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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1094527
異議申立番号 異議2002-71392  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-07-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-04 
確定日 2003-12-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3234700号「テトラシクロドデセン系重合体水素添加物及びその製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3234700号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3234700号は、平成5年12月27日に特許出願された特願平5-332001号の出願に係り、平成13年9月21日に設定登録されたものであって、その後、特許異議申立人日本ゼオン株式会社により特許異議の申立てがなされ、平成14年8月27日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年11月1日に訂正の請求がなされたものである。

2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
平成14年11月1日付けの本件訂正請求における訂正の内容は、下記訂正事項a〜eに示すとおりである。

訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1及び3における
「nは1より大きい整数を表す」との記載を、
「nは10〜10,000の整数を表す」と訂正する。

訂正事項b
特許請求の範囲の請求項3における
「比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であるテトラシクロドデセン」との記載を、
「比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であり、重合度が10〜10,000であるテトラシクロドデセン」と訂正する。

訂正事項c
明細書の段落番号【0008】及び同【0010】中の
「nは1より大きい整数を表す。」との記載を、
「nは10〜10,000の整数を表す。」と訂正する。

訂正事項d
明細書の段落番号【0008】中の
「比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であるテトラシクロドデセン」との記載を、
「比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であり、重合度が10〜10,000であるテトラシクロドデセン」と訂正する。

訂正事項e
明細書の段落番号【0011】の
「【化9】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表し、nは1より大きい整数を表す。)」との記載を、
「【化9】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表す。)」と訂正する。

(2)訂正の適否の判断
上記訂正事項a〜bは、テトラシクロドデセン系重合体水素添加物の式【化1】で示される化学構造式の繰り返し単位である「n」(一般的には、「重合度」と呼ばれるもの)を10〜10,000に限定するものであるから、訂正事項a〜bは、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、しかも、テトラシクロドデセン系重合体水素添加物の式【化1】で示される化学構造式の繰り返し単位である「n」の範囲を示すものとして、本件明細書の段落番号【0014】には、「テトラシクロドデセン系単量体とリビング開環メタセシス触媒のモル比は、開環メタセシス重合がリビング重合であるため、単量体と触媒のモル比を制御することにより、所望の分子量の重合体を得ることができる。すなわち、単量体のモル数100に対し、触媒1モルを反応させ得られた重合体は、ほぼ100量体の分子量を持つことになり、これら分子量は単量体の性質により多少の差異はあるものの重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnは1.0〜1.8の狭い範囲に制御される。よって、単量体と触媒のモル比は、通常10:1〜10000:1となる範囲、好ましくは100:1〜1000:1となる範囲である。」と記載されていることから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、上記訂正事項c〜dは、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記訂正事項a〜bの訂正に伴うものであり、減縮された特許請求の範囲と明細書の記載を整合させるための、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、しかも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
上記訂正事項eは、本件明細書の段落番号【0010】において、「本発明における(化9)式で表されるテトラシクロドデセン系単量体」と記載されていることから誤記であることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当するものであり、しかも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
本件特許3234700号の請求項1ないし5に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】一般式(化1)で表されるガラス転移温度が100℃以上であり、かつGPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物。【化1】

(式中R1〜R4 はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表し、nは10〜10,000の整数を表す。)
【請求項2】一般式(化2)で表されるR1がメチル基、またはシアノ基であり、R2〜R4がH基であることを特徴とする請求項1記載のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物。
【化2】

【請求項3】一般式(化3)で表される少なくとも1種類のテトラシクロドデセン系単量体をリビング開環メタセシス触媒で重合した後に、水素添加触媒のもとに水素添加することを特徴とする一般式(化4)で表されるガラス転移温度が100℃以上であり、かつGPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であり、重合度が10〜10,000であるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法。
【化3】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表す。)
【化4】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表し、nは10〜10,000の整数を表す。)
【請求項4】一般式(化5)で表されるR1がメチル基、またはシアノ基であり、R2〜R4がH基であることを特徴とする請求項3記載のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法。
【化5】


【請求項5】水素添加触媒がトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライドであることを特徴とする請求項3記載のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法。」

(2)取消理由の概要
当審が平成14年8月27日付けで通知した取消しの理由は、本件訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前日本国または外国において頒布された下記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、というものである。

