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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) C08L
管理番号 1096954
審判番号 無効2000-35246  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-05-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-05-09 
確定日 2002-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2610772号発明「超微粒ソルビトールアセタール及びキシリトールアセタールを含有するポリオレフィン組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2610772号の請求項14に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2610772号の請求項1、20に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。 
理由 [1] 手続の経緯
本件特許第2610772号は、平成5年5月6日(優先権主張、1992年5月1日、米国)に出願された特願平5-130001号の出願に係り、平成9年2月13日に設定の登録がなされたものであり、その後本件審判請求を受けて平成12年12月20日付けで訂正請求がなされたものである。

[2] 請求人の主張の概要
請求人は、下記甲第1号証〜甲第6号証を提示し、本件請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、本件請求項14及び20に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、しかも甲第4号証に記載された発明であるから、これら発明についての特許は特許法第29条第1項3号の規定により特許を受けることができないものであることを理由に、「本件請求項1,14及び20に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。


甲第1号証:特開昭63-120788号公報
甲第2号証:「工業材料」34巻13号、1986年12月発行、26〜3 9,43頁
甲第3号証:大阪市立工業研究所長富永嘉男作成の平成12年4月27日付 け報告書
甲第4号証:オーストラリア特許公告第11485/88号公報
甲第5号証:粉体工学研究会編集「粉体機器要覧」株式会社広信社、昭和4 5年11月10日発行、55頁
甲第6号証:牧廣 島村昭治 松崎清一郎 著「図解 プラスチック用語辞 典」日刊工業新聞社、昭和56年12月25日発行、290,490頁

[3] 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。

[4] 本件訂正請求
(1)本件訂正請求は本件明細書を添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(イ)訂正事項a
請求項1及び14における「m及びnは夫々独立に0〜3であり、」を「m及びnは夫々独立に0〜3であり、ただし、m及びnが同時に0であることはなく、」に訂正する。
(ロ)訂正事項b
請求項2および3における「方法。」を「方法であって、ここで、該透明剤が、以下からなる群から選択される、方法:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5',6',7',8'-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。」に訂正する。
(ハ)訂正事項c
請求項16における「透明剤。」を「透明剤であって、以下からなる群から選択される、透明剤:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5',6',7',8'-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。」に訂正する。
(ニ)訂正事項d
請求項8における「請求項1記載の方法。」を「請求項1記載の方法であって、ここで、該透明剤が、250℃以上の融点を有する、方法。」に訂正する。
(ホ)訂正事項e
請求項11における「前記透明剤」を「前記透明剤(ここで該透明剤は、少なくとも1つ置換されたベンゼン環を有する)」に訂正する。
(2)次に訂正請求の適否について検討する。
(イ)訂正事項aについて
訂正事項aは、請求項1及び14における、透明剤を表す式の説明において、単に「m及びnは夫々独立に0〜3」と規定されていたものを「m及びnは夫々独立に0〜3であり、ただし、m及びnが同時に0であることはなく、」と、m及びnに関し、それらが同時に0である場合を除くことを新たに規定するものであるが、訂正前の明細書には、同時に0になるものに加え、同時には0にならないものも化合物名として明記されていたから、この訂正は、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ロ)訂正事項bについて
訂正事項bは、請求項2,3において、そこで使用する透明剤を特定の9種に限定するものであるが、これらはいずれも訂正前の明細書に具体的に記載されていたものであるから(段落【0013】、ただし、段落【0013】には、「ジ(o-メチルベンンジリデン)ソルビトール」と記載されているが、これは「ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール」の、それ自体明白な誤記と解される。)、この訂正は、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、該9種の透明剤のうち、ビス(5',6',7',8'-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトールについては、訂正前の明細書(段落【0013】)には、ビス(5',6',7',8'-テトラヒドロ-2-ナフチリジン)ソルビトールと記載され、両者は一致してはいない。
しかしながら、その化学構造式からみて、該「・・・ナフチリジン」は「・・・ナフチリデン」の明白な誤記と解されるから、実質的にはその訂正は訂正前の明細書に記載した事項の範囲内の訂正とみることができる。
(ハ)訂正事項cについて
訂正事項cは、請求項16において、そこでの透明剤を特定の9種に限定するものであり、訂正事項bと同様、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ニ)訂正事項dについて
訂正事項dは、請求項8において、そこで使用する透明剤を融点が250℃以上のものに限定するものであるが、透明剤が250℃以上の融点を有することについては、訂正前の明細書の請求項19、段落【0045】等に記載されていたから、この訂正は、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ホ)訂正事項eについて
訂正事項eは、請求項11において、「前記透明剤」を「前記透明剤(ここで該透明剤は、少なくとも1つ置換されたベンゼン環を有する)」に訂正するものであるが、この訂正は、訂正事項aにおける「m及びnが同時に0であることはなく」と同義であるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ヘ)以上、本件訂正は、いずれも訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かかる訂正により実質上特許請求の範囲が拡張もしくは変更されるものとは認められない。
そして無効審判の請求がされていない請求項についての訂正については、後記するように、該訂正された請求項に係る発明には、これが出願の際、独立して特許を受けることができないとする理由は見出せない。
したがって、本件訂正請求は、特許法第134条第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項で準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するものである。
なお、訂正請求時には、専用実施権者の承諾書が提出されていなかったが、これは後に補完されており、したがって、この点の不備はもはや存在しない。

[5] 本件発明
本件発明は、訂正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜20に記載された事項により構成される以下のとおりのもの(以下、順次「本件第1発明」、「本件第2発明」・・・「本件第20発明」という。)と認める。
【請求項1】 半結晶ポリオレフィン樹脂に透明剤を導入する方法であって、前記ポリオレフィン樹脂100重量部と、下記式の化合物より選択される透明剤0.01〜100重量部を混合する工程と、【化1】

式中、pは0または1であり、mおよびnは夫々独立に0〜3であり、ただし、mおよびnが同時に0であることはなく、Rは夫々独立に、C1〜C8 のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、C1〜C6のアルキルチオ基、C1〜C6のアルキルスルホキシ基、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4ないし5員アルキル基から選ばれる;また前記透明剤は、d97が30μm以下であり且つ平均粒径が15μm以下であることを特徴とする粉末状態である;
得られた混合物を、前記樹脂の融点を越え且つ少なくとも170℃までの温度で加熱する工程と;
前記樹脂が溶融状態である期間、前記混合物を混合し、前記透明剤を前記樹脂に溶解させる工程と、を具備する方法。
【請求項2】 前記混合物は、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対し前記透明剤0.1〜15重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の方法であって、ここで、該透明剤が、以下からなる群から選択される、方法:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5',6',7',8'-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。
【請求項3】 前記透明剤は、d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項2記載の方法であって、
ここで、該透明剤が、以下からなる群から選択される、方法:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5',6',7',8'-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。
【請求項4】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】 前記透明剤は、d97が10μm以下であり且つ平均粒径6μm以下であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】 前記混合物を、180℃以上で加熱することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】 前記混合物は、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対し前記透明剤0.1〜3重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の方法であって、ここで、該透明剤が、250℃以上の融点を有する、方法。
【請求項9】 前記透明剤は、d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】 pは1であり、RはC1〜C4 のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】 半結晶ポリオレフィン樹脂に透明剤を導入する方法であって、前記ポリオレフィン樹脂100重量部と、下記式の化合物より選択される透明剤0.01〜100重量部を混合する工程と、【化2】

