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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1096077
審判番号 不服2002-17863  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-17 
確定日 2004-05-06 
事件の表示 平成2年特許願第189289号「光ファイバ伝送ラインにおける光信号増幅装置」拒絶査定に対する審判事件[平成3年4月26日出願公開、特開平3-101718]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明
本願は平成2年7月17日(イタリア国での出願に基づくパリ条約による優先日: 平成1年7月17日)に出願されたものであり、請求項1〜28のうち、請求項1に係る発明は、平成14年3月1日及び平成14年10月17日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて以下のとおりのものと認められる。
「光信号を遠距離光ファイバ伝送ラインシステムにおいて伝送する光信号伝送システムにおいて、
入力と出力を有する、光信号を増幅する光学的増幅器と、
第1の端ともう一方の第2の端とを有する第1の光伝送ラインファイバと、
第1の端ともう一方の第2の端とを有する第2の光伝送ラインファイバと、
該光学的増幅器の入力が前記第1の光伝送ラインファイバの前記第2の端に光学的に結合され、該光学的増幅器の出力が前記第2の光伝送ラインファイバの前記第1の端に光学的に結合され、
該光学的増幅器が干渉またはビート現象による干渉型ノイズにより影響され、15dB以上の利得を有し、
該第1の光伝送ラインファイバと該第2の光伝送ラインファイバの少なくとも1つが、前記光学的増幅器内の干渉型ノイズを発生させるような強さの、前記1つのラインファイバの内部に生じる光の後方散乱により生じるノイズ信号を有するような、そして信号が前記1つのラインファイバの1つの端から他の端に進むことにより減衰されるような、該第1の端と第2の端の間の長さを有し、
前記光学的増幅器と前記第1の光伝送ラインファイバ又は前記第2の光伝送ラインファイバの間のいずれかにおいて、前記光学的増幅器のすぐ上流側又はすぐ下流側に直列に光学的に結合され、前記光信号の伝送中の前記光学的増幅器内における干渉型ノイズの発生から前記ノイズ信号を防ぐための一方向性光学的アイソレータと、
該一方向性アイソレータが、前記1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有し、
該光伝送システムが、前記一方向性光学的アイソレータがない場合には、前記光信号および干渉型ノイズが前記第2のラインファイバに伝送されるものである、
ことを特徴とする光信号を遠距離光ファイバ伝送ラインシステムにおいて伝送する光信号伝送システム。」(以下、「本願発明」という。)
なお、平成14年10月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、「前記光学的増幅器内おける干渉型ノイズ」と記載されているが、「前記光学的増幅器内における干渉型ノイズ」とすべき明らかな誤記であるので、本願発明を上記のとおりに認定した。

【2】拒絶理由
これに対して、当審が平成15年7月31日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。
『拒絶理由1
本願の請求項1〜28に係る発明は、それらの発明を特定する事項として、一方向性アイソレータが、1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有することを技術事項として含むものである。…しかし、一方向性アイソレータが、1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有するという技術事項は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、その内容が不明である。より具体的に不明の点を以下に説明する。…従って、本願の明細書は特許法第36条第4項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
拒絶理由2
