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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01C
管理番号 1095478
審判番号 不服2001-1202  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-01-25 
確定日 2004-04-08 
事件の表示 平成 9年特許願第 35052号「移動式リアルタイム測量装置」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 9月 2日出願公開、特開平10-232131]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成9年2月19日の出願であって、平成12年12月20日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成13年1月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月26日付で手続補正がなされたものである。

【2】平成13年2月26日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成13年2月26日付の手続補正を却下する。
[理由]
[1]補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】GPS衛星の電波受信用の可搬アンテナと計測点Bでの該可搬アンテナの受信GPS信号をそのまま搬送波にのせて中継するGPS信号用可搬中継装置とを有する可搬アンテナ装置、地表既知座標位置Aに設置されて前記GPS衛星からの電波を受信する固定アンテナと前記中継装置から受信するGPS信号用固定受信装置とを有する固定局、前記固定局において前記固定アンテナでの受信GPS信号及び前記可搬アンテナでの受信GPS信号による干渉計測位で定まる既知位置・計測点間のAB間ベクトルと前記既知座標とから前記可搬アンテナの計測点Bの三次元座標を算出する座標算出手段、前記算出した三次元座標を前記固定局から座標信号として送出する送信機、並びに前記座標信号を受信する可搬受信機を有し且つ該受信機で受信した座標信号を表示する可搬表示手段を備え、前記可搬アンテナ装置を前記可搬中継装置との接続下で前記固定局から離れた地表計測点上へ位置付けることにより該計測点の三次元座標をリアルタイムで測量し且つ前記可搬表示手段に表示してなる移動式リアルタイム測量装置。」(以下、「本願補正発明」という。)
と補正された。
前記補正中、
イ.補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「該可搬アンテナでの」を「計測点Bでの該可搬アンテナの」とする補正は、可搬アンテナの所在を明確にするためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
ロ.補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「地表既知座標位置」を「地表既知座標位置A」とする補正は、地表既知座標位置をより明確にするためのもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
ハ.補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「固定アンテナでの受信GPS信号と前記可搬アンテナでの受信GPS信号と前記既知座標とから前記可搬アンテナの三次元座標を算出する座標算出手段」を「固定アンテナでの受信GPS信号及び前記可搬アンテナでの受信GPS信号による干渉計測位で定まる既知位置・計測点間のAB間ベクトルと前記既知座標とから前記可搬アンテナの計測点Bの三次元座標を算出する座標算出手段」とする補正は、座標算出手段の演算内容を限定するものであり、かつ、三次元座標を算出する対象を明確化するものであって、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするもの、及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、前記補正イ.〜ハ.は、特許法第17条の2第4項第2号及び第4号の特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、前記補正イ.〜ハ.の内容は、いずれも願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

[2]刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平8-240428号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
