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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1096319
異議申立番号 異議2002-70456  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-27 
確定日 2004-04-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第3202084号「分配用バルブ」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3202084号の請求項1、2、5、6、8に係る特許を取り消す。 同請求項3、4、7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3202084号の請求項1ないし8に係る発明は、平成4年12月4日(優先権主張 平成3年12月6日 米国)に特許出願され、平成13年6月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、申立人岩井満より特許異議の申立てがなされ、取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成14年9月5日に意見書の提出がなされたものである。

2.本件の請求項1ないし8に係る発明
本件の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】放出開ロ部21を備えた容器2から成る流体製品の包装体の分配用バルブにおいて、
容器2の放出開ロ部21のまわりをシールするバルブフランジ4と、該放出開口部21のほぼ中心区域に位置するバルブヘッド5と、前記バルブフランジ4とバルブヘッド5を連結するコネクタースリーブ7とを、弾性材料で一体に成形して成り、
前記バルブヘッド5は、容器内の所定の放出高圧力を受けると流体の流れを許すように開き、所定の放出高圧力を除去すると流体の流れを止めるように閉じるオリフイス6を該バルブヘッド5に貫通して設け、
前記コネクタースリーブ7は、オリフイス6を開かせる放出高圧力にまで至らない容器内の増加圧力を受けるとバルブヘッド5を外方に移行せしめ、容器内の増加圧力を除去するとバルブヘッド5を元の位置に復帰せしめる環状の折曲部51を有し、
更に、前記バルブヘッド5は、放出高圧力に至らない容器内の増加圧力による外方移行中にオリフィス6を開かず閉じているように構成されていることを特徴とする分配用バルブ。
【請求項2】前記バルブヘッド5がオリフイス6を設けた中心部分41と該中心部分を囲む周縁部分40とを備えて成り、
前記オリフイス6がバルブヘッド5の中心から放射方向に延びるスリット55、56により構成され、隣合うスリットの間にバルブフラップ57を形成して成り、バルブフラップ57の相互に対向する側面58、59を密接せしめることによりオリフィス6の閉止状態を構成する一方、バルブフラップ47を外方に折曲せしめることによりオリフイス6の開放状態を構成することを特徴とする請求項1に記載の分配用バルブ。
【請求項3】前記バルブヘッド5が容器2の外側に向けて臨む外側表面38を形成し、該外側表面38は、オリフイス6を閉じた状態において、容器2の外側から内側に向けて凹入するほぼ球面状の凹面を形成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の分配用バルブ。
【請求項4】前記バルブヘッド5が、オリフイス6を設けた中心部分41と、該中心部分41を囲む周縁部分40とを備え、該周縁部分40が、容器の内側から外側に向けて傾斜し且つほぼ球面状の凸面に形成された内側表面39を有して成ることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の分配用バルブ。
【請求項5】前記コネクタースリーブ7の折目部51が、容器の内側に向けて対向し且つ容器の内圧を増したときコネクタースリーブ7をバルブフランジ4とバルブヘッド5の間で伸長せしめる環状の溝を形成して成ることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の分配用バルブ。
【請求項6】前記バルブヘッド5が、流体の流れのコントロールを改良しオリフィス6を速やかに且つ積極的に開閉させるように、コネクタースリーブ7の弾性により内向きに付勢されて成ることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載の分配用バルブ。
【請求項7】前記バルブヘッド5の外側表面38は、オリフイス6が閉じられたときほぼ凹形を呈し、オリフィス6が開かれたときほぼ凸形を呈するように形成され、コネクタースリーブ7によりバルブヘッド5に与えられる内向きの付勢力とトルクが前記オリフイス6を開けたバルブヘッド5を凸形に維持するように作用せしめられ、オリフィス6を通過する流体の流れを持続するために必要な容器の内圧が、オリフィス6を開かせるために必要な容器の内圧よりも低くても足りるように構成し、流体の分配と流量コントロールが容易となるように構成して成ることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6に記載の分配用バルブ。
