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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1096266
異議申立番号 異議2003-70617  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-09-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-07 
確定日 2004-02-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3322206号「浸漬型膜分離装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3322206号の訂正後の請求項1,2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成10年 3月 6日
設定登録 平成14年 6月28日
特許異議申立 平成15年 3月 7日
取消理由通知 平成15年 7月 1日
訂正請求 平成15年 9月 8日
特許異議意見書 平成15年 9月 8日
審尋 平成15年 9月22日
この審尋に対して特許異議申立人から何ら回答がなされなかったものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項a乃至gのとおりに訂正しようとするものである。
訂正事項a
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】MLSS濃度が10000mg/L以上の槽内に浸漬配置された膜モジュールと、該モジュールの下方に配置され、気体を噴出するための散気孔を備えた散気管と、該散気管に接続された気体供給管とを備えてなる浸漬型膜分離装置において、該気体供給管に該散気管よりも下方に延在する延長部を設け、該延長部に該延長部内を槽内に開放し、該散気管内の固形物を排出するための開放部を設けた浸漬型膜分離装置であって、該開放部の位置が、前記散気孔より下方に70cm以内であり、該散気孔におけるガス線速度が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方であることを特徴とする浸漬型膜分離装置。」
訂正事項b
特許明細書の段落【0007】を次のとおりに訂正する。
「【課題を解決するための手段】本発明(請求項1)の浸漬型膜分離装置は、MLSS濃度が10000mg/L以上の槽内に浸漬配置された膜モジュールと、該モジュールの下方に配置され、気体を噴出するための散気孔を備えた散気管と、該散気管に接続された気体供給管とを備えてなる浸漬型膜分離装置において、該気体供給管に該散気管よりも下方に延在する延長部を設け、該延長部に該延長部内を槽内に開放し、該散気管内の固形物を排出するための開放部を設けた浸漬型膜分離装置であって、該開放部の位置が、前記散気孔より下方に70cm以内であり、該散気孔におけるガス線速度が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方であることを特徴とするものである。」
訂正事項c
特許明細書の段落【0013】を次のとおりに訂正する。
「この開口の位置は、散気孔下端より5cm以上下方、好ましくは15〜30cm下方とする。さらに詳しくは、散気孔におけるガス線速度(散気孔から噴出する空気の線速度)が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方とする。これは、散気孔におけるガス線速度を高く取るほど散気孔付近の空気圧力が高まり、その結果散気管及び空気供給管内の水がより低くなるところから、この水位より低い位置に前記開口を設けないと、該開口から空気が噴出する恐れがあるためである。」
訂正事項d
特許明細書の段落【0014】における「これを防ぐため、該開口の位置(レベル)は散気孔より70cm以内とすることが好ましい。」を「これを防ぐため、該開口の位置(レベル)は散気孔より70cm以内とする。」に訂正する。
訂正事項e
特許明細書の段落【0003】における「横向きにに穴を開けた」を「横向きに穴を開けた」に訂正する。
訂正事項f
特許明細書の段落【0008】における「散気管内に浸入した固形物」を「散気管内に侵入した固形物」に訂正する。