式中、pは0または1であり、mおよびnは夫々独立に0〜3であり、Rは夫々独立に、C1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれる;また前記透明剤は、d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする粉末状態である;
得られた混合物を、前記樹脂の融点を越え、少なくとも170℃までであり、且つ前記透明剤の融点未満の温度で加熱する工程と;
前記樹脂が溶融状態である期間、前記混合物を混合し、前記透明剤(ここで該透明剤は、少なくとも1つ置換されたベンゼン環を有する)を前記樹脂に溶解させる工程と、を具備する方法。
【請求項12】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】 前記混合物を、温度180〜230℃まで加熱することを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】 下記式で表される粉末状透明剤:【化3】

式中、pは0または1であり、m及びnは夫々独立に0〜3であり、ただし、mおよびnが同時に0であることはなく、Rは夫々独立に、C1〜C8 のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、C1〜C6のアルキルチオ基、C1〜C6のアルキルスルホキシ基、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4ないし5員アルキル基から選ばれる;また前記粉末状透明剤は、d97が30μm以下であり且つ平均粒径が15μm以下であることを特徴とする粉末である。
【請求項15】 d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項14記載の粉末状透明剤。
【請求項16】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項15記載の粉末状透明剤であって、以下からなる群から選択される、透明剤:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5',6',7',8'-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。
【請求項17】 d97が10μm以下であり且つ平均粒径6μm以下であることを特徴とする請求項14記載の粉末状透明剤。
【請求項18】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項17記載の粉末状透明剤。
【請求項19】 融点が250℃以上であることを特徴とする請求項16記載の粉末状透明剤。
【請求項20】 融点が250℃以上であることを特徴とする請求項14記載の粉末状透明剤。

[6] 甲号各証の記載事項
以下、まず請求人の提示した甲第1号証〜甲第6号証の記載事項を検討する。
[6-1] 甲第1号証の記載事項
本件の優先権主張日前頒布された刊行物である甲第1号証(特開昭63-120788号公報)には、「ゲル化剤を溶媒に溶解した後、冷却してゲル状物となし、次いで当該ゲル状物を凍結乾燥してゲル化剤を回収することを特徴とするゲル化剤の製造方法。」(特許請求の範囲)の発明について記載され、「本発明者は、係る欠点を根本的に改善すべく鋭意検討の結果、従来の製品の凍結乾燥物が特異なミクロ構造を有し、ゲル化剤、揺変剤及び核剤等としての本来の機能を損うことなく所期の目的を達成できることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成した。」(1頁右下欄6〜11行)、「本発明に係るゲル化剤は、・・・具体的には下記一般式(I)乃至(III)で表わされる、芳香族アルデヒド類と5価以上の多価アルコールの縮合物が例示される。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(I)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(III)
(式中X、X’、X”は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、nは1〜5の整数、pは0又は1を示す)」(1頁右下欄18行〜2頁右上欄式の下4行)、「上記有機溶媒は、当該化合物によりゲル化し、凍結し、更に真空下で凍結状態から気化し得る常温で固体状若しくは液状の溶媒であればすべて適用でき、ゲル化剤の種類により適宜選択されるものである。」(2頁右下欄1〜5行)、「先ず、多価アルコール誘導体を溶媒中に常温又は加熱下で溶解する。・・・上記溶液は、室温〜-100℃の温度条件下に、例えば液体窒素等の冷媒による冷却下に放冷するとゲル化して流動性を失い、その後溶媒は凍結する。次いでこの凍結物を1×10-3〜200mmHgの真空下、-100℃乃至室温下で減圧乾燥すると、凍結物は潜熱のため凍結状態でのゲル骨格を保持しながら溶剤のみ回収され、目的とする凍結乾燥物が得られる。」(3頁左上欄10行〜右上欄2行)、「その結果、・・・例えば融点が40℃も低温側にシフトする場合がある。このことは、当該化合物の基本骨格に置換基が導入されても変わらない。又、粒子径も従来の同種の構造を有する製品と比較して小さく、しかも任意に粒子径を制御することができることも特徴である。」(3頁右上欄14行〜左下欄4行)、「本発明に係る方法により得られた凍結乾燥物は、ゲル化剤としてはもとより、・・・核剤等として機能し、・・・樹脂の改質・・・等、従来の製品が用いられてきた分野に同様に適用される。」(3頁左下欄12〜19行)と記載され、実施例4では、「ジオキサンにMe-DBS(融点260℃)を3%添加してゲルを調製し、0℃の温度条件下、高真空化で凍結乾燥してMe-DBSの凍結乾燥物を得た。このものの見掛け比重は0.10であった。」、参考例1では、「分子量60,000のホモポリプロピレン粉末100重量部にベヘニン酸カルシウム0.1重量部、3,5-ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン0.06重量部、実施例4で得られたMe-DBSの凍結乾燥物0.25重量部の夫々をヘンシェルミキサーにて5分間ドライブレンドした後、造粒機を用いて200℃で溶融し、冷却後、カッターによりペレットを調製した。・・得られた試験片について測定した結果、曇り度は25%、・・核剤の分散度は良好であった。比較としてMe-DBSの凍結乾燥物の代わりに見掛け比重0.3のMe-DBSを用いた外は・・曇り度は53%、・・核剤の分散度は不良であった。なお(注:漢字は使用できないので平仮名書きとした。)、核剤を使用しない場合には、曇り度は70%・・・であった。」と記載されている。
[6-2] 甲第2号証の記載事項
本件の優先権主張日前頒布された刊行物である甲第2号証(「工業材料」34巻13号、1986年12月発行、26〜39,43頁)には、「機能性素材の微粒化技術の動向」と題して記載され、10μm〜0.1μm(1000Å)を微粒子といい、0.1μm〜0.001μm(10Å)を超微粒子といい、その中でも0.01μm以下を極超微粒子という旨の記載があり(27頁)、「微粒化技術」(32頁)では、「水溶液を急激に冷却して微細結晶とし水を昇華して取り除く凍結乾燥法などがあり」と記載されている。
[6-3] 甲第3号証の記載事項
甲第3号証は、大阪市立工業研究所長富永嘉男の報告書であり、そこには、甲第1号証の実施例4、参考例1に準じて、1:3,2:4-ビス(メチルベンジリデン)ソルビトールの凍結乾燥物を調製し、そのポリプロピレン樹脂との乾式混合物の粒度を測定した、とする試験方法の詳細とその測定結果が記載されている。
[6-4] 甲第4号証の記載事項
本件の優先権主張日前頒布された刊行物である甲第4号証(オーストラリア特許公告第11485/88号公報)には、「メルトフローインデックスMFI 230/5が5g/10分以下のプロピレンホモポリマー又はプロピレンとエチレン若しくはブテンとのコポリマーからなり、かつ安息香酸ナトリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、p-tert-ブチル安息香酸アルミニウム、キナクリドン、ナフタルイミド、ジベンジリデンソルビトール、超微粒タルクの群から選ばれる核剤を成形材料に対し0.001〜0.5重量%含有する、ポリプロピレン成形材料。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「ポリプロピレンのような半結晶性の熱可塑性樹脂は、多くの場合、適当な種晶、いわゆる核剤を添加することにより、その加工時の性質と特性の点で、有利な影響が及ぼされることが知られている。核形成により微細な球晶構造とより高い結晶化温度が得られる。・・・微細な球晶構造により、高い透明性が得られる。」(1頁中段)、「使用される核剤は、安息香酸ナトリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム・・・ジベンジリデンソルビトール・・・これらの核剤の粒径は、20μm以下、好ましくは10μm以下である。」(3頁上段)と記載されている。
[6-5] 甲第5号証の記載事項
本件の優先権主張日前頒布された刊行物である甲第5号証(粉体工学研究会編集「粉体機器要覧」株式会社広信社、昭和45年11月10日発行、55頁)には、ジェット粉砕機について「特に融点の低いものや付着凝集性の強い物質の粉砕でも問題なく処理できる」こと、「超微粒子を容易に得ることができる(数ミクロンから1ミクロン以下)」こと、「他の粉砕機と比べ、粒子の均一性にすぐれている」こと等が、記載されている。
[6-6] 甲第6号証の記載事項
本件の優先権主張日前頒布された刊行物である甲第6号証(牧廣 島村昭治 松崎清一郎 著「図解 プラスチック用語辞典」日刊工業新聞社、昭和56年12月25日発行、290,490頁)には、「ペレタイザ」について記載され、それは、ペレットを作る機械であると説明されている。

