、マス、ウナギなどの養殖魚、特にハマチの餌として好適に使用できる多孔性養魚飼料とその製造方法に関するものである。」を、「本発明は、ハマチやブリの餌として好適に使用できる多孔性養魚飼料とその製造方法に関するものである。」と訂正する。
(8)訂正事項h
特許明細書第3頁8行の「ハマチやブリなどの海水魚」を、「海水魚であるブリ」と訂正する。
(9)訂正事項i
特許明細書第3頁17〜21行の「本発明は、2軸エクストルーダーで加熱混練した後、水分含量12重量%以下に乾燥し、その後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が13〜35重量%であり、硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.35〜0.65で、かつ水分含量が10重量%以下であることを特徴とする多孔性養魚飼料を提供する。」を、「本発明は、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練した後、水分含量12重量%以下に乾燥し、その後、最終多孔性養魚飼の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が20〜30重量%であり、硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.52〜0.65で、かつ水分含量が10重量%以下であることを特徴とするブリ用多孔性養魚飼料を提供する。」と訂正する。
(10)訂正事項j
特許明細書第3頁22〜25行の「本発明は、又、養魚飼料原料に油脂を添加後、水を加えて2軸エクストルーダーで加熱混練し、次いで水分含量12重量%以下に乾燥した後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることを特徴とする上記多孔性養魚飼料の製造方法を提供する。」を、「本発明は、又、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂1〜6重量%添加後、水を加えて2軸エクストルーダーで加熱混練し、次いで水分含量12重量%以下に乾燥した後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることを特徴とする上記ブリ用多孔性養魚飼料の製造方法を提供する。」と訂正する。
(11)訂正事項k
特許明細書第3頁29行の「粗脂肪を13〜35重量%」を、「粗脂肪を20〜30重量%」と訂正する。
(12)訂正事項l
特許明細書第4頁2〜3行の「粗脂肪の量は、好ましくは18〜30%、より好ましくは、20〜30%、」を、「粗脂肪の量は、20〜30%、」と訂正する。
(13)訂正事項m
特許明細書第4頁8行の「粗脂肪13〜35%」を、「粗脂肪20〜30%」と訂正する。
(14)訂正事項n
特許明細書第4頁11〜12行の「嵩比重が0.35〜0.65の範囲にある」を、「嵩比重が0.52〜0.65の範囲にある」と訂正する。
(15)訂正事項o
特許明細書第4頁16行の「嵩比重が0.40〜0.65、好ましくは0.5〜0.65、より好ましくは0.55〜0.65」を、「嵩比重が0.52〜0.65、より好ましくは0.55〜0.65」と訂正する。
(16)訂正事項p
特許明細書4頁21〜22行の「粗脂肪分2〜9%、好ましくは3〜8%、」を、「粗脂肪分3〜8%、」と訂正する。
(17)訂正事項q
特許明細書5頁13行の「粗脂肪13%〜35%、」を、「粗脂肪20%〜30%、」と訂正する。
(18)訂正事項r
特許明細書5頁14行の「粗脂肪18〜30%、」を削除する。
(19)訂正事項s
特許明細書5頁24〜25行の「ハマチやブリなどはもとより他の多くの魚の養殖用飼料として幅広く使用できる。」を、「ブリの養殖用飼料として幅広く使用できる。」と訂正する。
(20)訂正事項t
特許明細書5頁26〜27行の「フロート飼料(嵩比重約0.35〜約0.52)や沈降性飼料(約0.52〜約0.65)」を、「沈降性飼料(嵩比重0.52〜0.65)」と訂正する。
(21)訂正事項u
特許明細書7頁21行〜8頁9行の実施例3を削除する。
4-2.訂正の適否
上記訂正事項aについて
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1において、「2軸エクストルーダーで加熱混練」する原料を、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合したものに限定しようとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、上記訂正事項aの「粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料」は、特許明細書第4頁21〜22行に、「粗脂肪分2〜9%、好ましくは3〜8%、」と記載されており、この原料に、「油脂を1〜6重量%の割合で混合」することは、明細書第4頁22〜23行に「水分含量5〜14%の原料に動物性油脂もしくは植物性油脂を1〜6%、好ましくは3〜5%の割合で混合し、」と記載されている。
上記訂正事項bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1において、「粗脂肪含有量が13〜35重量%であり」を、「粗脂肪含有量が20〜30重量%であり」と、粗脂肪含有量を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、粗脂肪含有量が20〜30重量%であることは、特許明細書第4頁2行〜3行に、「粗脂肪の量は、好ましくは18〜30%、より好ましくは、20〜30%、」と記載されている。
上記訂正事項cについて
訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項1において、「嵩比重が0.35〜0.65」を、「嵩比重が0.52〜0.65」と、嵩比重を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、嵩比重が0.52〜0.65であることは、特許明細書第5頁26〜27行に、「フロート飼料(嵩比重約0.35〜約0.52)や沈降性飼料(約0.52〜約0.65)」と記載されている。
上記訂正事項dについて
訂正事項dは、特許請求の範囲請求項1及び2において、「多孔性養魚飼料」を、ブリ用多孔性養魚飼料とその適用範囲を減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、多孔性養魚飼料を、ブリ用に用いることは、特許明細書第2頁3〜5行、第3頁8行及び実施例に記載されている。