【請求項8】前記バルブヘッド5は、オリフイス6を開いたとき概ね凸形を呈し、オリフイス6は、完全に開いた位置と完全に閉じた位置の間で開閉すると共に、前記バルブヘッド5が概ね凸形を呈したときにオリフイス6を完全に開いた位置に自動的に移行せしめられ、容器の内圧が通常の所定範囲の間で変化してもオリフイス6を通過する液体の流量をほぼ一定に構成して成ることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の分配用バルブ。」

3.特許異議の申立てについて
3-1.申立て理由の概要
申立人岩井満は、(1)本件発明1は、証拠として提出された甲第1号証(米国特許第2758755明細書)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、(2)本件発明1ないし8は、証拠として提出された甲第1号証、甲第2号証(特開平3-124568号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、(3)特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはなっていないから、本件出願は、特許法第36条第5項第2号の規定により特許を受けることができないものであるとして、本件発明1ないし8の特許を取り消すべき旨主張している。

3-2.申立て理由(2)について
3-2-1.引用刊行物の記載
上記取消理由の通知において引用した特開平3-124568号公報(申立人の提出した甲第2号証、以下、「刊行物1」という。)には、流動性商品類の分配容器に関して次の事項が図面とともに記載されている。
(1a) 「29.流動性材料用分配容器であって;予め選定した流動性商品を中に保持する形状を有し、装出開ロ部と、該装出開ロ部を介して中の流動性商品を選択的に移動する手段とを有する容器本体と;容器本体の装出開ロ部と連通する如く位置決めされた自己開閉式分配装置であって、基盤と、該基盤から上方に突出する側壁と、該側壁の1端を封じる頂壁とから成り、該側壁には、予め設定されたしきい値圧力を加えたり除いたりするとき、これに呼応して開閉作動するオリフィスを形成する長孔が貫通して設けられており;該弁の側壁は、前記頂壁が、流動性商品が容器本体から分配できるように予め定められた距離だけ基盤から離れて設けられている細長い操作位置と、前記頂壁が弁基盤と大体同一水準になっている後退保管位置との両方の位置の間を移動する如く弾性的に可撓性をもって成り、しかも該側壁はオリフイスが不注意により開くことのないよう弁に力を生じさせる如く2重構造となっている、かかる構成の自己開閉式分配弁とから成ることを特徴とする分配容器。」(特許請求の範囲請求項29)
(1b) 「本発明に係る実施態様のもう1つの分配弁165が第14〜16図に示してあるが、このものは、側壁166、頂壁167及びフランジ168から成っている。弁165の側壁166には下方に円筒状部分166aと、上方の円錐台形部分166bとがある。弁165の頂壁167は大体平坦で、一対の長孔169と170とを有し、これらの長孔はオリフイスを形成しており、予め設定されたしきい値圧力を加えたり、除いたりすることに呼応して開放及び閉止をする。側壁116の円錐台形部分116aは弁を選択的に硬直させ、しきい圧力を除くと、オリフイスの完全な、しかも適時な閉止を保証する。分配弁165は、歯みがき粉とかこの類の粘度の高い流動体を分配するのに、特に好適である。」(10頁右下欄4行〜17行)
(1c) 「本発明に係るもう1つの実施態様を第17〜19の各図に示してあるが、ここに示す分配容器175は、容器本体176、自己開閉式分配弁177、及び閉止体178から成る。容器本体176は、実質的に、前述した容器本体2(第1〜4図)と同一であり、分配弁177は実質的に、前述の分配弁3(第1〜4図)と同一である。分配弁177は前述した方法で容器本体の中に-体的に捲縮できる。分配弁177は円錐形側壁179と実貿的に平坦な項壁180とをもち、該頂壁を通って単一長孔181が設けてあり、これがオリフイスとなって作用し、予め定めたしきい値圧力を加えたり除いたりすることに呼応して開放・閉止をする。弁側壁179は、第14図に示す伸びた操作位置と、第15及び第16の各図に示す後退保管位置との間を移動できるように弾性変形自在、すなわち可撓性をもっている。伸び出した操作位置(第17図)にある場合、弁177の頂壁180は伸び、容器本体176のリム182から、予め設定した距離だけ外方に遊離して位置し、長孔181を開かしめ、しかも流動性商品を容器本件176から分配させる。後退保管位置(第18及び第19の各図)においては、弁177の頂壁180は、容器本体176のリム182と大体面一状態となり.しかも側壁179は折りたたまれ、これにより弁内に力を生じさせて、オリフイス長孔181が不注意に開くことを防止する。
