• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A47L
管理番号 1095542
審判番号 審判1999-35111  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-03-12 
確定日 2004-01-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2667115号「レンタル用靴拭きマット」の特許無効審判事件についてされた平成13年12月10日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第39号平成14年11月14日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2667115号の請求項1ないし8に係る発明(平成6年3月15日出願、平成9年6月27日設定登録。以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
基布と、基布にタフト化されたマットパイルと、基布の非パイル面に施されたエラストマーバッキングとを備えたレンタル用靴拭きマットにおいて、基布幅方向のタフトステッチの列が、基布幅方向に対して斜めに若干傾斜して、一方の折返し点から幅方向に所定の一定間隔及び長手方向に小間隔をおいた他方の折返し点に至るようにジグザグ状に形成されていて、全体として基布長手方向に延びるタフトステッチの帯状列を形成しており、タフトステッチの長手方向に隣り合った前記折返し点を結ぶ境界線は、前記折返し点間ピッチよりも大きいピッチのジグザグ状境界線を形成しており、基布幅方向に隣り合ったタフトステッチの帯状列の折返し点同士は共通のジグザグ状境界線上に位置すると共に、一方の側の帯状列の折返し点が他方の側の帯状列の長手方向に隣り合った折返し点の中間に位置し、マットパイルは互いに色相の異なる複数のマットパイル面を有し、マットパイルには全く死糸がなく、且つ隣り合った色相の異なるマットパイル面間には少なくとも1個の非ステッチ部が介在していることを特徴とする靴拭きマット。
【請求項2】
長手方向に隣り合ったタフトステッチの列が、互いに寸法が異なるように設けられている請求項1記載の靴拭きマット。
【請求項3】
タフトステッチの基布幅方向の折返し点間の平均幅寸法(W)が20乃至80mmで且つ長手方向の折返し点間のピッチ(Ps)が3乃至20mm及び幅方向のずれ寸法(Ws)が2乃至16mmである請求項1または2記載の靴拭きマット。
【請求項4】
ジグザグ状境界線の基布幅方向の出入り寸法(Z)が5乃至25mmであり、且つ長手方向ピッチ(Pz)が20乃至80mmである請求項1、2または3記載の靴拭きマット。
【請求項5】
基布が延伸ポリエステルフィルムの偏平スリットヤーンの平織布から成る請求項1記載の靴拭きマット。
【請求項6】
基布が延伸ポリエステルフィルムの偏平スリットヤーンの平織布に合成繊維の綿状繊維をニードルパンチングした基布から成る請求項1記載の靴拭きマット。
【請求項7】
マットパイルがナイロン繊維或いはアクリル繊維のマルチフィラメント糸或いは紡績糸であり、その太さが500乃至5000デニール/本、撚数が50乃至300回/メートル及びパイル長が5乃至30mmである請求項1記載の靴拭きマット。
【請求項8】
基布へのマットパイルの打ち込み本数が5乃至15本/インチである請求項1記載の靴拭きマット。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1ないし8の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、本件発明1ないし8は、本件出願前に頒布された刊行物に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

3.甲第1号証ないし甲第5号証
(1) 甲第1号証(特開平4-138126号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「本考案は靴等の履物の汚れを除去する靴拭いマットに関するもので、特に、繰返し洗濯をして使用に供する靴拭いマットに関するものである。」(第1頁右下欄第11〜13行)
・「本考案は、繰返し洗濯しても模様、文字、図形等の境界の不鮮明化を防止して良好な見栄えを維持することができる靴拭いマットの提供を課題とするものである。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄第2行)
・「第1図は本考案の第一実施例による靴拭いマットの平面図、第2図は第1図の要部断面図である。図において、(1)は基布(2)の表面に植設されたナイロンよりなる多数の房状の短パイルである。(1a)は前記短パイル(1)の素地部分を構成する、例えば、赤色の染色糸よりなる素地部短パイルである。(1b)は前記短パイル(1)の文字「いらっしゃいませ」の部分を構成する例えば黒色の染色糸よりなる文字部短パイルである。・・・(3)はやや硬質のゴムからなる裏敷層で、基布(2)に植設した短パイル(1)が抜脱するのを防止するものである。・・・素地部短パイル(1a)と文字部短パイル(1b)とを一体に織り込むにはタフトがら出し機を使用する。」(第2頁右下欄第3行〜第3頁左上欄第8行)

