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審決分類 |
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない B21D 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B21D 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない B21D |
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管理番号 | 1094083 |
審判番号 | 訂正2001-39140 |
総通号数 | 53 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-02-10 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2001-08-27 |
確定日 | 2004-04-08 |
事件の表示 | 特許第2816548号に関する訂正審判事件についてされた平成13年12月26日付審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第62号、平成14年11月20日判決言渡)があったのでさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成 4年 1月10日 親出願(特願平4-502789号) 同 9年 4月28日 本件分割出願(特願平9-111340号) 同 10年 8月21日 特許権の設定の登録(請求項の数 2) 同 11年10月20日 請求項1に係る特許について無効審判請求(無効 平成11年審判第35580号) 同 12年11月 1日 審決(「特許第2816548号の請求項1に係 る発明についての特許を無効とする。」) 同 12年12月16日 出訴(平成12年(行ケ)第479号) 同 13年 8月27日 本件訂正審判請求 同 13年10月 9日 訂正拒絶理由の通知 同 13年11月27日 意見書及び手続補正書提出 同 13年12月26日 審決(「本件審判の請求は、成り立たない。」) 同 14年 2月 4日 出訴(平成14年(行ケ)第62号) 同 14年11月20日 判決言渡(「特許庁が訂正2001-39140 号事件について平成13年12月26日にした審 決を取り消す。」) 同 15年 1月27日 第2回目の訂正拒絶理由の通知 同 15年 3月25日 意見書提出 第2 審判請求の要旨 本件審判請求の要旨は、特許第2816548号の登録時の明細書(以下「登録明細書」という。)を上記手続補正書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その内容は次のとおりである。 1 訂正事項a 登録明細書の特許請求の範囲の請求項1の「曲げられて一体に」を「曲げられて該平坦部の一側方向に一体に」と、また、同じく請求項1の「高く形成されている」を「高く形成されているものにおいて、前記ボス部の基部の内周面が、前記平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から流動した材料の一部によって前記ボス部内径をほとんど変化させることなく前記平坦部の他側方向に向けて突出されている」と訂正するものであり、訂正前後の各請求項1についてその全文を示すと以下のとおりである。 (1) 登録明細書の特許請求の範囲の請求項1 「平坦部から曲げられて一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されていることを特徴とするボス部を有する板金物。」 (2) 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1(訂正部分に下線を付した。) 「平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されているものにおいて、前記ボス部の基部の内周面が、前記平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から流動した材料の一部によって前記ボス部内径をほとんど変化させることなく前記平坦部の他側方向に向けて突出されていることを特徴とするボス部を有する板金物。」 2 訂正事項b 登録明細書の段落【0005】【課題を解決するための手段】における第1行目の「曲げられて一体に」を「曲げられて該平坦部の一側方向に一体に」と、また、第3行目の「高く形成されている」を「高く形成されているものにおいて、前記ボス部の基部の内周面が、前記平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から流動した材料の一部によって前記ボス部内径をほとんど変化させることなく前記平坦部の他側方向に向けて突出されている」と訂正する。 3 訂正事項c 登録明細書の段落【0023】及び段落【0028】における第6,7行目の「その高さおよび肉厚はほとんど変化しない。」を「そのボス部6の平坦部8の一側方の上面(ボス部6の先端側が突出している側の面)からの高さおよび肉厚はほとんど変化しないと共に、ボス部6の基部の内周面が平坦部8の他側方の下面方向に向けて突出する。」