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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない B22F
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B22F
管理番号 1094414
審判番号 無効2003-35106  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-01-11 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-03-20 
確定日 2004-03-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第2139278号発明「焼結軸受材の製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許出願(特願昭63-158012号) 昭和63年 6月28日
出願公告(特公平8-6124号) 平成 8年 1月24日
特許異議申立 平成 8年 4月11日
異議決定(理由なし) 平成10年10月20日
設定登録 平成10年11月27日
訂正審判請求(2002-39186) 平成14年 9月11日
審決(訂正認容) 平成14年12月11日
無効審判請求 平成15年 3月20日
答弁書 平成15年 6月19日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成15年 8月 8日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成15年 8月11日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成15年 8月21日
口頭審理(特許庁中審判廷) 平成15年 8月21日
上申書(請求人) 平成15年 9月22日
上申書(被請求人) 平成15年10月15日

2.本件発明
本件特許については、平成14年9月11日付けで訂正審判が請求され、平成14年12月11日に訂正を認容する審決がなされ確定した。訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、平成14年9月11日付け訂正審判請求書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「比較的小径部と比較的大径部との間に段部を形成した段付コアを用い、該段付コアと金型との間に装入された原料粉を圧粉成形し前記した段付コアの段部両側で内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程と、この圧粉成形体を焼結してから上記した比較的小径部と同径状態のサイジングコアと、上パンチおよび下パンチを備え、しかも焼結体の装入奥方に向けて絞り部を有するサイジング金型とを用い、該サイジング金型内に上記焼結を経た焼結体を装入し、サイジングコアにそって上パンチを圧下させつつ前記した段付コアの比較的大径部による成形端部側を上記絞り部とサイジングコアとの間で絞り成形しながらサイジングする工程とを有することを特徴とした焼結軸受材の製造法。」

3.請求人の主張及び証拠方法
3-1.請求人の主張
請求人は、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、甲第1〜7号証等を提出し、次の無効理由(1)(2)を主張している。
無効理由(1):
訂正審判請求後の請求項1には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されておらず、訂正後の本件発明に係る特許は、特許法第36条第4項第2号の要件を満たしていない出願に対してなされたものであるから、特許法123条第1項第3号の規定により無効とすべきである。
無効理由(2):
訂正後の本件発明は、甲第3〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。

3-2.証拠方法
甲第1号証:特公平8-6124号公報(本件公告公報)
甲第2号証:本件特許発明に係る訂正明細書
甲第3号証:「粉末冶金技術講座4 金属粉の成形」日刊工業新聞社(昭和39年8月25日発行)第192〜195頁
甲第4号証:「焼結機械部品 -その設計と製造-」日本粉末冶金工業会編著、株式会社技術書院(昭和62年10月20日第1版第1刷発行)第160頁
甲第5号証:特開昭63-87154号公報
甲第6号証:特開昭56-11119号公報
甲第7号証:特許第2841190号公報(本件の分割出願に係る特許公報)
参考資料1:「焼結機械部品の設計要覧」株式会社技術書院(昭和42年8月5日第2版発行)第129頁
参考資料2:特開昭53-14106号公報
参考資料3:特公昭54-26969号公報
参考資料4:特開昭62-151502号公報
参考資料5:「応用金属学大系第12巻 粉末冶金」株式会社誠文堂新光社(昭和37年11月30日第1版発行)第334〜335頁
参考資料6:「焼結機械部品 -その設計と製造-」日本粉末冶金工業会編著、株式会社技術書院(昭和62年10月20日第1版第1刷発行)第345〜349頁
参考資料7:特開昭58-84222号公報
参考資料8:特開昭59-47017号公報
参考資料9:赤松勝也作成の平成15年9月18日付けの「特開昭63-87154についての鑑定書」
鑑定書添付資料1:「改訂増補 粉末冶金学」株式会社コロナ社(昭和53年1月30日11版(改訂増補)発行)第222〜223頁
鑑定書添付資料2:「オイルレスベアリング」株式会社アグネ(1973年12月20日第1版第1刷発行)第242〜249頁
鑑定書添付資料3:「日本工業規格 焼結含油軸受」財団法人日本規格協会(昭和49年3月30日第1刷発行)B1581-1974 解説
鑑定書添付資料4:「標準 機械設計図表便覧(改新増補3版)」共立出版株式会社(1991年12月20日改新増補3版1刷発行)第10-10〜10-11頁

4.被請求人の反論と証拠方法
4-1.被請求人の反論
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件発明に係る特許には、請求人が主張するような無効理由は存在しない旨主張している。

4-2.証拠方法
乙第1号証:平成10年7月24日付け異議決定書
乙第2号証:訂正審判(2002-39186)において、本件審判請求人が提出した平成14年11月1日付けの上申書
乙第3号証:訂正審判(2002-39186)についての平成14年12月11日付けの審決書
乙第4号証:「改訂4版 金属便覧」丸善株式会社(昭和57年12月20日発行)目次xv〜xxiii、xxvi〜xxxiii、第439頁
乙第5号証:「PM GUIDEBOOK 89 焼結部品概要 -PM Parts-」日本粉末冶金工業会、第1〜2頁
乙第6号証:「機械工学便覧 基礎編 A4 材料力学」社団法人日本機械学会(1984年6月25日初版1刷発行)A4-11頁
乙第7号証:「JIS使い方シリーズ 鉄鋼材料選択のポイント」大和久重雄著、財団法人日本規格協会(1975年5月31日第1版第1刷発行)第111〜112頁
乙第8号証:「焼結機械部品 -その設計と製造-」日本粉末冶金工業会編著、株式会社技術書院(昭和62年10月20日第1版第1刷発行)第59頁
乙第9号証:「総説粉末冶金学」日刊工業新聞社(昭和52年1月30日5版発行)第173〜174頁

