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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1096261
異議申立番号 異議2002-72527  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-15 
確定日 2004-02-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3274953号「光学用合成石英ガラス材及びその製造方法、並びに該光学用合成石英ガラス材を用いた合成石英ガラス製品」の請求項1ないし4、6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3274953号の請求項1ないし3,6に係る特許を維持する。 
理由 1.訂正の適否
1-1.訂正の内容
(a)訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】 中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布と内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布とが形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であることを特徴とする光学用合成石英ガラス材。」を
「【請求項1】 中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布と内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布とが形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であり、かつ塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であることを特徴とする光学用合成石英ガラス材。」
と訂正する。
(b)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(c)訂正事項c
特許請求の範囲の
「【請求項5】 OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、少なくとも1500℃以上の温度から室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法。
【請求項6】 請求項1〜4のいずれかの項に記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されていることを特徴とする合成石英ガラス製品。」を
「【請求項5】 OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、少なくとも1500℃以上の温度から室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法。
【請求項6】 請求項1〜3のいずれかの項に記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されていることを特徴とする合成石英ガラス製品。」
と訂正する。
(d)訂正事項d
段落0014の
「【課題を解決するための手段】
本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布と内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布とが形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であることを特徴としている(1)。」を
「【課題を解決するための手段】
本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布と内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布とが形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であり、かつ塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であることを特徴としている(1)。」
と訂正する。
(e)訂正事項e
段落0017を削除する。
(f)訂正事項f
段落0018,0019の
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法は、上記(1)〜(4)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成することを特徴としている(5)。
また、本発明に係る合成石英ガラス製品は、上記(1)〜(4)記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されていることを特徴としている(6)。」を
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法は、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成することを特徴としている(4)。
また、本発明に係る合成石英ガラス製品は、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されていることを特徴としている(5)。」
と訂正する。
(g)訂正事項g
段落0029の
「塩素の濃度についても、スート形成後の加熱処理によってかなりの程度除去することが可能であり、最終的な光学用合成石英ガラス材の濃度は1ppm以下であることが好ましい。前記塩素の濃度が1ppmを超えると、屈折率の分布に影響が現われ、OH基濃度の分布や仮想温度分布のコントロールにより屈折率を小さく保つのが難しくなる場合がある。」を
「塩素の濃度についても、スート形成後の加熱処理によってかなりの程度除去することが可能であり、最終的な光学用合成石英ガラス材の濃度は1ppm以下であることが好ましい。前記塩素の濃度が1ppmを超えると、屈折率の分布に影響が現われ、OH基濃度の分布や仮想温度分布のコントロールにより屈折率の変動幅(Δn)を小さく保つのが難しくなる場合がある。」
と訂正する。
(h)訂正事項h
段落0053の
「前記均温化処理の後、5℃/分未満、好ましくは0.1〜4℃/分未満の温度で冷却することにより光学用合成石英ガラス材の仮想温度分布を調整する。」を
「前記均温化処理の後、5℃/分未満、好ましくは0.1〜4℃/分未満の速度で冷却することにより光学用合成石英ガラス材の仮想温度分布を調整する。」
と訂正する。
(i)訂正事項i
段落0054の
「室温における石英ガラスの密度、屈折率等の特性は、そのガラスが過去の製造過程における高温度域及び前記高温度域から室温までの冷却過程での熱履歴を反映したものであり、仮想温度(Fictive Temperature)とは、そのガラスが過去の熱履歴のなかで、なじまされたときの温度、すなわち上記特性値が決定されたときの温度をいう(R.Bruckner,J.Non-Crystaline Solids,5,1970, pp.133-134) 。この仮想温度の概念は、石英ガラスのみならず、ガラス全般に当てはまる概念であり、もう少し簡略にいうならば、室温のガラス密度、屈折率等の特性値がその仮想温度(室温よりも高温度)のガラスの平衡状態の特性値になっていることを意味する。」を
「室温における石英ガラスの密度、屈折率等の特性は、そのガラスが過去の製造過程における高温度域及び前記高温度域から室温までの冷却過程での熱履歴を反映したものであり、仮想温度(Fictive Temperature)とは、そのガラスが過去の熱履歴のなかで、なじまされたときの温度、すなわち上記特性値が決定されたときの温度をいう(R.Bruckner,J.Non-Crystaline Solids,5,1970, pp.123-134) 。この仮想温度の概念は、石英ガラスのみならず、ガラス全般に当てはまる概念であり、もう少し簡略にいうならば、室温のガラス密度、屈折率等の特性値がその仮想温度(室温よりも高温度)のガラスの平衡状態の特性値になっていることを意味する。」
と訂正する。
(j)訂正事項j
段落0055の
「図1は前記公報に記載されている石英ガラスの温度と密度との関係を示したグラフである。前述のR.Brucknerによると、第1図に示すように、石英ガラスは約1500℃において密度が最小になり、1500℃より高い温度から冷却する場合と、1500℃より低い温度から冷却する場合とで、石英ガラス中の密度の分布状態が異なることが知られている。すなわち、1500℃より低い温度から冷却する場合には、周囲が早く冷却されるために内部に比べて周囲がより密度が大きくなり、他方1500℃よりも高い温度から冷却する場合には、周囲が内部に比べて早く冷却されることは上記の場合と同様であるが、密度は内部に比べて周囲の方が小さくなる。密度と相関関係を有する屈折率も、前記密度と同様の分布を生じ、密度を測定することにより前記仮想温度に起因する屈折率分布を特定することが可能になるが、本発明の場合のように、約1500℃より高い温度から冷却すると、内部の仮想温度分布の方が周囲の仮想温度分布より低い状態となり、内部の密度の方が周囲の密度より大きい状態、すなわち内部の方が周囲より屈折率の高い分布が生じ、OH基濃度分布により生じる屈折率分布と逆になるため、お互いの屈折率の変動を打ち消し合い、極めて均一な屈折率分布を形成することができる。」を