と訂正する。 なお、上記手続補正書による補正は、審判請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1における明らかな誤記である「平部から曲げられて・・」を「平坦部から曲げられて・・」と、また、同じく「前記ボス部の基部の内周面が前記平坦部を・・」を「前記ボス部の基部の内周面が、前記平坦部を・・」と補正するものであって審判請求の要旨を変更するものではない。 第3 第2回目の訂正拒絶理由の概要 上記訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 1 新規事項の追加禁止について (1) 登録明細書の段落【0023】及び【0028】の記載を参照すると、「平坦部をその板厚方向から加圧すること」は、もっぱら板金物の外周部分を厚肉化する又はその外径を押し広げるために行われており、上記加圧によってボス部の基部の内周面を平坦部の他側方向に向けて突出させることだけを単独で生じさせることは、登録明細書又は図面のどこにも記載されていない。 (2) ボス部の内周面の軸長を更に長くすることは、登録明細書のどこにも記載されていないだけでなく、登録明細書の上記段落【0023】及び【0028】に「ボス部6はほぼ位置規制されており、前記平坦部8の材料の一部が流動してくるだけであり、その高さ・・・・はほとんど変化しない」と記載されていることからみて、登録明細書には、ボス部の内周面の軸長は、ほとんど変化しないことが示唆されているとみるのが相当である。 2 独立特許要件について 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という。)は、本件特許に係る出願の出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物記載の発明乃至技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 記 (1) 実願昭58-156537号(実開昭60-62627号)のマイクロ フィルム(以下「刊行物1」という。) (2) 橋本明著「プレス作業と型工作法」第3版 昭和34年5月30日日刊 工業新聞社発行 第176〜179頁(以下「刊行物2」という。特に、 第231図,第234図及びその説明参照。) (3) 特開昭62-84843号公報(以下「刊行物3」という。) (4) 特開昭60-96341号公報(以下「刊行物4」という。) 第4 請求人の主張の概要 請求人は、第2回目の訂正拒絶理由に対する意見書においておおよそ以下のように主張している。 1 新規事項と指摘された点について 登録明細書の段落【0023】及び【0028】並びに図15及び図19には、平坦部をその板厚方向から加圧することにより、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されている構成が記載されている。 また、登録明細書に記載した「ボス部6」とは、平坦部8の一側方向に突出した筒状のボス部のことであり、「ボス部6の高さ」とは、この平坦部8の一側方向に突出した筒状のボス部の高さのことであってボス部6の突出高さh1にほかならない。このため、上記段落【0023】及び【0028】の記載においても、これを読み替えると、平坦部の一側方向に突出した筒状のボス部はほぼ位置規制されているためにその突出高さh1がほとんど変化しないことを述べているに過ぎない。したがって、上記段落【0023】及び【0028】の記載は、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されているという構成を排除した記載ではない。 上記段落【0023】及び【0028】の記載は、「ボス部6(つまり突出高さh1のボス部6)はほぼ位置規制されており、前記平坦部8の材料の一部が流動してくるだけであり、その高さおよび肉厚はほとんど変化しない」と記載しているのであるから、図15及び図19に記載した材料の流動を示す矢印の記載及びボス部6の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されている構成の記載を併せて考えれば、この突出によってボス部6の内周面の軸長が更に長くなっている構成を示していることは明らかである。 2 独立特許要件について 訂正発明では、平坦部を加圧して該平坦部から流動した材料の一部を平坦部の他側方向に向けて突出させるため、回転軸嵌合用ボス部に要求される十分な肉厚を確保できるのに対し、刊行物1記載のものでは、円筒部の内面を加圧して該円筒部から材料の一部を平坦部の他側方向に向けて突出させるため、円筒部の肉厚は必然的に平坦部の肉厚よりも非常に薄くなり、十分な肉厚や強度が得られないという欠点がある。このため、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用した場合には、ボス部の肉厚が平坦部の肉厚よりも非常に薄くなることは避けられず、強度において訂正発明より劣ったものしか得られない。 訂正発明は、平坦部の他側方向に向けて突出しているボス部の基部の内周面が平坦部から流動した材料の一部によって構成されていることを特徴としているのであって、単に製作方法を記載しているのではない。