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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1093144
異議申立番号 異議2000-73563  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-21 
確定日 2002-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3023057号「木質セメント板の製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3023057号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成6年9月28日(1994.9.28)に出願され(特願平6-259364号)、平成12年1月14日に特許権の設定の登録がされ(特許第3023057号。請求項数 3)、平成12年3月21日にその特許掲載公報が発行されたものである。
これに対して、平成12年9月21日付けで、本件特許は、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の全請求項の発明について、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。
当審は、本件特許は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の発明について、特許法第36条第4項並びに第5項及び第6項に規定する要件を備えていない出願に対して、また、同請求項1から同請求項3までの各請求項の発明について、特許法第29条第2項に規定する要件に違反して、特許されたものであるから、取り消すべきであるとの取消理由を通知した。これに対して、本件特許権者は、意見書及び訂正請求書を提出した。
以下では、引用する場合を除き、「石こう」、「石膏」の語は、「せっこう」と、「ケイ酸」の語は、「けい酸」と記す。
なお、本決定書中、本件特許明細書及び本件訂正請求書の訂正事項からの摘示文中の、ギリシャ文字を()でかこんだ符号〔例えば、(α)〕は、当審が参照の便宜のために付加したものであって、本件特許明細書及び上記訂正事項自体の記載部分ではない。

〔二〕 訂正請求の成否
(1) 本件特許明細書の記載
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】木質補強材がセメント硬化物のマトリクス内に分散している木質セメント板であって、木質セメント板には(α)木質セメント板廃材粉末が(α´´)10〜50重量%含まれており、該(α´)木質セメント板廃材粉末は16メッシュ以下の粒径であって55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされていることを特徴とする木質セメント板
【請求項2】該木質セメント板は(β)緻密構造を有する表裏層と粗構造を有する芯層とからなる三層構造を有している請求項1に記載の木質セメント板
【請求項3】木質補強材を混合したセメントに請求項1に記載の木質セメント板廃材粉末を(α´´)10〜50重量%混合し、更に該混合物の水分含有量を(ζ´)30〜45重量%に調節した上で型枠上に散布してマットをフォーミングし、該(ζ)マットを圧締硬化せしめることを特徴とする木質セメント板の製造方法」
(ロ)【0004】、【発明が解決しようとする課題】
「 しかしながら上記従来方法にあっては、石膏を調達するかあるいは製造する必要があり、石膏を調達する場合には製品のコストアップになり、また石膏を製造する場合には製造装置が必要で更に製造の手間がかヽる。またこのようにして石膏を添加しても製品の強度低下をきたさないためには木質セメント板廃材粉砕物の添加量を30重量%以内に制限しなければならない。」
(ハ)【0006】、【課題を解決するための手段】の一部
「 本発明において用いられる木質補強材としては木片、木毛、木質パルプ等、従来の木質セメント板に用いられる木質補強材と同様なものがある。望ましい木質補強材としては巾0.5〜2mm、長さ1〜20mm、アスペクト比(長さ/厚み)20〜30の木片がある。」
(ニ)【0008】、【課題を解決するための手段】の一部
「 本発明において用いられる(α)木質セメント板廃材粉末とは、木質セメント板を製造する際、切削工程において発生する切屑や端切れ等の廃材を粉砕することによって得られるものである。該木質セメント板廃材の粉砕には通常ハンマーミルが使用される。(α´)上記木質セメント板廃材粉末の粒径は16メッシュ以下とされ、更に粒径が55メッシュ以上のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含んでいるような粒度分布を有するものとされている。」
(ヘ)【0010】、【課題を解決するための手段】の一部
「 本発明の木質セメント板は(β)芯層部の表裏面に表層部を積層した三層構造とすることが望ましい。
このような三層構造の木質セメント板の場合、表層部に使用する原料混合物Aおよび芯層部に使用する原料混合物Bの組成は、ともに(γ)通常セメント30〜60重量%、(γ´)木質補強材15〜30重量%、(α´´)木質セメント板廃材粉末10〜50重量%である。
しかしながら、上記三層構造の木質セメント板にあっては、表層部には緻密構造を与えるために木質補強材として(δ)目開き4.5mm以下の粒径の微細木質補強材を使用し、芯層部には粗構造を与えるために(ε)木質補強材として目開き4.5〜10mmの粒径の粗大木質補強材を使用する。」
(ト)【0011】、【課題を解決するための手段】の一部
「 本発明の木質セメント板を製造するには、上記原料混合物に水を添加して混練したスラリーをネット上に抄造脱水してシートとし、該シートを加圧硬化させ更に所望ならば、オートクレーブ養生する湿式法も適用されるが、主として上記原料混合物に(ζ´)30〜45重量%程度の水を添加混合して加水混合物とし、上記混合物を型板上に散布して(ζ)マットをフォーミングし、このようにしてフォーミングされたマットを圧締硬化させ、更に所望ならばオートクレーブ養生する半乾式法が適用される。三層構造を有する木質セメント板を上記湿式法で製造する場合には、上記原料混合物Aで表層部となるシートAを抄造し、更に上記原料混合物Bで芯層部となるシートBを抄造し、シートAをシートBの表側および/または裏側に積層し、該積層シートを加圧硬化させ、更に所望ならばオートクレーブ養生する。また三層構造を有する木質セメント板を半乾式法で製造する場合には上記原料混合物Aを加水して型板上に散布して(ζ´´)マットA’をフォーミングし、その上に上記原料混合物Bを加水して該マットA’上に散布して(ζ´´´)マットB’をフォーミングし、更に原料混合物Aを加水して該マットB’上に散布して(ζ´)マットA’をフォーミングし、このようにしてフォーミングされた積層マットを圧締硬化させ、更に所望ならばオートクレーブ養生する半乾式法が適用される。上記原料混合物を型板上に散布する工程を連続的に行なうには、型板を多数個整列させて前方へ搬送しつヽその上から原料混合物を散布する。この際前方から散布される原料混合物に風を吹付けると原料混合物中の木質補強材が風選され、下部には微細な木質補強材が堆積し、上部には粗大な木質補強材が堆積したマットが得られる。
このようにして本発明の木質セメント板が製造されるが、本発明の木質セメント板においては、表層部の厚みと芯層部の厚みの比率は通常3:7程度とされる。」
(チ)【0012】、【作用】
「 従来は前記したように6メッシュ以下の粗大粒径を有する木質セメント板廃材粉砕物が木質セメント板原料中に添加されていた。このような粗大粒径の木質セメント板廃材粉砕物を添加すれば製品の強度が低下することは前記した通りである。 本発明では木質セメント板廃材を16メッシュ以下の微細粒径にまで粉砕すると、該木質セメント板廃材粉末は製品の強度を低下せしめることなく、かえって補強材としての役目を果たすことが判明した。したがって従来に比して木質セメント板廃材粉末の添加量を50重量%にまで増加することが出来、木質セメント板廃材の利用効率が高められる。
更に該木質セメント板廃材粉末は(α´)55メッシュ以上(16〜55メッシュ)の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされており、55メッシュ以上の粒径のものは補強材としての役目を果たし、55メッシュ以下の粒径のものは木質セメント板のセメントマトリクスに形成される細孔に充填して寸法安定性や耐凍結融解性を向上せしめ、更に製品の表面の巣穴や小口の空隙をなくし、表面や小口に平滑感を与え、かつ(η)表面にエンボスを施した場合にはシャープなエンボスが得られるようにする。しかしながら木質セメント板廃材粉末の添加量が50重量%を越えると製品の強度が若干低下する。」

