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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
管理番号 1094555
異議申立番号 異議2002-71163  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-12-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-07 
確定日 2004-01-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3225596号「ゴルフクラブヘッド」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3225596号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3225596号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成4年5月21日の出願であって、平成13年8月31日にその特許権の設定の登録がなされ、その特許について、大竹恭子より特許異議の申し立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年3月24日に訂正請求がなされ、上記申立人に対して審尋がなされ、申立人により平成15年5月26日に回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者の求めている訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所にアンダーラインを付した。)。
a.訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】フェース部及びこのフェース部からヘッド後方に向けて延出する延出部が一体成形された金属からなるフェース側部材と、このフェース側部材のヘッド後方に配置され前記延出部に接合された金属からなるバック側部材とを有し、前記フェース側部材の後端面と前記バック側部材の前端面とが突き合わせ溶接により接合され、前記延出部は、断面視で前記フェース部側の肉厚が厚くヘッド後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていると共にヘッド後方側端部の厚さが接合部における前記バック側部材の厚さの1乃至1.3倍に設定されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】 前記バック側部材は、その下部側を構成するソール部及び上部側を構成するクラウン部の2つの部材からなり、前記ソール部の肉厚は前記クラウン部の肉厚以上であり、且つ前記フェース部の肉厚以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。」
を、
「【請求項1】フェース部及びこのフェース部の縁部からヘッド後方に向けて延出する延出部が一体成形された金属からなるフェース側部材と、このフェース側部材のヘッド後方に配置され前記延出部に接合された金属からなるバック側部材とを有し、前記フェース側部材の後端面と前記バック側部材の前端面とが突き合わせ溶接により接合され、前記フェース側部材は、前記延出部内においてのみ、断面視で前記フェース部側の肉厚が厚くヘッド後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていると共にヘッド後方側端部の厚さが接合部における前記バック側部材の厚さの1乃至1.3倍に設定されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】 前記バック側部材は、その下部側を構成するソール部及び上部側を構成するクラウン部の2つの部材からなり、前記ソール部の肉厚は前記クラウン部の肉厚以上であり、且つ前記フェース部の肉厚以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。」
と訂正する。
b.訂正事項b
段落【0008】を、
「本発明に係るゴルフクラブヘッドは、フェース部及びこのフェース部の縁部からヘッド後方に向けて延出する延出部が一体成形された金属からなるフェース側部材と、このフェース側部材のヘッド後方に配置され前記延出部に接合された金属からなるバック側部材とを有し、前記フェース側部材の後端面と前記バック側部材の前端面とが突き合わせ溶接により接合され、前記フェース側部材は、前記延出部内においてのみ、断面視で前記フェース部側の肉厚が厚くヘッド後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていると共にヘッド後方側端部の厚さが接合部における前記バック側部材の厚さの1乃至1.3倍に設定されていることを特徴とする。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aに関して、願書に添付した図面には、延出部3がフェース部2の縁部からバック側部材4に向かって延出し、断面視でフェース部側のが厚く後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていると共に、フェース部2においては肉厚の減少を生じていない、延出部3とバック側部材4との接合部を示す断面図が記載されている(【図2】)。
