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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B65D
審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する B65D
審判 訂正 2項進歩性 訂正する B65D
管理番号 1096960
審判番号 訂正2004-39035  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-02-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-02-19 
確定日 2004-04-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3289244号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3289244号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続きの経緯

特許第3289244号(以下、「本件特許」という。)についての手続きの経緯は、およそ次の通りである。
(1)特許出願 平成13年4月13日
(2)特許権の設定の登録 平成14年3月22日
(3)特許掲載公報の発行 平成14年6月4日
(4)東郷高子より特許異議の申立て(異議2002-72915) 平成14年12月4日
(5)取消理由通知書の発送 平成15年4月8日
(6)特許権者より特許異議意見書の提出 平成15年6月5日
(7)異議の決定(請求項1及び2について取消決定) 平成15年7月24日(特許権者への送達平成15年8月11日)
(8)取消決定取消の訴え〔東京高等裁判所平成15年(行ケ)第408号〕平成15年9月10日
(9)訂正審判の請求(訂正2003-39210) 平成15年9月29日
(10)前記訂正審判の請求の取下げ 平成16年1月20日

2.請求の趣旨及び訂正の内容

(1)本件審判請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。

(2)本件訂正の内容は、次の訂正事項イ〜リのとおりである。

訂正事項イ:特許請求の範囲の記載「【請求項1】チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は実質的に古紙パルプ又は機械パルプを含有せず、主として無塩素漂白化学パルプであり、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHは6以上であり、前記繊維原料に添加する硫酸バンドは無添加又は冷水抽出pHが6未満とならない範囲内で少量添加するとともに、前記多層板紙は、水溶性塩化物含有量が50ppm以下であって、前記繊維原料である無塩素漂白化学パルプは、ECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプであることを特徴とするチップ状電子部品用キャリアテープ台紙。
【請求項2】前記多層板紙は、発生するアウトガス量が該多層板紙0.1gを不活性ガス気流中で40℃30分間加熱する条件にて、200ng/g以下であることを特徴とする請求項1記載のチップ状電子部品用キャリアテープ台紙。」
を、
「【請求項1】チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみを用い、硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加したものであって、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性付近までの範囲であり、全塩素含有量が 200ppm 以下であり、水溶性塩化物含有量が 50ppm 以下であり、該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、且つ、該多層板紙の加速負荷回が200回以上であることを特徴とするチップ状電子部品用キャリアテープ台紙。」
と訂正する。

訂正事項ロ:明細書の段落【0016】の記載「本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台 紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は実質的に古紙パルプ又は機械パルプを含有せず、主として無塩素漂白化学パルプであり、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHは6以上であり、前記繊維原料に添加する硫酸バンドは無添加又は冷水抽出pHが6未満とならない範囲内で少量添加するとともに、前記多層板紙は、水溶性塩化物含有量が50ppm以下であって、前記繊維原料である無塩素漂白化学パルプは、ECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプであることを特徴とする。」
を、
「本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみを用い、硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加したものであって、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性近辺までの範囲であり、全塩素含有量が200ppm以下であり、水溶性塩化物含有量が50ppm以下であり、該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、且つ、該多層板紙の加速負荷回が200回以上であることを特徴とする。」
と訂正する。

訂正事項ハ:明細書の段落【0019】の記載を削除する。

訂正事項ニ:明細書の段落【0022】の記載「TCF漂白パルプとECF漂白パルプとを比較すると、TCFの方が含有塩素化合物量を低く抑えることが可能であるが反面強度低下が大きく、本発明では剥離強度の観点からECF漂白パルプの使用が望ましい。ECF漂白の場合、通常の塩素を使用する漂白方法に比べ、繊維への化学的ダメージが少ない。従って、抄紙用原料として叩解して使用した場合、従来の漂白パルプを用いて製造したパルプに比べ同一叩解度でより強度の高い紙を得ることが可能になる。この点は本発明で無塩素漂白パルプを選択する大きな理由の一つである。」
を、
「TCF漂白パルプとECF漂白パルプとを比較すると、TCFの方が含有塩素化合物量を低く抑えることが可能であるが反面強度低下が大きく、本発明では剥離強度の観点からECF漂白パルプを使用する。ECF漂白の場合、通常の塩素を使用する漂白方法に比べ、繊維への化学的ダメージが少ない。従って、抄紙用原料として叩解して使用した場合、従来の漂白パルプを用いて製造したパルプに比べ同一叩解度でより強度の高い紙を得ることが可能になる。この点は本発明で無塩素漂白パルプであるECF漂白パルプを選択する大きな理由の一つである。」
と訂正する。

