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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1094583 |
異議申立番号 | 異議2003-70898 |
総通号数 | 53 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-10-09 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-04-07 |
確定日 | 2004-01-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3332205号「圧電磁器組成物および積層型の圧電トランス」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3332205号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3332205号の請求項1ないし3に係る発明の手続きの経緯は、以下のとおりである。 出願 平成9年3月28日 設定登録 平成14年7月26日 特許異議の申立て 平成15年4月7日 (雨山範子) 取消理由通知 平成15年12月8日(起案日) 意見書、訂正請求書 平成15年12月12日 2.訂正の適否 (1)訂正の内容 特許権者が求めている、平成15年12月12日付け訂正請求書に添付された訂正明細書における訂正の内容は以下のとおりである。 訂正事項a.特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。 「【請求項1】 (Pb1-aMa)(ZrxTi1-x)O3(ただしMは、Sr、Ba、Caの少なくとも1種、かつ0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することを特徴とする圧電トランス用の圧電磁器組成物。」 訂正事項b.特許請求の範囲の請求項2を次のとおり訂正する。 「【請求項2】 (Pb1-aSra)(ZrxTi1-x)O3(ただし0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することを特徴とする圧電トランス用の圧電磁器組成物。」 訂正事項c.特許請求の範囲の請求項3を次のとおり訂正する。 「【請求項3】 積層型の圧電トランスの駆動部の内部電極をAg・Pd合金で形成するとともに、請求項1、2の何れかに記載の圧電トランス用の圧電磁器組成物を適用したことを特徴とする積層型の圧電トランス。」 訂正事項d.明細書中の【0014】段落を次のとおり訂正する。 「 【0014】 【課題を解決するための手段】 上述の課題を解決するため鋭意研究の結果、発明者らは著しく構成を改善した圧電磁器組成物およびこれを適用した積層型の圧電トランスに想到したものである。 すなわち第1の発明は、(Pb1-aMa)(ZrxTi1-x)O3(ただしMは、Sr、Ba、Caの少なくとも1種、かつ0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有する圧電トランス用の圧電磁器組成物である。」 訂正事項e.明細書中の【0015】段落を次のとおり訂正する。 「 【0015】 また第2の発明は第1の発明におけるMのところを、Srとして構成した圧電トランス用の圧電磁器組成物である。」 訂正事項f.明細書中の【0016】段落を次のとおり訂正する。 「 【0016】 また第3の発明は、積層型の圧電トランスの駆動部の内部電極をAg・Pd合金で形成するとともに、請求項1、2の何れかに記載の圧電トランス用の圧電磁器組成物を適用して構成した積層型の圧電トランスである。」 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 ア.訂正事項aについて 上記訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明において、「Agを50〜1000ppm含有する」を「Sbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有する」と限定し、また、「圧電磁器組成物。」を「圧電トランス用の圧電磁器組成物。」と限定するもので、当該圧電磁器組成物がSbを含有していないことは、特許明細書【0022】段落〜【0042】段落の記載、及び表1の記載から明らかである。 したがって、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。 イ.