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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て成立) H01J
管理番号 1093250
判定請求番号 判定2003-60081  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1992-11-06 
種別 判定 
判定請求日 2003-10-21 
確定日 2004-03-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2953677号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件目録及びイ号物件説明書に示す「CRTディスプレイ」は、特許第2953677号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
別紙イ号物件目録に示すCRTディスプレイは特許第2953677号(以下「本件特許」という。)発明の技術的範囲に属する、との判定を求める。

第2 本件特許発明
1 本件特許の請求項1に係る発明
本件特許の唯一の独立請求項である請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(なお、請求人の分説にしたがって符号「A」、「B」及び「C」を付加した。)
「【請求項1】
A ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された電極と、
B 前記ブラウン管の前面より輻射される電界とは逆極性の電圧を前記電極に印加する手段とを備える、
C ブラウン管からの電界輻射を抑制する装置。」
2 本件発明の目的及び効果
本件特許明細書には、本件発明の目的及び効果に関して、図面とともに
「【0002】【従来の技術】ブラウン管を使用した表示端末装置(VDT)における電界輻射、特に5Hz〜400kHzの電界輻射が、人体に悪影響を与えるということで問題となっている。たとえば、スウェーデンにおけるMPR規格(MPR1990)によれば、AEF(Alternating Electric Field)に関して、BAND I(20Hz〜2kHz)で25V/m以下、BAND II(2kHz〜400kHz)で2.5V/m以下と規制されている。【0003】VDTから輻射される電界の多くは、水平偏向の帰線パルスに起因しており、これによる電界は、ブラウン管に取付けられる偏向ヨークから主として発生されることがわかっている。このような水平偏向の帰線パルスに起因する・・・電界は、前述した周波数範囲における比較的高い周波数領域にある。また、VDTから輻射される電界には、上述した水平偏向の帰線パルスに基づくものだけでなく、ブラウン管のアノードに印加される高電圧が垂直同期で変動することによってもたらされるものもある。この垂直同期で変動する電圧によってもたらされる電界は、前述した周波数範囲における比較的低い周波数領域に現われる。【0004】このような電界の輻射は、ブラウン管の前面以外の領域では、金属板等からなるシールド材によって効果的にシールドすることができる。【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ブラウン管の前面にあっては、画像を目で見えるように表示しなければならないため、金属板等によるシールドを単純に適用することはできない。【0006】他方、ブラウン管に印加された高電圧によって、その前面が帯電し、それによって空気中の塵埃が付着するのを防止するため、透明導電性膜をブラウン管の前面またはブラウン管の前方に配置される透明パネル上に形成し、この透明導電性膜を接地することが行なわれている。このような透明導電性膜は、ブラウン管の前面から輻射される電界に対して、ある程度のシールド効果を期待することができる。しかしながら、このような透明導電性膜の形成には、高いコストが必要であり、また、高コストの割には、そのシールド効果は十分ではない。【0007】それゆえに、この発明の目的は、ブラウン管の前面から輻射される電界を効果的に抑制できる装置を提供しようとすることである。」、