刊行物1:J.Am.Chem.Soc.Vol.114(1992)
、p.7295〜7296(甲第1号証)
刊行物2:特開平1-132626号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平3-109418号公報(甲第3号証)
刊行物4:高分子学会高分子辞典編集委員会辺編「新版高分子辞典」、
株式会社朝倉書店、1988年11月25日発行、269頁
「多分散性」の項(甲第4号証)

(3)刊行物1〜4の記載事項
i)当審において通知した平成14年8月27日付け取消しの理由で引用した刊行物1:J.Am.Chem.Soc.Vol.114(1992)、p.7295〜7296(甲第1号証)には、メチルテトラシクロドデセン(以下、「MTD」という。)とラセミ体の2-エキソ-3-エンド-ビス(ジフェニルホスフィノ)ビシクロ[2.2.1]ヘプテン(以下「NORPHOS」という。)とを、Mo(CHCMe2Ph)(NAr)(O-t-Bu)2(ただし、Arは2,6-C6H3-i-Pr2を示す。)を開始剤として用いて、官能化ホスフィン含有ジブロック共重合体をシーケンシャル開環メタセシス重合により調製すること(下記反応式(1)参照)、下記反応式(2)のように3重量%の銀含有ブロックを含むポリマー混合物を得るために、[MTD]200の単独重合体(PDI(分散度)=1.03)を加え、暗闇で、窒素ガス下、5〜8日間かけて、溶媒をゆっくり蒸発させることにより、フィルム(厚み約0.4mm)をキャストしたこと、

また、欄外にポリ[MTD]のDSCにより測定したTgが約215℃であること(いずれも7295頁)が記載されている。

ii)当審において通知した平成14年8月27日付け取消しの理由で引用した刊行物2:特開平1-132626号公報(甲第2号証)には、
「1)下記一般式(I)で表わされる少なくとも1種の化合物の重合体または該化合物と他の共重合性モノマーとを重合させて得られる重合体を、水素添加して得られる重合体からなることを特徴とする光学材料。
一般式(I)

」(特許請求の範囲)、
「メタセシス開環重合で得られる重合体の水素添加反応は通常の方法によって行なわれる。この水素添加反応において使用される触媒は、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられているものを使用することができる。例えば、・・・。また、均一系触媒としては、・・・クロロトリス(トリフェニルホスフェン)ロジウム・・・などを挙げることができる。」(9頁左下欄6行〜右下欄3行)、
「このように水素添加することにより、得られる(共)重合体は優れた熱安定性を有するものとなり、その結果、成形加工時や製品としての使用時の加熱によってその特性が劣化することがない。水素添加率は、通常、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%である。水素添加率が50%未満の場合には、熱安定性の改良効果が小さい。」(9頁右下欄8〜15頁)および、第1表(12頁下欄)に水素添加物のガラス転移温度が記載されている。