(2) 本件訂正請求の訂正事項
(イ) 訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲を下記のとおり訂正する。
「【請求項1】(γ)セメント30〜60重量%、(δ)目開き4.5mm以下の粒径の微細木質補強材を(γ´)15〜30重量%、(α´)16メッシュ以下の粒径であって55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされている木質セメント板廃材粉末を(α´´)10〜50重量%混合した表層用原料混合物Aと、(γ)セメント30〜60重量%、(ε)目開き4.5〜10mmの粒径の粗大木質補強材を(γ´)15〜30重量%、上記木質セメント板廃材粉末を(α´´)10〜50重量%混合した芯層用原料混合物Bとを調製し、該原料混合物Aに水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で型枠上に散布して(ζ´´)表層部マットをフォーミングし、その上に該原料化合物Bに(ζ´)水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で散布して(ζ´´´)芯層部マットをフォーミングし、更にその上に該原料混合物Aに(ζ´)水分含有量30〜45重量%になるように散布して(ζ´´)表層用マットをフォーミングし、このようにして得られた三層構造のマットを圧締硬化せしめるとともに(η)表面にエンボスを施すことを特徴とする木質セメント板の製造方法。」
(ロ) 訂正事項2
発明の名称「木質セメント板およびその製造方法」を「木質セメント板の製造方法」と訂正する。
(ハ) 訂正事項3
本件特許明細書の段落【0001】の記載を「【産業上の利用分野】 本発明は木質セメント板廃材粉末を混合した木質セメント板の製造方法に関するものである。」と訂正する。
(ニ) 訂正事項4
本件特許明細書の段落【0005】の記載を下記のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】 本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、(γ)セメント30〜60重量%、(δ)目開き4.5mm以下の粒径の微細木質補強材を(γ´)15〜30重量%、(α´)16メッシュ以下の粒径であって55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされている木質セメント板廃材粉末を(γ´)10〜50重量%混合した表層用原料混合物Aと、(γ)セメント30〜60重量%、(ε)目開き4.5〜10mmの粒径の粗大木質補強材を(γ´)15〜30重量%、上記木質セメント板廃材粉末を(α´´)10〜50重量%混合した芯層用原料混合物Bとを調製し、該原料混合物Aに(ζ´)水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で型枠上に散布して(ζ´´)表層部マットをフォーミングし、その上に該原料化合物Bに(ζ´)水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で散布して(ζ´´´)芯層部マットをフォーミングし、更にその上に該原料混合物Aに(ζ´)水分含有量30〜45重量%になるように散布して(ζ´´)表層用マットをフォーミングし、このようにして得られた三層構造のマットを圧締硬化せしめるとともに(η)表面にエンボスを施す木質セメント板の製造方法を提供するものである。本発明を以下に詳細に説明する。」
ただし、上記中、ギリシャ文字を()でかこんだ符号は、訂正請求の内容ではない(この符号については、本決定書の〔一〕のなお書きを参照)。
(ホ) 訂正事項5
本件特許明細書の段落【0010】中の「三層構造とすることが望ましい。」(本件特許掲載公報4欄21行)の記載を「三層構造とする。」と訂正する。
(ヘ) 訂正事項6
本件特許明細書の段落【0011】の記載を下記のとおり訂正する。
「 本発明の木質セメント板を製造するには、上記原料混合物に(ζ´)30〜45重量%程度の水を添加混合して加水混合物とし、上記混合物を型板上に散布して(ζ)マットをフォーミングし、このようにしてフォーミングされたマットを圧締硬化させ、更に所望ならばオートクレーブ養生する半乾式法が適用される。
(ζ´)三層構造を有する木質セメント板を半乾式法で製造する場合には上記原料混合物Aを加水して型板上に散布してマットA’をフォーミングし、その上に上記原料混合物Bを加水して該マットA’上に散布してマットB’をフォーミングし、更に原料混合物Aを加水して該マットB’上に散布してマットA’をフォーミングし、このようにしてフォーミングされた積層マットを圧締硬化させ、更に所望ならばオートクレーブ養生する。
上記原料混合物を型板上に散布する工程を連続的に行なうには、型板を多数個整列させて前方へ搬送しつヽその上から原料混合物を散布する。この際前方から散布される原料混合物に風を吹付けると原料混合物中の木質補強材が風選され、下部には微細な木質補強材が堆積し、上部には粗大な木質補強材が堆積したマットが得られる。
このようにして本発明の木質セメント板が製造されるが、本発明の木質セメント板においては、表層部の厚みと芯層部の厚みの比率は通常3:7程度とされる。」