これに対して、刊行物1及び刊行物2には、このような構成は開示されておらず、また、刊行物3及び刊行物4にも、訂正発明の構成は全く開示されていない。 訂正発明が製作方法に関する記載を含んでいるとしても、訂正発明では、平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から材料を流動させているので、ボス部の肉厚を十分に確保できるのに対し、刊行物1記載の方法では、ボス部の肉厚は必ず平坦部の肉厚よりも非常に薄くなってしまうため、両者は、その製作方法の結果得られた物の構成において相違している。このため、たとえ訂正発明が製作方法に関する記載を含んでいるとしても、訂正発明に記載の製作方法により得られた物と、刊行物1記載の製作方法により得られた物とは、物自体としても相違していることになり、訂正発明に記載された製作方法は格別の技術的意義を有しているものである。 第5 当審の判断 第2の1〜3に示す訂正事項a乃至訂正事項cの訂正が、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる上記改正前の特許法(以下「旧法」という。)第126条の各規定(ただし、先の判決で既に判断された同条第2項の規定を除く。)に適合するかどうかについて検討する。 1 新規事項の追加禁止について (1) 訂正事項aについて 本件特許に係る出願の願書に添付した図面の図15及び図19に、平坦部をその板厚方向から加圧すること及びボス部の基部の内周面が、平坦部の他側方向に向けて突出されていることが記載されていることは認める。 しかしながら、登録明細書の段落【0023】に「まず、ポリV溝を成形するための外周壁部の厚肉化工程が行なわれる。この厚肉化工程は図15に示すように、前記板金物10を挟んだ下型14と上型15とをプレス機を介して互いに近接させることにより、板金物10の平坦部8をその板厚方向から加圧させる。これによって、平坦部8の材料が外周側に流動し、板金物10の外周部分10aが厚肉化される。この時、前記ボス部6はほぼ位置規制されており、前記平坦部8の材料の一部が流動してくるだけであり、その高さおよび肉厚はほとんど変化しない。」と、また、同【0028】に「まず、板金物10の平坦部加圧工程が行なわれる。この平坦部加圧工程は図19に示すように、前記板金物10を挟んだ下型23と上型24とをプレス機を介して互いに近接させることにより、板金物10の平坦部8をその板厚方向から加圧する。これによって、平坦部8の材料を外周側に流動させて、板金物10の外径Dが必要径になるように押し広げる。この時、前記筒状ボス部6はほぼ位置規制されており、前記平坦部8の材料の一部が流動してくるだけであり、その高さおよび肉厚はほとんど変化しない。」と記載されているように、登録明細書には、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に突出されている点について何等の技術的意義が記載されておらず、「平坦部をその板厚方向から加圧すること」は、もっぱら板金物の外周部分を厚肉化する又はその外径を押し広げるために行われることが記載されているだけであって、ボス部の基部の内周面が、平坦部の他側方向に向けて突出されるとしても、それは、板金物の外周部分が厚肉化される又はその外径が押し広げられることに伴って付随的に生じるものとして記載されているにすぎない。 このように、「平坦部をその板厚方向から加圧すること」によって、板金物の外周部分を厚肉化する又はその外径を押し広げることなく、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されることだけが単独で生じることは、登録明細書及び図面のどこにも記載されていない。 したがって、平坦部をその板厚方向から加圧することによって、板金物の外周部分を厚肉化する又はその外径を押し広げることについて請求項1で何等言及しないことにより、ボス部の基部の内周面が、平坦部の他側方向に向けて突出されることだけが単独で生じる発明も包含することになる訂正事項aの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるとはいえない。 (2) 訂正事項cについて 訂正事項cによると、ボス部6の平坦部8の一側方の上面(ボス部6の先端側が突出している側の面)からの高さはほとんど変化しないで、ボス部6の基部の内周面が平坦部8の他側方の下面方向に向けて突出することになって、訂正明細書には明文の記載がないものの、請求人が平成13年11月27日付意見書以降一貫して主張しているように、また、請求人の第4の1に示す主張にもみられるように、ボス部の内周面の軸長が更に長くなるものと認められる。 しかしながら、(1)でその旨述べたように上記図15及び図19にボス部の基部の内周面が平坦部の他方側に向けてわずかに突出された様が記載されているのみであって、その突出させたことの技術的意義について記載されていないばかりでなく、ボス部の内周面の軸長を更に長くすることについても登録明細書のどこにも記載されていない。 登録明細書の上記段落【0023】及び【0028】には「ボス部6はほぼ位置規制されており、前記平坦部8の材料の一部が流動してくるだけであり、その高さ・・・・はほとんど変化しない」と記載されており、また、同【0013】には「ボス部6の・・・・直線部の長さ(高さ)」と記載されていることからみて、登録明細書には、ボス部の高さである直線部の長さ、すなわち、内周面の軸長は、ほとんど変化しないことが記載されているとみるのが相当であって、このことは、訂正事項cの訂正内容と明らかに矛盾している。 