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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C10M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1096267
異議申立番号 異議2003-71833  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-18 
確定日 2004-03-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3368045号「水溶性加工油剤」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3368045号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3368045号の請求項1ないし2に係る発明についての出願は、平成6年4月15日に特許出願がされ、平成14年11月8日に、その発明について特許権の設定登録がなされたところ、平成15年7月18日に、全請求項に係る発明の特許について、長田 正(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年2月4日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下の通りである。
2-1-1.訂正事項a
特許請求の範囲に、
「【請求項1】 (A)ヒドロキシ脂肪酸、またはヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、(B)炭素数2〜20の脂肪族モノカルボン酸、および脂環族モノカルボン酸、あるいは芳香族モノカルボン酸(ただし、以上のカルボン酸はヒドロキシル基を含まない)との反応により得られるエステル化合物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を含有することを特徴とする水溶性加工油剤。
【請求項2】 ヒドロキシ脂肪酸が、炭素数10〜20のモノヒドロキシ、またはジヒドロキシ脂肪酸であり、縮合ヒドロキシ脂肪酸が、ヒドロキシ脂肪酸の2〜6量体、またはこれらの混合物である請求項1に記載の水溶性加工油剤。」
とあるのを、
「【請求項1】 (A)ヒドロキシ脂肪酸、またはヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、(B)炭素数2〜20の脂肪族モノカルボン酸、および脂環族モノカルボン酸、あるいは芳香族モノカルボン酸(ただし、以上のカルボン酸はヒドロキシル基を含まない)との反応により得られるエステル化合物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を含有することを特徴とし、ヒマシ油脂肪酸の塩を含有しない水溶性加工油剤。
【請求項2】 ヒドロキシ脂肪酸が、炭素数10〜20のモノヒドロキシ、またはジヒドロキシ脂肪酸であり、縮合ヒドロキシ脂肪酸が、ヒドロキシ脂肪酸の2〜6量体、またはこれらの混合物である請求項1に記載の水溶性加工油剤。」
と訂正する。
2-1-2.訂正事項b
明細書の段落【0007】の記載について、
「即ち、本発明の水溶性加工油剤は、(A)ヒドロキシ脂肪酸、または該ヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、(B)炭素数2〜20の脂肪族カルボン酸、及び脂環族カルボン酸、あるいは芳香族カルボン酸とを反応して得られるエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を含有することを特徴とする水溶性加工油剤に関する。」
とあるのを、
「即ち、本発明の水溶性加工油剤は、(A)ヒドロキシ脂肪酸、または該ヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、(B)炭素数2〜20の脂肪族カルボン酸、及び脂環族カルボン酸、あるいは芳香族カルボン酸とを反応して得られるエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を含有することを特徴とし、ヒマシ油脂肪酸の塩を含有しない水溶性加工油剤に関する。」
と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1に係る発明の「特徴とする水溶性加工油剤」を、「特徴とし、ヒマシ油脂肪酸の塩を含有しない水溶性加工油剤」と限定するものであり、ヒマシ油脂肪酸の塩の含有を排除する訂正であると認められるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。そして、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、訂正事項bは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項及び第2項の規定に適合するので、該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載されたとおりのものである。