(2) 訂正の適法性
(2-1) 訂正事項1について
(イ) 訂正の目的
訂正事項1は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3の「木質補強材を混合したセメントに請求項1に記載の木質セメント板廃材粉末を10〜50重量%混合し、更に該混合物の水分含有量を30〜45重量%に調節した上で型枠上に散布してマットをフォーミングし」を「セメント30〜60重量%、目開き4.5mm以下の粒径の微細木質補強材を15〜30重量%、16メッシュ以下の粒径であって55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされている木質セメント板廃材粉末を10〜50重量%混合した表層用原料混合物Aと、セメント30〜60重量%、目開き4.5〜10mmの粒径の粗大木質補強材を15〜30重量%、上記木質セメント板廃材粉末を10〜50重量%混合した芯層用原料混合物Bとを調製し、該原料混合物Aに水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で型枠上に散布して表層部マットをフォーミングし、その上に該原料化合物Bに水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で散布して芯層部マットをフォーミングし、更にその上に該原料混合物Aに水分含有量30〜45重量%になるように散布して表層用マットをフォーミングし」と、かつ、「該マットを圧締硬化せしめる」を「このようにして得られた三層構造のマットを圧締硬化せしめるとともに」と訂正し、それとともに、「表面にエンボスを施す」の記載を加入し、請求項番号を請求項1とあらため、訂正前の請求項1から同3までの各請求項を削除するものであるから、本件訂正請求は、訂正事項1の点で、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正である。
(ロ) 本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること
訂正事項1中の各構成要素は、本件特許明細書の【0008】及び【0010】〜【0012】の各段落に記載されていた事項である。
したがって、本件訂正は、訂正事項1の点で、本件出願当初明細書の記載の範囲内でする訂正である。
(ハ) 特許請求の範囲の実質拡張・変更
訂正事項1は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3の構成の発明の具体的実施態様として包含されていた事項と同一の事項であって、かつ、同請求項3の構成の発明の目的及び効果とは異質の目的を有し、異質の効果を奏するものではないから、特許請求の範囲を実質上拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-2) 訂正事項2から訂正事項5までの各訂正事項
これらの訂正事項は、いずれも、訂正事項1に対応して、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正であり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であり、特許請求の範囲を実質上拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-3) 訂正事項6
(イ) 訂正の目的
訂正事項6は、訂正事項1による訂正にともない、本件特許明細書の段落【0011】の記載が湿式法と半乾式法との両方を包含していた記載であったものを、そのうちの半乾式法の記載だけにするものであるから、本件訂正請求は、訂正事項6の点で、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正を請求するものである。
(ロ) 本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること
本件特許明細書の段落【0011】の記載は、訂正事項6の記載事項を包含していたから、本件訂正請求は、訂正事項6の点で、本件出願明細書に記載した事項の範囲内で訂正することを請求するものである。
(ハ) 特許請求の範囲の実質拡張・変更
訂正事項6によって、訂正事項1の構成の発明の目的及び効果が本件特許の特許請求の範囲の請求項3の構成の発明の目的及び効果とは異質のものとはならないから、本件訂正請求は、訂正事項6の点で、特許請求の範囲を実質上拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-4) 以上のとおりであるから、本件訂正は、その訂正事項1から同6までの各訂正事項の点で、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法改正前の特許法第126条第1項1号及び3号に挙げる目的を目的とし、かつ、同項ただし書前段並びに同条第2項及び第3項に規定する要件を満たしているから、本件訂正請求は認めるべきものである。

〔三〕 本件特許を維持する理由
(1) 引例の記載
(1-1) 特開平5-208854号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第1号証。以下では、引例1という。)
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】 アルミナセメント並びに無水石膏又は(及び)半水石膏を主成分とする熱硬化成分とポルトランドセメントとを含むセメント組成物と、細片化された木片及び水とを混合し、これ等の混合物を加熱し硬化させる硬質木片セメント板の製造方法において、
この硬質木片セメント板の製造に際して発生する廃材を粉砕し、上記木片と略同等若しくはこれ以上の粒径を有する回収木片と上記粒径以下の回収セメントとに分離すると共に、硬質木片セメント板における原料混合物中の木片についてのみその一部を回収された上記回収木片で置換し、かつ、この原料混合物を加熱し硬化させることを特徴とする硬質木片セメント板の製造方法。
【請求項2】 アルミナセメント並びに無水石膏又は(及び)半水石膏を主成分とする熱硬化成分とポルトランドセメントとを含むセメント組成物と、細片化された木片及び水とを混合し、これ等の混合物を加熱し硬化させる硬質木片セメント板の製造方法において、
この硬質木片セメント板の製造に際して発生する廃材を粉砕し、上記木片と略同等若しくはこれ以上の粒径を有する回収木片と上記粒径以下の回収セメントとに分離すると共に、硬質木片セメント板における原料混合物中の木片並びにポルトランドセメントの一部について回収された上記回収木片並びに回収セメントで置換し、かつ、この原料混合物を加熱し硬化させることを特徴とする硬質木片セメント板の製造方法。」
(ロ) 【0001】、【産業上の利用分野】
「本発明は、外壁等の建築材料に主に利用される硬質木片セメント板の製造方法に係り、特に、硬質木片セメント板の製造に際して発生する廃材を硬質木片セメント板の原料混合物中に添加しても曲げ強度等の諸特性の低下が起らない硬質木片セメント板の製造方法に関する。」
(ハ) 【0005】、【従来の技術】の一部
「ところで、この改良された硬質木片セメント板を製造するに際しては、その製造途上において端部の切屑や加工工程での板取りロス(端材)等製品の10〜25重量%程度の廃材が発生するが、これ等の廃材は、従来、産業廃棄物として場外処分されていた。しかし、公害規制が厳しくなるに従いその処分場の確保が困難になり、かつ、処分費用も嵩むため廃棄処分が益々困難になってきている。」
(ニ) 【0006】、【従来の技術】の一部
「このため、この廃材を再利用して上記硬質木片セメント板を求める製造方法の開発がなされている。すなわち、従来においては上記廃材を適宜手段により粉砕して微細形状に加工すると共に、これを硬質木片セメント板の原料混合物中に添加して上記廃材の再利用を図っていた。この際、添加される廃材中のセメント成分と木片の含有量を夫々算出し、その分を原料混合物より差引いて硬質木片セメント板における原料混合物の配合割合を設定する方法が採られていた。」
(ホ) 【0007】の一部、【発明が解決しようとする課題】の一部
「しかし、木片の原形が保てない程度まで上記廃材を粉砕してしまった場合、上述したような算出法に基づいて原料混合物中における木片の配合割合を設定すると全原料混合物中の木片量が実質的に少なくなるため、その分、木片の補強繊維としての機能が低下してしまう問題点があり、」
(ヘ) 【0011】の一部、【課題を解決するための手段】の一部
「この様な技術的手段において上記廃材についてはこれを適宜手段により所定寸法に破砕し、かつ、これを『すりこぎ式粉砕機』等により木片の原形が保てる程度に粉砕すると共に、これを上記木片と略同等若しくはこれ以上の粒径(例えば0.3mm〜1.0mm程度)を有する回収木片とこの粒径以下の回収セメントとに分離したものを適用するものである。」
(ト) 【0013】の一部、【課題を解決するための手段】の一部
「尚、上記回収木片単体又は回収木片と回収セメントの添加量については原料混合物中の全固形分に対して30重量%以内になるように設定することが望ましい。これ以上添加した場合、硬質木片セメント板の機械的強度の低下を充分に抑制することが困難となるからである。」
(チ) 【0018】、[実施例1]の一部
「下記の表1に示された比較例1に係る硬質木片セメント板の製造に際して発生した廃材をシュレッダー(川崎製鐵社製)にて約15mm〜25mm角以下に破砕し、それを更にローラーミル機(日鉄鉱業社製・すりこぎ式粉砕機)にてすりつぶした後、0.6m/mの金網メッシュにて篩分けして粒径0.6m/m以上の回収木片と粒径0.6m/m以下の回収セメントをまず求めた。尚、上記回収木片の外表面には約30〜40重量%の水和反応終了後のセメント成分が付着しており、他方回収セメントには10〜20重量%の微細木片が含まれていた。」
(リ) 【0031】、【発明の効果】の一部
「一方、請求項2に係る発明によれば、回収木片が適用されていない従来の木片単体の場合に較べて木片成分と原料混合物中におけるセメント成分との親和性の向上が図れ、かつ、廃材添加に伴うセメント組成物中における熱硬化成分の割合低減防止をも図ることが可能となる。」