訂正事項ホ:明細書の段落【0024】の記載「・・・・好ましい特性と考えられる。例えば、多層板紙から発生するアウトガス量は、多層板紙0.1gを不活性ガス気流中で40℃30分間加熱する条件にて、200ng/g以下であることが好ましい。」
を、
「・・・・好ましい特性と考えられる。本発明においては、多層板紙から発生するアウトガス量は、多層板紙0.1gを不活性ガス気流中で40℃30分間加熱する条件にて、200ng/g以下である。」
と訂正する。

訂正事項ヘ:明細書の段落【0051】の記載「【発明の効果】請求項1記載のチップ状電子部品用キャリアテープ台紙では、水溶性塩化物が少ない無塩素漂白化学パルプを用い、同時に塩素含有化合物を未使用または極力減らしたことによる効果と、抽出pHをより中性近辺に近付け実質的に古紙パルプや機械パルプなどを含まない効果と相乗作用させることで、従来の塩素漂白化学パルプをパルプ原料として使用したものあるいは板紙の中層に古紙パルプや機械パルプを配合したものと比較して、被包装物である電子部品の金属腐食等のチップへの悪影響をより低減することができる。しかも充分な剥離強度を付与することができる。廃棄物の焼却処理にあたっては、ダイオキシン等有機塩素化合物発生の危険性が少なくなり、環境にも配慮した製品を提供できる。」
を、
「【発明の効果】本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、従来よりも強度が高く且つ、全塩素含有量が少ない無塩素漂白化学パルプであるECF漂白パルプのみを用いると共に、紙力向上剤として塩素含有化合物を含まず或いは含有していても少量である両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを選択し、かつ硫酸バンドを含めた該紙力向上剤の使用量を少なくして多層板紙を得ることで、該多層板紙の冷水抽出pHが6.0から中性近辺までの範囲であり、全塩素含有量が200ppm以下及び水溶性塩化物含有量が50ppm以下であり、更に古紙パルプや機械パルプなどを用いないで該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、且つ、加速負荷回が200回以上である、即ち、該板紙の品質の構成要件である水注出pH、全塩素含有量、水溶性塩化物含有量、アウトガス及び加速負荷回の各要因を同時に全て満たす多層板紙とすることができ次のような特有の効果を奏する。
本件発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、比較例で示す従来のようにパルプ原料として塩素漂白化学パルプを使用したものあるいは板紙の中層に古紙パルプや機械パルプを配合したものと比較して、被包装物である電子部品の金属腐食等のチップへの悪影響をより低減することができると共に、比較例で示す従来のチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、定着させるための硫酸バンド及びカチオン性ポリアクリルアマイド(カチオン性PAM)を添加させることによってZ軸強度は向上するにもかかわらず、加速負荷回は190回以下で剥離するという結果であるのに比べ本件発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙はZ軸強度も良好で、加速負荷回が200回以上であるという高い実用的層間剥離強度を付与することができる。
また、廃棄物の焼却処理にあたっては、ダイオキシン等有機塩素化合物発生の危険性が少なくなり、環境にも配慮した製品を提供できる。」と訂正する。

訂正事項ト:明細書の段落【0052】の記載を削除する。

訂正事項チ:明細書の段落【0053】の記載「請求項1記載のチップ状電子部品用キャリアテープ台紙では、従来の漂白パルプを用いて製造したパルプに比べ同一叩解度でより強度の高い、チップ状電子部品用キャリアテープ台紙を提供することができる。」
を、
「本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、従来の漂白パルプを用いて製造したパルプに比べ同一叩解度でより強度の高い、チップ状電子部品用キャリアテープ台紙を提供することができる。」
と訂正する。