3-2.申立ての理由の概要
異議申立人は、証拠方法として、本件出願の日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平2-119925号公報)を提示して、訂正前の本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号に該当するので、訂正前の本件請求項1ないし2に係る特許は、取り消されるべきものであると主張する。

3-3.取消理由通知の概要
当審の通知した取消理由は以下のとおりである。
訂正前の本件請求項1ないし2に係る発明は、異議申立人の提出した甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものであるから、訂正前の本件請求項1ないし2に係る特許は、取り消されるべきものである。

3-4.甲第1号証に記載された事項
a.「1.ヒマシ油脂肪酸(A)の塩と、炭素数22〜140のカルボン酸(B)の塩とを含み、かつヒマシ油脂肪酸(A)とカルボン酸(B)の割合が重量比で5:95〜95:5である組成物からなる水溶性界面活性剤組成物。
2.炭素数22〜140のカルボン酸(B)が、非重縮合カルボン酸(b1)、重合カルボン酸(b2)および縮合カルボン酸(b3)よりなる群から選ばれた少なくとも1種のカルボン酸である請求項1記載の組成物。
3.ヒマシ油脂肪酸(A)の塩またはカルボン酸(B)の塩がアミン塩である請求項1記載の組成物。」(特許請求の範囲)
b.「縮合カルボン酸(b3)としては、a OH基を有するカルボン酸同士のエステル、b OH基を有するカルボン酸とOH基を有しないカルボン酸とのエステル、c OH基を有する重合カルボン酸同士、あるいはOH基を有する重合カルボン酸と他のカルボン酸(OH基を有するか否かを問わない)とのエステル、d 上記a〜cの縮合カルボン酸同士、あるいは上記a〜cの縮合カルボン酸をさらにカルボン酸や重合カルボン酸でエステル化したもの、などがあげられる。」(第3頁左上欄第11〜20行)
c.「上記の重合カルボン酸(b2)、縮合カルボン酸(b3)の説明の個所におけるカルボン酸としては、リシノール酸、・・・などが例示される。」(第3頁右上欄第8行〜左下欄第20行)
d.「<配合割合>上述のヒマシ油脂肪酸(A)とカルボン酸(B)の割合は、後者のカルボン酸(B)の種類あるいは使用目的によっても異なるが、重量比で5:95〜95:5、殊に10:90〜95:5に設定することが重要であり、カルボン酸(B)の割合が余りに少なくなると、水に添加したときの消泡性が不足し、一方カルボン酸(B)の割合が余りに多くなると水溶性を損なうようになる。つまり、ヒマシ油脂肪酸(A)とカルボン酸(B)は、適正な割合で配合された場合にはじめて所期の消泡性と水溶性を兼ね備えるようになる。」(第3頁右下欄第1〜13行)
e.「本発明の水溶性界面活性剤組成物は、切削・研削油剤をはじめとする金属油剤用の界面活性剤として特に有用である。」(第4頁左上欄第13〜15行)

3-5.対比・判断
3-5-1.特許法第29条第1項について
本件発明1は、(A)ヒドロキシ脂肪酸、またはヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、(B)炭素数2〜20の脂肪族モノカルボン酸、および脂環族モノカルボン酸、あるいは芳香族モノカルボン酸(ただし、以上のカルボン酸はヒドロキシル基を含まない)との反応により得られるエステル化合物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を含有し、ヒマシ油脂肪酸の塩を含有しない水溶性加工油剤である。
それに対し、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、上記3-4.a及びeによれば、ヒマシ油脂肪酸の塩と、炭素数22〜140のカルボン酸とを、重量比で5:95〜95:5の割合で含む金属油剤用の水溶性界面活性剤組成物であり、上記3-4.dには、上記配合割合とすることによりはじめて所期の消泡性と水溶性を兼ね備えることができると記載されている。
したがって、両者はともに水溶性加工油剤であるものの、甲1発明は、必ずヒマシ油脂肪酸の塩を含むものであり、ヒマシ油脂肪酸の塩を含まない水溶性加工油剤が記載されているとすることができず、本件発明1と甲1発明は、組成が明らかに相違しているから、その他の構成について判断するまでもなく両者は同一ということはできない。