(2) 甲第2号証(特表昭61-501462号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「本発明は一般にカーペット等の如きタフテッド製品の製造装置および製造方法に関し、特に、模様図案をもつタフテッド製品の製造装置及び製造方法に関連する。」(第3頁右下欄第4〜6行)
・「本発明は、・・・異なる色または異なる嵩高の糸を使った模様入りタフテッド製品を製造するための装置および方法を提供する。円、四角形・・・その他の抽象的図案をもつ模様入りタフテッド製品は、異なる太さ、色及び/又は性質の糸を使っ・・・て容易に再生産できる。・・・さらに本発明により各位置で異なる糸を、或いは異なる糸の任意の組合せを全部、0本の又は任意の本数で基布差込むように選択でき、この選択により異なる色または異なる種類の糸を基布の異なる領域に配置することによって異なる模様及び図案を作る独特の能力が得られるだけでなく、図案内の任意特定の領域でタフトの密度を増減させる独特な能力も得られる。異なる位置でタフトを省略することによって彫刻模様も容易に作ることができる。」(第4頁左上欄第15行〜右上欄第5行)
・「本発明は自動装置を使用して、基布を糸付け領域を通して前進させ、糸付け要素を基布の幅全体に亘って横方向に移動させることにより糸を糸付け領域で基布に植えつけることを特徴とする模様入りタフテッド製品の製造する方法を提供し、糸を基布に横一列に連続的に植えつける糸付け要素に複数本の異なる糸を供給する。横一列の各位置において植えつけられることになっている特定の糸又は糸の組合せを所定の模様に従って自動的に選択する。さらに糸を植えつける列内の特定の位置を選択できるように糸付け要素の移動を制御することができる。」(第4頁右上欄第19〜27行)
・「第4図では、基布オープナは基布オープナが基布Bを刺し通すために下方に移動しているとき、その行程の頂部近くにあるものとして示されている。この図では、基布材は図の平面内に進入しており、且つヘッド組立体を基布材を横切って横方向に移動(図で右に)して、糸タクトの横列180を植えつける。」(第7頁右上欄第16〜20行)
・「第7図に示すように、本装置は、基布前進駆動装置、ヘッド横方向駆動装置、ヘッド往復動駆動装置、及び糸選択供給機構を制御する制御装置を有するのがよい。好ましくはマイクロコンピュータである制御装置220は本装置の駆動装置及び糸選択供給機構のタイミングと作動を制御する。・・・異なる模様又は図案をつくることができるように、マイクロコンピュータは容易にプログラムできるのがよい。」(公報第7頁右下欄第15〜25行)
・「第4図は基布Bに植えつけたU字形状糸タフトの横列180の一部を示す。前述したように、領域230に示すように各連続タフについて異なる糸(例えばY1、Y5及びY3)を選択してもよく、或いは232で示すような位置には糸を植えつけなくてもよく、又は234に示す特定の位置に複数本の異なる糸・・・を植えつけてもよい。」(第8頁左下欄第9〜14行)
・また、第4図には、糸Y1からなるステッチ、糸Y5からなるステッチ、及び糸Y3からなるステッチが連続して形成されることが示されている。