訂正事項g
特許明細書の段落【0047】における「各縦管11〜14の下線部近傍位置」を「各縦管11〜14の下端部近傍位置」次のとおりに訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1において「槽」を「MLSS濃度が10000mg/L以上の槽」に、「散気管」を「気体を噴出するための散気孔を備えた散気管」に、そして「開放部」を「該散気管内の固形物を排出するための開放部」に限定し、更に開放部の位置に関し「該開放部の位置が、前記散気孔より下方に70cm以内であり、該散気孔におけるガス線速度が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方である」と限定しようとするものである。また、訂正事項b、c並びにdは訂正事項aと整合を図るとともに特許請求の範囲の記載と整合を図ろうとするものであり、訂正事項e、f並びにgは本件明細書及び図面の記載からみて誤記を訂正しようとするものである。以上のことから訂正事項a乃至gは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。そして、上記訂正事項a乃至gは、特許明細書の訂正前の段落【0005】、【0006】、【0013】、【0014】及び【0043】に記載されるのであるから、訂正事項a乃至gは願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立について
3-1.本件発明
上記のとおり、訂正は認められるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1、2」という)は、訂正された特許明細書に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】MLSS濃度が10000mg/L以上の槽内に浸漬配置された膜モジュールと、該モジュールの下方に配置され、気体を噴出するための散気孔を備えた散気管と、該散気管に接続された気体供給管とを備えてなる浸漬型膜分離装置において、該気体供給管に該散気管よりも下方に延在する延長部を設け、該延長部に該延長部内を槽内に開放し、該散気管内の固形物を排出するための開放部を設けた浸漬型膜分離装置であって、該開放部の位置が、前記散気孔より下方に70cm以内であり、該散気孔におけるガス線速度が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方であることを特徴とする浸漬型膜分離装置。
【請求項2】請求項1において、該散気管に水を供給する手段を設けたことを特徴とする浸漬型膜分離装置。
3-2.特許異議申立の理由
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3-3.刊行物に記載された事項
(1)刊行物1:特開平9-225272号公報(申立人が提出した甲第1号証)
(イ)「前記膜分離槽E2は、図2に示すように、多数の平膜mを並設してなる膜分離ユニットYとその前記膜分離ユニットYの下方に設けた前記膜分離ユニットYに対して気泡を供給する散気装置Sよりなる膜分離装置Mを内装している。・・・構成してある。」(段落【0010】)
(ロ)「散気具の形状も先の実施例に限定されず、図6に示すように、散気具本体Saをパイプ材で構成し、パイプの側面には山形形状の複数個の散気孔Shを設けるとともにパイプ先端には下向きの開放部Cを設けてある。散気孔Shを山形形状に形成することにより詰まりが生じにくくなり、例え詰まりが生じたとしても開放部Cから余剰の気泡が放出されるので散気不能になることがない。・・・防止することができる。」(段落【0016】)
(ハ)図6には、上記(ロ)の事項が記載されている。
(2)刊行物2:特開平10-43789号公報(申立人が提出した甲第2号証)
(イ)「上記したコンプレッサー16に代えてポンプ17を着脱自在継手15に接続してよい。その場合、上記と同様にブロワ9,10を停止し、弁装置12、11bを閉塞し、弁装置13を開放した状態で、ポンプ16を運転して、給気管11を通じて散気管4の内部に加圧水を供給するか、あるいは給気管11の内部に吸引圧を負荷することにより、槽内の被処理水8を散気管4内に流入させ、給気管11、分岐管13を通じて槽外へ導出する。」(段落【0018】)