5.甲第3〜6号証の記載事項
甲第3号証には、焼結体をサイジングするためのダイセットに関して、次の事項が記載されている。
・摘示3-A:「第4・29に全自動式のサイジングプレスのダイセットを示す。このプレスは円筒形のブッシュとかフランジ付きのブッシュを大量にサイジングする場合に用いられるもので簡単に図を追って説明すると、
(a)特殊な供給装置が焼結体を外型のテーパー部に正しく置く。
(b)コア・ロッド(3)が焼結体の内径に入る。このコア・ロッドは先端が0.1〜0.25mm程度細くなっている。コア・ロッドが焼結体の内径に入ると、焼結体は焼結中、多少とも歪んで楕円になっているので、コア・ロッドによって外型の中に押込まれる。
(c)焼結体は強制的にアッパ・パンチ(4)によって外型の中に押込まれる。このときアッパ・パンチは、コア・ロッドと同じ速度で降下するので、焼結体はコア・ロッドの細い部分と一緒に外型の中に入るわけである。
(d)アッパ・パンチが外型の中に入ってきて焼結体を完全にアッパおよびロア・パンチで保持する一方、コア・ロッドは降下してその完全に仕上げられた部分で内径をサイジングする。
(e)コア・ロッドで内径がサイジングされている間、ロア・パンチ(5)とアッパ・パンチは焼結体の高さを所定の長さに圧縮する。
(f)ロア・パンチは下降し始め、コア・ロッドは上昇を始める。
(g)サイジングされた焼結体は、アッパ・パンチによって外型の下に押出され、圧縮空気によってロア・パンチの位置から吹き飛ばされる。」(第192頁末行〜第194頁第7行、なお、数字を囲んだ「○」を「( )」で代用している。)
・摘示3-B:「内周にフランジのある場合の例を、図4・30に示す。(a)の場合焼結体は、ガイドプレートとロア・パンチによって保持される。段付きのコア・ロッドは外型より下方で固定されている。アッパ・パンチは始めに脚の部分を外型の中に押込み、続いて内径をコア・ロッドによってサイジングする。大きいほうの内径は最後に高さと一緒にサイジングされる。」(第194頁第11〜17行)
甲第4号証には、圧粉成形体の成形に関して、次の事項が記載ないし示されている。
・摘示4-A:「図4.3に内径に段のある形状を1本の下パンチで成形する場合の金型の構造を示す。」(第160頁下から第2〜末行)
・摘示4-B:内径に段のある形状の圧粉成形体を成形する金型は、成形体と同径の孔を有するダイと、ダイの孔内に挿入される段付コアロッドと、段付コアロッドの小径部に対し相対的に摺動し得る孔を有し、ダイの孔内を摺動し得る上パンチと、段付コアロッドの大径部に対し相対的に摺動し得る孔を有し、ダイの孔内を摺動し得る下パンチとからなる。(第160頁図4.3)
甲第5号証には、軸受の製造方法に関して、次の事項が記載されている。
・摘示5-A:「円筒状の軸受部材の一端側の内径を他端側の内径より僅かに大きく形成し、上記軸受部材の一端側を中空の取付部材に圧入して、上記一端側の内径を上記他端側の内径と等しくするようにしたことを特徴とする軸受の製造方法。」(特許請求の範囲)
・摘示5-B:「第3図において、(1)は軸受であって、円筒状のハウジング(2)の内部の両端に含油合金から成る軸受部材(3)及び(4)がそれぞれ圧入された後、仕上げ加工されて形成され、この両軸受部材(3)及び(4)によって、モータ等の比較的長い回転軸(5)が支承される。(6)はモータのステータベースのような基板であって、これに中空の取付部材(ボス)(7)が取り付けられ、軸受(1)はこのボス(7)に圧入され、固定される。・・・・・
ところが、第3図の従来の軸受(1)は、低損失とするため、1対の軸受部材(3)及び(4)並びにハウジング(2)の3点の部品を組立て、仕上加工して形成され、製造工数が多く、原価が高いという問題があった。
また、ハウジング(2)があるため、小型化が困難であるという問題があった。
かかる点に鑑み、本発明の目的は、小型で低損失の軸受を少ない工数で製造する方法を提供するところにある。」(第1頁右下欄第4行〜第2頁左上欄第7行)
・摘示5-C:「第1図において、(10)は軸受部材であって、例えば含油合金を用いて、同図Aに示すように、外径がD0の円筒状に形成される。軸受部材(10)の一端(11)側から他端(12)側に向かって透孔(13)が穿設され、他端(12)側において、この透孔(13)に小径部(14)が設けられる。図示のように、透孔(13)の内径d13は小径部(14)の仕上加工後の内径d14より僅かに、例えば数μmだけ、大きく設定される。かかる形状の選定により、軸受部材(10)を粉末成型法を用いて形成することができる。」(第2頁右上欄第5行〜14行)
・摘示5-D:「次に、第1図Bに示すように、軸受部材(10)の透孔(13)及び小径部(14)にわたって、小径部(14)の内径d14と等しい外径に仕上げられた、超硬合金もしくはセラミックから成るサイジング・バー(16)を挿通させた後、軸受部材(10)の一端(11)側をこのサイジング・バー(16)と共に取付部材(7)に穿設された孔(8)内に圧入する。