訂正事項bについて 上記訂正事項bは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明において、「Agを50〜1000ppm含有する」を「Sbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有する」と限定し、また、「圧電磁器組成物。」を「圧電トランス用の圧電磁器組成物。」と限定するもので、当該圧電磁器組成物がSbを含有していないことは、特許明細書【0022】段落〜【0042】段落の記載、及び表1の記載から明らかである。 したがって、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。 ウ.訂正事項cについて 上記訂正事項cは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された発明において、「圧電磁器組成物」を「圧電トランス用の圧電磁器組成物」と限定するものである。 したがって、上記訂正事項cは、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。 エ.訂正事項d〜fについて 上記訂正事項d〜fは、訂正された特許請求の範囲請求項1ないし3の記載との整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)本件発明 上記のとおり、訂正は認められるから、本件請求項1ないし3に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (Pb1-aMa)(ZrxTi1-x)O3(ただしMは、Sr、Ba、Caの少なくとも1種、かつ0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することを特徴とする圧電トランス用の圧電磁器組成物。 【請求項2】 (Pb1-aSra)(ZrxTi1-x)O3(ただし0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することを特徴とする圧電トランス用の圧電磁器組成物。」 【請求項3】 積層型の圧電トランスの駆動部の内部電極をAg・Pd合金で形成するとともに、請求項1、2の何れかに記載の圧電トランス用の圧電磁器組成物を適用したことを特徴とする積層型の圧電トランス。」 (2)取消理由通知で引用された刊行物に記載の発明 当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(特開平6-100363号公報:異議申立人の提出した甲第1号証)には、「圧電磁器組成物」(発明の名称)に関して、 「【0002】 【従来の技術】圧電体磁器は、鉛、ジルコニウム、チタンの酸化物で構成されたチタン酸ジルコン酸鉛を主成分としているが、これに様々な微量酸化物を添加すると圧電特性が著しく向上することは広く知られている。例えば、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ランタン、酸化タングステン、酸化アンチモン等を添加すると圧電性が向上し、機械的品質係数QM並びに電気的品質係数QE(1/tanδ)の値は小さくなる。一方、酸化鉄、酸化クロム、酸化マンガン等を添加するとQM並びにQEの値は大きくなる。近年、この圧電磁器が積層圧電素子等のアクチュエータに用いられるようになってきた。」こと、 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】上記アクチュエータ用圧電磁器組成物の例として例えばPb(Ni1/3Nb2/3)O3-PbZrO3-PbTiO3系、あるいはPb(Ni1/2W1/2)O3-PbZrO3-PbTiO3系等が知られている。しかしながら、前記圧電磁器組成物はキュリー温度が比較的低く、このため、200℃以上の高温下で駆動されるアクチュエータ、例えば、燃料噴射弁用アクチュエータ、高温用マスフローコントローラ弁駆動用アクチュエータ等に使用することが困難であった。また、前記圧電磁器組成物は電気抵抗率が比較的小さく、このため例えば、積層型圧電素子のように一層の厚みが100μm前後の素子に前記圧電磁器組成物が使用された場合、印加できる電圧が小さく充分な性能が引き出せない、あるいは使用中に絶縁破壊してしまう等、信頼性が低いという問題があった。本発明は上記従来技術に存在する問題点を解決し、圧電特性が大であると共に、キュリー温度が高く、かつ電気抵抗率が大で高温用アクチュエータ用材料、特に高温用積層型圧電素子用材料に適した圧電磁器組成物を提供することを目的とする。」こと、 「【0010】 (実施例2) 実施例1の方法と同様の方法により、試料を作成し評価した。(Pb0.95Sr0.05)(Zr0.55Ti0.45)O3+0.3wt%Sb2O3にFe、Crを添加することにより、表4から表5の特性が得られる。