そして、本件発明2は、本件発明1の構成をさらに限定するものであり、同様にヒマシ油脂肪酸の塩を含有しないものであるから、上記と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明と同一ということはできない。
よって、本件発明1ないし2の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

3-5-2.特許法第29条第2項について
本件発明1は、明細書段落【0004】〜【0005】に、【発明が解決しようとする課題】として、「しかしながら、これらの水溶性切削研削油剤は実際の金属加工で使用した場合、加工時の潤滑性が十分でなく、また長期間使用すると、装置に使用されている摺動面潤滑油、作動油等の汚染油が混入してくるが、これら汚染油が乳化をきたし、金属加工液が汚染される。このため金属加工液は劣化を速め、性能の低下を生じる。更に機械汚れを生じ、金属加工液の腐敗を早め悪臭の発生の原因ともなり、作業環境を悪化させる等の欠点があった。本発明は、上記課題を解決するために行われたものであり、切削、研削加工等の金属加工において、潤滑性、消泡性、防錆性に優れ、かつ装置に使用される摺動面潤滑油や作動油等の汚染油が混入しても乳化しにくく、汚染、劣化の少ない水溶性加工油剤を提供することを目的とする。」と記載されているように、汚染油が混入しても乳化しにくい水性加工油剤を提供するものである。
ところで、上記3-4.a〜cの記載によれば、甲1発明における「炭素数22〜140のカルボン酸(B)の塩」は、OH基を有するカルボン酸とOH基を有しないカルボン酸とのエステルであり、上記カルボン酸はリシノール酸であってもよいものである。したがって、甲1発明における「炭素数22〜140のカルボン酸(B)の塩」が、本件発明1における「(A)と(B)との反応により得られるエステル化合物の塩」に相当するといえる。しかしながら、上記3-5-1.でも述べたように、甲1発明は、所期の消泡性と水溶性を兼ね備えるために甲1発明におけるヒマシ油脂肪酸(A)の塩を必要とするものであり、また、甲第1号証全体を参酌しても、本件発明1のような汚染油の混入に関する課題については記載も示唆もない。
したがって、甲1発明には、本件発明1の上記課題がなく、しかも本件発明1では含まれない成分を必須成分とするものであるから、甲1発明の水溶性界面活性剤組成物において、その必須成分であるヒマシ油脂肪酸(A)の塩を除いた組成物として本件発明1とすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明1は、上記構成を採用することにより、本件明細書の段落【0040】に記載されているとおりの「以上のように、本発明のエステル化物の塩は、優れた加工性能を有すると共に、消泡性、防錆性に優れ、かつ潤滑油が混入しても乳化しにくい。従って、本発明の水溶性加工油剤は、従来油剤に比べて加工性能が優れるだけでなく、消泡性や防錆性が優れるため作業性が良好で、かつ、摺動面潤滑油、作動油等の汚染油が混入してもこれらの乳化による汚染、劣化が少ないため長期間安定に使用できる。」という、甲第1号証からは予期し得ない優れた効果を奏するものである。
また、本件発明2は、本件発明1の構成をさらに限定するものであり、同様にヒマシ油脂肪酸の塩を含有しないものであるから、上記と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明から容易になし得ることとはいえない。
よって、本件発明1ないし2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

3-6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1ないし2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水溶性加工油剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)ヒドロキシ脂肪酸、またはヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、(B)炭素数2〜20の脂肪族モノカルボン酸、および脂環族モノカルボン酸、あるいは芳香族モノカルボン酸(ただし、以上のカルボン酸はヒドロキシル基を含まない)との反応により得られるエステル化合物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を含有することを特徴とし、ヒマシ油脂肪酸の塩を含有しない水溶性加工油剤。