この圧入により、軸受部材(10)の一端(11)側の圧入部(15)に歪が生じ、その外径D15が軸受部材(10)の原外径D0よりも僅かに小さくなる。同時に、この圧入歪によって、圧入部(15)の内径も透孔(13)の原内径d13より小さくなる。しかしながら、透孔(13)内にはサイジング・バー(16)が挿通されているため、これに制限されて、圧入部(15)の内径は、軸受部材(10)の小径部(14)の内径と等しく、d14となる。
取付部材(7)への軸受部材(10)の圧入後、サイジング・バー(16)が軸受部材(10)から抜き取られて、単一の軸受部材(10)による中空軸受が少ない製造工数で得られる。」(第2頁右上欄第15行〜左下欄第13行)
・摘示5-E:「本発明によれば、軸受部材の一端側の内径を他端側の内径より僅かに大きく形成し、圧入歪により両端部の内径を等しくするようにしたので、小型で低損失の軸受を少ない工数で製造することのできる軸受の製造方法が得られる。」(第2頁右下欄第9行〜14行)
甲第6号証には、段付中空軸の製造法に関して、次の事項が記載されている。
・摘示6-A:「ダイとマンドレルの間にパイプ素材を挿入し、素材の一端を絞り成形する工程と、上記一端を絞り成形した素材の他端をダイ、マンドレルの間に挿入し、上記絞り成形した部分の段部を基準にしてスリーブパンチ等により上記素材の他端を絞り成形する工程とからなる段付中空軸の製造法。」(特許請求の範囲第1項)
・摘示6-B:「中空で両端が中央部に比して細径の軸の成形は、一般に型内にパイプ素材をセットし、その中央部をバルジ成形で膨出させ、中央部を軸の両端よりも太径に成形している。このバルジ成形による場合、パイプ素材の肉厚が薄い場合には大がかりな設備を要しないが、これを伝動軸に用い、強度が必要な場合には軽量化を企図しつつもパイプ肉厚をある程度厚くする必要がある。従ってバルジ成形圧を高圧にする必要があり、・・・設備は一層複雑、大型化する。
他の方法としては、中央部に対し両端が細径の軸を中央部で二分割して段付パイプ半体を成形し、この半体を太径部で突き合せて接合しているが、これによると成形工程が増え、量産上好ましくない。・・・・・・
本発明者等は段付中空軸の従来の上記問題点に鑑み、これを解決すべく本発明をなしたものである。」(第1頁右下欄第14行〜第2頁左上欄第16行)
・摘示6-C:「ダイ1はその成形孔部2に軸方向奥側の小径部3、手前の大径部4この間を繋ぐ斜めの中間径部5を備え、又成形孔部2に嵌挿されるマンドレル6は大径部7及び小径部8、そしてこの間を繋ぐ中間径部9を備え、マンドレル6の外径は成形孔部2の各部3、4、5の内径から略々パイプ素材Wの肉厚を減じた径に設定されている。そしてダイの大径部4とマンドレル5(6の誤記と認める。)の大径部7との間に嵌合するスリーブパンチ10がダイ成形孔部2と同心的に配設されている。
素材Wをスリーブパンチ10内に軸方向へ突出するマンドレル5(6の誤記と認める。)周に嵌合し、素材W一端をスリーブパンチ10の先端で支持するとともに、ダイ1及びスリーブパンチ10を相対的に軸方向相寄る方向へ移動させ、或は一方を固定とし、他方を可動して同方向へ移動させる。素材Wはダイ1の成形孔部2内に嵌合し、小径部3、中間径部5で組織の塑性流動を起こし、均等な径の素材Wは一端部側に縮径された小径部W1が成形されることとなり、中間部W2乃至他端部は大径のままである。
以上で一端を小径に絞り成形した素材を第3図の工程で成形する。
即ち11はダイで、これ亦成形孔部12に小径部13、大径部14、中間径部15を備え、マンドレル15(16の誤記と認める。)の外径は小径部W1の内径部の径と同じ径の段のないものを用い、第2図で得た素材の未成形端部をダイ11の成形孔部12に臨ませ、素材の小径部W1と中間部W2との段差部W3をスリーブパンチ20で支持する。そしてダイ11、スリーブパンチ20の双方、或は一方を軸方向相寄る方向に移動させ、段差部W3をパンチ20の成形基準面とし、他端側を上記と同様に絞り成形する。かくして他端部にも小径部W4が成形される。」(第2頁左下欄第2行〜右下欄第15行)
・摘示6-D:「本発明に従えば、中空で両端を小径とし、中間部を大径とした伝動軸を絞り成形で得るため、肉厚の素材であっても容易に成形でき、しかもプレス成形であるためバルジ成形の如く大がかりで複雑であり、成形圧力の大きな成形を必要とせず、簡単、且つ容易に段付中空軸を成形することができる。特に絞り成形で得るため成形工程が単純で、しかも成形精度も良好なものが得られ、機械加工が可及的に減少し、伝動軸として量産性を大幅に向上し、コストダウンを図ることができる。」(第3頁右上欄第15行〜左下欄第5行)