Fe、Crの添加によりMnの添加と同様の効果が得られることがわかる。」こと、 【表4】において、Fe2O3の添加量は「0.01,0.05,0.10,0.50,1.0(重量%)」であることが、が記載されている。 同刊行物2(”Ferroelectrics”1988年,Vol.87,p.271-294:異議申立人の提出した甲第2号証)には、「焼成によって電極のAgはセラミクス中に拡散する。」(p.274、第21〜23行目)こと、「セラミック中への貴金属の拡散を・・・で調査した。この目的のために、直径15mm、厚み1mmの円板を作成し、片面に・・・のAgPdペースト(u=0.25、すなわちPdが25%)を塗布した。これを乾燥後、1130℃1時間の条件で焼成した。・・・それらの試料を波長分散型の蛍光X線にて解析した。・・・その代わりに、分析の限界値である0.1at%のAg濃度レベルを超えた局所的なピークが多く見られた。」(p.275、第28行目〜p.276、第23行目)ことが記載されている。 (3)対比・判断 a.本件請求項1に係る発明について 本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、本件請求項1に係る発明がSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有する圧電トランス用の圧電磁器組成物であるのに対して、上記刊行物1は、Sbを含有し、Agは含有していないアクチュエータ用材料に適した圧電磁器組成物である点で相違している。 しかも、刊行物1には、アンチモン(Sb)を添加すると圧電性が向上するが、機械的品質係数QM並びに電気的品質係数QE(1/tanδ)の値は小さくなる旨が記載されている(【0002】段落)。 上記の相違点について、刊行物2の記載を検討すると、刊行物2には、セラミクス中への電極からのAgの拡散についての記載があり、その拡散が50〜1000ppmの範囲内であるとしても、このAgの拡散により、本件発明の「Agの添加は当該圧電磁器組成物の焼結性の向上に効果がある」という点については、刊行物2に記載も示唆もないし、刊行物2の圧電磁器組成物の組成は、PZTによるものであり、本件請求項1に係る発明と相違しており、また、その用途もアクチュエータ用であり相違している。 したがって、刊行物2に記載のAgの拡散が、本件請求項1に係る発明のAgを50〜1000ppm含有することに相当するとし、刊行物1に記載の発明に適用したとしても、Sbを含有しない圧電トランス用の圧電磁器組成物に適用したものではない。 そして、本件請求項1に係る発明は、Sbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することにより、圧電トランス用の圧電磁器組成物として、焼結性が向上し、横効果の電気機械結合係数や縦効果の電気機械結合係数、機械的品質係数に優れ、且つ分極の容易であるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。 したがって、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 b.本件請求項2に係る発明について 本件請求項2に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、本件請求項2に係る発明がSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有する圧電トランス用の圧電磁器組成物であるのに対して、上記刊行物1は、Sbを含有し、Agは含有していないアクチュエータ用材料に適した圧電磁器組成物である点で相違している。 しかも、刊行物1には、アンチモン(Sb)を添加すると圧電性が向上するが、機械的品質係数QM並びに電気的品質係数QE(1/tanδ)の値は小さくなる旨が記載されている(【0002】段落)。 上記の相違点について、刊行物2の記載を検討すると、刊行物2には、セラミクス中への電極からのAgの拡散についての記載があり、その拡散が50〜1000ppmの範囲内であるとしても、このAgの拡散により、本件発明の「Agの添加は当該圧電磁器組成物の焼結性の向上に効果がある」という点については、刊行物2に記載も示唆もないし、刊行物2の圧電磁器組成物の組成は、PZTによるものであり、本件請求項2に係る発明と相違しており、また、その用途もアクチュエータ用であり相違している。 したがって、刊行物2に記載のAgの拡散が、本件請求項2に係る発明のAgを50〜1000ppm含有することに相当するとし、刊行物1に記載の発明に適用したとしても、Sbを含有しない圧電トランス用の圧電磁器組成物に適用したものではない。 