(ロ)「散気管4内に加圧水を供給する場合は、その水の運動エネルギ-によって、散気孔4aや管内部の異物を被処理水8側へ押し出すことができ、また散気管4内に被処理水8を流入させる場合は、散気孔4aより大きく肥厚した管内の異物も被処理水8とともに槽外へ導出することができ、詰まりを解消できる。」(段落【0019】)
4.特許異議申立についての判断
4-1.本件発明1について
(1)一致点・相違点
刊行物1には、上記(1)(イ)〜(ハ)の記載事項から、本件発明1の記載振りに沿って記載すると「膜分離槽に浸漬された膜分離ユニットと、その膜分離ユニットの下方に設けた散気装置よりなる膜分離装置において、散気管をパイプ材で構成し、パイプの側面には複数個の散気孔を設けるとともにパイプ先端には下向きの開放部を備えた膜分離装置。」の発明(以下、「刊行1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と刊行1発明とを対比すると、刊行1発明の「膜分離ユニット」が本件発明1の「膜モジュール」に相当し、刊行1発明の散気管には気体供給管が接続されることも自明であるから、両者は、「槽内に浸漬配置された膜モジュールと、該モジュールの下方に配置され、気体を噴出するための散気孔を備えた散気管と、該散気管に接続された気体供給管とを備えてなる浸漬型膜分離装置」で一致するものの、次の点で相違している。
相違点a:本件発明1は「MLSS濃度が10000mg/L以上の槽内に浸漬配置された膜モジュール」であるのに対し、刊行1発明では「槽内に浸漬配置」されるものの、槽内の濃度は不明である点。
相違点b:本件発明1は「該気体供給管に該散気管よりも下方に延在する延長部を設け、該延長部に該延長部内を槽内に開放し、該散気管内の固形物を排出するための開放部を設けた」ものであるのに対し、刊行1発明は「パイプ先端に下向きの開放部を備えた」である点。
相違点c:本件発明1は「該開放部の位置が、前記散気孔より下方に70cm以内であり、該散気孔におけるガス線速度が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方である」のに対し、刊行1発明ではガス線速度と開放部位置の関係について何ら記載がない点。
(2)相違点の判断
まず相違点cについて検討すると、
刊行物2には、上記(2)(イ)及び(ロ)からみて「散気管の内部に加圧水を供給する」ことについて記載されているといえるが、相違点cのガス線速度と開放部位置についての構成については何ら記載されていない。そして、本件発明1の開放部が相違点bで記載されるように「気体供給管に延在して設けられ、固形物を排出させるためのものである」のに対し、刊行1発明の開放部は上記(ロ)に記載されるように「詰まりが生じたとき余剰の気泡を放出するものである」から、両者の開放部についての技術的思想は異にしていると云わざるを得ない。してみると、仮に表現上刊行1発明のパイプ先端の開放部が本件発明1の開放部に当たるとしても刊行1発明には上記したように本件発明1の技術思想がないのであるから、刊行1発明の開放部の位置をガス線速度に応じて変えようとすることを導出することはできない。
そうすると、相違点a,bを検討するまでもなく、本件発明1は、上記相違点cの構成を採ることにより、相違点a,bの構成と相俟って散気孔の閉塞を防ぎ、安定した運転ができるという本件特許明細書に載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。
4-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成に「散気管に水を供給する手段を設ける」限定を加えたものであるから、本件発明1についてで検討したと同様の理由により、本件発明2は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
5.結論
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件訂正後の請求項1、2に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正後の請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