iii)当審において通知した平成14年8月27日付け取消しの理由で引用した刊行物3:特開平3-109418号公報(甲第3号証)には、
「(1)ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物であって、該水素添加物の高速液体クロマトグラフィーにより測定した数平均分子量(Mn)が20,000〜50,000、重量平均分子量(Mw)が40,000〜80,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下であり、かつ、該水素添加物中に含まれる揮発成分が0.3重量%以下であることを特徴とする成形用材料。」(特許請求の範囲)、
「また、本発明における水素添加物は、耐熱性および射出成形性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上、好ましくは120〜200℃、さらに好ましくは130〜180℃であることが望ましい。」(3頁左上欄15〜19行)、
「ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物は、周知の水素添加触媒を使用することにより製造される。水添触媒としては、オレフィン化合物の水素化に際して一般に使用されているものであれば使用可能であり、・・・水素添加率は、耐熱劣化性、耐光劣化性などの観点から、90%以上、好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上とする。」(3頁右下欄14行〜4頁左上欄10行)、
「[実施例1]
(開環重合体の製造)
窒素雰囲気下、200l反応器中に、脱水したトルエン70部、トリエチルアルミニウム0.5部、トリエチルアミン1.4部、および1-へキセン0.15部を入れた。温度を20℃に保ちながら、エチルテトラシクロドデセン(ETD)30部、および四塩化チタン0.17部を1時間にわたって連続的に反応系に添加し、重合反応を行なった。ETDと四塩化チタンの全量を添加後、1時間反応を行なった。イソプロピルアルコール/アンモニア水(0.5部/0.5部)混合溶液を添加して反応を停止した後、500部のイソプロピルアルコール中に注ぎ、凝固した。凝固した重合体を60℃で10時間、真空乾燥し、開環重合体25.5部を得た。収率は85%であった。トルエンを溶剤に用いた高速液体クロマトグラフィー(HLC)分析(東ソー社製、HLC802LによりTSKgelG5000H-G4000Hをカラムとして、温度38℃、流量1.0ml/分で測定)で分子量(ポリスチレン換算)を測定した結果、Mn:2.9×104、Mw:6.1×104、Mw/Mn:2.1であった。
(水素添加物の製造)
得られた開環重合体をシクロヘキサン150部に溶解し、500lオートクレーブ中でパラジウム/カーボン触媒(担持量5%)0.6部を加え、水素圧70kg/cm2、温度140℃で4時間、水素添加反応を行なった。水素添加触媒を濾過して除去した後、反応溶液を5等分し、各々をイソプロピルアルコール130部中に注ぎ凝固を行なった。それぞれ得られた水素添加物を60℃で10時間、真空乾燥した後、シクロヘキサンに再溶解して10%の溶液とした。各々の溶液を、イソプロピルアルコール130部中に注ぎ再度凝固した。前記と同様にして乾燥・凝固をもつ一度行なった後、各々得られた水素添加物を90℃で48時間、真空乾燥した。水素添加物22.6部を得た。得られた水素添加物の水素添加率は、1H-NMRスペクトル分析により、99%以上であった。HLC分析で分子量を測定した結果Mn:2.9×104、Mw:6.2×104、Mw/Mn:2.1であった。
DSC分析によりガラス転移温度(Tg)を測定し、揮発分量を熱重量分析(TGA)により、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で30℃から350℃までの加熱減量として測定した。比較のため実施例1と同様にして、重合および水素添加を行った後、水素添加物の凝固を1回だけ行なう以外は、上記と同様にして、水素添加物5個を得た。水素添加率は、99%以上、分子量は、Mn:3.0×104、Mw:6.2×104、Mw/Mn:2.1であった。」(7頁左上欄10行〜右下欄5行)
「[実施例3]
実施例1で使用した単量体(ETD)にかえて、テトラシクロドデセン(TCD)、メチルテトラシクロドデセン(MTD)、ジシクロペンタジエン(DCP)、およびノルボルネン(NB)を使用し、第3表に示した単量体組成にて、実施例1と同様にして、重合、水素添加、凝固、乾燥を行なって開環重合体の水素添加物を得た。実施例2と同様にして、酸化防止剤(イルガノックス1010)を配合し、光ディスク基板を成形した後、各種特性を測定した結果を第3表に示した。」(9頁左上欄10〜20行)及び第3表(10頁上欄)が記載されている。

iv)当審において通知した平成14年8月27日付け取消しの理由で引用した刊行物4:高分子学会高分子辞典編集委員会辺編「新版高分子辞典」、株式会社朝倉書店、1988年11月25日発行、269頁「多分散性」の項(甲第4号証)には、
「多分散性[polydispersity] 高分子は一般に種々の大きさをもつ分子の集合体であり,高分子のこのような性質を多分散性,または多分子性[polymolecularity]という.多分散性を示す尺度としては重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比,Mw/Mnが(下線部については、システム上表現できないが、いずれも各文字の上に平均を示す「-」がある。)用いられ,この値を分散度[polydispersity coefficient, polydispersity index,またはnonuniformity coefficient]という.単分散の場合,この値は1となるが,鎖状合成高分子の場合1.6〜2.0程度のものが多く,分岐高分子では2以上,またゲル化するような系では,その直前には分散度が∞となる.」と記載されている。

(4)対比・判断
(i)訂正後の本件請求項1に係る発明について
訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)と刊行物1に記載された発明とを比較すると、両者は、テトラシクロドデセン系重合体である点で一致し、以下の点で相違している。
a.本件発明1は、シクロドデセン系重合体の水素添加物であるのに対して、刊行物1には、水素添加物が記載されていない点。
b.本件発明1は、ガラス転移温度が100℃以上であるのに対して、刊行物1には、水素添加物のガラス転移点が記載されていない点。
c.本件発明1は、GPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であるのに対して、刊行物1には、水素添加物のMw/Mnが記載されていない点。