そして、本件請求項2に係る発明は、Sbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することにより、圧電トランス用の圧電磁器組成物として、焼結性が向上し、横効果の電気機械結合係数や縦効果の電気機械結合係数、機械的品質係数に優れ、且つ分極の容易であるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。 したがって、本件請求項2に係る発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 c.本件請求項3に係る発明について 本件請求項3に係る発明は、請求項1、2の何れかに記載の圧電トランス用の圧電磁器組成物を適用した積層型の圧電トランスであるので、上記請求項1、2と同様に、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことができない。 そして、他に本件請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 圧電磁器組成物および積層型の圧電トランス (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (Pb1-aMa)(ZrxTi1-x)O3(ただしMは、Sr、Ba、Caの少なくとも1種、かつ0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することを特徴とする圧電トランス用の圧電磁器組成物。 【請求項2】 (Pb1-aSra)(ZrxTi1-x)O3(ただし0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有することを特徴とする圧電トランス用の圧電磁器組成物。 【請求項3】 積層型の圧電トランスの駆動部の内部電極をAg・Pd合金で形成するとともに、請求項1、2の何れかに記載の圧電トランス用の圧電磁器組成物を適用したことを特徴とする積層型の圧電トランス。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は圧電磁器組成物に関するものであり、また冷陰極管点灯回路用、特には小型液晶ディスプレーのバックライト点灯用のインバータ回路部品である積層型の圧電トランスに関するものである。 【0002】 【従来の技術】 一般に、液晶デイスプレイにあっては液晶自体は発光しないことから液晶表示体の背面や側面に冷陰極管等の放電管を配置するバックライト方式が主流となっている。この放電管を駆動するためには、使用する放電管の長さや直径にもよるが、通常、数百ボルト以上の交流の高電圧が要求される。この交流の高電圧を発生させる方法として圧電トランスを用いたインバータが特開平5-114492号公報に開示されている。 【0003】 圧電トランスは、巻線が不要なことから構造が非常に簡単となり、小型化、薄型化、低コスト化が可能である。この圧電トランスの構造と特徴は、例えば学献社発行の専門誌「エレクトロセラミックス」1971年7月号の「圧電トランスの特性とその応用」に示されている。 【0004】 最も一般的な圧電トランスの構成と動作を図2を用いて以下に説明する。図2に示すものは1956年に米国のC.A.Rosenが発表したローゼン型圧電トランスの説明用模式図である。斜線を施した部分は特に電極部であることを示す。 【0005】 図2は単板状の圧電トランスであり、図中の2は例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電磁器組成物である。この圧電トランスの図中左半分の上下面には例えば銀焼き付けにより設けられた入力電圧4、6の対を形成し、右側端面にも同様の方法で出力電極8を形成する。そして圧電トランスの左半分の駆動部は厚み方向に、右半分の発電部は長さ方向にそれぞれ矢印に示すように分極処理を施す。 【0006】 上述の圧電トランスの入力電極4、6間に、圧電磁器組成物2の長さ方向の共振周波数と略同じ周波数の交流電圧を印加するとこの圧電磁器組成物2は長さ方向に強い機械振動を生じ、これにより右半分の発電部では圧電効果により電荷を生じ、出力電極8と入力電極の一方、例えば入力電極6との間に出力電圧Voが生じる。 【0007】 上記の構成の圧電トランスで得られる昇圧比(Vo/Vi)(ここでViは、入力電圧)は、(1)式のように表される。 (Vo/Vi)=A・k31・k33・QM・L/T (1)式 ここで、k31:横効果の電気機械結合係数、k33:縦効果の電気機械結合係数、QM:機械的品質係数、L:圧電磁器組成物の長さ、T:圧電磁器組成物の厚さ、A:定数である。k31、k33、QMは圧電材料により決定される材料定数であり、L、Tは素子の寸法形状により決定される。 