また、請求人は、登録明細書に記載した「ボス部6」とは、平坦部8の一側方向に突出した筒状のボス部のことであり、「ボス部6の高さ」とは、この平坦部8の一側方向に突出した筒状のボス部の高さのことであってボス部6の突出高さh1にほかならず、このため、登録明細書の段落【0023】及び【0028】の記載においても、これを読み替えると、平坦部の一側方向に突出した筒状のボス部はほぼ位置規制されているためにその突出高さh1がほとんど変化しないことを述べているに過ず、上記段落【0023】及び【0028】の記載は、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されているという構成を排除した記載ではなく、この突出によってボス部6の内周面の軸長が更に長くなっている構成を示していることは明らかである旨主張している。 しかしながら、「ボス部6」が、平坦部8の一側方向に突出した筒状のボス部のことであり、また、「ボス部6の高さ」が、平坦部8の一側方向に突出した筒状のボス部の高さのことであってボス部6の突出高さh1であることも、登録明細書のどこにも記載されていない。 かえって、訂正後の請求項1に記載されている「ボス部の基部」という語句における「の」という助詞の通常の用法からみて、「ボス部の基部」は、「ボス部」の一部をなしていると解するのが自然であって、「ボス部」とはその基部を含めて全体を指しているとみるのが相当である。また、登録明細書では、ボス部の高さについて、特許請求の範囲の【請求項1】、段落【0005】【0006】【0011】【0014】【0020】【0021】及び【0033】でボス部の「突出高さ」と、段落【0013】でボス部の「直線部の長さ(高さ)」と、また、段落【0023】及び【0028】でボス部の「高さ」というように、「突出高さ」という語と単に「高さ」という語とが使い分けられており、段落【0023】及び【0028】に記載されているボス部の「高さ」という語を、殊更ボス部の「突出高さ」と読み替えなければならない理由はない。 そうしてみると、登録明細書の段落【0023】及び【0028】の「ボス部6はほぼ位置規制されて」いるという記載は、ボス部の基部を含めてボス部全体が位置規制されていると解するのが自然であり、また、ボス部全体が位置規制されているからこそ上記段落【0023】及び【0028】に記載されているように「その高さおよび肉厚はほとんど変化しない」のであって、ボス部の内周面の軸長が更に長くなることはない。 なお、例えば、図15において、ボス部の基部の内周面が、平坦部8の他側方向に向けて突出しているのは、平坦部8を加圧するに当たって、上型15は、中心部に配置された上・下型と同様、固定位置にあり、この固定位置にある上型15に向かって下型14が上昇すると考えられ、その結果、平坦部8が薄くなった分だけ相対的にボス部6の基部が平坦部8の下方向に向いて突出したようになるからであると考えられる。 したがって、登録明細書のどこにも記載されておらず、また、その記載内容と矛盾する訂正事項cの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるとはいえない。 2 独立特許要件について 訂正事項aの訂正は、訂正発明の構成に欠くことができない事項として、登録時の請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項のすべてを実質上その前提部分とし、この前提部分中のボス部について更なる限定を付加してその特徴部分とするものであって、特許請求の範囲の減縮に該当することが明らかであるので、さらに、訂正発明が出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。 (1) 訂正発明 訂正発明は、訂正明細書及び登録時の図面の記載からみて、第2の1(2)に示すその特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「板金物」であると認める。 (2) 訂正拒絶理由に引用した各刊行物の記載内容 ア 刊行物1 刊行物1には「回転伝達体のハウジング構造」に関連して次の事項が記載されている。 (ア) 第3頁第12行〜第4頁第1行 「第4図は、本考案の回転伝達体のハウジング構造をVプーリーに適用した実施例を示すもので、このVプーリーAは一枚の円状鋼板から形成された本体1の中央部に、軸受5を支持するためのボス部3が設けられ、外周部にはリム部9が設けられ、V型の溝9aが形成されている。前記ボス部3は、円状鋼板の中央に穿設された支持孔2を、軸方向前方にバーリングされた前方鍔部4と、この前方鍔部4に連続して後方押出しされた後方鍔部6とからなる。」 (イ) 第4頁第4行〜第5頁第5行 「このようなVプーリーAの本体1を得るには第6図乃至第8図に示すように、まず中央に支持孔2を穿設された円板状鋼板8を受型21に載置する。この受型21は外周受部22、平面部23及び前方鍔形成部24とを有している。31はワーク押型であって中央に受型21の前方鍔形成部24の内径寸法と略同一の逃し穴33が穿設されている。