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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05H
管理番号 1093102
異議申立番号 異議2000-74120  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-06-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-11-14 
確定日 2003-12-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3040358号「グロー放電プラズマ処理方法及びその装置」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3040358号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成 9年 5月23日
(優先権主張 平成8年5月24日、
平成8年9月26日)
特許権の設定登録 平成12年 3月 3日
特許異議の申立て 平成12年11月13日(申立人 工藤貴志子)
平成12年11月14日(申立人 吉川俊雄)
取消理由通知(第1回) 平成13年 4月25日(起案日)
口頭審理(第1回) 平成13年 6月26日
特許異議意見書(第1回) 平成13年 7月13日
訂正請求書(第1回) 平成13年 7月13日
取消理由通知(第2回) 平成14年 1月 7日(起案日)
特許異議意見書(第2回) 平成14年 3月14日
訂正請求書(第2回) 平成14年 3月14日
訂正請求取下書(第1回) 平成14年 3月14日
取消理由通知(第3回) 平成14年 9月12日(起案日)
特許異議意見書(第3回) 平成14年11月26日(訂正請求取下(第2回))
訂正請求書(第3回) 平成14年11月26日
審尋 平成15年 2月21日(起案日)
回答書 平成15年 5月 6日

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
2-1-1.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に記載の
「【請求項1】大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、当該対向電極間に電界を印加することによりグロー放電プラズマ処理を行う方法であって、印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とするグロー放電プラズマ処理方法。」を、
「【請求項1】 平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極において、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、当該対向電極間に電界を印加することにより固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間にグロー放電プラズマを発生させて処理を行う方法であって、印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とするグロー放電プラズマ処理方法。」
と訂正する。

2-1-2.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項4、5を削除する。

2-1-3.訂正事項c
特許請求の範囲の請求項6に記載の
「【請求項6】対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、一方の電極と該固体誘電体又は該固体誘電体同士の間に基材を配置して、当該基材表面を処理することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のグロー放電プラズマ処理方法。」を
「【請求項4】対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、一方の電極と該固体誘電体又は該固体誘電体同士の間に基材を配置して、当該基材表面を処理することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のグロー放電プラズマ処理方法。」
と訂正する。

2-1-4.訂正事項d
特許請求の範囲の請求項7に記載の
「【請求項7】対向電極、該対向電極の少なくとも一方の対向面に設置された固体誘電体、当該一対の電極間にパルス化された電界を印加するようになされている高電圧パルス電源からなり、該高電圧パルス電源が、高電圧直流を供給可能な直流電圧供給部、並びに、ターンオン時間及びターンオフ時間が500ns以下である半導体素子により当該高電圧直流を高電圧パルスに変換するパルス制御部から構成されるものであることを特徴とするグロー放電プラズマ処理装置。」を
「【請求項5】 グロー放電のための平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極であって大気圧近傍の圧力下にある対向電極、該対向電極の対向面の双方に設置された固体誘電体、及び当該一対の電極間に電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmのパルス化された電界を印加することにより前記双方に設置された固体誘電体間の空間にグロー放電プラズマを発生させるようになされている高電圧パルス電源からなり、該高電圧パルス電源が、高電圧直流を供給可能な直流電圧供給部、並びに、ターンオン時間及びターンオフ時間が500ns以下である半導体素子により当該高電圧直流を高電圧パルスに変換するパルス制御部から構成されるものであることを特徴とするグロー放電プラズマ処理装置。」
と訂正する。

2-1-5.訂正事項e
段落番号【0006】の「【課題を解決するための手段】本発明のグロー放電プラズマ処理方法は、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、当該対向電極間に電界を印加することによりグロー放電プラズマ処理を行う方法であって、印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とするグロー放電プラズマ処理方法。」の記載を、
「【課題を解決するための手段】本発明のグロー放電プラズマ処理方法は、平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極において、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、当該対向電極間に電界を印加することにより固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間にグロー放電プラズマを発生させて処理を行う方法であって、
印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とする」と訂正する。

2-1-6.訂正事項f
段落番号【0015】の「【0015】本発明のプラズマ発生方法は、一対の対向電極を有し、当該電極の対向面の少なくとも一方に固体誘電体が設置されている装置において行われる。プラズマが発生する部位は、上記電極の一方に固体誘電体を設置した場合は、固体誘電体と電極の間、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合は、固体誘電体同士の間の空間である。」の記載を、
「【0015】本発明のプラズマ発生方法は、平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極において、一対の対向電極を有し、当該電極の対向面の少なくとも一方に固体誘電体が設置されている装置において行われる。プラズマが発生する部位は、上記電極の一方に固体誘電体を設置した場合は、固体誘電体と電極の間、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合は、固体誘電体同士の間の空間である。」と訂正する。

2-1-7.訂正事項g
段落番号【0016】の「【0016】上記電極としては、銅、アルミニウム等の金属単体、ステンレス、真鍮等の合金、金属間化合物等からなるものが挙げられる。上記対向電極は、電界集中によるアーク放電の発生を避けるために、対向電極間の距離が略一定となる構造であることが好ましい。この条件を満たす電極構造としては、平行平板型、円筒対向平板型、球対向平板型、双曲面対向平板型、同軸円筒型構造等が挙げられる。」の記載を、
「【0016】上記電極としては、銅、アルミニウム等の金属単体、ステンレス、真鍮等の合金、金属間化合物等からなるものが挙げられる。上記対向電極は、電界集中によるアーク放電の発生を避けるために、対向電極間の距離が略一定となる構造であることが好ましい。この条件を満たす電極構造としては、平行平板型や同軸円筒型構造が挙げられる。」と訂正する。

2-1-8.訂正事項h
段落番号【0040】の「【0040】この測定回路においては、パルス電界による放電電流が高速に通電・遮断を繰り返しているので、測定に供したオシロスコープ7は、そのパルスの立ち上がり速度に対応したナノ秒オーダーの測定が可能な高周波オシロスコープ、具体的には岩崎通信社製オシロスコープDS-9122とした。また、放電電圧の減衰に用いた高圧プローブ8は、岩崎通信社製高圧プローブSK-301HVとした。測定結果を図 に例示する。図7において波形1が放電電圧であり、波形2が放電電流を表す波形である。パルス電界の形成による放電電流密度は、この波形2のピーク-ピーク値の電流換算値を電極対向面の面積で除した値である。」の記載を、
「【0040】この測定回路においては、パルス電界による放電電流が高速に通電・遮断を繰り返しているので、測定に供したオシロスコープ7は、そのパルスの立ち上がり速度に対応したナノ秒オーダーの測定が可能な高周波オシロスコープ、具体的には岩崎通信社製オシロスコープDS-9122とした。また、放電電圧の減衰に用いた高圧プローブ8は、岩崎通信社製高圧プローブSK-301HVとした。測定結果を図7に例示する。図7において波形1が放電電圧であり、波形2が放電電流を表す波形である。パルス電界の形成による放電電流密度は、この波形2のピーク-ピーク値の電流換算値を電極対向面の面積で除した値である。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
2-2-1.訂正事項a
訂正事項aは、グロー放電プラズマ処理装置の電極構造を、「平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極」に限定するとともに、グロー放電プラズマを「固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間に」「発生させ」るように限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
そして、上記限定は、それぞれ、明細書の段落番号【0016】及び段落番号【0015】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-2-2.訂正事項b
訂正事項bは、請求項4及び5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。

2-2-3.訂正事項c
訂正事項cは、上記訂正事項bにより請求項4及び5が削除されたことにともない、上記訂正事項bとの整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-2-4.訂正事項d
訂正事項dは、グロー放電プラズマ処理装置の電極構造を、「平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極」に限定し、電極が「大気圧近傍の圧力下」におかれるように限定し、また、固体誘電体が「少なくとも一方の対向面」に設置さていたのを「対向面の双方」に設置されるように限定し、パルス電界の印加条件を「電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cm」と限定し、かつ、グロー放電プラズマの発生箇所を「双方に設置された固体誘電体間の空間に」「発生させる」ように限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
そして、上記限定のうち、電極構造を、「平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極」とすることは、明細書の段落番号【0016】に記載され、電極が「大気圧近傍の圧力下」におかれ、固体誘電体が「対向面の双方」に設置され、パルス電界の印加条件を「電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cm」とすることは、段落番号【0006】に記載されており、また、グロー放電プラズマの発生箇所を「双方に設置された固体誘電体間の空間に」「発生させる」ようになすことは、【0015】に記載されているから、上記限定は、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-2-5.訂正事項e〜g
訂正事項e〜gは、上記訂正事項a及びeによって請求項1及び請求項5が訂正されたのにともない、請求項の記載と整合性を取るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-2-6.訂正事項h
訂正事項hは、「測定結果を図 に例示する。図7において…」と記載され、図の番号が抜けていたのを「測定結果を図7に例示する。図7において…」と訂正するものであり、誤記の訂正に該当する。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項および同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
3-1.本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極において、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、当該対向電極間に電界を印加することにより固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間にグロー放電プラズマを発生させて処理を行う方法であって、印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とするグロー放電プラズマ処理方法。

【請求項2】パルス化された電界における、周波数が0.5〜100kHz、パルス継続時間が1〜1000μsとなされていることを特徴とする請求項1に記載のグロー放電プラズマ処理方法。

【請求項3】高電圧直流を供給可能な直流電圧供給部、並びに、ターンオン時間及びターンオフ時間が500ns以下である半導体素子により当該高電圧直流を高電圧パルスに変換するパルス制御部、から構成される高電圧パルス電源によりパルス化された電界を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のグロー放電プラズマ処理方法。

【請求項4】 対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、一方の電極と該固体誘電体又は該固体誘電体同士の間に基材を配置して、当該基材表面を処理することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のグロー放電プラズマ処理方法。

【請求項5】 グロー放電のための平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極であって大気圧近傍の圧力下にある対向電極、該対向電極の対向面の双方に設置された固体誘電体、及び当該一対の電極間に電圧立ち上がり時間が100μs以下電界強度が1〜100kV/cmのパルス化された電界を印加することにより前記双方に設置された固体誘電体間の空間にグロー放電プラズマを発生させるようになされている高電圧パルス電源からなり、該高電圧パルス電源が、高電圧直流を供給可能な直流電圧供給部、並びに、ターンオン時間及びターンオフ時間が500ns以下である半導体素子により当該高電圧直流を高電圧パルスに変換するパルス制御部から構成されるものであることを特徴とするグロー放電プラズマ処理装置。」

3-2.異議申立ての理由の概要
特許異議申立人工藤貴志子は、下記の甲第1号証ないし甲第3号証及び参考資料1ないし5を提出し、訂正前の本件請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証と実質的に同一であり、または、甲第1号証及び甲第2号証のいずれかまたはそれらの組合せから当業者が容易に発明することができたものであり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反してなされたものである旨主張している。また、本件請求項1、4及び6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条の2に違反してなされたものである旨主張している。

甲第1号証 独国特許出願公開第4438533号明細書(1996)
甲第2号証 特開平5-339397号公報
甲第3号証 特願平7-10912号(特開平8-198984号公報参照 )の願書に最初に添付した明細書及び図面
参考資料1 電気工学事典、宇都宮敏男 他編、株式会社朝倉書店、
1983年4月20日初版、p.227
参考資料2 「プラスチックの表面化学と表面処理技術 物理的処理技術
(2)」
工業材料(日刊工業新聞社)、1981年2月号p105〜113
参考資料3 「プラスチックの表面化学と表面処理技術 物理的処理技術
(3)」
工業材料(日刊工業新聞社)、1981年3月号p104〜113
参考資料4 「4.放電プラズマによる排ガス処理の研究」
プラズマ・核融合学会誌、第70巻第4号p342〜349
参考資料5 特開平6-336529号公報
(以下「甲第1号証」及び「甲第2号証」をそれぞれ「刊行物1」及び「刊行物2」、「甲第3号証」を「先願明細書3」、「参考資料1」ないし「参考資料5」をそれぞれ「刊行物4」ないし「刊行物8」という。)

また、特許異議申立人吉川俊雄は、甲第1号証ないし甲第8号証を提出し、本件請求項1及び6に係る発明は、甲第1号証と実質的に同一であり、また本件請求項1ないし5及び7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第6号証から当業者が容易に発明することができたものであり、本件の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反してなされたものである旨主張している。

甲第1号証 特開平6-336529号公報
甲第2号証 「30kHz5kWIGBTインバータを用いたコロナ放電
処理装置-PDM出力制御法-」
電気学会研究会資料(1992年10月30日)
甲第3号証 「コロナ放電処理システムに適した電圧形インバータ・直列共
振回路のPDM電力制御」
電気学会論文誌D、114巻4号、平成6年4月20日
甲第4号証 特開昭47-4890号公報
甲第5号証 特開平4-74525号公報
甲第6号証 特開平3-241739号公報
甲第7号証 「Coronadischargesandtheirapplications」IEE PROC.
Vol.128,PartA、No.4、MAY1981
甲第8号証 「大気圧グロー放電における電流波形の測定」
大分大学工学部研究報告 第33号 平成8年2月
(「甲第1号証」は特許異議申立人工藤貴志子の「参考資料5」と同一の刊行物(刊行物8)であるので、以下上記「甲第2号証」ないし「甲第8号証」をそれぞれ「刊行物9」ないし「刊行物15」という。)