【0008】 前述のバックライト用に使用される圧電トランスは数100ボルト以上の高い交流高電圧が要求されるため、高い昇圧比が必要とされる。そのためには、(1)式からわかるように圧電トランス形状の厚さTを薄くするか、長さLを大きくすることが有効であるが、実装、素子強度の面から、とりうる値には自ずと限界がある。 【0009】 このような問題点を解決する一方法として薄手の圧電磁器組成物2を積層し、駆動部側を並列接続するような積層型の圧電トランスが例えば特公昭52-45476号公報に開示されている。このような駆動部側が積層された積層型の圧電トランスの説明用模式図を図1に示す。なお、斜線を施した部分は特に電極部であることを示す。ここで駆動部は、圧電磁器組成物2と内部電極3が交互に積層され、並列に接続された構造となっている。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】 前述の薄手の圧電磁器組成物2と内部電極3とを交互に積層した積層型の圧電トランスは、一般的には積層セラミックコンデンサと同様の製造方法により製造される。すなわち、圧電磁器組成物のグリーンシートの表面に内部電極3となる貴金属ペーストを、例えばスクリーンで印刷した後、その何枚かを積層、圧着し一体化して、その後焼結される。 【0011】 このような積層型の圧電トランスの内部電極3に使用される貴金属は、積層型の圧電トランスの焼結温度で酸化されずかつ溶解しないことが必要である。たとえば積層セラミックコンデンサ等の場合は、Ag・Pd合金を内部電極材料として用いる。このAg・Pd合金は、Pdの融点が1554℃と高いので、Pdの比率が高い程高温での焼結に耐える一方、Pdは焼結途中で体積変化し易いので、Pdの比率が高すぎると焼結途中でセラミック素子との剥離を発生し易いという不具合があった。 【0012】 ところがPdの比率を30%程度に抑えると融点が下がって焼結温度も下げざるを得ない状況であった。すなわちAg・Pd=70・30の合金を使用するには1100℃前後の温度で圧電磁器組成物を焼結する必要がある。しかし、従来の圧電磁器組成物はその焼結温度が1250℃前後であり、適当な圧電磁器組成物の早急なる発明が強く求められていた。 【0013】 本発明は上述の問題点を解決するためになされたもので、積層型の圧電トランスに適した圧電磁器組成物、すなわち、横効果の電気機械結合係数や縦効果の電気機械結合係数、機械的品質係数が大きく、かつ焼結温度が1100℃前後以下であるような圧電磁器組成物を提供し、以て小型高効率で生産性に優れた積層型の圧電トランスを提供することを目的とする。 【0014】 【課題を解決するための手段】 上述の課題を解決するため鋭意研究の結果、発明者らは著しく構成を改善した圧電磁器組成物およびこれを適用した積層型の圧電トランスに想到したものである。 すなわち第1の発明は、(Pb1-aMa)(ZrxTi1-x)O3(ただしMは、Sr、Ba、Caの少なくとも1種、かつ0.01≦a≦0.10、0.51≦x≦0.55)にFeをFe2O3に換算して0.05〜1.0重量%含有するとともにSbを含有せず、Agを50〜1000ppm含有する圧電トランス用の圧電磁器組成物である。 【0015】 また第2の発明は第1の発明におけるMのところを、Srとして構成した圧電トランス用の圧電磁器組成物である。 【0016】 また第3の発明は、積層型の圧電トランスの駆動部の内部電極をAg・Pd合金で形成するとともに、請求項1、2の何れかに記載の圧電トランス用の圧電磁器組成物を適用して構成した積層型の圧電トランスである。 【0017】 【発明の実施の形態】 (作用) 圧電磁器組成物の組成中、(Pb1-aMa)(ZrxTi1-x)O3のxのところを0.51≦x≦0.55の範囲とすることによって、当該圧電磁器組成物は横効果の電気機械結合係数や横効果の電気機械結合係数が改善され、ひいては昇圧比の高い積層型の圧電トランスを得ることができるものである。 【0018】 また上記組成物中のPb原子の1〜10原子%をSr、BaおよびCaの少なくとも1種で置換すること、とりわけSrで置換することによって横効果の電気機械結合係数や縦効果の電気機械結合係数および機械的品質係数をさらに高くできる。また、キュリー温度Tcを下げることができるとともに、分極を容易にすることができる。なお、置換量が10原子%を超えるとキュリー温度の低下が過剰となり積層型の圧電トランスにした際の温度安定性が不足する。 【0019】 また上記組成物は、Fe2O3に換算して0.05〜1.0重量%相当のFeを含有させることで機械的品質係数QMをさらに高くすることができる。0.05重量%未満では含有の効果が不十分であり、1.0重量%超では焼結性が不足する。 【0020】 Agの添加は当該圧電磁器組成物の焼結性の向上に効果がある。すなわち焼結温度を低下せしめる効果がある。