訂正事項リ:明細書の段落【0054】の記載「請求項2記載のチップ状電子部品用キャリアテープ台紙では、揮発性有機化合物のアウトガスの少ないチップ状電子部品用キャリアテープ台紙を提供することによって、被包装物の汚染の危険性を低減することができた。これにより、よりクリーンな包装材として電子部品の有機物汚染の危険性を減ずることができる。」
を、
「本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、揮発性有機化合物のアウトガスの少ないチップ状電子部品用キャリアテープ台紙を提供することによって、被包装物の汚染の危険性を低減することができた。これにより、よりクリーンな包装材として電子部品の有機物汚染の危険性を減ずることができる。」
と訂正する。

3.訂正の適否についての判断

3-1.新規事項の追加の有無、訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項イについて
(1-1)訂正事項イのうち、多層板紙の各層の繊維原料に関して、「パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみを用い、」という訂正は、段落【0024】の「無塩素漂白パルプの使用量は使用パルプの全量であることが好ましい。」との記載、段落【0038】の「(実施例1)混合広葉樹材の未漂白クラフトパルプを下記漂白シーケンス(ECF)で漂白し、白色度86%のLBKP、無塩素漂白化学パルプを製造した。
D-E(OP)-DnD
ここで、Dは二酸化塩素漂白、Eはアルカリ抽出、Oは酸素、Pは過酸化水素、(-)は中間洗浄段、nはアルカリ添加を示す。
市販のECF漂白により製造されたNBKP(全塩素含有量120ppm)を前記パルプに20%配合して、リファイナーによりカナディアンスタンダードフリーネス500mlまで叩解して原料とした。」との記載及び段落【0049】の表2中の実施例1乃至4の使用パルプ第1層から第5層についての記載に基づいて、多層板紙の各層の繊維原料をパルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみに限定するものである。

(1-2)訂正事項イのうち、繊維材料に添加する添加剤に関して、「硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加したものであって、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性近辺までの範囲であり、」という訂正は、段落【0016】の「該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHは6以上であり」との記載、段落【0023】の「硫酸イオンの量は紙の冷水抽出pHと密接な関係があり、腐蝕の観点からJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6未満にならない範囲で、抄紙工程での硫酸バンドの使用量を制限する必要がある。」との記載、段落【0028】の「紙力向上剤としては、塩素化合物を含まず、あるいは含有していても少量であり、繊維への定着が良好で紙力向上効果の優れた両性澱粉、両性ポリアクリルアマイドの使用が好ましい。」との記載、段落【0030】の「叩解した原料には吸水性を制御するためのサイズ剤、紙力向上剤が添加されるが、必要最小量の添加とする。硫酸バンドは無添加が好ましいが冷水抽出pHが6未満とならない範囲内で少量添加しても良い。」との記載、段落【0051】の「チップ状電子部品キャリアテープ用紙では、・・・・抽出pHをより中性近辺に近付け」との記載、段落【0049】の表1中の実施例1乃至4の冷水注出pH、及び表2中の実施例1乃至4の薬品添加率に基づいて、多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性付近までの範囲となるように、繊維材料に硫酸バンド、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加することと限定すると共に、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載の「該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHは6以上であり、前記繊維原料に添加する硫酸バンドは無添加又は冷水抽出pHが6未満とならない範囲内で少量添加するとともに、」において、硫酸バンドを多層板紙の冷水注出pH6以上となる範囲で加えることに関して、「該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHは6以上であり、」、及び「前記繊維原料に添加する硫酸バンドは無添加又は冷水抽出pHが6未満とならない範囲内で少量添加する」と、冷水注出pHについて2箇所で規定し、冗長に表現していたものを明りょうにするものでもある。

(1-3)訂正事項イのうち、多層板紙の「全塩素含有量が 200ppm 以下であり、」という訂正は、段落【0026】の「また、紙中の全塩素含有量も重要である。分解して水溶性塩化物になることも考えられ、また低温焼却時の有害有機塩素化合物の発生とも関連して200ppm以下に制御することが好ましいが、この数値を達成するには無塩素漂白パルプの使用が前提となる。」との記載及び段落【0049】の表1中の実施例1乃至4の全塩素含有量に基づいて、多層板紙が有する全塩素含有量について限定するものである。

