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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) H04R |
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管理番号 | 1092956 |
審判番号 | 無効2001-35001 |
総通号数 | 52 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1986-11-22 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-12-28 |
確定日 | 2004-03-12 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2000905号発明「エレクトレツトコンデンサマイクロホン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2000905号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 出願日 昭和60年5月20日 手続補正 平成5年9月27日 出願公告 平成7年4月19日 (特公平7-36640号公報) 登録 平成7年12月20日 (特許第2000905号) 訂正審判請求 平成11年3月2日 (平成11年審判第39018号) 訂正を認める 平成11年6月5日 本件無効審判請求 平成12年12月28日 答弁書 平成13年4月10日 弁駁書 平成13年6月26日 第二答弁書 平成13年9月5日 口頭審理陳述要領書(請求人) 平成13年9月11日 口頭審理 平成13年9月12日 2.本件発明とその経緯 本件発明を上記手続の経緯に沿って検討すると、本件発明は、次に掲げる(1)(2)を経過し、(3)に掲げるとおりのものとなった。 (1)出願当初の発明 「天面を有する筒状金属ケースの前記天面を固定電極とし、前記天面に対向して一定間隔をとって振動膜を設けてなるエレクトレットコンデンサマイクロホン」 (2)補正された発明(公告された発明) 「天面を有する筒状金属ケースの前記天面を固定電極とし、前記天面に対向して一定間隔をとる振動膜と、前記固定電極と導電性部材を介して電気的接触をおこなう能動素子とを備えるエレクトレットコンデンサマイクロホン」 (3)訂正後の発明(本件発明) 「天面を有する筒状金属ケースの前記天面を固定電極とし、前記筒状金属ケース内に配置され、前記天面に対向して一定間隔をとる振動膜と、前記固定電極と導電性部材を介して電気的接触をおこなう能動素子とを備えるエレクトレットコンデンサマイクロホン」 3.請求人の主張 これに対して、請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、 その無効の理由(以下「無効理由1」という。)として、本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づいて、同刊行物である甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第7号証ないし甲第11号証に記載された周知事項を適用することで当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は無効にされるべきである、 また、その無効の理由(以下「無効理由2」という。)として、平成5年9月27日付補正は要旨を変更しているから、本件出願日が同補正日に繰り下がり、本件発明は、甲第5号証である本件出願公開公報に記載された発明に基づいて、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証に記載された周知事項を適用することで当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は無効にされるべきであると主張し、証拠方法として次に掲げる甲第1号証ないし甲第11号証を提出している。 甲第1号証:米国特許4249043号公報 甲第2号証:特開昭57-53200号公報 甲第3号証:実願昭52-15429号(実開昭53-110122号)のマイクロフィルム 甲第4号証:実願昭55-38458号(実開昭56-140299号)のマイクロフィルム 甲第5号証:特開昭61-265000号公報(本件出願の公開公報) 甲第6号証:実願昭60-80169号(実開昭61-197800号)のマイクロフィルム 甲第7号証:実願昭51-178458号(実開昭53-94118号)のマイクロフィルム 甲第8号証:実願昭54-60259号(実開昭55-159699号)のマイクロフィルム 甲第9号証:「新版 絵で見るオーディオガイド」(小川茂男 誠文堂新光社、昭和57年2月15日第2刷発行)112〜117頁 甲第10号証:特開昭58-114600号公報 甲第11号証:「図解電子回路入門シリーズ 増幅回路の基礎」(時田元昭著 オーム社、昭和58年7月20日発行)83〜86頁 その他、甲第12号証の1ないし15が証拠として提出されていたが、これらは、平成13年9月12日の口頭審理において、参考資料とすることを請求人は同意した(口頭審理調書参照)。 