6.無効理由(1)について
6-1.請求人の主張の概要
下パンチについては、「下パンチを備え」とのみ記載されており、下パンチが他の構成要素との関係でどのように位置付けられ、どのような作用を奏するものか特定できない。すなわち、本件発明は方法の発明であり、方法の発明にあっては、経時的要素を含む一定の行為あるいは動作により発明を明確に特定すべきところ、本件発明において下パンチは焼結軸受材の製造装置の一部である構成要素を単に記載したにとどまり、下パンチと各構成要素間の関係あるいは焼結軸受材の製造工程における下パンチの作用については一切の記載がなく、その一義的解釈は到底不可能である。
したがって、本件発明は、発明の技術的範囲が不明確で、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第2号の要件を満たしていない。

6-2.当審の判断
本件発明において、「下パンチ」は、サイジング金型に備えられているものであるから、サイジング金型を用いてなされる「絞り成形しながらサイジングする工程」との関係についてみると、「絞り成形」は、サイジング金型の絞り部に向け焼結体を装入することによりなされるのであり、「下パンチ」は「絞り成形」を直接的に行うものでないことが明らかであるので、以下では、「下パンチ」と「サイジング」との関係について検討する。
まず、「サイジング」という用語の意味について検討するに、その用語は、プレス加工、粉末冶金、鍛造加工等の各種の加工分野で使用され、その定義は、加工分野や著者によって多少の相違はあるものの、一般的には、「所望の寸法の製品となるようにサイズをきめること」を意味するといえるが(例えば、「金属材料辞典」日刊工業新聞社(昭和39年11月30日2版発行)第191〜192頁参照)、粉末冶金においては、「サイジング」が、「所定の寸法精度を得るための再圧縮」を意味する場合があることや、「密度をあげるなど物理的性質を改善するための再圧縮」も兼ねて行われる場合が多いことも知られている(例えば、「図解 金属材料技術用語辞典-第2版-」日刊工業新聞社(2000年1月30日第2版第1刷発行)第171頁、「改訂5版 金属便覧」丸善株式会社(平成2年3月31日発行)第964頁参照)。
そして、このような「サイジング」の意味を考慮し、本件明細書の
「サイジングに当っては前記した比較的小径部1aと同径状態のサイジングコア11aとガイドコア11bを用い、・・・金型15の絞り部16に向け上記焼結体4を装入し、下ガイドコア11bにそって操作される小径の下パンチ13bとサイジングコア11aにそって圧下される上パンチ13aにより矯正絞り成形して目的の製品14とする。」(段落【0018】、特許公報第2頁右欄第42〜49行)、
「全体が有効な圧粉成形ないし焼結体の装入奥方に向けた絞り部とガイドコアとの間における圧縮成形によって形成されることから強度的に優れ、又寸法的にも的確な製品として得られ、」(段落【0023】、特許公報第3頁右欄第6〜9行)
等の記載や、第2〜4図において、筒状焼結体4(第3図)がサイジングコア11aに沿って操作される上パンチ13aとサイジングコア11aとガイドコア11bとに沿って操作される下パンチ13bとの間で、軸方向の長さが短くなったサイジングされた製品14(第4図)に成形されていることからみると、本件発明の製造法は粉末冶金技術に属するものであることは明らかであり、また、その製造法は、上下のパンチとサイジングコアにより「矯正」、すなわち、所望の寸法の製品となるようにサイズをきめるサイジングや、密度を上げるための軸方向(上下方向)の圧縮がなされていることも明らかである。
してみると、本件発明における「サイジング」とは、被請求人が口頭審理において主張するとおり、「上パンチ、下パンチ、サイジング金型とサイジングコアで焼結体を圧縮成形して焼結体の密度を上げると共に所望の寸法の製品となるようにサイズをきめること」であり、「下パンチ」は、「上パンチと共に焼結体を圧縮成形(サイジング)するためのもの」であると認められる(第1回口頭審理調書参照)。
したがって、下パンチと各構成要素間の関係や焼結軸受材の製造工程における下パンチの作用が明らかでないとはいえないから、下パンチと他の構成要素との関係や下パンチの作用の点で明細書の記載が不備であり、本件発明に係る特許が特許法第36条第4項第2号の要件を満たしていない出願に対してなされたものである旨の請求人の上記主張は採用できない。

7.無効理由(2)について
7-1.請求人の主張の概要
請求人は、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書において、これまでの無効理由(2)の主張を整理し、本件発明は、甲第5号証を主要な証拠としてこれに甲第6号証を組み合わせれば当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張している(第1回口頭審理調書参照)。