(3) 甲第3号証(特開平6-49763号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「この発明は一般的にはカーペットや室内装飾品等の模様入織物製品製造用のタフティング装置に関し、より具体的には、複数の糸が選択的に送られる、互いに横断方向に間隔をおいて設けられた複数の中空針と、隣接する中空針の間隔に相当する距離だけ基布を横断方向に移動させる基布移動装置を備え、この装置によって基布を移動させるとき、隣接する針によって形成された縫い目間の境目が見えないようにしたタフティング装置に関する。」(第2頁右欄第42〜50行)
・「本発明においては、基布を送る方向に対して傾斜した線に沿ってタフトを形成し、各傾斜線は基布を第1の方向に動かし始める地点から、基布の移動方向を横断方向の逆向きに転換する地点まで続いている。各傾(「径」は誤記)斜線の各端部に形成される最後のタフトは、基布を同じ方向に動かすときに形成される隣接する傾斜線から横断方向にずれた位置に形成される。」(第3頁右欄第35〜41行)
・「基布は駆動手段を用いて、横断方向には間欠的に移動させ、横断方向の移動が停止する毎に基布にタフトを植え込み、一方送り方向には基布は連続的に移動させる。一本の針によって各傾斜線に沿って形成するタフトの数は、製品のタフト寸法、すなわち横断方向に隣接するタフト間の距離によって決まる。タフトによって形成された各傾斜線の端部、すなわち基布の移動方向を横断方向の逆向きに転換する地点が、互いに横断方向にずれた位置になるように駆動手段を制御することによって、各針によって同じ形の山形袖章状模様を周期的に形成する。」(第3頁右欄第42行〜第4頁左欄第2行)
・「隣接する針によって形成されるタフト列間の境目の位置が横断方向に変化する。タフトを斜めの線に沿って形成するとともに、タフト形成方向の転換点を横断方向にずらして設けることにより、隣接する針によって形成されたタフトの間の境目が筋状に見えるという問題を完全に解消することができる。」(第7頁右欄第25〜31行)
これらの記載事項、及び、1本の針によって形成されたタフトを表す第5図に示された内容によれば、上記甲第3号証には、
「横断方向に間隔をあけて設けた複数の中空針と、隣接する中空針の間隔に相当する距離だけ基布を横断方向に移動させる基布移動装置を備えたタフティング装置により形成されるものであって、基布と、基布にタフト化されたパイルとからなる模様入織物製品において、隣接する各針によって同じ形の山形袖章状模様を周期的に形成することにより、基布幅方向のタフトステッチの列が、基布幅方向に対して斜めに若干傾斜して、一方の折返し点から幅方向に所定の一定間隔及び長手方向に小間隔をおいた他方の折返し点に至るようにジグザグ状に形成されていて、全体として基布長手方向に延びるタフトステッチの帯状列を形成しており、タフトステッチの長手方向に隣り合った前記折返し点を結ぶ境界線は、前記折返し点間ピッチよりも大きいピッチのジグザグ状境界線を形成している模様入織物製品」の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)
が記載されているものと認められる。

(4) 甲第4号証(特開平1-227715号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「基布にタフティングマシンによるパイル柄模様とパイルがタフトされていない模様部とが形成され、且つ該模様部の基布面に前記タフティングマシンによるパイル柄模様とは異色又は異質の糸のパイルが手作業により植え付けていることを特徴とするカーペット。」(特許請求の範囲の請求項1)
・「本発明は新規な柄模様を有するカーペット(ラグ、マット類を含む)及びその製造方法に関するものである。」(第1頁右下欄第14〜16行)
・「カーペット主体の前記無パイル柄模様部に手作業によって前記タフティングマシンによるパイル柄模様とは異色又は異質のパイルを植え付ける」(第2頁左下欄第9〜12行)
・「基布(1)にこのようなパイル柄模様部(2)(3)及び模様部(4)と無パイル柄模様部(5)とをタフティングマシンの針群の各針の作動、不作動によって形成するには、予め、これらの模様(2)〜(5)を設けるべき基布(1)の部分において、パイルによる模様(2)〜(4)や無パイル柄模様(5)に対応する針(a)(b)が前記のように作動、不作動となるようにコンピュータに記憶させておき、カーペット製造時にコンピュータからの指令で上記したような各針の動きを行わせるものである。」(第3頁右下欄第4〜13行)
・「本発明の請求項(3)に記載したカーペットの製造方法によれば、タフティングマシンの並列針に交互に異色又は異質の糸条を挿通してこれらの針を一斉に或いは同色又は同質の糸条を挿通している針のみを作動させることにより基布にパイル柄模様をタフトしていくと共にそのタフト中に所望数の針群を不作動とすることによって基布の適所に基布面が露出した無パイル柄模様部を有するカーペット主体を形成する」(第5頁左上欄第12〜20行)
・「本発明の製造方法によれば、・・・パイルされない柄模様部を形成することができ、この柄模様部と上記タフティングマシンによるパイルをタフトされた柄模様部とによって種々の図柄や模様を形成できると共に該図柄や模様の強調したい部分に無パイル柄模様部を設けておくことができる。」(第5頁右上欄第10〜18行)