(1-4)訂正事項イのうち、多層板紙の「該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、」という訂正は、段落【0024】の「多層板紙から発生するアウトガス量は、多層板紙0.1gを不活性ガス気流中で40℃30分間加熱する条件にて、200ng/g以下であることが好ましい。」との記載及び段落【0049】の表1中のアウトガス量に基づいて、多層板紙のアウトガス量を限定するものである。

(1-5)訂正事項イのうち、多層板紙の「該多層板紙の加速負荷回が200回以上であること」という訂正は、段落【0037】の「<加速負荷試験>」の項の記載、段落【0049】の表1中の実施例1乃至4の加速負荷回が「200≦」との記載に基づいて、多層板紙の加速負荷回を限定するものである。

(1-6)したがって、全体として訂正事項イは、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、かつ、願書に添付した明細書である登録時明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして、訂正事項イは、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもない。

(2)訂正事項ロ乃至ホ、ト乃至リについて
訂正事項ロ乃至ホ、ト乃至リは、特許請求の範囲を前記訂正事項イのように訂正したことに伴って、発明の詳細な説明をこれに整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、かつ、登録時明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして、訂正事項ロ乃至ホ、ト乃至リは、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもない。

(3)訂正事項ヘについて
訂正事項ヘは、特許請求の範囲を前記訂正事項イのように訂正したことに伴って、発明の詳細な説明をこれに整合させるものであると共に、段落【0049】中の実施例1乃至4、比較例1乃至7の薬品添加率、Z軸強度、加速負荷回について、単に説明したものである。
したがって、訂正事項ヘは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、かつ、登録時明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして、訂正事項ヘは、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもない。

(4)まとめ
よって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合する。
進んで、本件訂正が特許法第126条第4項の規定に適合するか否かについて検討する。

3-2.独立特許要件の存否

(1)本件発明
本件訂正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明は、次のとおりのもの(以下、「本件発明」という。)である。

「チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみを用い、硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加したものであって、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性近辺までの範囲であり、全塩素含有量が 200ppm 以下であり、水溶性塩化物含有量が 50ppm 以下であり、該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、且つ、該多層板紙の加速負荷回が200回以上であることを特徴とするチップ状電子部品用キャリアテープ台紙。」

(2)刊行物の記載内容
(2-1)前記1の(7)の異議の決定に引用した特開2000-203521号公報(以下、「刊行物1」という。)の記載内容

電子デバイス用キャリアテープ紙に関して、次の事項が記載されている。

(記載イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】木材パルプを主体とした、米坪200〜1100g/m2の多層抄き原紙の全層または中層に導電性物質を内添し、原紙両面に表面サイズを施し、20℃、40%RHでの環境条件下での紙の表面電気抵抗値及び体積電気抵抗値が1×109Ω以下であることを特徴とする電子デバイス用キャリアテープ紙。」

(記載ロ)段落【0001】の項「本発明は電子機器のプリント回路板に取付けるチップ状電子部品のキャリア用として使用するチップ型電子部品収納台紙すなわち電子デバイス用キャリアテープ紙に関する。」

(記載ハ)段落【0022】〜【0032】の実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例6には、使用されている木材パルプがNBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)とLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)との割合50%:50%である多層抄き原紙を使用している電子デバイス用キャリアテープの例が記載されている。

(記載ニ)段落【0006】には、キャリアテープ紙に求められる品質に関して以下の記載がある。
「紙製のキャリアテープに求められる品質としては、以下のような特性があげられる。チップ状電子部品の包装用途に用いられる為、角穴に装填したチップ状電子部品に静電気トラブル、金属腐蝕等の悪影響を及ぼさないこと。カバーテープが良好に接着されたり、剥がれたりするように紙の表面に平滑性のあること。高速の自動機械で曲げ、しごきなどの力を受けても層間剥離、折れじわをおこさないこと。紙テープでは打ち抜き加工の時に、穴内部に繊維のケバが残ると、部品が角穴内に納まらないというトラブルが起こることもあるのでパンチング適正を有すること。紙に対する各種処理に耐え得る強度を有すること。チップ状電子部品の自動装着工程で送りのピッチがずれると、マシントラブルを起こすことなどから、原材料の寸法安定性に優れていること。」