3-3.取消理由の概要
当審で通知した平成13年4月25日付取消理由通知、平成14年1月7日付の取消理由通知及び平成14年9月12日付の取消理由通知では、上記異議申立人工藤貴志子及び古川俊雄提出の刊行物に記載された発明に基づく特許法第29条第2項の規定違反に加え、特許法第36条違反として概ね以下の事を述べている。
3-3-1.
同軸円筒型構造をした電極により、コロナ放電ではなくグロー放電を発生させるための構成が不明瞭であるから、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。(平成14年1月7日付の取消理由通知の3-2及び平成14年9月12日付の取消理由通知のA-3)
3-3-2.
本件請求項1の「電圧立ち上がり時間が100μs以下」に関し、「変調を行ったパルス」の場合の「電圧立ち上がり時間」がどのように定義されるか明らかでないから、請求項1に係る発明は明確でない。(平成14年9月12日付の取消理由通知のB-1、B-5)
3-3-3.
変調されパルス化された電界の印加に関し、本件請求項2及び明細書段落【0027】に記載されたパルス電界の周波数範囲「0.5kHz〜100kHz」では、変調されパルス化された電界の周波数を考えると、例えば変調周波数を「0.5kHz」のsin波とした場合、請求項1に記載されたパルスの立ち上がり時間の要件「電圧立ち上がり時間が100μs以下」を満たさず、齟齬を生じるから、本件明細書「発明の詳細な説明」は、当業者が容易に実施できるように記載されいない。(平成14年9月12日付の取消理由通知のC-1)
3-3-4
変調されパルス化された電界の印加に関し、本件請求項2の「パルス化された電界における、周波数が0.5kHz〜100kHz、パルス継続時間が1〜1000μs」の記載では、「周波数が0.5kHz」で「パルス継続時間が1μs」という組合せを含むが、この波形は、段落【0063】及び図1(D)に記載のものとは異なるため、請求項2記載の発明は、発明の詳細な説明又は図面に記載された発明とは異なり、発明の構成が不明瞭である。(平成14年9月12日付の取消理由通知のA-4、B-2)
3-3-5.
段落【0024】には「パルスの立ち上がり時間が100μsを越えると放電状態がアークに移行しやすく不安定なものとなり」段落【0027】には「パルス電界の周波数は、・・・100kHzを越えるとアーク放電が発生しやすくなる。」と記載されているが、いずれの場合にもアークが発生しやすくなることを言っているのか、それとも他のことを行っているのか必ずしも明らかでない。(平成14年9月12日付の取消理由通知のC-2)
3-3-6.
パルス化された電界のパルスOFF時間の定義が不明瞭である。(平成14年9月12日付の取消理由通知のC-3)
3-3-7.
同軸円筒型構造をした電極の場合に、放電電流密度の定義が不明瞭である。(平成14年9月12日付の取消理由通知のC-4)
3-3-8.
訂正前の請求項4及び5は発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、明確でない。(平成14年9月12日付の取消理由通知のA-5、A-6、B-3及びB-4)

3-4.各刊行物及び先願明細書に記載の発明
3-4-1.刊行物1(独国特許出願公開第4438533号明細書)
刊行物1には、パルス式電圧を印加して大気圧のもとでコロナ処理することに関し、図2及び図3にロール状電極とプレート状電極の組合せが記載されるとともに、おおよそ次のことが記載されている。
「コロナ放電による処理は、さまざまな材料の表面を改善するのに定評のある公知の方法であり、その目的は、これら材料の被印刷性および/または接着性を向上させること、ないしはこうした性質を最初から生み出すことである。
公知の従来技術によれば、このコロナ処理はこれまで正弦波の電圧曲線で行われている。
コロナ放電とはいわゆるバリヤ機構で生成される過渡的なガス放電であって、無音放電とも呼ばれるものである。この放電は2つの電極の間で起こり、このとき少なくとも1つの誘電バリヤが各電極の間に配置されている。それによって放電特性に影響を与えることができる。」(第2頁4〜12行)
「本発明による方法の主要部はパルス式に作動する高圧発生器であり、この高圧発生器は放電の特性と作用を広い範囲で変えることを可能にする。この高圧発生器は電圧パルスないしパルス列を繰り返して生成するものである。正弦波の電圧を提供する公知の発生器とは異なり、本発明では電圧振幅とパルス繰り返し周波数を相互に無関係に変えることができる。たとえば4μsの立上り時間をもつ17kVのパルスを得ることができ、このとき、パルス繰り返し周波数は0から30kHzの間で調整することが可能である。」(第2頁22〜28行)
「本発明の方法との関連で用いられるコロナステーションは、電極機構(金属、セラミック、ガラス)とローラ(コーティングあり、およびコーティングなし)で構成されている。さらに三次元の対象物を処理するには、パルス式のコロナ放電でピン電極システムを作動させることが可能である。
本発明による方法は大気圧のとき、空気中でも異種気体のもとでも実施することができる。
本発明による方法は多種多様な材料に適用することができ、たとえばプラスチック金属フィルム、複合材料、繊維製品(天然繊維、人工繊維、混紡)、紙、三次元の構造物(プラスチック、金属、ガラス、セラミック)等に適用できる。」(第2頁56〜64行)
「1.高圧発生器によって電極の間で生成される交流の高圧によって大気圧のもとでコロナ処理する方法において、高圧発生器が繰り返されるパルス式の電圧を生成することを特徴とする方法。
2.パルス式の動作が、1から100kHzの範囲内の作業周波数と、1μsから100msの間のパルス時間と、0から数秒のパルスポーズとで行われ、このときパルスポーズはそれぞれ異なる長さでもあり得る、請求項1記載の方法。
3.作業周波数が15から50kHzの間であり、20から200μsの間のパルス時間とパルスポーズで動作が行われる、請求項2記載の方法。
4.パルス式のコロナ放電が空気または異種気体の雰囲気のもとで行われる、請求項1,2または3記載の方法。
5.パルス式のコロナ放電が反応気体の中で、たとえば二酸化炭素、一酸化炭素、酸素、水素、エチレン、アセチレン、空気、あるいはこれらの気体の混合気の中で行われる、請求項4記載の方法。
6.パルス式のコロナ放電が不活性ガスの雰囲気の中で、たとえば窒素、アルゴン、あるいはこのような種類の不活性ガスの混合気の中で行われる、請求項4記載の方法。」(第5頁、特許請求の範囲)

3-4-2.刊行物2(特開平5-339397号公報)
刊行物2には、高電圧パルスを印加してコロナ放電を発生させてコロナ処理を施すことに関し、
「【請求項1】三次元形状を有する樹脂成形品を放電電極と対向電極の間に配置し、両電極間に高電圧を印加してコロナ放電を発生させることにより、樹脂成形品の表面にコロナ放電処理を施す方法において、パルス幅が1μs以上、印加電圧(波高値)/極間距離で表される平均電界強度が4〜20kv/cm、パルス頻度が10pps以上の高電圧パルスによりコロナ放電を発生させることを特徴とするコロナ放電処理方法。
【請求項2】請求項1の方法において、高電圧パルスの平均電界強度が6kv/cm以上であるとともに、樹脂成形品と対向電極の間に、厚さ1mm以上の誘電体を介在させておくコロナ放電処理方法。」(第2頁【特許請求の範囲】)
「従来のコロナ放電処理では、放電電極と対向電極の一対の電極を用い、この一対の電極の間に被処理物を配置しておき、常圧下で電極間に高電圧をかけてコロナ放電を発生させることによって、被処理物の表面にコロナ放電処理を施す。」(段落番号【0003】)
「【0016】放電電極としては、コロナ放電処理で一般的に用いられている公知の形状の放電極の構造が用いられる。具体的には、例えば、樹脂成形品の外周から一定の距離をおいた位置に端縁を有する薄板状もしくはナイフエッジ状の電極を並べて配置するものが用いられる。また、針状の電極をブラシ状に並べたものでも良い。」(段落番号【0016】)
「【0018】コロナ放電処理においては、放電電極と対向電極の間に印加する高電圧パルスの波形によって、発生するコロナ放電の特性あるいは樹脂成形品に対する処理効果が変わる。この発明では、高電圧パルス波形の諸要素のうち、まず、パルス幅を1μs以上、好ましくは2〜20μsに設定する。一般的な処理条件では、3〜10μsが好ましい。パルス幅が1μs未満では、極間距離を大きくした場合、樹脂成形品に対する表面処理効果が弱く、エネルギー効率が極端に低くなる。パルス幅が大きくなり過ぎると、有害な火花放電(いわゆるスパーク)が発生し易くなり好ましくない。」(段落番号【0018】)
「図5のように、概略L字形の樹脂成形品10に対して、樹脂成形品10の下面に沿って、同じL字形をなす対抗電極20を用い、放電電極40も同じL字形に形成している。」(段落番号【0040】)

3-4-3.先願明細書3(特願平7-10912号(特開平8-198984号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面)
先願明細書3には、高電圧パルスを印加してコロナ放電を発生させて処理を行うことに関し、
「【請求項1】フッ素樹脂フィルムを放電電極と対向電極間に配置し、印加電圧/極間距離で表される平均電界強度が40〜200k∨/cm、パルス幅が1〜50μsおよびパルス頻度が10〜150ppsである高電圧を印加してコロナ放電を発生させることにより、フッ素樹脂フィルム表面を改質する方法。」(【特許請求の範囲】)、
「実施例 図1にその概要を示すコロナ放電処理装置を用いフッ素樹脂フィルム1をコロナ放電処理した。図1中、2は高電圧パルス発生装置、3はコロナ放電電極、4は対向電極、5は絶縁層および6はハウジングを示す」(段落番号【0018】)、
と記載され、図1には平行平板の放電電極と対向電極が距離をおいて配置され、対向電極の対向面に絶縁層(固体誘電体)を設置し、その上にフッ素樹脂フィルムをおいて、電極間にパルス化された電界を印加する態様が示されている。
「フッ素樹脂フィルム1は対向電極4に密着して用い、ハウジング内の空気は大気と流通させながら行った。」(段落番号【0019】)、
と記載され、公報第4頁の【表1】には、実施例1から実施例4において、平均電界強度40〜100kV/cm、パルス幅2μsの例が記載されている。

3-4-4.刊行物4(「電気工学事典」、宇都宮敏男 他偏、株式会社朝倉書店)
刊行物4には、大気圧下での平等電界での放電に関し、
「気体の破壊電圧は気体の種類,電極形状,電圧波形などによって異なる.大気圧空気の場合,平等電界では30kV/cm,不平等電界では5kV/cmと近似的に表現している.」(第227頁左欄7〜11行)
と記載されている。

3-4-5.刊行物5(プラスチックの表面化学と表面処理技術 物理的処理技術(2))
刊行物5には、プラズマ処理技術における電極を用いた放電によるプラズマの発生に関し、
「プラズマ処理を実施するためにはプラズマを発生させる必要がある.次に示すような方法に分類できる. (イ)電極を用いた放電によるプラズマの発生(a)グロー放電(b)コロナ放電:グロー放電のとき電極の一方を針状にし他方も板状としてこの間で交流放電を行う。針状電極周囲に王冠状のグロー放電が認められる.」(第106頁右欄23行〜29行)
「ii)グロー放電処理
この方式は被処理物質の形状にあまり左右されないで実施することができるがあまり大きな面積の処理がまだむずかしいことや処理の再現性などの若干のわるさなどから次に述べるコロナ放電の方が広く実用されている. つぎに表面処理の結果について示す.図19の装置でポリエチレンおよびテフロンの処理を行なった.」(第107頁左欄1行〜7行)
「電極間の距離は16cmでその中央に被処理試料を置く.」(第107頁左欄8行)
「0.1torr付近で種々な液体に対する接触角が最小となり非常に濡れやすい表面に変化している.この圧力よりも高くなったりあるいは減圧になっても処理の効果は落ちる」(第107頁左欄11行〜右欄1行)
と記載され、図19には真空ポンプを有する電極型のグロー放電処理の装置が、図20には、0.01torrから10torrまでの放電時圧力における放電処理ポリエチレンの液体に対する接触角のグラフが記載されている。

3-4-6.刊行物6(プラスチックの表面化学と表面処理技術 物理的処理技術(3))
刊行物6には、前記刊行物5記載のグロー放電処理に続いて、コロナ放電処理に関して言及しており、
「2.3.3 コロナ放電処理
(i)処理装置
前回説明したグロー放電(低圧において、平行平面電極間で放電させる)と異なり、針状あるいはナイフエッジと対極間とで放電を行わせ、その間に試料を入れて処理する.前回のグロー放電処理とどこが本質的に異なる点かは明確でない.放電空間の種々な活性種の種類や量およびそのエネルギーなどがコロナ放電処理とグロー放電処理の差であろう.」(第104頁左欄1行〜9行)
と記載されている。

3-4-7.刊行物7(放電プラズマによる排ガス処理の研究)
刊行物7には、無声放電に関し、
「(5)無声放電
平行な電極の間にガラス等の絶縁物を挟んで空隙を数mmとし、交流電圧を印加すると、スパークを起こすことなく空隙にパルス状の小さな放電が無数に発生する.
これが無声放電であり古くよりオゾンの発生などに利用されている.」(第345頁左欄14行〜19行)
と記載されている。