「【0015】【発明の効果】したがって、この発明によれば、ブラウン管の前面より輻射される電界が、抑制される。この抑制の効果は、電極に印加される逆極性の電圧が、ブラウン管の前面より輻射される電界に対して、波形が相似であり、同期がとれているときに最も顕著である。【0016】それゆえに、この発明によれば、人体に悪影響を与えることが懸念されている電界輻射を安価に低減することができる。【0017】なお、逆極性の電圧が印加される電極として、消磁コイルを利用すれば、ほとんどのブラウン管には既に消磁コイルが取付けられているので、電極を特別に設ける必要がない。【0018】また、消磁コイルによる消磁が、たとえば正特性サーミスタを用いた自動消磁回路によって行なわれる場合、消磁回路には電流が減衰した後であっても、電圧が印加されたままである。この電圧がブラウン管より輻射される電界をキャンセルするための電圧に重畳されると、キャンセル電圧の効果が低減されることがある。そのため、消磁コイルに交流電流を与える消磁電源と消磁コイルとの間の接続は、消磁を終えた後、完全にカットされる構成を採用すれば、このような不都合は回避される。また、このような接続をカットするため、タイマ制御されたスイッチを用いると、接続のカットのための煩雑な操作が不要となる。【0019】また、キャンセル電圧は、前述したように、ブラウン管から輻射される電界に対して、波形が相似で同期がとれていることが望ましい。したがって、水平偏向の帰線パルスによってもたらされる電界をキャンセルするための電圧としては、水平偏向回路の帰線パルス信号から派生する、帰線パルス信号とは逆極性の信号を有利に用いることができる。また、ブラウン管のアノードに印加される垂直同期で変動する電圧によってもたらされる電界をキャンセルしようとする場合には、キャンセル電圧として、このような垂直同期で変動する電圧を位相反転した電圧を有利に用いることができる。さらに、これら両方のキャンセル電圧を電極に印加すれば、上述の両方の電界を有利にキャンセルすることができる。」
との記載がされている。

第3 イ号物件
イ号物件は、イ号物件目録及びイ号物件説明書によれば、商品名「CRTディスプレイ」(型名LS501U)のCRTディスプレイであり、以下の構成を有している。
1 イ号物件に係るCRTディスプレイは、図1に示すように、電子を打ち出す電子銃11、偏向ヨーク12、アルミ蒸着膜13及び蛍光面14を具備するブラウン管10からなる。
2 ブラウン管10の前面10aには導電コーティング16が設けられている。この導電コーティングは接地されている。
3 ブラウン管10の内部にはアノード電極22が形成されている。
4 ブラウン管10の前部側の側面には、ブラウン管10の周囲を覆う金属製の帯状の防爆バンド18が設けられている。この防爆バンド18は接地されている。
5 防爆バンド18の後方にリード線20が設けられている。このリード線20は、回路基板上から引き出されて(写真3参照)、消磁コイル21にクランプされ、消磁コイル21に沿うように配置されている(写真4参照)。
6 リード線20は、前記回路基板上でコンデンサを介してフライバックトランスの1番ピンに接続し(写真5参照)、フライバックパルス相当のパルス電圧が印加されている。
7 リード線20に印加されるパルス電圧は、ブラウン管の前面から輻射する電界とは逆極性である(波形図1参照)。

第4 請求人の主張
1 イ号物件における「消磁コイル21に沿うように配置されたリード線20」(以下「構成a」という。)は、本件発明の構成要件Aに対応する。
イ号物件における「リード線20に、ブラウン管10の前面から輻射する電界とほぼ同形状で、逆極性のパルス電圧を印加する構成」(以下「構成b」という。)は、本件発明の構成要件Bに対応する。
イ号物件の構成aと構成bとからなる構成は、本件発明の構成要件Cに対応する。
2 イ号物件が本件発明の技術的範囲に属することの説明
(1)構成要件Aについて
イ号物件のリード線20は、ブラウン管10の前面10aの周縁部近傍に配置されている。本件特許明細書において、構成要件Aにおける「ブラウン管の前面の周縁部近傍」の文言は、本件発明の作用効果を参酌すると、ブラウン管の前面より輻射される電界とは逆極性の電圧を印加することにより、前記電界輻射を有功に抑制できる領域内における電極の位置であると解される。してみれば、イ号物件のリード線20は、このリード線20にブラウン管の前面から輻射する電界とは逆極性の電圧を印加することにより、ブラウン管の前面より輻射される電界を抑制しているので、リード線20は「ブラウン管の前面の周縁部近傍」に配置されたものであるといえる。