7-2.当審の判断
(7-2-1)甲第5号証記載の発明
甲第5号証には、摘示5-Aの構成を具備する「軸受の製造方法」が記載され、摘示5-Cからみて、その製造方法で用いられる円筒状の軸受部材は、粉末成型法を用いて形成されたものであり、また、摘示5-Dからみて、軸受部材の一端部の中空取付部材への圧入は、軸受部材の他端側の内径と等しい外径に仕上げられたサイジング・バーを挿通させた後、その状態でなされるから、甲第5号証には、
「粉末成型法を用いて、一端側の内径が他端側の内径より僅かに大きく形成された円筒状の軸受部材を形成し、軸受部材の他端側の内径と等しい外径に仕上げられたサイジング・バーを挿通させた後、軸受部材の一端側をサイジング・バーと共に中空の取付部材に圧入して、上記一端側の内径を上記他端側の内径と等しくするようにしたことを特徴とする軸受の製造方法。」が記載されていると認められる。この甲第5号証の製造方法で用いられる「粉末成型法」では、通常、原料粉の圧粉による圧粉成形体の形成と、その焼結による焼結体の形成とがなされるから、甲第5号証の製造方法の「粉末成型法を用いて、円筒状の軸受部材を形成し」は、本件発明の「原料粉を圧粉成形し内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程と、この圧粉成形体を焼結」に相当するといえる。また、甲第5号証の製造方法の「サイジング・バー」は、本件発明の「サイジングコア」に相当し、しかも、このサイジング・バーの径も、比較的小径部の径と同じに作られているから、甲第5号証の製造方法の「軸受部材の他端側の内径と等しい外径に仕上げられたサイジング・バーを挿通させた後、軸受部材の一端側をサイジング・バーと共に中空の取付部材に圧入して、」は、本件発明の記載ぶりで整理すると、「比較的小径部と同径状態のサイジングコアと、中空の取付部材とを用い、該取付部材内にサイジングコアと共に上記焼結を経た焼結体の一端側を圧入して、」と言い換えることができる。
そうすると、甲第5号証には、本件発明の記載ぶりに則って整理すると、「原料粉を圧粉成形し内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程と、この圧粉成形体を焼結し、一端側の内径が他端側の内径より僅かに大きく形成された筒状体としてから、筒状体の比較的小径部と同径状態のサイジングコアと、中空の取付部材とを用い、該取付部材内にサイジングコアと共に上記焼結を経た焼結体の一端側を圧入して、上記一端側の内径を上記他端側の内径と等しくするようにしたことを特徴とする焼結軸受材の製造法。」の発明(以下、「甲5発明」という)が記載されていると云える。

(7-2-2)対比・判断
本件発明と甲5発明とを対比すると、甲5発明における「取付部材」は、焼結体が入れられる部材である点で、本件発明における「サイジング金型」に対応している(以下、本件発明における「サイジング金型」と甲5発明における「取付部材」を「被入部材」ということがある)。また、本件発明における「サイジング」とは、「上パンチ、下パンチ、サイジング金型とサイジングコアで焼結体を圧縮成形して焼結体の密度を上げると共に所望の寸法の製品となるようにサイズをきめること」であり(前記「6-2.当審の判断」参照)、具体的には「絞り部とサイジングコアとの間で絞り成形しながらサイジングすることにより、一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジング」と、前記6-2.で述べたとおりの「軸方向に圧縮するサイジング」であるが、甲5発明における「サイジング」とは、圧入によって「一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジング」であるといえるから、両者は、
「原料粉を圧粉成形し内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程と、この圧粉成形体を焼結してから比較的小径部と同径状態のサイジングコアと、被入部材とを用い、該被入部材内に上記焼結を経た焼結体を入れ、一端側の内径を他端側の内径と等しくする工程とを有する焼結軸受材の製造法。」である点で一致するが、次の点で相違する。

相違点(1):
「原料粉を圧粉成形し内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程」が、本件発明においては、「比較的小径部と比較的大径部との間に段部を形成した段付コアを用い、該段付コアと金型との間に装入された原料粉を圧粉成形し前記した段付コアの段部両側で内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程」であるのに対し、甲5発明においては、比較的小径部と比較的大径部との間に段部を形成した段付コアを用いることや、段付コアと金型との間に原料粉を装入することや、内孔を段付コアの段部両側で成形することが規定されていない点。
相違点(2):
本件発明においては、焼結体が入れられる被入部材が「上パンチおよび下パンチを備え、しかも焼結体の装入奥方に向けて絞り部を有するサイジング金型」であるのに対し、甲5発明においては、焼結体が取り付けられる「取付部材」である点。
相違点(3):
本件発明においては、「サイジング金型内に焼結体を装入し、サイジングコアにそって上パンチを圧下させつつ一端側をサイジング金型の絞り部とサイジングコアとの間で絞り成形」するのに対し、甲5発明においては、「取付部材内にサイジングコアと共に焼結体の一端側を圧入」する点。
相違点(4):
本件発明においては、「一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジング」と、前記6-2.で「サイジング」について判断したとおりの「軸方向に圧縮するサイジング」とを行うのに対し、甲5発明においては、「一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジング」を行うのみで、「軸方向に圧縮するサイジング」を行わない点。

(相違点についての検討)
以下、これらの相違点について検討する。
(i)相違点(1)について
小径部と大径部の内孔を有する筒状体を、比較的小径部と比較的大径部との間に段部を形成した段付コアを用い、該段付コアと金型との間に装入された原料粉を圧粉成形することにより形成することは、甲第4号証にみられるように、本件特許の出願前において周知のことであるから、甲5発明において、「原料粉を圧粉成形し内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程」を、甲第4号証等の周知技術が示すように、「比較的小径部と比較的大径部との間に段部を形成した段付コアを用い、該段付コアと金型との間に装入された原料粉を圧粉成形し前記した段付コアの段部両側で内孔を成形した筒状体とする圧粉成形工程」とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