「図1は前記論文に記載されている石英ガラスの温度と体積との関係を示したグラフである。前述のR.Brucknerによると、図1に示すように、石英ガラスは約1500℃において体積が最小になり、1500℃より高い温度から冷却する場合と、1500℃より低い温度から冷却する場合とで、石英ガラス中の密度の分布状態が異なることが知られている。すなわち、1500℃より低い温度から冷却する場合には、周囲が早く冷却されるために内部に比べて周囲がより密度が大きくなり、他方1500℃よりも高い温度から冷却する場合には、周囲が内部に比べて早く冷却されることは上記の場合と同様であるが、密度は内部に比べて周囲の方が小さくなる。密度と相関関係を有する屈折率も、前記密度と同様の分布を生じ、密度を測定することにより前記仮想温度に起因する屈折率分布を特定することが可能になるが、本発明の場合のように、約1500℃より高い温度から冷却すると、内部の仮想温度分布の方が周囲の仮想温度分布より低い状態となり、内部の密度の方が周囲の密度より大きい状態、すなわち内部の方が周囲より屈折率の高い分布が生じ、OH基濃度分布により生じる屈折率分布と逆になるため、お互いの屈折率の変動を打ち消し合い、極めて均一な屈折率分布を形成することができる。」
と訂正する。
(k)訂正事項k
段落0062の
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(4)によれば、上記(1)又は(2)記載の光学用合成石英ガラス材であって、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響が殆どない。」を
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(1)によれば、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響が殆どない。」
と訂正する。
(l)訂正事項l
段落0063,0064の
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法(5)によれば、上記(1)〜(4)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成するので、中央部分に極大値となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するように形成されたOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布を打ち消すように、仮想温度分布に起因する屈折率変動分布が形成され、前記光学用合成石英ガラス材の内部全体の屈折率が極めて均一に保たれる。
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス製品(6)によれば、上記(1)〜(4)記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されているので、屈折率等の光学的特性の均一さに極めて優れた光学用合成石英ガラス製品となる。」を
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法(4)によれば、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成するので、中央部分に極大値となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するように形成されたOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布を打ち消すように、仮想温度分布に起因する屈折率変動分布が形成され、前記光学用合成石英ガラス材の内部全体の屈折率が極めて均一に保たれる。
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス製品(5)によれば、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されているので、屈折率等の光学的特性の均一さに極めて優れた光学用合成石英ガラス製品となる。」
と訂正する。
(m)訂正事項m
段落0069の
「次に、前記工程で製造された光学用合成石英ガラス母材の切削、加工等を行い、得られた部材を用いて、表1に示した加熱成形条件で、加熱、成形、均温化処理を行った後、表1に示した速度で冷却することにより仮想温度分布を形成し、光学用合成石英ガラス母材を用いた光学用合成石英ガラス製品の製造を終了した。得られた光学用合成石英ガラス製品の特性を下記の表3に示している。」を
「次に、前記工程で製造された光学用合成石英ガラス母材の切削、加工等を行い、得られた部材を用いて、表1に示した加熱成形条件で、加熱、成形、均温化処理を行った後、表1に示した速度で冷却することにより仮想温度分布を形成し、光学用合成石英ガラス母材を用いた光学用合成石英ガラス製品の製造を終了した。得られた光学用合成石英ガラス製品の特性を下記の表3に示している。表中、実施例11及び12は塩素濃度分布ΔClが1ppmを超えているので参考例である。」
と訂正する。
(n)訂正事項n
段落0071の
「なお、仮想温度については、K.M.Davis らが提案した赤外線分光光度計を用いた方法(K.M.Davis and M.Tomozawa ニューガラスフォーラム 平成5年度第4回シリカガラス研究会 215〜255頁 1994年1月17日)により測定し、屈折率変動幅(Δn)については、Zygo社製のフィゾー型干渉計(Mark-IV)により測定し、複屈折率については、オーク製作所社製の高感度複屈折率測定装置(ADR-300)により測定した。」を
「なお、仮想温度については、K.M.Davis らが提案した赤外線分光光度計を用いた方法(K.M.Davis and M.Tomozawa ニューガラスフォーラム 平成5年度第4回シリカガラス研究会 215〜255頁 1994年1月17日)により測定し、屈折率変動幅(Δn)については、Zygo社製のフィゾー型干渉計(Mark-IV)により測定し、複屈折率については、オーク製作所社製の高感度複屈折率測定装置(ADR-300)により測定した。OH基濃度及び仮想温度の欄のΔn換算値は[周辺部のn値-中央部のn値]として表示するので、周辺部より中央部のn値が大きい時は負となる。」
と訂正する。
(o)訂正事項o
段落0077の表1および段落0079の表3において、実施例13の行を削除し、欄外に「(実施例13は欠番)」を加入する。
(p)訂正事項p
段落0081の表5および段落0082の表6において、比較例15の行を削除し、欄外に「(比較例15は欠番)」を加入する。
(q)訂正事項q
段落0084の
「他方、表4及び表6の結果より明らかなように、比較例に係る光学用合成石英ガラス製品においては、OH基の最大値と最小値との濃度差が大きすぎるか、又はOH基濃度分布により形成される屈折率の変動分布と、形成された仮想温度分布による屈折率変動分布が加算されたかたちになっているため、全体の屈折率変動幅が実施例に係る光学用合成石英ガラス製品の3倍を超えた値となっている。また、均温化の後の冷却で、その速度が早すぎる場合には、複屈折率が10nm/cm以下と異方性が大きくなっている。」を
「他方、表4及び表6の結果より明らかなように、比較例に係る光学用合成石英ガラス製品においては、OH基の最大値と最小値との濃度差が大きすぎるか、又はOH基濃度分布により形成される屈折率の変動分布と、形成された仮想温度分布による屈折率変動分布が加算されたかたちになっているため、全体の屈折率変動幅が実施例に係る光学用合成石英ガラス製品の3倍を超えた値となっている。また、均温化の後の冷却で、その速度が早すぎる場合には、複屈折率が10nm/cmと異方性が大きくなっている。」
と訂正する。
(r)訂正事項r
段落0088の
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(4)にあっては、上記(1)又は(2)記載の光学用合成石英ガラス材であって、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響を防止することができる。」を
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(1)にあっては、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響を防止することができる。」
と訂正する。
(s)訂正事項s
段落0089,0090の
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法(5)にあっては、上記(1)〜(4)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成するので、中央部分に極大値となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するように形成されたOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布を打ち消すように、仮想温度分布に起因する屈折率変動分布を形成することができ、前記光学用合成石英ガラス材内部全体の屈折率を極めて均一に保つことができる。