相違点a.について
刊行物2及び3に記載されているように、テトラドデセン系重合体に対し、耐熱安定性や耐光劣化性を考慮して水素を添加することによってテトラドデセン系重合体の水素添加物を得ることは、本件出願前に、当業者によく知られた技術的事項である。
そして、刊行物1において、同じテトラシクロドデセン系重合体が記載されている以上、刊行物2及び3に記載されているように、所期の目的をもってその水素添加物を得ることは、当業者が通常行う技術的事項に過ぎず、その点に何ら技術的困難性を見出すことはできない。

相違点b.について
刊行物2及び3には、テトラドデセン系重合体の水素添加物のガラス転移温度について記載されており、特に、刊行物3では、当該水素添加物のガラス転移温度について100℃以上が好ましいと明記されていることから、本件発明1のようにガラス転移温度を100℃以上とすることに何ら技術的困難性があるとは認められない。

相違点c.について
刊行物3には、テトラドデセン系重合体の水素添加物のMw/Mnが2.5以下であることが示されている一方で、実施例1において、開環重合体のMw/Mnが2.1で、その水素添加物のMw/Mnが2.1であること、すなわち、水素添加によってほとんどMw/Mnが変化しないことが示されている。
この点を考慮すると、刊行物1には、テトラシクロドデセン系重合体である[MTD]200の単独重合体(注:水素添加する前の重合体)のPDI(分散度)(このPDIは刊行物4からも明らかなとおり重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)を示すものである。)が1.03であることが記載されている以上、本件発明1のようにMw/Mnを1.0〜1.8の範囲に限定することに何ら技術的困難性を認めることはできない。
そして、これらの効果は、刊行物1〜4の記載から、当業者が予想できる範囲のものである。

なお、上記相違点c.について、特許権者は、平成14年11月1日付け特許異議意見書において、実験成績証明書を添付して、水素添加することにより分子量分布(注:Mw/Mnに相当)が広くなることを示した上で、狭い分子量分布の重合体から一義的に分子量分布が得られるというわけではないと主張する。
確かに、特許権者が主張するように、実験成績証明書を参酌すると、実験例1の場合、当初Mw/Mn 1.42が水素添加によりMw/Mn 2.05(増加率44.4%)、実験例2の場合、当初Mw/Mn 1.44が水素添加によりMw/Mn 1.95(増加率35.4%)水素添加によりMw/Mnが広くなっている。
しかしながら、刊行物1においてテトラシクロドデセン系重合体のMw/Mnが1.03のものが知られている以上、上記実験成績証明書の結果と同様な割合(増加率35.4〜44.4%)で水素添加後のMw/Mnが広くなったとしても、依然として、本件発明1がMw/Mnの範囲として示している1.0〜1.8の範囲に含まれると考えられることから、上記主張は採用しない。
したがって、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ii)訂正後の本件請求項2に係る発明について
訂正後の本件請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という)は、訂正後の本件請求項1を引用し、かつ、テトラシクロドデセン系重合体の水素添加物の置換基を限定したものである。
しかし、刊行物1及び刊行物3には、R1がメチルであり、R2〜R4がH基であるであるテトラシクロドデセン系重合体点が記載されているから、本件発明2は、上記(i)と同様な理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iii)訂正後の本件請求項3に係る発明について
訂正後の本件請求項3に係る発明(以下、「本件発明3」という)と刊行物1に記載された発明とを比較すると、両者は、テトラシクロドデセン系単量体をリビング開環メタセシス触媒(同じモリブデン系アルキリデン触媒を使用)で重合し、その重合度が200〜300である点で一致し、以下の点で相違している。
d.本件発明3は、さらに、シクロドデセン系重合体を水素添加して、シクロドデセン系重合体の水素添加物を製造しているのに対して、刊行物1には、水素添加に関する記載がされていない点。
e.本件発明3は、ガラス転移温度が100℃以上であるのに対して、刊行物1には、水素添加物のガラス転移点が記載されていない点。
f.本件発明3は、GPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であるのに対して、刊行物1には、水素添加物のMw/Mnが記載されていない点。

相違点d.について
刊行物2及び3に記載されているように、テトラドデセン系重合体に対し、耐熱安定性や耐光劣化性を考慮して水素を添加することによってテトラドデセン系重合体の水素添加物を得ることは、本件出願前に、当業者によく知られた技術的事項である。
そして、刊行物1において、同じテトラシクロドデセン系重合体を製造する方法が記載されている以上、刊行物2及び3に記載されているように、水素を添加してその水素添加物を製造する方法とすることは、当業者が通常行うことであり、その点に何ら技術的困難性を見出すことはできない。