また、請求人と被請求人との交渉の経緯を示す資料1ないし5、本件特許に関する被請求人の主張は根拠がないことを示す資料6ないし10を提出している。 4.被請求人の主張 本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第7号証ないし甲第11号証に記載された周知事項を適用することで当業者が容易に発明をすることができたものではなく、無効とされるべきものではない。 また、本件発明について、平成5年9月27日付補正は要旨を変更するものではなく、その出願日は繰り下がらず、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に違反するものでなく、無効とされるべきものではない。 と主張し、証拠方法として次に掲げる乙第1号証ないし乙第6号証を提出している。 乙第1号証:オーストリア出願 A3920/80及び同抄訳 乙第2号証:特願昭56-113802号の平成2年10月17日付手続補正書 乙第3号証:大阪地方裁判所平成12年(ワ)第13458号特許権侵害差止等請求事件答弁書 乙第4号証:ホシデン株式会社作成「ELECTRONIC COMPONENTS PRODUCTS GUIDE 2001」(2000年9月作成、表紙、15頁、裏表紙) 乙第5号証:ホシデン株式会社作成技術資料(1990年10月) 乙第6号証:ホシデン株式会社作成技術資料(1992年4月) 5.証拠の内容 甲第1号証には、エレクトレットトランスジューサ用バックプレート、エレクトレットトランスジューサ及びエレクトレットトランスジューサの製造方法に関するものに係り、次に掲げる(1)ないし(3)の記載がなされている。 (1)「バックプレートを多孔性とし、振動膜を、このバックプレートの内側に取り付けることができる。これによって、振動膜を不意の損傷から保護することができる。 トランスジューサのケーシングを、バックプレートによって形成することができる。これによって、トランスジューサの製造が単純化される。」(2欄16行ないし21行、翻訳文4頁9行ないし12行) (2)「図4に、トランスジューサの別構造を示す。この図4を参照すると、当該トランスジューサは、カップ形状のボディ部材20と、これに受けられた、これも同様にカップ形状の導電性プラスチック製バックプレート21とを有する。前記バックプレート21は、周壁22を備えて形成され、この周壁22は、前記ボディ部材20上に配設されるとともに、このボディ部材に接着剤によって固定されている。前記ボディ部材20の上部には真鍮リング23が受けられ、このリング23に対して、図1及び図2に図示したトランスジューサにおいて振動膜7を真鍮リング9に取り付けたのと同じ方法で、振動膜24が取り付けられている。前記振動膜24とバックプレート21との間にはリング形状の絶縁ワッシャ25が配設されて、真鍮リング9とバックプレートとの対向面間が不意に電気接続されることを防止している。(図1及び2に図示したトランスジューサにおいて、振動膜7と、バックプレート6との間にも類似のワッシャを設けることが可能である。)前記振動膜24の下面はアルミニウムメッキされている。 前記バックプレート21の上部は、前記バックプレート6と実質的に同じであるが、反対側が上向きになっている。前記バックプレート21は、バックプレート6の孔13に対応する孔26と、バックプレート6の小突起8に対応する小突起27とを有している。」(3欄63行ないし4欄17行、翻訳文8頁3行ないし16行) (3)「バックプレート21への電気接続は、バックプレートにリード線31を形成することによって行われる。前記真鍮リング23に別のリード線32が接続される。 図4に図示したトランスジューサはバックプレート21の、トランスジューサのケーシングとして作用するため、特に、製造が簡単である。トランスジューサを製造するのに必要な部材の数が減少し、トランスジューサのアセンブリが容易になる。」(4欄33行ないし40行、翻訳文9頁5行ないし9行) 甲第2号証には、2ウエイ方式の電気音響変換器に関し、「アタッチメントの外面が静電形電気音響変換器の対抗電極として用いられる。このために、アタッチメントは金属製であるか又は、例えば金属蒸着とか電気めっきにより、導電性にしなければならない。またアタッチメント2は、例えば導電プラスチックから射出工程で製作することもできる。」(2頁右下欄14行ないし20行)と記載されている。 甲第3号証には、インピーダンス変換用集積回路の接続を容易にしたマイクロホン装置に関し、「最近多用されているエレクトレットを用いたマイクロホンはインピーダンス変換用の集積回路を内蔵しており、これによってマイクロホン素子の出力をインピーダンス変換しアンプ等に導いている。」(1頁16行ないし20行)、 「第2図に示すように両端に開口部を有する例えば筒状のケース11内にマイクロホン素子12が一方の開口部に寄せて取り付けられる。このマイクロホン素子12は背極板13、エレクトレット14、このエレクトレット14とスペーサ15を介して対向配置された振動板16とからなり、この振動板16がリング17を介してケース11の開口端に押し付けられるように取り付けられる。」(3頁7行ないし15行)、 「一方集積回路23のアース線となるリード線26は第5図に示すように絶縁体18とケース11との間に挟み込んで固定接続する。