本願の請求項1〜28に係る発明の技術事項である、「レイリー散乱による反射率」及び「一方向性アイソレータの反射率」を、一方向性アイソレータが、1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有する関係とすることにより、緩衝ノイズが、アイソレータの反射率を単に低減させるよりも飛躍的に低減できる理由が発明の詳細な説明に記載されていない。また、一方向性アイソレータが、1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有する関係とするためのアイソレータの具体的な実施例が示されておらず、目的達成のための技術事項が発明の詳細な説明からは不明である。さらに、「レイリー散乱による反射率」及び「一方向性アイソレータの反射率」の実現可能な値が発明の詳細な説明に示されていない。従って、当業者が本願の請求項1〜28に係る発明を容易に実施できる程度に技術事項を明細書に開示していないので、本願の明細書は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。
拒絶理由3
請求人は、審判請求の理由において、「本発明は、単なる低反射アイソレータを用いることを特徴とするものではなく、光学的増幅器内おける干渉型雑音の発生を防止するという観点からレイリー散乱との関係においてアイソレータの反射率を特定している点を大きな特徴とするものである。本発明の発明者は、「レイリー散乱による干渉性雑音」という問題(課題)、及び光アイソレータの反射率とレイリー散乱による反射率との関係について初めて着目し、そして考察を重ねた結果、「一方向性アイソレータが、前記1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有」するという本発明の構成を採用することで、干渉性雑音を効果的に防止できることを見出した。このような本発明の構成は、レイリー散乱に基づく干渉型雑音という課題を認識せずして想到できるものではない。」と主張するが、拒絶理由1,2で説明したように、本願の明細書は、請求人の主張する課題を開示しているが、課題を解決するための技術事項を開示していないので、仮に記載不備を黙認するとしたならば、本願の請求項1〜28に係る発明は、せいぜいアイソレータの反射率を低くした程度のものと認められ、平成10年9月14日付拒絶理由通知書にて示した引用例のものから当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。』

【3】平成10年9月14日付け拒絶理由通知書で引用された刊行物
平成10年9月14日付け拒絶理由通知書で引用された公知の刊行物1、2及び、平成14年6月3日付けの拒絶査定の備考で周知技術として引用された刊行物3、4には以下の事項が開示されている。
【3-1】刊行物1:特開昭52-155901号公報
特許請求の範囲
「単一モード光ファイバにおいて全分散がほゞ1psec/kmÅ以下となる波長帯1.2〜1.6μmの単一周波数の光搬送波を用い、単一モード光ファイバと、アイソレータを組合わせることにより安定化した光増幅器とにより構成することを特徴とする光ファイバ伝送方式。」
2頁右下欄2行〜3頁右上欄7行
「光ファイバの損失は0.5〜1dB/km程度に下げられるとしても、100kmの伝送では50〜100dBの減衰を受ける。よって途中に中間中継器を入れる必要がある。しかし、先に述べたように光-電気信号変換器と再生中継電子回路とを用いると中継器規模が増大するのみならず、種々の欠点を生ずるが、上述したように光ファイバによるパルス広がりが少ない場合は、再生中によりパルス幅を狭める必要がなく、光直接増幅による光レベルの増幅のみを行える。光増幅器としては、半導体レーザを用いれば実現が可能である。本発明で利用される1.2〜1.6μmの波長域ではInxGa1-xAsやGaAs1-xSbxなどのIII-V族化合物半導体による半導体レーザを光増幅器として用いることができる。これ等半導体レーザを増幅器として用いる場合に増幅器端面の反射や中継器内、光ファイバ線路接続点からの反射によって増幅器の不安定性が生じ、発振をおこすおそれがある。この不安定性を除去するために、増幅器の前、後もしくは前後に非相反生のアイソレータを挿入することが有効である。…しかし上記1.2〜1.6μmの波長域ではこのY3Fe5O13は透明であり、これはその内部磁界で作用し、外部磁場を与える必要がなく、小形で高性能のアイソレータとして作用する。第3図はこの発明による光ファイバ伝送方式における中継器部分の一例を示し、半導体レーザ増幅器4はアイソレータ5をそれぞれ介してファイバ6に結合し、そのファイバ6を伝送される光信号を増幅器4で増幅する。以上詳細に述べたように、この発明によれば単一モード光ファイバ線路を用いて、波長1.2〜1.6μmの領域で単一モード発振とする光発振器を用いて全分散が著しく小さく、パルス幅の広がりが長距離にわたり無視でき、よって光増幅器を使用でき、しかも上記波長帯に選定しているため、外部磁界を必要としない非相反生のアイソレータを使用でき、つまりアイソレータと光増幅素子と組合わせた高安定な光増幅器を中間中継器として使用することによって経済性及び信頼性に優れた光ファイバ伝送方式が構成できる。」