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス製品(6)にあっては、上記(1)〜(4)記載の光学用合成石英ガラス材が使用されて形成されているので、屈折率等の光学的特性の均一さに極めて優れた光学用合成石英ガラス製品を提供することができる。」を
「また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法(4)にあっては、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成するので、中央部分に極大値となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するように形成されたOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布を打ち消すように、仮想温度分布に起因する屈折率変動分布を形成することができ、前記光学用合成石英ガラス材内部全体の屈折率を極めて均一に保つことができる。
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス製品(5)にあっては、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材が使用されて形成されているので、屈折率等の光学的特性の均一さに極めて優れた光学用合成石英ガラス製品を提供することができる。」
と訂正する。
(t)訂正事項t
図面の簡単な説明の
「【図1】
石英ガラスの温度と密度との関係、及び冷却の際の密度の変化を様子を示したグラフである。」を
「【図1】
石英ガラスの温度と体積との関係、及び冷却の際の体積の変化を様子を示したグラフである。」
と訂正する。
(u)訂正事項u
図1のグラフの縦軸の
「密度」を
「体積」
と訂正する。

1-2.訂正の適否の判断
(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、拡張・変更の存否)
1-2-1.訂正事項aは、光学用合成石英ガラス材において、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であるとさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、この限定は訂正前の請求項4に記載されていたので、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-2.訂正事項bは、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-3.訂正事項cは、上記訂正事項bの訂正に伴うものであり、請求項4を引用して記載していた請求項において、請求項4の削除に伴って、引用する請求項の番号を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項cは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-4.訂正事項dは、上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、訂正された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項dは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-5.訂正事項eは、上記訂正事項bの訂正に伴うものであり、請求項4の削除に伴って明細書の請求項4に関する記載を削除して、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項eは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-6.訂正事項fは、上記訂正事項cの訂正に伴うものであり、訂正された請求項5,6の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項fは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-7.訂正事項gは、「屈折率を小さく保つのが難しくなる」を「屈折率の変動幅(Δn)を小さく保つのが難しくなる」と訂正するものであるが、ここでは小さく保つものは屈折率の変動幅(Δn)であることは前後の文章から明らかであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項gは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-8.訂正事項hは、「温度」を「速度」に訂正するものだが、「温度」の語句を説明する「5℃/分未満、好ましくは0.1〜4℃/分未満」からみて、「温度」が「速度」の誤記であることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項hは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-9.訂正事項iは、引用している文献の引用個所を「pp.133-134」から「pp.123-134」に訂正するものだが、引用された文献を参照すれば明らかなように、「pp.133-134」は「pp.123-134」の誤記であることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項iは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-10.訂正事項jは、「公報」を「論文」に訂正し、「密度」を「体積」に訂正し、「第1図」を「図1」に訂正するものである。
この段落0055で述べているのは公報ではなく論文であるから、「公報」は「論文」の誤記であることは明白であり、これは誤記の訂正を目的とするものである。引用された論文を参照すれば密度ではなく体積について述べていることは明らかであるから、「密度」は「体積」の誤記であることは明白であり、これは誤記の訂正を目的とするものである。段落0055の第1行では「図1」と記載されているので、他の記載も同じように表記しようとすることは明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そしてこれらの訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項jは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-11.訂正事項kは、上記訂正事項d,eの訂正に伴うものであり、訂正された段落0014〜0017の記載と整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項kは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-12.訂正事項lは、上記訂正事項eの訂正に伴うものであり、訂正された段落0014〜0017の記載と整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項lは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-13.訂正事項mは、上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、訂正事項aの訂正により実施例11,12が発明の範囲外となったことによるものであって、訂正された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項mは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-14.訂正事項nは、「Δn換算値」について負の値になりうることを明記するものであり、「Δn換算値」についての記載を明りょうにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項nは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-15.訂正事項oは、上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、訂正事項aの訂正により実施例11,12が請求項1の範囲外となったことによるものであって、訂正された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項oは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-16.訂正事項pは、比較例として記載されているが特許請求の範囲の限定内となるため数値の誤りがあることが明らかである比較例15を削除するものだから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項pは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-17.訂正事項qは、複屈折率を「10nm/cm以下」から「10nm/cm」に訂正するものだが、ここで述べられている表4,6には「10nm/cm以下」ではなく「10nm/cm」と記載されているため、「10nm/cm以下」は「10nm/cm」の誤記であることは明白であるから、誤記の訂正を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項qは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-18.