してみると、上記訂正事項aは、特許明細書又は図面に記載されていた範囲内で、特許請求の範囲の請求項1において、「フェース側部材の延出部」の構成を限定したものである。
ゆえに、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
さらに、上記訂正事項a及びbは、いずれも、実質的に特許請求の範囲を拡張変更するものでない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。

3.特許異議申し立てについての判断
(1)申立の理由の概要
申立人大竹恭子は、証拠として、特許異議申立書で、甲第1号証(実願昭57-117682号(実開昭59-22164号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(栗林十四正著「よくわかる溶接溶断作業法」第35版、理工学社、1987.4.25.発行p.7-24〜p.7-25)及び甲第3号証(特開平4-135576号公報)を、平成15年5月26日付の回答書で、甲第4号証(実願昭57-119434号(実開昭59-24064号)のマイクロフィルム)、甲第5号証(特開昭63-154186号公報)、甲第6号証(実願昭62-135614号(実開昭64-42070号)のマイクロフィルム)、甲第7号証(特開昭60-36074号公報)、甲第8号証(実願昭58-14569号(実開昭59-119865号)のマイクロフィルム)及び甲第9号証(実願昭57-20797号(実開昭58-124170号)のマイクロフィルム)を、それぞれ、提出し、本件請求項1及び2に係る発明は、これらに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができない旨の主張をしている。

(2)本件発明
本件請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、上記訂正によって訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものである(上記訂正事項a参照。)。

(3)甲各号証に記載された発明
申立人の提出した上記甲各号証には、本件発明1及び2に関連する事項として、以下のような事項が記載されている。
ア.甲第1号証:実願昭57-117682号(実開昭59-22164号)のマイクロフィルム
甲第1号証には、
「この考案は(中略)中空な金属製クラブヘッドにおいて、ステンレス等の金属材料をプレス等の鍛造によって(中略)形成したフェース面を含むクラブヘッドの前側部と、(中略)ヘッド背面を含むクラブヘッドの後側部の2部分を縁部を固着して一体に設け、(中略)て成るものである。」(3頁1行〜12行)、
「次に添付図面に基づいてこの考案の一実施例を説明する。1はフェース面laを含むプレス等の鍛造によって形成されるクラブヘッドaの前側部であ(中略)る。2は背面2aを含む同様にプレス等の鍛造によって形成されるクラブヘッドaの後側部である。(中略)前記前側部1の縁部lcと後側部2の縁部2cを溶着にて一体に形成されている。」(3頁13行〜4頁12行)、
及び前側部1のフェース面1aの下端の縁部からほぼ直角に後方に延出されると共にゴルフクラブヘッドの底部bの一部となる部分の縁部が、後側部2の縁部2cに固着される、前側部1のフェース面1aの縁部から延出される部分の縁部1cの一部となっている、前側部1と後側部2の分解状態を示す斜面図(第1図)
が記載されている。
これらの記載を含む甲第1号証には、本件発明1の構成に照応対置させて認定すると、
「フェース面la及びこのフェース面laからヘッド後方に向けて延出する延出部分が一体成形された金属からなる前側部1と、この前側部1のヘッド後方に配置され前記延出部分に接合される金属からなる後側部2とを有し、
前記前側部1のヘッド後方の側の縁部lcと前記後側部2の縁部2cとが突き合わせ溶接により接合されているゴルフクラブヘッド。」
が記載されている。
イ.甲第2号証:栗林十四正著「よくわかる溶接溶断作業法」第35版、理工学社、1987.4.25.発行p.7-24〜p.7-25
甲第2号証には、一方の部材の肉厚のおよそ2倍の肉厚を有する他方の部材が楔状に形成され、この楔状接合部の端面の肉厚が一方の部材の肉厚と等しく(1対1に)設定されて溶接することが記載されている。
ウ.甲第3号証:特開平4-135576号公報
甲第3号証には、ゴルフクラブヘッドに係るものとして、
「第4図は、この発明の一実施例を示すもので、14がクラウン部、18がフェース部、24がソール部である。(中略)このゴルフクラブヘッドを製造するには、3mm厚のTi-6Al-4V合金板から、ソール部、フェース部等を切り出し、クラウン部はこの板金に熱間プレス加工を施し、これら部材を溶接して接合した。(中略)本実施例におけるゴルフクラブヘッドのクラウン部の肉厚を変化させ、試打テストを行い、ヘッド性能の比較を第1表に示した。」(3頁右上欄10行〜左下欄6行)と記載されている。