1.「【0001】【産業上の利用分野】本発明は測量、及びこのような測量の精度及び効率性の改善を目的とする衛星測位システム情報に関するものである。」
2. 「【0023】
【課題を解決するための手段】これらの必要条件は衛星測位システム(SATPS)技術を新旧の測量技術と組み合わせる測量システムを提供する本発明によって満たされる。本発明の装置は測量の基準となり、その位置が高い精度で既知である第一または基準測点と、第一測点から離れた位置にあり、測量のための移動自在な測定ユニットとして作用する第二または可動測点を含む。」
前記記載から、
・基準測点の位置座標は既知であること、
この種の測量装置では、GPSアンテナ装置を測量すべき測量点まで移動し、測量点上にGPSアンテナ装置を位置づけることにより測量を行うことは通例である(例えば、特開平7-283630号公報参照)ことを考慮すると、刊行物のものは、
・移動自在な測定ユニットを基準測点から離れた測量点上へ位置付けることにより可動測点の座標を測量するものであること、が読みとれる。
3.「【0026】・・・
第一の目的は精度の低いコード位相測位ではなく、SATPS衛星信号を利用して(精度が数cm以内の)搬送波位相測位を行うことにある。搬送波位相測位は二つ以上のSATPS測点に共通のSATPS衛星群を追跡させることによって行われる。次いで測定結果を組み合わせ、リアルタイムで処理するかまたは事後処理することにより、SATPS基準測点に隣接する固設または可動SATPS測点の位置を求めるのに有用なデータを得る。リアルタイム測位を行うには視軸交信に依存しなくてもよいデータリンクを利用して基準測点と可動測点の間でSATPSデータを転送する必要がある。」
前記記載から、刊行物に記載のものは、
・搬送波位相測位を行っていること、リアルタイム測位を行っていることが読みとれる。
4.「 【0033】基準測点11はそのハンドルまたはその他の構造の一部として形成することのできるSATPS信号アンテナ21をも含み、該アンテナ21は衛星測位システムを構成する二つ以上の衛星からのSATPS信号を受信する。SATPSアンテナ21によって受信されたSATPS信号はこれを分析してアンテナの位置を確定するSATPSレシーバ/プロセッサ23へ伝送される。」
基準測点11は固定されている以上、該基準測点11に対応する地表基準座標位置が存在することを考慮すると、前記記載から、刊行物のものは、
・地表基準座標位置に設置されてSATPS衛星からの電波を受信するSATPS信号アンテナ21を有すること、が読みとれる。
5. 「【0034】基準測点11は可動測点31との間で情報を送受するための第一の送信機、受信機またはトランシーバ24及び第一通信アンテナ25を含む第一測点通信手段と、共通データ出力ポート27をも含む。」
前記記載から、刊行物のものが、
・基準測点11に、可動測点31に情報を送信する第一の送信機、及び可動測点31からの情報を受信する第一の受信機を有することが読みとれる。
6.「【0036】可動測点31は互いに接続された第二SATPS信号アンテナ37及び第二SATPS信号レシーバ/プロセッサ39をも含み、これも二つ以上のSATPS衛星からのSATPS信号を受信し、このSATPS信号に基づいて第二SATPSアンテナの位置を求める。」
前記記載から、刊行物のものは、
・可動測点31にSATPS衛星からのSATPS信号を受信する第二SATPS信号アンテナ37を有することが読みとれる。
7.「【0037】可動測点31は第二の送信機、受信機またはトランシーバ40、及び基準測点11と可動測点31の間の通信を可能にする第二通信アンテナ41をも含む。」
前記記載から、刊行物のものは、
・可動測点31に、基準測点11に送信する第二の送信機、及び基準測点11からの情報を受信する第二の受信機を有することが読みとれる。
8.「【0038】基準測点11は三つの位置空間座標及び/または地方時座標の差を求め第一及び第二通信アンテナ25及び41を利用して、この座標差を可動測点に送信する。可動測点31は基準測点測定値と可動測点位置情報、それに局地SATPS測定値を利用することにより第一SATPSアンテナ21の位置に対する第二SATPSアンテナ37の位置を正確に測定する。」
前記記載から、基準測点11から可動測点31に送信する情報には三次元座標信号が含まれていること、すなわち、前記5.の記載も併せ考慮すると、刊行物のものは、
・三次元座標を基準測点11から座標信号として送出する第一の送信機を有することが読みとれる。
9.「 【0044】図3に示す可動測点システム71は、・・・(2)基準測点11との間でSATPS位置情報を送受信するデータリンクサブシステム73・・・(4)サブシステム72及び/または73及び/または76から情報を受信し、可動測点31の位置に関する情報を出力するデータ処理サブシステム75;及び(5)データ処理サブシステム75から情報を受信し、この情報を可動測点31において測量活動を行うオペレータに役立つ形式で表示及び記憶するユーザーインターフェースサブシステム76を含む。」