第17〜19図に示す閉止体178は、下面に感圧接着剤184がある無孔当板から成り、直径が若干大きい以外は、閉止体(第1〜4図)にほとんど類似している。閉止体178は弁177の頂壁180に粘着するように設計されており、また容器本体176のリム182にも粘着でき、そのため弁177を後退保管位置に積極的に保持できる。」(10頁右下欄18行〜11頁右上欄10行)
なお、(1c)中の上記「第14図」〜「第16図」についての説明は、対応する図面と内容が一致せず、前後の関係から、この「第14図」〜「第16図」は、「第17図〜19図」の誤記と認められる。
(1d) 「 自己開閉式分配弁1aは、第1A図〜14A図に示すものは、大体帽子形をしており、平らな円形頂壁28a、円筒状側壁29a、そして輪状で、半径方向に伸びるフランジ30aとがある。・・・
・・・
第8A〜13A図に示すように、容器本体2aが逆立方向をった場合、弁1aは次のようにして操作される。第9図A及び第10図Aに示すように、容器本体2aが完全に減圧状態にあるか、無加圧状態にあるときは、オリフイス9aは閉じており、弁laの頂壁28aは大体平面、すなわち平らな方向性をもち、これは第1図A〜第8図Aに示すとおりである。容器本体2aが、時折経験されるように、若干真空気味にあるとき、特に粘度の高い液体を分配する場合、弁1aの頂壁28aは、第9図A及び第10図Aに示すように、若干凸形の方向性をもつ。リブ7aは、中央弁領域5aを選択的に剛直化させ、容器本体2aの中の流動性商品55aによって生じた水圧に対してオリフイス9aをしっかりと閉じる。
商品55aを容器本体laから分配するには、使用者は単純に、第10図Aに示すように、容器本体2aの相対する側壁15aを内方に撓ませる。このように撓ませることによって、流動性商品55aの自由表面56a上に溜まった空気を圧迫し、そして、流動性商品55aをしてオリフイス9aを介して流出させ、これと同時に、該オリフィスは、第12図Aに示すように外方の開放位置に移動する。オリフイス9aが外方の開放位置にある場合、中央弁領域5aは弓形作動により、若干外方に膨らみ、そしてオリフィス9aにあって互いに補完し合う形状をもつ縁47aと48aとは分離し、二重凹み形状になり;第5図Aに示すように、これら縁の間を流動性商品55aを流動させる。弁溝4aは、中央弁領域5aのそれぞれの半割れ部分を;溝4aの上方の頂壁28aの薄くした領域から撓曲せしめ、所望の流量と流れ形状を得る。
分配を停めるには、使用者は単に、第13図Aに示すやり方で,容器本体2aの側壁15aに加えられていた力すなわち圧力を除けばよい。そのやり方は、側壁15aの弾力が、側壁をそのもとの形状に戻すのである。容器本体2a上の力が完全に除かれると、流動性商品55aの自由表面56a上の空気は減圧され大気圧以下となり、弁オリフイス9aを、第11図A及び第12図Aに示す外方開放位置から一閉止位置を介して、第13図A及び第14図Aに示す内方開放位置にまで移動させる。オリフィス9aの互いに補完する形状をもつ縁47aと48aとは、第5図Aに示す外方開放位置に若干似ている、二重凸状に再び引き込まれ、中央弁領域5aは、弓形に若干内方に膨らむ。空気57a(第13図A)は、かくして、オリフィス9aを通って容器本体2aに入り、容器2aの中の圧力を実質的に平衡化し、かくして、オリフィス9aを、第9図A、及び第10図Aに示すように閉止位置に戻す。弁laの内面41a上の溝4aとリブ7aとは、容器本体2aの中に空気を引き入れるために中央弁領域5aの2つの分割部分の内方への充分な撓曲をなさしめ、しかも、容器本体2aの中の圧力が大気圧と等しくなったときに、オリフイス9aを確実に封止する。」(12頁左上欄7行〜13頁右下欄第13行)
(1e) 「第17図は本発明に係るもう1つ別の実施態様の垂直断面図であって、容器本体内に捲縮されたパチンと外す自己開閉式分配弁をもつ容器本体から成り、図では拡大操作位置に示してあり、閉止体は遊離している。
第18図は第17図に示す分配容器の垂直断面図であって、分配弁が後退閉止位置にあって閉止体は遊離している。
第19図は第18図に示す分配容器の垂直断面図であって、閉止体は弁と容器本体の上に組つけてあり、分配弁を後退閉止位置に積極的に保持している。」(14頁右下欄15行〜15頁左上欄6行)

3-2-2.対比・判断
本件発明1〜8と刊行物1記載の発明、特に、第17〜19図によって示されている一つの実施態様に係る発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。
(1)本件発明1について
刊行物1には、「弁側壁179は、第14図に示す伸びた操作位置と、第15及び第16の各図に示す後退保管位置との間を移動できるように弾性変形自在、すなわち可撓性をもっている。伸び出した操作位置(第17図)にある場合、弁177の頂壁180は伸び、容器本体176のリム182から、予め設定した距離だけ外方に遊離して位置し、長孔181を開かしめ、しかも流動性商品を容器本件176から分配させる。後退保管位置(第18及び第19の各図)においては、弁177の頂壁180は、容器本体176のリム182と大体面一状態となり.しかも側壁179は折りたたまれ、これにより弁内に力を生じさせて、オリフイス長孔181が不注意に開くことを防止する。