3-4-8.刊行物8(特開平6-336529号公報)
刊行物8には、高電圧パルスを印加してコロナ放電を発生させ、コロナ放電処理を施すことに関し、
「三次元形状の樹脂成形品10を放電電極40と対向電極20の間に配置し、両電極20,40間に高電圧を印加してコロナ放電を発生させ、樹脂成形品10の表面にコロナ放電処理を施す方法」(第1頁【構成】)、
「パルス幅が1μs以上、印加電圧(波高値)/極間距離で表される平均電界強度が4〜20kv/cm、パルス頻度がl0pps以上の高電圧パルスによりコロナ放電を発生させるとともに、」(第2頁【特許請求の範囲】)、
「この発明は、コロナ放電処理方法に関し、詳しくは、様々な三次元形状を有する樹脂成形品に対して、塗装性や印刷性、接着性などを向上させるために、コロナ放電による表面処理を行う方法に関するものである。」(段落番号【0001】)、
「従来のコロナ放電処理では、放電電極と対向電極の一対の電極を用い、この一対の電極の間に被処理物を配置しておき、常圧下で電極間に高電圧をかけてコロナ放電を発生させることによって、被処理物の表面にコロナ放電処理を施す。」(段落番号【0003】)、
「そこで、この発明の課題は、上記のような従来技術の問題点を解消し、有害な火花放電の発生を防止して、樹脂成形品の縁部まで確実に処理を施すことができるとともに、樹脂成形品に対する表面処理効果が高く、しかも、電極の作成が簡単で、樹脂成形品の形状変更にも容易に対応できるコロナ放電処理方法を提供することにある。」(段落番号【0011】)、
「【0016】放電電極としては、コロナ放電処理で一般的に用いられている公知の形状の放電極の構造が用いられる。具体的には、例えば、樹脂成形品の外周から一定の距離をおいた位置に端縁を有する薄板状もしくはナイフエッジ状の電極を並べて配置するものが用いられる。また、針状の電極をブラシ状に並べたものでも良い。」(段落番号【0016】)
「空調処理室100には、空気配管106が接続されている。・・・空調配管106の空調空気が、空調処理室100の中央に供給された後、左右に別れて空調処理室100内を通過した後、コンべアラインCの入口側および出口側から出ていくことになる。」
(段落番号【0039】)、
「図6は、高電圧パルスの波形を示している。この波形は、放電電極40と対向電極20の間に印加される電圧の波形を、オシログラフで測定した場合に得られる波形である。」(段落番号【0046】)、
「波形Poは、従来使用されていたパルス幅が1μs以下の高電圧パルスの波形であり、パルス幅tが0.2μs、波高値Vpが50kv程度のものである。これに対し、波形Plは、この発明で用いる高電圧パルスの一例を示す波形である。この波形は、いわゆる減衰振動波形を示している。このような減衰振動波形では、パルス幅tは第1波のパルス幅で規定し、具体的にはt=4μsとなっている。」(段落番号【0047】)、
「図8のように、概略L字形の樹脂成形品10に対して、樹脂成形品10の下面に沿って、同じL字形をなす対抗電極20を用い、放電電極40も同じL字形に形成している。」(段落番号【0052】)
「なお、一部の実施例では、対向電極20の上に、誘電体60として10mm厚の塩ビシートを全面を覆うように設置し、その上に、樹脂成形品10を載せた。放電電極40と対向電極20の間の極間距離Wを15〜30cmに設定して、高電圧パルスを印加した。高電圧パルスの波形を、種々変えて、樹脂成形品10にコロナ放電処理を施した。」(段落番号【0058】)
と記載されている。

3-4-9.刊行物9(異議申立人吉川俊雄の提出した甲第2号証である「PDM出力制御法」)
刊行物9には、コロナ放電処理システムのPDM出力制御に関し、
「筆者らは先に、コロナ放電処理装置の高周波電源として、30kHz 5kW IGBTインバータを開発した。これは、ポリエチレンやポリプロピレン・フィルムのインクや接着剤に対する親和性を向上するために、フィルム表面に放電処理を行うものである。」(第117頁「1.まえがき」3行〜7行)、
「本論文では、コロナ放電処理システムのPDM(Pulse Density Modulation)による出力制御法を検討する。」(第117頁「1.まえがき」13行〜14行)、
「図1にシステム構成を示す。放電電極はロール電極と棒状電極により構成され、約3mmのエアギャップをもって平行に配置している。電極間に高周波高電圧を印加すると、エアギャップの空気が絶縁破壊してコロナ放電が生じ、エアギャップにフィルムを通すことによって放電処理が行われる。」(第117頁「2.システム構成」1行〜4行)、
「インバータ部は、単相フルブリッジ構成とし、two in oneタイプのIGBTモジュールを2個用いている。IGBT素子の最大定格は、コレクターエミッタ間耐圧500Vコレクタ電流50Aである。表1に使用したIGBTの特性を示す」(第117頁「2.システム構成」6行〜第118頁3行)、
「PDM(Pulse Density Modulation)制御は、電圧形インバータがパルスを出力している期間と出力電圧が零となっている期間との比で出力電圧を調整する方法である。」(第119頁「3.PDM制御法の原理」4行〜6行)、
「本論文のコロナ放電処理システムでは共振周波数が約30kHzであるため、放電電力の脈動周波数は数kHzであり、コロナ放電処理には影響をほとんど与えない。」(第119頁「3.PDM制御法の原理」10行〜12行)、
「図9は出力400W時の2次電圧v2、2次電流i2の波形である。この時の2次電圧最大値は約18kVであり、放電電極の全域で良好なコロナ放電を観測できた。図10は出力150W時の2次電圧v2、2次電流i2の波形である。150W出力時であっても2次電圧最大値は約17kVであり、電極間電圧はほとんど低下していない。この時には放電電極表面においてグロー放電を生じていたが、部分的な放電は生じておらず、電極の全域において一様な放電となっていた。
」(123頁10行〜16行)
と記載されているとともに、図1に、システム構成が記載されておりロール電極と棒状電極が電極として模式的に記載されている。

3-4-10.刊行物10(異議申立人吉川俊雄の提出した甲第3号証である「PDM電力制御」)
刊行物10には、コロナ放電処理システムのPDM出力制御に関し、
「本論文では、コロナ放電処理システムを負荷とする電圧型インバータに対してパルス密度変調(以下ではPulse Density Modulation:PDMと略す)による電力制御方法を提案する。」(第460頁左欄14行〜17行)
「図2にコロナ放電処理システムの電極構造を示す。放電電極は平行に配置された円筒状電極の棒状電極により構成し、エアギャップは約3mmとしている。円筒状電極は.アーク放電への移行を抑制するために誘電体層で覆われている。電極間に高周波電圧を印加すると、エアギャップの空気が絶縁破壊してコロナ放電が生じる。エアギャップ間を通過する樹脂フィルムはコロナ放電により表面処理が施され、インクなどに対する親和性が向上する。」(第460頁右欄14行〜22行)、
「電極の全体で均一な放電が可能となっている。」(第464頁左欄15行〜16行)
と記載されている。

3-4-11.刊行物11(特開昭47-4890号公報)
刊行物11には、コロナ放電を発生させ処理を行うことに関し、
「コロナ放電に伴なう音波周波数範囲の高電圧に表面をさらすプラスチック物体の表面処理方法」(特許請求の範囲第1項)、
「本発明による装置はコロナ放電により得られる、音響周波数範囲(20〜20000Hz、好ましくは20〜5000Hz)のパルス波形を有する高強度の電圧をトランスを介して処理負荷回路に送るための発生器を使用する。」(第4頁左上欄2行〜6行)
と記載されているとともに、Fig.3には、円筒状電極と、棒状電極と思われる電極が見てとれる。

3-4-12.刊行物12(特開平4-74525号公報)
刊行物12には、グロー放電大気圧プラズマ処理に関し、
「対向する電極の少なくとも一方の電極の表面に固体誘電体を配設してなる誘電体被覆電極を有するプラズマ反応装置に気体を導入し、大気圧下プラズマ励起を行って、対向する電極の間に位置する被処理体の表面処理を行う表面処理において、導入する気体がアルゴン並びにヘリウム及び/またはアセトンから本質的になる気体組成物であることを特徴とする大気圧プラズマ表面処理方法。」(特許請求の範囲)、
「本発明の大気圧プラズマ表面処理法によれば、極めて簡便な装置を用いてプラスチック被処理体表面に迅速に親水性を与えることができ、しかもその親水性の持続性が極めて高い。」(第2頁右上欄8行〜11行)、
「前記気体組成物は、アルゴン99.9〜10容量%69アセトン0.1〜90容量%(ただし、アルゴンとアセトンの合計が100容量%となる。以下に同じ)、好ましくはアルゴン99〜80容量%及びアセトン1〜20容量%から本質的になる。」(第3頁右上欄5行〜10行)、
「上下電極間に200Hzの高周波電圧を印加してグロー放電を起こさせてプラズマ励起を行って、被処理体の表面処理を行う。」(第3頁右下欄最下行〜第4頁左上欄2行)
「本発明においては、不活性基体をプラズマ励起するために、グロー放電が行われる。この際に用いられる交流電源の周波数は特に制限されるものではないが・・・最も好ましくは1,000〜10,000Hzである。」(第4頁左上欄18行〜右上欄4行)
「グロー放電を行う際の電圧、電流、出力等の条件は被処理体の性質に応じて適宜選択されるが、一般に電圧は2000〜4000V」(第4頁右上欄9行〜11行))
と記載されている。

3-4-13.刊行物13(特開平3-241739号公報)
刊行物13には、大気圧下でグロー放電プラズマを励起させて処理を行うことに関して、
「上部電極の表面に固体誘電体を配設してなる誘電体被覆電極を有する反応容器内において、モノマー気体を導入して大気圧下にプラズマ励起させて基体表面を処理することを特徴とする大気圧プラズマ反応方法。」(第1頁左下欄6〜10行)
「このプラズマの形成は、高電圧の印加により行うが、この際に印加する電圧は、被処理表面の性状や表面処理の時間に応じて決めることができる。安定したグロー放電を得るためには放電電流を徐々に上昇させることや、金属基体の場合には下部電極(3)とアースとの間にコンデンサーを介在させること、パルス電源の使用などの適宜な手段を採用することができる。」(第2頁右下欄3〜10行)
「反応ガスについては、特に制限はないが、使用する希ガスあるいは不活性ガスとしては、He,Ne,Ar,N2等の単体または混合物を適宜用いることができる。」(第2頁右下欄11〜14行)
「混合して導入するモノマー気体は、エチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素、または、CF4、C2F6、CHF3、またはSF6等のハロゲン化炭化水素や他の官能基を有するあるいは有しない炭化水素類等の任意のものを用いることができる。」(第2頁右下欄16行〜第3頁左上欄1行)、
「実施例1
電極直径30mm巾、電極間距離10mmの耐熱性カプトン被覆電極用いた第1図の装置において、次の条件によりエチレンモノマーからポリエチレン膜を形成した。
(a)反応ガス流量
C2H4: 3.6SCCM
He : 210SCCM
(b)放電
大気圧、常温
3000Hz,1.0kV,
1〜5mA(徐々に上昇させる)
(c)基体
シリコン基板」(第3頁右上欄17行〜左下欄10行)

「実施例2
実施例1と同様にして、次の条件でポリエチレンテレフタレート膜を処理し、その表面を疎水化した。
(a)反応ガス流量
CF4: 25SCCM
He : 210SCCM
(b)放電
大気圧
3000Hz,3.5kV,
2〜8mA(徐々に上昇させる)」(第3頁左下欄第18行〜右下欄第8行)

「実施例3
電導体グラファイト(ラッピング済み)を基体として、実施例2と同様にして処理した。
(a)反応ガス流量
CF4 : 96SCCM
He : 220SCCM
(b)放電
大気圧
3000Hz,2.8kV,
3〜5mA(徐々に上昇させる)」(第3頁右下欄13行〜第4頁左上欄2行)と記載されている。

3-4-14.刊行物14(異議申立人吉川俊雄の提出した甲第7号証である「Coronadischarges and their applications」)
刊行物14には、コロナ放電に関し、
「Corona discharges and their applications」(第1頁2行)
「Despite their differing aspect, and although they operate in gases at higher pressures and in nonuniform electric fields, corona discharges can be considered as glow discharges, whatever the polarity of the active electrode.」(第1頁5行〜7行)
「Their main features are presented in the paper, together with a look at applying fields.」(第1頁7行〜8行)
と記載されている。