35はパンチであって先細テーパ状の先端部36と、前記受型21の小径穴部21aに挿通する小径軸部37及びこの小径軸部37より大径であってワーク押型31の逃し穴33の内径よりも小径の成形軸部38とからなる。次に第7図に示すようにパンチ35を下降すると先端部36及び小径軸部37により円板鋼板8の支持孔部全周をバーリング状部8aに形成する。更にパンチ35を下降すると、第8図に示すようにパンチ35の成形軸部38により前記バーリング状部8aを前方押出しで薄肉状の前方鍔部4を形成する。これと同時にバーリング状部8aの余肉が後方押出しされてワーク押型31の逃し穴33でパンチ35の成形軸部38との隙間33に後方鍔部6を形成する。」 上記記載事項(ア)及び(イ) を訂正発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認める。 円板状鋼板8から曲げられて該円板状鋼板8の一側の前方向に一体に突出された回転軸嵌合用の前方鍔部4が形成されているものにおいて、予め円板状鋼板8の一側の前方向に一体に突出されたバーリング状部8aの内面を加圧することにより、前記前方鍔部4の基部の内周面が、前記円板状鋼板8の他側の後方向に向けて突出されて後方鍔部6が形成されているボス部3を有する板金物。 イ 刊行物2 刊行物2の第179頁の第234図には「厚物のフランジフランジ付き絞り」に関連して次の事項が記載されている。 平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された筒状のボス部が形成されているものにおいて、この筒状のボス部の突出高さが「12」であり、その内径が「16φ」であること。 そして、この図に示されているものは、金属板の絞り加工であることが明らかであることから、結局、刊行物2には次の事項が記載されていると認めることができる。 ボス部を有する板金物において、平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された筒状のボス部の突出高さをボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成すること。 (3) 対比 訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「円板状鋼板8」は平坦な板材であることから、刊行物1記載の発明における「円板状鋼板8から曲げられて該円板状鋼板8の一側の前方向に・・・」という記載は、訂正発明における「平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に・・・」という記載にほかならず、また、刊行物1記載の発明の「前方鍔部4」と「後方鍔部6」とは「ボス部3」を形成するものであることから、訂正発明の「筒状のボス部」乃至「ボス部」に相当する。 したがって、訂正発明と刊行物1記載の発明とは次の点で一致している。 平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部が形成されているものにおいて、前記ボス部の基部の内周面が前記平坦部の他側方向に向けて突出されているボス部を有する板金物、である点。 そして、訂正発明と刊行物1記載の発明とは次の2点で相違している。 ア 相違点1 平坦部の一側方向に一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部の突出高さが、訂正発明では、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのようになっていない点。 イ 相違点2 ボス部の基部の内周面を平坦部の他側方向に向けて突出させるために、訂正発明では、平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から流動した材料の一部によって前記ボス部内径をほとんど変化させることなく突出させているのに対して、刊行物1記載の発明では、予め形成されているバーリング状部の内面を加圧することにより突出させている点。 (4) 相違点についての検討 ア 相違点1について 先に認定したように刊行物2には、ボス部を有する板金物において、平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された筒状のボス部の突出高さをボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成することが記載されている。 そして、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の事項との技術的親近性を考慮すると、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用して、訂正発明のように構成することに格別の困難性が見当たらない。 イ 相違点2について 訂正発明は、「板金物」という物の発明であることからみて、平成13年(行ケ)第84号、平成11年(行ケ)第437号でその旨判示されているように、製作方法に格別の技術的意義があることが明細書中に明記されていない限り、その特許性は、その製作方法により生産された生産物自体の構成に基づいて判断すべきであり、ボス部の基部の内周面を平坦部の他側方向に向けて突出させるために採用される具体的な製作方法に関する事項は、その製作方法により生産された板金物自体を表現しようとしているものとみるのが適切である。