浸漬型膜分離装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 MLSS濃度が10000mg/L以上の槽内に浸漬配置された膜モジュールと、
該膜モジュールの下方に配置され、気体を噴出するための散気孔を備えた散気管と、
該散気管に接続された気体供給管とを備えてなる浸漬型膜分離装置において、
該気体供給管に該散気管よりも下方に延在する延長部を設け、
該延長部に該延長部内を槽内に開放し、該散気管内の固形物を排出するための開放部を設けた浸漬型膜分離装置であって、
該開放部の位置が、前記散気孔より下方に70cm以内であり、該散気孔におけるガス線速度が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方であることを特徴とする浸漬型膜分離装置。
【請求項2】 請求項1において、該散気管に水を供給する手段を設けたことを特徴とする浸漬型膜分離装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は浸漬型膜分離装置に関するものであり、特に浸漬型膜分離装置に用いる散気管の散気孔の目詰まりを防止し、散気の偏りを防止して均質に曝気することを可能にした浸漬型膜分離装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
浸漬型膜分離装置にあっては、膜モジュールを槽体等の内部の被処理水中に浸漬し、該膜モジュール内を吸引して水を透過させる。この膜モジュールの下方に散気管を配置しこの散気管から空気を曝気することにより、膜モジュールに沿う気泡流れ及び上昇水流を形成することがある。
【0003】
従来、この浸漬型膜分離装置に用いる散気管としては、管状体の上、下または横向きに穴を開けたものが用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の散気管はしばしば散気孔が目詰まりし、散気に偏りが生ずるという問題があった。このように散気が偏ると、目詰まりした散気孔の上方に存在する濾過膜には、散気による気泡及びそれに伴い引き起こされる上昇水流(以下曝気水流と呼ぶ)が当たりにくくなり、膜濾過による濃縮が進行し、ついには脱水ケーキ状(以下、汚泥ケークという)に付着して膜のその部分は目詰まりを引き起こしやすくなる。
【0005】
特に、膜浸漬槽中のMLSS濃度が10000mg/L以上の高濃度条件ではこのような散気孔の目詰まり及びそれに伴う濾過膜の目詰まりが生じやすく、問題であった。
【0006】
本発明はこのような散気の偏りを解消し、浸漬膜の安定運転を可能にする浸漬型膜分離装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明(請求項1)の浸漬型膜分離装置は、MLSS濃度が10000mg/L以上の槽内に浸漬配置された膜モジュールと、該膜モジュールの下方に配置され、気体を噴出するための散気孔を備えた散気管と、該散気管に接続された気体供給管とを備えてなる浸漬型膜分離装置において、該気体供給管に該散気管よりも下方に延在する延長部を設け、該延長部に該延長部内を槽内に開放し、該散気管内の固形物を排出するための開放部を設けた浸漬型膜分離装置であって、該開放部の位置が、前記散気孔より下方に70cm以内であり、該散気孔におけるガス線速度が10m/s以上であるときは該散気孔より5cm以上下方であり、該線速度が15m/s以上であるときは該散気孔より10cm以上下方であり、該線速度が20m/s以上であるときは該散気孔より15cm以上下方であることを特徴とするものである。
【0008】
この浸漬型膜分離装置において、気体供給管に気体を供給した場合、この気体は気体供給管から散気管に入り、散気孔から噴出する。この散気管内に固形物が滞留していたときには、この固形物が散気管から散気管より低レベルの延長部に押し流され、次いで開放部を経て槽内に流出するようになる。従って、本発明によれば、散気管内に侵入した固形物を散気孔に目詰まらせることなく散気管外に排出することが可能になり、散気管の目詰まりを防止することができる。
【0009】
本発明(請求項2)の浸漬型膜分離装置は、請求項1の浸漬型膜分離装置において、該散気管に水を供給する手段を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