そして、第1表には、クラウン部の肉厚を2.0mmから1.0mmまで0.2mmずつ変化させた6つのゴルフクラブヘッドについての試打結果等が記載されている。
これらの記載を含む甲第3号証には、
「クラウン部14と、フェース部18と、ソール部24という3つの部材からなり、これらの部材が溶接によって接合され、フェース部18及びソール部24の肉厚が3mmであり、クラウン部14の肉厚が1.0mm乃至2.0mmである、ゴルフクラブヘッド」が記載されている。
エ.甲第4号証:実願昭57-119434(実開昭59-24064号)のマイクロフイルム
甲第4号証には、シャフト取付構造に係るものとして、
「第3図はクラブヘッドを前後2分割した場合の第2実施例を示しており、7はフェース面部7aを有するクラブヘッド前側部であり、8はクラブヘッド後側部である。ヘッド前側部とヘッド後側部8はプレス等の鍛造により形成され、縁部を溶着して一体化に形成されている。」(第4頁6行〜12行)と記載されており、この記載を含む明細書及び第1図〜第3図によれば、第3図の符号7に属する範囲が、フェース面部7aから延出している部分であると認められる。
オ.甲第5号証:特開昭63-154186号公報
甲第5号証には、ゴルフクラブ用ヘッドに係るものとして、
「第7図ないし第9図は本発明の第3実施例を示しており、21はフェース面21aを有するプレス等鍛造によって形成される前側殻部であり、この一側に断面が半円状の前側ネック半割部21bを形成する。22は背面22aを有する鍛造によって形成される後側殻部であり、この一側に後側ネック半割部22bを形成する。これら前、後側殻部21、22(中略)の縁部を相互に結合してヘッド本体23を形成する。」(第3頁左下欄9行〜19行)と記載されており、この記載を含む明細書及び第1図〜第10図によれば、第7図の符号21に属する範囲が、フェース面21aから延出している部分であると認められる。
カ.甲第6号証:実願昭62-135614(実開昭64-42070号)のマイクロフイルム
甲第6号証には、ゴルフクラブ用中空ヘッドに係るものとして、
「第6図〜第7図に示されるように、分割されたヘッド構成部品を溶接により固着されたものである。」(第6頁5行〜7行)、「第7図は別のプレス成形により製作されたヘッド構成部品の斜視図を示す。」(第8頁18行〜19行)と記載されており、この記載を含む明細書及び第1図〜第7図によれば、第7図においてフェース面から延出している部分がプレス成形で形成されていることを認めることができる。
キ.甲第7号証:実願昭58-14569(実開昭60-36074号)のマイクロフイルム、甲第8号証:実願昭58-14569(実開昭59-119865号)のマイクロフイルム及び甲第9号証:実願昭57-20797(実開昭58-124170号)のマイクロフイルム
甲第7〜9号証のそれぞれには、ゴルフクラブヘッドにおいて、肉厚の異なる部位同士を溶接接合する場合に、肉厚の厚い一方の部材の溶接部分の肉厚が断面視で接合部に向けて薄くなるように楔状に形成されていると共にその接合端部の厚さがこれと接合すべき他方の部材の溶接部分の厚さにほぼ等しくすることが記載されている。

(4)対比判断
本件発明1と上記甲各号証に記載された発明とを対比すると、
上記甲各号証のいずれにも、本件発明1の構成要件である、
「前記フェース側部材は、前記延出部内においてのみ、断面視で前記フェース部側の肉厚が厚くヘッド後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていると共にヘッド後方側端部の厚さが接合部における前記バック側部材の厚さの1乃至1.3倍に設定されている」
点について、記載も示唆もされていない。
因みに、
甲第1、4〜6号証には、
「フェース部及びこのフェース部の縁部からヘッド後方に向けて延出する延出部が一体成形された金属からなるフェース側部材と、このフェース側部材のヘッド後方に配置され前記延出部に接合された金属からなるバック側部材とを有し、前記フェース側部材の後端面と前記バック側部材の前端面とが突き合わせ溶接により接合されているゴルフクラブヘッド。」
が記載されているものの、フェース部の縁部からヘッド後方に向けて延出する延出部の肉厚及び形状と、バック側部材の肉厚との相互関係について、記載も示唆もない。
また、甲第3号証には、クラウン部14と、フェース部18と、ソール部24という3つの部材からなり、これらの部材が溶接によって接合され、フェース部18及びソール部24の肉厚が3mmであり、クラウン部14の肉厚が1.0mm乃至2.0mmである、ゴルフクラブヘッドが記載されているにとどまり、フェース側部材の後端面とバック側部材の前端面とが突き合わせ溶接により接合されているゴルフクラブヘッドについては何らの記載も示唆もないから、当該甲第3号証の記載は、上記甲1、4〜6号証に記載のゴルフクラブヘッドにおいて、フェース側部材の延出部の肉厚及び形状として、上記「」内の構成を採用することを示唆するものでない。