(ii)相違点(2)乃至(4)について
本件発明の上記相違点(2)乃至(4)に係る「サイジング金型」、「絞り成形」及び「サイジング」は、要するところ、圧粉成形された筒状体に対し「絞り成形」、「径方向のサイジング」及び「軸方向のサイジング」という一連の工程を施すためのものであるから、改めて本件発明の「サイジング金型」、「絞り成形」及び「サイジング」の関係と甲5発明の「取付部材」及び「圧入」の関係についてその技術的な観点から対比すると、次のとおりである。
すなわち、本件発明の「サイジング金型」及び「絞り成形」の関係は、軸受材の目的とする形状に対応した金型を用い、素材である筒状体の焼結体を該金型の成形面の絞り部に沿わせてその一端側を絞って縮径状に「絞り成形」するものである。そして、この場合のサイジング金型は、成形終了後は焼結体から取り外される性質のものであり、また成形された焼結体は、「金型」から取り出された状態で、その一端部の形状は金型の絞り部の成形面に対応した目的とする形状に保持されているものである。
これに対し、甲5発明の「取付部材」及び「圧入」の関係は、軸受材と一体となる「取付部材」に焼結体(軸受部材10と表示されているもの)を圧入して取り付けるものである。そして、この場合の「取付部材」は、焼結体が装入されるという限りでは「金型」の機能と近似しているが、基本的には「軸受材」となる焼結体と強固に結合されるものであり、圧入終了後は焼結体から取り外される性質のものではないから、この点で「金型」とは異質のものである。
また、甲5発明の「圧入」という操作も、取付、締結、ないし組立のための一つの手段であり、「穴の直径よりわずかに大きい直径をもつ軸を押し込んで、両部材(穴を有する部材と軸)の接触面に発生する圧力に基づく摩擦力によって結合する」もので(例えば、「新版接合技術総覧」(株)産業技術サービスセンター(1994年11月28日初版発行)第613〜615頁、第648〜649頁、第670〜672頁、特に、第614頁の「(6)くさび締結および力ばめ締結」の欄参照)、しかも、筒状焼結体の直径と圧入しろ(=筒状焼結体の圧入前外径D0-穴内径D1)等の寸法相互の関係などは、規格化されているものである(参考資料6、鑑定書添付資料2参照)。そして、この「圧入」のメカニズムは、基本的には、軸受部材10が圧入の際に生じた変形(軸受部材10の径が縮小された)状態から弾性歪のない状態に回復する(軸受部材10の元の径に戻ろうとする)弾性回復力による圧力によって軸受部材と取付部材との接触面に発生する摩擦力を利用して両者を結合させるものであるから、「圧入」により発生した焼結体の「変形」により目的とする形状が取付状態において得られるとしても、圧入状態が開放(取外)されれば、通常、圧入関係にある両部材が共に弾性域において弾性歪のない状態に回復されるために、元の形状に戻ろうとする作用によりその目的とする形状が維持されるものではない(平成15年8月11日に請求人が提出した口頭審理陳述要領書第5頁第20〜28行、平成15年10月15日付けの被請求人提出の上申書第3頁第17〜21行参照)。
してみると、甲5発明の「圧入」は、焼結体を特定の目的とする形状に成形する「絞り成形」とそのメカニズム等の点で全く相違しているものであるといえる。
さらに、「取付部材」及び「圧入」の関係を「サイジング」との関連で検討すると、甲5発明では、「取付部材」に焼結体を装入するという限りで仮に「金型」の1種とみなせるとしても、この「取付部材」が本件発明の「下パンチ」をも兼用しているとか、またはその必要性を示唆しているとも解することができない。すなわち、甲5発明の「圧入」は、前示のとおり、焼結体を取付部材に装入して取り付けるための操作であり、この操作においては、基本的には装入するための上パンチは必要であるとしても、「軸方向に圧縮する」必然性がない(圧縮しなくとも圧入できる)のであるから、甲5発明では、本件発明の「軸方向に圧縮するサイジング」やそのための「下パンチ」は、全く想定されていないものであり、甲第5号証のその余の記載からみても容易に導き出せるようなものでもない。