(1-2) 特開昭59-97567号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第2号証。以下では、引例2という。)
(イ) 特許請求の範囲
「(1)セメントと軽量骨材を有効成分として配合し、水の存在下で賦形し、養生して硬化体を製造する方法であって、軽量骨材が、少なくともより粒径の大きい無機質軽量骨材とより粒径の小さい合成樹脂発泡体とが併用されているものであることを特徴とする無機質軽量硬化体の製法。」
(ロ) 1頁、右下欄、末行〜2頁、左上欄2行
「なお好ましくはこれらの軽量骨材の平均粒径比率を、合成樹脂発泡体/無機質軽量骨材=3/10以下、さらに好ましくは1/10以下とする。」
(ハ) 3頁、〔発明の効果〕
「この発明は、セメントと軽量骨材を有効成分として配合し、水の存在下で賦形し、養生して硬化体を製造する方法であって、軽量骨材が少なくともより粒径の大きい無機質軽量骨材とより粒径の小さい合成樹脂発泡体とが併用されているものであるから、軽量で強度が大で、かつ寸法安定性が優れ、吸水率が小さく、耐凍害性の大きい無機質軽量体が得られると言う効果がある。」

(1-3) 特開昭59-92968号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第3号証。以下では、引例3という。)
(イ) 特許請求の範囲
「 クロム酸ソーダの製造に際し廃出するクロム鉱滓を粉砕して500ミクロン以下でかつ44ミクロン以下が多くとも30重量%に粒度調整したクロム鉱滓を燻瓦製造原料に多くとも50重量%添加、混合し、混合物を成形し、焼成して得られる耐凍害性燻瓦の製造方法。」
(ロ) 3頁、左上欄13〜16行
「素地の粒度調整を図ると同時に該鉱滓特有のポーラス構造により素地全体の気孔の形状や気孔径の分布を理想的にし、よって凍害に強い瓦を得ることができるのである。」

(1-4) 特開平4-295072号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第4号証。以下では、引例4という。)
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】 水硬性バインダーと骨材からなる窯業系粉体に混和材を配合した材料に、適量の水を加え、混練、押出成形した後硬化させて得られる軽量セメント押出建材において、前記窯業系粉体が、粒径50μm以下が20重量%以上、粒径300μm以上が10重量%以下の粒度分布に配合調整されたバーミキュライトを5〜30重量%含有するものであることを特徴とする軽量セメント押出建材。」
(ロ) 3欄5〜11行、【0011】の一部
「この理由としては、バーミキュライトは気孔率が大きく、水分の吸水性に富むことが考えられる。細粉砕されることにより吸水性がより向上したバーミキュライトは、分散性にも優れ材料中に均一に分散し、押出成形時の圧力で分離する余剰水を吸収して材料の押出成形性向上に寄与すると推測される。」

(1-5) 特開平6-271345号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第5号証。以下では、引例5という。)
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】木質補強材と、セメントと、高炉スラグと、石膏とを主体とする混合硬化物からなり、該高炉スラグの比表面積が4000cm2/g以上の微粉末であり、セメントと該高炉スラグとの混合比は1:0.2から1:1重量比の範囲であり、石膏は0〜5重量%含まれていることを特徴とする木質セメント板。」
(ロ) 2欄44〜48行、【作用】の一部
「本発明ではセメントの一部を比表面積が4000cm2/g以上の微粉末である高炉スラグに置換するが、該高炉スラグは水硬性がありセメント使用量を減らして養生後の未硬化セメント量を減らし、それによって木質セメント板の寸法安定性を改良する。」