また、本件特許明細書の段落【0009】には、「ブラウン管のシャドウマスクの残留磁気を除去するために設けられた消磁コイルが、そのまま、前記電極として用いられる。」と記載されている。この記載事項は、消磁コイルが、ブラウン管のシャドウマスクの残留磁気を除去するために、ブラウン管の前面の周縁部近傍に設けられるので、この消磁コイルを本件発明における「電極」として利用できることを意味している。してみれば、イ号物件のリード線20は、消磁コイル21に沿うように配置されているので、リード線20は、ブラウン管10の前面の周縁部近傍にあると言える。
したがって、イ号物件の「消磁コイル21に沿うように配置されたリード線20」(構成a)は、本件発明の構成要件Aを充足する。
(2)構成要件Bについて
イ号物件における「リード線20に、ブラウン管10の前面から輻射する電界とほぼ同形状で、逆極性のパルス電圧を印加する構成」(構成b)は、本件発明の構成要件Bを充足する。
(3)構成要件Cについて
イ号物件の構成aと構成bとからなる構成は、本件発明の構成要件Cを充足する。
(4)作用効果の同一性
イ号物件は、リード線20に、ブラウン管の前面から輻射する電界とほぼ同形状で、逆極性のパルス電圧を印加することにより、ブラウン管の前面から輻射される電界を抑制しているので、本件発明と同等の作用効果を奏している。
被請求人は、イ号物件のリード線20はブラウン管後部のDY等から輻射される電界を抑制する目的で設けられているのであり、イ号物件においてブラウン管前面から輻射される電界を抑制するのは導電コーティング16であると主張する。
イ号物件のリード線20が被請求人の言うような目的で設けられているとしても、また、イ号物件の導電コーティング16がブラウン管の前面から輻射される電界を抑制する目的で設けられているとしても、現にイ号物件のリード線20がブラウン管の前面から輻射される電界を抑制する働きをしていれば、イ号物件のリード線20は本件発明の構成要件Aにいう「電極」と同等である。
イ号物件のリード線20が現にブラウン管の前面から輻射される電界を抑制する機能を有することは、請求人が行った実験やシミュレーション結果から明らかである。
被請求人が行った実験1から4は、特に実験3(シールドあり、リード線ON)がリード線を覆うようにシールドしているので、リード線から輻射された電界がブラウン管の前面に回り込んで、ブラウン管の前面から輻射されている電界を抑制する効果が確認できない。したがって、これらの実験に基づいて、イ号物件のリード線20がブラウン管の前面から輻射されている電界を何ら抑制していないという被請求人の主張には理由がない。
請求人が行った実験(リード線20を含めてブラウン管の後方をシールドした状態と、リード線20を露出させ、それよりも後方をシールドした状態とで、ブラウン管の前面から輻射される電界を測定した実験)によれば、リード線20で発生した電界がブラウン管の前面に回り込んで、ブラウン管の前面から輻射される電界を抑制していることが認められる。
また、後者の実験(リード線20を露出させ、それよりも後方をシールドした状態で行った実験)は、イ号物件の防爆バンド18を接地した状態で行ったものであるが、リード線20から輻射された電界は防爆バンド18を超えてブラウン管の前面に及び、ブラウン管の前面から輻射される電界を抑制している。したがって、被請求人の主張は失当である。
3 よって、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属する。

第5 被請求人の主張
イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するものではない。以下、その理由を述べる。
1 本件発明の構成要件Aについて
文言上「前面の周縁部近傍」とはどこかについては特許請求の範囲の記載からだけでは明確な解釈を導き出すことができない。発明の詳細な説明を参酌しても、いずれの箇所が周縁部近傍であるか明確な定義は存在しない。本件発明は、明細書の段落【0014】に記載されているように「ブラウン管の前面より輻射される電界は、電極に印加された逆極性の電圧によりキャンセルされる」という作用を奏するものである。そしてこのキャンセル作用がブラウン管のいずれの箇所においてなされるかという点について実施例の図1を参酌して鑑みれば、ブラウン管の前方においてキャンセル作用がなされているといわざるをえない。したがって、本件発明の作用から電極の位置を解釈すると、ブラウン管の前方におけるキャンセル作用を奏するためには、逆極性の電圧が印加された電極の位置は、ブラウン管の前面及びせいぜいその側面(イ号物件では防爆バンドが設けられている位置)と考えるのが妥当である。文言上からしても、「ブラウン管の前面の周縁部近傍」とは、せいぜい「ブラウン管の前面の周縁部の側方」程度のものとするのが妥当である。