訂正事項rは、上記訂正事項d,eの訂正に伴うものであり、訂正された段落0014〜0017の記載と整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項rは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-19.訂正事項sは、上記訂正事項eの訂正に伴うものであり、訂正された段落0014〜0017の記載と整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項sは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-20.訂正事項tは、「密度」を「体積」に訂正するものだが、引用された論文を参照すれば密度ではなく体積を表していることは明らかであるから、「密度」は「体積」の誤記であることは明白であり、これは誤記の訂正を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項tは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-2-21.訂正事項uは、「密度」を「体積」に訂正するものだが、引用された論文を参照すれば密度ではなく体積を表していることは明らかであるから、「密度」は「体積」の誤記であることは明白であり、これは誤記の訂正を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。また、上記訂正事項uは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

2.取消理由通知の概要
本件の請求項1〜4,6に係る発明は刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、それらの特許は取り消されるべきものである。
刊行物1:特開平2-239127号公報(特許異議申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2:BRUCKNER,R "PROPERTIES AND STRUCTURE OF VITREOUS SILICA.I" JOURNAL OF NON-CRYSTALLINE SOLIDS 5(1970), pp.123-175(特許異議申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3:特開平2-102139号公報(特許異議申立人の提出した甲第3号証)
刊行物4:特開平5-170466号公報(特許異議申立人の提出した甲第4号証)
刊行物5:特開平6-107421号公報(特許異議申立人の提出した甲第5号証)
刊行物6:特開平2-199037号公報(特許異議申立人の提出した甲第6号証)

3.当審の判断
特許異議申立人が異議を申し立てた本件特許の請求項1〜4,6のうち、請求項4は上記したとおり訂正により削除された。したがって、ここでの判断は、その請求項1〜3、6についてのみ行う。

3-1.本件発明
本件明細書は平成15年 6月10日付け訂正請求により訂正されたものであって、訂正後の本件請求項1〜3,6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」,「本件発明6」という)は、その明細書の特許請求の範囲に記載されるとおりのものである。

3-2.特許異議申立書で引用されている証拠に記載された発明
3-2-1.刊行物1の記載内容
(1)「OH基とCl基を含有する合成石英ガラス素塊を加熱し、ついで冷却処理した後、必要に応じてその周縁部分を研削して形成される光透過体用石英ガラス母材において、少なくとも一つの所定断面方向に沿って形成したOH基濃度分布とCl濃度分布、及び前記加熱し、ついで冷却処理により前記断面方向に沿って形成される仮想温度分布を効果的に組み合わせる事により、これらの分布夫々に起因して発生する屈折率変動を互いに相殺し、結果として前記断面方向における屈折率分布の変動を抑制した事を特徴とする光透過体用石英ガラス母材」(請求項1)
(2)「断面内における仮想温度分布(Fictive temperture)が中心域から外縁部に向かってなめらかに大きくなる仮想温度値を示す、上に凹型の曲線となってしまう」(2頁右下欄13〜16行)
(3)「ガラス母材の屈折率分布は前記仮想温度分布に依存してしまう為に、ガラス塊の中心域より周辺域の屈折率のほうが大きい、軸対称で且つ凹型の曲線状の屈折率分布が生じてしまう」(3頁左上欄5〜9行)
(4)実施例において、OH基濃度分布差が10〜40ppmであり、仮想温度分布に依存した凹型の屈折率分布に合わせて(OH基濃度分布は凹型にし、Cl濃度分布は凸型にして)OH基濃度分布,Cl濃度分布による屈折率分布を凸型にすることにより、屈折率変動を相殺することを示す図(第7頁第1図)

3-3.対比・判断
3-3-1.本件発明1について
上記3-2.で摘示した事項から、刊行物1には、「OH基濃度分布差が10〜40ppmであり、中心域から外縁部に向かってなめらかに大きくなる仮想温度分布に起因する凹型の屈折率分布と、凹型のOH基濃度分布,凸型のCl濃度分布に起因する凸型の屈折率分布とを相殺して屈折率分布の変動を抑制した石英ガラス材」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
本件発明1と刊行物1発明を対比すると、両発明とも、
「OH基濃度分布に基づく屈折率分布と、内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する屈折率分布とが、互いに相殺するように形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下である光学用合成石英ガラス材」という点で一致しているが、以下の点で相違している。
相違点1:仮想温度分布に起因する屈折率分布について、本件発明1では内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きいとしているのに対し、刊行物1発明では凹型、つまり内部の屈折率のほうが小さくなっている点
相違点2:OH基濃度分布について、本件発明1では中央部分に極大となる領域が存在し該領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するものであるのに対し、刊行物1発明では凹型、つまり中央部分が極小となっている点
相違点3:本件発明1では、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下と限定しているのに対し、刊行物1発明ではそのような限定をしていない点

まず、上記相違点1について検討する。
刊行物1には、中心域から外縁部に向かってなめらかに大きくなる仮想温度分布を持つガラス母材では、仮想温度分布に起因する屈折率分布は凹型となることが記載されている(第2頁右下欄〜第3頁左上欄)。刊行物1発明は仮想温度分布に起因する屈折率分布が凹型であることを前提とした発明であって、刊行物1には本件発明1のように仮想温度分布に起因する屈折率分布が凸型になりうることは全く示されていない。
したがって、当業者といえども、刊行物1の記載から、仮想温度分布に起因する屈折率分布を凸型にすることを容易に想到することはできない。
以下、当該相違点1について、刊行物2〜6に記載の発明を検討する。
刊行物2の図6及び134頁6〜8行には、仮想温度が約1500℃のときに石英ガラスの屈折率が最大となることが示されていて、これは、約1500℃以上の領域では、刊行物1発明の石英ガラス材のように中心域から外縁部に向かってなめらかに大きくなる仮想温度分布を持つガラス母材では仮想温度に起因する屈折率分布が凸型となることを意味している。
しかし、刊行物2の134頁8〜10行に記載されているように、図6は水で急冷して測定したものであり、刊行物2の第127ページ図2の説明には温度-体積曲線の測定では冷却時間がミリ秒のオーダーや1/10秒のオーダーであることも記載されている。刊行物2には急冷しない場合に屈折率がどうなるかは示されていないし、刊行物1のレンズ等に用いられるような一般のガラス母材では上記のような急冷を適用すると破損してしまうので、刊行物1発明に上記刊行物2の記載を組み合わせることを当業者が容易に想到することはできない。
また、刊行物3〜6には仮想温度に起因する屈折率分布が凸型となることを示す記載はない。
そして、本件発明1は、仮想温度分布に起因する屈折率分布を凸型にすることにより、製造が難しく非常に高価な凹型のOH基濃度分布を持つガラス母材ではなく、凸型のOH基濃度分布(OH基濃度分布による屈折率分布は凹型)であるガラス母材を採用することができるという効果を持つものである。
してみれば、当業者といえども、刊行物1発明において、仮想温度分布に起因する屈折率分布を凸型にすることを容易に導き出すことはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることもできない。

3-3-2.本件発明2,3,6について
本件発明2,3は本件発明1を引用してさらに限定を加えたものであるし、本件発明6は本件発明1のガラス材を用いた製品である。