上記訂正事項eについて
訂正事項eは、特許請求の範囲の請求項2において、「養魚飼料原料」を、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料と対象原料の範囲を減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料を用いることは、特許明細書第4頁21〜22行に、「粗脂肪分2〜9%、好ましくは3〜8%、」と記載されている。
上記訂正事項fについて
訂正事項fは、特許請求の範囲の請求項2において、「油脂添加」における油脂の量を1〜6重量%に限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、原料に「油脂1〜6重量%添加」することは、特許明細書第4頁22〜23行に、「水分含量5〜14%の原料に動物性油脂もしくは植物性油脂を1〜6%、好ましくは3〜5%の割合で混合し、」と記載されている。
さらに、上記訂正事項a〜fによる訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
上記訂正事項gないしuについて
訂正事項gないしuは、発明の詳細な説明の記載を、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項gないしuによる訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年法による改正前の特許法第134条第2項ただし書、特許法第134条第5項において準用する平成6年法による改正前の特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正請求を認める。

5.無効理由についての判断
5-1.特許法第36条違反について
(1)養魚飼料の「嵩比重」の測定法について
本件特許明細書には、本件請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明」という)における養魚飼料の「嵩比重」がどのような測定法によって測定されたか記載されておらず、しかも、嵩比重の測定法には、例えば、ブラウェル穀粒計によるもの、ヘクトリットルキログラム法によるもの、あるいは、アメリカ法によるもの等、複数の測定法が有る(甲第18号証、甲第19号証参照)から、本件特許明細書の記載では、本件明細書の養魚飼料の「嵩比重」がどのような測定法によって計測されたか一義的に定まるものではない。
ところで、嵩比重の測定法に関し、
被請求人は、「明細書記載の嵩密度は、多孔性養魚飼料を市販の1合枡(内径63mm×63mm×44mm)に流し入れ、充填した状態から、山もりになった部分に定規等をスライドさせながら取り除き内容物の質量測定をおこなった。同じ方法で3度測定を行い、その平均重量を1合枡の容積で割り、嵩密度を算出した。この方法は、当該技術分野での慣用方法である。」(特許異議意見書(甲21)12頁22〜26行)、
「日本で通常行われている嵩比重の測定方法は、・・・へクトリットルキログラム法に示されるように、所定の容器に衝動を与えないようにして試料を充填し、容器から盛り上がったが部分をかき落とすことを基本とするものである。
そして、本件特許権者が、・・・意見書(甲第21号証)において説明した1合枡を用いる嵩比重の測定方法は、このような通常行われている嵩比重の測定方法を現場で測定するために簡易の方法として採用されたものであって、ヘクトリットルキログラム法に沿うものである。」(審判事件答弁書19頁17〜24行)と主張し、
他方、請求人は、被請求人の上記特許異議意見書(甲21)の主張について、「上記意見書における嵩比重の測定法は、当該技術分野の慣用方法でもなければ、当業者においてもとうてい理解できるものではない。」(審判請求書29頁26〜28行)、
「意見書の測定法は、当業者にとって全く理解不能であり、権利者が独自に創作した測定方法にすぎない。」(審判請求書30頁28行〜31頁1行)と主張する。
上記両者の主張を考慮すると、本件発明における「養魚飼料の嵩比重」は、被請求人の上記特許異議意見書(甲21)によると、1合枡を用いて測定されているが、1合枡を用いて養魚飼料の嵩比重を測定する方法は当該技術分野において慣用的に用いられている嵩比重の測定法ということはできず、特許明細書の記載から本件発明における養魚飼料の嵩比重が1合枡を用いて測定されたと認めることはできない。
また、1合枡を用いる嵩比重の測定法とへクトリットルキログラム法とは、所定の容器に衝動を与えないようにして試料を充填し、容器から盛り上がった部分をかき落として嵩比重を求めるという点では共通するが、本件発明の実施例である直径10mmの円柱状ペレットの嵩比重は、1合枡を用いる方法によって測定すると、0.67であり、へクトリットルキログラム法によって測定すると、0.69であり、両測定法による測定値が一致しない(甲第25号証)。
そうすると、本件発明において、養魚飼料の嵩比重はどのような測定法によって測定されたか不明であり、また、本件発明における養魚飼料の嵩比重が1合枡を用いる方法によって測定されたとすると、特許明細書に記載された直径10mmの円柱状ペレットの嵩比重はヘクトリットルキログラム法による測定値と一致しない蓋然性が高いことになるので、本件明細書に記載されている嵩比重「0.52〜0.65」及び「0.55〜0.65」の範囲並びに嵩比重「0.52」の値は不明瞭である。
さらに、特許請求の範囲の記載は、権利範囲を確定するものであり、明確でなければならないにもかかわらず、本件特許特許請求の範囲に記載されている「嵩比重が0.52〜0.65」はその範囲が不明確である。
この点に関し、被請求人は、「本件特許発明は、これまでに存在しない嵩比重の養魚飼料を提供することを特徴とするものではなく、従来養魚飼料が有する嵩比重の範疇にはいる養魚飼料をこれまでに知られていない製造方法により製造される養魚飼料であって、・・・従来、当業界で慣用のへクトリットル法に沿う方法で測定することに何らの問題もないものであ」(平成14年11月2日付け上申書17頁7〜11行)ると主張するが、本件発明は、「硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.52〜0.65」を発明の構成に欠くことができない事項としており、本件発明は、2軸エクストルーダーを用いた製造方法により製造されたことのみに特徴があるのではないから、被請求人の主張は採用できない。