さらに、甲第2号証には、一方の部材の肉厚のおよそ2倍の肉厚を有する他方の部材が楔状に形成され、この楔状接合部の端面の肉厚が一方の部材の肉厚と等しく(1対1に)設定されて溶接することが記載され、また、甲第7〜9号証には、ゴルフクラブヘッドにおいて、肉厚の異なる部位同士を溶接接合する場合に、肉厚の厚い一方の部材の溶接部分の肉厚が断面視で接合部に向けて薄くなるように楔状に形成されていると共にその接合端部の厚さがこれと接合すべき他方の部材の溶接部分の厚さにほぼ等しくすることが記載されているが、甲第2号証には、勿論のこと、甲第7〜9号証にも、上記甲1、4〜6号証に記載のゴルフクラブヘッドにおいて、フェース側部材の延出部の肉厚及び形状として、上記「」内の構成を採用することを示唆する記載がない。
そして、本件発明1は、上記「」内の点を構成要件とすることにより、「打球時にボールからフェース部に印加される応力に起因して、フェース部とこのフェース部からヘッド後方に向けて延出する延出部との境界部に圧縮応力に加えで曲げ応力も作用するが、この境界部は一体成形であるので、曲げ応力が作用してもこの部分で破損が生じることはない。一方、前記延出部と前記バック側部材との接合部には圧縮応力は印加されるものの、曲げ応力は作用しない。従って、この接合部で破損することも回避され」(明細書段落【0009】参照)、「ボールを殴打した際に、フェース部2が湾曲してフェース部2と延出部3との境界部には圧縮応力と共に曲げ応力が作用するが、この境界部は一体成形であるので、強度が高く、破損することがない。一方、延出部3とバック側部材4との溶接部には圧縮応力のみが作用し、曲げ応力が作用しないため、この溶接部で破損することを回避でき」(明細書段落【0020】参照)、ひいては、「打球時におけるヘッドの破損を回避することができる。」(明細書段落【0044】参照)という、当業者が甲第1〜9号証の記載から予測できない作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、上記甲第1〜9号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、本件発明2は、本件発明1の構成要件を全て備え、その一部を技術的に限定するものであるから、本件発明1の上記判断と同様な理由で、上記甲第1〜9号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申し立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る発明についての係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1及び2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゴルフクラブヘッド
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 フェース部及びこのフェース部の縁部からヘッド後方に向けて延出する延出部が一体成形された金属からなるフェース側部材と、このフェース側部材のヘッド後方に配置され前記延出部に接合された金属からなるバック側部材とを有し、前記フェース側部材の後端面と前記バック側部材の前端面とが突き合わせ溶接により接合され、前記フェース側部材は、前記延出部内においてのみ、断面視で前記フェース部側の肉厚が厚くヘッド後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていると共にヘッド後方側端部の厚さが接合部における前記バック側部材の厚さの1乃至1.3倍に設定されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】 前記バック側部材は、その下部側を構成するソール部及び上部側を構成するクラウン部の2つの部材からなり、前記ソール部の肉厚は前記クラウン部の肉厚以上であり、且つ前記フェース部の肉厚以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はメタルウッド等の金属製ゴルフクラブヘッドに関し、フェース部及びこのフェース部からヘッド後方に向けて延出する延出部を一体的に形成することにより、打球時における溶接部の破損を回避するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、所謂メタルウッドゴルフクラブのヘッドは、ステンレス合金、アルミニウム合金、チタン合金又はベリリウム-銅合金を素材として、精密鋳造法により製造されていた。しかし、この精密鋳造法により製造されたヘッドは、鋳造品であるために、成分の偏析及び鋳造欠陥が存在すると共に、結晶粒が粗大である。このため、精密鋳造法により製造されたゴルフクラブヘッドには、耐力及び引張り強さ等の機械的特性が低いという難点がある。このように機械的特性が低いために、従来はヘッドの薄肉化が困難であり、重量の増大を回避しつつ、ヘッド形状を大型化するということができなかった。従って、精密鋳造法により製造された従来のメタルウッドは、ヘッド体積が小さいので、スイートエリアが小さく、打球の方向安定性が低いという欠点があった。
【0003】
そこで、近時、鋳造法以外の方法(例えば、鍛造又はプレス等)によりヘッド部品を製造し、これらの部品を溶接接合により組み立てた中空のヘッドが提案されている。
【0004】