第17〜19図に示す閉止体178は、下面に感圧接着剤184がある無孔当板から成り、直径が若干大きい以外は、閉止体(第1〜4図)にほとんど類似している。閉止体178は弁177の頂壁180に粘着するように設計されており、また容器本体176のリム182にも粘着でき、そのため弁177を後退保管位置に積極的に保持できる。」(1c)と記載されている。
このことは、弁側壁179は、第17図に示した伸び出した操作位置と、第18及び第19の各図に示す後退保管位置との間を移動できるように弾性変形自在、すなわち可撓性であり、後退保管位置(第18及び第19の各図)においては、弁177の頂壁180は、容器本体176のリム182と大体面一状態となること、即ち、第18図に示されているように、側壁179は折りたたまれ、閉止体178が貼着されていない状態においても、弁177の頂壁180は、容器本体176のリム182と大体面一状態となって安定していることを意味し、閉止体178を粘着することにより、容器に力が加わっても、弁177を後退保管位置に積極的に保持できることを意味しているものと認められる。
また、伸び出した操作位置(第17図)にある場合、弁177の頂壁180は伸び、容器本体176のリム182から、予め設定した距離だけ外方に遊離して位置し、長孔181を開かしめ、しかも流動性商品を容器本件176から分配させることは、第17〜19図によって示されている弁が、自己開閉式分配弁であることを勘案すると、長孔が閉じているときと開いているときはそれぞれ弁の頂壁は、原理的には弁の拡大断面図である第10A図と第12A図において開示されたものと同じ構成をしており、伸び出した操作位置において、流動性商品を放出するような高圧力(予め定めたしきい値圧力)を受けると、長孔181が開き、除かれると閉じることを意味しているものと認められる。
してみると、引用発明における「側壁179」は、本件発明1における「コネクタースリーブ7」に対応し、また、引用発明における「頂壁180」、「単一長孔181」は、それぞれ、本件発明1における「バルブヘッド5」、「オリフイス6」に相当し、両者は、
「 放出開ロ部を備えた容器から成る流体製品の包装体の分配用バルブにおいて、
容器の放出開ロ部のまわりをシールするバルブフランジと、該放出開口部のほぼ中心区域に位置するバルブヘッドと、前記バルブフランジとバルブヘッドを連結するコネクタースリーブとを、弾性材料で一体に成形して成り、
前記バルブヘッドは、容器内の所定の放出高圧力を受けると流体の流れを許すように開き、所定の放出高圧力を除去すると流体の流れを止めるように閉じるオリフイスを該バルブヘッドに貫通して設けた分配用バルブ」
である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
[相違点]
(イ) 本件発明1においては、コネクタースリーブは、オリフイスを開かせる放出高圧力にまで至らない容器内の増加圧力を受けるとバルブヘッドを外方に移行せしめ、容器内の増加圧力を除去するとバルブヘッドを元の位置に復帰せしめる環状の折曲部を有しているのに対して、引用発明においては、側壁は、伸びた操作位置と、後退保管位置との間を移動できるように弾性変形自在、すなわち可撓性をもっており、かつ、後退保管位置において折りたたまれているけらども、側壁は、長孔を開かせる放出高圧力にまで至らない容器内の増加圧力を受けると頂壁を外方に移行せしめ、容器内の増加圧力を除去すると頂壁を元の位置に復帰せしめる環状の折曲部を有しているのかどうか明らかでない点。
(ロ) 本件発明1においては、バルブヘッドは、放出高圧力に至らない容器内の増加圧力による外方移行中にオリフィスを開かず閉じているように構成されているのに対して、引用発明においては、頂壁が外方移行中にどのような圧力を受けることによって、単一長孔が開かず閉じているように構成されているのか明らかでない点
[相違点(イ)及び(ロ)について]
この種の分配弁において、弁側壁の構成を、通常は閉じている開口部を開かせることができる圧力にまで至らない容器内の増加圧力を受けると開口部のある頂部を外方に移行せしめ、容器内の増加圧力を除去すると頂部を元の位置(弁の安定位置)に復帰せしめるような環状の折曲部を有するものとすることができることは、例えば、上記申立人の提出した甲第1号証(米国特許第2758755号明細書、1956年)にみられるように、本件の出願前に広く知られていた事項である。
このことを勘案すると、引用発明において、弁の後退保管位置においては、側壁179は折りたたまれた状態で安定しており、伸び出した操作位置においては、流動性商品を放出するような高圧力(予め定めたしきい値圧力)を受けると、長孔181が開き、除かれると閉じるのであるから、長孔181を開かせることができる予め定めたしきい値圧力にまで至らない容器内の増加圧力によって、頂壁180を外方に移行せしめ、容器内の増加圧力を除去することによって、頂壁180を元の位置(弁の後退保管位置)に復帰せしめるような側壁とし、更に、流動性商品を放出するような高圧力に至らない容器内の増加圧力とすることによって、頂壁180の外方移行中に長孔181を開かず閉じているように構成することは、当業者が容易に想到できたことと認められる。