(2)養魚飼料の「硬度」の測定法について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1において、「粗脂肪約25%の多孔性高脂質養魚飼料(直径10mm、長さ12mmの円柱状ペレット、硬度2.3、嵩比重0.52)を得た。尚、硬度は木屋式硬度計を用い、加圧面の直径が5mmφの円形の平面(プランジャー)で加圧、破砕した状態での数値kgを、ペレットの直径から面積を算出し1cm2当たりの破砕硬度とした(以下同じ)。」(平成年15月2日3付け訂正明細書6頁14〜18行、本件特許公報5欄45行〜6欄1行)と記載されている。
また、被請求人は、ペレットの硬度の測定法について「乙第4号証として提出する配合飼料講座下巻製造編の第163頁の7-3-3硬度の測定法の項の『ペレットの硬度は、ペレット直径方向に押しつぶすのに必要な力(kg)で示され、ペレットの径と長さにより硬度が異なるので、正確には単位面積当たりに直して破壊圧(kg/cm2)として求めるべきである』との記載から明らかである。
従って、本件明細書に記載されているように、円柱状のペレットを寝かせ、ペレットを直径方向に押しつぶすのに必要な力(kg)を求め、得られた力(kg)をペレットの円形断面積で割って硬度を求めるのである。」(審判答弁書20頁25行〜21頁1行)と主張する。
ところで、穀粒硬度測定器(木屋式)を用いたペレットの硬度の測定法に関し、乙第4号証には、
「7-3-3 硬度の測定法
一般に,ペレットの硬度は,ペレットを直径方向に押つぶすのに必要な力(kg)で示され,・・・この方法では,もちろん,ペレットの径と長さにより硬度が異なるので,正確には単位面積当りに直して破壊圧(kg/cm2)として求めるべきであるが,簡便のため1個当りの破壊力(kg)で表すのが普通である。」(163頁15〜22行)と記載されており、ペレットの硬度は、(i)ペレットを加圧面で直径方向に押しつぶすのに必要な力(kg)を求め、この値(平均値)で表すもの(破壊力(kg))と、(ii)ペレットを押しつぶすのに必要な破壊力(kg)を、単位面積当りに直して破壊圧(kg/cm2)として表すものとがあり、(i)で表す硬度は簡便であるが、ペレットの径と長さにより硬度が異なり、(ii)で表す硬度はペレットの径と長さが異なっても硬度が変わらないものであることがわかる。
そこで、本件発明における養魚飼料(ペレット)の「硬度」についてみると、本件発明の硬度は、前記(ii)の硬度(破壊圧(kg/cm2))であると考えられ、ペレットの径と長さが異なっても硬度が変わらないものであり、そして、その硬度は、ペレットを直径方向に押しつぶすのに必要な破壊力(上記(i)で表す硬度(kg))をペレットの断面積で除して求めるから、ペレットの径を変えると、前記破壊力がペレットの断面積に比例して変わらなければならない。
しかしながら、加圧面でペレットを直径方向に押しつぶすのに必要な破壊力(kg)は、ほぼ、ペレットの性状によって決まり(ペレットの直径を変えると、平面である加圧面と曲面であるペレットとの接触の仕方が変わるから、破壊力が変わる)、前記破壊力(kg)がペレットの断面積に比例するとは考えられない。
そうすると、ペレットを直径方向に押しつぶすのに必要な力(kg)を、ペレットの円形断面積で割って求めた、本件発明の硬度(kg/cm2)は、同じ原料等で同じ製法によって製造した同じ性状のペレットでも、ペレットの直径等を変えその断面積の大きさを変更すると、その硬度が変わることになるから、本件発明の硬度は、その測定値が不明瞭であるといえる。
なお、被請求人は、乙第4号証の「ペレットの硬度は、ペレット直径方向に押しつぶすのに必要な力(kg)で示され、ペレットの径と長さにより硬度が異なるので、正確には単位面積当たりに直して破壊圧(kg/cm2)として求めるべきである」の記載において、単位面積当たりを「ペレットの単位面積当たり」としているが、「プランジャーの加圧面の単位面積当たり」とすべきであると思料する。このことは、乙第4号証の執筆者である高山幸英の「まる1 ペレット飼料の硬度はペレットを直径方向に押しつぶすのに必要な力、即ち破壊力(kg)を測定して、飼料工場での品質管理に生かすのが簡便で実用的であり、当業界では常識であること、及びマル2 純粋に材料力学的な見地からすれば、ペレットの破壊に必要な力(=破壊力,kg)を加圧面積で除して、素材の性質のみによって決まり、ペレットの径や長さによって左右されない破壊圧(kg/cm2)として求めるのが理想であるが、ペレットの飼料は前記のごとく均一な素材ではなく、また、径と特に長さにバラツキが生ずるので、横置きして直径方向に力を加えて硬度を測定する場合には、加圧面積を正確に出すことが難しい。従って、力学理論通りに行うことは殆ど不可能であり実用的でないことを意図して執筆したつもりである。」(甲第33号証1頁28行〜2頁6行)との意見にも沿うものである。
また、被請求人は、「本件明細書の実施例1に記載の木屋式硬度計を用いる硬度測定法であって、『ペレットの直径から面積を算出しlcm2当たりの破砕硬度とした』として算出される硬度は、円柱状ペレットを横置きにして直径方向に押しつぶすことによって得られる値である点に疑義が無く、当業者であれば本件明細書の記載に基づいて養魚飼料の硬度を測定できるものである。」(平成14年11月2日付け上申書18頁21〜25行)と主張するが、本件特許明細書の硬度の測定法は、円柱状ペレットを横置きにして直径方向に押しつぶすことによって得られる破壊力(kg)を用いている点では乙第4号証のものと共通しているが、その測定した硬度(kg/cm2)の値は乙第4号証で定義している硬度(kg/cm2)の値とは相違する蓋然性が高いものであり、特許請求の範囲に記載された「硬度が0.5〜4.0kg/cm2」は(実施例1の硬度2.3と実施例2の硬度2.0は、乙第4号証で定義している硬度(kg/cm2)に換算できる可能性があるが、前記実施例以外の特許請求の範囲に記載された「硬度が0.5〜4.0kg/cm2」は換算できない)その範囲が明確でない。
(3)以上のとおり、本件特許明細書に記載された、多孔性養魚飼料の「嵩比重」は、その測定法が不明であって、しかも、その測定値が不明瞭であり、また、多孔性養魚飼料の「硬度」の測定法は、合理的とは認められず、その測定値が不明瞭であり、さらに、本件請求項1に記載された「嵩比重が0.52〜0.65」及び「硬度が0.5〜4.0kg/cm2」は、その範囲が明確でない。
したがって、本件明細書の記載は特許法第36条第3項及び第4項(昭和63年法)に規定する要件を満たしていない。

5-2.特許法第29条第2項違反について
5-2-1.本件発明