相違点e.について
ガラス転移点については、上記(i)の相違点b.で記述したとおりである。

相違点f.について
テトラドデセン系重合体の水素添加物のMw/Mnについても、上記(i)の相違点c.で記述したとおりである。
そして、これらの効果は、刊行物1〜4の記載から、当業者が予想できる範囲のものである。
したがって、本件発明3は、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iv)訂正後の本件請求項4に係る発明について
訂正後の本件請求項4に係る発明(以下、「本件発明4」という)は、訂正後の本件請求項3を引用し、かつ、テトラシクロドデセン系重合体の水素添加物の置換基を限定したものである。
しかし、刊行物1及び刊行物3には、R1がメチルであり、R2〜R4がH基であるであるテトラシクロドデセン系重合体点が記載されているから、本件発明4は、上記(iii)と同様な理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(v)訂正後の本件請求項5に係る発明について
訂正後の本件請求項5に係る発明(以下、「本件発明5」という)は、訂正後の本件請求項3を引用し、かつ、水素添加触媒を限定したものである。
しかし、刊行物2には、水素添加触媒として、クロロトリス(トリフェニルホスフェン)ロジウムが記載されているから、本件発明5は、上記(iii)と同様な理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである

したがって、本件発明1ないし5は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1ないし5の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1ないし5の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
テトラシクロドデセン系重合体水素添加物及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式(化1)で表されるガラス転移温度が100℃以上であり、かつGPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物。
【化1】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表し、nは10〜10,000の整数を表す。)
【請求項2】一般式(化2)で表されるR1がメチル基、またはシアノ基であり、R2〜R4がH基であることを特徴とする請求項1記載のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物。
【化2】

【請求項3】一般式(化3)で表される少なくとも1種類のテトラシクロドデセン系単量体をリビング開環メタセシス触媒で重合した後に、水素添加触媒のもとに水素添加することを特徴とする一般式(化4)で表されるガラス転移温度が100℃以上であり、かつGPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であり、重合度が10〜10,000であるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法。
【化3】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表す。)
【化4】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表し、nは10〜10,000の整数を表す。)
【請求項4】一般式(化5)で表されるR1がメチル基、またはシアノ基であり、R2〜R4がH基であることを特徴とする請求項3記載のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法。
【化5】

【請求項5】水素添加触媒がトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライドであることを特徴とする請求項3記載のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規なテトラシクロドデセン系重合体水素添加物及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、高いガラス転移温度と狭い分子量分布を有するテトラシクロドデセン重合体水素添加物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】テトラシクロドデセン系単量体の開環メタセシス重合は、一般に重合触媒としてタングステンやモリブデン系の触媒に有機アルミニウム化合物等の助触媒を使用して行われる。しかし、これらの重合触媒を使用すると、特定の単量体しか重合できなかったり、逆に分子量が増大し、分子量分布を制御することが困難であるという問題点を有している。この問題点を解決するために1-ペンテンや1-ヘキセン等のα-オレフィン類を分子量調節剤として使用することが知られており、特開平5-105743号公報、特開平5-132545号公報には、それらを使用した重合体の製造方法が開示されている。しかしながら、これら手法では平均分子量の制御は可能であるが、分子量分布を狭くすることは困難である。
【0003】一方、米国特許4,681,956号及び4,727,215号には、モリブデンやタングステンのイミドアルキリデン錯体を用いた触媒が開示されている。これら触媒を使用すると、リビング重合で反応が進行し、分子量分布を単分散に制御することが可能である。
【0004】また、Macromolecules,24,4495(1991).には、これらアルキリデン錯体を持つ触媒でノルボルネン系単量体を開環重合した例が開示され、ポリマーの立体化学的な研究等が詳細に行われているが、これらポリマーではガラス転移温度が低く、工業的に耐熱性ポリマーとしては不充分である。
【0005】さらに、これら開環メタセシス重合体は、その分子中に二重結合が存在するために、耐候性、耐熱性等の面で劣り、多くの場合これらは水素添加によって改質がなされている。近年、これらの開環メタセシス重合体の水素添加物は、耐熱性を持つ透明性樹脂として注目をあびているが、高いガラス転移温度と狭い分子量分布を有すテトラシクロドデセン系重合体水素添加物は知られていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の諸欠点の少なくとも一部を解決できるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物、例えば、高いガラス転移温度と狭い分子量分布を有するテトラシクロドデセン系重合体水素添加物を提供し、かつそのような重合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記問題点を解決して高いガラス転移温度と狭い分子量分布を有するテトラシクロドデセン系重合体水素添加物及びそれを製造する方法について鋭意検討し、本発明を完成した。即ち、本発明は、一般式(化6)で表されるガラス転移温度が100℃以上であり、かつGPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物である。
【0008】
【化6】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表し、nは10〜10,000の整数を表す。)本発明は、また一般式(化7)で表される少なくとも1種類のテトラシクロドデセン系単量体をリビング開環メタセシス触媒で重合した後に、水素添加触媒のもとに水素添加することを特徴とする一般式(化8)で表されるガラス転移温度が100℃以上であり、かつGPCで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜1.8であり重合度が10〜10,000であるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法である。
【0009】
【化7】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表す。)
【0010】
【化8】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表し、nは10〜10,000の整数を表す。)本発明における(化9)式で表されるテトラシクロドデセン系単量体の具体例としては、xが1であるテトラシクロドデセン及びその誘導体、xが2であるヘキサシクロヘプタデセン及びその誘導体、xが3であるオクタシクロドコセン及びその誘導体が挙げられる。これらの誘導体としては、R1〜R4が炭素数1〜12のアルキル置換、アリール置換、アラルキル置換等の誘導体、R1〜R4が塩素、臭素、沃素等であるハロゲン置換、クロロメチル、ブロモメチル等のハロゲンを含むアルキル置換、ニトリル置換、カルボキシル置換、メチルカルボキシル置換等の誘導体が挙げられ、【0011】
【化9】