なお、特許権者は上記意見書において、刊行物1の第17図〜第19図に示された実施態様は、「分配弁177は実質的に、前述の分配弁(第1〜4図)と同一である。」の記載から理解されるように、分配弁177は、第17図に示されるような弁側壁179を伸ばした突出形態を常態とするものである旨主張する。
しかしながら、「分配弁177は実質的に、前述の分配弁(第1〜4図)と同一である。」の記載は、分配弁177は、自己開閉式分配弁と言う点で、実質的に分配弁(第1〜4図)と同一であると言うことをいっているのであって、弁側壁179は、上述のとおり、第18図に示されているように、折りたたまれ、閉止体178が貼着されていない状態において、弁177の頂壁180は、容器本体176のリム182と大体面一状態となって安定していると解されるのであるから、この形態を常態とするのが自然であり、第17図は、流動性商品を放出するような高圧力(予め定めたしきい値圧力)にまで至らない圧力を受けて弁側壁179が伸び出した操作位置にあることを示しているものと解されるので、上記主張は採用できない。
したがって、本件発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
(2)本件発明2について
オリフィスを一対の長孔169と170とすることは刊行物1の(1b)に記載されている。
したがって、本件発明2は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2におけるバルブヘッド5が、容器2の外側に向けて臨む外側表面38を形成し、該外側表面38は、オリフイス6を閉じた状態において、容器2の外側から内側に向けて凹入するほぼ球面状の凹面を形成して成ることを特定するものであり、このことにより、オリフィス6にかかる力が分散し、バルブヘッド5が図7に示した無負荷状態から容器内圧の増加により図10に示す完全に移動された位置まで移行する間、コネクタースリーブ7は変形するがバルブヘッド5はほとんど変形せず、オリフィスが開くことがないという機能をより確実に奏することができるものと認められる。
したがって、本件発明3は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1、2又は3におけるバルブヘッド5が、オリフイス6を設けた中心部分41と、該中心部分41を囲む周縁部分40とを備え、該周縁部分40が、容器の内側から外側に向けて傾斜し且つほぼ球面状の凸面に形成された内側表面39を有して成ることを特定するものであり、このことにより、オリフィス6にかかる力が分散し、バルブヘッド5が図7に示した無負荷状態から容器内圧の増加により図10に示す完全に移動された位置まで移行する間、コネクタースリーブ7は変形するがバルブヘッド5はほとんど変形せず、オリフィスが開くことがないという機能をより確実に奏することができるものと認められる。
したがって、本件発明4は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(5)本件発明5について
本件発明5が本件発明1を引用している場合について検討する。
刊行物1の(1c)の記載によれば、側壁179(コネクタースリーブ)の折目部はリム182(バルブフランジ)と頂壁180(バルブヘッド)との間で伸長する環状の溝を形成しているものと認められる。
したがって、本件発明5は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
(6)本件発明6について
本件発明6が本件発明1を引用している場合について検討する。
刊行物1の(1c)の記載によれば、弁の頂壁は、側壁が折り畳まれることにより弁内に力を生じさせ、オリフィス長孔が不注意に開くことを防止する機能を有しているものと認められる。
したがって、本件発明6は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
(7)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1、2、3、4、5又は6におけるバルブヘッド5の外側表面38が、オリフイス6が閉じられたときほぼ凹形を呈し、オリフィス6が開かれたときほぼ凸形を呈するように形成され、コネクタースリーブ7によりバルブヘッド5に与えられる内向きの付勢力とトルクが前記オリフイス6を開けたバルブヘッド5を凸形に維持するように作用せしめられ、オリフィス6を通過する流体の流れを持続するために必要な容器の内圧が、オリフィス6を開かせるために必要な容器の内圧よりも低くても足りるように構成し、流体の分配と流量コントロールが容易となるように構成して成ることを特定するものであり、このことにより、オリフィス6にかかる力が分散し、本件発明3と同様に、バルブヘッド5が図7に示した無負荷状態から容器内圧の増加により図10に示す完全に移動された位置まで移行する間、コネクタースリーブ7は変形するがバルブヘッド5はほとんど変形せず、オリフィスが開くことがないという機能をより確実に奏することができるものと認められる。