(記載ホ)段落【0020】には、キャリアテープ用原紙について、以下の記載がある。
「本発明のキャリアテープ用原紙の提供により、チップ状電子部品に対する静電気トラブルがなく、カバーテープに対する接着性、剥離性が良好であり、原紙の寸法安定性、層間強度、剛性が実用レベル範囲にあるチップ型電子部品収納台紙(キャリアテープ紙)が実用化できることになった。」

(記載ヘ)段落【0034】には、発明の効果として以下の記載がある。
「本発明に係る電子デバイス用キャリアテープ紙は、a.導電性物質を原紙に内添または表面に塗工することにより、テープ紙の穴に装填したチップ状電子部品は静電気トラブルを起こさない。b.原紙の表面強度があるので、カバーテープが良好に接着されたり、剥がれる。c.原紙の層間剥離強度が強く、高速の自動機械で曲げ、しごきなどの力を受けても層間剥離、折れじわをおこさない。d.パンチング適正がある。e.寸法安定性に優れていることなどの優れた効果を奏する。」(◯で囲まれた数字1〜5は、a. 〜e.に修正)

そして、刊行物1には、紙製のキャリアテープに求められる品質として、金属腐蝕の悪影響を及ぼさないものであることが上げられているのであるから、同刊行物記載の「チップ状電子部品用キャリアテープ台紙」は、金属腐蝕の悪影響を及ぼさないものであると明示されてはいないものの、少なくとも金属腐食の悪影響がないものである必要性が示唆されていたといえる。

(2-2)前記1の(7)の異議の決定において引用した「防錆管理 第31巻 第11号」 昭和62年(1987)年11月1日 (社)日本防錆技術協会発行 26〜32頁(以下、「刊行物2」という。)の記載内容

「紙中の腐食成分による発錆とその防止」と題する論文が掲載されており、以下の事項が記載されている。

(記載ト)27頁の「2.2 抄紙工程に由来する腐食成分」の項
「2.2 抄紙工程に由来する腐食成分
パルプから由来する還元性硫黄のほかに、紙中には次の三つの発錆要因が存在する。
(1)pH
(2)硫酸イオン
(3)塩素イオン
……。
(1)pH パルプは本来アルカリ性であるが、抄紙時にサイズ剤の薬品を定着させるために、通常、弱酸性の硫酸アルミニウムを添加し、PH4.5程度で抄紙する。これを酸性抄紙と言い、紙表面が弱酸性を示すので、金属を接触させるとさびやすい。
(2)硫酸イオン 硫酸イオンは、抄紙時に硫酸アルミニウムが添加されるため、紙中の含有量が多くなる。この硫酸アルミニウムは紙中の水分が多ければ解離して酸性を示し、金属をさびやすくする。
(3)塩素イオン これは硫酸イオンと同じ様に、環境の湿度が高く紙中 の水分が多いと、解離して酸性となり、金属をさびやすくする。紙中の塩素イオンは、製造工程の中の漂白工程で混入し、そのまま除去されずに残っているものが多い。従って、紙中の含有量としては、未晒の段ボール原紙やクラフト紙よりも、晒パルプを使用した白い紙の方が含有量が多いのが普通である。
表3に、各種紙、板紙のpH、硫酸イオン、塩素イオン、の含有量を示す。」

(記載チ)28頁の「3.2 紙中の腐食成分の除去・減少」の項
「3.2 紙中の腐食成分の除去・減少
……。また、抄紙薬品そのものについても、pHが中性やアルカリ性であっても、薬品そのものを製造する際、硫酸あるいは塩酸などで中和している薬品も多く、pHが中性であるだけでは安心できない。そこで紙中の腐食成分を減少する手段として、中性抄紙のみならず、その際使用する含有イオンの少ない薬品の開発も行った。
3.2.1 抄紙薬品の開発
抄紙薬品として通常は、紙力増強剤、サイズ剤、定着剤、ろ水向上剤、消泡剤、離型剤等種々の薬品が使用されるが、防錆の観点からみると、腐食要因を少なくするためにも、できるだけ薬品の使用は控え目にした方がよい。ここで紙力増強剤と、サイズ剤の改良結果について記す。表6にこの二つの薬品の改良前後の腐食に及ぼす効果について示す。これはいずれも紙力増強効果、サイズ効果については改良前と同じ効果を有していることを前提としたテスト結果である。」