このように散気管内に間欠的に水を供給することにより、散気管内に滞留している汚泥を、乾燥して肥大化する前に洗い流すことができ、散気孔の目詰まり原因となる粗大な夾雑物の発生を防ぐことができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明においては、気体として空気を散気することが通常であるので、以下気体供給管を空気供給管と称し、気体として空気を例にして説明するが、本発明は空気以外の各種気体を散気する場合にも適用できる。
【0012】
本発明においては、この空気供給管の延長部に槽内への開放部を設けるが、この開放部としては例えば開口が用いられる。
【0013】
この開口の位置は、散気孔下端より5cm以上下方、好ましくは15〜30cm下方とする。さらに詳しくは、散気孔におけるガス線速度(散気孔から噴出する空気の線速度)が10m/s以上であるときは5cm以上下方とし、該線速度が15m/s以上であるときは10cm以上下方とし、該線速度が20m/s以上であるときは15cm以上下方とする。これは、散気孔におけるガス線速度を高く取るほど散気孔付近の空気圧力が高まり、その結果散気管及び空気供給管内の水位がより低くなるところから、この水位より低い位置に前記開口を設けないと、該開口から空気が噴出する恐れがあるためである。
【0014】
但し、この値を大きく取りすぎる、すなわち該開口の位置が過度に下方であると、散気管ないし空気供給管内の水面と開口とが遠くなる結果、散気管内に滞留する汚泥量が多くなり、腐敗したり固形化したりするため、不都合である。これを防ぐため、該開口の位置(レベル)は散気孔より70cm以内とする。
【0015】
通常、散気孔におけるガス線速度は15m/s程度に設定されるため、該開口のレベルは散気孔下方10〜70cmであれば良いが、余裕を取って15〜30cmに設定するのが好ましい。
【0016】
該開口の大きさは散気孔より大きいことが望ましく、通常は直径10〜100mm程度の口径の円形孔、又は一辺が10〜100mmの角穴がよい。なお、開口の形状は楕円形、多角形などであっても良く、この場合の開口の大きさは最大開口径が10〜100mm程度であれば良い。
【0017】
本発明では、延長部それ自体に開放部を設けても良く、この延長部に管部材を接続し、この管部材の先端の開口を介して延長部を槽内に開放しても良い。この管部材は、上方に立ち上がる部分を有していても良い。
【0018】
通常の散気管にあっては、散気管内の汚泥を速やかに排出するため散気孔を下向きに設けるが、本発明の浸漬型膜分離装置にあっては散気孔を上向き又は横向きに設けることも可能であり、その方が好適である場合もある。
【0019】
すなわち、散気孔を上向きに設けると散気管内の汚泥が散気管から排出されにくいため、汚泥が散気管内の下部に溜まり易い。この滞留した汚泥は徐々に乾燥して粗大化し、やがて剥離して空気の流れにのって移動し、散気孔を閉塞する。しかし本発明の浸漬型膜分離装置用散気装置にあっては、通常、散気圧力により散気配管内水面は散気管より下方にあるため、散気管内汚泥が乾燥・粗大化して散気孔に詰まる恐れはほとんど無くなる。むしろ散気孔が上にある分、散気管内の固形物が重力に逆らって散気孔に付着することが困難になるため、かえって散気孔の閉塞を抑止する効果がある場合がある。特に、原液中に数mm程度の大きさの粗大な夾雑物が多く含まれる場合や、散気を長時間停止したまま放置する事が想定されるときには散気孔を上向きや横向き等の下方以外の向きにすることが有効である。
【0020】
即ち、散気停止時には散気管周囲の懸濁液が散気管内に侵入することが多く、このときに懸濁成分や粗大な夾雑物は沈殿して散気管下部に堆積する。この堆積物が固形化する前であれば、散気を再開したときに散気管内の液が排出される勢いや曝気圧力により、堆積物は散気管を閉塞させることなく散気孔から排出される。ところが、粗大固形物があらかじめ散気管内に滞留していたり、懸濁成分が腐敗して固形化するほど長時間散気を停止したりする場合には、固形物はこのようには速やかに排出されない。このため、散気孔が下向きに設けられている場合にはそのまま散気孔を閉塞する事になる。これに対し、散気孔が下向き以外に設けられている場合には、管内の懸濁物質が散気孔上に沈殿して堆積することがなく、散気孔を閉塞することがない。
【0021】
本発明の一態様においては、散気管がその両端側から散気ガス(空気)の供給を受けるよう構成されている。このように構成することにより、散気孔に与える散気圧力を均一化することができ、より均一に散気する事が可能になる。また、散気孔の目詰まり位置を、膜への悪影響が比較的少ない、散気管中央部とすることができる。