(5) 甲第5号証(特開平4-71522号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「基布と、該基布にタフト化されたマットパイルと、基布の非パイル面に施されたゴムバッキングとから成るレンタル用マットにおいて、該基布がポリエステルフィルム状ヤーンの織布と繊維がフィラメントタイプまたはスパンタイプからなる綿状層とを有し且つ綿状層が前記織布を通してニードルパンチングされて成る複合体であり・・・波うちを防止したレンタル用マット。」(特許請求の範囲)
・「従来、戸外のダスト類が靴底等に付着して、屋内に侵入するのを防止するため、ダストコントロール用マットが広く使用されている。このダストコントロール用マットは、・・・レンタルシステムで運用されている。」(第1頁右下欄第4〜11行)
・「織布の織り組織は特に制限はないが、平織りで十分である」(第3頁右上欄第5〜6行)
・「基布に打ち込むパイル糸としては、・・・アクリル繊維、ナイロン繊維、・・・マルチフィラメント糸を用いることができる。タフト化されたパイル長は一般に3乃至20mmの範囲にあるのがよく」(第3頁右下欄第6〜12行)
・「パイルの織度も大幅に変化でき、パイルトータルデニールとして500乃至10000デニールの範囲にある。パイルの打ち込み条件は公知のものでよく、ゲージ1インチ当たり2乃至20、ステッチは1インチ当たり4乃至20の範囲にあるのがよい。」(第3頁右下欄第16行〜第4頁左上欄第1行)

4.対比・判断
(1) 本件発明1と上記甲第3号証発明とを対比すると、後者の「基布にタフト化されたパイル」及び「織物製品」は、その作用・機能からみて、前者の「基布にタフト化されたマットパイル」及び「マット」に相当している。
そして、上記甲第3号証発明は、「模様入」織物製品であるから、「パイルは互いに色相の異なる複数のパイル面を有し」たものといえる。
さらに、上記甲第3号証発明における「タフトステッチの帯状列」は、その形状から、「パイルには全く死糸がない」状態を生ずるものであることが明らかである。
したがって、両者は、
「基布と、基布にタフト化されたマットパイルとを備えたマットにおいて、基布幅方向のタフトステッチの列が、基布幅方向に対して斜めに若干傾斜して、一方の折返し点から幅方向に所定の一定間隔及び長手方向に小間隔をおいた他方の折返し点に至るようにジグザグ状に形成されていて、全体として基布長手方向に延びるタフトステッチの帯状列を形成しており、タフトステッチの長手方向に隣り合った前記折返し点を結ぶ境界線は、前記折返し点間ピッチよりも大きいピッチのジグザグ状境界線を形成しており、マットパイルは互いに色相の異なる複数のマットパイル面を有し、マットパイルには全く死糸がな(い)マット」
の点で一致するものの、少なくとも、本件発明1が、「隣り合った色相の異なるマットパイル面間には少なくとも1個の非ステッチ部が介在している」構成を有するのに対し、甲第3号証発明は、そのような構成を有していない点で相違する。

