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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1094366
審判番号 不服2003-17791  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-12 
確定日 2004-03-29 
事件の表示 平成10年特許願第232018号「リチウム二次電池用電極の製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 3月 3日出願公開、特開2000- 67856]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年8月18日の出願であって、その請求項1〜4に係る発明は、平成15年7月30日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される通りのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は以下の通りである(以下、「本願発明1」という。)。
「【請求項1】 一般式LiαMβN(Mは遷移元素を表し、0≦α≦3.0、0.1≦β≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物、導電剤、および結着剤を主要構成要素とする電極合剤、ならびに脱水トルエンからスラリーを調製する工程、前記スラリーを集電体に塗付し、乾燥する工程、および集電体に塗着された電極合剤を加熱下で圧延する工程を有することを特徴とするリチウム二次電池用電極の製造方法。」

2.刊行物2〜4に記載された発明
原査定の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物2〜4には、それぞれ以下の事項が記載されている。

刊行物2:特開平9-106808号公報
(摘示2-1)「【請求項1】負極活物質保持体と導電材と結着材で構成される負極と、正極活物質を主体とする正極と、リチウムイオン導電性の電解質とからなるリチウム二次電池において、該負極活物質保持体が、組成式Li1+xMyN(但し、Mは、遷移金属に属する元素を表し、xは-0.2〜2.0の範囲にあり、yは0.1〜0.5の範囲にある)で表される非晶質のリチウム含有遷移金属窒化物であ・・・ることを特徴とするリチウム二次電池。」(特許請求の範囲の請求項1)
(摘示2-2)「作用極・・・は次のように作製した。・・・負極活物質保持体のLiCo0.4Nと、導電材・・・と、結着材・・・を・・・混合し、適当な粘度(「粘土」は「粘度」の誤記と認められる。)になるようN-メチル2ピロリドンに分散させスラリーを作製し、集電体の鋼箔基板・・・に・・・塗布し負極電極シートを作製した。その後、この負極から、直径18mmの負極を打ち抜き・・・作用極とした。」(【0024】)

刊行物3:特開平9-259867号公報
(摘示3-1)「【発明の属する技術分野】本発明は・・・非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法に係わるものである。」(【0001】)
(摘示3-2)「負極は、例えば次のような方法により作製される。リチウムを吸蔵・放出する炭素質材料とスチレン・ブタジエンラテックスおよび・・・カルボキシメチルセルロースからなるバインダの溶液とを混合、分散処理して負極ペーストを調製する。つづいて、この負極ペーストを集電体に塗布し、乾燥することにより負極層を前記集電体に被覆することにより負極を作製する。・・・
なお、前記乾燥後にプレス処理を施すことを許容する。このようなプレス処理を施すことにより集電体に被覆された負極層の密度を高めることが可能になる。・・・
この負極は、リチウムを吸蔵・放出する炭素質材料および高分子材料からなるバインダを含むシート状物を集電体に被覆し、このシート状物被覆集電体を初回の圧延後におけるシート状物の充填密度が目標充填密度に対して75〜95%になるように少なくとも2回以上圧延することにより作製される。」(【0051】〜【0053】)
(摘示3-3)「前記シート状物被覆集電体は、例えばリチウムを吸蔵・放出する炭素質材料およびバインダの溶液とを混合、分散処理して負極ペーストを調製し、この負極ペーストを集電体に塗布し、乾燥することにより作製される。」(【0059】)
(摘示3-4)「前記シート状物被覆集電体の圧延工程において、上下の圧延ロールにより40〜90℃に加熱することを許容する。このように圧延工程で加熱することにより前記シート状物中のバインダが軟化するため、炭素質材料の充填密度がさらに向上される。・・・さらに、バインダが軟化して結着有効面積が大きくなるため、炭素質材料間の結着性および炭素質材料と集電体との密着性が向上し、容量特性、大電流特性が向上される。」(【0061】)