【0022】
本発明の別の態様においては、散気管が一端側のみより散気空気の供給を受ける構成とされる。この場合には、散気管内の固形物を該他端側から空気供給管へスムーズに排出することができる。
【0023】
散気空気を散気管の一端側のみから供給するタイプとするか両端側から供給するタイプとするかは原水の性状に応じて選定すれば良い。なお、1つの膜モジュールの下方に両方のタイプの散気管を共存させても良く、バルブにより散気経路を切り替え、どちらのタイプにも切り替え可能としても良い。
【0024】
散気管の一端側のみから空気を供給し、反対側から汚泥が抜けていくタイプとした場合、空気供給管からもっとも遠い散気孔までの距離が長くなるため、空気供給管に近い側の散気孔と遠い側の散気孔の曝気圧力が異なりがちであり、各々の散気孔から均一の流量で曝気することが困難になる。すなわち、散気管の管路抵抗により空気供給管より遠い側の散気孔における曝気圧力が低下し、その散気孔の曝気量が減少し、その上方にある分離膜が汚泥ケークにより閉塞しやすくなる。この現象を防止するためには散気管内のガス線速度を10m/s以下、好ましくは1〜5m/sとし、散気管内の管路抵抗による圧力損失を防止するのが好ましい。
【0025】
また、散気管を2m以上と長くし、また空気量を、膜モジュール設置部の底面への投影面積当たり、150m3-Air/m2/hour以上と大きく取り、ガス線速度を4m/s以下と低く取る場合などは、散気管が太くなり、膜モジュール下部が散気管で塞がれてしまうという事態が生ずる場合がある。このような場合には、散気管に対し両端側から空気を供給することにより、散気管を細くし且つガス線速度を低くするのが良い。但しこの場合には、散気管の長手方向の中央部の散気孔から管内汚泥の一部が排出されるため、該中央部付近の散気孔が、目詰まりしやすくなるという問題がある。しかし通常は曝気による上昇水流は該中央部に縮流する(集まる)ため、中央部の散気孔は目詰まりしても重大な問題とはならない場合が多い。
【0026】
散気管の占める面積(槽体底面への投影面積)としては、槽体底面への膜モジュールの投影面積の2/3以下、とくに1/2以下が好ましい。これは、散気管の占める面積が大きすぎると、曝気により生ずる上昇流を阻害し、均一な上昇流が生じなくなり、その結果膜面に汚泥ケークが付着しやすくなるためである。また、これを防ぐためには散気管を多段に設置することも有効であるが、この場合には各段ごとの槽体底面への投影面積が膜モジュールの投影面積の2/3以下、とくに1/2以下とするのが好ましい。
【0027】
本発明の浸漬型膜分離装置にあっては、散気管内に水を供給するようにしてもよく、これにより、散気管内に滞留している汚泥を、乾燥して肥大化する前に洗い流す事ができ、散気孔の目詰まり原因となる粗大な夾雑物の発生を防ぐことができる。
【0028】
これは、長期間連続運転を継続すると、散気管内部に汚泥が付着してくるため、これの乾燥を防止するためである。特に散気孔周辺は汚泥が付着しやすく、これが剥がれて散気孔を閉塞する場合があるので、散気管内に水を供給することは効果的である。
【0029】
散気管に供給する水は上水等の清浄な水、又は膜透過水(処理水)を用いることが好ましい。供給頻度は5〜60分に1回、特に10〜20分に1回の間欠供給が好ましい。供給量は、通常の散気空気量をa(m3-air/min)としたときに0.1〜1×a(m3-水/min)とするのが好ましく、これを1回当たり0.1〜2秒間供給するのが好ましい。また、全供給量が全処理水量の10%以下にするのが好ましい。水の供給方法は、あらかじめ必要量貯めておいた水を空気供給配管ラインに挿入するようにバルブを切り替えることで、曝気空気の押し出し圧力を利用して散気管に供給するのが好適である。
【0030】
上記散気管等は適宜洗浄を行うことが好ましい。特に膜モジュールと共に薬品洗浄するのが好適である。薬剤としては苛性ソーダ等のアルカリ剤や次亜塩素酸ソーダ等の酸化剤、或いはこれらの混合物、又は塩酸や硫酸等の酸を用いることが好ましい。
【0031】