(1-6) 特開平6-183859号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第6号証。以下では、引例6という。)
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】ガラス粉末と、軟化温度がガラス粉末より高くかつ粘土質成分を含まないセラミックス骨材を主原料とし、これにヒュームドシリカおよびメチルセルロース等の有機物を加え、押出成形し、焼成してセラミックス成形体を製造するにあたり、セラミックス骨材として100メッシュの篩いを通過する粒径のものが80重量%以上であるセラミックス骨材を使用するセラミックス成形体の製造法。」
(ロ) 2欄、【0011】、【作用】
「次に本発明の作用について説明する。ガラス粉末とセラミックス骨材だけでは、焼結体中の気泡は連結した気泡となり球状気泡は生じないが、セラミックス骨材とガラス粉末とヒュームドシリカを併用して成形した成形体を焼成すると、詳細な理由は不明であるが、ガラスマトリックス中に独立した微細な球状気泡を多数生じ、このガラスマトリックス中にセラミックス骨材を分散させたセラミックス成形体が得られる。」
(ハ) 4欄、【発明の効果】
「本発明によれば、耐凍結融解特性に著しく優れたセラミックス成形体が製造される。」

(1-7) 特開平4-93237号公報(以下では、引例7という。)
(イ) 特許請求の範囲
「表裏層と芯層とからなり、該表裏層の密度は1.0〜1.2であり、該芯層の密度は0.8〜1.0であって、表面および/または裏面にはエンボスが施されていることを特徴とする無機質成形板。」
(ロ) 1頁、右下欄、下から8行〜2頁、左上欄2行
「 本発明の無機質成形板は木質材料と、自硬性無機材料とを主成分とするものであり、・・・、該自硬性無機材料としては、・・・石膏、・・・が例示され、」
なお、上記中、「・・・」は、当審が転記を省略した部分である。」
(ハ) 2頁、右上欄、下から6行〜同左下欄、11行
「 表裏層を作製するための望ましい原料組成を下記する。
セメント 30〜60重量%
ケイ酸含有物質 30〜60 〃
パーライト 10〜15 〃
木片および/または木粉 10〜25 〃
そして、上記木片として通常網目10mmを全通し平均網目4.5mmのサイズで厚みが1mm以下のものが望ましく、木粉は5〜100メッシュ、望ましくは10〜30メッシュの粒径を有するものを使用する。
木片は補強作用が木粉よりも大であるが木片のみでは得られる表裏層の緻密性が若干低下する。一方木粉のみでは得られる表裏層の強度が若干低下する。したがって木片と木粉とは併用されることが好ましく、その場合木片と木粉との混合重量比は80:20〜20:80程度とする。」
(ニ) 3頁左上欄、2〜8行
「本発明の芯層に用いる木質材料として望ましいものは・・・木質繊維束である。該木質繊維束は望ましくは主幹の径が約0.1〜2.0mm、主幹の実長が約2〜35mm、更に望ましくは10〜30mmの範囲にあり、嵩比重は約0.03〜0.05g/cm3の範囲にある。」
(ホ) 3頁右上欄、8〜14行
「 芯層を作製するための望ましい原料組成を下記する。
セメント 30〜60重量%
ケイ酸含有物質 30〜60 〃
パーライト 0〜15 〃
上記木質繊維束 5〜25 〃
発泡性プラスチックビーズ 0.5〜5 〃」
(ヘ) 3頁左下欄、3行〜同右欄7行
「乾式製造方法の工程1においては、下型板上に上記表裏層の原料混合物(混合物Aとする)をマット状に散布し、次いでその上に上記芯層の原料混合物(混合物Bとする)をマット状に散布し、更にその上に上記混合物Aをマット状に散布するのであるが、この際混合物Aおよび混合物Bには硬化反応のために夫々水を30〜45重量%添加しておく。・・・。該マットにはそれから上面に上型板が載置され、工程2において水分存在下に圧締予備硬化され所望の形状に成形される。・・・。圧締は二つの上下型板間に上記マットを挟圧することによって行われるが、表面および/または裏面にエンボスを施すには上型板および/または下型板の型板面に所定の凹凸模様を設けておく。」
(ト) 3頁、左下欄、下から3行〜同右下欄7行
「該マットにはそれから上面に上型板が載置され、工程2において水分存在下に圧締予備硬化され所望の形状に成形される。圧締条件は通常圧締圧10〜20Kg/cm2、温度60〜80℃、時間20〜30時間程度で行われ、加熱は通常蒸気にて行われる。圧締は二つの上下型間に上記マットを挟圧することによって行われるが、表面および/または裏面にエンボスを施すには上型板および/または下型板の型板面に所定の凹凸模様を設けておく。」
(チ) 6頁、左下欄6〜9行
「このようにして得られた無機質成形板は表裏層の密度が1.15であり、芯層の密度が0.90であり、表面が緻密でかつ平滑で軽量で鮮明な凹凸模様が形成され、防音断熱性に富むものである。」

(2) 引例発明の認定、本件特許発明との対比、判断
(2-1) 引例1に記載されている発明の認定
(イ) 引例1には、「上記回収木片単体又は回収木片と回収セメントの添加量については原料混合物中の全固形分に対して30重量%以内になるように設定することが望ましい」と記載されている{上記(1-1)(ト)参照}。
(ロ) 引例1には、その特許請求の範囲の請求項2に記載されている構成の発明において、木質セメント廃材を粉砕して0.3mm〜1.0mm程度の回収木片とこの粒径以下の回収セメントとに分離したものを使用することが記載されている{上記(1-1)(ヘ)参照}。
(ハ) 引例1の特許請求の範囲の請求項2に記載されている構成の発明の実施例1では、「0.6m/mの金網メッシュにて篩分けして粒径0.6m/m以上の回収木片と粒径0.6m/m以下の回収セメントをまず求め」、回収セメント30重量部、木片35重量部及び回収木片15重量部の組成になるように廃材粉末を30重量%添加している(引例1、表1参照)。
そうすると、上記(ロ)の「0.3mm〜1.0mm程度の回収木片」とは、0.3〜1.0mmの間の網目の篩でふるって篩上に回収した木片をいい、上記(ロ)の回収セメントはその篩下に相当すると解される。
(ニ) 以上によれば、引例1の特許請求の範囲の請求項2の構成の発明に関連して、引例1には、下記の発明が記載されていると認める。
「 アルミナセメント並びに無水せっこう又は(及び)半水せっこうを主成分とする熱硬化成分とポルトランドセメントとを含むセメント組成物と、細片化された木片及び水とを混合し、これらの混合物を加熱して硬化させて硬質木片セメント板を製造する方法において、
硬質木片セメント板の製造に際して発生する廃材を粉砕し、約0.3〜1mmの回収木片と回収木片の粒径以下の回収セメントとに分離すると共に、これらの粉末を合計して約30重量%まで添加し、かつ、この原料混合物を加熱し硬化させることを特徴とする硬質セメント板を製造する方法。」
以下では、上記構成の硬質セメント板を製造する方法の発明を引例1発明という。