[7] 対比・検討
以下、本件第1、第14、第20の各発明に係る特許について、請求人の主張する無効理由の存否を検討する。
[7-1]本件第1発明は甲第1号証に記載された発明であるか否かについて
本件第1発明は、上記のとおり、半結晶性ポリオレフィン樹脂に特定の透明剤を導入するに際し、該透明剤としてd97が30μm以下であり、且つ平均粒径が15μm以下である粉末状態のそれを使用することを特徴とするものである。
甲第1号証には、凍結乾燥法による、芳香族アルデヒド類と5価以上の多価アルコールの縮合物からなるゲル化剤の製造法に関する発明が記載され、このゲル化剤は核剤としての機能、すなわち、樹脂の透明剤としての機能を有することが記載され、参考例1では、分子量60,000のホモポリプロピレン粉末100重量部に実施例4で得られたMe-DBS(1・3,2・4-ビス(メチルベンジリデン)ソルビトールの略称であることが記載され(3頁7〜8行)、このものは本件第1発明における透明剤を表す一般式において、m=n=1、R=CH3、p=1であるもの、すなわち、該一般式を満たす物質であることが認められる。)の凍結乾燥物を0.25重量部ブレンドすることが記載されているが、このブレンドにおいて、該凍結乾燥物がいかなる粒径を有しているかについては、甲第1号証には何も記載されていない。
請求人は、凍結乾燥は微粒子の製造法であり(甲第2号証32頁)、微粒子とは、0.1μm〜10μmの粒径をいうのである(甲第2号証27頁)から、甲第1号証記載の凍結乾燥物は、当然に本件第1発明の粒径に関する要件を満たすとの主張をするが、確かに一般論としてはそうはいえても、それが甲第1号証記載の特定のMe-DBSの凍結乾燥物についても直ちにいえるかといえば、これを肯定する根拠は見出せないといわざるを得ない。
また、請求人は、凍結乾燥物は常法により粉砕処理され、これにより、本件第1発明で規定する粒径に関する要件を満たすことになるとも主張するが、甲第1号証には、凍結乾燥物をポリプロピレンとの乾式混合に先立って粉砕処理したことを窺わせる記載は見出せず、甲第1号証を追試したとする甲第3号証の報告書においても、かかる粉砕処理はなされていない。
したがって、本件第1発明が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
[7-2]本件第14発明は甲第1号証に記載された発明であるか否かについて
甲第1号証には、ゲル化剤の製造方法として、「ゲル化剤を溶媒に溶解した後、冷却してゲル状物となし、次いで当該ゲル状物を凍結乾燥してゲル化剤を回収することを特徴とするゲル化剤の製造方法。」(特許請求の範囲)の発明が記載され、該ゲル化剤としては、芳香族アルデヒド類と5価以上の多価アルコールの縮合物が例示されるとし、その実施例4では、ジオキサンにMe-DBS(1・3,2・4-ビス(メチルベンジリデン)ソルビトール、融点260℃)を3%添加してゲルを調製し、0℃の温度条件下、高真空下で凍結乾燥してMe-DBSの凍結乾燥物を得たことが記載され、次いで、参考例1で、分子量60,000のホモポリプロピレン粉末100重量部にベヘニン酸カルシウム0.1重量部、3,5-ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン0.06重量部、実施例4で得られたMe-DBSの凍結乾燥物(核剤として使用されている。)0.25重量部の夫々をヘンシェルミキサーにて5分間ドライブレントした後、造粒機を用いて200℃で溶融し、曇り度を低減させたポリプロピレンを得たことが記載されており、この発明と本件第14発明とを対比すると、甲第1号証における核剤としてのMe-DBSは、本件第14発明における一般式において、R=CH3、m=n=1、p=1のものに相当し、ポリプロピレンと混合されて曇り度の低減化が図られているから、本件第14発明とは、当該一般式で表される透明剤の点で一致し、ただ、本件第14発明が、該透明剤について、d97が30μm以下であり且つ平均粒径が15μm以下の粉末状透明剤と規定しているのに対し、甲第1号証にはその点の記載がない点で表現上相違しているものと認められる。
ところで、請求人は、甲第1号証の実施例4、参考例1を追試したとする大阪市立工業研究所長富永嘉男作成の報告書(甲第3号証)を提出し、粒径に関するかかる要件は、甲第1号証の参考例1のドライブレント品において既に得られていたと主張しているので、以下この点について検討することとする。
当該報告書は、甲第1号証の実施例4記載の方法に準じ、Me-DBSの凍結乾燥物を調製し、これを同号証参考例1記載の方法に準じ、ホモポリプロピレン粉末と乾式混合したとするものであり、試験方法は具体的に記載され、得られた結果についても甲第1号証の記載と矛盾するものはなく、その試験は甲第1号証の実施例4及び参考例1を極めて忠実に追試したものと認められる。
そしてこの報告からは、乾式混合後のMe-DBSは、その「平均粒径は15μm以下、d97が30μm以下の粉末」の要件は充足されていると認められ、したがって、そうである以上、本件第14発明は甲第1号証に記載された発明であると認めざるを得ない。
被請求人は、甲第1号証の実施例4を追試したとする乙第4号証(ダリン エル、ドットソン博士の供述書)を提出している。しかしながら、この試験では、凍結乾燥物の残留溶媒が25.4%と多量に存在するものであり、凍結乾燥が十分になされたものとは認められないから、これに基づく試験結果は、甲第1号証の忠実な追試と認めることはできず、この供述書を根拠とする被請求人の主張は採用することができない。
被請求人は、甲第1号証の実施例4を追試したとする乙第9号証(チャールズ エル、リオッタ博士の供述書)を提出し、これによれば、透明剤の融点降下は、透明剤そのものによるのではなく、凍結乾燥物の残存溶媒によるものと主張している。
被請求人の主張は、要するに凍結乾燥物に残留溶媒が有意量存在することを前提とするものであって、この点で乙第9号証の試験は、凍結乾燥がやはり十分になされたものとは認められず、したがって、甲第1号証の忠実な追試と認めることはできない。
被請求人は、答弁書提出後その主張を変え、残存溶媒は存在しなかったというが、2.2重量%存在するとする不純物については、その説明はなされておらず、乙第9号証に基づく一貫性のない被請求人の主張は採用することができない。
さらに被請求人は、凍結乾燥物がジオキサンを含まないようにした(検出限界以下)、甲第1号証の実施例4を追試したとする参考資料O(チャールズ・エル・リオッタ博士の補足供述書)及びそれを使用して甲第1号証の参考例1を追試したとする参考資料P(フィリップ・イー・プランツ博士の補足供述書)を提出している。
しかしながら、参考資料Oに添付された凍結乾燥Me-DBSの顕微鏡写真(「Exhibit D-1」〜「Exhibit D-3」)によると、凍結乾燥して得られたとする繊維状ビス(4-メチルベンジリデン)ソルビトール(以下「4-メチルDBS」という。)のフィブリルの並び方には方向性が認められ(等方性ではなく)、しかも網目構造を有しているとは認められず、また参考資料Pには、ポリプロピレンとの乾式混合後の4-メチルDBSの粒径は、d97が500.1μm、体積平均粒径が147.0μmで700μmより大きい粒子がかなりの数存在していると記載されており、これらは、甲第1号証の「凍結物は潜熱のため凍結状態でのゲル骨格を保持しながら溶剤のみ回収され、目的とする凍結乾燥物が得られる」、「又、粒子径も従来の同種の構造を有する製品と比較して小さく、しかも任意に粒子径を制御することができることも特徴である」等の記載と相容れないものである。
したがって、参考資料Oの試験では、Me-DBSの実質的に溶媒を含まない凍結乾燥物が得られているにしても、少なくとも、この試験は、甲第1号証の実施例4の忠実な追試試験と認めることはできない。
以上のとおりであって、被請求人の提出した他の証拠においても、甲第3号証を根拠に本件第14発明が甲第1号証に記載された発明であるとする認定を否定するものは見出せない。
[7-3]本件第20発明は甲第1号証に記載された発明か否かついて
本件第20発明は、本件第14発明において、その粉末状透明剤の融点が250℃以上であることを規定するものである。
請求人は、甲第1号証の実施例4には、Me-DBSの融点は、260℃であると記載されているから、本件第20発明で要件とする「融点250℃以上である」は甲第1号証に記載されていると主張している。
しかしながら、当該甲第1号証の記載は、凍結乾燥する前のMe-DBSについてのものであって、凍結乾燥後の融点を表したものではないから、かかる記載を根拠に本件第20発明の新規性を否定する主張は明らかに失当である。
甲第1号証には、凍結乾燥による効果として、融点が大巾に低下することを挙げ、Me-DBSについての直接の記載はないにしても、Et-DBS(ジ(エチルベンジリデン)ソルビトール)の融点が凍結乾燥により260℃から230℃に低下すると記載されているのであるから、エチル置換体よりも分子量の小さいメチル置換体であるMe-DBSの凍結乾燥後の融点が250℃以上というのは、甲第1号証の記載に反することであり、その主張は到底採用することができない。
したがつて、本件第20発明が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
[7-4]本件第20発明は甲第4号証に記載された発明か否かついて
甲第4号証には、核剤をポリプロピレンに添加してその改質をする発明が記載され、使用される核剤の粒径は20μm以下、好ましくは10μm以下であること、該核剤の1つとして、ジベンジリデンソルビトールが使用されることが、いずれも記載されている。しかしながら、Me-DBS等置換されたジベンジリデンソルビトールについては全く記載されていない。
したがって、本件第20発明は、甲第4号証に記載された発明とすることはできない。