3-4-15.刊行物15(異議申立人吉川俊雄の提出した甲第8号証である「大気圧グロー放電における電流波形の測定」)
刊行物15には、大気圧グロー放電に関し、
「これらの問題を解決するために大気圧中で処理する大気圧グロー放電法が開発された。大気圧で安定なグロー放電を発生することができれば真空装置を必要としないため、コスト低減に大いに有益である。しかし、普通に大気圧中で放電を行うとアーク状になったり、スポット状になったりと不均一なものになってしまう。表面処理を目的とするなら、均一なグロー放電が好ましく、このような放電は使用できない。大気圧でグロー放電を発生させる条件として、(1)ガスとしてヘリウム(He)を使用する
(2)電源周波数1kHz以上のものを使用する (3)電極としてオゾナイザーで知られている平行平板電極の一方を誘電体(ガラス)で覆うことが挙げられている」(第59頁左下欄5行〜右下欄11行)
「電極の形状は、直径5cm、平面部直径4cmの近似ロゴウスキー平行平板電極で、」(第60頁左欄18行〜19行)、
「Heガスの場合、電極間隔lmmでは放電開始電圧は約350V、放電状態は全体的にぼんやりとしたグロー状で、紫色の安定したグロー放電であった。」(第62頁2行〜4行)、
「また、Fig.7は、電極間隔lmmにおける全電流波形(CH1)とプローブ電流波形(CH2)を示している。なお、CH1は13.3mA/divで、CH2は0.7mA/divである。」(第62頁24行〜26行)
と記載されているとともに、Fig.6、8および10に交流の印加電圧波形が記載されている。

3-5.対比・判断
3-5-1.大気圧グロー放電と大気圧コロナ放電について
まず、本件における大気圧グロー放電と大気圧コロナ放電とのちがいについて、検討する。
刊行物14には、コロナ放電とグロー放電に関し、コロナ放電(corona discharges)は様相が異なる(their differing aspect)上に、コロナ放電(corona discharges)は不平等電界で動作する(they operate in gases at higher pressures and in nonuniform electric fields)と記載されているように、コロナ放電はグロー放電とは異なり、不平等電界で発生するものと認められる。なお、該刊行物11には、コロナ放電は、グロー放電とみなすことができる(corona discharges can be considered as glow discharges)とも記載されているが、これは、放電時の電流電圧特性等の特徴に関することであり、放電の様相や電界の状態(平等電界と不平等電界)が異なるものであることは明らかである。
また、特許権者が平成14年11月26日に提出した意見書に添付された参考文献1(特開平7-99182号)で引用されている特開平4-212253号公報に、
「大気圧状態は低電界では絶縁体であるが、直流、交流、インパルス等の高電界を印加すると絶縁破壊を起こし電流が流れるようになる(持続放電)。持続放電はコロナ放電、グロー放電、アーク放電に分けられる。平等電界のときには自続放電に移るとただちに全路破壊し、グロー放電もしくはアーク放電に移行するが、不平等電界のときにはまず、電界の強い局部のみ絶縁破壊され、コロナ放電がおこる」(第2頁左上欄18行〜6行)、
「外側導体の内径/中心導体の外形≧3 これは中心導体(11)と外側導体(12)の間の電界が不平等となる条件(コロナ発生条件)となっており、・・・前記の式が3よりも小さく1に近い値だあったとしても(・・・)、放電はコロナ放電を経由することなくグロー放電を起こすだけであり」(第3頁左上欄17行〜右上欄7行、ただし、数式は割り算を「/」に置き換えて記載してある。)
と記載されており、
ここでも、大気圧において、グロー放電は平等電界で、コロナ放電は不平等電界で発生することが記載されている上に、同軸円筒状の電極を用いる場合であっても、グロー放電は、電界がほぼ平等となる径の電極を用いているのに対し、コロナ放電は、電界が不平等となる径の電極を用いていることが記載されている。
ところで、同軸円筒型放電電極は、本来、コロナ放電発生電極として多用されている電極であり、したがって、そのような同軸円筒型放電電極では、不平等電界が発生しているものと解される。
そこで、本件明細書中の同軸円筒型放電電極についての記載を見ると、「上記対向電極は、電解集中によるアーク放電の発生を避けるために、対向電極間の距離が略一定となる構造であることが好ましい。この条件を満たす電極構造としては、平行平板型、・・・同軸円筒型構造等が挙げられる。」(段落番号【0016】)と記載されるのみで、その具体的なサイズ等、同軸円筒型電極でグロー放電を発生させるための構成を伺わせる記載は見あたらない。
尤も、同軸円筒型電極においても、対向電極の曲率半径を大きく取り、内外径差を小さく取ると、局部的には平行平板型電極に近似し得るので、同軸円筒型電極では一概に平等電界を発生させることができないとは言えない。
以上のことを勘案すると、本件発明における「同軸円筒型構造」は、平等電界を発生させる構造・形状を有する電極構造であると解するのが相当であって、対向電極間の電界が、略々平等電界となるような構造・形状(具体的には各電極の曲率半径、電極間距離)を有するものに限定的に解すべきものであると言える。
同様に、本件発明における「平行平板型・・構造をした電極」についても、対向電極間の電界が、略々平等電界となるような構造・形状(具体的には各電極の面積、電極間距離)を有するものに限定的に解すべきものであると言える。

3-5-2.29条の2について
3-5-2-1.本件発明1について
上記の点をふまえ、本件発明1と上記先願明細書3記載の発明とを対比すると、
先願明細書3には、大気圧下で高電圧パルスを印加してコロナ放電を発生させて処理を行うことが記載されているが、上記のごとく、大気圧グロー放電を利用する装置と、コロナ放電を利用する装置とは、電界の状態(平等電界と不平等電界)も、該電界の状態を発生する電極構造も異なるものと認められるし、図1において、模式的に平行平板の放電電極と対向電極が距離をおいて配置された電極構造が示されているものの、電極のサイズと電極間距離は何ら記載されておらず、平等電界を発生するような、すなわち、グロー放電を発生するような平行平板状の電極構造となっているとはいえないから、本件発明1は先願明細書3に記載された発明であるとはいえない。

3-5-2-2.本件発明5について
本件発明5は、本件発明1と「方法」と「装置」の違いはあるものの、実質的に本件発明1を特定する事項の全てを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明5も、本件発明1についての理由と同じ理由により、上記先願明細書3に記載された発明であるとはいえない。

3-5-3.29条第2項について
3-5-3-1.本件発明1について
刊行物1、2、4ないし15に記載された発明と本願発明1とを対比する。
刊行物1、2、8、10及び11には、本件発明1に記載の条件と同様のパルスを電極に印加することが記載されているものの、大気圧下のコロナ放電プラズマ発生装置であって、大気圧下でのグロー放電プラズマを発生するものではなく、また、グロー放電プラズマを発生させることができる旨の記載も示唆もない。そして、上記のごとく、大気圧グロー放電を発生する装置と、コロナ放電を発生する装置とは、電界の状態(平等電界と不平等電界)も、該電界の状態を発生する電極構造も異なるものと認められる。
さらに、上記刊行物には、実質的にもグロー放電を発生させる条件である平等電界が印加されるような平行平板または同軸円筒状の電極構造が記載されているとは認められない。
具体的には、刊行物1の図2に記載の電極は、ロール状(円筒状)電極と外側のプレート状電極であることが見てとれるものの、単なる略図にすぎず、ロール状の電極の径や、外側電極の形状、電極間の距離等、電極構造がどのようなものかは、図面上では実質的に判断できず、コロナ放電装置であっても、実質的に、グロー放電となる条件である平等電界が印加されるような同軸円筒状の電極構造となっているとは認められない。
刊行物2の電極に関しては「放電電極としては、コロナ放電処理で一般的に用いられている公知の形状の放電極の構造が用いられる。」と記載されている上に、図5及び図10には、ほぼ平行な電極構造が模式的に示されているものの、図で見てとれる範囲では、電極の巾等がわからず、これが、グロー放電を発生するための条件となる平等電界を発生させるような電極に実質的になっているとは認められない。
刊行物8の電極に関しては「放電電極としては、コロナ放電処理で一般的に用いられている公知の形状の放電極の構造が用いられる。」と記載されている上に、図8及び図13には、ほぼ平行な電極構造が模式的に示されているものの、図で見てとれる範囲では、電極の巾等がわからず、これが、グロー放電を発生するための条件となる平等電界を発生させるような電極に実質的になっているとは認められない。
刊行物10の電極構造は、「平行に配置された円筒状電極の棒状電極により構成」(「円筒状電極と棒状電極」の誤記と認める。)されることから、グロー放電を発生するための条件となる平等電界が印加されるような平行平板状または同軸円筒状の電極構造となっているとは認められない。
刊行物11の電極構造は、図から、円筒状電極と棒状電極であると思われるものの、これは、グロー放電を発生するための条件となる平等電界が印加されるような平行平板状または同軸円筒状の電極とは認められない。
よって、上記刊行物に記載された発明は、その何れにおいても、本件発明1を特定する事項である「平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極」において「大気圧近傍の圧力下」で「電極間」に「電圧立ち上がり時間が100μs以下」、「電界強度が1〜100kV/cm」の「パルス化された」電界を印加して「固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間」または「双方に設置された固体誘電体間の空間」に「グロー放電プラズマを発生」させる構成を備えていない。
しかも、既述のごとく、グロー放電を発生する装置とコロナ放電を発生する装置とでは、その電界の状態(平等電界と不平等電界)も、該電界の状態を発生する電極構造も異なるという技術常識から見て、上記刊行物1、2、8、10及び11記載の、コロナ放電を発生するための電極へのパルス印加条件を有する装置において、電極のみをグロー放電となる条件である平等電界が印加されるような平行平板または同軸円筒状の電極構造のものに変えるという発想、及び、電極を変えたにもかかわらず該電極への電界印加条件は変更せずに、コロナ放電装置のための条件をそのまま使うという発想は、たとえ当業者であっても容易に到達しうるものとはいえない。
よって、本件発明1は、刊行物1、2、8、10及び11記載の発明から容易に発明できたものではない。

刊行物9は、コロナ放電に関するものであって、「図10は出力150W時の2次電圧v2、2次電流i2の波形である。150W出力時であっても2次電圧最大値は約17kVであり、電極間電圧はほとんど低下していない。この時には放電電極表面においてグロー放電を生じていた」との記載があり、コロナ放電プラズマ処理装置において、印加電界が本件発明と同じ条件下で、電極表面にグロー放電がしうることは示しているが、電極表面においてグロー放電が発生していることが記載されているだけであり、「電圧立ち上がり時間が100μs以下」で「電界強度が1〜100kV/cm」の「パルス化された」電界を印加することで、「固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間」または「双方に設置された固体誘電体間の空間」に「グロー放電プラズマを発生」させるとの記載はなく、電極構造に関しても、「放電電極はロール電極と棒状電極により構成され」と記載されており、これが、実質的に、グロー放電の発生条件である平等電界となるような電極形状をしているとも認められない。また、既述のごとく、グロー放電を発生する装置とコロナ放電を発生する装置とでは、その電界の状態(平等電界と不平等電界)も、該電界の状態を発生する電極構造も異なり、等価なものとは認められないから、刊行物1、2、8、10及び11と同様に、刊行物9記載のコロナ放電装置から、当業者が容易に本件発明1記載の大気圧グロー放電処理装置に到達し得るとものはいえない。

刊行物4は、大気圧空気での平等電界での破壊電圧がおおよそ「30kV/cm」、不平等電界での破壊電圧がおおよそ「5kV/cm」であることが記載されているが、「大気圧でグロー放電プラズマを発生」させるために、「電極間」に「電圧立ち上がり時間が100μs以下」で「パルス化された」電界を印加することは、記載も示唆もされていない。

刊行物5には、プラズマ処理に関し、グロー放電とコロナ放電があることが記載され、また、グロー放電処理に関する例が記載されているが、「大気圧近傍の圧力下」でもなく「パルス化された」電界を印加するものでもない。

刊行物6は、コロナ放電処理に関するものであり、「グロー放電処理とどこが本質的に異なる点かは明確でない」との記載はあるものの、コロナ放電に関しては「グロー放電(低圧において、平行平面電極間で放電させる)と異なり」と記載されているように、グロー放電とコロナ放電は異なったものとしており、「パルス化された」電界を印加して「グロー放電プラズマを発生」させることは、記載も示唆もされていない。

刊行物7には、コロナ放電の一種である無声放電に関し「平行な電極の間にガラス等の絶縁物を挟んで空隙を数mmとし、交流電圧を印加すると、スパークを起こすことなく空隙にパルス状の小さな放電が無数に発生する」と記載されているが、これは、無声放電の説明であり、グロー放電に関しては記載も示唆もない上に、電極形状についても単に「平行な電極」との記載しかなく、グロー放電を起こす条件である、平等電界を発生させるものとは認められないから、「固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間」または「双方に設置された固体誘電体間の空間」に「グロー放電プラズマを発生」させるものとは認められない。

刊行物12には、大気圧下でグロー放電を行うプラズマ処理装置に関する記載があるが、「交流電源」によりグロー放電が行われるものであり、「電極間」に「パルス化された」電界を印加することは、記載も示唆もされていない。

刊行物13には、「安定したグロー放電を得るためには放電電流を徐々に上昇させることや、金属基体の場合には下部電極(3)とアースとの間にコンデンサーを介在させること、パルス電源の使用などの適宜な手段を採用することができる。」と記載され、大気圧グロー放電において、パルス電源を使用しうる旨の記載があり、また、反応ガスについて「使用する希ガスあるいは不活性ガスとしては、He,Ne,Ar,N2等の単体または混合物を適宜用いることができる。」との記載もあるが、どのようなパルス電源を用いるかの記載は全くなく、電極へ印加するパルスの印加条件も記載されていない。さらに、実施例は、交流駆動する大気圧グロー放電プラズマ発生装置において通常用いられるヘリウムガスを主に用いたものであり、ヘリウム以外の雰囲気ガスでグロー放電を行うために、電極間に印加する電圧の印加条件に関しては、記載も示唆もされていない。