3頁右上欄8行〜10行
「伝送網においては伝送信号の分岐、挿入を行うためにほゞ100km毎に端局中継器をおくのが普通である。」

【3-2】刊行物2: Electronics Letters, 25〔14〕, pp.885-887
(1)885頁右欄最下行から29行〜同最下行から26行には、「半導体レーザ増幅器やEr3+-ドープファイバ増幅器のような光学的増幅器は、200km以上のリピータのない高速直接検出システムとして大変魅力的である」旨記載されている。
(2)885頁右欄最下行から4行〜886頁30行及びFig.1には、「この報告では、周期的なチューナブル・ウエイブガイド・フィルターと干渉薄膜フィルターとを狭帯域バンドパス・フィルターとして用いた16チャンネル光FDM配信/伝送システムにおいてEr3+-ドープファイバ増幅器を用いた同時増幅の試みを実証する。…実験装置: Er3+-ドープファイバ増幅器を用いたFDM配信/伝送実験の模式図はFig.1に示される。1534nmの波長で動作する16個のDFBレーザダイオードが実験で使用された。それらの周波数は、基準周波数としてリング共振器を用いた多チャンネル周波数安定化装置により5GHzの間隔で安定化された。レーザダイオードの内4個はLiNbO3変調器により622Mbit/s の215-1 NRZ疑似ランダムビット列で強度変調された。光波は16×16スター・カップラーにより多重化され分配された。スター・カップラーの出力ポートの1つの多重化された信号は90mの30ppmEr3+-ドープファイバ増幅器に結合された。全出力80mWの1.48μmレーザダイオードがポンプレーザとして使用された。光アイソレータが、レイジングを回避するために、ファイバ増幅器の入力ポートと出力ポートとに挿入された。増幅された信号は、13km長の単一モードファイバ(SMF)と通じて伝送された。信号がファイバを通じて伝送された後、帯域幅2nmの干渉薄膜フィルターからなる光バンドパス・フィルター(OBPF)が、Er3+-ドープファイバ増幅器からの自然発光を排除するため使用された。多重化信号の1つは、ウエイブガイド・周波数-選択・スイッチ(FSSW)を用いて選択された。FSSWは、直列に接続された複数のチューナブル・周期・フィルターからなり、チャンネル間の漏話は-20dB以下であった。FET回路を持つGaInAs APDが直接検出の受信器として使用された。」ことについて記載されている。
(3)886頁右欄31行〜35行には、「実験においてチャンネルあたり15dB以上の信号利得が達成された。実験結果に基づく損失の検討から、16×16スター・カップラーにさらに1×32スター・カップラーを追加して、配信先の数を増加することができる。(例えば配信数512)」ことについて記載されている。

【3-3】刊行物3:実願昭54-6711号(実開昭55-108415号)のマイクロフィルム
明細書1頁最下行から3行〜最下行から2行
「本考案は光波領域でのアイソレータ、特に光ファイバ通信等に適した光アイソレータに関する。」
明細書4頁12行〜5頁7行
「光アイソレータが有効に機能するためには、逆方向挿入損失が大きいばかりでなく、光アイソレータ自体の反射率が極めて低くなければならない。というのは、光アイソレータを通過した光ビームが何らかの原因で反射されて戻り、光アイソレータに逆方向から入射した場合にのみ、逆方向挿入損失量の減衰が生ずるものであり、光アイソレータ自体の反射(よりくわしく言えば、光ビームがファラデー回転素子に入射するまでに通過する途中の光学部品で生じる反射)は、逆方向挿入損失とほとんど関係なく発生するからである。従来は、一般に光回路の反射を除くために、空気中に配置された光学部品の1つ1つに誘電体多層膜の反射防止膜を施したり、あるいは光学部品を互いに光学接着剤で貼り合わせて屈折率の整合を取ったりするなどの方策が採用されていた。」

【3-4】刊行物4:特開昭57-185013号公報
2頁左下欄最下行から5行〜右下欄4行、第5図
「第5図を参照すると、この発明の一実施例に係るアイソレータは永久磁石7、この永久磁石7内に位置付けられたファラデー効果を有する素子8とを備えている。この素子8は光軸9に沿って配置されており、ここでは、第5図の右方向から入射した光のみを左方向に不可逆的に出射するものとする。ファラデー効果素子8の出射側には旋光性物質10が配置され、他方、入射側には検光子11が配置されている。」
3頁左下欄8行〜17行