(2) 上記相違点について、以下検討する。
本件発明1の上記相違点に係る構成(以下、「本件特定構成」という。)の技術的な意義については、平成14年(行ケ)第39号判決で、『相違点3に係る本件発明1の構成とは、「隣り合った色相の異なるマットパイル面間には少なくとも1個の非ステッチ部が介在している」との構成である。 本件明細書(甲第2号証)には、「レンタル用靴拭きマットは、・・・ファッション性のあるものが好まれており、タフトとして複数の色相のタフトパイルを用いた色柄のものが使用されている。」(【0004】)、及び「本発明の目的は、・・・色柄が鮮明で、・・・レンタル用色柄靴拭きマットを提供するにある。」(【0009】)、及び「隣り合った色相の異なるマットパイル面間に、少なくとも1個の非ステッチ部を介在させることにより、マットパイル面の境界部分における色相の異なるマットパイルの混在を有効に防止することができ、これにより、鮮明で明確なパターンをマット表面に形成することができる。」(【0024】、【0052】)との各記載のあることが認められる。 これらの記載によれば、相違点3に係る本件発明1の構成は、複数の色相のタフトパイルを用いることを前提とし、異なる色相の境界部における色相の異なるマットパイルの混在を防止するために採用された構成であって、同構成により鮮明で明確な色パターンが得られるものと認められる。すなわち、相違点3に係る本件発明1の構成は、複数の色相のタフトパイルを用いる構成と、非ステッチ部を設ける構成との技術的関連に意義を有する技術構成であって、具体的には、異なる色相の境界部には必ず非ステッチ部を形成することを意味し、非ステッチ部が存在する境界部がひとつあればよいというものでないことは明らかである。』と判示されているとおりである。

(3) 甲第2号証を参照するに、同号証の第4頁左上欄に記載された事項中の「異なる色・・・の糸を使った」、並びに「0本」及び「タフトを省略する」が、本件発明1の「色相の異なるマットパイル面」、並びに「非ステッチ部」にそれぞれ相当することは明らかであって、甲第2号証には、複数の色相のタフトパイルを用いる構成と、非ステッチ部を設ける構成が個別に記載されていること自体は認めることができる。しかし、それら技術を関連づけた上、異なる色相の境界部には必ず非ステッチ部を形成する技術までもが、そこに記載されていると認めることはできない。
また、甲第2号証の第4図に示された内容につき、「領域230に示すように各連続タフトについて異なる糸(例えばY1、Y5及びY3)」(第8頁左下欄)との記載に照らすならば、「異なる糸」を「異なる色の糸」と解するとしても、異なる色の糸であるY1、Y5及びY3間に非ステッチ部が形成されていないから、異なる色相の境界部に必ず非ステッチ部を形成する技術が記載されているということはできない。

(4) また、甲第4号証を参照するに、同号証の第2頁左下欄、第5頁左上欄、第5頁右上欄の各記載によれば、「無パイル柄模様部」とは、タフティングマシンによってはパイルが形成されない部位であるが、手作業によって別のパイルが形成される部位であるから、これを本件発明1の「非ステッチ部」に相当すると直ちにいうことはできない。

(5) 結局、甲第2号証及び甲第4号証のいずれも、本件特定構成を記載したものではないから、これら証拠によってその構成が知られていたものと認めることもできず、さらに甲第1号証及び甲第5号証を参酌しても、この事実を認めることはできはない。

(6) なお、請求人は、「甲第3号証記載のタフティング装置においても、・・・コンピュータなどの制御装置により選択された糸が所定の位置に植え込まれるようになっているので、所定の位置において糸を選択しないようにすることで非ステッチ部を設けることも技術的に包含されている。」(審判請求書第22頁第5〜8行)と主張している。
しかしながら、甲第3号証は、非ステッチ部を設けることが可能なタフティング装置を開示するものとしても、単にそのことをもって、本件特定構成を開示しているとまではいえないことが明らかであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(7) そうすると、本件発明1が、上記甲各号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(8) また、本件発明1を引用すると共にさらなる構成を限定付加した本件発明2ないし8についても、本件発明1と同様に、上記甲各号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし8の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-10-29 
結審通知日 1999-11-09 
審決日 1999-11-15 
出願番号 特願平6-44444
審決分類 P 1 112・ 121- Y (A47L)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 大元 修二
藤原 直欣
岡田 孝博
和泉 等
登録日 1997-06-27 
登録番号 特許第2667115号(P2667115)
発明の名称 レンタル用靴拭きマット  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 三好 秀和  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