該記載と、「【0043】・・・(3)可動測点31との間でSATPS位置情報を送 受信するデータリンクサブシステム64」の記載とを併せ考慮すると、
・可動測点システム71が何らかの表示手段を持つこと、そして、可動測点に備えられた表示手段に測量点の三次元の位置を表示することは周知である(例えば、特開平7-283630号公報、5頁右欄6行〜8行の記載参照)ことを考慮すると、刊行物における表示手段において「測量活動を行うオペレータに役立つ形式で表示」される情報の中に、可動測点の位置情報が含まれると解することは自然である。
10.「【0047】図3に示す実施例ではデータの受信及び処理に少なくとも三つのアプローチを採用することができる。第一のアプローチでは、可動測点システム71がそのSATPS測定サブシステム72を介して(衛星属性情報を含む)SATPS信号を受信し、この信号を基準測点システム61へ送信すると、該システム61において、SATPSに基づく基準測点及び可動測点の位置が演算され、基準測点位置修正量(=既知基準測点位置-SATPS測定基準測点位置)が演算され、この基準測点位置修正量を利用してSATPS測定可動測点位置が修正される。」
前記記載中、「この信号を基準測点システム61へ送信する」のは、前記7.の記載に依れば第二の送信機と解されるが、該第二の送信機が送信する際、搬送波にのせて送信することは、無線通信技術分野において普通に行われている送信方式であることを考慮すると、刊行物のものは、
・可動測点システム71が可動測点31での第二SATPS信号アンテナ37の受信SATPS信号を搬送波にのせて送信する第二の送信機を有すること、
が読みとれる。
また、前記記載10.中「SATPSに基づく基準測点及び可動測点の位置が演算され、基準測点位置修正量(=既知基準測点位置-SATPS測定基準測点位置)が演算され、この基準測点位置修正量を利用してSATPS測定可動測点位置が修正される」ことから、刊行物のものは、
・基準測定システム61において演算によって求めた既知基準測点位置修正量と既知基準測点位置とから可動測点位置を算出する算出手段を有すること、
が読みとれる。
(刊行物に記載された発明)
以上のことから、刊行物には次の発明が記載されているものと認められる。
「SATPS衛星からのSATPS信号を受信する第二SATPS信号アンテナ37と可動測点31での第二SATPS信号アンテナ37の受信SATPS信号を搬送波にのせて送信する第二の送信機とを有する可動測点システム71、
地表基準座標位置に設置されて前記SATPS衛星からの電波を受信するSATPS信号アンテナ21と前記第二の送信機からの情報を受信するための第一の受信機とを有する基準測点システム61、
前記基準測定システム61において前記SATPS信号アンテナ21での受信SATPS信号及び前記SATPS信号を受信する第二SATPS信号アンテナ37での受信SATPS信号から演算によって求めた基準測点位置修正量と既知基準測点位置とから可動測点位置を算出する算出手段、
前記算出した三次元座標を前記基準測点システム61から座標信号として送出する第一の送信機、
並びに前記座標信号を受信する第二の受信機を有し且つ該第二の受信機で受信した座標信号を表示する表示手段を備え、
前記可動測点システム71を第二の送信機の接続下で前記基準測点システム61から離れた測量点上へ位置付けることにより可動測点の座標をリアルタイムで測量し且つ前記表示手段に表示してなる移動式リアルタイム測量装置。」
(以下「刊行物に記載された発明」という。)が開示されていると認めることができる。

[3]対比
そこで、本願補正発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
刊行物に記載された発明における
「SATPS衛星」、「SATPS信号を受信する第二SATPS信号アンテナ37」、「可動測点31」、「受信SATPS信号」、「送信する第二の送信機」、
「可動測点システム71」、「地表基準座標位置」、「SATPS信号アンテナ21」、「第一の受信機」、「基準測点システム61」、
「既知基準測点位置」、「可動測点位置を算出する算出手段」、「第一の送信機」、「第二の受信機」、「表示手段」、
「測量点」、「可動測点の座標」、
は、それぞれ、本願補正発明における
「GPS衛星」、「電波受信用の可搬アンテナ」、「計測点B」、「受信GPS信号」、「中継するGPS信号用可搬中継装置」、
「可搬アンテナ装置」、「地表既知座標位置A」、「固定アンテナ」、「GPS信号用固定受信装置」、「固定局」、
「既知座標」、「可搬アンテナの計測点Bの三次元座標を算出する座標算出手段」、「送信機」、「可搬受信機」、「可搬表示手段」、
「地表計測点」、「計測点の三次元座標」、
にそれぞれ相当し、本願補正発明における「干渉計測位で定まる既知位置・計測点間のAB間ベクトル」も、刊行物に記載された発明における「演算によって求めた基準測点位置修正量」も共にベクトル量であるから、両者は、
(一致点)