[8] 本件第1、第14、第20発明以外の発明の独立特許要件について
本件第1、第14、第20発明以外の発明は、直接訂正されることにより、或いは訂正された他の発明を引用することにより間接的に、いずれも特許請求の範囲を減縮する訂正がされているので、以下、その独立特許要件の有無を検討する。
[8-1]本件第2〜第10発明について
本件第2〜第10発明は、直接ないし間接的に本件第1発明を引用し、さらにこれをより限定した構成となっており、したがって、本件第1発明と同様に甲第1号証に記載された発明と認めることはできないし、また他にこれら発明についてその出願の際独立して特許を受けることができないと認めるに足りる根拠を見出すこともできない。
[8-2]本件第11〜第13発明について
本件第11発明は、本件第1発明を引用するものではないが、実質的には本件第1発明の方法において、透明剤の粒径に関する規定をより限定するものに相当し、そして本件第12、第13発明は、直接的に或いは間接的に本件第11発明を引用し、これをより限定するものであるから、本件第1発明と同様、甲第1号証に記載された発明と認めることはできないし、また他にこれら発明についてその出願の際独立して特許を受けることができないと認めるに足りる根拠を見出すこともできない。
[8-3]本件第15〜第19発明について
本件第15〜第19発明は、本件第14発明において、粒径に関する規定をより限定するものであり、この点については、甲第3号証の報告書を参照しても甲第1号証に記載された発明と認めることはできない。
そして他にこれら発明について、その出願の際独立して特許を受けることができないと認めるに足りる根拠を見出すこともできない。
[8-4]独立特許要件についてのまとめ
したがって、上記のとおり訂正後の本件請求項2〜13、15〜19に係る発明については、いずれも出願の際独立して特許を受けることができないものと認めることはできない。

[9] むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は適法なものと認め、訂正後の本件請求項14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定によりこれを無効とすることとし、訂正後の本件請求項1及び20に係る発明についての特許は請求人の提示した証拠によっては無効とすることはできない。
そして、審判に関する費用に関しては、特許法第169条で準用する民事訴訟法第61条の規定により、これを3分し、その2を請求人の、その1を被請求人の、各負担とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
超微粒ソルビトールアセタール及びキシリトールアセタールを含有するポリオレフィン組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 半結晶ポリオレフィン樹脂に透明剤を導入する方法であって、
前記ポリオレフィン樹脂100重量部と、下記式の化合物より選択される透明剤0.01〜100重量部を混合する工程と、
【化1】

式中、pは0または1であり、m及びnは夫々独立に0〜3であり、ただし、mおよびnが同時に0であることはなく、Rは夫々独立に、C1〜C8のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、C1〜C6のアルキルチオ基、C1〜C6のアルキルスルホキシ基、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4ないし5員アルキル基から選ばれる;また前記透明剤は、d97が30μm以下であり且つ平均粒径が15μm以下であることを特徴とする粉末状態である;
得られた混合物を、前記樹脂の融点を越え且つ少なくとも170℃までの温度で加熱する工程と;
前記樹脂が溶融状態である期間、前記混合物を混合し、前記透明剤を前記樹脂に溶解させる工程と、を具備する方法。
【請求項2】 前記混合物は、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対し前記透明剤0.1〜15重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の方法であって、
ここで、該透明剤が、以下からなる群から選択される、方法:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。
【請求項3】 前記透明剤は、d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項2記載の方法であって、
ここで、該透明剤が、以下からなる群から選択される、方法:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。
【請求項4】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】 前記透明剤は、d97が10μm以下であり且つ平均粒径6μm以下であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】 前記混合物を、180℃以上で加熱することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】 前記混合物は、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対し前記透明剤0.1〜3重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の方法であって、
ここで、該透明剤が、250℃以上の融点を有する、方法。
【請求項9】 前記透明剤は、d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】 半結晶ポリオレフィン樹脂に透明剤を導入する方法であって、
前記ポリオレフィン樹脂100重量部と、下記式の化合物より選択される透明剤0.01〜100重量部を混合する工程と、
【化2】

