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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1094623
異議申立番号 異議2003-70177  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-21 
確定日 2004-01-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3305032号「断熱材組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3305032号の請求項1,2に係る特許を維持する。 
理由 1.訂正の適否
1-1.訂正の内容
(a)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の
「平均繊維径が10μm以下であるセラミック系無機繊維を1〜50wt%、平均屈折率が1.4以上であり、固体熱伝導率が室温時に0.06cal/cm.sec.deg以下であり、かつ、その平均粒子径が10μm以下である無機粉体1種または2種以上を40〜98wt%、無機結合材を1〜20wt%の割合で配合してなり、
嵩密度が0.30〜0.50g/cm3であり、
曲面を有する部位に使用されることを特徴とする断熱材。」を
「平均繊維径が10μm以下であるセラミック系無機繊維を1〜50wt%、平均屈折率が1.4以上であり、固体熱伝導率が室温時に0.06cal/cm.sec.deg以下であり、かつ、その平均粒子径が10μm以下であるルチル型構造のTiO2からなる無機粉体1種またはルチル型構造のTiO2を含む2種以上の無機粉体を40〜98wt%、有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを1〜20wt%の割合で配合してなり、
嵩密度が0.30〜0.50g/cm3であり、
曲面を有する部位に使用されることを特徴とする断熱材。」
と訂正する。
(b)訂正事項b
段落【0005】における
「【課題を解決するための手段及び作用】
平均繊維径が10μm以下であるセラミック系無機繊維を1〜50wt%、平均屈折率が1.4以上であり、固体熱伝導率が室温時に0.06cal/cm.sec.deg以下であり、かつ、その平均粒子径が10μm以下である無機粉体1種または2種以上を40〜98wt%、無機結合材を1〜20wt%の割合で配合してなり、嵩密度が0.30〜0.50g/cm3であり、曲面を有する部位に使用されることを特徴とする断熱材。」を
「【課題を解決するための手段及び作用】
平均繊維径が10μm以下であるセラミック系無機繊維を1〜50wt%、平均屈折率が1.4以上であり、固体熱伝導率が室温時に0.06cal/cm.sec.deg以下であり、かつ、その平均粒子径が10μm以下であるルチル型構造のTiO2からなる無機粉体1種またはルチル型構造のTiO2を含む2種以上の無機粉体を40〜98wt%、有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを1〜20wt%の割合で配合してなり、嵩密度が0.30〜0.50g/cm3であり、曲面を有する部位に使用されることを特徴とする断熱材。」
と訂正する。
(c)訂正事項c
段落【0010】における
「 次に本発明に於いては、高温での強度維持を目的とした無機結合材を必要に応じて1〜20wt%の範囲で使用することができる。
この無機結合材としては、コロイダルシリカ、合成マイカ、モンモリロナイト等が挙げられ、使用方法としては、原料中に混合するか、もしくは得られた断熱材へ含浸して使用する。
前記無機結合材は1%未満では、得られた断熱材の強度が不足するし、20wt%より多いと、結合材同士の結合力により、断熱材の中で偏析してしまう結果、他の部分に粗大な空隙が生じる為、断熱材の熱伝導率が悪化してしまう。」を
「 次に本発明に於いては、高温での強度維持を目的とした有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを1〜20wt%の範囲で使用する。
この無機結合材としては、コロイダルシリカ、合成マイカ、モンモリロナイト等が挙げられ、使用方法としては、原料中に混合するか、もしくは得られた断熱材へ含浸して使用する。
前記無機結合材は1%未満では、得られた断熱材の強度が不足するし、20wt%より多いと、結合材同士の結合力により、断熱材の中で偏析してしまう結果、他の部分に粗大な空隙が生じる為、断熱材の熱伝導率が悪化してしまう。」