刊行物14には、おおよそ「様相が違うもにもかかわらず、しかも、より高いガス圧で、不平等電界で動作するものの、コロナ放電は、グロー放電とみなすことができる」旨の記載があるが、コロナ放電とグロー放電では、放電の様子やガス圧、電界等の動作条件は異なっているということを前提としているものであり、該記載を一般化して、大気圧下でのコロナ放電と大気圧下でのグロー放電を同一の印加条件で放電する同一の放電現象とみなすことは出来ない上に、「大気圧近傍の圧力下」でのグロー放電における「電圧立ち上がり時間」に関して何ら言及しているものでもない。

刊行物15には、大気圧下でグロー放電を行うプラズマ処理装置に関する記載があるが、「交流電源」によりグロー放電が行われるものであり、「電極間」に「パルス化された」電界を印加することは、記載も示唆もされていない。

以上のごとく、いずれの刊行物にも、大気圧グロー放電プラズマを発生させるものであって「平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極」の「電極間」に「電圧立ち上がり時間が100μs以下」で「電界強度が1〜100kV/cm」の「パルス化された」電界を印加することにより「固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間」または「双方に設置された固体誘電体間の空間」に発生させるものはない。

そして、既に述べたように、コロナ放電とグロー放電とは、その電界の状態や電極形状及び放電現象が異なるものであるのだから、たとえ上記刊行物記載の発明のコロナ放電プラズマ発生装置(刊行物1、2、8-11)の電極へのパルスの印加条件が本件のグロー放電プラズマ発生装置の電極へのパルスの印加条件と同じだとしても、それをもって、刊行物12、13、および15に記載のような大気圧グロー放電プラズマ処理装置の電極間に、上記コロナ放電プラズマ処理装置(刊行物1、2、8-11)で用いられる印加条件のパルスを用いるという発想は、当業者といえども直ちに到達しうるものとは言えず、しかも、本件発明1は、上記の印加条件のパルスを電極間に印加するという発明特定事項により、「電極間」の空間に、ヘリウム以外のガスでも安定してグロー放電プラズマを発生できるという顕著な効果を奏するものであって、該効果についても、上記刊行物に記載された発明からでは、たとえ当業者といえども容易に予期しえないものである。

したがって、本件発明1が、上記刊行物1、2、4ないし15に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3-5-3-2.本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成に加えて、さらに構成を付加するものであって、本件発明1を特定する事項の全てを、その発明の特定事項とするものである。
したがって、本件発明2ないし4も、本件発明1についての理由と同じ理由により、上記刊行物1、2、4ないし15に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3-5-3-3.本件発明5について
本件発明5は、本件発明1と「方法」と「装置」の違いはあるものの、実質的に本件発明1を特定する事項の全てを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明5も、本件発明1についての理由と同じ理由により、上記刊行物1、2、4ないし15に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3-5-4.36条違反について
3-5-4-1.3-3-1について
同軸円筒型構造をした電極により、コロナ放電ではなくグロー放電を発生させる構成としては、上記3-5-1に記載のように、実質的に平等電界となるような構成であればよいことが技術常識であり、該技術常識を勘案すれば、電極の内径と外径の比を1に近づければ実質的に平等電界となることも明らかであるから、本件発明において同軸円筒型構造をした電極が、コロナ放電ではなくグロー放電を発生させる構成が不明瞭であるとはいえない。

3-5-4-2.3-3-2について
例えば、20kHzの変調波を変調する場合には、変調によって得られる波形は、変調周波数である20kHzの細かなパルスが繰り返されるものとなり、この細かなパルスは、各々が立ち上がり時間を有すると解釈しうるから、「変調を行ったパルス」の場合、該変調された各々のパルスの立ち上がり時間が「電圧立ち上がり時間」と認められるので、定義が明確でないとはいえない。

3-5-4-3.3-3-3について
パルス化された電界には、変調されていないものと、図1(D)のように変調されパルス化されたものがあるが、上述のごとく、図1(D)に示すような変調波形を使用する場合には、変調された各々のパルスの立ち上がり時間が「電圧立ち上がり時間」となるのであるから、これが、「電圧立ち上がり時間100μs以下」という要件を満たさない変調波の範囲(例えば「0.5kHz」のsin波)は、本件発明の範囲に含まれないと考えられる。よって、たとえ、請求項2及び明細書段落【0027】に、パルス化された電界の周波数について「0.5kHz〜100kHz」と記載されていても、「変調」されパルス化された電界の印加に関しては、「電圧立ち上がり時間100μs以下」という要件を満たすように周波数を選択すればよいことは明らかであるから、本件明細書「発明の詳細な説明」は、当業者が容易に実施できるように記載されてないとはいえない。

3-5-4-4.3-3-4について
パルス化された電界には、変調されていないものと、図1(D)のように変調されパルス化されたものがあるが、「ひとつのパルス継続時間とは、図2中に例を示してあるが、ON、OFFの繰り返しから成るパルス電界における、パルスが連続する時間を言う。図2(a)のような完結型のパルスではパルス継続時間はパルス幅時間と等しいが、図2(b)のような波形のパルスでは、パルス幅時間とは異なり、一連の複数のパルスを含んだ時間を言う。」(段落【0028】)と記載されているように、図1(A)(B)(C)に記載のような完結型のパルスでは、パルス継続時間はパルス幅と等しいものとなり、この場合「パルス化された電界における、周波数が0.5kHz〜100kHz、パルス継続時間が1〜1000μs」という要件は充足するものである。よって、請求項2における「パルス化された電界における、周波数が0.5kHz〜100kHz、パルス継続時間が1〜1000μs」の記載は、発明の詳細な説明に記載されているものといえる。
また、図1(D)に示すような変調波形を使用する場合には、パルス継続時間は、変調されパルス化された一連の複数のパルスを含んだ時間となるから、これが、「パルス継続時間が1〜1000μs」という要件を満たすことが必要なことは明らかである。よって、「変調」されパルス化された電界の場合の条件は、「周波数が0.5kHz〜100kHz」と「パルス継続時間が1〜1000μs」のand条件となると解釈できるから、図1(D)のような変調されパルス化された電界の印加についても、構成が不明瞭であるとはいえない。

3-5-4-5.3-3-5について
パルスの立ち上がり時間はパルスの周波数と独立していると考えられるから、明細書の文言どおり解釈すれば、いずれの場合にもアークが発生しやすくなることを言っていることは明らかである。

3-5-4-6.3-3-6について
パルス化された電界のパルス継続時間は、上述のごとく「ひとつのパルス継続時間とは、図2中に例を示してあるが、ON、OFFの繰り返しから成るパルス電界における、パルスが連続する時間」であることから、複数のパルスが間に「OFF」時間を入れることなく連続する時間が「パルス継続時間」であると解釈するのが自然であり、すなわち、パルス継続時間で無い時間がOFF時間といえるから、OFF時間の定義が不明瞭であるとはいえない。

3-5-4-7.3-3-7について
同軸円筒型構造をした電極であって、グロー放電を起こす条件は、実質的に電界の状態が平等電界になるような径の電極を用いる、すなわち、内側電極の径と外側電極の径の比が1に近い値であることであるのは、既述のとおりであるが、この場合、同軸円筒型構造をした電極の面積はほぼ同じになり、実質的にほぼ平行平板状の電極と同じと見ることができるから、同軸円筒型構造をした電極の場合にも、放電電流密度は、「放電により電極間に流れる電流値」を、「放電空間における電流の流れ方向と直交する方向の面積」すなわち、ほぼ電極面積に等しい値、で「除した値」ということができ、放電電流密度の定義自体が不明瞭であるとはいえない。

3-5-4-8.3-3-8について
訂正前の請求項4及び5は訂正により削除されたので、該請求項に係る平成14年9月12日付の取消理由通知のA-5、A-6、B-3及びB-4の取消理由は解消された。

3-5-4-9.
よって、本件発明における36条違反に係る取消理由は解消された。

3-5-5.異議申立人の主張について
異議申立人吉川俊雄は平成15年2月21日付審尋に対する回答書(平成15年5月6日提出)にて、主に、
(ア)「平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極」という補正は、グロー放電を発生させるための特別の構成要件、例えば「電極の径」が明確にされているわけではなく「同軸円筒型の電極を用いてコロナ放電ではなくグロー放電を発生させるための要件が不明であって当業者がその実施をすることが出来る程度に明確且つ十分に記載されているとは言えない。」上に、該補正をしても、「依然として吉川俊雄および工藤貴志子の特許異議申立書で引用されている先行技術の観点から当業者によって容易になされた発明」である、
(イ)電極構造として「平行平板型」と「同軸円筒型」の電極構造のみを選択することは本件特許の明細書から読み取ることが出来ない要旨変更である、
(ウ)刊行物13に大気圧下におけるプラズマの生成につき「パルス電源の使用などの適宜な手段を採用することができる。」との記載があるから、所望のプラズマ処理を達成するためにパルス電源を使用して印加電圧や放電電流を適宜決定する程度のことは当業者が通常業務の範囲内において容易に決定しうる事項にすぎない、
(エ)刊行物9に記載のグロー放電がグロー・コロナであるという主張には根拠が無く、刊行物9に記載の放電はグロー放電と解釈できる、
(オ)特許権者は優先権の最初の出願明細書においてグロー放電とコロナ放電を区別することなく気体放電と呼んでおり、グロー放電とコロナ放電との間の区別が存在していなかった、
と主張しているので、これらの点について検討する。

3-5-5-1.(ア)について
特許権者が14年11月26日に提出した意見書に添付された参考文献1(特開平7-99182号)及び該参考文献で引用された特開平4-212253号公報等に記載のように、大気圧下でのコロナ放電とグロー放電の発生条件の違いは明確であり、グロー放電は、通常平等電界の時に発生することは周知であるから、グロー放電プラズマ処理装置の電極構造として平等電界になるような電極形状にする必要があることは、明細書に記載が無くても当業者であれば当然に認識することと認められる。しかも、例えば、上記特開平4-212253号公報に「外側導体の内径/中心導体の外形>=3 これは中心導体(11)と外側導体(12)の間の電界が不平等となる条件(コロナ発生条件)となっており、・・・前記の式が3よりも小さく1に近い値であったとしても(・・・)、放電はコロナ放電を経由することなくグロー放電を起こすだけであり」(第3頁左上欄17行〜右上欄7行、ただし、数式は割り算を「/」に置き換えて記載してある。)と記載されているように、同軸円筒状の電極であれば内側電極と外側電極の径をほぼ等しくすれば、ほぼ平等電界になることも明らかであるから、「同軸円筒型の電極を用いてコロナ放電ではなくグロー放電を発生させるための要件が不明」であるとは言えない。また、既に3-5-1で述べたようにコロナ放電とグロー放電とは、その電界の状態や電極形状及び放電現象が異なるものであり、等価とはいえないものであるから、コロナ放電を発生させる構成(パルスの印加条件)が安定したグロー放電の発生に、容易に適用できるとはいえず、よって、本件発明1または5が、上記刊行物1、2、4ないし15に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

3-5-5-2.(イ)について
当該補正は、段落番号【0016】の「上記電極としては、銅、アルミニウム等の金属単体、ステンレス、真鍮等の合金、金属間化合物等からなるものが挙げられる。上記対向電極は、電界集中によるアーク放電の発生を避けるために、対向電極間の距離が略一定となる構造であることが好ましい。この条件を満たす電極構造としては、平行平板型、円筒対向平板型、球対向平板型、双曲面対向平板型、同軸円筒型構造等が挙げられる。」との記載を根拠とし、電極構造に限定がなかったものを「平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極」と限定するものであることは明らかであり、しかも、「平行平板型」と「同軸円筒型構造」の電極「のみ」を選択することも、単に、特許を受けようとする発明を選択しただけであるから、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3-5-5-3.(ウ)について
本件発明1及び5は、パルスの印加条件として「電圧立ち上がり時間が100μs以下」「電界強度が1〜100kV/cm」のパルスを電極間に印加するという発明特定事項により、「電極間」の空間に、表2ないし表4に記載のようなヘリウム以外の雰囲気ガスでも安定してグロー放電プラズマを発生できるという顕著な効果を奏するものである。一方、刊行物15は「パルス電源」を利用可能であることが記載されているだけで、実施例においても、交流駆動する大気圧グロー放電プラズマ発生装置において通常用いられるヘリウムガスを雰囲気ガスに用いて、交流駆動したものしか開示しておらず、パルス電源を用いる際に、どのようなパルスの印加条件にすれば、ヘリウムガス以外の雰囲気ガスでも安定したグロー放電を行えるのか、記載も示唆もされていないから、該刊行物13の記載から、上記顕著な効果を奏する本件発明1または5のパルス電界の印加条件が容易に決定しうるとはいえない。