(記載リ)31頁の「5.2 チップコンデンサ、プリント基板」の項
「 いづれもハンダ付けの自動化、実装の自動化に際し、端子部分が腐食により少しでもくもっていたりすると、直ちに工程を乱し生産効率を激減させるので、従来にもまして、部品の輸送、保管時の腐食防止には神経を使っている。」

これらの記載から、刊行物2には、紙に起因する発錆の原因とその防止方法について開示されており、発錆の原因としては、パルプ中の塩素イオンの存在、硫酸アルミニウムの添加等に起因する硫酸イオンの存在、pHが酸性域となることが挙げられており、チップコンデンサのような電子部品の輸送や保管時にも、腐食防止に配慮する必要があることが示されているといえる。

(2-3)前記1の(7)の異議の決定に引用した「紙パ技協誌 第54巻 第9号」 2000年9月1日 紙パルプ技術協会発行 34〜38頁(以下、「刊行物3」という。)の記載内容

「ECF漂白の効果」の項に、以下の事項が記載されている。

「3.ECF漂白の効果
パルプ繊維を痛めにくいECF漂白の効果によってパルプ粘度が向上した。O2段前の粘度は、塩素法系列と比べて、ECF系列は約1ポイント高い。これはITC蒸解の効果である。仕上がりの粘度ではECF漂白の効果で、この差が更に広がり、ECF系列の方が1.3ポイント高くなっている。この結果は、ECF漂白は繊維を痛めにくく、強いパルプが得られていることを示しているとともに、排水面でみればCOD発生負荷が低いことを示している(表2)。 」

(3)対比・判断
(3-1)そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比すると、引用発明における「チップ型電子部品収納台紙」または「電子デバイス用キャリアテープ紙」は、本件発明における「チップ状電子部品収納台紙」または「チップ状電子部品用キャリアテープ台紙」 に相当し、引用発明における、多層抄き多層板紙からなる電子デバイス用キ ャリアテープ紙(原紙)は、使用されている木材パルプが、NBKPとLBKPとからなるものであり、古紙パルプ又は機械パルプを含有しないから、両者は、「チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、
前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しないチップ状電子部品用キャリアテープ台紙。」
である点において一致し、次の点において相違するものと認められる。

【相違点1】
本件発明においては、チップ状電子部品収納台紙の多層板紙における各層の繊維原料は、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみであるのに対して、引用発明においては、これらのことが特定されていない点。

【相違点2】
本件発明においては、硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加し、多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性付近までの範囲であるのに対して、引用発明においては、これらのことが特定されていない点。

【相違点3】
本件発明においては、多層板紙の全塩素含有量が 200ppm 以下であり、水溶性塩化物含有量が 50ppm 以下であり、該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であるのに対して、引用発明においては、これらのことが特定されていない点。

【相違点4】
本件発明においては、多層板紙の加速負荷回が200回以上であるのに対して、引用発明においてこのことが特定されていない点。

(3-2)先ず、相違点1、2及び4について検討する。
本件発明は、チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙の多層板紙の各層の繊維原料として、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみを用いること(以下、「構成A」という。)、硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加したものであって、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性付近までの範囲とすること(以下、「構成B」という。)により、該多層板紙の加速負荷回が200回以上を可能とした(以下、「構成C」という。)ものである(本件訂正明細書表1、表2及び段落【0051】参照)。
ところが、上記した刊行物1乃至3には、上記構成A乃至Cについての記載がなく、さらに、上記構成A及び上記構成Bを組み合わせること、及び構成Aと構成Bとの組み合わせにより多層板紙の加速負荷回が200回以上となることについての記載も示唆もない。
また、例えば本件訂正明細書中の比較例1、2において示されているように、紙力向上剤、硫酸バンドを添加して多層板紙のZ軸強度が高くなっても、その加速負荷回数は、必ずしも増加しないものであり、さらに、本件訂正明細書中の比較例1乃至7において示されているように、ECFのみからできていない繊維原料のパルプに紙力向上剤、硫酸バンドを添加しても、加速負荷回200回以上のものは得られていない。
これらのことより、上記構成Aと構成Bを採用することにより、構成Cを導き出すことが、上記刊行物1乃至3に記載された事項から、当業者が、容易に想起し得たものということができない。