(式中R1〜R4はそれぞれ同一であっても異なってもよく水素、炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン原子で置換された炭化水素基、ニトリル基、カルボキシル基、メチルカルボキシル基を表す。また、xは1〜3の整数を表す。)より具体的には、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-シアノテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-クロロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-ブロモテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチル-8-カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン等のテトラシクロドデセン類やヘキサシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン、11-メチルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン、11-シアノヘキサシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン等のポリシクロアルカン類をあげることができる。特に、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-シアノテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから得られる重合体はガラス転移温度が高く好ましい。これらテトラシクロドデセン系単量体は必ずしも単独で用いられる必要はなく、二種以上を用いて共重合することもできる。
【0012】さらに、これらテトラシクロドデセン系重合体は、上記の特定単量体を単独で開環重合させたものであっても良いが、当該特定単量体と共重合性を有する単量体を開環重合させたものであってもよい。この共重合性を有する単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロオレフィンを挙げることができる。さらにビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、2-メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン等のノルボルネン誘導体、ジシクロペンタジエン類を共重合させ開環重合させても良い。
【0013】また、本発明に使用されるリビング開環メタセシス触媒としては、リビング開環メタセシス重合する触媒であればどのようなものでもよいが、具体例としては、W(N-2,6-C6H3Pri2)(CHBut)(OBut)、W(N-2,6-C6H3Pri2)(CHBut)(OCMe2CF3)2、W(N-2,6-C6H3Pri2)(CHBut)(OCMe(CF3)2)2、W(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OBut)2、W(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OCMe2CF3)2、W(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OCMe(CF3)2)2、(式中のPriはi-プロピル基、Butはt-ブチル基、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。)等のタングステン系アルキリデン触媒、Mo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHBut)(OBut)2、Mo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHBut)(OCMe2CF3)2、Mo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHBut)(OCMe(CF3)2)2、Mo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OBut)2、Mo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OCMe2CF3)2、Mo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OCMe(CF3)2)2、(式中のPriはi-プロピル基、Butはt-ブチル基、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。)等のモリブデン系アルキリデン触媒、Re(CBut)(CHBut)(2,6-ジイソプロピルフェノキシド)、Re(CBut)(CHBut)(オルト-t-ブチルフェノキシド)、Re(CBut)(CHBut)(トリフルオロ-t-ブトキシド)、Re(CBut)(CHBut)(ヘキサフルオロ-t-ブトキシド)、Re(CBut)(CHBut)(2,6-ジメチルフェノキシド)、(式中のButはt-ブチル基を表す。)等のレニウム系アルキリデン触媒、Ta[C(Me)C(Me)CHCMe3](2,6-ジイソプロピルフェノキシド)3(ピリジン)、Ta[C(Ph)C(Ph)CHCMe3](2,6-ジイソプロピルフェノキシド)3(ピリジン)、Ta[C(Me)C(Me)C(CMeCH2CCMe3)CH2](2,6-ジイソプロピルフェノキシド)3、(式中のMeはメチル基、Phはフェニル基を表す。)等のタンタル系アルキリデン触媒、Ru(CHCHCPh2)(PPh3)Cl2、(式中のPhはフェニル基を表す。)等のルテニウム系アルキリデン触媒やチタナシクロブタン類が挙げられる。上記リビング開環メタセシス触媒は、単独にまたは2種以上混合してもよい。