【請求項2】 ヒドロキシ脂肪酸が、炭素数10〜20のモノヒドロキシ、またはジヒドロキシ脂肪酸であり、縮合ヒドロキシ脂肪酸が、ヒドロキシ脂肪酸の2〜6量体、またはこれらの混合物である請求項1に記載の水溶性加工油剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、切削研削加工や塑性加工に使用する水溶性加工油剤に関する。さらに詳しくは、潤滑性、消泡性、防錆性に優れ、更に摺動面潤滑油、作動油等の他の油が混入しても汚染されにくく、また性能劣化の少ない水溶性加工油剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、切削研削加工や塑性加工等の金属加工には、火災の危険性がなく、洗浄が容易である等の理由から水溶性加工油剤が使用されている。特に切削研削加工では、加工性能に優れ、冷却性の良い水溶性加工油剤が広く用いられている。これらの水溶性加工油剤は、オレイン酸、ひまし油脂肪酸等の脂肪酸類やナフテン酸、ロジン酸等のアルカリ金属塩、またはアミン塩を主成分としており、一般に発泡しやすく、特に脂肪酸塩は発泡しやすいため、発泡による作業性の低下、更に防錆性や防食性に悪影響を及ぼす等の欠点があった。
【0003】
この様な欠点を改良した低起泡性で、防錆性のある水溶性切削油剤が報告されている。例えば、ポリヒドロキシ脂肪酸の塩を用いる水溶性切削油剤組成物(特開昭60-88096号)、リシノール酸重縮合物の塩を用いる水溶性切削研削油剤(特開昭57-159891号)、ジヒドロキシ脂肪酸、あるいは/およびモノヒドロキシ脂肪酸との脱水縮合して得られる縮合脂肪酸の塩を用いる水溶性切削油剤(特開平4-202298号)等が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの水溶性切削研削油剤は実際の金属加工で使用した場合、加工時の潤滑性が十分でなく、また長期間使用すると、装置に使用されている摺動面潤滑油、作動油等の汚染油が混入してくるが、これら汚染油が乳化をきたし、金属加工液が汚染される。このため金属加工液は劣化を速め、性能の低下を生じる。更に機械汚れを生じ、金属加工液の腐敗を早め悪臭の発生の原因ともなり、作業環境を悪化させる等の欠点があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために行われたものであり、切削、研削加工等の金属加工において、潤滑性、消泡性、防錆性に優れ、かつ装置に使用される摺動面潤滑油や作動油等の汚染油が混入しても乳化しにくく、汚染、劣化の少ない水溶性加工油剤を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するための研究を行なった結果、ヒドロキシ脂肪酸、または縮合ヒドロキシ脂肪酸の分子中に残存するヒドロキシル基の一基乃至全部を、炭素数2〜20のモノカルボン酸(ただし、ヒドロキシル基を含まない)との反応により得られるエステル化合物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を水溶性加工油剤に用いることにより、優れた加工性を有すると共に、消泡性、防錆性に優れ、かつ摺動面潤滑油、作動油等の混入してくる油を乳化しにくくし、汚染、劣化が少なくなることを見出だし、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明の水溶性加工油剤は、(A)ヒドロキシ脂肪酸、または該ヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、(B)炭素数2〜20の脂肪族カルボン酸、及び脂環族カルボン酸、あるいは芳香族カルボン酸とを反応して得られるエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を含有することを特徴とし、ヒマシ油脂肪酸の塩を含有しない水溶性加工油剤に関する。
【0008】
本発明に用いるヒドロキシ脂肪酸としては、モノヒドロキシ脂肪酸とジヒドロキシ脂肪酸であり、ヒドロキシ脂肪酸の炭素数は、10〜20であることが好ましく、炭素数が9以下では潤滑性や防錆性が劣るため好ましくない。20以上では、水溶性が乏しくなり、水溶性加工油剤には適さない。
【0009】
具体的には、モノヒドロキシ脂肪酸としては、オキシラウリン酸(サビニン酸)、2-ヒドロキシテトラデカン酸、ヤラピノール酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸(ユニペリン酸)、2-ヒドロキシオクタデカン酸、12-ヒドロキシ-9-オクタデセン酸、12-ヒドロキシオクタデカン酸等が例示され、ジヒドロキシ脂肪酸としては、3,11-ジヒドロキシテトラデカン酸、9,10-ジヒドロキシオクタデカン酸等が例示される。これらは一般に植物油、ロウ等を常法により加水分解、精製して得ることができる。また、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸の不飽和結合に公知の方法でヒドロキシル基を導入してジヒドロキシ脂肪酸を得ることができる。
【0010】