ブラウン管の前面の周縁部より明らかに後方となる、防爆バンドの後方のテーパ面上に配置されたイ号物件のリード線は、「ブラウン管の前面の周縁部近傍」に配置されているとは到底言えず、イ号物件は本件発明の構成要件Aを明らかに欠いている。
請求人は、シャドウマスクの残留磁気を消去するための消磁コイルを電極として用いている実施例が存在することから、消磁コイルの位置は「前面の周縁部近傍」に該当すると述べている。
しかしながら、請求人の主張は、消磁コイルはブラウン管の前面の周縁部近傍に設けられており、したがって、消磁コイルに沿うように配置されたリード線はブラウン管の前面の周縁部近傍にあると述べているだけであり、そもそも消磁コイルがどの位置にあれば前面の周縁部近傍にあるといえるのか全く言及していない。消磁コイルは、シャドウマスクの残留磁気を消磁することさえできればよいのであり、配置位置は特に限定されない。例えば、ブラウン管の前面に設ける場合、防爆バンドの外周付近に設ける場合、またはイ号物件のように防爆バンドよりも後方に設ける場合など、様々である。
したがって、リード線を消磁コイルに沿わせて配置したからといって、これをもってリード線をブラウン管の前面の周縁部近傍に配置したと結論づけることはできない。
2 イ号物件のリード線の目的及び作用効果について
イ号物件のリード線は、ブラウン管後方から輻射される電界を抑制するために設けられたものである。すなわち、従来のモニタ装置の構造ではブラウン管の前面以外の領域では、金属板等からなるシールド材が設けられており、ブラウン管後方からの電界をシールドしていたのであるが、これではモニタ装置全体が重くなり、また材料費等のコスト高という問題もあるため、イ号物件では金属板によるシールド材を排除するためにリード線を設けたのである。
なお、イ号物件のブラウン管前面から輻射される電界については、ブラウン管前面に設けられた導電性コーティングによってシールドされている。この点、本件発明では、明細書の段落【0006】に記載されているように、「このような透明導電性膜の形成には高いコストが必要であって、また高コストの割には、そのシールド効果が十分でない。」としている。しかし、イ号物件では、ブラウン管前面から輻射される電界は導電性コーティングを採用してシールドしているのである。
このように、導電性コーティングを用いずにこの代わりに前面からの輻射を抑制しようとする本件発明の電極と、導電性コーティングを用いて前面からの輻射を抑制し、ブラウン管後方から輻射される電界を抑制すべく金属板の代わりに設けたイ号物件のリード線とでは、その目的が全く異なるものであって、作用効果も一致しない。なお、イ号物件のリード線は、このようにブラウン管後方から輻射される電界を抑制すべく設けたものであるから、わざわざ防爆バンドの後方に設けたのであり、ブラウン管前面から輻射される電界を抑制しようとするものではないことは明白である。
請求人は、防爆バンドにはシールド効果は無いと主張している。
しかし、防爆バンドを追加することで、リード線が輻射する電界がブラウン管前面におよぼす影響を小さくしているということは定性的に把握される。
3 上述してきたように、イ号物件は、リード線がブラウン管の前面の周縁部近傍には設けられていないので、本件発明の構成要件を欠いている。
また、イ号物件は、本件発明とその目的が異なり、本件発明の作用効果を奏しない。この点は、実験1から実験4に基づいた結果からも明白である。
以上の理由により、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属していない。

第6 当審の判断
請求人は、イ号物件における「消磁コイル21に沿うように配置されたリード線20」が本件発明の構成要件Aの「ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された電極」を充足し、イ号物件における「リード線20に、ブラウン管10の前面から輻射する電界とほぼ同形状で、逆極性のパルス電圧を印加する構成」が本件発明の構成要件Bの「前記ブラウン管の前面より輻射される電界とは逆極性の電圧を前記電極に印加する手段」を充足し、これらからなるイ号物件の構成は、本件発明の構成要件Cの「ブラウン管からの電界輻射を抑制する装置」を充足し、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する旨の主張をしているので、これについて検討する。