したがって、本件発明7は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(8)本件発明8について
本件発明8が本件発明1を引用している場合について検討する。
本件発明8は、引用発明1におけるバルブヘッド5が、オリフイス6を開いたとき概ね凸形を呈し、オリフイス6は、完全に開いた位置と完全に閉じた位置の間で開閉すると共に、前記バルブヘッド5が概ね凸形を呈したときにオリフイス6を完全に開いた位置に自動的に移行せしめられ、容器の内圧が通常の所定範囲の間で変化してもオリフイス6を通過する液体の流量をほぼ一定に構成して成ることを特定するものである。
他方、刊行物1の(1d)の記載によれば、商品55aを容器本体2aから分配弁1aをとおして分配するには、容器本体2aの相対する側壁15aを内方に撓ませることによって、流動性商品55aをしてオリフイス9aを介して流出させ、これと同時に、該オリフィス9aは、第12図Aに示すように外方の開放位置に移動し、オリフイス9aが外方の開放位置にある場合、中央弁領域5aは弓形作動により、若干外方に膨らみ、そしてオリフィス9aにあって互いに補完し合う形状をもつ縁47aと48aとは分離し、第5図Aに示すように、これら縁の間を流動性商品55aを流動させ、弁溝4aは、中央弁領域5aのそれぞれの半割れ部分を溝4aの上方の頂壁28aの薄くした領域から撓曲せしめ、所望の流量と流れ形状を得るものであり、分配を停めるには、容器本体2aの側壁15aに加えられていた力すなわち圧力を除くことによって、オリフィス9aを、第9図A、及び第10図Aに示すように閉止位置に戻すものである。すなわち、刊行物1記載の分配弁は、(1b),(1c)の記載にあるように、予め設定されたしきい値圧力を境にして、スナップ動作的に閉止位置と開放位置とをとるものであり、(1d)の記載にあるように、開放位置に移動した後は、所望の流量を許容するものであるから、容器の内圧が、しきい値を越える所定範囲で変動したとしても、弁は所定の開位置にとどまり、ほぼ一定の流量を確保可能なものと認められる。
したがって、本件発明8は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

3-3.その他の申立て理由について
取消理由が成立しない請求項について、異議申立人の主張する他の申立て理由が成立するかどうかについて検討する。
申立人は、本願は、「環状の折曲部51」の折曲度合構成においてのみ公知技術(米国特許第2758755明細書参照)との差異点が存在するので、その違いを明確にしなければならないものであるのに、折曲度合の特定を欠くのであるから、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはなっておらず、本件出願は、特許法第36条第5項第2号の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
しかしながら、仮に、「環状の折曲部51」の折曲度合構成においてのみ公知技術との差異点が存在するとしても、そのために折曲度合の特定が必要であるか否かは、明細書に記載不備があるか否かの問題とは別の問題であり、かつ、この「環状の折曲部51」は折曲するものとして理解されるものであって、その構成自体が不明瞭であるというわけではないので、申立人の上記主張は採用できない。
したがって、異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明3、4及び7についての特許を取り消すことはできない。

4.むすび
以上のとおりであり、本件発明1、2、5、6及び8は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、5、6及び8についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明3、4及び7の特許については、他に取消理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-11-11 
出願番号 特願平4-357429
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (B65D)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 佐野 遵  
特許庁審判長 吉国 信雄
特許庁審判官 祖山 忠彦
山崎 豊
登録日 2001-06-22 
登録番号 特許第3202084号(P3202084)
権利者 リキツド モールデイング システムズ インコーポレイテツド
発明の名称 分配用バルブ  
代理人 中野 収二  

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