(3-3)したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明は、刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、他に、本件発明について、特許を受けることができないとする理由が見いだせない。
よって、本件発明、すなわち、本件訂正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、本件訂正は、特許法第126条第4項の規定に適合する。

4.むすび

以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書、第2項乃至第4項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
チップ状電子部品用キャリアテープ台紙
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみを用い、硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加したものであって、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性近辺までの範囲であり、全塩素含有量が200ppm以下であり、水溶性塩化物含有量が50ppm以下であり、該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、且つ、該多層板紙の加速負荷回が200回以上であることを特徴とするチップ状電子部品用キャリアテープ台紙。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は電子機器のプリント回路板に用いるチップ状電子部品のキャリア用に用いるチップ状電子部品収納台紙(以下キャリアテープ台紙という)に関する。
【0002】
【従来の技術】 各種の電子機器の自動生産化を図るために、回路基板に対してチップ状電子部品の自動装着がなされるようになってきた。このチップ状電子部品の自動装着の工程での電子部品の取り扱いを容易に行い得るように、個々のチップ状電子部品をテープ状の搬送体で包装したテーピング包装体が利用されており、テーピング包装体の形態で順次送り出されてくるチップ状電子部品を、自動的に所定の回路基板に装着させる自動装着が行われている。
【0003】 チップ状電子部品用キャリアテープ台紙には、プラスチック製のものと紙製のものとがあるが、製造コスト、テープの重量による取り扱い容易性、使用後の廃棄処理容易性、及び帯電防止性等の点において、紙製のキャリアテープ台紙の方が優れている。
【0004】 紙製のキャリアテープ台紙は、以下のような加工処理及び使用をして、キャリアとしての役割を持つ。(1)幅8mmにスリットする。(2)チップ状電子部品収納用の角穴(キャビティー)、及びキャリアテープ台紙の充填機内送り用の丸穴を開ける。(3)紙の裏面(ボトム側)にカバーテープを接着する。(4)チップ状電子部品を収納する。(5)紙の表面(トップ側)にカバーテープを接着する。(6)カセットリールに巻き付けて出荷する。(7)ユーザーにてトップ側カバーテープを剥がし、チップ状電子部品を取り出す。
【0005】 また紙製のキャリアテープ台紙は、テープ状の原紙にチップ状電子部品収納用の角穴(キャビティー)を形成し、角穴にチップ状電子部品を装填させるものであり、台紙の厚さ以上の嵩高の電子部品を装填することはできない。
【0006】 紙製のキャリアテープ台紙に求められる品質としては、以下のような特性があげられる。(1)カバーテープが良好に接着されたり、剥がれたりするように紙の表面に平滑性があること、(2)高速の自動機械で曲げ、しごきなどの力を受けても層間剥離、折れじわをおこさないこと、(3)紙に対する各種応力に耐え得る強度を有すること、(4)チップ状電子部品のキャリアテープに用いられる為、充填したチップ状電子部品に、静電気トラブル、金属腐食等の悪影響を及ぼさないこと、(5)紙テープでは打ち抜き加工の時に、穴内部に繊維のケバが残ると、部品が取り出しづらいというトラブルが起こることもあるのでパンチング適性を有すること、(6)チップ状電子部品の自動装着工程で送りのピッチがずれると、マシントラブルを起こすことなどから原材料の寸法安定性に優れていること、等の特性が要求される。