ただしAgの含有量が50ppm未満では焼結性の改善効果が不十分である。一方、含有量が1000ppm超では絶縁抵抗が不足し、このため分極が困難となる。 【0021】 なお、上記説明においては各組成成分の効果と特徴を端的に記述したが、これらの組成成分は単独でかかる効果や特徴を奏するものではなく、本発明の構成通りの範囲とすることで、各成分の相乗効果によって初めて奏せられるものであることは言うまでもない。 【0022】 【実施例】 次に本発明の実施例につき、図と表を参照しながら詳細に説明する。 (実施例1) 初めに試料の作成方法について説明する。まず、各出発原料の粉末である酸化鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、炭酸ストロンチウムを所定量秤量し、湿式ボールミルで混合した後、これを乾燥し、解砕し、さらに850℃で2時間仮焼して仮焼粉を作成した。この仮焼粉をライカイ機で解砕後、この解砕粉と所定量の銀粉とを各々秤量の上ボールミルに投入し、湿式で粉砕した後、この原料を乾燥して仮焼原料粉を作成した。 【0023】 さらにこの仮焼原料粉に適量の結着剤(バインダ)を加えて顆粒とし、乾式プレスにより直径20mm長さ15mmの円柱状に成形し、この成形体をアルミナもしくはマグネシアからなる容器内に密閉し配列して1100℃2時間で焼結して焼結体を得た。 【0024】 上記焼結体の評価は、以下のようにして行った。圧電特性を調べるために、まずこの焼結体を切断、研磨加工により直径16mm、厚さ0.8mmの円板状に加工し、上下面にCr-Auからなる電極を焼き付け、140℃のシリコンオイル中で2kV/mmの分極電界を15分間印加して分極処理を行い、評価測定用試料を作成した。 【0025】 なお、Agは焼結時に相当量が蒸発、飛散し、その残量は焼成温度や焼成雰囲気、焼成時間等によって変わる。従って圧電磁器組成物中のAg含有量はAg添加量と一致しない。すなわち、本発明に係る圧電磁器組成物のAg含有量は焼結後の焼結体中のAgの含有量を定量分析して確認することが必要である。本実施例においては上記定量分析の手法としてICP発光分析(Inductively CoupledPlasma Emission Spectroscopy)を採用した。 【0026】 上記円板状試料からは、径方向の電気機械結合係数kpおよびポアソン比σが求まるので、次に示す(2)式から、横効果の電気機械結合係数k31を算出した。 k31=kp・{(1-σ)/2}1/2 (2)式 【0027】 なお、(1)式中に記載した縦効果の電気機械結合係数k33の評価測定は、上記とは異なる形状のテスト・ピースを用いて行ったが、その詳細は説明を省略した。横効果の電気機械結合係数k31と縦効果の電気機械結合係数k33とは互いにほとんど同じ傾向の値をとり、発明の効果を確認するためには、一方のみの評価で十分なことが解ったからである。従って以下の記述で横効果の電気機械結合係数k31と記述した部分はその数値そのものは別として、縦効果の電気機械結合係数k33と読み替えあるいは包含しても差し支えない。表1は本発明の一実施例を説明するための、組成と結果を示した表である。 【0028】 【表1】 【0029】 表1において、試料のNo.1、2、4、6、7、10、11、12、16、17および18は、本発明に係る圧電磁器組成物すなわち実施例である。試料のNo.3、5、8、9、13、14、15、および19は、本発明の範囲外すなわち比較例であり、実施例と区別するために試料番号に()を付した。以下、この実施例と比較例とを対比しながら説明する。 【0030】 表1中のNo.1、2、4の試料は(Pb0.95Sr0.05)(ZrxTi1-x)O3のxの値を変えたものである。これによると、0.51≦x≦0.55では、横効果の電気機械結合係数k31の値が0.27〜0.31という高い値となり、特にx=0.52で最大となり良好な圧電特性が得られる。また、機械的品質係数QMも良好である。 【0031】 一方、xが0.50(No.3)、0.56(No.5)の試料(比較例である)では横効果の電気機械結合係数k31が0.23であり、積層型の圧電トランス用の材料としては不足である。 【0032】 表1中のNo.6、7の試料によれば、Pbの一部を置換したSr置換量が1.0および9.0原子%、すなわちa=0.01および0.09の場合、横効果の電気機械結合係数k31はそれぞれ0.29、0.30となり良好である。また機械的品質係数(QM)も良好である。同時にキュリー温度(Tc)はそれぞれ345、260℃で、置換量の増とともに低温度側にシフトしていることが解る。 【0033】 比較例であるa=0.11の試料(No.8)では、キュリー温度(Tc)が235℃まで下がり、これは250℃以下であるから積層型の圧電トランスとしての高温での信頼性に問題を生じ、実用的でない。