と訂正する。
(d)訂正事項d
段落【0012】における
「 本発明に於いて前記断熱材は乾式プレス法もしくは湿式抄造法にて製造される。
まず最初に乾式プレス法では、前記セラミック系無機繊維、無機粉体及び必要に応じて無機結合材をV型混合機等で混合した後、所定の型内に混合物を投入し、プレスすることにより成形体を得る。尚、得られた成形体に無機結合材を含浸することも可能である。
次に、湿式抄造法では、前記セラミック系無機繊維、無機粉体及び必要に応じて無機結合材を水中で分散させ、その後ごく少量の硫酸アルミニウム水溶液や高分子凝集剤を添加し、繊維に無機粉体や無機結合材を添着させる。
次に上記凝集体を所定の型内へ投入し、抄紙することにより成形体を得る。得られた成形体を脱水プレスし、シート内の含水率を100%以下に調整した後、乾燥することにより目的とする断熱材が得られる。
ここで、脱水プレス後のシート含水率は100%以下にする必要があり、この含水率が100%以上では、乾燥時に収縮が起こり所定の寸法が得られにくくなる。」を
「 本発明に於いて前記断熱材は乾式プレス法もしくは湿式抄造法にて製造される。
まず最初に乾式プレス法では、前記セラミック系無機繊維、無機粉体及び前記無機結合材をV型混合機等で混合した後、所定の型内に混合物を投入し、プレスすることにより成形体を得る。尚、得られた成形体に無機結合材を含浸することも可能である。
次に、湿式抄造法では、前記セラミック系無機繊維、無機粉体及び前記無機結合材を水中で分散させ、その後ごく少量の硫酸アルミニウム水溶液や高分子凝集剤を添加し、繊維に無機粉体や無機結合材を添着させる。
次に上記凝集体を所定の型内へ投入し、抄紙することにより成形体を得る。得られた成形体を脱水プレスし、シート内の含水率を100%以下に調整した後、乾燥することにより目的とする断熱材が得られる。
ここで、脱水プレス後のシート含水率は100%以下にする必要があり、この含水率が100%以上では、乾燥時に収縮が起こり所定の寸法が得られにくくなる。」
と訂正する。

1-2.訂正の適否の判断
(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、拡張・変更の存否)
1-2-1.訂正事項aは、明細書の段落【0008】,【0013】の記載に基いて「無機粉体1種または2種以上」を更に限定して「ルチル型構造のTiO2からなる無機粉体1種またはルチル型構造のTiO2を含む2種以上の無機粉体」とし、明細書の段落【0013】,【0027】の記載に基いて「無機結合材」を更に限定して「有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダー」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-2.訂正事項bは、上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、訂正された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-3.訂正事項cは、上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、訂正された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項cは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-4.訂正事項dは、上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、「必要に応じて」を削除することにより無機結合材の構成が必須のものであることを明らかにし、訂正された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項dは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

2.取消理由通知書の概要
当審においてなされた平成15年9月26日付け取消理由通知書の概要は以下のとおりである。
引用文献1:特開昭59-152281号公報(異議申立人の提出した甲第1号証)
引用文献2:KIRK-OTHMER ENCYCLOPEDIA of Chemical Technology VOLUME I p.641,1952年(異議申立人の提出した甲第2号証)