本発明に用いる縮合ヒドロキシ脂肪酸は、例えば、前記ヒドロキシ脂肪酸の1種、または2種以上の混合物を窒素ガス等の不活性ガスの気流下、100〜200℃で30分〜12時間脱水縮合反応することにより得られる。縮合ヒドロキシ脂肪酸の縮合度は酸価で規定することができ、酸価から換算することにより縮合度を求めることができる。本発明に用いる縮合ヒドロキシ脂肪酸の縮合度は2〜6量体が望ましく、これら各縮合物および未縮合ヒドロキシ脂肪酸の混合物を用いてもよい。縮合度が7量体以上の縮合ヒドロキシ脂肪酸は、水溶性低くなり好ましくない。
【0011】
本発明に用いる炭素原子数2〜20のモノカルボン酸とは、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、および芳香族モノカルボン酸であり、ヒドロキシル基を含有しないものである。また、炭素数が20以上の場合はエステル化合物の水溶性が低くなり好ましくない。
【0012】
例示すると炭素数2〜20の脂肪族モノカルボン酸として、酢酸、イソ酪酸、ブタン酸、ヘプタン酸、ソルビン酸、オクタン酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が例示される。脂環族モノカルボン酸としては、炭素数1〜12のアルキル基を有してもよいシクロアルカンにカルボン酸、または炭素数1〜3の鎖状カルボン酸の付いたものが例示され、例えば、シクロヘキシルカルボン酸、シクロヘキシル酢酸等が挙げられる。芳香族モノカルボン酸としては、炭素数1〜12のアルキル基を有してもよい芳香環にカルボン酸、または炭素数1〜3の鎖状カルボン酸の付いたものが例示され、例えば、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、けい皮酸、ナフタレン酢酸、ナフトエ酸等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いる、前記(A)と(B)との反応によるエステル化物は、常法のエステル化反応によって得られる。エステル化反応の例としては、(A)と(B)を適当な縮合触媒の存在下、100〜200℃で反応させ生成する所定量の水を除去して得る方法や、(B)を予め塩化チオニルで処理して酸塩化物にした後、(A)と反応させてエステル化物を得る方法等がある。
【0014】
また、(A)と(B)をエステル化する際の反応比率は、(A)の分子中の水酸基の少なくとも1基をエステル化するに必要な(B)を用いる。
【0015】
上記エステル化物を常法に従って、アルカリ金属の水酸化物、アンモンニア、またはアミン化合物で中和することにより、本発明に用いるエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、およびアミン塩が得られる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等を、アミン化合物としては、エチルアミン、プロピルアミン等の炭素数1〜5のアルキルアミン、(モノ、ジ、トリ)エタノールアミン、(モノ、ジ、トリ)イソプロパノールアミン等のアルカノールアミン、モルホリン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等のシクロアルキルアミン類を用いることができる。特に好ましくは、水溶性アミンである。
【0016】
本発明による水溶性加工油剤は、本発明のエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、および、またはアミン塩を油剤原液中に配合することによって調整される。配合量は通常5〜80重量%、好ましくは10〜60重量%である。配合量が5重量%以下では防錆性が悪くなり、好ましくない。
【0017】
尚、本発明の水溶性加工油剤は、所望により鉱物油、動植物油、脂肪酸、脂肪酸エステル、極圧添加剤、界面活性剤、防腐剤、等の常套の添加剤を適宜配合してもよい。
【0018】
本発明の水溶性加工油剤は、水に希釈して使用されるが、希釈倍率は、一般には5〜100倍に希釈して使用されるが、被加工物の材質等に応じて適宜選定すればよい。
【0019】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
(1)縮合ヒドロキシ脂肪酸の調製
縮合ヒドロキシ脂肪酸は、常法に従い、ヒドロキシ脂肪酸を窒素気流下、200℃で所定時間加熱して得た。用いたヒドキシ脂肪酸とそれから得られた縮合ヒドロキシ脂肪酸の酸価、水酸基価、酸価から換算した平均分子量を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
(2)エステル化物の調製
本発明に用いるエステル化物は、常法に従い、先ず、所定量のカルボン酸に塩化チオニルを80〜100℃で反応させてα-クロロカルボン酸を合成し、次いで、このα-クロロカルボン酸と所定量のヒドロキシ脂肪酸または縮合ヒドロキシ脂肪酸とを、窒素気流下、室温にて反応させた後、反応物を純水洗浄により副成する塩化水素を除去し乾燥して得た。表2に、用いたヒドキシ脂肪酸、縮合ヒドロキシ脂肪酸、およびカルボン酸の種類、更にその反応モル比を示す。表2中のNoは、表1に記載するNoを示す。