したがって、3-3-1.で述べたのと同じ理由により、本件発明2,3,6は、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、その他の異議申立理由及び証拠は、本件発明1〜3,6の特許を取り消すべき理由として採用することができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜3,6に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜3,6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光学用合成石英ガラス材及びその製造方法、並びに該光学用合成石英ガラス材を用いた合成石英ガラス製品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布と内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布とが形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であり、かつ塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であることを特徴とする光学用合成石英ガラス材。
【請求項2】 直径が約200〜300mmで、長さが約60〜150mmであり、屈折率の変動幅(Δn)が1×10-6未満であることを特徴とする請求項1記載の光学用合成石英ガラス材。
【請求項3】 塩素濃度が1ppm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光学用合成石英ガラス材。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、少なくとも1500℃以上の温度から室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法。
【請求項6】 請求項1〜3のいずれかの項に記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されていることを特徴とする合成石英ガラス製品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は光学用合成石英ガラス材及びその製造方法、並びに該光学用合成石英ガラス材を用いた合成石英ガラス製品に関し、より詳細には紫外領域から赤外領域にわたる広い波長領域における光を利用した機器のレンズ、ミラー、プリズム、窓部材等の光学部品として用いられる光学用合成石英ガラス材及びその製造方法、並びに該光学用合成石英ガラス材を用いた合成石英ガラス製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
合成石英ガラスは約150nm〜約5μmという広い波長範囲で光を透過するため応用範囲が広いこと、熱膨張係数が小さいために光軸のずれが小さく高精度の光学系を構成できること、耐熱性が高いために広い温度範囲で使用できること、高純度な二酸化ケイ素であるために高エネルギーの光を照射しても損傷を受けにくいこと等、数々の非常に優れた特性を有している。
【0003】
このような優れた特性を生かし、例えば紫外領域から赤外領域にわたる広い波長領域における光を利用した機器のレンズ、ミラー、プリズム、窓部材等の光学部品等に用いられている。
【0004】
これらの光学部品の形成に用いられる石英ガラス材料には、種々の特性が要求されるが、特に屈折率の均質性、及び使用波長での耐光性が高いこと(光照射後に透過率が低下しにくいこと)等が要求される。
【0005】
このような厳しい条件に適合可能な石英ガラスとして、合成石英ガラスが挙げられる。一般的に合成石英ガラスという呼び名は、出発原料として天然のシリカ原料を用いていない全ての石英ガラスに適用されるが、この合成石英ガラスを製造する方法としては、種々の方法が存在する。従って、原料の純度や製造方法に起因して、製造された合成石英ガラスの不純物元素濃度(金属元素濃度、非金属元素濃度)や欠陥濃度等も様々なグレードのものが存在し、すべての合成石英ガラスが理想的な透過光学系用のガラス材料となり得るわけではない。
【0006】
合成石英ガラスの製造法には大別して気相法と液相法があり、光学系に用いられる材料の製造方法としては気相法が主流であるが、この気相法も直接合成法、プラズマCVD法、気相軸付け法(VAD法)等の種類があり、原料や製造方法に起因して合成石英ガラス中における金属等の不純物、OH基、Cl、H2、O2、酸素過剰欠陥、酸素欠乏欠陥、環構造欠陥等の濃度が異なる。これらの不純物や欠陥等の濃度は、合成石英ガラスの光吸収、蛍光、屈折率等の光学特性に大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
例えば前記VAD法は、バーナーからケイ素化合物、水素、酸素などの原料ガスを鉛直に懸下した種棒に向けて供給し、前記ケイ素化合物を酸素-水素火炎中で加水分解させて生成させた石英ガラスの微粒子を石英製等の種棒の下端部に付着、堆積させて多孔質合成石英ガラスを形成した後、加熱することにより透明ガラス化する合成石英ガラスの製造法であるが、そのためにケイ素化合物として四塩化ケイ素を使用した場合には、塩素やOH基等が合成石英ガラス内に残留し、その濃度が不均一になり易く、これらの不純物に起因して屈折率等に分布が生じるという問題があった。
【0008】
また、通常、透明ガラス化は1420〜1600℃の温度範囲で行うが、その後の徐冷時の合成石英ガラス体の内部と外部とにおける冷却速度の差に起因して、屈折率に分布が生じる。そして、通常は、主としてOH基の分布によって生じる屈折率の分布と、透明ガラス化後の徐冷によって生じる屈折率分布とが重なり合うため、より大きな屈折率分布を生じ易いという問題があった。
【0009】
このような不純物の残留濃度分布に起因する屈折率分布と、製造過程の冷却条件等の熱履歴に起因する屈折率分布とを相反する分布として消去し合うように不純物濃度や加熱後の冷却速度を調整し、実際の屈折率分布が小さく、良好な品質の光学用石英ガラスを得る方法が提案されている(特開平2-102139号公報、特開平2-239127号公報等)。
【0010】
前記特開平2-102139号公報に記載された発明においては、ガラスの中央部分にOH基の極小濃度域を存在させるとともに、周辺部に近づくにつれて徐々に高濃度となるOH基濃度分布を形成する。このとき、前記OH基濃度分布に起因する屈折率分布は中央部分で極大値を有し、周辺部に近づくにつれて低下する分布(以下、凸型分布と記す)をなしている。一方、前記OH基濃度分布に起因する屈折率分布を打ち消すように、熱処理条件を選択することによる屈折率分布を形成する。すなわち、800〜1300℃の範囲に所定時間加熱した後、所定の速度で徐冷する方法により仮想温度分布をコントロールし、この仮想温度分布に起因する中央部分に極小値を有し、周辺部に近づくにつれて大きくなる屈折率分布(以下、凹型分布と記す)を形成する。このような相反する不純物濃度に起因する屈折率分布と仮想温度分布に起因する屈折率分布を形成することにより、総合的に屈折率分布が小さく、良好な品質を有する光学用合成石英ガラスを得ることができることが前記公報に記載されている。
【0011】
また、特開平2-239127号公報に記載された発明においては、OH基濃度と塩素濃度とに起因した屈折率分布を凸型分布とし、前記凸型の屈折率分布を打ち消すように仮想温度分布をコントロールすることにより凹型の屈折率分布を形成し、総合的に屈折率分布を小さく、良好な品質の光学用合成石英ガラスを得ることができることが記載されている。
【0012】
しかしながら、通常の方法で製造した合成石英ガラス中のOH基濃度と塩素濃度は、ガラス塊の内部ほど残留し易いため、いずれも中央部分に極大濃度域があり、その周辺部に近づくにつれて徐々に低濃度となり、前記OH基濃度分布及び塩素濃度分布に起因する屈折率分布はいずれも凹型となる。従って、ガラス塊の中央部分に極小値を有するようなOH基濃度分布及び塩素濃度分布を形成することは難しく、またその濃度分布をコントロールすることは一層難しいため、このような合成石英ガラスの製造方法は現実的な方法ではなく、また仮に製造できたとしても非常に高価なものとなるという課題があった。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、現実的に製造が可能であり、かつ屈折率が均一で屈折率分布がほとんどない光学用合成石英ガラス材及びその製造方法、並びに該石英ガラス材を用いた合成石英ガラス製品を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布と内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布とが形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であり、かつ塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であることを特徴としている(1)。
【0015】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、上記(1)記載の光学用合成石英ガラス材であって、直径が約200〜300mmで、長さが約60〜150mmであり、屈折率の変動幅(Δn)が1×10-6未満であることを特徴としている(2)。
【0016】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、上記(1)又は(2)記載の光学用合成石英ガラス材であって、塩素濃度が1ppm以下であることを特徴としている(3)。