式中、pは0または1であり、m及びnは夫々独立に0〜3であり、Rは夫々独立に、C1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれる;また前記透明剤は、d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする粉末状態である;
得られた混合物を、前記樹脂の融点を越え、少なくとも170℃までであり、且つ前記透明剤の融点未満の温度で加熱する工程と;
前記樹脂が溶融状態である期間、前記混合物を混合し、前記透明剤(ここで該透明剤は、少なくとも1つ置換されたベンゼン環を有する)を前記樹脂に溶解させる工程と、を具備する方法。
【請求項12】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】 前記混合物を、温度180〜230℃まで加熱することを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】 下記式で表される粉末状透明剤:
【化3】

式中、pは0または1であり、m及びnは夫々独立に0〜3であり、ただし、mおよびnが同時に0であることはなく、Rは夫々独立に、C1〜C8のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、C1〜C6のアルキルチオ基、C1〜C6のアルキルスルホキシ基、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4ないし5員アルキル基から選ばれる;また前記粉末状透明剤は、d97が30μm以下であり且つ平均粒径が15μm以下であることを特徴とする粉末である。
【請求項15】 d97が20μm以下であり且つ平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項14記載の粉末状透明剤。
【請求項16】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項15記載の粉末状透明剤であって、
以下からなる群から選択される、透明剤:
ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-メチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、
ビス(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフチリデン)ソルビトール、
ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及び
ビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトール。
【請求項17】 d97が10μm以下であり且つ平均粒径6μm以下であることを特徴とする請求項14記載の粉末状透明剤。
【請求項18】 pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれることを特徴とする請求項17記載の粉末状透明剤。
【請求項19】 融点が250℃以上であることを特徴とする請求項16記載の粉末状透明剤。
【請求項20】 融点が250℃以上であることを特徴とする請求項14記載の粉末状透明剤。
【発明の詳細な説明】
本発明は、半結晶樹脂に対する透明剤として有用なソルビトール及びキシリトールのアセタールに関し、特に、一次粒径レベルの超微粉末にまで微粉化された透明剤の使用に関する。
【0001】
結晶ポリオレフィン樹脂より製造された物品の曇りを低減させるために、透明剤を使用することは、良く知られている。ソルビトール及びキシリトールのアセタールは、透明剤として使用されてきたが、その代表例としては、以下の米国特許に示されたものが挙げられる。
・ハマダらによる米国特許第4,016,118号、ジベンジリデンソルビトール:
・カワイらによる米国特許第4,314,039号、ジ(アルキルベンゼン)ソルビトール;
・マハフィ(Mahaffey)らによる米国特許第4,371,645号、少なくとも1個の塩素置換基または臭素置換基を有するソルビトールのジアセタール;
・コバヤシらによる米国特許第4,532,280号、ジ(メチルないしエチル置換ベンジリデン)ソルビトール;
・ウィリアムスらによる米国特許第4,845,137号,硫黄含有置換基を少なくとも1個有するジベンジリデンソルビトール誘導体。
・コバヤシらによる米国特許第4,9,54,291、ジメチルないしトリメチル置換ベンズアルデヒド及び不飽和ベンズアルデヒドの混合物から得られるソルビトールジアセタール及びキシリトールジアセタールの分散物;
・レカ-(Reker)らによる米国特許第5,049,605号、炭素を形成する置換基を有するビス(3,4-ジアルキルベンジリデン)ソルビトール。
【0002】
この他、特開昭60-157213/26(三菱油化)及び特開昭63-130662/26号(住友化学)には、ポリプロピレンに有用である透明剤の一般構造が、開示されている。これら透明剤の製造技術については、上記文献、及びムライらによる米国特許第3,721,682号、新日本化学による英国特許出願GB2,115,405Aに開示されている。上記特許及び公開文献の全ては、参考して本発明に組み込まれる。
【0003】
正確な機構は良く知られてはいないが、透明剤は、ポリオレフィン樹脂と共に超微細な網状構造を形成するためには、溶融し再結晶しなければいけないと考えられている。このような結晶網状構造には核形成部位があり、冷却時に樹脂中に形成する球晶の大きさを低減する。小さな球晶は大きな球晶に比べて可視光を散乱させないため、前記有核ポリオレフィン樹脂では透明性が向上している。
【0004】
透明ポリオレフィンは、透明剤及びベースとなるポリオレフィン樹脂を、酸化防止剤、酸掃去剤、及び潤滑剤のような他の添加剤と共に混合し、更にこの混合物を前記透明剤の融点を越える温度で押出すことによって製造される。透明ポリオレフィン樹脂を製造するより一般的な方法としては、添加剤の一部または全部をベース樹脂の一部と予備混合し、粉末状のマスターバッチを得る方法が挙げられる。こうして得られるマスターバッチは、追加のベース樹脂と共に計量して押出機に導入されるため、大型の混合器が不要になる。滲出物は通常小さなペレットを形成する。更に、マターバッチ自体を押出してペレット化してもよい。これらペレット濃縮物を、添加物を加えずに押出されたポリオレフィン樹脂と混合し、好ましい透明剤濃度、一般的には約0.01重量%以上であり2ないし3重量%までの濃度の生成物を得ることができる。
【0005】
ポリオレフィン樹脂にソルビトールアセタール及びキシリトールアセタールの透明剤を使用することに関連して多くの問題がある。その一つは、これら樹脂より二次加工された製品に“白点(white point)”即ち気泡が生じることである。射出成形された家庭用品や医療器具の側面に小さな気泡があると、大きな欠点として見えるものである。そこで、この問題を解決するために多くの方法が行われている。
【0006】
実験を通じて見出だされた一つの施策は、ソルビトールアセタールによって透明化されたポリオレフィン樹脂に、グリセリンモノステアラートまたは脂肪族アミドのような極性脂肪族添加剤を少量加えることである。これら添加剤は、二次加工された部材に観察される気泡の数を低減させるが、前記問題を解決するものではない。また、極性脂肪族添加剤は、二次加工された部材の表面に“ブルーム”、即ちゆっくりと移動し、ろう状の累積物を形成し望ましくない。
【0007】
ソルビトールアセタールやキシリトールアセタールにより透明化されたポリオレフィンにおける気泡発生の問題を解決するためになされる第二の施策は、前記透明化剤より3〜10℃高い温度で前記樹脂を溶融混合することである。この方法によれば、前記問題は解決が可能である反面大きな欠点もある。ソルビトールアセタール透明剤は、一般的には、それらと混合されるポリオレフィン樹脂より50〜100℃高い融点を有する、ポリオレフィン樹脂を前記透明剤の融点を越える温度で配合すると、プラスチックが着色したり着臭する可能性がある。また、大規模な製造を行う押出機では、押出温度を制御することが非常に困難になり、通常、製造の初期に品質が低下することがある。また、ソルビトールアセタール及びキシリトールアセタール透明剤は、融点付近で沸騰または昇化する恐れがある。よって、前記透明剤を融点を越える温度で配合すると、押出ダイにおいてプレートアウトが起こり、望ましくない。
【0008】
ソルビトールアセタールによって透明化されたポリオレフィンにおける気泡または“フィッシュアイ”を除くためになされる第三の施策は、コバヤシらによる米国特許第4,954,291号(特にカラム1、2、3及び4)に記載されている。この方法では、ベンズアルデヒド及びジ-ないしトリ-メチル置換ベンズアルデヒドから得られるソルビトールのジアセタールの分散物を用いる。この組成物は、比較的低融点であるが、気泡の形成を回避するためには、その融点を越える温度で配合しなければならない。また、この組成物は、アルキル置換ベンズアルデヒドから専ら得られるソルビトールのジアセタールと比較して、透明化性能が劣る。
【0009】
透明化されたポリオレフィン樹脂における“白点”即ち気泡について、非常に多くの研究がなされてきた。それにもかかわらず、気泡形成の正確なメカニズム、及び極性脂肪族添加物の気泡の除去を助成する機能については、充分に知られていない。
【0010】
ソルビトールやキシリトールのジアセタールの他、安息香酸ナトリウムのような芳香族カルボン酸の塩が、ポリオレフィン樹脂における成核剤として効果的に用いれている。しかしながら、安息香酸ナトリウムは、アセタールのように、その融点を越える温度で配合されて樹脂中で再結晶し核形成部位を与えることはなく、配合中に溶融せず、通常溶融前に分解する。また、安息香酸ナトリウムは、ポリオレフィンに不溶であり且つ混和しない。それゆえ、安息香酸ナトリウムの成核剤としての機能は、溶融したポリマー中でどの程度まで微細な状態で分散し得るか、例えば1〜10μmの範囲で分散し得るかに因る。[“Plastic Additive Handbook”,Gachterら編集、Hanser Publishers,Munich,Germany,pp671〜683(1985);及びBinsbergen,“Heterogeneous Nucleation in the Crystallization of Polyolefins(1)”,Polymer 11,pp253〜267(1970)]
逆に、ソルビトールやキシリトールのジアセタールの核形成の効果には、配合前の物理的特性は全く関係ないと考えられており、これらがポリオレフィン樹脂中で分散及び再結晶することが必要である。
【0011】
本発明は、ソルビトールアセタールやキシリトールアセタールの透明剤を処理する技術であって、脱色や着臭が起こる過剰な配合温度を採用せずにポリオレフィン樹脂に配合して“白点”、即ち気泡のない部材を加工可能にするように処理する技術を提供するものである。
【0012】
本発明の透明剤は、下記式の構造を有するソルビトール及びキシリトール、のアセタールである。
【0013】
【化4】