刊行物4:特開平8-203500号公報
(摘示4-1)「【請求項1】 活物質及び有機結着剤を含むシート状の極板を製造する方法において、次の工程を経ることを特徴とする非水電解液電池用極板の製造方法。
(a)活物質及び有機結着剤を含むペーストを導電性の支持体に塗布する工程。
(b)塗布されたペーストを乾燥する工程。
(c)ペーストと支持体を所定の温度でシート状に熱加圧成形する工程。」
(特許請求の範囲の請求項1)
(摘示4-2)「【産業上の利用分野】この発明は、リチウム二次電池等の非水電解液電池に適用される極板の製造方法に関する。」(【0001】)
(摘示4-3)「極板は、一般に活物質に有機結着剤、導電剤及び溶剤を添加し混合してペースト状にし、それを支持体表面に塗布し乾燥後、支持体とともに厚さ方向に加圧成形することによって製造される。」(【0004】)
(摘示4-4)「従来の製造方法で、充放電の繰り返しとともに極板が膨れる原因は、加圧工程で有機結着剤が破砕されて、その比表面積を増し、電解液を吸いやすくなったことにあると考えられる。本発明では、加圧と同時に加熱して成形するので、有機結着剤が破砕されることなく、塑性変形する。従って、有機結着剤の比表面積は変わることなく、シート状に成形される。」(【0009】、【0010】)
(摘示4-5)「【実施例】・・・
[正極板の製造方法]正極板用の支持体として・・・アルミニウム箔を準備した。そして・・・活物質としてのリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2・・・、導電剤としてのアセチレンブラック粉末・・・及び結着剤・・・をn-メチルピロリドン・・・とともに混合してペースト状に調製した。・・・
次に、ペーストを支持体の両面に・・・塗布し、乾燥した。続いて・・・平行に配置された2本の熱ロール・・・間に、ペーストを塗布した支持体を通して圧延した。・・・圧延後、ペーストと支持体との積層体を・・・切断することによって正極板を製造した。なお、常温で圧延した正極板は、ひび割れを生じていたが、加熱しながら圧延したものについては、ひび割れは発生しなかった。
[負極板の製造方法]負極板用の支持体として・・・銅箔を準備した。そして・・・活物質としての黒鉛・・・及び結着剤・・・をn-メチルピロリドン・・・とともに混合してペースト状に調製した。正極板の製造方法と同様にペーストを支持体の両面に塗布し、乾燥し、圧延し・・・切断することによって、負極板を製造した。なお、常温で圧延した負極板は、ひび割れを生じていたが、加熱しながら圧延したものについては、ひび割れは発生しなかった。」(【0013】〜【0016】)

3.本願発明1と刊行物2に記載された発明との対比・判断
本願明細書の記載によると、本願発明1は、リチウム含有複合窒化物を用いた電極の製造工程において、電極を圧延する際に加熱下で圧延する工程を有するものであって、加熱下で圧延することにより、加熱によって結着剤が軟化し、破壊されることなく成型され、また、結着剤同士、あるいは結着剤と活物質、導電剤、集電体等が融着するため、緻密かつ強固な電極を形成することができ、充放電サイクルの進行に伴う電極活物質の膨張収縮に対しても、活物質や導電剤等の間の集電性が確保されることから、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を向上させることができるという効果を奏するものである(【0005】)。
これに対し、刊行物2には、組成式Li1+xMyN(但し、Mは、遷移金属に属する元素を表し、xは-0.2〜2.0の範囲にあり、yは0.1〜0.5の範囲にある)で表される非晶質のリチウム含有遷移金属窒化物(負極活物質)と導電材と結着材で構成されるリチウム二次電池の負極が記載され(摘示2-1)、実施例によると、そのようなリチウム含有遷移金属窒化物を活物質とする負極は、リチウム含有遷移金属窒化物(LiCo0.4N)と、導電材と、結着材を混合し、適当な粘度になるようにN-メチル2ピロリドンに分散させスラリーを作製し、集電体基板に塗布し負極電極シートを作製した後、打ち抜くことにより製造されている(摘示2-2)。
そうすると、刊行物2には、「組成式Li1+xMyN(但し、Mは、遷移金属に属する元素を表し、xは-0.2〜2.0の範囲にあり、yは0.1〜0.5の範囲にある)で表される非晶質のリチウム含有遷移金属窒化物(負極活物質)と、導電材と、結着材を混合する工程、リチウム含有遷移金属窒化物、導電材、結着材の混合物を、N-メチル2ピロリドン(有機溶媒)に分散させスラリーを作製する工程、前記スラリーを集電体に塗布する工程を有するリチウム二次電池用電極の製造方法」の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているといえる。
本願発明1(前者)と刊行物2発明(後者)を対比すると、前者ではその「一般式LiαMβN(Mは遷移元素を表し、0≦α≦3.0、0.1≦β≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物」の結晶構造が特定されていないから、結晶質と非晶質の両方のものを含むと解されるから、後者の「組成式Li1+xMyN(但し、Mは、遷移金属に属する元素を表し、・・・)で表される非晶質のリチウム含有遷移金属窒化物」、「リチウム含有遷移金属窒化物、導電剤、結着剤の混合物」はそれぞれ、前者の「一般式LiαMβN(Mは遷移元素を表し、・・・)で表されるリチウム含有複合窒化物」、「リチウム含有複合窒化物、導電剤、および結着剤を主要構成要素とする電極合剤」に相当する。
してみると、両者は、「一般式LiαMβN(Mは遷移元素を表し、0.8≦α≦3.0、0.1≦β≦0.5)で表されるリチウム含有複合窒化物、導電剤、および結着剤を主要構成要素とする電極合剤、ならびに有機溶媒からスラリーを調整する工程、前記スラリーを集電体に塗付する工程を有するリチウム二次電池用電極の製造方法」である点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点1:スラリーを集電体に塗付する工程に続いて、前者は、「乾燥する工程、および集電体に塗着された電極合剤を加熱下で圧延する工程」を有するのに対し、後者は、そのような工程を有するかどうか明らかでない点。
相違点2:前者は、有機溶媒が「脱水トルエン」であるのに対し、後者は、N-メチル2ピロリドンである点。