【0017】
(削除)
【0018】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法は、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成することを特徴としている(4)。
【0019】
また、本発明に係る合成石英ガラス製品は、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されていることを特徴としている(5)。
【0020】
上記したように本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布に起因する屈折率分布が形成されている。
【0021】
【発明の実施の形態】
前記光学用合成石英ガラス材は、通常、VAD法又は直接合成法等により製造される。また、前記方法のいずれの場合も、通常、四塩化ケイ素の酸素-水素火炎を用いた加水分解により製造されるため、一部にSi(OH)基が形成され、塩素も残留するが、製造法によりその程度が大きく異なる。
【0022】
まず、VAD法により製造された光学用合成石英ガラス材について説明する。VAD法では、最初に多孔質合成石英ガラス、いわゆるスート体を形成するので、その後、種々の熱処理を行って緻密化する際にOH基濃度やその分布のコントロールが可能である。前記製造方法についての詳しい説明は後で述べるが、この製造方法により円柱形状の光学用合成石英ガラス材の中心部分にOH基濃度が極大となる領域が形成され、前記領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するOH基濃度の分布が形成される。
【0023】
この場合、OH基濃度の最大値は、約60ppm程度以下であることが好ましく、20〜45ppm程度がより好ましい。また、OH基濃度の最大値と最小値との差は45ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であるのがより好ましい。
【0024】
OH基濃度の最大値と最小値との差が約45ppmのとき、屈折率の変動幅(Δn)は約4.5×10-6となり、これより大きい場合には、前記OH基濃度分布に基づく屈折率分布を、仮想温度分布を調節することにより打ち消すのが困難になる。
【0025】
本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布が形成されているが、透明ガラス化後、1500℃以上の温度に昇温させ、加熱成形等を行った後又は加熱のみを行った後、冷却する際の速度を調節することにより、この仮想温度分布を調節することができる。この仮想温度分布の調節方法については後述する。
【0026】
このようにして得られた光学用合成石英ガラス材は、均質性に優れ、屈折率の変動幅(Δn)が極めて小さい。前記屈折率の変動幅(Δn)は、そのサイズにより異なるが、例えば直径が約200〜300mmで、長さが約60〜150mmとサイズの大きいものにおいても、その屈折率の変動幅(Δn)が約1×10-6未満と小さい。前記サイズよりも小さなものにおいては、当然、屈折率の変動幅は約1×10-6未満と小さく、その複屈折率も約3nm/cm以下となる。
【0027】
また、前記光学用合成石英ガラス材はこのような均質性を有することから、少なくとも一方向脈理フリーであり、製造条件によっては三方向脈理フリーと極めて均質性に優れたものとなる。
【0028】
本発明に係る光学用合成石英ガラス材は、得られたスート体を、事前仮焼、仮焼、昇温、透明化の工程又はそれに類似する工程を経て透明化しており、このような連続的な処理により前記OH基濃度分布は変曲点を有さなくなる。
【0029】
塩素の濃度についても、スート形成後の加熱処理によってかなりの程度除去することが可能であり、最終的な光学用合成石英ガラス材の濃度は1ppm以下であることが好ましい。前記塩素の濃度が1ppmを超えると、屈折率の分布に影響が現われ、OH基濃度の分布や仮想温度分布のコントロールにより屈折率の変動幅(Δn)を小さく保つのが難しくなる場合がある。
【0030】
金属不純物については、原料中の金属不純物の含有量に大きく左右され、製造方法自体には余り左右されない。従って、いずれの製造方法においても、光学用合成石英ガラス材中の金属不純物の総含有量が0.15ppm以下であり、Alの含有量が0.01ppm以下、Na、K、及びLiの各含有量が0.02ppm以下、Ca、Fe、Ti、Cr、Ni、P、B、Mg、Cu、Zr、及びZnの各含有量が0.008ppm以下であることが好ましい。
【0031】
次に、直接法により製造された光学用合成石英ガラス材について説明する。
【0032】
直接法においても、四塩化ケイ素の酸素-水素火炎を用いた加水分解により製造するが、その際に生成したシリカの粒子を基板上に堆積させて、透明化された合成石英ガラスのインゴットを直接製造する。従って、VAD法の場合のように透明化までの工程でOH基等を除去することができないため、VAD法と比較してOH基濃度が高い。従って、OH基濃度分布の調整は、加水分解を行う際の酸素や水素等の流量の調節により行う。
【0033】
このようにして製造される光学用合成石英ガラス材中のOH基濃度は、通常、600〜1000ppm程度であり、前記OH基濃度の好ましい最大値は800ppm程度である。また、前記OH基濃度の最大値と最小値との差の好ましい範囲はVAD法の場合と同様である。
【0034】
OH基濃度が800ppm程度を超えると、石英ガラス中のOH基濃度のばらつきが増大し、OH基濃度の最大値と最小値との差を45ppm以下に制御することが困難になる。
【0035】
また塩素の濃度は、通常、20〜100ppm程度であり、前記塩素濃度はできるだけ小さいことが好ましいが、20ppm程度が最小値となる。屈折率を均一にするため、前記塩素の濃度の最大値と最小値との差は1ppm未満が好ましい。このようにOH基や塩素の不純物濃度は、VAD法と異なるが、その他の特性はVAD法の場合の合成石英ガラスと同様である。
【0036】
次に、このような特性を有する光学用合成石英ガラス材の製造方法について説明するが、まず最初に、VAD法による光学用合成石英ガラス材の製造方法について説明する。
【0037】
上記したように、原料となる高純度ケイ素化合物としては、例えば四塩化ケイ素が挙げられるが、前記原料中の金属不純物の総含有量が0.05ppm以下、Alの含有量が0.005ppm以下、Na、K、及びLiの各含有量が0.008ppm以下、Ca、Fe、Ti、Cr、Ni、P、B、Mg、Cu、Zr、及びZnの各含有量が0.003ppm以下であるのが好ましい。
【0038】
多孔質合成石英ガラスの合成では、特別な条件は必要でなく、通常の酸水素火炎による加水分解を行えばよい。
【0039】
次に、前記工程により得られた多孔質合成石英ガラス(スート体)を真空下で熱処理等を行って光学用合成石英ガラス材を製造するが、この光学用合成石英ガラス材の製造工程は、事前仮焼、仮焼、昇温、及び透明化の工程による合成石英ガラス母材の製造工程、及び前記母材を使用して加工等を行った後、加熱成形、冷却、均温化、冷却により合成石英ガラス製品の製造を行う工程とに分けられる。
【0040】
ケイ素化合物の加水分解により得られたスート体の空隙は、その分布が不均一で周辺部分に空隙が多く、中央にいくに従って順次空隙が少なくなっており、その密度も周辺部分が小さく、中央に近づくに従って大きくなっている。
【0041】
そこで前記事前仮焼により、主としてスート体周辺の最も密度の小さい部分に他の部分を集中させてその密度を高める操作、すなわち焼きしめを行って、スート体の密度を均一化させる。この事前仮焼により、次工程である仮焼工程でのゆっくりとした焼結による脱水効果をスート体全体にわたってほぼ均一に進行させることができ、透明ガラス化後の合成石英ガラス中のOH基濃度を所望の分布を有するように設定することができる。
【0042】
この際の加熱は、約1.5〜50パスカルの圧力下、約1300〜1400℃で1〜5時間と、後で行う仮焼よりも若干高い温度で短時間行うのが好ましい。前記事前仮焼の温度が約1300℃未満であると、前記事前仮焼による焼きしめ効果が少なく、他方約1300℃と低温でも加熱時間が5時間を超えるとスート体の密度の低い周辺部分のみならず、スート体全体がゆっくりと焼きしまり、目的とするスート体密度の均一化が進みにくい傾向が表われる。前記事前仮焼の温度が約1400℃を超えると、急激に空隙の収縮が進行し、なかでもスート体周辺部分の焼きしめが急激に進行するため、その表層部分が透明ガラス化し、その後の仮焼、透明化工程により所望の合成石英ガラスを得ることができず、他方1400℃と高い温度でも、加熱時間を1時間未満とすると、焼きしめ効果が得られず、スート体の密度を均一化することができない。
【0043】
前記事前仮焼の際の圧力が約1.5パスカルよりも小さいと、加熱の際に酸素が石英ガラスより抜け易くなり、これにより酸素欠乏欠陥が生じて紫外及び真空紫外光の透過率低下の原因となり易く、他方前記事前仮焼の際の圧力が約50パスカルを超えると、スート体の焼きしめ効果が少なく、スート体の密度を均一化することが難しい。
【0044】