「各構成素子は使用波長においての反射防止膜を形成する。以上のように、この発明によれば、…精度の高いアイソレータを構成できた。」

【4】対比
本願発明と刊行物1に記載された発明とを比較する。
刊行物2の、記載【3】(1)から、半導体レーザによる増幅器もファイバ増幅器もいずれも光学的増幅器の概念に含まれると解されるから、刊行物1には、
「光信号を伝送する光ファイバ伝送方式において、
アイソレータ5をそれぞれ介してファイバ6に結合し、そのファイバ6を伝送される光信号を増幅する光学的増幅器(実施例では半導体レーザからなる増幅器4)を含み、増幅器端面の反射や中継器内、光ファイバ線路接続点からの反射によって増幅器の不安定性の発生を防ぎ、アイソレータと光増幅素子と組合わせた高安定な光増幅器を中間中継器として使用することによって、優れた経済性及び信頼性を達成する光ファイバ伝送方式。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、刊行物1の記載からみて、引用発明における「光ファイバ伝送方式」は、100km毎に中継器を置く伝送網に使用するものであるから「光信号を遠距離光ファイバ伝送ラインシステムにおいて伝送する光信号伝送システム」であり、第3図において、右方に示されるファイバ6は、信号がその左端から右端に進むことにより減衰されるような該右端と左端の間の長さを有することは明らかである。アイソレータ5を使用しない場合に、増幅器端面の反射や中継器内、光ファイバ線路接続点からの反射は、増幅器の不安定性を生じさせる強さのものである。また、引用発明における「光学的増幅器」は、2つのアイソレータ5に面する「入力と出力」を有し、2つのファイバ6はそれぞれ2つの「端」を有することは明らかである(第3図参照)。そして、第3図において、左方に示されるファイバ6の右側の端は、アイソレータ5を介して光学的増幅器の入力に直列に光学的に結合され、光学的増幅器の出力が右方に示されるファイバ6の左側の端に光学的に結合されている。
さらに、引用発明の以下の技術事項A〜Gは、それぞれ、本願発明の以下の技術事項a〜gに相当する。
A:「左方に示されるファイバ6」、
B:「右方に示されるファイバ6」、
C:「左方に示されるファイバ6の右側の端」、
D:「右方に示されるファイバ6の左側の端」、
E:「増幅器の不安定性」、
F:「光ファイバ線路接続点からの反射」、及び
G:「アイソレータ」
a:「第1の光伝送ラインファイバ」、
b:「第2の光伝送ラインファイバ」、
c:「第1の光伝送ラインファイバの前記第2の端」、
d:「第2の光伝送ラインファイバの前記第1の端」、
e:「干渉またはビート現象による干渉型ノイズ」による「影響」、
f:「ラインファイバの内部に生じる光の後方散乱によるノイズ信号」、及び
g:「一方向性光学的アイソレータ」又は「一方向性アイソレータ」
よって、両者は、
「光信号を遠距離光ファイバ伝送ラインシステムにおいて伝送する光信号伝送システムにおいて、
入力と出力を有する、光信号を増幅する光学的増幅器と、
第1の端ともう一方の第2の端とを有する第1の光伝送ラインファイバと、
第1の端ともう一方の第2の端とを有する第2の光伝送ラインファイバと、
該光学的増幅器の入力が前記第1の光伝送ラインファイバの前記第2の端に光学的に結合され、該光学的増幅器の出力が前記第2の光伝送ラインファイバの前記第1の端に光学的に結合され、
該光学的増幅器が干渉またはビート現象による干渉型ノイズにより影響され、
該第1の光伝送ラインファイバと該第2の光伝送ラインファイバの少なくとも1つが、前記光学的増幅器内の干渉型ノイズを発生させるような強さの、前記1つのラインファイバの内部に生じる光の後方散乱により生じるノイズ信号を有するような、そして信号が前記1つのラインファイバの1つの端から他の端に進むことにより減衰されるような、該第1の端と第2の端の間の長さを有し、
前記光学的増幅器と前記第1の光伝送ラインファイバ又は前記第2の光伝送ラインファイバの間のいずれかにおいて、前記光学的増幅器のすぐ上流側又はすぐ下流側に直列に光学的に結合され、前記光信号の伝送中の前記光学的増幅器内における干渉型ノイズの発生から前記ノイズ信号を防ぐための一方向性光学的アイソレータと、
該光伝送システムが、前記一方向性光学的アイソレータがない場合には、前記光信号および干渉型ノイズが前記第2のラインファイバに伝送されるものである、
ことを特徴とする光信号を遠距離光ファイバ伝送ラインシステムにおいて伝送する光信号伝送システム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本願発明では、15dB以上の利得を有する光学的増幅器を用いているのに対して、引用発明では、利得を規定していない増幅器である点。