(2-2) 引例7に記載されている発明の認定
上記(1-7)(イ)〜(ホ)によれば、引例7には、下記の発明が記載されていると認める。
「セメントを30〜60重量%、けい酸含有物質30〜60%、パーライト10〜15重量%及び、網目10mmを全通し、平均網目4.5mmのサイズの木片、10〜30メッシュの粒径を有する木粉とをあわせて10〜25重量%を配合して表裏層用原料混合物Aを調製するとともに、セメント30〜60重量%、けい酸含有物質30〜60重量%、パーライト0〜15重量%、発泡性プラスチックビーズ0.5〜5重量%及び木質繊維束5〜25重量%を配合して芯層用原料混合物Bを調製し、次いで、原料混合物A及び原料混合物Bにそれぞれ30〜45重量%加水した後、下型上に原料混合物Aを散布し、原料混合物Aの上に原料混合物Bを、さらに、その原料混合物Bの上に原料混合物Aを散布し、表面及び/又は裏面にはエンボスをほどこすことを特徴とする、木片を含有する無機質成形板を製造する方法」
以下では、上記構成の発明を引例7発明という。

(2-3) 本件特許発明と本件引例1発明との対比
以下では、本件訂正請求によって訂正された本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の構成の発明を本件特許発明という。
(イ) 本件特許発明では、原料混合物A及びBでせっこうを使用しないのに対して、本件引例1発明では、せっこう類を使用している。
以下では、この相違を相違点1という。
(ロ) 本件特許発明の木質セメント板廃材粉末の添加量の上限は、50重量%であるのに対して、本件引例1発明の硬質木質セメント板廃材の添加量の上限は、約30重量%であるから、約30重量%までは重複している。
(ハ) 本件特許発明では、「木質セメント板廃材粉末は16メッシュ以下の粒径であって55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%で含むようにされている」のに対して、本件引例1発明では、約0.3〜1mmの回収木片とその粒径以下の回収セメントとを添加している。
以下では、この相違点を相違点2という。
(ニ) 本件特許発明は、三層構造のマットを形成するのに対して、引例1発明には、木質セメント板を三層構造とする工程がない。
以下では、この相違点を相違点3という。
(ホ) 引例1発明には、三層構成の木質セメント板の表裏にエンボス加工する工程がない。
以下では、この相違点を相違点4という。
(ヘ) 上記相違点1から同4までの各相違点の他に、相違点はない。

(2-4) 上記相違点について
(イ) 相違点1、同3及び同4について
引例7発明は、三層構造の、木片を含有する無機質成形板を製造し、その表裏層用には、「木片として通常網目10mmを全通し、平均網目4.5mmのサイズで厚みが1mm以下のものが望ましく、木粉は5〜100メッシュ、望ましくは10〜30mmメッシュの粒径を有するものを使用」{〔三〕(1)(1-7)(ハ)参照}し、芯層用には、「望ましくは主幹の径が約0.1〜2mm、主幹の実長が約2〜35mm、更にのぞましくは10〜30mmの範囲にあり、嵩比重は約0.03〜0.05g/cm2の範囲にある」{上記〔三〕(1)(1-7)(ニ)、(ホ)参照}木質繊維束を使用し、三層構造の、木片を含有する無機質成形板を製造し、かつ、エンボス加工する点で、相違点1{上記〔三〕(1)(1-7)(ロ)参照}、同3及び同4について示唆するところがある(なお、引例2から引例6までの各引例には、この点については、格別の記載はない。)。
しかしながら、引例7発明の無機質成分は、セメントを30〜60重量%、けい酸含有物質30〜60重量%、パーライト10〜15重量%であるのに対して、一方、引例1発明のセメント組成物は、アルミナセメント並びに無水せっこう又は(及び)半水せっこうを主成分とする熱硬化成分とポルトランドセメントとを含有するものである。
そうすると、引例1発明と引例7の発明とでは、無機質成分を異にしているから、引例7発明でされた相違点3に関する工夫がそのまま引例1発明の場合にも適合すると予想することは困難であり、ただちに、引例1の木質セメント板を引例7発明によって三層構造とすることが容易であるとはいえない。
本件特許発明は、木質セメント板廃材粉末を使用したにもかかわらず、その粒径分布を特定範囲に限定するとともに、表裏層には微細な木質補強材を、芯層には、粗大な木質補強材を使用することによって、木質セメント板全体の性質を調整してはじめて、引例7発明と同様に、シャープなエンボスを得ることができたものであるから、引例7発明でも鮮明な凹凸模様が形成されるとしても、本件特許発明は、相違点4に関して、引例1発明及び引例7発明とからは予想できない手段によって、本件特許発明の目的を達したものである。
そして、本件特許発明は、相違点1に関して、無機質成分としてのせっこう(無水せっこう、半水せっこう)を使用しないセメント組成物を使用し、しかも、木質セメント板廃材粉末という特定の材料を使用して、引例7発明の三層構成法を採用して、「表面や小口に平滑感を与え、かつ表面にエンボスを施した場合にはシャープなエンボスが得られる」{上記〔二〕(1)(チ)参照}ようにすることができたものである。