たとえば第5図(a)に示すように絶縁体18の側壁に近接した1対の貫通孔27、28を設け、この貫通孔27、28にリード線26を通してその中間部分が絶縁体18の外側に出るようにし、この状態でケース11に収納する。このようにすればリード線26が絶縁体18とケース11との間に挟み込まれ固定およびケース11との電気的接続が行われる。」(5頁9行ないし19行)と記載されている。 甲第4号証には、小形マイクロホンに関し、「図においてカプセル11は例えばアルミニウムの筒体として構成され、その前方端面には前面板12が一体に形成され、前面板12の中央部に音響導入用の穴13が形成され、更に前面板12の前面に防塵用のクロス14が張り付けられている。カプセル11内においては前面板12と隣接して振動板15が配される。振動板15は例えばエレクトレット振動板であって金属リング16に張り付けられており、リング16は前面板12と対接されている。」(3頁17行ないし4頁7行)、 「背極ホルダー21の背面側は絶縁板28で塞がれ、絶縁板28の背面はシールド板29が対接される。シールド板29の背面にカプセル11の端部が折り曲げられて押え付けられ、内部の各部品が機械的に固定される。」(5頁11行ないし15行)、 「背極ホルダー21内にはインピーダンス変換素子31が収容される。絶縁板28には端子32、33が内外に突出して立てられ、その内部はインピーダンス変換素子31とそれぞれ接続される。インピーダンス変換素子31はゲート端子23にも接続され、背極18に得られた電気信号が低インピーダンス出力に変換されて端子32、33に出力される。」(5頁19行ないし6頁6行)、 「一方の端子32はアース端子であり、これはシールド板29とその肩部34で接触しており、そのシールド板29と絶縁板28とがアース端子32の加締付けによって機械的に互に固定される。」(6頁15行ないし18行)と記載されている。 甲第9号証には、「コンデンサー・マイクには、必ずヘッド・アンプが使われていますが、どうしてだかわかりますか。これは、ダイヤフラムの振動を容量の変化として取り出す負荷抵抗の値が、数M〜数10MΩと高抵抗のため、最短距離でヘッド・アンプへ音声を入れてやらないと、途中でノイズを拾ってしまうのです。このため、ヘッド・アンプはマイクの本体の中に組み込まれ、一度音声信号を増幅してから、低いインピーダンスにして、マイクからコードによって送り出されるのです。」、「エレクトレット・コンデンサー・マイクは・・・構造は簡単で、消費電力も少なく性能も大変優れていますが、図からもわかるとおり、高抵抗の負荷抵抗を使うため、ヘッド・アンプはコンデンサーと同じで必要です。」(117頁上段)と記載されている。 6.無効理由1についての当審の判断 6-1.本件発明と甲第1号証に記載された発明との対比 本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。 まず、甲第1号証に記載された発明における「カップ形状の多孔性・導電性プラスチック製のバックプレート」は、カップ形状の上部(天面)を多孔としたエレクトレットトランスジューサの一方の電極(固定電極)とするから、本件発明における「天面を固定電極とした筒状金属」に対応し、また、甲第1号証に記載された発明における「振動膜」は、カップ形状のバックプレートの内側上部(天面)に対向して、小突起によって一定間隔をとっているから、本件発明の「振動膜」に相当する。 さらに、両発明は、エレクトレット、固定電極及び振動膜からなるエレクトレットコンデンサを備えて音圧を電気(音声)信号に変換する音響電気変換器で共通する。 したがって、甲第1号証には、「天面を有する筒状導電性プラスチック製のバックプレートの前記天面を固定電極とし、前記筒状導電性プラスチック製のバックプレート内に配置され、前記天面に対向して一定間隔をとる振動膜を備えるエレクトレットコンデンサを備える音響電気変換器」の発明が記載されている。 そうすると、両発明は、 「天面を有する筒状導電体の前記天面を固定電極とし、前記筒状導電体内に配置され、前記天面に対向して一定間隔をとる振動膜を備えるエレクトレットコンデンサを備える音響電気変換器」である点で一致し、次に掲げる(1)ないし(3)の点で相違する。 (1)前記「音響電気変換器」に、本件発明においては、「筒状導電体内に配置され、固定電極と導電性部材(筒状導電体)を介して電気的接触を行う能動素子」が備えられているのに対して、甲第1号証に記載された発明においては、能動素子が備えられていない点。 (2)前記「音響電気変換器」が、本件発明においては、「エレクトレットマイクロホン」であるのに対して、甲第1号証に記載された発明においては、「エレクトレットトランスジューサ」である点。 (3)前記「筒状導電体」が、本件発明においては、「筒状金属ケース」であるのに対して、甲第1号証に記載された発明においては、「筒状導導電性プラスチック製のバックプレート」で「ケース」と表現していない点。 6-2.相違点についての検討 相違点(1)についての検討 甲第9号証には、「音響電気変換器」としてのエレクトレットマイクロホンとして、エレクトレット振動膜電極及び固定電極とからなるエレクトレットコンデンサの両極間に生じる音声信号を、インピーダンス変換して出力するために、エレクトレットコンデンサに最短距離でヘッド・アンプ(能動素子)を接続すること及びこのヘッド・アンプ(能動素子)は、ノイズを拾わないようにマイク本体の中に組み込まれること(117頁上段参照)が記載されている。 