引用文献3:社団法人窯業協会 原料部会技術講習会 「高純度アルミナの最近の進歩」、83頁、1979年(異議申立人の提出した甲第3号証)
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、引用文献1に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

3.当審の判断
3-1.本件発明
本件明細書は平成15年12月8日付け訂正請求により訂正されたものであって、訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という)は、その明細書の特許請求の範囲に記載されるとおりのものである。

3-2.取消理由通知書で引用した証拠に記載された発明
3-2-1.引用文献1の記載内容
「アルミナ含有率が70重量%以上の多結晶高アルミナファイバーにアルミナ粉及びコロイダルシリカをそれぞれ重量比で
0.05≦Al2O3/多結晶高アルミナファイバー≦10,
SiO2/多結晶アルミナファイバー≦2
の範囲で添加し、成形してなる高温用断熱構造体」(特許請求の範囲請求項2)
「まず、多結晶高アルミナファイバーとしてAl2O372重量%、SiO228重量%の化学組成でムライト結晶からなる平均繊維径3μmの短繊維(以下、ムライトファイバーと称する)60gを用い、」(第2頁右下欄第18行〜第3頁左上欄第2行)
「実施例8〜14及び比較例4〜6
Al2O372重量%、SiO228重量%のムライトファイバー60gにSiO2含有率20重量%のコロイダルシリカ68g,有機結合剤として澱粉3%水溶液680gとともに1000メッシュの焼結アルミナ粉をムライトファイバーとの重量比が下記第2表に示す値となるように添加し、これらを水20l中で充分に撹拌混合した。次に、15cm×15cmの型を用いて真空成形した後、乾燥して断熱構造体を得た。これら断熱構造体は分析の結果明らかにムライトファイバー、アルミナ粉、コロイダルシリカ及び澱粉からなることが確認された。つづいて、500℃で仮焼して澱粉を燃焼揮散させた。」(第3頁右下欄第12行〜第4頁左上欄第5行)
実施例12の、Al2O3/ムライトファイバー(重量比)が2.0であり、密度が0.31g/cm3であることを示す表(第2表)
3-2-2.引用文献2の記載内容
α-アルミナの屈折率が1.76以上であることを示す表(第641頁TABLE I)
3-2-3.引用文献3の記載内容
アルミナの熱伝導率が0.037cal/cm・sec・℃であることを示す表(第83頁表1)

3-3.対比・判断
3-3-1.本件発明1について
引用文献1における「ムライトファイバー」,「コロイダルシリカ」,「密度」,「断熱構造体」は、本件発明1の「セラミック系無機繊維」,「無機結合材」,「嵩密度」,「断熱材」にそれぞれ相当する。引用文献1で用いられている焼結アルミナ粉は無機粉体であり、引用文献1のムライトファイバー,コロイダルシリカ,焼結アルミナ粉の組成比は本件発明1の限定内であるし、引用文献2,3に記載されているようにアルミナの屈折率,熱伝導率は本件発明1の限定内となっている。また、引用文献1には、曲面を有する部位に使用されることは明記されていないが、曲面を有する型を用いて成形すれば曲面を有する断熱構造体が得られるため、当然に曲面を有する部位にも使用できることは明らかであり、この点で両者に相違はないものと認められる。
そこで、引用文献1に記載された発明を本件発明の記載振りに則して記載すると、「平均繊維径3μmのセラミック系無機繊維、1000メッシュの焼結アルミナ粉からなる無機粉体、無機結合材、澱粉を配合してなり、嵩密度が0.31g/cm3であり、曲面を有する部位に使用される断熱材」となり、その組成比は本件発明1の限定内であるし、焼結アルミナ粉の屈折率,熱伝導率も本件発明1の限定内である。

本件発明1と引用文献1に記載された発明を対比すると、両発明とも、
「平均繊維径3μmのセラミック系無機繊維、無機粉体、無機結合材を配合してなり、嵩密度が0.31g/cm3であり、曲面を有する部位に使用される断熱材」という点で一致し、その組成比も重複し、無機粉体の平均屈折率,固体熱伝導率も重複するが、以下の点で相違している。
相違点1:
結合材について、本件発明1では有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを配合しているのに対し、引用文献1に記載された発明では無機結合材以外にも有機バインダーである澱粉を配合している点
相違点2:
無機粉体について、本件発明1ではルチル型構造のTiO2からなる無機粉体1種またはルチル型構造のTiO2を含む2種以上の無機粉体を用いているのに対し、引用文献1に記載された発明では焼結アルミナ粉を用いている点
相違点3:
無機粉体の平均粒子径について、本件発明1では10μm以下と限定しているのに対し、引用文献1に記載された発明では1000メッシュとしている点

まず、上記相違点1について検討する。
引用文献1においては有機バインダーである澱粉を配合しているが、本件発明1では有機バインダーを含まないと限定している。そして、本件明細書には、有機物質を用いる場合に特性が劣ることが記載されており(第0004段落)、本件発明1はその欠点を解決するためのものであり、本件発明1は、有機バインダー等を含まないので、加熱後前記有機物が焼失し、空隙が生じることがない為、従来に比べ低温から高温迄極めて優れた断熱性が得られる(第0013段落)、という効果を奏するものである。
また、引用文献2,3にも、特許異議申立人が提出したその他の証拠(甲第4,5号証)にも、断熱材において有機バインダーを含まないことにより上記効果が得られることは示されていない。
してみれば、当業者といえども、引用文献1に記載された発明において、有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを配合することを容易に導き出すことはできない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が引用文献1に記載された発明であるということはできず、また、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることもできない。

3-3-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1に記載された要件に加えて更に別の要件を付加したものであるから、上記3-3-1.で述べたのと同じ理由により、本件発明2が引用文献1に記載された発明であるということはできず、また、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることもできない。

また、その他の異議申立理由及び証拠は、本件発明1ないし2の特許を取り消すべき理由として採用することができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
断熱材組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】平均繊維径が10μm以下であるセラミック系無機繊維を1〜50wt%、平均屈折率が1.4以上であり、固体熱伝導率が室温時に0.06cal/cm.sec.deg以下であり、かつ、その平均粒子径が10μm以下であるルチル型構造のTiO2からなる無機粉体1種またはルチル型構造のTiO2を含む2種以上の無機粉体を40〜98wt%、有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを1〜20wt%の割合で配合してなり、嵩密度が0.30〜0.50g/cm3であり、曲面を有する部位に使用されることを特徴とする断熱材。
【請求項2】前記セラミック系無機繊維は、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、チタン酸カリウムウィスカー等各種ウィスカーを含む請求項1記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【従来の技術】
従来、燃料電池等に使用される断熱材としては、例えば平均一次粒径20mμ程度の合成シリカ(例えば日本アエロジル株式会社製:商品名アエロジル)、酸化チタン及びセラミックファイバーを乾式で混合及びプレス成形を行った後、機械加工することによって得られたものが知られている。
【0002】
ところが、上記従来の断熱材は、使用材料の90%以上が微小粉体であり、乾式プレスにより成形されているため、柔軟性が極めて悪く、湾曲面への使用に際してはガラスファイバークロス等で被覆しなければいけないという問題点があった。そこで、柔軟性を改善すべく、本発明者達は従来品を湿式抄造で製造方法することに挑戦したが、従来品に使用されている合成シリカは水と接することにより著しく増粘してしまい製造することが不可能であった。従って本発明者達は、従来品の柔軟性を改善することは不可能であるという結論に達した。
【0003】