相違点1、2について検討する。
相違点1について
刊行物3には、リチウムを吸蔵・放出する炭素質材料(負極活物質)と、高分子材料からなるバインダの溶液とを混合した負極ペーストを、集電体に塗布、乾燥することによりリチウム二次電池用負極を製造するにあたり、前記乾燥後にプレス処理することにより、集電体に被覆された負極層の密度を高めることができること(摘示3-1〜3-3)、さらに、前記プレス処理(圧延工程)で加熱することが許容されること(摘示3-4)が記載されており、ここで、活物質である炭素質材料は、導電剤としても作用することは当業者間に明らかである。
また、刊行物4には、活物質及び結着剤を含むペーストを集電体(導電性の支持体)に塗布し、乾燥する工程、ペーストと集電体(支持体)をシート状に熱加圧成形する工程を経ることにより、リチウム二次電池用極板を製造することが記載され(摘示4-1、4-2)、上記ペーストは、一般に、活物質、結着剤、導電剤及び溶剤を添加し混合したものであり(摘示4-3)、実施例では、活物質(正極:LiCoO2、負極:黒鉛)、導電剤(正極:アセチレンブラック、負極:活物質である黒鉛)、結着剤、溶剤(n-メチルピロリドン:有機溶媒)を混合したペーストを集電体に塗布し、乾燥した後、2本の熱ロール間に通して圧延することによりリチウム二次電池用電極を製造している(摘示4-5)。
そうすると、刊行物3、4の活物質、導電剤、結着剤(バインダ)は、電極合剤の主要構成要素といえるものであり、また、刊行物3の「バインダ溶液」は、高分子材料からなるバインダを有機溶媒に溶解した溶液であるといえるから、刊行物3、4には、電極合剤および有機溶媒からペーストを調整し、該ペーストを集電体に塗布し、「乾燥した後、集電体に塗着された電極合剤を加熱下で圧延する」ことによりリチウム二次電池用電極を製造することが記載されているといえる。そして、このような加熱下での圧延工程を採用することにより、結着剤(バインダ)の軟化により活物質の充填密度が向上し、さらに結着有効面積が大きくなるため、活物質間の結着性および活物質と集電体との密着性が向上し、二次電池の容量特性、大電流特性が向上するとともに(摘示3-4)、圧延工程で結着剤が破砕されることなく塑性変形するため、極板は比表面積を増すことがないので、電解液を吸うことが抑制され、二次電池における充放電の繰り返しとともに極板が膨れることが防止されるものである(摘示4-4)。
刊行物2発明は、スラリーを集電体に塗布する工程までは刊行物3、4記載の製造方法と共通するし、ともにリチウム二次電池用電極に係る製造方法であり、その後、乾燥する工程、および集電体に塗着された電極合剤を加熱下で圧延する工程を有するかどうかは明らかでないものの、スラリーを集電体に塗布した後、溶媒を除去することにより電極合剤を集電体に塗着されたものとするために、刊行物3、4記載の製造方法で採用されている「乾燥する工程」を設けることは当業者が必要に応じてなすべき技術事項であり、さらに、二次電池の容量特性、大電流特性の向上、及び、充放電に伴う極板の膨れ防止等を目的として、「集電体に塗着された電極合剤を加熱下で圧延する工程」を設けることも、当業者にとって、格別困難なことではない。
よって、相違点1の本願発明1に係る発明特定事項は、刊行物3、4に記載された事項から当業者が容易になし得ることである。