(ロ) 相違点2について
本件特許発明は、木質セメント板廃材粉末の粒径及び同粉末の使用割合の点自体については、必ずしも、格別の工夫をしているとは認められないが、このこと自体は、相違点2が上記相違点1、同3及び同4と一体をなして、本件特許発明を構成するものであるから、本件特許発明の容易性の判断に影響しない。

(2-5) 引例2から引例6までの各引例には、微細木質補強材及び木質セメント板廃材粉末を組合せ使用する場合について、格別のことを示唆する記載はない。

(2-6) したがって、本件特許発明は、引例2から引例6に記載されている事項を考慮しても、引例1発明及び引例7発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは認められない。

〔四〕 むすび
また、当審は、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない出願について特許されたものではないと認める。
よって、平成7年政令205号第4条第2項に規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
木質セメント板の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】セメント30〜60重量%、目開き4.5mm以下の粒径の微細木質補強材を15〜30重量%、16メッシュ以下の粒径であって55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされている木質セメント板廃材粉末を10〜50重量%混合した表層用原料混合物Aと、セメント30〜60重量%、目開き4.5〜10mmの粒径の粗大木質補強材を15〜30重量%、上記木質セメント板廃材粉末を10〜50重量%混合した芯層用原料混合物Bとを調製し、該原料混合物Aに水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で型枠上に散布して表層部マットをフォーミングし、その上に該原料混合物Bに水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で散布して芯層部マットをフォーミングし、更にその上に該原料混合物Aに水分含有量30〜45重量%になるように散布して表層用マットをフォーミングし、このようにして得られた三層構造のマットを圧締硬化せしめるとともに表面にエンボスを施すことを特徴とする木質セメント板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は木質セメント板廃材粉末を混合した木質セメント板の製造方法に関するものである。
【0002】
【発明の背景】 木質セメント板を製造する際、切削工程において切屑や端切れ等の廃材が製品の10〜25%程度発生するが、このような木質セメント板廃材は従来は主として廃棄処分にしていた。しかし公害規制が厳しくその上廃棄処分場の確保が困難となって廃棄処分費用が嵩んでいる現状からみて、該木質セメント板廃材の再利用が強く望まれている。
上記木質セメント板廃材の再利用方法としては、該木質セメント板廃材の粉砕物を木質セメント板原料に混合して木質セメント板を製造する方法が検討されている。しかしながら木質セメント板廃材は木質補強材とセメント硬化物とからなり、多量の混合は製品の強度低下を招くと云う問題点があった。
【0003】
【従来の技術】 従来、木質セメント板廃材粉砕物を木質セメント板原料に混合することによる製品の強度低下を防ぐために、該木質セメント板原料に木質セメント板廃材粉砕物と共に石膏を添加する方法(特公昭55-14826号)が提供されている。上記方法においてはポルトランドセメントと木片との混合物に更に6メッシュ以下に粉砕した木質セメント板廃材粉砕物と二水石膏とが添加され、該木質セメント板廃材粉砕物は前記原料中の全固形分に対して30重量%以内になるように調整される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】 しかしながら上記従来方法にあっては、石膏を調達するかあるいは製造する必要があり、石膏を調達する場合には製品のコストアップになり、また石膏を製造する場合には製造装置が必要で更に製造の手間がかゝる。またこのようにして石膏を添加しても製品の強度低下をきたさないためには木質セメント板廃材粉砕物の添加量を30重量%以内に制限しなければならない。
【0005】
【課題を解決するための手段】 本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、セメント30〜60重量%、目開き4.5mm以下の粒径の微細木質補強材を15〜30重量%、16メッシュ以下の粒径であって55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされている木質セメント板廃材粉末を10〜50重量%混合した表層用原料混合物Aと、セメント30〜60重量%、目開き4.5〜10mmの粒径の粗大木質補強材を15〜30重量%、上記木質セメント板廃材粉末を10〜50重量%混合した芯層用原料混合物Bとを調製し、該原料混合物Aに水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で型枠上に散布して表層部マットをフォーミングし、その上に該原料混合物Bに水分含有量30〜45重量%になるように加水した上で散布して芯層部マットをフォーミングし、更にその上に該原料混合物Aに水分含有量30〜45重量%になるように散布して表層用マットをフォーミングし、このようにして得られた三層構造のマットを圧締硬化せしめるとともに表面にエンボスを施す木質セメント板の製造方法を提供するものである。
本発明を以下に詳細に説明する。
【0006】 本発明において用いられる木質補強材としては木片、木毛、木質パルプ等、従来の木質セメント板に用いられる木質補強材と同様なものがある。
望ましい木質補強材としては巾0.5〜2mm、長さ1〜20mm、アスペクト比(長さ/厚み)20〜30の木片がある。
【0007】 本発明において用いられるセメントとしては、ポルトランドセメント、高炉スラグセメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント等が例示される。
【0008】 本発明において用いられる木質セメント板廃材粉末とは、木質セメント板を製造する際、切削工程において発生する切屑や端切れ等の廃材を粉砕することによって得られるものである。該木質セメント板廃材の粉砕には通常ハンマーミルが使用される。上記木質セメント板廃材粉末の粒径は16メッシュ以下の粒径とされ、更に粒径が55メッシュ以上のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含んでいるような粒度分布を有するものとされている。
【0009】 上記原料の他に更にセメントの一部をケイ砂、ケイ石粉、シリカヒューム、シラスバルーン、パーライト、ベントナイト、ケイソウ土等の充填剤で置換してもよいし、あるいは塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ソーダ、水ガラス等のセメント硬化促進剤やワックス、パラフィン、シリコン等の撥水剤等を添加してもよい。