上記4.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」、「本件発明2」という)は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりの、
「【請求項1】 粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練した後、水分含量12重量%以下に乾燥し、その後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が20〜30重量%であり、硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.52〜0.65で、かつ水分含量が10重量%以下であることを特徴とするブリ用多孔性養魚飼料。
【請求項2】 粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%添加後、水を加えて2軸エクストルーダーで加熱混練し、次いで水分含量12重量%以下に乾燥した後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることを特徴とする請求項1記載のブリ用多孔性養魚飼料の製造方法。」であると認める。
5-2-2.引用例記載の発明
(1)無効理由で引用した「エクストルージョン・クッキング」(株式会社光琳 昭和62年11月10日発行)319頁〜331頁(以下、「引用例1」という、甲第1号証)には、
(1-a)「2-3 高含油飼料製造の検討
一般の飼料製造工程では高油分の原料は固着,ブリッジが起こり搬送が困難である。また成型直前に油分を添加すると均一に混合するのが難しい。また,ペレッターにおいては,油分を10%以上添加すると非常に脆いペレットができる欠点がある。2軸エクストルーダーの場合は,それ自身で十分に混合が行えるので,広範囲の油分を含有した飼料を作ることができると思われる。」(323頁20〜25行)、
(1-b)「試験にはニジマス用配合原末を用い,加水率を30%とし,大豆白絞油添加量を0%,10%,20%とした(表2-9)。・・・成型後に乾燥処理したサンプルの分析値を表2-10に示す。」(323頁25行〜324頁4行)、
(1-c)「表2-11は濁度試験の結果である。油添加区の方が,無添加区に比べ濁りにくいという結果になった。
次に、これらの試作飼料を用いてニジマスによる飼育試験を行った(表2-12)。供試魚は平均体重52.2gのニジマス、各区200尾を20日間飼育した。
飼料効率は1区が飼料効率70%,2区が飼料効率83%,3区が飼料効率94%であり,油添加による向上が認められた。しかし,ニジマス稚魚(平均体重0.45g)を用いた同様の試験では,必ずしも高含有区が良好とはならない。」(325頁2〜8行)と記載されている。
(1-d)「表2-10 分析値(乾物%)」には、成型後に乾燥処理したサンプルの分析値が、1区では水分8.9%,粗脂肪(CF)6.8%、2区では水分8.0%,粗脂肪16.2%、3区では水分7.1%,粗脂肪25%であったことが示されている。
上記記載において、ニジマス用配合原末が、粗脂肪分を含有していることは明らかであり、また、飼料は、2軸エクストルーダーで形成しているから、多孔質に形成されていると認められる。
そうすると、引用例1には、
粗脂肪分を含有しているニジマス用配合原末に大豆白絞油を10%の割合で混合するとともに水を加え、2軸エクストルーダーで加熱混練した後、水分含量が8.0重量%に乾燥し、粗脂肪含有量が16.2重量%であるニジマス用多孔性養魚飼料(以下、「引用例1の発明」という)が記載されていると認められる。
(2)無効理由で引用した「養鯉用“うきえ”」日本配合用飼料株式会社のパンフレット(以下、「引用例2」という、甲第26号証)には、
「5.給餌直前に、養魚用油脂を5〜10%添加すると、飼料効率が良くなります。」と記載されている。なお、日本配合用飼料株式会社のパンフレットである引用例2は、甲第36〜38号証から本件出願前に頒布されていると認められる。
(3)無効理由で引用した「INFOFISH MARKETING DIGEST NO4/86」第43頁〜44頁(以下、「引用例3」という、甲第5号証)には、
「飼料の製造
・・・組成分中に油脂が存在すると膨化が減退する傾向がある。どのように油を添加するかは、製品が浮遊性か沈降性かによって決められる。エクストルーダ処理の前に油を添加するか、エクストルーダーに直接注入した場合、密度が高く、得られた製品は沈降する。製品の表面に油脂を付与したときには、膨化に影響せず、製品は重くなると共に、内部はポーラスのままである。組成分に油脂を追加し且つ浮遊性としたいときには、エクストルーダー処理の前よりも、エクストルーダー処理の後で油を添加した方が好ましい。」(翻訳文9〜16行)と記載されている。
(4)無効理由で引用した「ヤマメ・アマゴ」(本荘鉄夫・原武史著 緑書房 昭和48年発行)(以下、「引用例4」という、甲第35号証)には、
「4 油脂類
良質の油脂は飼料効率を高め、・・・酸化脂肪の害作用については前に述べたが、抗酸化剤が添加されているとはいえ、保存には充分注意し、給餌直前に飼料添加することが必要である。・・・マス類では飼料の嗜好性を増すので、良質のものを添加すべきである。」(102頁下段6〜17行)と記載されている。
(5)無効理由で引用した「クレクストラル社パンフレット」(以下、「引用例5」という、甲第6号証、)には、
(5-a)「トータルの脂肪含有量は、脂肪コーティングの後30%までにすることができる」(2頁左欄10行)と記載されている。
(5-b)エクストルーダー装置及びその後の工程に使用する装置を示す図面には、エクストルーダー装置に水及び脂肪を導入することを示す記載があり、その後の工程に使用する装置として、ドライヤー、サイクロン、コーティングドラムが示されている。なお、引用例5は、甲第7号証及び甲第39号証により本件出願前に頒布されていると推定できる。
(6)無効理由で引用した特開昭61-202662号公報(以下、「引用例6」という、甲第16号証)には、
(6-a)「直径約3〜10mmの球状又は直径約3〜10mm高さ約3〜15mmの円筒状の硬度約2〜5kg/cm2を有する浮上性養魚用飼料。」(特許請求の範囲)
(6-b)「本発明の飼料は、直径約3〜10mmの球状又は直径約3〜10mm高さ3〜15mmの円筒状であつて硬度は約2〜5kg/cm2である。飼料の大きさ及び硬度がこれら範囲から外れると、魚に与えた場合魚の摂餌性及び飼料の保形性及び浮上性が劣ることになる。特に硬度が低いと保形成が悪く、逆に高いと摂餌性が劣る。