式中、pは0または1であり、m及びnは夫々独立に0〜3であり、Rは夫々独立に、C1〜C8のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、C1〜C6のアルキルチオ基、C1〜C6のアルキルスルホキシ基、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4ないし5員アルキル基から選ばれる。かかる透明剤において、特に好ましくは、pは1であり、RはC1〜C4のアルキル基、塩素、臭素、チオエーテル、及び不飽和母環の隣接する炭素原子と炭素環を形成する4員アルキル基から選ばれる。実用可能な透明剤の具体例としては:ジベンジリデンソルビトール、ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、ジ(o-メチルベンンジリデン)ソルビトール、ジ(p-エチルベンジリデンソルビトール)、ジ(o-エチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4-ジエチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(5′,6′,7′,8′-テトラヒドロ-2-ナフチリジン)ソルビトール、ビス(トリメチルベンジリデン)キシリトール、及びビス(トリメチルベンジリデン)ソルビトールが挙げられる。また、本発明の範囲には、コバヤシらによる米国特許第4,532,280号及び同4,954,291号に記載されているような、置換または非置換のベンズアルデヒドを含むアルデヒドの混合物を用いて得られる化合物が包含される。
【0014】
本発明のジ-アセタールは、様々な公知技術によって容易に調製することができる。一般的にこのような方法では、酸触媒の存在下で、D-ソルビトールまたはD-キシリトール1モルをアルデヒド約2モルと反応させる。この反応で採用される温度は、融点のような、反応の出発物質として用いられるアルデヒドまたはアルデヒド類の特性に因って、かなり変化するであろう。この反応に用いられるのに適切な溶媒の例としては、シクロヘキサンや、シクロヘキサン及びメタノールの組み合わせが挙げられる。この縮合反応によって生ずる水は留去する。典型的には、混合物を数時間反応させた後、反応物を、冷却、中和、濾過し、続いて、例えば水やアルコールを用いて洗浄し、更に乾燥する。
【0015】
尚、先に引用した背景技術となる参考文献を本発明に組み入れ、本発明の透明剤の合成に関する詳細な説明とする。勿論、必要に応じて、ベンズアルデヒド及び/または置換ベンズアルデヒドの混合物は、反応混合物中において提供してもよい。
【0016】
上記技術により調製される本発明のソルビトールやキシリトールのジアセタールは、不純物としてモノアセタール及びトリアセタールからなる副生物を含有し得る。当該ジアセタールをポリオレフィン樹脂中に導入する前に、これら不純物を除去する必要は必ずしもないが、実際には除去することが望ましい。このようにジアセタール精製することによって、製造される樹脂の透明性を向上させることができる。かかるジアセタールの精製は、例えば、相対的に極性のない溶媒を用いてトリアセタール不純物を抽出除去し、続いて濾過を行うことによってなされる。不純物を除去することによって、添加剤組成物中のジアセタールの量が90%以上になる程度まで生成物が精製され得る。
【0017】
工業的な製造操作では、前記生成物を、加熱、または加熱及び減圧することによって乾燥する。次いで、生成物を機械的な粒化装置を用いて微粉砕した後、ピンミルまたはスタッドミル中で微粉砕する。通常、この微粉砕された生成物を、スクリーンを用いて選別し、過度に大きい粒子を除去する。スクリーンの寸法は、最小粒径を176〜420μmの範囲に制御するように通常40メッシュ〜80メッシュの範囲とする。粒径の測定に正確な技術はない。通常、ある粒径より小さい粒子量の全粒子量に対する百分率が97である粒径、即ちd97が、最大粒径の寸法として用いられている。尚、80メッシュより細かいスクリーンは、目詰まりが生じ易いため使用されない。
【0018】
メッシュスクリーンと目の寸法の相互関係は次の通りである。
【0019】
・米国標準ASTME11-61 40メッシュスクリーン=目の寸法420μm
・米国標準ASTME11-61 80メッシュスクリーン=目の寸法176μm
上述したような“白点(white point)”即ち気泡の問題の原因を調査すべく、以下の実験を行った。
【0020】
例 1
市販ロットのMillad(登録商標)3905(ジベンジリデンソルビトール:ミリケンケミカル社,スパータンバーグ,南カリフォルニア、米国:d97250μm、平均粒径84μm)少量を、鉱油中に分散させ、顕微鏡の加熱式ステージ上に載置した。この試料を、室温より毎分10℃の割合で加熱した。各粒子は、223℃で気泡を生じた後、228℃で溶融することが観察された。
【0021】
例1のジベンジリデンソルビトール生成物を、走査型電子顕微鏡(SEM)において拡大率1000倍で観察した。かかる生成物の顕微鏡写真(図1)によれば、各粒子は小さな繊維の凝集体、即ち“一次粒子”となっていることが判る。また、この凝集体の表面は、焼結もしくは融解しているようである。これら焼結粒子は、粒子が溶融前に軟化した際に放出されるガスまたは揮発性の液体をトラップしているものと考えられる。このような現象が二次加工中に起こると、白点即ち気泡が生じる。加えて、焼結した粒子内にトラップされたガスは断熱性を付与し、その他ポリマー溶融物中に透明剤を溶融及び溶解させるのに要求される効果的な熱の移動を妨害する。
【0022】
数種の異なる製造元の生成物を含む他の市販のソルビトールアセタール透明剤を分析したところ、驚くべきことに、これら生成物の全てが、小さな繊維の凝集体、即ち焼結したような表面を伴う一次粒子であった。下記表1に、図番、透明剤、商品名、及びこれら市販の生成物の製造元を示す。
【0023】
例 2
例1で確認された、d97が250μmであり平均粒径が84μmのジベンジリデンソルビトールを、微粉砕機(Jet Mill Model Number100AFG,ミクロンパウダーシステム社製)に対向した流動床に供給した。この微粉砕機は、デフレクター-ホイルタイプの分級機(classifier)を備えていた。前記試料を強烈に微粉砕し分級し、レーザ光散乱により粒径分布を測定し、d97を求めたところd97が8μm未満であり、平均粒径が4μm未満であることを特徴とする粒子を得た。これら測定値は、顕微鏡像の分析によって確認された。図8は、微粉砕された生成物の拡大率1000倍の顕微鏡写真である。また、粉末試料の固められた状態でのバルク密度は、上述したような寸法の減縮の結果、0.475g/cm3から0.142g/cm3まで低減された。
【0024】
例 2
例1で確認された、d97が250μmであり平均粒径が84μmのジベンジリデンソルビトールを、微粉砕機(Jet Mill Model Number 100AFG,ミクロンパウダーシステム社製)に対向した流動床に供給した。この微粉砕機は、デフレクター-ホイルタイプの分級機(classifier)を備えていた。前記試料を強烈に微粉砕し分級して、レーザ光散乱による測定でd97が8μm未満であり平均粒径が4μm未満であることを特徴とする粒子を得た。これら測定値は、顕微鏡像の分析によって確認された。図8は、微粉砕された生成物の拡大率1000倍の顕微鏡写真である。また、粉末試料の固められた状態でのバルク密度は、上述したような寸法の減縮の結果、0.475g/cm3から0.142g/cm3まで低減された。
【0025】
例 3
例2の生成物である超微粒ジベンジリデンソルビトール透明剤少量を、白色の鉱油中に分散させ、顕微鏡の加熱式ステージ上に載置した。かかるジベンジリデンソルビトールの超微粒一次粒子は、170℃で気泡を生じることなく溶解した。この結果は、ガスを放出し続いて溶融する前に、223〜228℃で加熱されなければならない凝集焼結物質の場合と大きく異なる。
【0026】
ここで“溶解した(dissolved)”という語は、透明剤がその融点未満においても溶融樹脂中に分散する現象を述べるために用いられている。しかしながら、溶融した樹脂の粘度を考慮すると、前記透明剤は樹脂中に必ずしも均質的に分布しない。それにも拘らず、前記透明剤が溶解した後溶融したポリマーから再結晶することが観察される。
【0027】