3-5-5-4.(エ)について
刊行物9記載のコロナ放電処理装置のグロー放電がグロー・コロナかどうかは不明であるとしても、該刊行物9記載の発明が「コロナ放電処理装置」に関するものであることは明らかであり、電極は、コロナ放電が発生する条件である不平等電界となるような構造のものであると認められるから、「電極表面においてグローを生じていた」との記載は、「電極表面」のみに、「グローが発生している」と考えるのが自然である。よって、刊行物9記載の装置は、「電極間」に安定してグロー放電を発生させる本件発明1または5と同一のものとは認められず、上記3-5-3-1の判断にかわりはない。

3-5-5-5.(オ)について
グロー放電とコロナ放電を本件特許出願の優先権主張の基礎となる最先の出願で区別していなかったとしても、その点は、当該最先の出願に記載されていなかった技術に関し、優先権の主張が認められない根拠にはなるが、そのことが、ただちに取消の理由になるものではない。
ただ、優先権の主張が認められない場合には、特開平8-198984号公報(甲第3号証に対応する公開公報)が公知文献となるが、3-5-2-1で述べたように、該文献に記載のものは要するにコロナ放電を発生させる物であって、本件発明とは異なる発明であるから、上記公知文献に記載のものから本件発明を容易に想到しうるものではなく、結論に影響を与えるものではない。

したがって、異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件の請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
グロー放電プラズマ処理方法及びその装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極において、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、当該対向電極間に電界を印加することにより固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間にグロー放電プラズマを発生させて処理を行う方法であって、印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とするグロー放電プラズマ処理方法。
【請求項2】 パルス化された電界における、周波数が0.5〜100kHz、パルス継続時間が1〜1000μsとなされていることを特徴とする請求項1に記載のグロー放電プラズマ処理方法。
【請求項3】 高電圧直流を供給可能な直流電圧供給部、並びに、ターンオン時間及びターンオフ時間が500ns以下である半導体素子により当該高電圧直流を高電圧パルスに変換するパルス制御部、から構成される高電圧パルス電源によりパルス化された電界を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のグロー放電プラズマ処理方法。
【請求項4】 対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、一方の電極と該固体誘電体又は該固体誘電体同士の間に基材を配置して、当該基材表面を処理することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のグロー放電プラズマ処理方法。
【請求項5】 グロー放電のための平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極であって大気圧近傍の圧力下にある対向電極、該対向電極の対向面の双方に設置された固体誘電体、及び当該一対の電極間に電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmのパルス化された電界を印加することにより前記双方に設置された固体誘電体間の空間にグロー放電プラズマを発生させるようになされている高電圧パルス電源からなり、該高電圧パルス電源が、高電圧直流を供給可能な直流電圧供給部、並びに、ターンオン時間及びターンオフ時間が500ns以下である半導体素子により当該高電圧直流を高電圧パルスに変換するパルス制御部から構成されるものであることを特徴とするグロー放電プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大気圧近傍の圧力下におけるグロー放電プラズマ処理方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、低圧条件下でグロー放電プラズマを発生させて、表面改質を行う方法が実用化されている。しかし、低圧条件下における処理は工業的には不利であるため、電子部品等の高価な処理品に対してしか、適用されていない。このため、大気圧近傍の圧力下で放電プラズマを発生させる方法が提案されている。例えば、ヘリウム雰囲気下で処理を行う方法が特開平2-48626号公報に、アルゴンとアセトン及び/又はヘリウムからなる雰囲気下で処理を行う方法が特開平4-74525号公報に開示されている。
【0003】
しかし、上記方法はいずれも、ヘリウム又はアセトン等の有機化合物を含有するガス雰囲気中でプラズマを発生させるものであり、ガス雰囲気が限定される。さらに、ヘリウムは高価であるため工業的には不利であり、有機化合物を含有させた場合には、有機化合物自身が被処理体と反応する場合が多く、所望する表面改質処理が出来ないことがある。
【0004】
さらに、従来の方法では、処理速度が遅く工業的なプロセスには不利であり、また、プラズマ重合膜を形成させる場合など、膜形成速度より膜分解速度の方が早くなり良質の薄膜が得られないという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を鑑み、処理の際のガス雰囲気を問わず、大気圧近傍の圧力下で均一なグロ-放電プラズマを継続して発生させ、安定して基材の表面を行うためのグロー放電プラズマ処理方法及びそれに用いられる装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のグロー放電プラズマ処理方法は、平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極において、大気圧近傍の圧力下で、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、当該対向電極間に電界を印加することにより固体誘電体と対向する電極との間の空間又は固体誘電体と対向する固体誘電体との間の空間にグロー放電プラズマを発生させて処理を行う方法であって、印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とする。
【0007】
大気圧近傍の圧力下では、上記ヘリウム、ケトン等の特定のガス以外は安定してプラズマ放電状態が保持されずに瞬時にアーク放電状態に移行することが知られているが、パルス化された電界を印加することにより、アーク放電に移行する前に放電を止め、再び放電を開始するというサイクルが実現されていると考えられる。
【0008】
大気圧近傍の圧力下においては、本発明のパルス化された電界を印加する方法によって、初めて、ヘリウム等のプラズマ放電状態からアーク放電状態に至る時間が長い成分を含有しない雰囲気において、安定して放電プラズマを発生させることが可能となる。
【0009】
なお、本発明の方法によれば、プラズマ発生空間中に存在する気体の種類を問わずグロー放電プラズマを発生させることが可能である。公知の低圧条件下におけるプラズマ処理はもちろん、特定のガス雰囲気下の大気圧プラズマ処理においても、外気から遮断された密閉容器内で処理を行うことが必須であったが、本発明のグロー放電プラズマ処理方法によれば、開放系、あるいは、気体の自由な流失を防ぐ程度の低気密系での処理が可能となる。
【0010】
さらに、パルス化された電界を印加する方法によれば高密度のプラズマ状態を実現出来るため、連続処理等の工業プロセスを行う上で大きな意義を有する。上記高密度のプラズマ状態の実現には、本発明が有する2つの作用が関係する。
【0011】
第1に、電界強度が1〜100kV/cmで、立ち上がり時間が100μs以下という、急峻な立ち上がりを有するパルス電界を印加することにより、プラズマ発生空間中に存在する気体分子が、効率よく励起する作用である。立ち上がりが遅いパルス電界を印加することは、異なる大きさを有するエネルギーを段階的に投入することに相当し、まず低エネルギーで電離する分子、すなわち、第一イオン化ポテンシャルの小さい分子の励起が優先的に起こり、次に高いエネルギーが投入された際にはすでに電離している分子がより高い準位に励起し、プラズマ発生空間中に存在する分子を効率よく電離することは難しい。これに対して、立ち上がり時間が100μs以下であるパルス電界によれば、空間中に存在する分子に一斉にエネルギーを与えることになり、空間中の電離した状態にある分子の絶対数が多く、すなわちプラズマ密度が高いということになる。
【0012】
第2に、ヘリウム以外のガス雰囲気のプラズマを安定して得られることにより、ヘリウムより電子を多くもつ分子、すなわちヘリウムより分子量の大きい分子を雰囲気ガスとして選択し、結果として電子密度の高い空間を実現する作用である。一般に電子を多く有する分子の方が電離はしやすい。前述のように、ヘリウムは電離しにくい成分であるが、一旦電離した後はアークに至らず、グロ-プラズマ状態で存在する時間が長いため、大気圧プラズマにおける雰囲気ガスとして用いられてきた。しかし、放電状態がアークに移行することを防止できるのであれば、電離しやすい、質量数の大きい分子を用いるほうが、空間中の電離した状態にある分子の絶対数を多くすることができ、プラズマ密度を高めることができる。従来技術では、ヘリウムが90%以上存在する雰囲気下以外でのグロー放電プラズマを発生することは不可能であり、唯一、アルゴンとアセトンからなる雰囲気中でsin波により放電を行う技術が特開平4-74525号公報に開示されているが、本発明者らの追試によれば、実用レベルで安定かつ高速の処理を行えるものではない。また、雰囲気中にアセトンを含有するため、親水化目的以外の処理は不利である。
【0013】
上述のように、本発明は、ヘリウムより多数の電子を有する分子が過剰に存在する雰囲気、具体的には分子量10以上の化合物を10体積%以上含有する雰囲気下において、はじめて安定したグロー放電を可能にし、これによって表面処理に有利な、高密度プラズマ状態を実現するものである。
【0014】
上記大気圧近傍の圧力下とは、100〜800Torrの圧力下を指す。圧力調整が容易で、装置が簡便になる700〜780Torrの範囲が好ましい。
【0015】
本発明のプラズマ発生方法は、平行平板型又は同軸円筒型構造をした電極において、一対の対向電極を有し、当該電極の対向面の少なくとも一方に固体誘電体が設置されている装置において行われる。プラズマが発生する部位は、上記電極の一方に固体誘電体を設置した場合は、固体誘電体と電極の間、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合は、固体誘電体同士の間の空間である。
【0016】
上記電極としては、銅、アルミニウム等の金属単体、ステンレス、真鍮等の合金、金属間化合物等からなるものが挙げられる。上記対向電極は、電界集中によるアーク放電の発生を避けるために、対向電極間の距離が略一定となる構造であることが好ましい。この条件を満たす電極構造としては、平行平板型や同軸円筒型構造が挙げられる。
【0017】
上記固体誘電体は、上記電極の対向面の一方又は双方に設置する。この際、固体誘電体と設置される側の電極が密着し、かつ、接する電極の対向面を完全に覆うようにする。固体誘電体によって覆われずに電極同士が直接対向する部位があると、そこからアーク放電が生じるためである。
【0018】
上記固体誘電体の形状は、シート状でもフィルム状でもよいが、厚みが0.01〜4mmであることが好ましい。厚すぎると放電プラズマを発生するのに高電圧を要し、薄すぎると電圧印加時に絶縁破壊が起こりアーク放電が発生するためである。
【0019】
上記固体誘電体の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック、ガラス、二酸化珪素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン等の金属酸化物、チタン酸バリウム等の複酸化物等が挙げられる。
【0020】
また、上記固体誘電体は、比誘電率が2以上(25°C環境下、以下同)であることが好ましい。比誘電率が2以上の誘電体の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ガラス、金属酸化膜等を挙げることができる。さらに高密度の放電プラズマを安定して発生させるためには、比誘電率が10以上の固定誘電体を用いことが好ましい。比誘電率の上限は特に限定されるものではないが、現実の材料では18,500程度のものが知られている。比誘電率が10以上の固体誘電体としては、酸化チタニウム5〜50重量%、酸化アルミニウム50〜95重量%で混合された金属酸化物皮膜、または、酸化ジルコニウムを含有する金属酸化物皮膜からなり、その被膜の厚みが10〜1000μmであるものを用いることが好ましい。
【0021】
上記電極間の距離は、固体誘電体の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、1〜50mmであることが好ましい。1mm未満では、電極間の間隔を置いて設置するのに充分でない。50mmを超えると、均一な放電プラズマを発生させることが困難である。
【0022】
本発明においては、上記電極間に印加される電界がパルス化されたものであり、電圧立ち上がり時間が100μs以下、電界強度が1〜100kV/cmとなされていることを特徴とする。
【0023】
図1にパルス電圧波形の例を示す。波形(A)、(B)はインパルス型、波形(C)は方形波型、波形(D)は変調型の波形である。図1には電圧印加が正負の繰り返しであるものを挙げたが、正又は負のいずれかの極性側に電圧を印加する、いわゆる片波状の波形を用いてもよい。
【0024】
本発明におけるパルス電圧波形は、ここで挙げた波形に限定されないが、パルスの立ち上がり時間が短いほどプラズマ発生の際のガスの電離が効率よく行われる。パルスの立ち上がり時間が100μsを超えると放電状態がアークに移行しやすく不安定なものとなり、パルス電界による高密度プラズマ状態を期待できなくなる。また、立ち上がり時間は早いほうがよいが、常圧でプラズマが発生する程度の大きさの電界強度を有し、かつ、立ち上がり時間が早い電界を発生させる装置には制約があり、現実的には40ns未満の立ち上がり時間のパルス電界を実現することは困難である。より好ましくは立ち上がり時間が50ns〜5μsである。なお、ここでいう立ち上がり時間とは、電圧変化が連続して正である時間を指すものとする。
【0025】
また、パルス電界の立ち下がり時間も急峻であることが好ましく、立ち上がり時間と同様の100μs以下のタイムスケールであることが好ましい。パルス電界発生技術によっても異なるが、例えば、本発明の実施例で使用した電源装置では、立ち上がり時間と立ち上がり時間が同じ時間に設定できる。
【0026】
さらに、パルス波形、立ち上がり時間、周波数の異なるパルスを用いて変調を行ってもよい。
【0027】
パルス電界の周波数は、0.5kHz〜100kHzであることが好ましい。0.5kHz未満であるとプラズマ密度が低いため処理に時間がかかりすぎ、100kHzを超えるとアーク放電が発生しやすくなる。より好ましくは、1kHz以上であり、このような高周波数のパルス電界を印加することにより、処理速度を大きく向上させることが出来る。
【0028】
また、上記パルス電界におけるパルス継続時間は、1〜1000μsであることが好ましい。1μs未満であると放電が不安定なものとなり、1000μsを超えるとアーク放電に移行しやすくなる。より好ましくは、3μs〜200μsである。ここで、ひとつのパルス継続時間とは、図2中に例を示してあるが、ON、OFFの繰り返しからなるパルス電界における、パルスが連続する時間を言う。図2(a)のような間欠型のパルスでは、パルス継続時間はパルス幅時間と等しいが、図2(b)のような波形のパルスでは、パルス幅時間とは異なり、一連の複数のパルスを含んだ時間を言う。
【0029】
さらに、放電を安定させるためには、放電時間1ms内に、少なくとも1μs継続するOFF時間を有することが好ましい。
【0030】
上記放電は電圧の印加によって行われる。電圧の大きさは適宜決められるが、本発明においては、電極間の電界強度が1〜100kV/cmとなる範囲にする。1kV/cm未満であると処理に時間がかかりすぎ、100kV/cmを超えるとアーク放電が発生しやすくなる。また、パルス電圧の印加において、直流を重畳してもよい。
【0031】
図3に、このようなパルス電界を印加する際の電源のブロック図を示す。さらに、図4に、電源の等価回路図を示す。図4にSWと記されているのはスイッチとして機能する半導体素子である。上記スイッチとして500ns以下のターンオン時間及びターンオフ時間を有する半導体素子を用いることにより、上記のような電界強度が1〜100kV/cmであり、かつ、パルスの立ち上がり時間及び立ち下がり時間が100μs以下であるような高電圧かつ高速のパルス電界を実現することが出来る。
【0032】
以下、図4の等価回路図を参照して、電源の原理を簡単に説明する。+Eは、正極性の直流電圧供給部、-Eは、負極性の直流電圧供給部である。SW1〜4は、上記のような高速半導体素子から構成されるスイッチ素子である。D1〜4はダイオードを示している。I1〜I4は電流の流れ方向を表している。
【0033】
第一に、SW1をONにすると、正極性の負荷が電流I1の流れ方向に充電する。次に、SW1がOFFになってから、SW2を瞬時にONにすることにより、充電された電荷が、SW2とD4を通ってI3の方向に充電される。また次に、SW2がOFFになってから、SW3をONにすると、負極性の負荷が電流I2の流れ方向に充電する。次に、SW3がOFFになってから、SW4を瞬時にONにすることにより、充電された電荷が、SW4とD2を通ってI4の方向に充電される。上記一連の操作を繰り返し、図5の出力パルスを得ることが出来る。表1にこの動作表を示す。
【表1】