【0014】テトラシクロドデセン系単量体とリビング開環メタセシス触媒のモル比は、開環メタセシス重合がリビング重合であるため、単量体と触媒のモル比を制御することにより、所望の分子量の重合体を得ることができる。すなわち、単量体のモル数100に対し、触媒1モルを反応させ得られた重合体は、ほぼ100量体の分子量を持つことになり、これら分子量は単量体の性質により多少の差異はあるものの重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnは1.0〜1.8の狭い範囲に制御される。よって、単量体と触媒のモル比は、通常10:1〜10000:1となる範囲、好ましくは100:1〜1000:1となる範囲である。。
【0015】リビング開環メタセシス重合において用いられる溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂環式炭化水素、メチレンジクロリド、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、テトラクロロエタン、クロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素等が挙げられ、これらは2種以上混合して使用しても良い。
【0016】本発明における水素添加触媒としては、不均一系触媒、及び均一系触媒いずれでもよく、不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、レテニウムなどの貴金属をカーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。また、均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n-ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライドなどを挙げることができ、特にトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライドは活性が高く、完全に水素添加反応が進行し好ましい。
【0017】本発明で得られたテトラシクロドデセン系重合体水素添加物のガラス転移温度は、100℃以上であり、130℃以上が好ましい。ガラス転移温度が100℃未満では、耐熱性ポリマーとしては不充分である。
【0018】更に、本発明で得られるテトラシクロドデセン系重合体水素添加物のGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)は、1.0〜1.8であり、1.0〜1.5の範囲がさらに好ましい。Mw/Mnが1.8を超えるようなものは、ポリマーとして不均一となり好ましくない。
【0019】本発明のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造は、上記テトラシクロドデセン系重合体を上記水素添加触媒を用い、溶媒の存在下に行われる。
【0020】水素添加反応は、通常常圧〜300気圧、好ましくは20〜200気圧の水素ガスを用いて行われ、その反応温度は、通常0〜200℃の温度であり、10〜100℃の温度範囲が好ましい。
【0021】一般に、重合体と触媒の重量比は100:0.1〜100:100、好ましくは100:1〜100:50であり、水素添加反応もリビング開環メタセシス重合における溶媒と同様な溶媒を使用し行われる。
【0022】水素添加反応における水素添加率の測定は、1H-NMRやIRによっておこなわれるが、この場合水素添加率は80%以上が好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0023】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。また、実施例及び比較例において得られた重合体の物性値は、以下の方法により測定した。
平均分子量:GPCを使用し、得られた重合体をジクロロメタンに溶解し、カラムとしてShodex k-805,804,803,802.5を使用し、室温においてポリスチレンスタンダードによって分子量を較正した。
ガラス転移温度:島津製作所製DSC-50により、窒素中16℃/分の昇温速度で、重合体粉末を用いて測定した。
【0024】実施例1磁気撹拌装置を備えた50mlフラスコに8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン2.0g(11.5mmol)とテトラヒドロフラン28.5mlを入れ、さらにテトラヒドロフラン7mlに溶解したMo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OBut)263mg(0.115mmol)を加え室温で2時間反応させた。その後、ベンズアルデヒド60mg(0.566mmol)を加え30分間撹拌し、リビング反応を消失させた。この重合液を多量のメタノール中に加えて開環重合体を析出させ、濾別分離後さらに、メタノールで重合体を洗浄、乾燥して白色分粉末状の開環重合体を得た。以上のようにして得られた開環重合体の収率は、99.8%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、19300、数平均分子量Mnは18200でありMw/Mnは1.06であった。またDSCで測定したガラス転移温度は205℃あった。さらに、100mlオートクレーブにこの開環重合体0.5g、5%パラジウムカーボン0.05g、シクロヘキサン40mlを加え、水素圧70Kg/cm2、140℃で4時間水素添加反応を行った。得られた水素添加品の1H-NMRから算出した水素添加率は100%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、20100、数平均分子量Mnは18800でありMw/Mnは1.07であった。またDSCで測定したガラス転移温度は140℃であった。
【0025】実施例2