【0010】 本発明の木質セメント板は芯層部の表裏面に表層部を積層した三層構造とする。
このような三層構造の木質セメント板の場合、表層部に使用する原料混合物Aおよび芯層部に使用する原料混合物Bの組成は、ともに通常セメント30〜60重量%、木質補強材15〜30重量%、木質セメント板廃材粉末10〜50重量%である。
しかしながら、上記三層構造の木質セメント板にあっては、表層部には緻密構造を与えるために木質補強材として目開き4.5mm以下の粒径の微細木質補強材を使用し、芯層部には粗構造を与えるために木質補強材として目開き4.5〜10mmの粒径の粗大木質補強材を使用する。
【0011】 本発明の木質セメント板を製造するには、上記原料混合物に30〜45重量%程度の水を添加混合して加水混合物とし、上記混合物を型板上に散布してマットをフォーミングし、このようにしてフォーミングされたマットを圧締硬化させ、更に所望ならばオートクレーブ養生する半乾式法が適用される。
三層構造を有する木質セメント板を半乾式法で製造する場合には上記原料混合物Aを加水して型板上に散布してマットA’をフォーミングし、その上に上記原料混合物Bを加水して該マットA’上に散布してマットB’をフォーミングし、更に原料混合物Aを加水して該マットB’上に散布してマットA’をフォーミングし、このようにしてフォーミングされた積層マットを圧締硬化させ、更に所望ならばオートクレーブ養生する。
上記原料混合物を型板上に散布する工程を連続的に行なうには、型板を多数個整列させて前方へ搬送しつゝその上から原料混合物を散布する。この際前方から散布される原料混合物に風を吹付けると原料混合物中の木質補強材が風選され、下部には微細な木質補強材が堆積し、上部には粗大な木質補強材が堆積したマットが得られる。
このようにして本発明の木質セメント板が製造されるが、本発明の木質セメント板においては、表層部の厚みと芯層部の厚みの比率は通常3:7程度とされる。
【0012】
【作用】 従来は前記したように6メッシュ以下の粗大粒径を有する木質セメント板廃材粉砕物が木質セメント板原料中に添加されていた。このような粗大粒径の木質セメント板廃材粉砕物を添加すれば製品の強度が低下することは前記した通りである。 本発明では木質セメント板廃材を16メッシュ以下の微細粒径にまで粉砕すると、該木質セメント板廃材粉末は製品の強度を低下せしめることなく、かえって補強材としての役目を果たすことが判明した。したがって従来に比して木質セメント板廃材粉末の添加量を50重量%にまで増加することが出来、木質セメント板廃材の利用効率が高められる。
更に該木質セメント板廃材粉末は55メッシュ以上(16〜55メッシュ)の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%の割合で含むようにされており、55メッシュ以上の粒径のものは補強材としての役目を果たし、55メッシュ以下の粒径のものは木質セメント板のセメントマトリクスに形成される細孔に充填して寸法安定性や耐凍結融解性を向上せしめ、更に製品の表面の巣穴や小口の空隙をなくし、表面や小口に平滑感を与え、かつ表面にエンボスを施した場合にはシャープなエンボスが得られるようにする。しかしながら木質セメント板廃材粉末の添加量が50重量%を越えると製品の強度が若干低下する。
【0013】
【実施例】 表1に示す組成の混合物に水を40〜50重量%添加した加水混合物を用いて、表裏層部と芯層部とを有する三層構造の木質セメント板である本発明の試料1,2,3および比較試料1,2を作成した。製造条件は圧締プレス圧21〜30Kgf/cm2、硬化条件は温度40〜60℃,時間18〜24時間、自然養生は約1週間、乾燥条件は温度65〜85℃で10〜15時間である。
木質セメント板廃材粉末としては、木質セメント板を製造する際の切削工程において発生する切屑や端切れ等の廃材をハンマーミルによって粉砕したものを使用した。上記木質セメント板廃材粉末は16メッシュ以下の粒径を有し、55メッシュ以上の粒径のものが約40重量%、55メッシュ以下の粒径のものが約60重量%の割合で含まれていた。
【0014】 試料および比較試料は、下型板上に表1に示す表層部組成の混合物を所定量散布して表層部マットをフォーミングし、その上に表1に示す芯層部組成の混合物を所定量散布して芯層部マットをフォーミングし、更にその上から上記表層部組成の混合物を所定量散布して裏層マットをフォーミングし、その上から上型板を当接し、表1に示す条件で圧締、硬化、養生および乾燥することにより三層構造で表裏層/芯層比3/7の木質セメント板とした。
このようにして得られた各試料の各種物性を測定した。その結果は表2に示される。
なお上記各試験方法は次のようである。
曲げ強度試験:JISA-5417号,3号試験片について行なった。
吸水率:JISA-5417にもとづいて行なった。
密度、厚さ:JISA-5417にもとづいて行なった。
タッピンネジ逆引抜抵抗:10×10cmのテストピースを用いて頭径8φ(軸径4φ)のタッピンネジを2mm/minのスピードで逆引抜きした。
耐衝撃性:JISA-1421にもとづいて行なった。
切断性:全試料につき切断時の感触。
外観:910×1820mmのパレット毎について外観検査した。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】 表2を参照すると、木質セメント板廃材粉末を添加した本発明の試料は従来の比較試料1に比して物理的諸物性は何ら遜色のなくむしろ表面の巣穴や小口の空隙の少ない外観の良好な木質セメント板が得られる。しかし木質セメント板廃材粉末が50重量%を越えて含まれている比較試料2では破壊強度やタッピンネジ逆引抜抵抗が劣る。
【0018】
【発明の効果】 したがって本発明においては、木質セメント板廃材の粉末の粒度分布を16メッシュ以下の粒径、55メッシュ以上の粒径のものを20〜60重量%、55メッシュ以下の粒径のものを40〜80重量%に設定することによって、該木質セメント板廃材粉末添加による補強効果と寸法安定性および耐凍結融解性を向上せしめる効果とを両立させ、かつ表面の巣穴や小口の空隙の少ない外観の良好な木質セメント板を製造することが出来る。かくして本発明では、木質セメント板廃材の再利用効率が大巾に向上する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2001-12-12 
出願番号 特願平6-259364
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 徳永 英男  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 2000-01-14 
登録番号 特許第3023057号(P3023057)
権利者 ニチハ株式会社
発明の名称 木質セメント板の製造方法  
代理人 宇佐見 忠男  
代理人 宇佐見 忠男  

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