表1に記された透明剤を、例2でなされた粒径の縮小に加えて、同様に微粉砕及び分級した。このように微粉砕された物質を分折した結果、以下のような観察がなされた。まず、ここで重要なソルビトール及びキシリトールのジアセタールは、長さ5〜10μm、径0.3〜0.7μmの“繊維状,結晶性一次粒子”であることを特徴とし得る。これら一次粒子及び数種の個別の粒子を含有するこれら一次粒子の小さな凝集体は、ガスをトラップする傾向はなく、最終的に透明化された樹脂における気泡の発生、及び配合の工程中における透明剤の絶縁に至らないことが見出された。このように、透明剤は、d97が30μm未満であり平均粒径が15μm未満の状態で、本発明を実施に有用である。かかる透明剤は、好ましくは、d9720μm未満であり平均粒径10μm未満、更に好ましくはd9710μm未満であり平均粒径6μm未満である。
【0028】
対向したジェット流動床を用いて粒径を縮小することの他、暴露され且つ焼結していない一次粒子を有するソルビトールアセタール透明剤を製造する方法がある。流動床の噴霧乾燥は、任意に実行可能な方法の一つである。ピンミルを用いた標準的な微粉砕に続いて、空気により分級するといった方法もある。粒径の縮小技術の概要は、以下の文献に見出される;Kuklaによる“Understand Your Size-Reduction Options”,Chemical Engineering Procress,pp23-25(1991年5月);及びHixonによる“Select An Effective Size-Reduction System”,Chemical Engineering Procress,pp36-44(1991年5月)。
【0029】
ジェットミルの後、繊維状粒子が機械的に絡み合いまたは静電気により粘着し、“毛羽だった球(fuzzy balls)”即ち、荒い会合(loose association)を形成する。しかしながら、これらの粗い会合は、粒径分析によって、従来の透明剤の処理において形成される凝集体と容易に区別される。
【0030】
上述したような透明剤の粒径分布は、レーザ光散乱技術を用いて測定される。まず、湿潤剤として界面活性剤を用い、粉末試料を水中に分散させる。続いて、得られた曇った混合物を一定して攪拌し、試料セルを通して循環させた。次いで、試料の粒径分布に関する方法で、レーザビームを試料セル中に通過させ、光を散乱させた。散乱した光を、フォトダイオードアレイ上に集め、ヒストグラム即ち粒径分布に変換した。かかる方法では、機械的に絡み合った繊維状物質が解離し、容易に分散した。
【0031】
一般的には、レーザ光散乱による結果は、顕微鏡像の分折により得られた結果に一致する。顕微鏡像の分析技術では、荒い会合の存在及び幾何学的影響によってエラーが生じるため、前記レーザ光散乱法がより信頼性が高いと考えられている。
【0032】
本発明のポリオレフィンポリマーとしては、脂肪族ポリオレフィン、及び少なくとも一つの脂肪族ポリオレフィンと1以上のエチレン性不飽和コモノマーからなる共重合体が挙げられる。一般的に、コモノマーが存在する場合、例えば前記ポリオリフィンの重量に対して約10%以下、特に約5%未満の少量供給されるであろう。このようなコモノマーは、前記ポリオレフィンの透明性の向上を促進させるためために、あるいは前記ポリマーの他の特性を改善すべく機能し得る。コノモノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル、及び酢酸ビニル等が挙げられる。
【0033】
本発明により透明性が優位に向上したオレフィンポリマーの例としては、炭素原子2〜6個を有し、平均分子量が約10,000〜約2,000,000、好ましくは約30,000〜約300,000である脂肪族モノオレフィンの重合体及び共重合体、例えば、ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、結晶性エチレン/プロピレン共重合体(ランダムまたはブロック)、ポリ(1-ブテン)、及びポリメチルペンテンが挙げられる。本発明のポリオレフィンは、従来の低密度ポリエチレンで見られるように、半結晶で、基本的には線状の規則的なポリマーであり、任意に側鎖を有するものとして述べられている。
【0034】
本発明の粒径が縮小された透明剤と組み合わされる他のポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、グリコール変性ポリエチレンテレフテレート、ポリブチレンテレフテレート、及びポリアミドが挙げられる。
【0035】
本発明の組成物には、主要な利点を阻害しない限り他の添加剤を使用してもよい。これら添加剤は、前記透明剤と予備混合することが有利であろう。このような添加剤は、当業者に周知なものであり、例えば、可塑剤、潤滑剤、触媒中和剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、他の成核剤等が挙げられる。これら添加剤には、美観の向上、処理の容易化、及び安定性の向上等の更なる有利な特性を向上させるものがある。
【0036】
前記ポリオレフィン樹脂に対して使用する透明剤の量は、前記組成物が濃縮物として供給されるか否かに因って大きく変化し得る。成形製品に使用する場合、樹脂100部について透明剤0.01〜3部、好ましくは樹脂100部について透明剤0.05〜2部を使用する。透明剤が0.01部未満である場合、樹脂の透明特性が充分に改善されず、3部を越える場合、透明化された樹脂において更なる効果が殆ど見られない。
【0037】
ポリオレフィン樹脂100部について透明剤100部までの濃縮物を製造することができる。典型的には、樹脂100部について透明剤33部未満、好ましくは15部未満含む濃縮物が調製市販されている。
【0038】
本発明の方法は、特に、透明剤及びポリオレフィン樹脂の工業的配合に採用される。ここで“配合(compounding)”という語は、樹脂が溶融状態、即ち融点を越える温度に加熱されている一方で、この樹脂中に透明剤を分散させる方法を述べるべく広く使用される。しばしば、ベース樹脂は重合直後に毛羽だった粒状の外観を有し、透明剤を含む望ましい添加剤と共に乾燥混合され、樹脂製造機によって押出される。かかる樹脂は、最終製品に加工される直前に、例えば射出成形・押出ブロー成形、射出ブロー成形、延伸ブロー成形、圧縮成形、回転成形、異形押出、シート押出、熱発泡、フィルム押出、及び配向を伴うフィルム押出によって、通常2度押出される。樹脂及び透明剤の混合物を、溶融状態で何度押出もしくは混合するかにかかわらず、組成物を製品に成形する前に透明剤を溶融した樹脂に溶解させることが重要である。多くの場合、溶解は、透明剤を溶融、及び溶融樹脂中に分散させることによって成し遂げられる。しかしながら、本発明の有利な点は、透明剤を、その融点に到達することなく溶融樹脂中にさせ得ることである。
【0039】
工業的には、配合は、例えば一軸スクリュ押出機、二軸スクリュー押出機、またはFarrel連続ミキサーのような押出機においてなされる。押出条件は、ポリオレフィン樹脂の種類に因って変化する。典型的には、線状低密度ポリエチレンは130℃〜170℃で押出され、またポリプロピレンは210℃〜240℃で押出される。これらの温度は、押出機のバレル温度よりむしろ、溶融または貯蔵時の樹脂自体の温度に関するものである。尚、先行技術の透明剤を使用する際、製造機は典型的には前記透明剤の融点を3℃〜6℃越える温度で操作される。
【0040】
本発明の透明剤は、強く微粉砕されていない市販品とは異なり、170℃程度の低温でポリオレフィン樹脂に溶解する。このように、本発明の透明剤は、その融点未満の温度で樹脂に配合されるものであり、先行技術の方法に比べて著しく改良がなされていることが判る。以下の比較例は、特許請求の範囲に記された発明において可能な驚くべき且つ顕著な改善がなされていることを示す。
【0041】
例 4
表1に記載の透明剤の夫々を、共添加剤(co-additive)及び4MFRポリプロピレンRCPベース樹脂とを、下記割合でパドルミキサーにおいて混合した:
試験された透明剤 2.5g
イルガノックス1010 0.8g
ステアリン酸カルシウム 0.8g
4MFRポリプロピレンRCPベース樹脂 1000g
続いて、かかる組成物を、L/D比32対1でありMadduxミキシングチプヲ備えた1インチの一軸スクリュー押出機によって様々な温度で押出し、気泡を除くのに必要な最低配合温度を調べた。初期温度を200℃に設定し、気泡の発生が見られる毎に5℃ずつ温度を上昇させて操作を続けた。
【0042】
配合されたペレットについて、210℃、背圧40トンの射出成形機において2″×3″×0.05″のプラックを成形し、気泡が形成しているか調べた。即ち、得られたプラックを視覚的に分析して気泡の存在を調べた。前記上記透明剤の夫々にジェットミルを施し超微粒粉末を得た後、添加剤及びベース樹脂との混合に先立って、上述したような実験を繰り返し行った。かかる実験の結果を下記表2に示す。
【0043】
【表2】

