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審決分類 |
審判 一部申し立て 発明同一 C09K |
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管理番号 | 1093172 |
異議申立番号 | 異議2001-70801 |
総通号数 | 52 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-12-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-03-12 |
確定日 | 2004-02-21 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3086300号「ケーブル用止水剤」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3086300号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3086300号は、平成3年9月12日(国内優先権主張:平成2年9月14日、平成2年12月27日、平成3年1月21日)に出願され、平成12年7月7日にその発明についての特許権の設定登録がなされ、その後、住友精化株式会社より特許異議の申立てがあり、異議申立人に対して審尋がなされた後、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年3月25日付けで訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、これに対して応答がなかったものである。 II.訂正の適否 1.訂正事項 特許請求の範囲請求項1、及び明細書段落【0011】における、 「単量体混合物を架橋剤の存在下に重合して得られ」との記載を、 「単量体混合物を架橋剤の存在下(ただし、架橋剤使用量を単量体に対するモル比で0.0000113を除く)に重合して得られ」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 上記訂正事項は、訂正前の特許請求の範囲請求項1において、「単量体混合物を架橋剤の存在下に重合して得られ」という記載を、「単量体混合物を架橋剤の存在下(ただし、架橋剤使用量を単量体に対するモル比で0.0000113を除く)に重合して得られ」と訂正するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 この訂正について特許権者は、先願である特願平2-150238号の願書に最初に添付された明細書(以下、「先願明細書」という)の実施例3及び実施例9に相当する止水剤を除くものであるから新規事項の追加には該当しない旨主張しているが、上記訂正は、先願の実施例3及び実施例9に相当する止水剤のみを過不足なく除くものとは認められない。 すなわち、先願明細書に記載された実施例3及び実施例9においては、単量体としてアクリル酸及びアクリルアミド、架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルをそれぞれ特定のモル比で用いているものであるから、除かれるべき止水剤に相当する吸水性樹脂は、先願の実施例3及び実施例9において用いられている単量体、架橋剤およびそれらのモル比を特定したもののみに限られる。これに対して、上記訂正においては「(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種の(メタ)アクリル化合物と(メタ)アクリルアミドとのモル比が1:9〜5:5である」単量体混合物を架橋剤の存在下に重合する際に、架橋剤使用量が単量体に対するモル比で0.0000113のものだけを除くというものであって、単量体、架橋剤の種類および単量体のモル比も特定されていないから、上記訂正は、先願明細書の実施例3および実施例9に記載されたものよりもはるかに大きい部分を除く訂正となるものである。そして訂正前の明細書には、このように除かれる部分について、これを裏付けるような記載は全くない。 したがって、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正とは認められない。 3.訂正の適否の結論 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 III.特許異議申立について 1.本件発明 以上のとおり本件訂正請求は認められないので、本件請求項1ないし請求項3に係る発明は、訂正前の明細書の特許請求の範囲請求項1ないし請求項3に記載された以下のとおりである(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という)。 「【請求項1】(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種の(メタ)アクリル化合物と(メタ)アクリルアミドとのモル比が1:9〜5:5である該(メタ)アクリル化合物と該(メタ)アクリルアミドよりなる単量体混合物を架橋剤の存在下に重合して得られ、人工海水に対する平衡吸水倍率の90%に達するまでの時間で表わされる吸水速度が8分以下、該人工海水に対する吸水倍率が自重の8倍以上であり、かつゲル粘稠度が0.6×105〜2.5×105dyne・s/cm3である粒子状架橋重合体よりなるケーブル用止水剤。 【請求項2】前記(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩とのモル比が5:5〜0:10である請求項1に記載の止水剤。 【請求項3】前記(メタ)アクリル化合物と前記(メタ)アクリルアミドとのモル比が2:8〜4:6である請求項1に記載の止水剤。」 2.申立ての理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証(特願平2-150238号の公開公報である特開平4-45850号公報)を提出し、本件発明1ないし3は、本願優先日前の出願であって本願出願後に公開された上記甲第1号証の出願当初の明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、したがって本件発明1ないし3の特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。 