相違点2: 本願発明では、一方向性アイソレータが、1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有するのに対して、引用発明では、一方向性アイソレータの反射率と1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率との関係を規定していない点。

【5】判断
(1)相違点1について
刊行物2には、光学的増幅器とレイジングを回避するための一方向性アイソレータとラインファイバとが引用発明の配置と同じ関係で配置された光ファイバ伝送ラインシステム(【3-2】(2))が示され、そこで用いられる光学的増幅器として引用発明の実施例で使用されたような半導体レーザと刊行物2の実験で使用されたようなファイバ増幅器とがあること(【3-2】(1))が例示されている。そして、実験に用いられた光ファイバ伝送ラインシステムのファイバ増幅器の信号利得が15dB以上であること(【3-2】(3))が示されている。
したがって、引用発明の増幅器として刊行物2の実験に示されたように15dB以上の利得を有する光学的増幅器とすることは当業者が格別困難なく想到できた事項である。
(2)相違点2について
2-1)アイソレータの反射率とレイリー散乱の反射率の関係
本願発明の、一方向性アイソレータの反射率と1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率との関係及び、その関係が「1つのラインファイバの内部に生じる光の後方散乱により生じる、干渉またはビート現象による干渉型ノイズ」に及ぼす影響について、それらの技術事項が明りょうに本願の明細書に記載されていないことによる記載不備を指摘した、拒絶理由1、2(【2】参照)に対して、平成15年10月31日付け意見書において、請求人は『本願における「レイリー散乱による反射率」は、ラインファイバという1つの媒体でのレイリー散乱の反射率を指すものであり、模式図におけるAmp2とFiber5のように異なる媒体の光エネルギーの比率を指すものではないことは、当業者において明らかです。また、「一方向性アイソレータの反射率」は、一方向性アイソレータに対して入光する光エネルギーAと、その入光する光エネルギーのうち反射する光エネルギーBとの比率B/Aを指し、その入光する光エネルギーAがUpwardsの光エネルギーなのかDownwardsの光エネルギーなのかは反射率の定義に関係がないことも、当業者において明らかです』と説明している。
また、実施可能要件について指摘した前記拒絶理由2に対して、請求人は前記意見書において、『当業者であれば、例えば光アイソレータの光学要素に反射防止膜を設けるなどの従来技術を用いて、光アイソレータの反射率を低減させることも実施可能です。…「『レイリー散乱による反射率』及び『一方向性アイソレータの反射率』の実現可能な値が発明の詳細な説明に示されていない」ことは、本発明の実施可能性に何ら影響を与えるものではありません。すなわち、当業者において、「一方向性アイソレータが、前記1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有」することは、そのような関係さえ明示されれば、具体的な数値が示されずとも、十分に実施することが可能と考えます。』とも説明している。
この説明によれば、レイリー散乱の反射率が特定されていない通常のラインファイバを用いて、光アイソレータの光学要素に反射防止膜を設けるなどの従来技術を用いると、それにより、一方向性アイソレータの反射率と1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率との間の、本願発明の関係を満たしたものとなるのである。
2-2)想到容易性
拒絶査定の備考で指摘された刊行物3、4に示されているように、アイソレータを有効に機能させるため、反射防止膜を施してアイソレータ自体の反射率を小さくすることは周知の技術であった。したがって、ラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率との関係を考慮せずとも、前記周知技術の目的をもって、引用発明の一方向性アイソレータに反射防止膜を施して、光学的増幅器とアイソレータとの界面で光学的増幅器側に進行(逆進)する光エネルギーを小さくしようとする動機が生じるのは当然であり、引用発明の一方向性アイソレータに反射防止膜を施してアイソレータ自体の反射率を小さくすることはことは、当業者が設計上何らの困難なく採用できた事項である。これは、前記「2-1)アイソレータの反射率とレイリー散乱の反射率の関係」を考慮すると、一方向性アイソレータの反射率と1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率との間の、本願発明の関係を満たす状態を、引用発明及び周知の事項から、当業者が容易になし得たことを意味している。