この回路の利点は、負荷のインピーダンスが高い場合であっても、充電されている電荷をSW2とD4又はSW4とD2を動作させることによって確実に放電することが出来る点、及び、高速ターンオンのスイッチ素子であるSW1、SW3を使って高速に充電を行うことが出来る点にあり、このため、図5のように立ち上がり時間、立ち下がり時間の非常に早いパルス信号を得ることが出来る。
【0034】
上記の方法により得られる放電において、対向電極間の放電電流密度は、0.2〜300mA/cm2となされていることが好ましい。
【0035】
上記放電電流密度とは、放電により電極間に流れる電流値を、放電空間における電流の流れ方向と直交する方向の面積で除した値を言い、電極として平行平板型のものを用いた場合には、その対向面積で上記電流値を除した値に相当する。本発明では電極間にパルス電界を形成するため、パルス状の電流が流れるが、この場合にはそのパルス電流の最大値、つまりピーク-ピーク値を、上記の面積で除した値を言う。
【0036】
大気圧近傍の圧力下でのグロー放電では、下記に示すように、放電電流密度がプラズマ密度を反映し、表面処理効果を左右する値であることが、本発明者らの研究により明らかにされており、電極間の放電電流密度を前記した0.2〜300mA/cm2の範囲とすることにより、均一な放電プラズマを発生して良好な表面処理結果を得ることができる。
【0037】
一般にプラズマ中の電子密度、いわゆるプラズマ密度はプローブ法や電磁波法によって測定される。しかし、大気圧近傍の圧力では、電極間の放電は元来的にアーク放電に移行しやすいので、探針をプラズマ中に挿入するプローブ法では探針にアーク電流が流れてしまい、正確な測定はできない。また、発光分光分析やレーザ吸光分析などによる電磁波法は、ガス種によって得られる情報が異なるので分析が困難である。
【0038】
大気圧近傍の圧力下におけるグロー放電においては、低ガス圧放電に比してガス分子密度が大きいので、電離後、再結合までの寿命が短く、電子の平均自由行程も短い。そのためグロー放電空間が電極に挟まれた空間に限定されるという特徴がある。よってプラズマ中の電子はそのまま電極を通して電流値に変換され、電子密度(プラズマ密度)は放電電流密度を反映した値であると考えられる。このことは、電極が一種のプローブとして機能すると言い換えることもできる。
【0039】
図6に、本発明者らが用いた放電プラズマ発生装置と、その放電電圧および放電電流の測定に用いた測定回路図を示す。この放電プラズマ発生装置においては、平行平板型の対向電極1,2間にパルス電源3からkVオーダーのパルス状の電圧を印加することにより、電極1,2間にパルス電界を形成するとともに、その一方の電極2の対向面には固体誘電体4を設置した。そして、一方の電極2とアース電位間に抵抗5を直列接続し、その抵抗5の両端をBNC端子6を介してオシロスコープ7に接続することにより、抵抗5の両端の電圧値を測定して、その抵抗5の抵抗値を用いて放電電流に換算した。また、放電電圧は、電極1の電位を高圧プローブ8により1/1000に減衰させたうえで、BNC端子9とオシロスコープ7によってアース電位との電位差を計測することによって測定した。
【0040】
この測定回路においては、パルス電界による放電電流が高速に通電・遮断を繰り返しているので、測定に供したオシロスコープ7は、そのパルスの立ち上がり速度に対応したナノ秒オーダーの測定が可能な高周波オシロスコープ、具体的には岩崎通信社製オシロスコープDS-9122とした。また、放電電圧の減衰に用いた高圧プローブ8は、岩崎通信社製高圧プローブSK-301HVとした。測定結果を図7に例示する。図7において波形1が放電電圧であり、波形2が放電電流を表す波形である。パルス電界の形成による放電電流密度は、この波形2のピーク-ピーク値の電流換算値を電極対向面の面積で除した値である。
【0041】
本発明の方法により発生させた放電プラズマは、様々な分野に応用することが出来る。例を挙げると、放電プラズマに励起された化学種と基材表面の反応を利用した表面改質処理、窒素酸化物の存在下で放電プラズマを発生させることによる窒素酸化物の分解除去処理、光源としての利用等が可能である。
【0042】
以下、基材の表面処理方法について詳述する。本発明の表面処理方法は、一対の対向電極を有し、当該電極の対向面の少なくとも一方に固体誘電体が設置されている装置において、上記電極の一方に固体誘電体を設置した場合は固体誘電体と電極の間の空間、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合は固体誘電体同士の空間に基材を設置し、当該空間中に発生する放電プラズマにより基材表面を処理するものである。
【0043】
本発明の表面処理を施される基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂等のプラスチック、ガラス、セラミック、金属等が挙げられる。基材の形状としては、板状、フィルム状等のものが挙げられるが、特にこれらに限定されない。本発明の表面処理方法によれば、様々な形状を有する基材の処理に容易に対応することが出来る。
【0044】
上記表面処理においては、上記放電プラズマ発生空間に存在する気体(以下、処理用ガスという。)の選択により任意の処理が可能である。
【0045】
上記処理用ガスとしてフッ素含有化合物ガスを用いることによって、基材表面にフッ素含有基を形成させて表面エネルギーを低くし、撥水性表面を得ることが出来る。
【0046】
上記フッ素元素含有化合物としては、4フッ化炭素(CF4)、6フッ化炭素(C2F6)、6フッ化プロピレン(CF3CFCF2)、8フッ化シクロブタン(C4F8)等のフッ素-炭素化合物、1塩化3フッ化炭素(CClF3)等のハロゲン-炭素化合物、6フッ化硫黄(SF6)等のフッ素-硫黄化合物等が挙げられる。安全上の観点から、有害ガスであるフッ化水素を生成しない4フッ化炭素、6フッ化炭素、6フッ化プロピレン、8フッ化シクロブタンを用いることが好ましい。
【0047】
また、処理用ガスとして以下のような酸素元素含有化合物、窒素元素含有化合物、硫黄元素含有化合物を用いて、基材表面にカルボニル基、水酸基、アミノ基等の親水性官能基を形成させて表面エネルギーを高くし、親水性表面を得ることが出来る。
【0048】
上記酸素元素含有化合物としては、酸素、オゾン、水、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素の他、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタナール、エタナール等のアルデヒド類等の酸素元素を含有する有機化合物等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。さらに、上記酸素元素含有化合物と、メタン、エタン等の炭化水素化合物のガスを混合して用いてもよい。また、上記酸素元素含有化合物の50体積%以下でフッ素元素含有化合物を添加することにより親水化が促進される。フッ素元素含有化合物としては上記例示と同様のものを用いればよい。
【0049】
上記窒素元素含有化合物としては、窒素、アンモニア等が挙げられる。上記窒素元素含有化合物と水素を混合して用いてもよい。
【0050】
上記硫黄元素含有化合物としては、二酸化硫黄、三酸化硫黄等が挙げられる。また、硫酸を気化させて用いることも出来る。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
また、分子内に親水性基と重合性不飽和結合を有するモノマーの雰囲気下で処理を行うことにより、親水性の重合膜を堆積させることも出来る。上記親水性基としては、水酸基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、1級若しくは2級又は3級アミノ基、アミド基、4級アンモニウム塩基、カルボン酸基、カルボン酸塩基等の親水性基等が挙げられる。また、ポリエチレングリコール鎖を有するモノマーを用いても同様に親水性重合膜を堆積が可能である。
【0052】
上記モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルアルコール、アリルアミン、ポリエチレングリコールジメタクリル酸エステル、ポリエチレングリコールジアクリル酸エステル等が挙げられる。これらのモノマーは、単独または混合して用いられる。
【0053】
上記親水性モノマーは一般に固体であるので、溶媒に溶解させたものを減圧等の手段により気化させて用いる。上記溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒、水、及び、これらの混合物等が挙げられる。
【0054】
さらに、Si、Ti、Sn等の金属の金属-水素化合物、金属-ハロゲン化合物、金属アルコラート等の処理用ガスを用いて、SiO2、TiO2、SnO2、等の金属酸化物薄膜を形成させ、基材表面に電気的、光学的機能を与えることが出来る。
【0055】
経済性及び安全性の観点から、上記処理用ガス単独雰囲気よりも、以下に挙げるような希釈ガスによって希釈された雰囲気中で処理を行うことが好ましい。希釈ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等の希ガス、窒素気体等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。また、希釈ガスを用いる場合、処理用ガスの割合は1〜10体積%であることが好ましい。
【0056】
なお、上述したように、雰囲気ガスとしては電子を多く有する化合物のほうがプラズマ密度を高め高速処理を行う上で有利である。よって入手の容易さと経済性、処理速度を考慮した上で最も望ましい選択は、アルゴン及び/又は窒素を希釈ガスとして含有する雰囲気である。
【0057】
従来、大気圧近傍の圧力下においては、ヘリウムが大過剰に存在する雰囲気下で処理が行われてきたが、本発明の方法によれば、ヘリウムに比較して安価なアルゴン、窒素気体中における安定した処理が可能であり、さらに、これらの分子量の大きい、電子をより多く有するガスの存在下で処理を行うことにより、高密度プラズマ状態を実現し、処理速度を上げることが出来るため、工業上大きな優位性を有する。
【0058】
図8に、本発明の表面処理方法を行う装置の一例を示す。この装置においては下部電極15上に固体誘電体16が設置されており、固体誘電体16と上部電極14の間の空間3に放電プラズマが発生する。容器12は、ガス導入管18、ガス排出口20及びガス排気口21を備えており、上記処理用ガスはガス導入管18から放電プラズマ発生空間13に供給される。本発明においては、発生した放電プラズマに接触した部位が処理されるので、図8の例では基材17の上面が処理される。基材の両面に処理を施したい場合は放電プラズマ発生空間13に基材を浮かせて設置すればよい。
【0059】
処理用ガスはプラズマ発生空間に均一に供給されることが好ましい。複数種の処理用ガスを用いる場合又は処理用ガスと希釈ガスの混合気体中で処理を行う場合、供給時に不均一になることを避けるような装置の工夫がされていることが好ましく、特に面積の大きな基材を処理する場合や比重差の大きい複数のガスを用いる場合は、不均一になり易いので注意を要する。図8の装置に示した例では、ガス導入管18が多孔構造をもつ電極4に連結されてなり、処理用ガスは電極14の孔を通して基材上方からプラズマ発生空間13に供給される。希釈ガスは、これと別に希釈ガス導入管19を通って供給される。気体を均一に供給可能であれば、このような構造に限定されず、気体を攪拌又は高速で吹き付ける等の手段を用いてもよい。
【0060】
上記容器12の材質は、樹脂、ガラス等が挙げられるが、特に限定されない。電極と絶縁のとれた構造になっていれば、ステンレス、アルミニウム等の金属を用いることも出来る。
【0061】
本発明のグロー放電プラズマ処理は、基材を加熱または冷却して行ってもよいが、室温下で充分可能である。上記グロー放電プラズマ処理に要する時間は、印加電圧、処理用ガスの種類および混合気体中の割合等を考慮して適宜決定される。
【0062】
【実施例】
以下の実施例では、図3の等価回路図による電源(ハイデン研究所社製、半導体素子:IXYS社製、型番TO-247ADを使用)を用いた。
【0063】
実施例1〜4
図8の装置(パイレックスガラス製、容量:5L)において、上部電極14(ステンレス(SUS304)製、大きさ:φ80×80mm、φ1mmの孔が10mm間隔で配設)と下部電極15(ステンレス(SUS304)製、大きさ:φ80×80mm)の電極間距離6mmの空間中の下部電極上に、固体誘電体16としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE、大きさ:120×120mm、厚み:500μm)を下部電極15を完全に覆うように設置し、この上にポリエチレンテレフタレート基材17(東レ社製、ルミラーT50、大きさ:100×100mm、厚み:50μm)を配置した。油回転ポンプで装置内が1Torrになるまで排気を行った。次に窒素ガスを希釈ガス導入管19から、装置内が760Torrになるまで導入した。上部電極14、下部電極15間に表2に示す波形、波高値、周波数、パルス幅、立ち上がり/立ち下がり時間のパルス電界の印加を15秒間行って放電プラズマを発生させ、これをポリエチレンテレフタレート基材17に接触させて処理品を得た。また、このときの放電電流密度を図6の装置により測定した。なお、実施例4の波形(D)は、周波数1.0kHz、パルス幅800μsの波形(C)にさらに周波数20kHz、パルス幅20μsのパルスを変調したものである。実施例1〜4のいずれも発生したプラズマはグロー放電に特有の均一な発光状態であった。