図9はこの種の従来のゴルフクラブヘッドを示す斜視図である(実公昭61-33972号)。このゴルフクラブヘッドは、フェース部21、バック部22及びクラウン部23を個別的に形成し、これらを溶接接合して製造されている。そして、クラブヘッドにシャフト24の先端を接合することにより、ゴルフクラブが完成する。このゴルフクラブヘッドは、中空であるため、重量を増加することなく大型のヘッドを得ることができるという利点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来のゴルフクラブヘッドには以下に示す問題点がある。図10(a)は上述のゴルフクラブヘッドを示す模式的断面図、図10(b)は同じくその打球時の状態を示す模式的断面図である。
【0006】
ボール27のインパクト時には、フェース部21が断面視で弓状に湾曲する。このとき、フェース部21とバック側部材28(即ち、ソール部22及びクラウン部23)との溶接部26には圧縮応力が作用すると共に、フェース部21の弓状変形により曲げ応力も作用する。溶接部26においては、バック側部材28の端面がフェース部21の裏面に接合されているが、この曲げ応力の作用により溶接部が破損しやすいという欠点がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、重量の増大を回避しつつ大型化が可能であり、耐久性が優れているゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、フェース部及びこのフェース部の縁部からヘッド後方に向けて延出する延出部が一体成形された金属からなるフェース側部材と、このフェース側部材のヘッド後方に配置され前記延出部に接合された金属からなるバック側部材とを有し、前記フェース側部材の後端面と前記バック側部材の前端面とが突き合わせ溶接により接合され、前記フェース側部剤は、前記延出部内においてのみ、断面視で前記フェース部側の肉厚が厚くヘッド後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていると共にヘッド後方側端部の厚さが接合部における前記バック側部材の厚さの1乃至1.3倍に設定されていることを特徴とする。
【0009】
【作用】
本発明においては、フェース部と、このフェース部からヘッド後方に延出する延出部とによりフェース側部材が構成されており、このフェース側部材のヘッド後方にバック側部材が配置され前記延出部に接合されている。従って、本発明においては、打球時にボールからフェース部に印加される応力に起因して、フェース部とこのフェース部からヘッド後方に向けて延出する延出部との境界部に圧縮応力に加えて曲げ応力も作用するが、この境界部は一体成形であるので、曲げ応力が作用してもこの部分で破損が生じることはない。一方、前記延出部と前記バック側部材との接合部には圧縮応力は印加されるものの、曲げ応力は作用しない。従って、この接合部で破損することも回避される。
【0010】
ところで、ゴルフクラブヘッドにおいて、フェース面の肉厚は、強度を確保するために、2.5mm以上であることが必要である。一方、他の部分の肉厚は、ヘッドの大型化のために、約0.5乃至1.5mmとすることが好ましい。従って、図11(a)に示すように、単にフェース部31の縁部からフェース部31の肉厚に等しい厚さで延出部32を設けると、延出部32とバック側部材33と間の肉厚の差が大きく、溶接時に両者の熱容量の差によって、肉厚が薄いバック部側部材33の溶接部分で溶落ちが発生し、溶接部の強度が低くなったり、溶接できないことがある。
【0011】
また、図11(b)に示すようにバック側部材33の溶接側端部に屈曲部33aを設けたり、図11(c)に示すように延出部32aにバック側部材33の端部が嵌合する段差を設けることも考えられるが、この場合は、いずれも製造工程数が増加すると共に、製造が困難であるという難点がある。
【0012】
更に、図11(d)に示すように、延出部32bの肉厚をバック側部材33の肉厚と等しくすることも考えられるが、そうすると、延出部32bの強度が十分でないと共に、プレス成形が困難になるという欠点がある。
【0013】
従って、延出部は、断面視で、フェース部側の肉厚が厚くヘッド後方側の肉厚が薄い楔状に形成されていることが必要である。この場合に、前記延出部のヘッド後方側端部の厚さが、前記延出部との接合部における前記バック側部材の厚さの1.3倍を超えると、溶接部の両側で肉厚の差が大きく、熱容量の差によって、肉厚が薄いバック側部材の溶接部分で溶落ちが発生し、溶接部の強度が低くなったり、溶接できないことがある。例えば、溶接部における延出部の厚さがバック側部材の1.3倍であれば、溶接の際にトーチを若干延出部側にずらすことにより、良好な状態で溶接することができる。従って、前記延出部のヘッド後方側端部の厚さは、前記バック側部材のフェース部側端部の1乃至1.3倍であることが必要である。
【0014】
なお、本発明に係るゴルフクラブヘッドにおいても、使用者の好みによってバック側部材の下部側(即ち、ソール部)にバランスウエイトを取り付けて重心位置の調整を行なう場合があるが、重心深度を深くするためには、バランスウエイトをヘッドの後方部分に取り付ける必要がある。しかし、空間的な余裕が少ないため、バランスウエイトの大きさに制限を受ける。このため、使用者によっては、重心位置の調整を完全に行なうことができない場合がある。
【0015】