本発明はMLSS10000mg/L以上、特に15000mg/L以上で運転される浸漬型膜分離装置に適用するのに特に有効である。この濃度以下であると散気孔の目詰まりは生じにくく、また多少目詰まりして曝気水流が偏流したところで、膜はケーク化しにくく、大きな問題とはならない場合が多い。一方10000mg/L以上では散気孔は閉塞しやすく、また曝気が偏流した場合の膜へ与える悪影響も大きい。
【0032】
本発明では、散気管をヘッダ管に接続した場合、このヘッダ管にも散気孔を設けても良い。
【0033】
【実施例】
以下、実施例及び比較例について説明する。説明の便宜上、まず比較例1について説明する。
【0034】
[比較例1]
図1に示すように、上下の水平な集水管1,2間に多数の中空糸膜3をシート状に配列した膜モジュール4を槽体内に配置した。この中空糸膜は分離面積8m2、外径410μm、内径270μm、分離孔径0.1μmの親水化ポリエチレン製である。
【0035】
この膜モジュール4の下方に散気管5を6本、平行に配列した。各散気管5の両端は空気ヘッダ6,7に連結及び連通されている。空気ヘッダ6,7の両端にはそれぞれ縦管11,12,13,14が連結され、内部が空気ヘッダ6又は7に連通している。この空気ヘッダ6,7は40A透明塩ビ管(内径40mm、断面積1.26×10-3m2)よりなる。散気管は20A透明塩ビ管(内径20mm、断面積3.14×10-4m2)よりなる。散気孔5aは5mmφの円形の穴を下向きに開けたものとし、1本の散気管に対し等間隔に6個開けた。散気孔は計36個である。
【0036】
この比較例1においては、膜モジュール4及び散気管5をMLSS濃度15000〜20000mg/L、BOD槽負荷1kg/m3/dの活性汚泥中に浸漬し、膜フラックス0.3m3/m2/d(稼働時)、8分濾過2分停止の間欠運転、空気量33m3/hourで濾過を行った。
【0037】
空気は空気ヘッダ6の一端側の縦管13のみから空気ヘッダ6に供給された。この空気量のとき、空気ヘッダ6内の最大ガス線速度は7.3m/s、散気管の最大ガス線速度は散気管1本当たりの空気量を5.5m3/hourとして4.9m/sであった。散気孔5aのガス線速度(噴出速度)は、散気孔1個当たりの空気量を0.92m3/hour、散気孔断面積を1.96×10-5m2として13m/sであった。
【0038】
この結果、膜差圧(吸引時圧力と停止時圧力の差)は0.75kPa/dの速度でほぼ直線的に急増し、2週間程度で15kPaを超えたため、運転を停止した。このとき膜ユニットを引き上げて観察すると、膜面のかなりの部分に脱水ケーキ化した汚泥ケークが付着しており、この汚泥ケークが膜差圧上昇の原因であると思われた。このとき図2に示すように13個の散気孔が汚泥ケーク状の固まりで閉塞していた。このことから、散気孔の閉塞により曝気水流が偏流し、その結果曝気水流が当たりにくくなった部分の膜面に懸濁物質が濃縮し、膜により脱水されて汚泥ケーク化したものと考えられた。
【0039】
散気孔の閉塞は空気を供給する縦管13から遠い領域に多く、また閉塞した散気孔の上部の中空糸膜は明らかに激しくケーク化していた。該縦管13に近い2本の中空糸膜モジュールはほとんど汚泥ケークの付着が見られず、またその下部の散気孔も閉塞していなかった。
【0040】
この結果から、散気孔閉塞の機構は次のように推定される。
【0041】
図3(a)に示したように、運転開始時は散気管の中には活性汚泥が入り込んでおり、この活性汚泥は散気開始時、空気を供給するヘッダ6と反対側に移動しながら散気孔から排出される。従って、活性汚泥中の粗大な夾雑物等は空気供給ヘッダ6と反対の方向に移動し、最終的には空気供給ヘッダ6から遠い散気管で散気孔を通り抜けられずに閉塞する。空気供給ヘッダ6に近い側の散気孔では、たとえ閉塞しかかっても、図3(a)に示したように空気供給側から遠ざかる汚泥の流れにのって、剥離される。また、空気供給ヘッダ6から遠い側に行くに従って、散気孔5aを通り抜けられない夾雑物は濃縮するため、より一層閉塞の可能性が高くなる。
【0042】
また、図3(b)に示したように、運転開始後も散気管内部に付着した汚泥(図中の「汚泥ケーク」)が半乾燥状態となって溜まっており、空気の流れにのって移動する。この結果、やはり空気供給ヘッダ6側から遠い散気孔を閉塞することになる。
【0043】
[実施例1]
図1(b)の2点鎖線の円形部に示すように、各縦管11〜14の下端近傍位置に直径10mmの開口Hを設けた。なお、各縦管11〜14の下端近傍は散気管5よりも下方に延設された延長部となっている。その他は比較例1と同様にして膜濾過を行ったところ、散気孔は殆ど閉塞しなくなり、浸漬膜の差圧も6kPa程度で横這いとなり、2ケ月以上安定に推移した。