そこで、本発明者らは、特願平4-22119号に於いて、セラミック系無機繊維を5〜50wt%、無機粉体を50〜95wt%必要に応じて無機結合材を3〜5wt%及び有機弾性物質を3〜10wt%の割合で配合してなり、嵩密度0.35〜0.45g/cm3を有することを特徴とすることにより、使用部位の形状に応じて乾式プレス法もしくは湿式抄造法が選択でき、しかも製造方法に関係なく従来品より熱伝導率を向上させ、さらに湿式抄造法で製造されたものに関しては、従来品よりも飛躍的に柔軟性を改善させた断熱材を発明した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来の断熱材は、有機弾性物質を3〜10wt%含むため、成形体の柔軟性は極めて改善されたが、断熱材使用時、加熱と同時に有機弾性物質が焼失し、焼失後有機弾性物質の存在した部分は、空隙となってしまう為、特に350℃以上の温度下では輻射熱の散乱、遮断効果が低下し、断熱性が不十分であるという結論に達した。そこで、本発明の目的は、使用部位の形状に応じて断熱材が成形でき、しかも従来品より断熱性を向上させ、さらに圧縮組付性を改善させた断熱材を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段及び作用】
平均繊維径が10μm以下であるセラミック系無機繊維を1〜50wt%、平均屈折率が1.4以上であり、固体熱伝導率が室温時に0.06cal/cm.sec.deg以下であり、かつ、その平均粒子径が10μm以下であるルチル型構造のTiO2からなる無機粉体1種またはルチル型構造のTiO2を含む2種以上の無機粉体を40〜98wt%、有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを1〜20wt%の割合で配合してなり、嵩密度が0.30〜0.50g/cm3であり、曲面を有する部位に使用されることを特徴とする断熱材。
【0006】
【作用】
次に本発明の構成を詳細に説明する。セラミック系無機繊維としてはシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、SiCウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカー等各種ウィスカーが使用できる。かかるセラミック系無機繊維の配合量は1〜50wt%の範囲であり、この割合が1wt%未満では、繊維の補強効果が得られず著しく取り扱い性、機械的強度が低下してしまう。
【0007】
一方、50wt%を超えると無機粉体の添加量が少なくなるため対流伝熱、分子伝熱、輻射伝導等が増大するので断熱特性が著しく低下してしまう。また、前記無機繊維の平均繊維径は10μm以下であることが必要である。なぜなら、一般に無機繊維は硬直である為、平均繊維径が10μmより大きいと、繊維間の空隙が大きくなり、得られた断熱材中に粗大な空隙が生じ、輻射熱を伝播しやすくなってしまうからである。
【0008】
本発明に於いては以下に示す条件に適合する無機粉体を一種または二種類以上選択して使用する。
(1) 平均屈折率が1.4以上である。
(2) 平均粒子径が10μm以下である。
(3) 固体熱伝導率が室温時に0.06cal/cm.sec.deg以下である平均屈折率が1.4以上の粉体としては、TiO2、BaTiO3、PbS等が挙げられるが、このグループの無機粉体は、輻射熱の散乱材として極めて重要な役割を有しており、輻射熱をより効果的に散乱させるためには、できるかぎり屈折率が大きく、しかも波長10μm以上の光に対する反射率が70%以上であるピークを有している無機粉体を用いることが望ましい。従って、本発明に於いては、ルチル型構造のTiO2を用いることにした。
【0009】
又、本発明に於いて用いる無機粉体は平均粒径が10μm以下の範囲内であり、しかも各粉体が有する固体熱伝導率は、0.06cal/cm.sec.deg(at室温)以下であるような物に限定している。平均粒径が、10μm以上の粉体を用いると、断熱材中に生じる空孔が極めて大きくなってしまうため、対流及び分子伝熱が増大し、熱伝導率が悪化してしまう。それから、固体熱伝導率についても0.06cal/cm.sec.deg(at室温)以上の粉体を用いると、断熱材中に於いて固体伝熱が支配的になり、熱伝導率が悪化してしまう。従って、本発明に於いては前述に記載した3つの条件に適合した一種または二種類の無機粉体を使用し、その配合割合は40〜98wt%の範囲とする。無機粉体の配合割合が40wt%以下では、屈折率大の粉体量が少なくなるため、輻射熱の散乱が不十分となり、300℃以上の高温下での熱伝導率が悪化してしまう。また、98wt%以上では、熱伝導率の面では有利であるが、セラミック系無機繊維等の配合割合が2wt%未満となってしまい、強度が著しく低下してしまう。