本発明の飼料の製造に当つては、・・・通常の方法例えばエキストルーダーによる押出しなどにより行うことが出来る。」(2頁左上欄5〜14行)、
と記載されている。
(7)無効理由で引用した「PREPARATION OF FISH AND SHRIMP FEEDS BY EXTRUSION」(1988年10月2〜7日、シンガポールで開催されたThe World Congress on Vegetable Protein Utilization in Human Foods and Animal Feedstuffs で発表)第1頁〜31頁(以下、「引用例7」という、甲第3号証)には、
(7-a)「高脂肪原料が使用できることも2軸押し出し調理機の利点である。2軸押し出し調理機は脂肪25%までの原料を扱うことができる。」(翻訳文11頁9〜10行)、
(7-b)「沈下飼料
これらの飼料は通常、密度がリットル当たり400から600グラムである。製品の直径は1.5から4mmであり、主に小エビに使用される。」(翻訳文13頁10〜11行)、
(7-c)「乾燥/冷却後のプロセス
このプロセスには、粉砕、サイジング、外部コーティング、およびパッケージングがある。・・・水生生物用飼料では、当社では通常2つのタンクおよび1つの塗布リールを用意する。1つのタンクはビタミンの水溶液用である。この水溶液は、塗布リールの入口の終端において製品にスプレーされる。もう1つのタンクは水性生物油または脂肪用である。これらの油または脂肪は、塗布リールの後ろ半分において製品にスプレーされる。油または脂肪をビタミンの上にコーティングすることにより、ビタミンが水に溶けるのを防ぐことができ、また動物のエネルギー源にもなります。」(翻訳文18頁28〜42行)、
(7-d)「密度管理
押し出し製品の密度を調整することにより、対象とする生物に合わせて浮く製品や、沈む製品を作ることができる。密度を調整するには、膨張率および押し出しの圧力を変化させる。」(翻訳文25頁11〜14行)、
と記載されている。
(8)無効理由で引用した「造粒便覧」(株式会社オーム社、昭和50年5月30日発行)第540頁〜546頁(以下、「引用例8」という、甲第15号証)には、「5・2・1 エキスパンデッドフィードの利用」における「〔2〕養魚飼料に対する利用」に関し、
「特にマスなどの水の上に浮く飼料を好んで食べるものに適している.底魚の場合は必ずしも飼料が浮く必要はないが,すぐなれてしまい,まだ水中で安定なので,沈んだ場合も摂餌可能である.かさ比重はマスの場合20〜30lb/ft3が必要であるが,底魚の場合は27〜35lb/ft3でよい.」(540頁右欄下から1行〜541頁左欄6行)と記載されている。
(9)無効理由で引用した「指定調査研究総合助成事業「新飼料開発研究」昭和44年度〜昭和46年度とりまとめ」水産庁研究第二課 第47頁〜52頁(以下、「引用例9」という、甲第27号証)には、
「外割でスケソウ肝油を7%添加した」(48頁)と記載されている。

5-2-3.対比・判断
本件発明と引用例記載の発明において用いられている嵩比重等の値の意味に差異がないものとして以下対比・判断する。
(1)本件発明1について
本件発明1と引用例1の発明との対比すると、引用例1の発明の「ニジマス用配合原末」が本件発明1の「養魚飼料原料」に対応するから、両者は、
粗脂肪分を含有する養魚飼料原料に油脂を混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練した後、水分含量12重量%以下に乾燥してある多孔性養魚飼料で一致しているが、次の点で構成が相違する。
相違点(A)
本件発明1では、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練した後乾燥し、その後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が20〜30重量%であるのに対し、引用例1の発明では、養魚飼料原料(ニジマス用配合原末)に粗脂肪10%の割合で混合しているが、養魚飼料原料が含有している粗脂肪の含有量が不明であり、2軸エクストルーダーで加熱混練した後乾燥した後、油脂を含浸させていない点、
相違点(B)
本件発明1では、養魚飼料が、硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.52〜0.65であるのに対して、引用例1の発明では、これらが不明である点、
相違点(C)
多孔性養魚飼料が、本件発明1では、ブリ用であるのに対して、引用例1の発明では、ニジマス用である点。
上記相違点について検討する。
相違点(A)について
引用例2には、給餌直前に、養魚用油脂を5〜10%添加すると、飼料効率が良くなることが記載されており、引用例4には、油脂を給餌直前に飼料添加すること、良質の油脂は飼料効率を高めることが記載されており、さらに、引用例9には、外割でスケソウ肝油を7%添加することが記載されている。
なお、本件特許明細書にも、従来の技術として、「最近品質的に安定している配合飼料のみを使用した多孔性固型養魚飼料が市場に出現している。・・・特に、ハマチは、乾燥した硬い固型配合飼料を好まず、そのままでは摂餌しないので、これらの多孔性養魚飼料を用いる場合には、飼料に水または水と油をしみ込ませてスポンジ状にして給餌させる必要がある。」(本件特許公報2頁左欄11〜22行)と記載されている。
上記記載によると、給餌前に固形養魚飼料に油脂を添加させることが本件出願前に周知技術であるといえるから、引用例1記載の発明において、給餌前に、多孔性固型養魚飼料に油脂を添加させることは当業者が容易にできることである。
そこで、多孔性固型養魚飼料に添加させる油脂の量について検討する。
ここで、本件発明1は、「粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合し」ており、これによって、2軸エクストルーダーで加熱混練する飼料原料の粗脂肪含有量は約4〜13.2重量%((3+1)/101〜(8+6)/106)になるから、上記相違点(A)における本件発明1は、粗脂肪分を約4〜13.2重量%含有する飼料原料を2軸エクストルーダーで加熱混練して乾燥し、その後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が20〜30重量%であるといえる。
これに対し、引用例1の発明は、ニジマス用配合原末に大豆白絞油を10%の割合で混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練して乾燥したものが、粗脂肪含有量を16.2重量%含んでいる(上記「5-2-2.引用例記載の発明」の(1)参照)から、引用例1の発明は、粗脂肪分を10数パーセント含有する飼料原料を2軸エクストルーダーで加熱混練して乾燥している。