このような不都合を回避するために、バック側部材をクラウン部及びソール部の2つの部材により構成し、前記ソール部の肉厚を前記クラウン部の肉厚以上、且つ、前記フェース部の肉厚以下とすることが好ましい。これにより、ヘッドの重心位置が低くなり、バランスウエイトによる重心位置の調整が確実に行なえる。
【0016】
【実施例】
次に、本発明の実施例について添付の図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施例に係るゴルフクラブヘッドを示す組立図である。
【0018】
本実施例に係るゴルフクラブヘッドは、フェース部2及びこのフェース部2からヘッド後方に延出する延出部3が一体になったフェース側部材1と、このフェース側部材1の後方に配置されるバック側部材4と、シャフトを固定するための円筒状のホーゼル部5とにより構成されている。
【0019】
延出部3は、図2にその断面図を示すように、フェース部側の厚さが厚く、ヘッド後方側の厚さが薄い楔状に形成されている。そして、この延出部3のヘッド後方側端部の厚さは、バック側部材4の端部の厚さの1乃至1.3倍に設定されている。
【0020】
本実施例においては、延出部3が断面視で楔状に形成されているため、この延出部3の強度が高い。また、延出部3とバック側部材4との溶接部において、両者の厚さの差が殆どないため、溶落ち等の溶接不良の発生を回避できて、良好な状態で溶接することができる。更に、ボールを殴打した際に、フェース部2が湾曲してフェース部2と延出部3との境界部には圧縮応力と共に曲げ応力が作用するが、この境界部は一体成形であるので、強度が高く、破損することがない。一方、延出部3とバック側部材4との溶接部には圧縮応力のみが作用し、曲げ応力が作用しないため、この溶接部で破損することを回避できる。更にまた、フェース面の周囲(角部)には溶接部がないため、研磨による角部の形状だしが容易である。
【0021】
次に、本実施例に係るゴルフクラブヘッドの製造方法について説明する。なお、素材としては、例えば圧延等により製造したTi合金及びFe系金属の板を使用する。
【0022】
図3(a)乃至(c)は本実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース側部材の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【0023】
先ず、図3(a)に示すように、例えば板厚が3.2mmの板材をブランキング(打抜き加工)して、所定の形状の板材1aを得る。
【0024】
次に、図3(b)に示すように、この板材1aを荒成形して、フェース部及び延出部3aを設け、中間材1bを得る。この中間材1bにおいては、図4(a)にその断面図を示すように、延出部3aの厚さは略均一になっている。
【0025】
次いで、図3(c)及び図4(b)に示すように、中間材1bを鍛造加工して、延出部3を楔状に仕上げる。この場合に、延出部3の先端部の厚さは例えば0.8mmとする。これにより、フェース側部材1が完成する。
【0026】
図5(a)乃至(c)は、本実施例に係るゴルフクラブヘッドのバック側部材4の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【0027】
先ず、図5(a)に示すように、厚さが0.8mmの板材をブランキングして、所定の形状の板材4aを得る。
【0028】
次に、図5(b)に示すように、この板材4aを荒成形し、中間材4bとする。次いで、この中間材4bに深絞り加工を施し、図5(c)に示す形状のバック側部材4を形成する。
【0029】
このようにして形成したフェース側部材1及びバック側部材4を、図1に示すように組み合わせて溶接接合しヘッド本体を形成した後、このヘッド本体に円筒状のホーゼル部5を接合する。これにより、本実施例に係るゴルフクラブヘッドが完成する。
【0030】
なお、上述の実施例においては、バック側部材が一体的に形成されている場合について説明したが、例えば図6に示すように、バック側部材がソール部6及びクラウン部7の2つの部材を接合して形成されたものであってもよい。この場合に、フェース部の肉厚を2.5乃至3.5mmとし、ソール部6の肉厚を0.6乃至2.5mmとし、クラウン部7の肉厚を0.4乃至2.0mmとすることが好ましい。これにより、重心位置の調整が容易になる。但し、この場合も、各接合部においては、2つの部材の厚さの比が1乃至1.3となるようにする。
【0031】
図7は、本発明の第2の実施例に係るゴルフクラブヘッドを示す組立図である。
【0032】
本実施例に係るゴルフクラブヘッドは、フェース部13、このフェース部13からヘッド後方に延出する延出部14及びシャフトを固定するためのホーゼル部15が一体となったフェース側部材11と、このフェース側部材11の後方に配置されるバック側部材12との2つの部材を相互に接合して形成されている。なお、ホーゼル部15は、フェース部13及び延出部14に連絡する板状の部材を筒状に成形加工し突き合わせ部を溶接して形成されている。延出部14は、断面視で楔状に形成されており、ヘッド後方側端部における厚さは、バック側部材12の端部における厚さの1乃至1.3倍に設定されている。
【0033】