まず、本件発明の構成要件Aの「ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された電極」について検討する。
この構成要件A中の「ブラウン管の前面の周縁部近傍」について、本件請求項1には厳密な定義は示されておらず、「ブラウン管の前面の周縁部近傍」の意味が一義的に明らかであるということはできない。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「ブラウン管を使用した表示端末装置(VDT)における電界輻射、特に5Hz〜400kHzの電界輻射が、人体に悪影響を与える」(段落【0002】)という問題に対する従来の技術として「透明導電性膜をブラウン管の前面またはブラウン管の前方に配置される透明パネル上に形成し、この透明導電性膜を接地すること」(段落【0006】)という従来技術が挙げられ、この従来技術について「このような透明導電性膜の形成には、高いコストが必要であり、また、高コストの割には、そのシールド効果は十分ではない。」(段落【0006】)という問題点が示され、「ブラウン管の前面から輻射される電界を効果的に抑制できる装置を提供しようとすること」(段落【0007】)が本件発明の目的とされている。
これによれば、本件発明は、「ブラウン管の前面」から輻射される電界を「効果的に抑制」するために、「ブラウン管の前面の周縁部近傍」に電極を配置するものであり、「ブラウン管の前面」から輻射される電界を抑制する効果を高めるために「ブラウン管の前面の周縁部近傍」に電極が配置されるということができる。そうすると、本件発明における「ブラウン管の前面の周縁部近傍」とは、「ブラウン管の前面の周縁部」に極めて近接した位置を意味するものといわなければならない。
発明の詳細な説明及び図面に記載された実施例を参照しても、図1から図8までの実施例に種々の電極の例が示されており、図1の実施例に関して「【0021】ブラウン管1の前面2の周縁部近傍には、消磁コイル3が配置されている。消磁コイル3は、・・・この実施例では、前面2を取囲むループ状をなしている。」、図2の実施例に関して「【0030】図2を参照して、ブラウン管1の前面2の上辺および下辺の各々に沿って、消磁コイル24および25が配置されている。」、図3の実施例に関して「【0031】図3においては、ブラウン管1の前面2の上辺および下辺の各々の近傍に、金属板または金属テープからなる電極26および27が、前面2に貼付されている。」、図4の実施例に関して「【0032】図4においては、ブラウン管1の前面2の左右の側辺の各々に沿って、金属板または金属テープからなる電極29および30が、前面2に貼付される。」、図5の実施例に関して「【0033】図5においては、ブラウン管1の前面2の周縁部を取囲むように、ループ状の金属板または金属テープからなる電極32が、前面2に貼付されている。」、図6から図8の実施例に関して「【0034】図6ないし図8には、ブラウン管の前面の周囲を覆うように配置されるフロントパネル34の背面がそれぞれ示されている。」、「【0035】図6においては、フロントパネル34の開口部35の上方および下方のそれぞれに、金属板または金属テープからなる電極36および37が貼付されている。」、「【0036】図7においては、フロントパネル34の開口部35の左方および右方の各々に、電極39および40が貼付されている。」、「【0037】図8においては、フロントパネル34の開口部35の周囲を取囲むように、ループ状の金属板または金属テープからなる電極42が貼付されている。」との記載がされており、これらの記載によっても、本件発明における「ブラウン管の前面の周縁部近傍」として、ブラウン管の前面の周縁部を取り囲む位置、ブラウン管の前面の周縁部の四辺に沿った前面上の位置のような、「ブラウン管の前面の周縁部」に極めて近接した位置のみが示されているということができる。