【0010】
次に本発明に於いては、高温での強度維持を目的とした有機バインダーを含まない無機結合材からなるバインダーを1〜20wt%の範囲で使用する。この無機結合材としては、コロイダルシリカ、合成マイカ、モンモリロナイト等が挙げられ、使用方法としては、原料中に混合するか、もしくは得られた断熱材へ含浸して使用する。前記無機結合材は1%未満では、得られた断熱材の強度が不足するし、20wt%より多いと、結合材同士の結合力により、断熱材の中で偏析してしまう結果、他の部分に粗大な空隙が生じる為、断熱材の熱伝導率が悪化してしまう。
【0011】
さて、上述のような配合割合で配合した組成物を乾式プレス法もしくは湿式抄造法にて任意の形状に成形したものは、嵩密度が0.30〜0.50g/cm3の範囲内にある。この嵩密度が0.30g/cm3未満では、対流及び分子伝熱が増大し、一方0.50g/cm3を超えると固体伝熱が増大するため熱伝導率が著しく低下してしまう。次に本発明の断熱材の製造方法について説明する。
【0012】
本発明に於いて前記断熱材は乾式プレス法もしくは湿式抄造法にて製造される。まず最初に乾式プレス法では、前記セラミック系無機繊維、無機粉体及び前記無機結合材をV型混合機等で混合した後、所定の型内に混合物を投入し、プレスすることにより成形体を得る。尚、得られた成形体に無機結合材を含浸することも可能である。次に、湿式抄造法では、前記セラミック系無機繊維、無機粉体及び前記無機結合材を水中で分散させ、その後ごく少量の硫酸アルミニウム水溶液や高分子凝集剤を添加し、繊維に無機粉体や無機結合材を添着させる。次に上記凝集体を所定の型内へ投入し、抄紙することにより成形体を得る。得られた成形体を脱水プレスし、シート内の含水率を100%以下に調整した後、乾燥することにより目的とする断熱材が得られる。ここで、脱水プレス後のシート含水率は100%以下にする必要があり、この含水率が100%以上では、乾燥時に収縮が起こり所定の寸法が得られにくくなる。
【0013】
上記のようにして得られた断熱材では、セラミック系無機繊維により強度を補強し、さらに無機結合材を使用した場合には高温時の強度が維持される。又、前述の条件に適した二種類の無機粉体を使用することで、断熱材内部に存在する空隙での空気の対流と分子伝熱が抑制され、さらに輻射熱が散乱されるため、その断熱性については従来の物より優れた特性が得られる。さらに、本発明の断熱材は、有機バインダー等を含まないので、加熱後前記有機物が焼失し、空隙が生じる事がない為、従来に比べ低温から高温迄極めて優れた断熱性が得られる。次に本発明を具体化した実施例及び比較例を以下に説明する。
【0014】
【実施例】
(実施例1)
水50リットルにシリカ-アルミナ系セラミックファイバーとして大きな粒子を除いた、いわゆる脱ショットバルク(イビデン株式会社製:商品名イビウール)を重量比で5部、次に平均屈折率が2.71であり、平均粒子径が3.5μmのTiO2粉体を70部と、平均屈折率が1.55であり、平均粒子径が7.0μmのSiO2粉体を20部、更にコロイダルシリカ(日産化学株式会社製:商品名スノーテックス)を固形分重量比で5部添加し、よく攪拌混合した後、ごく少量のカチオン系高分子凝集剤を添加し、スラリーを調整した。次に、前記スラリーを所定の抄造機にて脱水抄造した後乾燥し、厚さ5mm、300mm角、嵩密度0.40g/cm3のシート状物を得た。このシート状物の熱伝導率を表1に示す。
【0015】
(実施例2)
実施例1で使用した原料のうち、シリカ・アルミナ系セラミックファイバーを20部,TiO2を75部、コロイダルシリカを5部投入し、実施例1と同様のシート状物を得た。このシート状物の熱伝導率を表1に示す。
【0016】
(実施例3)
実施例1で使用したものと同じ原料を用い、その配合割合をシリカ-アルミナ系セラミックファイバー35部、SiO235部、TiO225部、コロイダルシリカを5部投入し、実施例1と同様のシート状物を得た。このシートの熱伝導率を表1に示す。
【0017】
(比較例1)
実施例1で使用したものと同じ原料を用い、その配合割合をシリカ-アルミナ系セラミックファイバー60部、SiO215部、TiO220部、コロイダルシリカを5部投入し、実施例1と同様のシート状物を得た。このシートの熱伝導率を表1に示す。
【0018】
(比較例2)