ちなみに、本件特許の請求項2に係る発明は、「・・・請求項1に記載の筒状のボス部と平坦部を形成するようにしたボス部の形成方法」という発明である。 そうしてみると、訂正発明及び刊行物1記載の発明において、それぞれ相違点2の製作方法により生産された板金物自体としては、いずれも、ボス部の基部の内周面が、平坦部の他側方向に向けて突出されているボス部を有する板金物で一致し、請求人の主張によれば生産方法による構成上の相違は、ボス部と平坦部との厚さの関係のみである。 ところで、ボス部を有する板金物において、ボス部の肉厚と平坦部の板厚は、要求される強度によって適宜設計されるものであるから、当該生産方法による構成上の相違は、単なる設計変更にすぎない。 したがって、訂正発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 また、相違点2に関して、板金物自体としての構成の外にその具体的な製作方法にも技術的意味があるとしても、ボス部の基部の内周面を平坦部の他側方向に向けて突出させるためには、ボス部又は平坦部のいずれかから材料を流動させる必要があることは云うまでもないところであって、どちらを選択するかは、必要に応じて適宜採用すればよい事項にすぎない。そして、訂正発明の「板金物」とはその形状が異なるものの、平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された円筒部が形成されている板金物において、円筒部の基部を突出させるに当たって、円筒部を加圧することで該円筒部から流動した材料の一部によって突出させることが、例えば、 刊行物3に記載されており、平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から流動した材料の一部によって前記円筒部内径をほとんど変化させることなく突出させることが、例えば、刊行物4に記載されている。 そうしてみると、相違点2における刊行物1記載の発明の製作方法に代えて訂正発明の製作方法を採用することに格別の困難性はない。 なお、相違点2に関連して、請求人は、訂正発明では、平坦部をその板厚方向から加圧することで該平坦部から材料を流動させているので、ボス部の肉厚を十分に確保できるのに対し、刊行物1記載の方法では、ボス部の肉厚は必ず平坦部の肉厚よりも非常に薄くなってしまうため、両者は、その製作方法の結果得られた物の構成において相違しており、たとえ訂正発明が製作方法に関する記載を含んでいるとしても、訂正発明に記載の製作方法により得られた物と、刊行物1記載の製作方法により得られた物とは、物自体としても相違していることになり、訂正発明に記載された製作方法は格別の技術的意義を有しているものである旨主張している。 しかしながら、訂正発明では、平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された筒状のボス部の突出高さをボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成することから、訂正発明におけるボス部の肉厚も、必ず原材料である金属板の平坦部の肉厚よりも薄くなる。 訂正発明において、ボス部の肉厚を平坦部の肉厚と同程度とするためには、平坦部をその板厚方向から加圧することにより、平坦部の材料を外周側に移動させて原材料の金属板の平坦部の厚さを薄くすることが必要であるが、訂正発明のように上記加圧によってボス部の基部の内周面を平坦部の他側方向に向けて突出させるだけでは平坦部の厚さは薄くならず、訂正発明に記載の製作方法により得られた物と、刊行物1記載の製作方法により得られた物との間に請求人の主張するほどの差異はない。また、刊行物1記載の発明の製作方法に代えて訂正発明の製作方法を採用することに格別の困難性がないことは上記したとおりである。 したがって、板金物自体としての構成の外にその具体的な製作方法にも技術的意味があるとしても、訂正発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるので、本件訂正は、旧法第126条第1項ただし書き及び同条第3項の規定に適合していない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-12-10 |
結審通知日 | 2001-12-13 |
審決日 | 2001-12-26 |
出願番号 | 特願平9-111340 |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Z
(B21D)
P 1 41・ 841- Z (B21D) P 1 41・ 121- Z (B21D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川端 修、加藤 友也、福島 和幸 |
特許庁審判長 |
小池 正利 |
特許庁審判官 |
小林 武 三原 彰英 鈴木 孝幸 宮崎 侑久 |
登録日 | 1998-08-21 |
登録番号 | 特許第2816548号(P2816548) |
発明の名称 | ボス部を有する板金物及びボス部の形成方法 |
代理人 | 鈴江 正二 |
代理人 | 鈴江 孝一 |