そして、引用例2には、給餌前に養魚用油脂を5〜10%添加することが記載され、引用例7には、2軸エクストルーダーで脂肪25%までの原料を扱うことができることが記載され、引用例5には、エクストルーダ処理の前に混合する油脂の量と処理後に含浸させる油脂の量とのトータルを30%までにすることができることが記載され(上記(5-a)参照)、さらに、引用例3には、多孔性養魚飼料の密度や沈降飼料にするか等を考慮して、エクストルーダ処理の前に添加する油脂の量と、エクストルーダ処理の後に添加する油脂の量を決めることが開示されている。
そうすると、引用例1記載の発明において、2軸エクストルーダーで加熱混練する飼料原料の粗脂肪の量を約4〜13.2重量%とし、2軸エクストルーダーで加熱混練した後に含浸させる粗脂肪の量を本件発明のようにすることは当業者なら容易に想到できることである。
相違点(B)について
引用例6には、エクストルーダーによる押出しによって製造した浮上性養魚用飼料が、直径約3〜10mmの球状又は直径3〜10mm高さ約3〜15mmの円筒状であつて硬度が約2〜5kg/cm2であり、硬度がこの範囲から外れると、魚の摂餌性及び飼料の保形性が劣ることが記載されている。
また、引用例7には、沈下飼料では、通常、密度がリットル当たり400から600グラム(嵩比重が0.4〜0.6)であり(上記(7-b)参照)、また、2軸押し出し調理器における膨張率および押し出しの圧力を変化させることにより、押出し製品の密度を調整し、対象とする生物に合わせて浮く製品や、沈む製品をで作ることができる(上記(7-d)参照)ことが記載されており、引用例8には、底魚の場合には嵩比重が0.43〜0.56(27〜35lb/ft3)であることが記載されている。
そうすると、対象魚(後記相違点(C)参照)に適した飼料とするべく沈下飼料とし、飼料の保形成、摂餌性等を考慮し、引用例1の発明の飼料に、養魚用油脂を添加した飼料の硬度を0.5〜4.0kg/cm2とし、嵩比重を0.52〜0.65とすることは、当業者が容易に想到できることである。
相違点(C)について
ブリ用の養魚飼料は周知であり、ブリ用とすることは当業者なら容易に想到できることである。

そして、本件発明1が奏する「本発明の多孔性高脂質養魚飼料は、栄養価が高く従来乾燥固型飼料を摂餌しないとされていたハマチにおいても活発に捕食され、従来の生餌主体飼育に優るとも劣らない成長を示した。従って、本発明の飼料は、ブリの養殖用飼料として幅広く使用できる。また、嵩比重を調整することにより、沈降性飼料(約0.52〜約0.65)とすることができる。」という効果は、引用例1ないし9に記載された発明から当業者が予測できる程度のことであって格別顕著なものではない。
なお、被請求人は、2軸エクストルーダーで加圧成型する前に、飼料原料に油脂を12%、あるいは、17%添加して2軸エクストルーダーで加圧成型した多孔性高脂質養魚飼料(以下、油脂を12%添加したものを「内添15%飼料」といい、油脂を17%添加したものを「内添20%飼料」という)と、2軸エクストルーダーで加圧成型した後に、油脂を12%、あるいは、17%添加した多孔性高脂質養魚飼料(以下、油脂を12%添加したものを「外添15%飼料」といい、油脂を17%添加したものを「外添20%飼料」という)との給餌テストを行い、本件発明である「外添15%飼料」及び「外添20%飼料」は、「内添15%飼料」及び「内添20%飼料」と比べ格別の効果があると主張する(甲第9号証、)。
しかしながら、甲第9号証において、内添15%飼料と内添20%飼料の日間摂餌率は、「0.76」、「0.88」と一般的な日間給餌率(甲第17号証参照)とかけ離れていて、しかも、請求人が行った実験(甲第10〜14号証)とでは、その結果が大きく相違しており、しかも、その実験期間は1週間と短いから、この甲第9号証のみによって、本件発明1が、当業者が予測できない効果を奏するとは認めがたい。
したがって、本件発明1は、引用例1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2と引用例1の発明との対比すると、両者は、
粗脂肪分を含有する養魚飼料原料に油脂を添加後、水を加えて2軸エクストルーダーで加熱混練し、次いで水分含量12重量%以下に乾燥した多孔性養魚飼料の製造方法で一致しているが、次の点で構成が相違する。
相違点(D)
本件発明2では、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%添加後、水を加えて2軸エクストルーダーで加熱混練し、次いで乾燥した後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が20〜30重量%であるのに対し、引用例1の発明では、養魚飼料原料(ニジマス用配合原末)に粗脂肪10%の割合で混合しているが、養魚飼料原料が含有している粗脂肪の含有量が不明であり、2軸エクストルーダーで加熱混練した後乾燥した後、油脂を含浸させていない点、
相違点(B)
本件発明2では、養魚飼料が、硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.52〜0.65であるのに対して、引用例1の発明では、これらが不明である点、
相違点(C)
多孔性養魚飼料が、本件発明2では、ブリ用であるのに対して、引用例1の発明では、ニジマス用である点。
そして、上記相違点(D)、(B)及び(C)は、上記「(1)本件発明1について」の相違点(A)、(B)及び(C)に記載した理由により、当業者が容易に想到することができたものである。
したがって、本件発明2は、引用例1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5-3.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第1号及び第3号の規定に該当するから、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多孔性養魚飼料及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練した後、水分含量12重量%以下に乾燥し、その後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が20〜30重量%であり、硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.52〜0.65で、かつ水分含量が10重量%以下であることを特徴とするブリ用多孔性養魚飼料。