また、甲第3号証、甲第4号証には、エレクトレットコンデンサの一方の電極(固定電極又は振動板電極)と筒状導電性ケース内に組み込まれた能動素子のリード線とを導電性部材としての導電性ケースを介して接続することが記載されている。 したがって、甲第1号証に記載された発明に、甲第3,4号証及び甲第9号証に記載されたことを適用して、甲第1号証に記載された「エレクトレットトランスジューサ」の中に、エレクトレットコンデンサの一方の電極(固定電極)、導電性部材としての金属ケース及びヘッド・アンプ(能動素子)のリード線を介してノイズを拾わないように最短距離でヘッド・アンプ(能動素子)を接続して組み込むことは、当業者であれば、適宜なし得ることである。 よって、「音響電気変換器」に、「筒状導電体内に配置され、固定電極と導電性部材(筒状導電体)を介して電気的接触を行う能動素子」を備えさせることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。 相違点(2)についての検討 甲第1号証には、エレクトレットトランスジューサがマイクロホンに組み込まれるものであり、また、エレクトレットトランスジューサは電話機に組み込むことができるとの記載がある。さらに、エレクトレットトランスジューサをマイクロホンとして使用する際には、固定電極と振動膜電極で構成されるコンデンサの両極間に生じる音声信号を、ヘッド・アンプ(能動素子)を用いてインピーダンス変換して出力することは、甲第9号証にあるように、当業者において周知事項である。 そうすると、甲第1号証には、甲第9号証に記載された周知事項を考慮すると、バックプレート(固定電極)と振動膜で構成されるコンデンサに能動素子を接続して音声信号を出力するマイクロホンが示唆されているといえる。 また、甲第1号証に記載された「エレクトレットトランスジューサ」は音圧を音声信号に変換するものであり、本件発明における「エレクトレットマイクロホン」も音圧を音声信号に変換するものである。 したがって、甲第1号証に記載された「エレクトレットトランスジューサ」は「エレクトレットマイクロホン」ともいえる。 よって、「音響電気変換器」を「エレクトレットマイクロホン」と表現することは、当業者であれば、適宜表現し得ることである。 相違点(3)についての検討 甲第1号証には、金属製のバックプレートを使用すれば、そのバックプレートをかなり高い精度で製造しなければならないことから、プラスチック製のバックプレートの製造に比較してその製造はより困難になる旨の記載があるが、これは金属製のバックプレートの製造が、多孔性・導電性プラスチックのバックプレートの製造と比較して困難であることを述べたに過ぎず、金属製のバックプレートの製造が不可能とは述べておらず、甲第1号証に記載されたトランスジューサの多孔性・導電性プラスチックのバックプレートを金属で構成することを排斥するものではない。 なお、甲第2号証には、「静電形電気音響変換器の対抗電極として用いられるアタッチメントは、金属製であるか又は、例えば金属蒸着とか電気メッキにより、導電性にしなければならない。また、例えば導電プラスチックから射出工程で製作することもできる」との記載、すなわち、音響電気変換器において、その天面が対抗電極として用いられるアタッチメント(筒状の部材)を、金属、導電プラスチック等の導電材で構成する旨の記載がある。 したがって、甲第1号証に記載された発明における「筒状導導電性プラスチック製のバックプレート」を「筒状金属」とすることは、当業者であれば、必要に応じて適宜なし得ることである。 さらに、甲第1号証に記載された発明における「筒状導導電性プラスチック製のバックプレート」の内側上部(天面)に対向して、小突起によって一定間隔をとる「振動膜」が備えられているから、「筒状導導電性プラスチック製のバックプレート」は「振動膜」を保護するケースともいえる。 よって、「筒状導電体」を、「筒状金属」とすると共に「ケース」と表現することは、当業者であれば、適宜なし得ることである。 上記各相違点からみて、本件発明は、甲第1号証に記載された発明からは予測できない格別顕著な効果を奏するものとも認められない。 以上、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 7.無効理由2についての当審の判断 請求人は、前記2.本件発明とその経緯(2)の補正された発明において、平成5年9月27日付手続補正により付加された、「固定電極と導電性部材を介して電気的接触をおこなう能動素子を備える」は出願当初の明細書又は図面に記載はないし、自明事項であるとも認められないので、要旨を変更していると主張している。 しかしながら、本件出願当初の明細書では、振動膜が入力リード8aと電気的に接続されていることが記載されており、筒状金属ケースの天面が固定電極の役割を果たすことも明記されている。また、FET(能動素子)の入力端子対がゲート端子とソース端子とで構成され、ゲート端子にコンデンサを構成する固定電極と振動膜のいずれかを接続した場合、他方の電極はFETのソース端子に接続することは自明な事項である。したがって、固定電極の役割を果たしている筒状金属ケースの天面に、ソース端子が、導電性部材である金属ケースの筒状部を介して電気的に接続されるのは自明な事項である。 