この後、仮焼処理を同じ真空条件下、約1200〜1300℃で約10〜40時間行い、スート体中の石英ガラス微粒子中に一部含まれるSi-OHをSi-O-Siに変化させたり付着水を気化脱気せしめ、その際に生じる水分を除去脱水する。また、この仮焼処理によりスート体中のOH基濃度の分布を調整する。前記仮焼の温度が約1200℃未満であると、水分の除去がゆっくりとしか進行せず、OH基濃度が十分に低下せず、またその濃度分布の調整もうまく行かない。他方、前記仮焼の温度が1300℃を超えると、内部から十分に水分が除去されないうちに緻密化してしまい、やはり高濃度のOH基が残留することになる。
【0045】
この仮焼工程により、中央部分に近づくに従ってOH基濃度が高く、中央部分にOH濃度の極大値となる部分が存在し、逆に周辺部分にいくに従ってその濃度が低下するOH基濃度分布が形成される。
【0046】
事前仮焼を行わず、仮焼のみを行うことも可能であり、この場合には、前記の場合と同じ真空条件下、約1200〜1400℃の温度で、10〜40時間熱処理を行う。
【0047】
前記条件での仮焼により密度の均一化と水分の除去が同時に行われるが、前記した事前仮焼及び仮焼の2段階の加熱と比較して密度の均一化が完全に進行しにくく、透明化処理の時間が長くなる場合がある。
【0048】
引き続いて、同じ真空条件下、仮焼後の石英ガラスを加熱して0.5〜5℃/分の条件で昇温させ、約1420〜1600℃の温度範囲で3〜8時間透明化処理を行う。前記透明化の温度が約1420℃未満では、緻密化が進行しにくく生産性が悪くなり、他方前記透明化の温度が約1600℃を超えると電力の消費によりコスト増加となる。
【0049】
前記工程の後、約0.5〜5℃/分の条件下で徐冷することにより、透明化された光学用合成石英ガラス材の母材が製造される。なお、前記透明化の温度が1500℃以上で、かつ該工程の後、約0.5〜5℃/分の条件下で徐冷された母材は、後述する仮想温度条件を満足することから、そのまま熱処理することなく、切削加工等の冷間加工を行って所定の大きさにして光学用合成石英の製品とすることもできる。
【0050】
この後、前記光学用合成石英ガラス材の母材に後述する加熱成形等を行って製品を製造する。勿論、得られた光学用合成石英ガラス材の母材を冷却せず、高温下で引き続き下記の条件で処理を行うことも可能である。
【0051】
この際には、前記母材を約1600〜2000℃の温度まで加熱し、例えば高純度カーボン等からなる型を用いてプレスすることにより大型のレンズ、ミラー、窓部材等の光学部材の形状を有するものに成形する。この成形された光学用合成石英ガラスを一旦、5〜30℃/分の条件で約1500〜1600℃まで冷却し、この温度範囲で0〜10時間保持する均温化処理を行う。ここで、0時間の場合は、厳密には均温化処理を行っておらず、この温度で冷却速度を切り替えるのみであるが、ここでは0時間の場合も含めて均温化処理ということにする。
【0052】
この均温化処理の温度が約1500℃未満であると、徐冷する前の温度が低過ぎるため、下記する仮想温度分布を形成するのが難しくなる。
【0053】
前記均温化処理の後、5℃/分未満、好ましくは0.1〜4℃/分未満の速度で冷却することにより光学用合成石英ガラス材の仮想温度分布を調整する。
【0054】
室温における石英ガラスの密度、屈折率等の特性は、そのガラスが過去の製造過程における高温度域及び前記高温度域から室温までの冷却過程での熱履歴を反映したものであり、仮想温度(Fictive Temperature)とは、そのガラスが過去の熱履歴のなかで、なじまされたときの温度、すなわち上記特性値が決定されたときの温度をいう(R.Bruckner,J.Non-Crystaline Solids,5,1970,pp.123-134)。この仮想温度の概念は、石英ガラスのみならず、ガラス全般に当てはまる概念であり、もう少し簡略にいうならば、室温のガラス密度、屈折率等の特性値がその仮想温度(室温よりも高温度)のガラスの平衡状態の特性値になっていること
を意味する。
【0055】
図1は前記論文に記載されている石英ガラスの温度と体積との関係を示したグラフである。前述のR.Brucknerによると、図1に示すように、石英ガラスは約1500℃において体積が最小になり、1500℃より高い温度から冷却する場合と、1500℃より低い温度から冷却する場合とで、石英ガラス中の密度の分布状態が異なることが知られている。すなわち、1500℃より低い温度から冷却する場合には、周囲が早く冷却されるために内部に比べて周囲がより密度が大きくなり、他方1500℃よりも高い温度から冷却する場合には、周囲が内部に比べて早く冷却されることは上記の場合と同様であるが、密度は内部に比べて周囲の方が小さくなる。密度と相関関係を有する屈折率も、前記密度と同様の分布を生じ、密度を測定することにより前記仮想温度に起因する屈折率分布を特定することが可能になるが、本発明の場合のように、約1500℃より高い温度から冷却すると、内部の仮想温度分布の方が周囲の仮想温度分布より低い状態となり、内部の密度の方が周囲の密度より大きい状態、すなわち内部の方が周囲より屈折率の高い分布が生じ、OH基濃度分布により生じる屈折率分布と逆になるため、お互いの屈折率の変動を打ち消し合い、極めて均一な屈折率分布を形成することができる。
【0056】
直接法の場合は、前記したように四塩化ケイ素の加水分解により基台上に直接シリカ粒子を堆積させ、透明化されたインゴットを製造する。従って、VAD法の場合のように透明化されたガラスを得るまでに仮焼等の処理を行う必要はないが、その代わりに前記工程によりOH基濃度や塩素濃度の分布を調整することはできない。そこで、OH基濃度や塩素濃度等の分布は、加水分解を行う際に、酸素-水素火炎の温度や酸素と水素の流量比を所定の値に設定することによりコントロールする。
【0057】
直接法の場合において製造されたインゴットの冷却は、通常、加熱炉が大気開放型であることから、大気放冷に近い炉内冷却の条件で行われ、冷却速度の制御は困難である。従って、直接法で製造した合成石英ガラス材の母材は、そのままの熱履歴の状態では、後述する仮想温度分布は形成されない。そこで直接法の場合、もう一度加熱を行い、後述する冷却、又は成形、冷却を行って仮想温度分布を形成する必要がある。この場合の加熱、成形、冷却等の条件は、上記したVAD法の場合と同様である。
【0058】
以上説明したように、前記した光学用合成石英ガラスの製造工程により、OH基濃度分布に基づく屈折率変動分布を打ち消すように、仮想温度分布に起因する屈折率変動分布を形成することができ、屈折率の変動幅が極めて小さい光学用合成石英ガラスを製造することが可能となる。
【0059】
本発明に係る光学用合成石英ガラス材(1)によれば、中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布が形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であるので、前記光学用合成石英ガラス材の内部全体の屈折が極めて均一となる。
【0060】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(2)によれば、上記(1)記載の光学用合成石英ガラス材であって、直径が約200〜300mmで、長さが約60〜150mmであり、屈折率の変動幅(Δn)が1×10-6未満であり、大きなサイズのもので、かつ屈折率の変動分布が小さい光学用合成石英ガラス材となる。
【0061】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(3)によれば、上記(1)又は(2)記載の光学用合成石英ガラス材であって、塩素濃度が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響が殆どなく、透過率の低下も殆どない。
【0062】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(1)によれば、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響が殆どない。
【0063】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法(4)によれば、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成するので、中央部分に極大値となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するように形成されたOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布を打ち消すように、仮想温度分布に起因する屈折率変動分布が形成され、前記光学用合成石英ガラス材の内部全体の屈折率が極めて均一に保たれる。
【0064】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス製品(5)によれば、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材を用いて形成されているので、屈折率等の光学的特性の均一さに極めて優れた光学用合成石英ガラス製品となる。
【0065】
【実施例及び比較例】
以下、本発明の実施例に係る光学用合成石英ガラス材及びその製造方法、並びに該光学用合成石英ガラス材を用いた合成石英ガラス製品を説明する。
【0066】
[実施例1〜13及び比較例1〜11]
VAD法により多孔質合成石英ガラス(スート)を合成した。
【0067】
高純度ケイ素化合物である四塩化ケイ素(SiCl4)を原料とし、酸素-水素火炎中で気相化学反応により石英ガラス微粒子を合成するとともにこれを種棒の周囲に付着、堆積させ、多孔質合成石英ガラス(スート)を合成した。
【0068】