工業的に分級された物質は、d97が180〜420μm、平均粒径が28〜120μmであった。全ての場合において、射出成形製品中の気泡を除くためには、配合押出機中の温度を、透明剤の融点より3〜7℃高く設定しなければならなかった。
【0044】
これに対し、超微粒透明剤は、d97が4〜20μm、平均粒径が2μm〜9μmであった。夫々の場合、超微粒の透明剤を、一軸スクリュー押出機において、ポリプロピレンに対して実施可能な最低配合温度200℃で処理することができた。超微粒ベンジリデンソルビトール、ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、及びビス(5′,6′,7′,8′-テトラヒドロ-2-ナフチリジン)ソルビトール(表2の脚注*1,*6,*7に相当)の顕微鏡写真を、夫々図8、9及び10に示す。
【0045】
前記超微粒透明剤は、一次粒径にまで縮小された粒子、もしくはほんの2、3個の一次粒子からなる凝集体であることを特徴とする。かかる超微粒透明剤は、低温での配合、加熱の低減、配合装置(殆どの場合、押出機)を通過する速度の向上を可能にする点で有利である。また、本発明の方法は、極性脂肪酸、及び透明化された樹脂に関連して生じる問題を回避できる点で有利である。更に、低温での操作が可能になることによる有利な点として、樹脂の退色、昇華及びプレートアウト、また押出機の温度が過度に上昇し、樹脂のコンシステンシーに悪影響が付与され、ペレット化が困難になるといったことが回避される。本発明は、飽和ベンズアルデヒドを用いて得られるソルビトール及びキシリトールのジアセタールにおいて特に有利である。これらジアセタールは最終的に比較的高い融点、即ち融点が250℃以上の透明剤となり、さもなければポリオレフィン樹脂に導入することが困難になる。こうして、有用な透明剤は、170℃を越え、好ましくは180℃〜230℃の温度で配合することができる。
【0046】
本発明には、当然ながら、前記した特許請求の範囲に包含されることを意図する多くの態様が存在し、また修飾がなされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
凝集したジベンジリデンソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図2】
凝集したジベンジリデンソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図3】
凝集したジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図4】
凝集したジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図5】
ベンズアルデヒドから得られたアルデヒドソルビトールと、ジ-またはトリ-メチル置換ベンズアルデヒド透明剤の凝集混合物の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図6】
凝集したビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図7】
凝集したビス(5′,6′,7′,8′-テトラヒドロ-2-ナフチリジン)ソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図8】
図1に示す物質をジェットミルして得られた生成物である、超微粒ジベンジリデンソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図9】
図6に示す物質をジェットミルして得られた生成物である、超微粒ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
【図10】
図7に示す物質をジェットミルして得られた生成物である、超微粒ビス(5′,6′,7′,8′-テトラヒドロ-2-ナフチリジン)ソルビトール透明剤の粒子構造を示す顕微鏡写真(拡大率1000倍)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2002-03-01 
結審通知日 2002-03-06 
審決日 2002-03-26 
出願番号 特願平5-130001
審決分類 P 1 122・ 113- ZD (C08L)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 佐々木 秀次  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 三浦 均
小島 隆
登録日 1997-02-13 
登録番号 特許第2610772号(P2610772)
発明の名称 超微粒ソルビトールアセタール及びキシリトールアセタールを含有するポリオレフィン組成物  
代理人 青山 葆  
代理人 北原 康廣  
代理人 片山 英二  
代理人 柴田 康夫  
代理人 小林 純子  
代理人 小林 純子  
代理人 柴田 康夫  
代理人 吉利 靖雄  
代理人 岩田 弘  
代理人 青山 葆  
代理人 三枝 英二  
代理人 品川 澄雄  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 品川 澄雄  
代理人 吉利 靖雄  
代理人 小原 健志  
代理人 北原 康廣  
代理人 藤井 淳  
代理人 片山 英二  

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