したがって、上記補正は本件特許の明細書又は図面の要旨を変更するものではないので、出願日は同補正日に繰り下がらない。よって、本件発明は、甲第5号証である本件出願公開公報に記載された発明に基づいて、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証に記載された周知事項を適用することで当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。 8.被請求人の主張の検討 (1)被請求人は、甲第1号証に記載された発明は、エレクトレットコンデンサマイクロホンのトランスジューサ(電気音響変換部に相当する部分)の発明であり、あくまでエレクトレット・トランスジューサのケーシングを固定電極にしたにすぎず、また、甲第9号証に記載されたエレクトレットコンデンサマイクロホンで示されるように、トランスジューサのケースの外側にさらにマイクロホンのケースを設けることは一般的であるので、エレクトレットコンデンサマイクロホンの金属ケース(トランスジューサの外側にさらに設けられたマイクロホンのケース)に固定電極の役割を果たさせるということに想到することはきわめて困難であると主張している。 しかしながら、甲第1号証に記載された発明における「筒状導導電性プラスチック製のバックプレート」は、上記相違点(3)で検討したように、「振動膜」を保護するケースともいえる。 また、エレクトレット・トランスジューサのケースと能動素子を備えたマイクロホンのケースとを兼用させることは、例えば、請求人の提出した資料6、参考資料8の2ないし7(これらの参考資料は、甲第12号証の2ないし7として提出されたものであるが、平成13年9月12日の口頭審理において、参考資料としたものである。)に示されるように、当業者において周知技術である。 さらに、甲第1号証に記載された発明において、固定電極であるエレクトレット・トランスジューサのカップ形状のケーシング内に能動素子を備えさせることは、上記相違点(1)で検討したように容易になし得るから、このケーシングを能動素子を備えたマイクロホンのケースと表現することは、当業者が適宜なし得ることである。 したがって、被請求人の困難であるとの主張は、根拠のない主張である。 (2)また、被請求人は、本件発明は、甲第各号証に記載された発明、周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、無効とされるべきものではないと主張し、証拠方法として乙第1ないし6号証を提出している。 そこで、各証拠について検討する。 乙第1、2号証は、甲第2号証の「本発明は一様な前面を有するアタッチメントを備えた静電系および動電形の2ウェイ方式の電気音響変換器、例えばヘッドホンやマイクロホン、に関する。」との記載について、その出願の優先基礎になっている出願と比較して、上記翻訳が不適切であることを示す証拠である。これらの証拠に基づいて、被請求人は、トランスジューサはマイクロホンそのものではなく、あくまでマイクロホンの構成部材であると主張している。しかしながら、乙第1、2号証はトランスジューサがマイクロホンそのもではなく、マイクロホンの構成部材であることを示すに止まり、上記6.無効理由1についての当審の判断の中で述べた本件発明が容易に想到し得たことを否定するものとは認められない。 また、乙第3ないし6号証は、いずれも本件発明の出願日以降に作成あるいは発行された資料であり、乙第3号証は審判請求人及び外1名が大阪地方裁判所に提出した大阪地方裁判所平成12年(ワ)第13458号特許権侵害差止等請求事件答弁書、また、乙第4ないし6号証は、審判請求人ホシデン株式会社作成の製品カタログ及び技術資料である。これら各証拠は、フロント・エレクトレットコンデンサマイクロホンが、従来のマイクロホンに比較して効果を奏することを示すものであるが、この効果だけをみて、上記6.無効理由1についての当審の判断の中で述べた本件発明の構成とすることの容易性を直接否定することはできない。 9.むすび 以上のとおり、本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づいて、同刊行物である甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第7号証ないし甲第11号証に記載された周知事項を適用することで当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2001-09-26 |
出願番号 | 特願昭60-107334 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Z
(H04R)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 河口 雅英 |
特許庁審判長 |
谷川 洋 |
特許庁審判官 |
田口 英雄 藤内 光武 |
登録日 | 1995-12-20 |
登録番号 | 特許第2000905号(P2000905) |
発明の名称 | エレクトレツトコンデンサマイクロホン |
代理人 | 橋本 薫 |
代理人 | 北村 修一郎 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 大野 聖二 |
代理人 | 森下 賢樹 |