(甲第6号証についての検討)
そこで、これらの点を踏まえ、請求人が甲5発明との組合せを主張する甲第6号証について検討する。
甲第6号証には、摘示6-A〜6-Cの記載からみて、本件発明の記載ぶりに則って整理すると、
「比較的小径部と同径状態のサイジングコアと、上パンチを備え、しかも他端側を絞り成形した素材の装入奥方に向けて絞り部を有する金型とを用い、該金型内に上記他端側を絞り成形した素材を装入し、サイジングコアにそって上パンチを圧下させつつ一端側を上記絞り部とサイジングコアとの間で絞り成形する両端が略々パイプ素材の肉厚を有し中央部に比して細径である段付中空軸の製造法。」の発明(以下、「甲6発明」という)が記載されているといえる。
しかしながら、甲6発明は、金型による絞り成形に関するものであるものの、この「絞り成形」は、両端の細径部の肉厚が略々パイプ素材の肉厚を有するように、すなわち、パイプ素材の断面積が小さくなるように塑性流動を発生させつつ、軸方向の長さが長くなるように絞り成形するものであるから、この絞り成形では、パイプ素材の軸方向長さを長くするような軸方向の塑性流動を発生させることが必要である。これに対し、本件発明の「軸方向に圧縮するサイジング」は、軸方向の塑性流動と反対方向に圧縮する操作であるから、この甲6発明では「軸方向に圧縮するサイジング」やそのための「下パンチ」は、全く想定されていないというべきであり、むしろ軸方向の塑性流動に支障を来すために阻害されているというべきである。
また、甲5発明は、本件発明との関係で前示したとおり、その「取付部材」や「圧入」が甲6発明の「金型」や「絞り成形」とその技術的な機能や技術思想が全く別異のものであるから、甲5発明の「焼結軸受材の製造方法」に使用されている「圧入」や「取付部材」に替えて、全く別異の「段付中空軸」という「もの」を製造する方法に使用されている甲6発明の「金型」や「絞り成形」を採用しようとする何らの動機付けも、これら甲第5号証や甲第6号証の記載から見出すことができないし、その余の証拠からも見出すことができない。
加えて、甲5発明や甲6発明では、前示のとおり、本件発明の上記相違点(4)の「軸方向に圧縮するサイジング」は、全く想定されておらず、いずれの発明からも本件発明の「軸方向に圧縮するサイジング」を導くことができないのであるし、しかも、後述するように、その余の証拠について検討しても、一端側を絞り成形しながら上下のパンチにより軸方向に圧縮するサイジングを行うことが公知であるともいえないし、甲5発明と甲6発明との組合わせを動機付ける理由もない。仮に甲5発明と甲6発明を組合わせた場合でも、本件発明の少なくとも上記相違点(4)の点については当業者といえど容易に辿り着くことができないといえる。
してみると、本件発明は、甲第5号証及び甲第6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(その余の証拠についての検討)
請求人は、その余の証拠として、甲第3号証、甲第4号証及び参考資料1乃至参考資料8を提示しているから、これら証拠についてもさらに検討すると、これら証拠には、「絞り成形」や「サイジング」の内容が個別に記載されているだけであり、本件発明の主要な点である、「上下パンチ」、「サイジング金型」や「サイジングコア」等によって圧粉成形された筒状体に対し「一端側の絞り成形」、「(他端側より大きい)一端側の内径を他端側の内径と等しくする径方向のサイジング」及び「軸方向に圧縮するサイジング」という一連の工程を施す「焼結軸受材の製造方法」について何ら示唆するものではない。
すなわち、甲第3号証には、アッパ・パンチ(上パンチ)によりロア・パンチ(下パンチ)で保持されるまで開口部にテーパー部を有する外型(金型)内に押し込まれた筒状焼結体の中にコア・ロッドを押し込み、その仕上げられた部分で内径をサイジングし、ロア・パンチとアッパ・パンチで焼結体の高さを所定の長さに圧縮することが記載されており(摘示3-A参照)、軸方向に圧縮するサイジングを行っているといえるが、径方向には、コア・ロッドの押し込みにより、軸方向の長さ全体をその内径が拡径するようにサイジングするもので、(他端側より大きい)一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジングを行うことや一端側を絞り成形することは記載されていない。
甲第4号証には、成形体と同径の孔を有するダイ(金型)と、ダイの孔内に挿入される段付コアロッドと、上下のパンチとで、内径に段のある形状の圧粉成形体を成形することが記載されているだけで(摘示4-B参照)、サイジングや絞り成形については記載されていない。
参考資料1には、サイジング押型(金型)とサイジング用コアーロッドが記載され、また、サイジング押型に、素材の装入が容易となるようにテーパーをつけることも記載されているが(第129頁第12〜13行、図7.49参照)、サイジング押型の開口縁部に形成されたテーパー部は、焼結体をサイジング押型内に装入しやすくするための「案内部」というべきものであるから、焼結体を絞り成形することは記載されていないし、また、軸方向に圧縮するサイジングを行うことも記載されていない。
参考資料2には、上パンチで焼結円筒体をダイス(金型)の小径部内に圧入し、焼結円筒体の外径サイジングを行った後、コアロッドを回転させながら引き抜き、同時に下パンチで焼結円筒体を押し上げながら内径サイジングを行う焼結円筒体のサイジング方法が記載されており(第2頁左上欄第5〜18行参照)、上パンチで焼結円筒体をダイスの小径部内に圧入することは、焼結円筒体を絞り成形しているといえるが、一端側のみを絞り成形するものではないし、また、(他端側より大きい)一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジングや軸方向に圧縮するサイジングを行うことは記載されていない。
参考資料3には、上型、下型、ノックアウト、及び、つづみ状の凹部を設けたサイジングコアーを用いて焼結体を加圧圧縮することによりその軸受孔の形状をつづみ型に修正する軸受の製造法が記載されており(特許請求の範囲第2項、第4、5図参照)、焼結体を圧縮するようにサイジングを行っているといえるが(第4図参照)、そのサイジングは、軸受の中間部の肉厚を端部より厚く修正するもので、(他端側より大きい)一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジングを行うものではないし(第4、5図参照)、「絞り成形」を行うものでもない。
参考資料4には、焼結筒状体をサイジングするに当り、圧縮矯正される筒状体の中間部外面を膨出成形することが記載されており(特許請求の範囲、第1図参照)、軸方向に圧縮するサイジングを行っているといえるが、(他端側より大きい)一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジングを行うものではないし、「絞り成形」を行うものでもない。
参考資料5には、サイジング処理は、整形用の金型内に焼結体を圧入して塑性変形を加え、内外面をバニシング加工し、所要寸法公差に仕上げる方法であることが記載されているが(第335頁第14〜18行参照)、一端側を絞り成形することは記載されていないし、また、(他端側より大きい)一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジングや軸方向に圧縮するサイジングを行うことも記載されていない。
参考資料6には、焼結軸受のハウジングに対する組立法としての圧入技術において、軸受にマンドレルを挿入してからハウジングに圧入すると、精度は格段に向上することが記載されているが(同第325頁第31〜32行参照)、軸方向に圧縮するサイジングを行うことや絞り成形については記載されていない。
参考資料7には、上型及び下型とサイジングコアとを備える金型を用い、筒状焼結体の内径面、上下両端面及び外径両端部を拘束した状態で軸方向に圧縮しその外径中央部を膨出せしめ、それに伴う塑性流動により内径中央部を拡張させる焼結含油軸受の製造法が記載されており(特許請求の範囲参照)、軸方向長さを圧縮することが記載されているといえるが、(他端側より大きい)一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジングを行うことや絞り加工については記載されていない。
参考資料8には、一端に第1拡大径部を備えた第1型孔を有する第1ダイスの第1型孔に第1ポンチで金属パイプを圧入してそのパイプの一端に拡大径部を形成し、他のパイプ部分を薄肉に引延し成形して小径に絞り、第2拡大径部を備えた第2型孔を有する第2ダイスの第2型孔に第1絞り工程を終えた金属パイプを第2ポンチで圧入して第2絞りを行い、上端に完全な拡大径部を形成し、第2絞り工程を終えた金属パイプを第3ポンチにて圧入し第3絞りを行い、ついでそのパイプ内周面に対し、加工度の小さい絞り加工を施してパイプ内周面を鏡面成形することが記載され(特許請求の範囲、第2頁右上欄第14行〜右下欄第11行参照)、また、第2絞り工程において、成形時にパイプの伸び及び肉厚が変動するのを規制する下部加圧部材をパイプ下部に設けることも記載されているが(第2頁左下欄第10〜12行参照)、下部加圧部材は、拡大径部の成形厚さが金属パイプの素材厚さと同厚に維持されるように(第2頁右下欄第17〜20行参照)、パイプの伸びを規制し拡大径部の径の拡大時に拡大径部の肉厚が薄くなるのを防止するためのもので、一端側である他のパイプ部分を小径に絞る際に軸方向に圧縮するサイジングを行うものではないし、また、一端側の内径を他端側の内径と等しくするサイジングを行うものでもない。