触媒としてMo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OBut)2にかえてMo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OCMe(CF3)2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリビング開環重合を行い、白色粉末状の開環重合体を得た。以上のようにして得られた開環重合体の収率は、99%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、18800、数平均分子量Mnは16200でありMw/Mnは1.16であった。またDSCで測定したガラス転移温度は275℃であった。さらに、100mlオートクレーブにこの開環重合体0.5g、5%パラジウムカーボン0.05g、シクロヘキサン40mlを加え、水素圧70Kg/cm2、140℃で4時間水素添加反応を行った。得られた水素添加品の1H-NMRから算出した水素添加率は99.5%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、23400、数平均分子量Mnは19800でありMw/Mnは1.18であった。またDSCで測定したガラス転移温度は161℃であった。
【0026】実施例3
8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンにかえて8-シアノテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いたこと以外は実施例1と同様にしてリビング開環重合を行い、白色粉末状の開環重合体を得た。以上のようにして得られた開環重合体の収率は、99%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、60900、数平均分子量Mnは51600でありMw/Mnは1.18であった。またDSCで測定したガラス転移温度は162℃であった。さらに、100mlオートクレーブにこの開環重合体0.5g、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライド0.07g、THF40mlを加え、水素圧70Kg/cm2、100℃で8時間水素添加反応を行った。得られた水素添加品の1H-NMRから算出した水素添加率は99%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、62400、数平均分子量Mnは52000でありMw/Mnは1.20であった。またDSCで測定したガラス転移温度は211℃であった。
【0027】実施例4
触媒としてMo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OBut)2にかえてMo(N-2,6-C6H3Pri2)(CHCMe2Ph)(OCMe(CF3)2)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてリビング開環重合を行い、白色粉末状の開環重合体を得た。以上のようにして得られた開環重合体の収率は、98%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、51300、数平均分子量Mnは42400でありMw/Mnは1.21であった。またDSCで測定したガラス転移温度は280℃であった。さらに、100mlオートクレーブにこの開環重合体0.5g、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライド0.07g、THF40mlを加え、水素圧70Kg/cm2、100℃で8時間水素添加反応を行った。得られた水素添加品の1H-NMRから算出した水素添加率は99%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、56400、数平均分子量Mnは43400でありMw/Mnは1.30であった。またDSCで測定したガラス転移温度は217℃であった。
【0028】比較例1
磁気撹拌装置、コンデンサーを備えた100mlのフラスコに8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン6.12g(0.0351mol)と1,2-ジクロロエタン50ml、六塩化タングステンとアセタールから調整した0.25MのW系触媒のトルエン溶液0.1mlと助触媒としてジエチルアルミニウムクロライドの2.4Mトルエン溶液を0.1ml、分子量調節剤として1-ヘキセン0.059g(0.702mmol)を加え、60℃で2時間反応させた。この重合液を多量のメタノール中に加えて開環重合体を析出させ、濾別分離後さらに、メタノールで重合体を洗浄、乾燥して白色分粉末状の開環重合体を得た。以上のようにして得られた開環重合体の収率は、32%と低く、GPCで測定した重量平均分子量Mwは24500、数平均分子量Mnは6980でありMw/Mnは3.51と分子量分布が広かった。さらに、100mlオートクレーブにこの開環重合体0.5g、5%パラジウムカーボン0.05g、シクロヘキサン40mlを加え、水素圧70Kg/cm2、140℃で4時間水素添加反応を行った。得られた水素添加品の1H-NMRから算出した水素添加率は82%であり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは、30200、数平均分子量Mnは7200でありMw/Mnは4.2と広かった。
【0029】
【発明の効果】
本発明のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物は、高いガラス転移温度と狭い分子量分布を有し、分子量が均一であり、耐熱性のポリマーてして期待できる。また、本発明のテトラシクロドデセン系重合体水素添加物の製造方法は、効率的に耐熱性のポリマーを与えることができ工業的に極めて価値がある。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-01-31 
出願番号 特願平5-332001
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 中島 次一
佐々木 秀次
登録日 2001-09-21 
登録番号 特許第3234700号(P3234700)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 テトラシクロドデセン系重合体水素添加物及びその製造方法  
代理人 西川 繁明  

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