なお、当審において通知した取消しの理由の趣旨は、異議申立人の上記申立理由と同じである。 3.証拠の記載 甲第1号証の出願当初の明細書には、「(1)アミノ基含有水溶性エチレン性不飽和単量体50〜90モル%、及びアルカリ金属による中和度が40〜100モル%であるアクリル酸10〜50モル%からなる単量体水溶液を架橋剤および水溶性ラジカル重合開始剤の存在下に重合して得られる吸水性樹脂よりなる耐塩性吸水剤」が記載されており(特許請求の範囲請求項1)、上記アミノ基含有水溶性エチレン性不飽和単量体について、「本発明におけるアミノ基含有水溶性エチレン性不飽和単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミドである。アミノ基含有水溶性エチレン性不飽和単量体は、50〜90モル%の範囲で使用する必要があり、50モル%未満の少ない量では、得られる吸水性樹脂の耐塩性が不充分となり好ましくない。」と記載され(公報第2頁左下欄11行〜右下欄7行)、吸水性樹脂の用途について、「このようにして得られた吸水性樹脂は、特に農園芸用保水剤、土木用止水剤、地下および海底電線ケーブル用止水剤、地下および海底光ファイバーケーブル用止水剤等の土壌改良分野、工業用分野において優れた性能を発揮する。」と記載されている(公報第4頁右上欄18行〜左下欄2行)。また実施例3には、80重量%アクリル酸水溶液46gに18.4重量%水酸化ナトリウム水溶液を83.2g滴下して75モル%の中和を行い、次いで35重量%アクリルアミド水溶液103.7g、エチレングリコールジグリシジルエーテル2.0mgおよび過硫酸カリウム0.11gを加え、界面活性剤存在下で重合させて88.1gの吸水性樹脂を得たこと(公報第5頁左下欄13行〜右下欄9行参照)、実施例9には、80重量%アクリル酸水溶液46gに13.6重量%水酸化ナトリウム水溶液を75.2g滴下して50モル%の中和を行い、次いで35重量%アクリルアミド水溶液103.7g、エチレングリコールジグリシジルエーテル2.0mgおよび過硫酸カリウム0.11gを加え、界面活性剤存在下で重合させて84.8gの吸水性樹脂を得たこと(公報第6頁左下欄5行〜12行参照)が記載されている。 4.対比・判断 (本件発明1について) 本件発明1と、先願明細書の実施例3あるいは9に記載された吸水性樹脂とを比較すると、先願明細書記載の吸水性樹脂は、その実施例等の記載からみて、アクリル酸およびアクリル酸塩からなるアクリル化合物とアクリルアミドのモル比が1:9〜5:5の範囲内にある単量体混合物を架橋剤の存在下に重合して得られたものであり、かつ、懸濁重合により得られた樹脂が粒子状であって、ケーブル用止水剤の用途に用いられることは明らかであることから、両者は、「アクリル酸およびアクリル酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアクリル化合物とアクリルアミドとのモル比が1:9〜5:5である該アクリル化合物と該アクリルアミドよりなる単量体混合物を架橋剤の存在下に重合して得られた、粒子状架橋重合体よりなるケーブル用止水剤」である点で一致するものである。しかし、先願明細書記載の吸水性樹脂が、「人工海水に対する平衡吸水倍率の90%に達するまでの時間で表わされる吸水速度が8分以下、該人工海水に対する吸水倍率が自重の8倍以上であり、かつゲル粘稠度が0.6×105〜2.5×105dyne・s/cm3である」ものかどうかについては明確な記載がない。 この点に関して当審において異議申立人に対して審尋を行い、上記吸水速度及びゲル粘稠度について、本件発明1の粒子状架橋重合体と先願明細書記載の吸水性樹脂とを直接対比できるようなデータの提出を求めたところ、異議申立人は、先願明細書の実施例3及び実施例9記載の吸水性樹脂の吸水速度及びゲル粘稠度が本件発明1において特定される範囲内にあるとする実験成績証明書を提出した。しかし、該実験成績証明書には、「甲第1号証に記載される実施例3および実施例9に従い、吸水性樹脂を製造した。」とあるだけで実際にどのような材料を用いてどのような条件で吸水性樹脂を製造したのかについては一切開示されておらず、実際に先願明細書記載の吸水性樹脂と同じものが得られたものかどうか確認することができないため、結果として、先願明細書の実施例3及び実施例9記載の吸水性樹脂の吸水速度及びゲル粘稠度が本件発明1において特定される範囲内にあると断定することはできない。そして、他に先願明細書の実施例3及び実施例9記載の吸水性樹脂の吸水速度及びゲル粘稠度の値が、必ず本件発明1において特定される範囲内にあるという根拠を見出すことができない。 したがって本件発明1は、粒子状架橋重合体が「人工海水に対する平衡吸水倍率の90%に達するまでの時間で表わされる吸水速度が8分以下、該人工海水に対する吸水倍率が自重の8倍以上であり、かつゲル粘稠度が0.6×105〜2.5×105dyne・s/cm3である」点において先願明細書に記載された発明と一致するものではないから、本件発明1は上記先願明細書に記載された発明と同一ではない。 (本件発明2及び3について) 本件発明2及び3は、本件発明1の構成をその主たる構成として含むものであり、本件発明1は上述したように上記先願明細書に記載された発明とは認められず、したがって同様の理由により、本件発明2及び3もまた、上記先願明細書に記載された発明とは認められない。 IV.むすび 以上のとおりであるから特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、本件発明1ないし3に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2004-02-05 |
出願番号 | 特願平3-233426 |
審決分類 |
P
1
652・
161-
YB
(C09K)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤原 浩子 |
特許庁審判長 |
鐘尾 みや子 |
特許庁審判官 |
井上 彌一 後藤 圭次 |
登録日 | 2000-07-07 |
登録番号 | 特許第3086300号(P3086300) |
権利者 | 株式会社日本触媒 |
発明の名称 | ケーブル用止水剤 |
代理人 | 齋藤 悦子 |
代理人 | 細田 芳徳 |
代理人 | 宇谷 勝幸 |
代理人 | 野上 敦 |
代理人 | 八田 幹雄 |
代理人 | 藤井 敏史 |
代理人 | 奈良 泰男 |