【0044】
このように散気孔が閉塞せず安定運転が可能になったのは、汚泥の大部分は開口Hを通じて排出されたためと考えられる。特に、従来は空気供給用の縦管13より遠い側に粗大な夾雑物が濃縮されて散気孔を閉塞していたのに対し、本発明ではこのように散気孔を通り抜けられない夾雑物は開口Hを通じて排出されるため、散気孔の閉塞が生じない。
【0045】
なお、念のため付言すると、比較例1と同様に本実施例1では、散気管5には空気ヘッダ6側のみから空気が供給されている。
【0046】
[比較例2及び実施例2]
(比較例2)
比較例1において縦管13,14から空気ヘッダ6,7内に空気を供給し、散気管5へはその両端側から空気が供給されるようにしたこと以外は同様にして膜濾過を行ったところ、差圧は10kPa程度でほぼ横這いとなり1ケ月程度安定に推移した。このとき、中央部2列の散気孔は殆ど閉塞しており、またこの上部の膜面に汚泥ケーク付着が多く見られたが、比較例1よりは安定に運転できることが分かり、汚泥ケークの付着量も少なかった。これは前述のように曝気水流が中央部に縮流するため、ある程度は膜面における汚泥の濃縮を抑制し、ケーク化を抑制することができたものと考えられる。
【0047】
(実施例2)
比較例2において、更に実施例1と同様に、各縦管11〜14の下端部近傍位置に直径10mmの開口Hを設けて膜濾過を行ったところ、実施例1と同様、濾過差圧は6kPa程度で安定した。
【0048】
以上の実施例1,2より、開口Hが散気孔の閉塞防止に有効であることが分かるが、開口Hを設けた散気管においても、運転を継続するに従って散気管内部の散気孔周辺には汚泥が付着してくるのが認められた。そして、連続運転3ケ月後にはやや散気孔が閉塞する傾向が現れたため、散気管の洗浄を行った。
【0049】
これ以後10分間に1回、33m3/hour程度の水量で8Lの水を約0.9秒間供給するように装置をタイマーで制御し、運転を行ったところ、3ケ月経過後も散気管は清浄なままであり、曝気の偏流が生ずる兆候が無く、より安定に散気できることが実証された。この洗浄水注入の間は短期間ながら曝気が停止するため、この間にも膜濾過を行うと、曝気水流が一時的に弱まるか消滅した状態で膜濾過を行うことになり、膜が目詰まりする事が予想されたため、この散気管洗浄水注入工程は、膜濾過を停止している2分間の間に行うようにした。なお、散気管の洗浄水としては膜透過水を貯留槽に貯留しておき、散気管に水を供給するときには貯留した水を散気空気の圧力を利用して空気供給管に供給するようにバルブを切り替える事により行った。
【0050】
【発明の効果】
以上の実施例及び比較例からも明らかな通り、本発明によれば散気孔の閉塞を防ぎ、その上方に配置された膜モジュールを安定に運転できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
膜モジュールと散気管との構成を示すものであり、(a)図は正面図、(b)図は右側面図、(c)図は(a)図のC-C線に沿う断面図である。
【図2】
散気孔の閉塞状況を示す説明図である。
【図3】
散気孔の閉塞機構を示す説明図である。
【符号の説明】
1,2 集水管
3 中空糸膜
4 膜モジュール
5 散気管
5a 散気孔
6,7 空気ヘッダ
11,12,13,14 縦管
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-27 
出願番号 特願平10-55205
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 真々田 忠博  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 山田 充
岡田 和加子
登録日 2002-06-28 
登録番号 特許第3322206号(P3322206)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 浸漬型膜分離装置  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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