【0064】
実施例5〜8
実施例1と同様の装置中にSiO2ガラス基材17(大きさ:100×100mm、厚み:2mm)を配置した。油回転ポンプで装置内が1Torrになるまで排気を行った。次に表1に示す処理用ガスを表2に示す流量でガス導入管18から、アルゴンガスを希釈ガス導入管19から、装置内が760Torrになるまで導入し、上部電極14、下部電極15間に表2に示す波形、波高値、周波数、パルス幅、立ち上がり/立ち下がり時間のパルス電界の印加を1分間行って放電プラズマを発生させ、これをSiO2ガラス基材17に接触させて処理を行った。また、このときの放電電流密度を図6の装置により測定した。実施例5〜8のいずれも発生したプラズマはグロー放電に特有の均一な発光状態であった。得られた処理品には、干渉縞が確認された。X線光電分光法により表面状態を観察したところ、Si元素は検出されなかった。このことから、X線光電分光法において測定可能な深さである100Åの以上の深さに渡ってプラズマ処理膜が堆積していることが確認された。なお、実施例7においては、波形(A)のパルス電界に、-1kVの直流を重畳させた電界により放電を行った。
【0065】
実施例9、10
実施例1と同様の装置において、固体誘電体16として石英ガラス(大きさ:120×120mm、厚み:3mm)を用いて、この上にポリエチレンテレフタレート基材17(東レ社製、ルミラーT50、大きさ:100×100mm、厚み:50μm)を配置した。油回転ポンプで装置内が1Torrになるまで排気を行った。次に表1に示す処理用ガスを表3に示す流量でガス導入管18から、窒素ガス又はアルゴンガスを希釈ガス導入管19から、装置内が760Torrになるまで導入し、上部電極14、下部電極15間に表2に示す波形、波高値、周波数、パルス幅、立ち上がり/立ち下がり時間のパルス電界を15秒間印加して放電プラズマを発生させ、これをポリエチレンテレフタレート基材17に接触させて処理を行った。また、このときの放電電流密度を図6の装置により測定した。実施例9、10ともに発生したプラズマはグロー放電に特有の均一な発光状態であった。
【0066】
実施例11、12
炭素鋼板(SS41、大きさ:140×140mm、厚み:10mm)の片面にプラズマ溶射法により酸化チタン13%、酸化アルミニウム87%からなる皮膜(比誘電率14、膜厚:500μm)を形成した。実施例1と同様の装置において、固体誘電体16として上記炭素鋼板を、皮膜面が上になるように設置し、この上にポリエチレンテレフタレート基材17(東レ社製、ルミラーT50、大きさ:100×100mm、厚み:50μm)を配置した。油回転ポンプで装置内が1Torrになるまで排気を行った。次に表1に示す処理用ガスを表3に示す流量でガス導入管18から、窒素ガス又はアルゴンガスを希釈ガス導入管19から、装置内が760Torrになるまで導入し、上部電極14、下部電極15間に表3に示す波形、波高値、周波数、パルス幅、立ち上がり/立ち下がり時間のパルス電界の印加を15秒間行って放電プラズマを発生させ、これをポリエチレンテレフタレート基材17に接触させて処理を行った。また、このときの放電電流密度を図6の装置により測定した。実施例11、12のいずれも発生したプラズマはグロー放電に特有の均一な発光状態であった。
【0067】
比較例1
パルス電界の代わりに、波高値8.4kV、周波数2.4kHzのsin波形の交流電圧による放電を行ったこと以外は、実施例1と同様にして処理品を得た。ストリーマーが多数見られる不均一な放電状態が確認された。
【0068】
<接触角評価>
実施例1〜12および比較例1の処理品の被処理面に水滴2μlを滴下し、接触角測定装置(協和界面科学社製、商品名:CA-X150)を用いて静的接触角を測定した。結果を表2、表3に示す。実施例1〜4の窒素雰囲気下の処理品、実施例8のメタノール雰囲気下の処理品は基材全表面で略一定の低い接触角を示し、実施例5〜7のフッ化炭素雰囲気下の処理品は基材全表面で略一定の高い接触角を示し、良好な親水化処理又は撥水化処理が行われていることが確認された。一方、不均一な放電状態が確認された比較例1の処理品は、40〜60度の範囲となり、均一な処理がなされていなかった。また、立ち上がり/立ち下がり時間が高速である実施例9〜12は、より高いレベルで処理がなされていることが確認できる。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
実施例13
図9の装置において、上部電極24(ステンレス(SUS304)製、大きさ:150×300mm、φ1mmの孔が10mm間隔で配設)と下部電極25(ステンレス(SUS304)製、大きさ:150×300mm)の電極間距離6mmの空間中の下部電極上に、固体誘電体26としてパイレックスガラス(大きさ:200×400mm、厚み:3mm)を下部電極25を完全に覆うように設置し、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材27(東レ社製、ルミラーT50、幅:300mm、厚み:50μm)を図8のように配置した。フィルム導入口31、フィルム排出口32を閉じた状態でガス導入管28から3%CF4/Arの混合ガスを流量15SLMで供給し、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材27を15m/minで走行させながら、上部電極24、下部電極25間に波形(A)、波高値11.6kV、周波数6.5kHz、パルス幅100μsのパルス電界を印加を行って放電プラズマを発生させ、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材27の連続処理を行った。
【0072】
比較例2
3%CF4/Arに代えて、3%CF4/Heの混合ガスを供給し、パルス電界を印加する代わりに、波高値15.0kV、周波数15kHzのsin波形の交流電圧による放電を行ったこと以外は、実施例13と同様にして処理品を得た。
【0073】
実施例14
実施例13と同様の装置において、固体誘電体26として実施例11と同様の酸化チタン-酸化アルミニウム皮膜を有する炭素鋼板を用いた。ガス導入管28から窒素ガスを流量30SLMで供給し、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材を30m/minで走行させながら、上部電極24、下部電極25間に波形(A)、波高値10.0kV、周波数12kHz、パルス幅10μs、立ち上がり/立ち下がり時間100nsのパルス電界を印加を行って放電プラズマを発生させ、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材27の連続処理を行った。
【0074】
比較例3
窒素ガスに代えて、1%N2/Heの混合ガスを供給し、パルス電界を印加する代わりに、波高値15.0kV、周波数15kHzのsin波形の交流電圧による放電を行ったこと以外は、実施例14と同様にして処理品を得た。
【0075】
実施例13、14、及び、比較例2、3で処理されたフィルムについて実施例1と同様に接触角評価を行った。実施例13及び比較例2で処理されたフィルムのX線光電分光法による表面F量の測定を行ったところ、実施例13は31.5%、比較例2は9.2%であった。また、実施例14及び比較例3で処理されたフィルムの接触角評価及び表面N量の測定を行ったところ、実施例14は9.87%、比較例3は2.87%であった。接触角評価、表面F量、表面N量ともに、パルス電界による実施例13、14は高いレベルで処理がなされていることがわかる。この結果から、パルス電界により高密度プラズマ状態が実現されており、本発明の表面処理方法は高速連続化処理に適していることが確認できる。
【0076】
また、本発明の高速処理対応性を調べるために成膜速度の比較実験を行った。以下の実験では、希釈ガスとしてヘリウム、アルゴン、窒素を用いた場合の比較、及び、周波数による成膜速度の影響を調べた。
【0077】
実施例15〜18
実施例1と同様の装置において、実施例11と同様の酸化チタン及び酸化アルミニウムからなる皮膜が形成された炭素鋼板を、皮膜面が上になるように設置し、この上にポリエチレンテレフタレート基材17(東レ社製、ルミラーT50、大きさ:100×100mm、厚み:50μm)を配置した。油回転ポンプで装置内が1Torrになるまで排気を行った。次にエチレンガスを流量980sccmでガス導入管18から、実施例15はヘリウム、実施例16はアルゴン、実施例17、18は窒素ガスを流量20sccmで希釈ガス導入管19から、装置内が760Torrになるまで導入し、上部電極14、下部電極15間に波形(A)、立ち上がり/立ち下がり時間5μs、1パルスの電界形成時間100μs、表4に示す周波数及び波高値のパルス電界の印加を2分間行って放電プラズマを発生させ、これをポリエチレンテレフタレート基材に接触させて処理を行った。このときの波高値は、ガス雰囲気中で放電がもっとも安定となるように調整した値である。また、このときの放電電流密度を図6の装置により測定した。実施例15〜18いずれも発生したプラズマはグロー放電に特有の均一な発光状態であった。
【0078】
実施例15〜18によるエチレン重合薄膜の膜厚をエリプソメーター(溝尻光学工業社製、DVA-36VW)によって5点測定し、平均値から成膜速度を算出した。この結果を表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
表4から明らかなように、ヘリウムを用いた場合に比較して、アルゴン、窒素を用いた場合のほうが波高値で放電が安定し、放電電流密度の値が大きく、成膜速度も向上していることが認められる。また、周波数により成膜速度が大きく向上することも確認できる。
【0081】
【発明の効果】
本発明のパルス電界を印加する方法によれば、大気圧近傍の圧力下において、ガス雰囲気を問わずに、安定して均一な放電プラズマを発生させることが出来る。さらに、高分子量の化合物の雰囲気下でグロー放電を行え、かつ、放電空間中に存在する化合物の励起を効率よく行わせることにより、プラズマ放電状態を高密度で実現出来るため、短時間で高いレベルの処理が可能であり、高速連続処理等の工業プロセスを行う上で大きな意義を有する。
【0082】
また、ガス雰囲気が限定されないため、減圧装置を要しないばかりか、完全密閉を行うための装置も必要とせず、プラズマ処理の適用可能な分野を大きく拡げる効果を有する。
【0083】
【図面の簡単な説明】
【図1】
パルス電界の例を示す電圧波形図
【図2】
パルス継続時間の説明図
【図3】
パルス電界を発生させる電源のブロック図
【図4】
パルス電界を発生させる電源の等価回路図
【図5】
パルス電界の動作表に対応する出力パルス信号の図
【図6】
放電電圧及び放電電流の測定回路の説明図
【図7】
図6の測定回路による放電電圧(波形1)と放電電流(波形2)の測定結果を示す図
【図8】
本発明のグロー放電プラズマ処理装置の一の例
【図9】
本発明のグロー放電プラズマ処理装置の他の例
【符号の説明】
1、2 電極
3 高電圧パルス電源
4 固体誘電体
5 抵抗
6、9 BNC端子
7 オシロスコ-プ
8 高圧プロ-ブ
11-1 高電圧パルス電源(交流電源)
11-2 直流電源
12 パイレックスガラス製容器
13 放電プラズマ発生空間
14 上部電極
15 下部電極
16 固体誘電体
17 基材
18 ガス導入管
19 希釈ガス導入管
20 ガス排出口
21 排気口
22 高電圧パルス電源
23 連続処理容器
24 上部電極
25 下部電極
26 固体誘電体
27 シ-ト状基材
28 ガス導入管
29 ガス排出口
30-1、2 巻き取りロール
31 フィルム導入管
32 フィルム排出口
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-11-05 
出願番号 特願平9-133716
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H05H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村田 尚英  
特許庁審判長 西川 一
特許庁審判官 服部 和男
中塚 直樹
登録日 2000-03-03 
登録番号 特許第3040358号(P3040358)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 グロー放電プラズマ処理方法及びその装置  
代理人 松尾 和子  
代理人 松尾 和子  
代理人 九十九 高秋  
代理人 九十九 高秋  
代理人 大塚 文昭  
代理人 大塚 文昭  
代理人 竹内 英人  
代理人 竹内 英人  

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