本実施例においては、第1の実施例と同様の効果を得ることができるのに加えて、ホーゼル部15とフェース部13とが一体になっているので、第1の実施例に比してホーゼル部とヘッド本体との意匠的つながりが良好であると共に、ホーゼル部の破損を抑制することができるという効果を得ることができる。
【0034】
なお、本実施例においても、図6に示すように、バック側部材をソール部とクラウン部とにより構成し、ソール部の肉厚をクラウン部の肉厚以上、且つフェース部の肉厚以下とすることにより、重心位置が低くなり、重心位置の調整が確実に行なえる。
【0035】
次に、本実施例に係るゴルフクラブヘッドの製造方法について説明する。
【0036】
図8(a)乃至(c)はフェース側部材の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【0037】
先ず、図8(a)に示すように、例えばTi合金又はFe系金属からなる厚さが3.2mmの板材をブランキング(打抜き加工)して、所定の形状の板材11aを得る。
【0038】
次に、図8(b)に示すように、この板材11aを荒成形した後、冷間鍛造してフェース部13、延出部14及び断面がU字型のホーゼル部15aを形成する。この冷間鍛造工程において、図4に示すように、例えばフェース部13の厚さを3.2mmとし、延出部14の先端部での厚さを0.8mmとする。
【0039】
次に、図8(c)に矢印で示すように、ホーゼル部15aを円筒状に成形加工する。このとき、これにより、フェース側部材11が完成する。
【0040】
一方、バック側部材12は、厚さが1.0mmの板材を使用し、第1の実施例の場合と同様にして形成する。
【0041】
次に、このようにして形成したフェース側部材11及びバック側部材12をマグ(MAG;Metal Active Gas)溶接により溶接と共に、ホーゼル部15の突き合わせ部も溶接する。その後、ホーゼル部15の内側を所定の穴径に拡大する。
【0042】
次に、熱処理(焼き入れ)を施して、ゴルフクラブヘッドとして必要な強度を得る。
【0043】
次いで、ベルトサンダー又は鉄バフ等で研磨し、所定のヘッド形状に仕上げる。その後、めっきや塗装等の表面処理を施す。これにより、本実施例に係るゴルフクラブヘッドが完成する。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、フェース部及びこのフェース部からヘッド後方に延出する延出部が設けられたフェース側部材と、このフェース側部材の後方に配設されたバック側部材とにより構成されており、前記延出部の端部の厚さが前記バック側部材の端部の厚さの1乃至1.3倍に設定されているから、打球時におけるヘッドの破損を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施例に係るゴルフクラブヘッドを示す組立図である。
【図2】 延出部とバック側部材との接合部を示す断面図である。
【図3】 (a)乃至(c)は実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース側部材の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【図4】 (a)は図3(b)における中間材の断面図、(b)は図3(c)におけるフェース側部材の断面図である。
【図5】 (a)乃至(c)はバック側部材の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【図6】 バック側部材の一例を示す斜視図である。
【図7】 本発明の第2の実施例に係るゴルフクラブヘッドを示す組立図である。
【図8】 (a)乃至(c)は同じくそのフェース側部材の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【図9】 従来のゴルフクラブヘッドを示す斜視図である。
【図10】 (a)はゴルフクラブヘッドを示す模式的断面図、(b)は同じくその打球時の状態を示す模式的断面図である。
【図11】 (a)乃至(d)はいずれも、断面視で楔状でない延出部を設けた場合の問題点を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
1,11…フェース側部材、2,13,21…フェース部、3,14…延出部、4,12,28…バック側部材、5,15…ホーゼル部、6…ソール部、7,23…クラウン部、22…ソール部、24…シャフト、26…溶接部、27…ボール
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-12-22 
出願番号 特願平4-154344
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A63B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 英司  
特許庁審判長 佐田 洋一郎
特許庁審判官 中村 圭伸
番場 得造
登録日 2001-08-31 
登録番号 特許第3225596号(P3225596)
権利者 ヤマハ株式会社
発明の名称 ゴルフクラブヘッド  
代理人 藤巻 正憲  
代理人 藤巻 正憲  

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