次に、この合成された多孔質合成石英ガラスを表1に示した条件で事前仮焼、仮焼、昇温、透明化、及び冷却を行い、光学用合成石英ガラス母材を製造した。
【0069】
次に、前記工程で製造された光学用合成石英ガラス母材の切削、加工等を行い、得られた部材を用いて、表1に示した加熱成形条件で、加熱、成形、均温化処理を行った後、表1に示した速度で冷却することにより仮想温度分布を形成し、光学用合成石英ガラス母材を用いた光学用合成石英ガラス製品の製造を終了した。得られた光学用合成石英ガラス製品の特性を下記の表3に示している。表中、実施例11及び12は塩素濃度分布ΔClが1ppmを超えているので参考例である。
【0070】
なお、屈折率変動分布(Δn)が実施例に係る光学用合成石英ガラス材に比べて大きい、比較例に係る光学用合成石英ガラス材についても、光学用合成石英ガラス材の製造条件、加熱成形条件及び製品特性を下記の表2及び表4に示している。
【0071】
なお、仮想温度については、K.M.Davisらが提案した赤外線分光光度計を用いた方法(K.M.Davis and M.Tomozawaニューガラスフォーラム平成5年度第4回シリカガラス研究会215〜255頁1994年1月17日)により測定し、屈折率変動幅(Δn)については、Zygo社製のフィゾー型干渉計(Mark-IV)により測定し、複屈折率については、オーク製作所社製の高感度複屈折率測定装置(ADR-300)により測定した。OH基濃度及び仮想温度の欄のΔn換算値は[周辺部のn値-中央部のn値]として表示するので、周辺部より中央部のn値が大きい時は負となる。
【0072】
[実施例14〜17及び比較例12〜15]
次に、直接法により直接透明の光学用合成石英ガラス母材を製造した。
【0073】
まず、高純度ケイ素化合物である四塩化ケイ素(SiCl4)を原料とし、酸素-水素火炎中で気相化学反応により石英ガラス微粒子を合成するとともにこれを基台上に堆積させ、光学用合成石英ガラス母材を製造した。
【0074】
このときの四塩化ケイ素の不純物濃度は約0.01ppm以下であり、水素ガス中の不純物濃度は約50ng/Nm3以下、酸素ガス中の不純物濃度は約50ng/Nm3以下であった。なお、水素ガス又は酸素ガス中の不純物の分析は、硝酸溶液中にガスをバブリングさせて通し、その溶液を高周波誘導結合プラズマ(ICP)質量分析計に注入し、各元素ごとに測定した。測定下限は、おおよそ0.02〜0.005ng/Nm3程度である。
【0075】
次に、前記工程で製造された光学用合成石英ガラス母材の切削、加工等を行い、得られた部材を用いて表5に示した加熱成形条件で、加熱、成形、均温化処理を行った後、5℃/分未満の速度で冷却することにより仮想温度分布を形成し、光学用合成石英ガラス材を用いた光学用合成石英ガラス製品の製造を終了した。得られた光学用合成石英ガラス製品の特性を下記の表6に示している。
【0076】
なお、屈折率変動分布(Δn)が実施例に係る光学用合成石英ガラス材に比べて大きい、比較例に係る光学用合成石英ガラス材についても、加熱成形条件及び製品特性を下記の表5及び表6に記載している。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
上記の表3及び表6に示した結果より明らかなように、実施例に係る光学用合成石英ガラス製品の中央部分にOH基濃度の極大値となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、壁面部分で濃度の最小値となる濃度分布が存在し、このOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布(屈折率変動幅Δn:1.0×10-6〜5.0×10-6)を打ち消すように、内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率変動分布(屈折率変動幅Δn:-1.5×10-6〜-4.5×10-6)が形成されているので、前記光学用合成石英ガラス材の内部全体の屈折率が極めて均一(屈折率変動幅Δn≦0.9×10-6)になる。また、複屈折率も3nm/cm以下と極めて小さく、脈理が三方向フリーの均質性に優れた材料となる。さらに、実施例に係る光学用合成石英ガラス製品の金属不純物含有量はトータル量として、0.15ppm未満であり、各金属不純物含有量は、Alの含有量が0.01ppm以下、Na、K、及びLiの各含有量が0.02ppm以下、Ca、Fe、Ti、Cr、Ni、P、B、Mg、Cu、Zr、及びZnの各含有量が0.008ppm以下であった。この光学用合成石英ガラス製品中の不純物濃度はプラズマ発光(ICP)分析法及び放射化分析法により測定した。
【0084】
他方、表4及び表6の結果より明らかなように、比較例に係る光学用合成石英ガラス製品においては、OH基の最大値と最小値との濃度差が大きすぎるか、又はOH基濃度分布により形成される屈折率の変動分布と、形成された仮想温度分布による屈折率変動分布が加算されたかたちになっているため、全体の屈折率変動幅が実施例に係る光学用合成石英ガラス製品の3倍を超えた値となっている。また、均温化の後の冷却で、その速度が早すぎる場合には、複屈折率が10nm/cmと異方性が大きくなっている。
【0085】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明に係る光学用合成石英ガラス材(1)にあっては、中央部分にOH基濃度が極大となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従ってOH基濃度が次第に低下し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率分布が形成されており、OH基濃度の最大値と最小値との差が45ppm以下であるので、前記光学用合成石英ガラス材の内部全体の屈折率分布を極めて均一的なものとすることができる。
【0086】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(2)にあっては、上記(1)記載の光学用合成石英ガラス材であって、直径が約200〜300mmで、長さが約60〜150mmであり、屈折率の変動幅(Δn)が1×10-6未満であり、大きなサイズのもので、かつ屈折率の変動分布が小さい光学用合成石英ガラス材を提供することができる。
【0087】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(3)にあっては、上記(1)又は(2)記載の光学用合成石英ガラス材であって、塩素濃度が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響を防止することができ、透過率の低下も防止することができる。
【0088】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材(1)にあっては、塩素濃度の最大値と最小値との差が1ppm以下であるので、前記塩素に起因する屈折率の影響を防止することができる。
【0089】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス材の製造方法(4)にあっては、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材の製造方法であって、OH基濃度分布を有する光学用合成石英ガラス母材を1500〜2000℃の温度に加熱した後、前記加熱温度より室温まで5℃/分以下の速度で徐冷し、前記OH基濃度の分布に基づく屈折率分布を打ち消すように、仮想温度分布を形成するので、中央部分に極大値となる領域が存在し、該領域を中心に周辺部分にいくに従って次第に低下するように形成されたOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布を打ち消すように、内部の仮想温度が周囲の仮想温度よりも低い仮想温度分布に起因する内部の屈折率が周囲の屈折率よりも大きい屈折率変動分布を形成することができ、前記光学用合成石英ガラス材内部全体の屈折率を極めて均一に保つことができる。
【0090】
また、本発明に係る光学用合成石英ガラス製品(5)にあっては、上記(1)〜(3)記載の光学用合成石英ガラス材が使用されて形成されているので、屈折率等の光学的特性の均一さに極めて優れた光学用合成石英ガラス製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
石英ガラスの温度と体積との関係、及び冷却の際の体積の変化を様子を示したグラフである。
【図面】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-26 
出願番号 特願平7-210843
審決分類 P 1 652・ 121- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高崎▼ 久子  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 山田 充
米田 健志
登録日 2002-02-01 
登録番号 特許第3274953号(P3274953)
権利者 住金セラミックス・アンド・クオーツ株式会社 住友金属工業株式会社
発明の名称 光学用合成石英ガラス材及びその製造方法、並びに該光学用合成石英ガラス材を用いた合成石英ガラス製品  
代理人 広瀬 章一  
代理人 広瀬 章一  
代理人 広瀬 章一  

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