【請求項2】 粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂1〜6重量%添加後、水を加えて2軸エクストルーダーで加熱混練し、次いで水分含量12重量%以下に乾燥した後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることを特徴とする請求項1記載のブリ用多孔性養魚飼料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、ハマチやブリの餌として好適に使用できる多孔性養魚飼料とその製造方法に関するものである。
〔従来の技術〕
近年、わが国の栽培漁業はますます重要な地位を占めるようになっている。しかし、ハマチやタイに代表される魚の海面養殖では多獲魚であるイワシ、サバなどの生魚または冷凍魚をミンチ、切断、丸の形状で給餌するため、海水中への水溶性栄養分の溶出が多くまたは水中でのバラケが多く、魚の捕食率が低いという欠点がある。特にハマチやブリなどは、従来他の魚種で広く使用されている固型養魚飼料(ドライペレット)を摂餌しなかったため、長年にわたり上記生餌給餌形態がとられており、この分野での固型飼料の研究が進まず現在環境悪化、へい死の増大、経営悪化への悪循環が起こりやすくなっている。
従って、現在、ハマチ、タイなどの海水魚向養魚用餌用として魚粉、小麦粉、大豆油かす、グルテンミール、米ヌカなどを主原料として、これに各種ビタミン、ミネラル類さらにアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、グアガム等の粘結剤を配合して粉末状にした配合飼料と、生魚もしくは冷凍魚をミンチ状にしたものを混合して造粒したモイストペレットが普及しつつある。このモイストペレットは、水分を30〜40%以上含みやわらかいため嗜好性もよく、養魚は生餌にひってきする生長をしている。しかし、モイストペレットの製造設備に多額の設備投資を要すること、品質にバラツキが生じること及び給餌作業がふえる等数多くの問題がある。
こうした中で最近品質的に安定している配合飼料のみを使用した多孔性固型養魚飼料が市場に出現している。この多孔性飼料は、通常、養魚用配合飼料に用いられる魚粉、大豆油かす、コーングルテンミール、でんぷん質(でんぷん粉、小麦粉など)及び米ぬかなどを主原料とし、ビタミンやミネラル類を加えた後、エクストルーダー(加圧加熱押出機)で加圧、押し出して成型された飼料であり、ハマチ用のものも出現している。特に、ハマチは、乾燥した硬い固型配合飼料を好まず、そのままでは摂餌しないので、これらの多孔性養魚飼料を用いる場合には、飼料に水または水と油をしみ込ませてスポンジ状にして給餌させる必要がある。従って、水を用意したり作業面でも手間がかかるうえ、自動給餌がむずかしいという問題がある。また栄養面でも水溶性ビタミン類が水中へ流出する恐れもあり、さらに魚の成長も従来の生餌飼料を与えた場合に比べると劣るなど実用的でなくあまり普及していないのが現状である。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、乾燥した固型配合飼料を好まない海水魚であるブリが食べ、かつこれらの魚の成育を向上させることができる固型配合飼料を提供することを目的とする。
本発明は、また上記固型飼料の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、飼料中の粗脂肪含量を高め、かつ硬度が低くて嵩比重が特定の範囲にある多孔性形態の固型飼料を用いると上記課題を解決できるとの知見、及び該飼料を製造するにあたり、油脂を2回に分けて添加すると効率よく、かつすぐれた固型飼料を製造できるとの知見に基づいてなされたのである。
すなわち、本発明は、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂を1〜6重量%の割合で混合し、2軸エクストルーダーで加熱混練した後、水分含量12重量%以下に乾燥し、その後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることにより得られる粗脂肪含有量が20〜30重量%であり、硬度が0.5〜4.0kg/cm2で、嵩比重が0.52〜0.65で、かつ水分含量が10重量%以下であることを特徴とするブリ用多孔性養魚飼料を提供する。
本発明は、又、粗脂肪分を3〜8重量%含有する養魚飼料原料に油脂1〜6重量%添加後、水を加えて2軸エクストルーダーで加熱混練し、次いで水分含量12重量%以下に乾燥した後、最終多孔性養魚飼料の約6〜約25重量%に相当する量の油脂を含浸させることを特徴とする上記ブリ用多孔性養魚飼料の製造方法を提供する。
本発明の多孔性高脂質養魚飼料は従来の多孔性養魚飼料の原材料とほぼ同じものを用いることができ、魚粉、大豆油かす、コーングルテンミールなどのタンパク質、でんぷん質(でんぷん粉、小麦粉など)に、ビタミン、ミネラル類を含有するが、特に粗脂肪を20〜30重量%(以下%と略称する)と多量に含有することを特徴とする。つまり、このような量で粗脂肪を含有させると成長促進においてすぐれた効果が得られるからである。粗脂肪の量は、20〜30%、最も好ましくは23〜30%である。該粗脂肪は、魚粉などの原材料由来の脂肪分に加えて、動物性油脂や植物性油脂が含まれる。尚、油脂としては高度不飽和脂肪酸のω3系脂肪酸を含むものが好ましく、融点が-20〜50℃のものを用いるのが好ましい。
本発明の飼料成分は上記要件を満せば特に限定されないが、通常粗タンパク質35〜55%、粗脂肪20〜30%、炭水化物5〜30%、無機物、ビタミン等1〜5%を含み、水分含量が10%以下のものが好ましい。又、上記炭水化物はα化デンプンの形態で含ませるのがよい。
本発明の飼料は、上記特徴に加えて、硬度が0.5〜4.0kg/cm2と軟かく、嵩比重が0.52〜0.65の範囲にある多孔性形態にあることを特徴とする。すなわち、硬度を0.5〜4.0kg/cm2、好ましくは0.7〜3.0kg/cm2、より好ましくは1.0〜2.5kg/cm2とすることによって、魚に与える前に水につけて飼料を軟かくするという従来の固型飼料が有する問題を除くことができ、直接魚に与えることができるのである。また嵩比重が0.52〜0.65、より好ましくは0.55〜0.65の多孔性とすることによって、自動給餌システムを使用して効率的な給餌を達成できるからである。
上記硬度及び嵩比重は使用原料や製造条件の調整により所望の範囲とすることができる。