2-3)反射率B/Aについて
引用発明に周知の反射防止膜を施した場合、刊行物1の第3図において、一方向性アイソレータ5に対して右方へ入光する光エネルギーをA、その入光する光エネルギーのうちアイソレータ5の方から光増幅器4に向かって左方へ入光する光エネルギーをBとする。この場合、アイソレータ5の端面自体で生じる反射光(以下、「B1」という。)と、前記Aのうち前記端面で反射されなかった光エネルギーがアイソレータ5の端面を通過しラインファイバに入光して生じ、アイソレーター5を介して再び光増幅器4 に到達する光エネルギーであるところの、ラインファイバ内のファイバ線路接続点からの後方散乱によるもの (以下、「B2」という。)やラインファイバにおけるレイリー散乱の後方散乱によるもの(以下、「B3」という。)との和がBとなる。すなわち、B=B1+B2+B3である。そして、光エネルギーBが、本願発明において除去すべき干渉型ノイズによる影響を発生する原因となるのである(本願の明細書第7頁の[発明が解決しようとする課題]を参照)。
ここで、アイソレータには周知の技術事項を適用して反射防止膜を施しているから、B1はほぼ零に近い値となる。また、B3自体は用いるラインファイバの構造、組成、製法等に依存するレイリー散乱の大きさに応じて変化するが、B2とB3はアイソレータを逆進するからアイソレータ本来の光学的性質により実質上、零に低下する。すなわち、周知の事項を適用した引用発明の場合、一方向性アイソレータに入光する光エネルギーAに対して、干渉型ノイズによる影響を発生する原因となる光増幅器側へ反射する光エネルギーBは、結局B1となるから、反射防止膜の効果でほぼ零となる。この結果は、本願発明の場合と同様である。
2-4) 一方向性アイソレータの反射率をラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率を用いて特定する意義
上記2-3)で検討したように、光エネルギーBは、レイリー散乱による反射に依存しない。このため、アイソレータの反射率をレイリー散乱の反射率により規定することの技術的意義についての疑問を、前記拒絶理由2で指摘したが、前記意見書には、それに対する技術的説明はない。
また、ラインファイバの構造、材料、製造方法等に応じて、様々の値をとるレイリー散乱の大きさが、本願発明において特定されていないから、「一方向性アイソレータが、1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率より低い反射率を有し」という規定は、「一方向性アイソレータの反射率」を技術的に特定することにはならない。
したがって、意見書の内容を考慮しても、一方向性アイソレータの反射率と1つのラインファイバにおけるレイリー散乱による反射率との関係を特定した点に技術的意義を見いだすことはできない。なお、ラインファイバは不可避的にレイリー散乱による後方散乱を伴うことは当業者の常識である。この点について必要であれば、副島俊男他著「新版・光ファイバ通信」、(株)電気通信技術ニュース社、昭和58年6月12日2版発行、67〜68頁、「(1)散乱損失」の項を参照されたい。
以上のとおりであるから、相違点2は、引用発明と比較した場合、技術事項として意味を持つ相違点ではない。
(3)そして、本願発明の、前記相違点1、2に係る構成によりもたらされる効果は、刊行物1、2の記載及び周知の事項から予測できる範囲のものである。
よって、本願発明は刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

【6】むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-12-08 
結審通知日 2003-12-09 
審決日 2003-12-22 
出願番号 特願平2-189289
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 正金高 敏康  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 向後 晋一
町田 光信
発明の名称 光ファイバ伝送ラインにおける光信号増幅装置  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大賀 眞司  

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