(7-2-3)まとめ
以上の検討のとおり、本件発明の上記相違点(2)乃至(4)は、甲第6号証やさらには甲第3、4号証及び参考資料1乃至参考資料8を参照したとしても、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
そして、本件発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された構成要件を具備することにより、「サイジング工程で前記した大径部の成形端部側を絞り成形して、小径部と同径状態とする。サイジング後における製品の内外面が共に圧粉ないし圧縮成形層として形成され、組織および寸法を均一安定化すると共に強度性を適切に得しめる。従って比較的薄層な製品、あるいは外径よりも大きい長さをもった比較的長い製品であっても適切に製造することを可能とする。両端部の軸材に対する摺動面が何れも金型成形された的確な寸法および組織をもったものとなるので有効な軸受作用を得しめる。」(段落【0012】〜【0013】)等の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、請求人提示の上記甲第3乃至6号証記載の発明や周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

7-3.請求人の主張に対して
(1)請求人は、参考資料9の鑑定書等に基づき、甲第5号証記載の発明では、「圧入」により「絞り成形」が行われている旨を主張している(平成15年9月22日付け上申書第2頁下から第3行〜第3頁第3行参照)。
しかしながら、甲5発明における「圧入」は、前示のとおり、「金型」を用いてなされる「絞り成形」とはその技術的な内容や技術思想が別異のものであるから、請求人の上記主張は採用することはできない。
(2)請求人は、甲第5号証における「圧入」は、本件発明のサイジングにおける焼結体の寸法変化と何ら変わるところがない旨を主張している(同第3頁第5〜7行参照)。
しかしながら、甲5発明の「圧入」でも径方向のサイジングがなされているとしても、本件発明では、さらに「軸方向に圧縮するサイジング」も行われるのであり、甲5発明の「圧入」ではこの「軸方向に圧縮するサイジング」が期待できないことは前示のとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用することはできない。
(3)請求人は、甲5発明の「取付部材」は、本件発明の「絞り部を有するサイジング金型」の機能を有している旨主張している(同第3頁第17〜19行参照)。
しかしながら、甲5発明の「取付部材」は、前示のとおり、焼結材を取り付けるためのものであり、しかも取付後は「軸受材」と一体となる部材であって金型のように取り外される性質のものではない。また、取付部材の機能も、これに焼結体を圧入した結果その変形によって一端部の径が縮径されただけのことであり、特定の目的とする形状に形作るための「成形」とは技術的に別異のものであるから、取付部材を「金型」と同様の機能を奏するものと解することに無理があると云える。
したがって、請求人の上記主張は妥当なものとはいえない。
(4)請求人は、本来金型を使用して軸受材の製造を行うところを、甲5発明では、その製造工程を少なくするために取付部材に焼結体を直接圧入して絞り成形を行っているのであると主張している(同第5頁第11〜16行)。しかしながら、甲第5号証には、金型の使用を省略して「その製造工程を少なくするために・・・絞り成形を行っている」という請求人の上記主張を裏付ける記載はない。また、仮にそうであるならば、甲第5号証の記載からは、甲6発明のような「金型」による成形が阻害されていることになるから、上記主張は、その前提において当を得たものではない。

8.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提示した証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-02-02 
結審通知日 2004-02-05 
審決日 2004-02-17 
出願番号 特願昭63-158012
審決分類 P 1 112・ 121- Y (B22F)
P 1 112・ 534- Y (B22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 板橋 一隆岡田 万里  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 奥井 正樹
綿谷 晶廣
登録日 1998-11-27 
登録番号 特許第2139278号(P2139278)
発明の名称 焼結軸受材の製造法  
代理人 吉村 公一  
代理人 吉村 公一  
代理人 青山 葆  
代理人 寒河江 孝允  
代理人 寒河江 孝允  
代理人 河宮 治  

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