「GPS衛星の電波受信用の可搬アンテナと計測点Bでの該可搬アンテナの受信GPS信号を搬送波にのせて中継するGPS信号用可搬中継装置とを有する可搬アンテナ装置、地表既知座標位置Aに設置されて前記GPS衛星からの電波を受信する固定アンテナと前記中継装置から受信するGPS信号用固定受信装置とを有する固定局、前記固定局において前記固定アンテナでの受信GPS信号及び前記可搬アンテナでの受信GPS信号によって求まるベクトル量と前記既知座標とから前記可搬アンテナの計測点Bの三次元座標を算出する座標算出手段、前記算出した三次元座標を前記固定局から座標信号として送出する送信機、並びに前記座標信号を受信する可搬受信機を有し且つ該受信機で受信した座標信号を表示する可搬表示手段を備え、前記可搬アンテナ装置を前記可搬中継装置との接続下で前記固定局から離れた地表計測点上へ位置付けることにより該計測点の三次元座標をリアルタイムで測量し且つ前記可搬表示手段に表示してなる移動式リアルタイム測量装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点)
相違点1:受信GPS信号を搬送波にのせて中継する際、本願補正発明では「そのまま」搬送波にのせるのに対し、刊行物に記載された発明では、この点明記されていない点。
相違点2:座標算出手段について、
計測点Bの座標を、本願補正発明では「干渉計測位で定まる既知位置・計測点間のAB間ベクトル」と既知座標とから算出するのに対し、刊行物に記載された発明では、「演算によって求めた基準測点位置修正量」と既知座標とから算出している点。
[4]当審の判断
相違点1.について、
本願補正発明における「受信GPS信号をそのまま搬送波にのせ」るという表現中「そのまま」とは何を意味するのか、字句通り何ら手を加えずにという意味なのか、あるいはGPS信号情報を保存した状態でというほどの意味なのか、必ずしも判然とはしない。
そこで、詳細な説明を参酌すると、段落番号【0010】に「衛星からのGPS信号にはL1帯(1575.42MHz)及びL2帯(1227.60MHz)があるが、本発明において例えば2GHz以上の周波数を有する可搬中継装置33及び固定受信装置34を使用すれば、衛星からのL1帯及び/又はL2帯のGPS信号により可搬中継装置33で搬送波を変調し且つ固定受信装置34で復調することにより、可搬アンテナ装置11で受信したL1帯及び/又はL2帯のGPS信号をそのまま固定局1の座標算出手段20Bへ送信できる。」と記載されており、該記載に依れば、前記「そのまま」とは、受信したGPS信号を何ら手を加えることなく、そのまま搬送波を変調することであると解することができる。
次にこの点についての刊行物の記載を検討すると、【2】[2]10.に「可動測点システム71がそのSATPS測定サブシステム72を介して(衛星属性情報を含む)SATPS信号を受信し、この信号を基準測点システム61へ送信すると、該システム61において、SATPSに基づく基準測点及び可動測点の位置が演算され」と記載されているとおり、刊行物のものは、SATPS信号を基準測点システムに送信し、演算作業は基準測点システムにおいて行っているのであるから、少なくともSATPS信号情報を保存した状態で基準測点システムに送信しているものと解され、その際、特にSATPS信号を加工している旨の記載は見あたらない。
そして、データ信号を搬送波に乗せて送信する際、データ信号でそのまま搬送波を変調する送信方式は、普通に知られた送信方式であることを併せ考慮すると、刊行物に記載された発明において、受信GPS信号をそのまま搬送波にのせて送信することは、当業者が実施の際、容易に採用し得る周知の手法に過ぎず、この点に格別の創意を要したものとは認められない。
相違点2.について
【2】[2]10.に依れば、刊行物に記載された発明における計測点Bの座標を算出する演算内容は、
基準測点位置修正量=既知基準測点位置-SATPS測定基準測点位置・・・(1)
を求め、該基準測点位置修正量を使って計測点の三次元座標を修正することであって、その修正は具体的には次のようになされるものと解し得る。
計測点の三次元座標+基準測点位置修正量・・・(2)

ところで、前記(2)式は次式と等値である。
計測点の三次元座標-SATPS測定基準測点位置+既知基準測点位置・・・(3)

前記【2】[2]2.に記載したとおり、基準測点の位置は既知であることを考慮すると、式(3)中、第1項-第2項は、既知位置・計測点間のベクトル量を、該既知位置、計測点をそれぞれ計測して得た座標値で表したものと言うことができる。
すなわち、刊行物に記載された発明中、計測点Bの座標を「演算によって求めた基準測点位置修正量」と既知座標とから算出することは、既知位置、計測点をそれぞれ計測した座標値で表した既知位置・計測点間のベクトル量と既知座標とから算出することであると言い換えることができる。