実施例1で使用したシリカ-アルミナ系セラミックファイバー35部、SiO235部、TiO2のかわりに平均粒子径が5μmのSiC25部、コロイダルシリカ5部を投入し実施例1と同様のシート状物を得た。このシートの熱伝導率を表1に示す。
【0019】
(比較例3)
実施例1で使用したシリカ-アルミナ系セラミックファイバー35部、SiO235部、TiO2のかわりに平均粒子径が4.8μmのNaF25部、コロイダルシリカ5部を投入し実施例1と同様のシート状物を得た。このシートの熱伝導率を表1に示す。
【0020】
(比較例4)
実施例2で使用した原料を用い、シリカ-アルミナ系セラミックファイバー20部、TiO255部を投入し実施例1と同様のシート状物を得た。このシートの熱伝導率を表1に示す。
【0021】
(比較例5)
実施例2で使用した原料を同じ配合割合で用いシートを成形し、得られたシートの嵩密度を0.20(g/cm3)とした。このシートの熱伝導率を表1に示す。
【0022】
(比較例6)
実施例2で使用した原料を同じ配合割合で用いシートを成形し、得られたシートの嵩密度を0.60(g/cm3)とした。このシートの熱伝導率を表1に示す。
【0023】
(比較例7)
実施例3で使用した原料のうちTiO2については、平均粒子径が12.5μmのものを用いて実施例3と同様なシートを成形した。得られたシートの熱伝導率を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から明らかなように、比較例1の如く無機繊維の配合量が多い為必然的に熱線を反射する為の屈折率大の無機粉体の割合が減少するばかりでなく、無機繊維同士の絡み合いが増大する為、成形体内部に粗大な空隙が生じてしのう。この結果、常温下では熱伝導率が低いが、輻射熱が支配的となる高温化では熱伝導率が悪化してしまう。又、比較例2、3の如く、配合割合が実施例3と同様であっても、無機粉体として固体熱伝導率の高いSiCや平均屈折率の低いNaFを用いると高温下での熱伝導率は悪化してしまう。
【0026】
又、比較例4の如く無機結合材の割合が多くても熱伝導率は悪化してしまう。又、比較例5、6の如く実施例1と全く同じ割合であっても比較例5の如く、得られたシートの嵩密度が低いと常温での熱伝導率は低いが、高温下では輻射熱が透過してしまう為、熱伝導率は悪化してしまうし、比較例6の如く嵩密度が高すぎても固体伝導が支配的となる為、熱伝導率は悪化してしまう。さらに、比較例7に於いては実施例3と同様な配合割合であるが、平均粒子径の大きいTiO20用いる為、シート内の粗大な空隙が増加する為、熱伝導率が悪化してしまう。
【0027】
【発明の効果】
従って、本発明によれば強度等を低下させることなく熱伝導率が向上でき、しかも使用部位の形状に応じて製造方法が選択できるため、従来品ではガラスファイバークロスで被覆するか、もしくは二次加工を施すことにより使用していた部位へもシート状物単体で使用できるため大幅なコストの低減が可能である。たとえば、ハロゲンランプコンロ、高温電池等の断熱材としては、曲面を有する部位に使用されるため、従来品はガラスファイバークロスでの被覆品を使用していたが、本発明によれば湿式抄造品単体で使用することができる。又、電熱コンロ下面断熱材については、平板状で使用されるため、本発明の乾式プレス品が使用でき、従来品より熱伝導率が優れるため、従来品より厚みを薄くすることができ、小型化できるメリットがある。さらに、本発明によれば、従来の断熱材に対して有機分を殆ど用いない為、熱伝導率の径時変化がないばかりでなく、使用時に有機バインダーの燃焼によるガス等の発生もない為環境を汚染する心配がない。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-12-22 
出願番号 特願平5-34657
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 武重 竜男  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 岡田 和加子
米田 健志
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3305032号(P3305032)
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 断熱材組成物  
代理人 小川 順三  
代理人 安富 康男  
代理人 小川 順三  
代理人 中村 盛夫  
代理人 中村 盛夫  
代理人 安富 康男  

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