一方、a<0.01の範囲では傾向を見る限り、機械的品質係数(QM)が不充分となることが予測できる。 【0034】 さらにFe2O3添加量を変えた試料の評価結果をNo.10、11、12に実施例として示す。この結果からFe2O3添加量が0.1、0.3、0.9重量%の各場合にQMがそれぞれ880、960、920と高く、良好な圧電特性を示した。 【0035】 比較例としてFe2O3添加量が1.1重量%の試料(No.13)は焼結密度が7.68と不十分であり、実用的な機械的強度を確保できない。これは焼結性の不足による。 【0036】 実施例である試料No.16、17、18は、Agの含有量がそれぞれ54、533、918ppmの試料である。これらの試料は充分な焼結性が得られ、焼結密度はそれぞれ7.79、7.81、7.82である。 【0037】 一方、比較例であるNo.14、15はAgの含有量がそれぞれ0、25ppmの試料であるが焼結密度はそれぞれ7.55、7.65と不足しており、充分な焼結性が得られていない。また、Agの含有量が1206ppmの試料(No.19)については、焼結性は良かったが、分極が困難で特性の評価ができなかった。これは絶縁抵抗の不足が原因であると判明している。 【0038】 (実施例2)No1の組成を用いて図1に示す積層型の圧電トランスを作製した。実施例1と同様の方法で仮焼原料粉を作製し、この仮焼原料粉にバインダーとしてPVBを、可塑剤としてBPBGをそれぞれ4重量%添加し、エチルアルコールを溶媒として、ボールミルにて24時間混練した。 【0039】 混練後脱泡と粘度調整を行い、ドクターブレード法により約100ミクロンのグリーンシートを作製した。その後、スクリーン印刷法によりAg・Pd=70・30のペーストを用いてグリーンシート上に内部電極を印刷し、20層を積層、圧着し、所定形状に切断して成形体とし、これを脱脂後、1100℃で2時間焼成し、さらに入出力電極を印刷、焼付して、140℃、2kV/mmの分極電界を印加し分極処理を施して積層型の圧電トランス用素子とした。 【0040】 上記素子の焼結密度は7.83g/ccであり、3点曲げ強度は1800kgf/cm2であった。一方、比較例としてNo.14の試料で同一条件にて作製した積層型の圧電トランス用素子は焼結密度が7.59g/ccであり、3点曲げ強度は950kgf/cm2であった。また、トランスとしての変換効率は本発明のNo.1で作製したものが92%であるのに対して、比較例のNo.14で作製したものは88%であった。 【0041】 (実施例3) 実施例1、実施例2におけるSrのところを、Srの全量を100原子%としたときの比率で、全量Baに置換した試料、全量Caに置換した試料、Sr40原子%Ba60原子%に置換した試料、Sr40原子%Ca60原子%に置換した試料、Ba50原子%Ca50原子%に置換した試料、およびSr50原子%Ba30原子%Ca20原子%に置換した試料をそれぞれ作成した。 【0042】 実施例1、実施例2の場合と同様の方法と手順で評価確認したところ、いずれの試料においても、実施例1、実施例2の場合とほぼ同様の結果と効果を得た。 【0043】 【発明の効果】 以上説明したように本発明によれば、上記圧電磁器組成物は、Ag・Pd合金を内部電極として用いた積層型の圧電トランスに極めて適している。すなわち1100℃前後以下の温度で焼成可能な焼結性を備えるとともに、横効果の電気機械結合係数や縦効果の電気機械結合係数、機械的品質係数に優れ、かつ分極も容易である。このことは積層型特有の高い昇圧比の圧電トランスを得ることができ、しかも高い効率を有するとともに生産性にも優れた積層型の圧電トランスを得ることを可能とするものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】 積層型の圧電トランスの構造を模式的に示した斜視図である。 【図2】 ローゼン型圧電トランスの構造を模式的に示した斜視図である。 【符号の説明】 2 圧電磁器組成物、3 内部電極、4、6 入力電極、8 出力電極 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2003-12-19 |
出願番号 | 特願平9-77506 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(H01L)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡 和久 |
特許庁審判長 |
松本 邦夫 |
特許庁審判官 |
橋本 武 浅野 清 |
登録日 | 2002-07-26 |
登録番号 | 特許第3332205号(P3332205) |
権利者 | 日立金属株式会社 |
発明の名称 | 圧電磁器組成物および積層型の圧電トランス |