【0023】
【表2】

【0024】
[実施例1〜26]
表2に示すエステル化物No.1〜21のトリエタノールアミン、およびナトリウム塩の0.5wt%水溶液として試料液を調製した。この試料液を用いて以下に示す試験方法により防錆力、摩擦係数、消泡性、潤滑油乳化性を測定した。防錆力、摩擦係数、消泡性の結果を表3と表4に、潤滑油分離性の結果を表5と表6に示す。表3と表5は、エステル化物のトリエタノールアミン塩について、表4と表6は、ナトリウム塩についての結果を示す。
【0025】
試験方法を次に示す。
(A)防錆性試験
(イ)鋳物切粉法--鋳物のドライカッティング切粉を試験液に10分間浸漬後、切粉を試験液を切ってからシャーレに移し、72時間後の発錆状態を観察した。発錆の状態を以下の5段階の基準によって評価した。
発錆階級:
5:発錆なし
4:10%以下の発錆
3:10〜50%の発錆
2:50%以上の発錆
1:100%の発錆
【0026】
(ロ)冷間圧延鋼板法--研磨脱脂した冷間圧延鋼板を試験液に10分間浸漬後、引上げ風乾させ室内に72時間放置後、鋼板の発錆状態を(イ)と同じ発錆階級によって評価した。
【0027】
(B)摩擦係数--曽田式II型振り子油性試験機を用いて25℃にて測定した。
【0028】
(C)消泡性試験--試料液50mlを100ml容の共栓付メスシリンダーに入れ、密栓後、液温30℃でメスシリンダーを上下に10回振盪し、その後静置して、直後、30秒後、60秒後の泡の容積(ml)を測定した。
【0029】
(D)潤滑油分離性試験--試料液50mlと潤滑油10mlとを100ml容の共栓付メスシリンダーに入れ、密栓後、液温30℃でメスシリンダーを上下に10回振盪し、その後静置して、直後、10分後、30分後、及び60分後の潤滑油の分離量を測定した。潤滑油としては、(a)モービル石油(株)製バクトラオイルNo2(摺動面潤滑油)、(b)モービル石油(株)製DTE22(油圧作動油)の2種を用いた。
【0030】
[比較例1〜14]
実施例と同様に、ヒドロキシ脂肪酸、及び縮合ヒドロキシ脂肪酸のトリエタノールアミン塩、およびナトリウム塩を比較例として試験を行い、結果を表3〜表6に示した。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
[実施例27〜30]、[比較例15〜18]
表7に示す組成で配合した水溶性加工油剤を調整し、該水溶性加工油剤を水を用いて30倍の希釈液を調整し、下記に示す実機による切削試験を行い切削性能(タップの工具寿命)、および混入してきた潤滑油の乳化状態を評価した。その結果を表7に示す。
【0036】
(E)切削試験条件と評価方法
加工機械:立型NCフライス盤(エンシュウ製)
加工工具:M12×1.25 ハンドタップ(ハイス鋼、ヤマワ製)
加工条件:切削速度6m/min、送り200mm/min、深さ20mm不貫通、下穴径10.7mm
被削材 :S45C
【0037】
評価方法:
加工後のねじ穴を、ねじ用限界ゲージ(クロダ製GPII-M12×1.25)で検査し、ねじ穴に異常がみられるまで1本の工具で加工を連続し、正常に加工できるねじ穴の個数を工具寿命とした。
【0038】
(F)潤滑油の乳化状態の評価
混入してきた潤滑油の乳化の状態を次の基準で評価した。
評価基準
◎:潤滑油は乳化せず、完全に分離浮上する
△:潤滑油の一部は乳化し、液中に分散
×:潤滑油は完全に乳化し、液は変色する
【0039】
【表7】

【0040】
【発明の効果】
以上のように、本発明のエステル化物の塩は、優れた加工性能を有すると共に、消泡性、防錆性に優れ、かつ潤滑油が混入しても乳化しにくい。従って、本発明の水溶性加工油剤は、従来油剤に比べて加工性能が優れるだけでなく、消泡性や防錆性が優れるため作業性が良好で、かつ、摺動面潤滑油、作動油等の汚染油が混入してもこれらの乳化による汚染、劣化が少ないため長期間安定に使用できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-18 
出願番号 特願平6-102291
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C10M)
P 1 651・ 121- YA (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 佐藤 修
関 美祝
登録日 2002-11-08 
登録番号 特許第3368045号(P3368045)
権利者 株式会社ネオス
発明の名称 水溶性加工油剤  

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