そして、イ号物件説明書によれば、リード線20は、ブラウン管10の前部側の側面に設けられて接地されている防爆バンド18の後方に設けられており、消磁コイル21にクランプされ、消磁コイル21に沿うように配置されている。また、イ号物件説明書に添付された図1によれば、リード線20は、ブラウン管10の前部側の側面に設けられた防爆バンド18の後方の傾斜部上に配置されている。
そうすると、イ号物件のリード線20は、「ブラウン管の前面の周縁部」から防爆バンド18を介して後方に位置し、「ブラウン管の前面の周縁部」から防爆バンド18を介して内周側に位置するものであり、「ブラウン管の前面の周縁部」を取り囲む位置や「ブラウン管の前面の周縁部」の四辺に沿った前面上の位置にあるものではなく、「ブラウン管の前面の周縁部近傍」に位置するものということはできない。
目的、作用効果についてみても、本件発明は、透明導電性膜によるシールドではなく、ブラウン管の前面の周縁部近傍に電極を配置することによりブラウン管前面からの電界輻射を抑制するものであるのに対し、イ号物件は、導電コーティング16をブラウン管の前面に設けるものであり、そのリード線20は、ブラウン管10の前部側の側面に配置され接地された防爆バンドの後方の傾斜部に配置され、ブラウン管後方からの電界輻射を抑制するものであり、本件発明の「ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された電極」とイ号物件のリード線20とは、その目的、作用効果において同等であるということはできない。
請求人は、本件発明の「ブラウン管の前面の周縁部近傍」は、ブラウン管の前面より輻射される電界とは逆極性の電圧を印加することにより、前記電界輻射を有効に抑制できる領域内における電極の位置であると主張する。
しかしながら、「有効に」の程度は曖昧であり、「電界輻射を有効に抑制できる領域内における電極の位置」を明確に決定することはできず、請求人の主張は、根拠がない。
請求人は、また、本件特許明細書の段落【0009】の「ブラウン管のシャドウマスクの残留磁気を除去するために設けられた消磁コイルが、そのまま、前記電極として用いられる。」と記載されている点を挙げ、イ号物件のリード線20は、消磁コイル21に沿うように配置されているので、リード線20は、ブラウン管10の前面の周縁部近傍にあると主張する。
しかしながら、本件請求項1には、「ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された電極」と記載されているのであり、この電極として用いられる消磁コイルは「ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された」もののみであるといわなければならない。本件特許明細書及び図面で示されている消磁コイルの例も、図1、図2に示されているように、「ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された」もののみであり、ブラウン管の前面の周縁部の後方に配置されたものではない。したがって、イ号物件のリード線20が消磁コイル21に沿うように配置されていることをもって、イ号物件のリード線20が「ブラウン管の前面の周縁部近傍」に配置されているということはできず、請求人のこの主張も、根拠がない。
よって、イ号物件のリード線20が本件発明の「ブラウン管の前面の周縁部近傍に配置された電極」に相当するということはできないから、イ号物件が本件発明の構成要件Aを充足するということはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明のその他の構成要件について検討するまでもなく、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2004-02-26 
出願番号 特願平3-73236
審決分類 P 1 2・ 0- ZA (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西谷 憲人  
特許庁審判長 瀧 廣往
特許庁審判官 村山 隆
江藤 保子
登録日 1999-07-16 
登録番号 特許第2953677号(P2953677)
発明の名称 ブラウン管からの電界輻射を抑制する装置  
代理人 堀米 和春  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 杉谷 勉  

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