そうすると、刊行物に記載された発明も、本願補正発明と同様、「既知位置・計測点間のAB間ベクトル」を用いて計測点Bの座標を算出している点で両者に差異はなく、ただ、本願補正発明では「既知位置・計測点間のAB間ベクトル」として干渉計測位で定めたものを用いるのに対し、刊行物に記載された発明では、「既知位置・計測点間のAB間ベクトル」として既知位置、計測点をそれぞれ計測した座標値で表したものを用いる点で相違すると言えるが、既知位置・計測点間の距離および方向(ベクトル)を(干渉計測位の一種である)キネマティック測量で定めることは周知である(例えば、特開平7-260481号公報、3頁左欄段落番号【0010】の記載参照)から、刊行物に記載された発明に代えて、「既知位置・計測点間のAB間ベクトル」を干渉計測位で定めることは、当業者が容易になし得たものであるということができる。
そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物に記載された発明、及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、刊行物に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[5]むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明
平成13年2月26日付の手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜6に係る発明は、平成12年5月12日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1には次のとおりに記載されている。
「【請求項1】GPS衛星の電波受信用の可搬アンテナと該可搬アンテナでの受信GPS信号をそのまま搬送波にのせて中継するGPS信号用可搬中継装置とを有する可搬アンテナ装置、地表既知座標位置に設置されて前記GPS衛星からの電波を受信する固定アンテナと前記中継装置から受信するGPS信号用固定受信装置とを有する固定局、前記固定局において前記固定アンテナでの受信GPS信号と前記可搬アンテナでの受信GPS信号と前記既知座標とから前記可搬アンテナの三次元座標を算出する座標算出手段、前記算出した三次元座標を前記固定局から座標信号として送出する送信機、並びに前記座標信号を受信する可搬受信機を有し且つ該受信機で受信した座標信号を表示する可搬表示手段を備え、前記可搬アンテナ装置を前記可搬中継装置との接続下で前記固定局から離れた地表計測点上へ位置付けることにより該計測点の三次元座標をリアルタイムで測量し且つ前記可搬表示手段に表示してなる移動式リアルタイム測量装置。」(以下、「本願発明」という。)

【4】対比
本願発明と刊行物に記載された発明とは次の点で一致する。
(一致点)
GPS衛星の電波受信用の可搬アンテナと該可搬アンテナでの受信GPS信号を搬送波にのせて中継するGPS信号用可搬中継装置とを有する可搬アンテナ装置、地表既知座標位置に設置されて前記GPS衛星からの電波を受信する固定アンテナと前記中継装置から受信するGPS信号用固定受信装置とを有する固定局、前記固定局において前記固定アンテナでの受信GPS信号と前記可搬アンテナでの受信GPS信号と前記既知座標とから前記可搬アンテナの三次元座標を算出する座標算出手段、前記算出した三次元座標を前記固定局から座標信号として送出する送信機、並びに前記座標信号を受信する可搬受信機を有し且つ該受信機で受信した座標信号を表示する可搬表示手段を備え、前記可搬アンテナ装置を前記可搬中継装置との接続下で前記固定局から離れた地表計測点上へ位置付けることにより該計測点の三次元座標をリアルタイムで測量し且つ前記可搬表示手段に表示してなる移動式リアルタイム測量装置。
また、本願発明と刊行物に記載された発明とは次の点で相違する。
(相違点)
相違点1.と同様である。
【5】当審の判断
相違点に対する判断は、前記【2】[4]における相違点1.に対する判断と同様である。

【6】むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
前記のとおり、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願の請求項2〜6に係る発明について審究するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-02-09 
結審通知日 2004-02-12 
審決日 2004-02-26 
出願番号 特願平9-35052
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01C)
P 1 8・ 575- Z (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 葉子秋田 将行  
特許庁審判長 西川 一
特許庁審判官 三輪 学
中塚 直樹
発明の名称 移動式リアルタイム測量装置  
代理人 市東 篤  
代理人 市東 禮次郎  

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