本発明の多孔性飼料は、上記タンパク質、炭水化物、ビタミン等を含有する粗脂肪分3〜8%、水分含量5〜14%の原料に動物性油脂もしくは植物性油脂を1〜6%、好ましくは3〜5%の割合で混合し、加水加圧熱(水蒸気でも可)の存在下において、でんぷん質をα化しつつ加熱加圧押し出しにより多孔性固体に成型した後乾燥する方法により製造するのが好ましい。ここで加水量としては10〜24%の水を加えるのがよい。このように原料配合時に油脂を加えると、加圧過程で原材料がスリップ状態を起こし加圧が不十分になる恐れが生じるので2軸エクストルーダーを用いて加圧押出するのがよい。
2軸エクストルーダーを用いると摩擦熱を押さえて80〜100℃といった中低温で加圧加熱及び混練が可能であり、原料の加熱や酸化による劣化を押えることができる。上記方法では、加圧加熱された原料を空気中に押出すことにより、実質的に減圧下で水分が蒸散し膨化し、その直後に水分含量を所定の数値となるまで乾燥すると所望の硬度の多孔体が製造できる。
上記2軸エクストルーダーを用いる方法では、配合原料をフィーダーに供給し、次に、クッカー部においてスチームまたは温水によって水分含量を20〜38%に上げ、スクリュープレス部で加圧、加熱、混練されてダイから空気中に放出される方法によるのがよい。
このようにして得られた多孔体を水分含量が12%以下、好ましくは5〜12%となるように乾燥した後、動物性油脂または植物性油脂およびその混合物を常温もしくは加温した状態でスプレーもしくは噴霧するなどの手段で後添加することでハマチ、ブリなどが活発に摂餌し、成長する高脂質養魚飼料が製造できる。油脂の後添加は約6%〜約25%で行い、養魚飼料の成分を粗脂肪20%〜30%、飼料の総エネルギー4500kcal/kg〜6100kcal/kg、好ましくは4900kcal/kg〜5900kcal/kgに調整するのがよい。本発明の飼料は多孔性なので、上記油脂を極めて効率的に吸収することができる。
本発明の多孔性飼料は、任意の形、大きさとすることができるが、ダイ等の形状を変更することにより、直径約0.5〜50mmの球状又は直径約0.5〜50mm長さ約0.5〜100mmの円筒状とすることができる。
〔発明の効果〕
本発明の多孔性高脂質養魚飼料は、栄養価が高く従来乾燥固型飼料を摂餌しないとされていたハマチにおいても活発に捕食され、従来の生餌主体飼育に優るとも劣らない成長を示した。
従って、本発明の飼料は、ブリの養殖用飼料として幅広く使用できる。
また、嵩比重を調整することにより、沈降性飼料(嵩比重0.52〜0.65)とすることができる。
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例〕
実施例1
下記の原料:
魚 粉 72%
大豆油かす 4%
小麦粉 13%
馬鈴しょ澱粉 6%
ビタミン・ミネラル 2%
魚 油 3%
(水分含量10%、粗脂肪含量11%)
を混合機で十分ミキシングした後、2軸エクストルーダー(クレクストラル社製)にて加水17%、加熱温度80℃〜100℃下で加圧成型した後、水分10%弱に乾燥した。
その後フィードオイル(魚油)を14%スプレーし、粗脂肪約25%の多孔性高脂質養魚飼料(直径10mm、長さ12mmの円柱状ペレット、硬度2.3、嵩比重0.52)を得た。尚、硬度は、木屋式硬度計を用い、加圧面の直径が5mmφの円形の平面(プランジャー)で加圧、破砕した状態での数値kgを、ペレットの直径から面積を算出し1cm2当たりの破砕硬度とした(以下同じ)。
この多孔性飼料を用いてハマチの養殖を60日間行った。一方、比較用に生餌と市販のハマチ用配合飼料を8:2の割合で混合して造粒したモイストペレットを用いて同様の試験を行った。結果を次に示す。

上記結果から明らかな様に本発明の飼料は、水を加えたりすることなしに使用でき、従来の生餌主体養殖よりも優れた結果を得た。また、本発明の飼料は食べ残しもなく、利用率はモイストペレットと同等もしくはそれ以上であった。
本発明の飼料をハマチ以外のヒラメに与えて養殖したところ、すぐれた成長率と高い利用率が得られた。
実施例2
下記の原料:
魚 粉 60%
イカミール 16%
小麦粉 6%
馬鈴しょ澱粉 8%
コーンスターチ 4%
ビタミン・ミネラル 2%
大豆油 4%
(水分含量10%、粗脂肪含量10%)
を用い、実施例1と同一の装置を用いて加水量を15%、加熱温度80〜95℃で加圧成形し、水分含量8%に乾燥した。
その後、油脂(融点0℃)を20%スプレーして、粗脂肪含量30%の多孔性高脂質飼料(硬度2.0〜嵩比重0.55)を得た。
この飼料は実施例1と同等のすぐれた性能を有していた。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-07-16 
結審通知日 2003-07-22 
審決日 2003-08-12 
出願番号 特願平1-77522
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (A23K)
P 1 112・ 532- ZA (A23K)
P 1 112・ 531- ZA (A23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 中村 和夫
鈴木 寛治
登録日 1997-05-02 
登録番号 特許第2640533号(P2640533)
発明の名称 多孔性養魚飼料及びその製造方法  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 吉村 康男  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 竹内 英人  
代理人 大塚 文昭  
代理人 箱田 篤  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 安田 徹夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 辻居 幸一  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 平山 孝二  
代理人 平山 孝二  
代理人 箱田 篤  
代理人 村社 厚夫  
代理人 小川 信夫  
代理人 小川 信夫  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 辻居 幸一  
代理人 竹内 英人  
代理人 西島 孝喜  
代理人 村社 厚夫  
代理人 宍戸 嘉一  

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