相違点2について
刊行物2発明では、有機溶媒としてN-メチル2ピロリドンが用いられているのであるが、トルエンもN-メチル2ピロリドンと同様に、リチウム二次電池用電極の製造に際し、電極合剤スラリーの有機溶媒として用いられることは周知であるから(必要ならば例えば、特開平10-106579号公報、特開平8-329928号公報、特開平9-134718号公報、特開平10-172538号公報参照)、N-メチル2ピロリドンに代えて、トルエンを用いることに格別な困難性はみいだせない。
さらに、リチウム二次電池は、電池内に水分が存在すると性能劣化を生じることはよく知られており、活物質や電解液の有機溶媒等を脱水したり、活物質を取り扱うための有機液体を脱水して用いなければならないことは、当業者にとって自明のことである(必要ならば例えば、脱水トルエン:特開平6-283156号公報の【0016】、無水2メチルテトラヒドロフラン、脱水アセトニトリル:特開平9-102313号公報の【0013】、【0014】、特開平9-35714号公報の【0019】、特開平9-22697号公報の【0015】に記載されるように周知である。)から、上記トルエンを電極合剤のスラリーのための溶媒として用いるに際し、脱水して用いることも当業者が適宜なし得ることである。
よって、相違点2の本願発明1に係る発明特定事項は、格別な技術的意義を有するものであるとすることはできない。

したがって、相違点1、2の本願発明1に係る発明特定事項は、刊行物3、4に記載された事項、および、周知の事項に基づいて当業者が容易になし得るものであり、また、これら相違点1、2に係る本願発明1の効果も、刊行物2〜4の記載、および周知の事項から予測される範囲のものと比較して、格別顕著であるとは認められない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「充放電サイクルが進むにつれて電池の容量が漸次低下し、サイクル特性の劣化が大きくなる原因は、従来の非加熱下で圧延して製造された極板は、圧延工程で結着剤分子が切断されるなどして一部破壊され、結着剤本来の強度が得られず、充放電に伴う電極の膨張収縮に伴い活物質粒子間の集電不良を引き起こしたり、電極合剤と集電体との剥離を生じたりしていたという点にある。そして、リチウム含有複合窒化物をより一般的な有機溶媒であるN-メチル-2-ピロピドン(NMP)に分散させて合剤を調整する場合には、結着剤に関する上記のような問題は生じず、脱水トルエンを用いる場合にのみ認められることから、上記のような問題はリチウム含有複合窒化物を脱水トルエンに分散させる場合にはじめて生じる課題である。」と主張している。
審判請求人の主張は、要するところ、非加熱下の圧延工程でも、NMPを用いた場合には結着剤の切断や破壊は発生せず、脱水トルエンを用いた場合に限って結着剤の切断や破壊が発生するという事実を前提にしたものであるところ、刊行物4には、n-メチルピロリドン(NMP)を用い、非加熱下(常温)で圧延した極板には、ひび割れが生じていたが(摘示4-5)、その原因は、非加熱下の圧延工程では、結着剤が破砕されるからであると記載されているから(摘示4-4)、この記載を参酌すると、NMPを用いた場合にも、非加熱下の圧延工程で結着剤の切断や破壊が発生すると解するのが相当である。
そうすると、脱水トルエンを用いた場合に限って、非加熱下の圧延工程で結着剤の切断や破壊が発生するという事実を前提にした上記審判請求人の主張は、その前提において失当であり、さらに、上記審判請求人の主張は、本願明細書の記載に基づかない主張でもある。
よって、上記審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物2〜4に記載された発明、および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-01-08 
結審通知日 2004-01-15 
審決日 2004-02-12 
出願番号 特願平10-232018
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 酒井 美知子
吉水 純子
発明の名称 リチウム二次電池用電極の製造方法  
代理人 石井 和郎  
代理人 石井 和郎  

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