【0007】 上記(1)〜(3)の要求特性に対して、特開平10-59471号公報には過酷な使用条件下で処理を行ってもキャリアとして十分な強度を保持している多層抄き板紙キャリアテープ台紙について、特開平3-249300号公報には高速の自動機械で曲げ、しごきなどの力を受けても層間剥離、折れじわをおこさない多層抄き板紙について記載されている。いずれもこの種の紙において剥離強度が非常に重要であることが示されている。この課題を達成するために、前者では紙の重さ変動係数を特定値以上に高めること、すなわち地合をくずすことが提案されている。また後者ではZ軸強度、水分、縦方向テーバーこわさをある範囲に規定することが提案されている。前者においては地合の悪化を積極的に指向することにより、ある程度の剥離強度の向上が期待できるものの、使用に耐えうる強度を達成するには依然として紙力向上剤の使用や、紙力剤を層間にスプレーすることが必要である。さらに、重さ変動係数の増加により、厚さ変動の増加が付随して起こり、その結果、カバーテープを接着させる際に厚みが薄い部分にて密着力が不足して部分的に接着テープがはがれるという問題が発生しやすい。後者においてもまた、強度を高めるためには、通常の板紙に比べて多くの紙力向上剤を使用したり、紙力剤を層間にスプレーする方法等が併せて行われている。
【0008】 一方、使用するパルプの種類については、カバーテープと接触する表層については、平滑性、強度の観点から、晒クラフトパルプを使用することが好ましいとの記載はあるものの、表層以外については古紙パルプや機械パルプを使用しても良いとの記載があるように(特開平3-249300号公報)、従来あまり注目はされていなかった。
【0009】 次いでチップ状電子部品用キャリアテープ台紙の強度以外の必要特性としては上記(4)に示したように充填したチップ状電子部品に悪影響を及ぼさないことが重要である。静電気トラブルを防止するために、導電性を付与したキャリアテープ台紙が特開平9-188385号公報、特開平10-86993号公報に開示されているものの、チップ状電子部品用キャリアテープ台紙そのものに起因するチップへの悪影響、すなわち汚染や腐蝕についてはあまり注目はされていなかった。特開平9-188385号公報にはチップ状電子部品の錆防止のために気化性の防錆剤を紙層または接着剤層に含有させることの提案がなされているが、原因物質そのものを減らすことは考慮されておらず、気化性物質がチップへいかなる悪影響も与えないかどうかについては検証されていない。
【0010】 一方、近年のチップ状電子部品の使用量増加にともない、使用されるキャリアテープ台紙の使用量も増え、加工工程で発生する紙単独からなる廃棄物やテープが一体化された使用済みキャリアテープ廃棄物の処理が問題となっている。前者の廃棄物については製紙会社へ戻すことで再利用が可能であるが、後者の廃棄物については焼却して処分されているのが現状である。しかしながら、廃棄物の低温焼却時に発生する恐れのある有害物質については考慮されていないのが現状であった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、十分な剥離強度を有し、チップ収納用として酸性物質による金属腐食等のチップへの悪影響を可能なかぎり排除し、一度使用後においては焼却処分してもダイオキシン等有毒物質の発生の懸念が極めて少ないチップ状電子部品のキャリアテープ台紙を提供することにある。
【0012】 本発明の第二の目的は、腐食性の観点からチップ収納用として塩素成分による悪影響をより除いたチップ状電子部品のキャリアテープ台紙を提供することにある。
【0013】 本発明の第三の目的は、従来の漂白パルプを用いて製造したパルプに比べ同一叩解度でより強度の高い、チップ状電子部品のキャリアテープ台紙を提供することにある。
【0014】 本発明の第四の目的は、揮発性有機化合物のアウトガスの少ないチップ状電子部品のキャリアテープ台紙を提供することによって、被包装物の汚染の危険性を低減することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】 本発明者等は上記従来技術において、あまり着目されていなかったキャリアテープ台紙用原料構成に注目し、鋭意検討した結果上記課題がことごとく解決できることを見出した。すなわち本発明は、以下により構成される。
【0016】 本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、パルプが古紙パルプ又は機械パルプを含有しない、無塩素漂白化学パルプであるECF(Elementary Chlorine Free)漂白パルプのみを用い、硫酸バンドを無添加又は少量添加すると共に、紙力向上剤として両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを一種類以上を添加したものであって、該多層板紙のJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6.0から中性近辺までの範囲であり、全塩素含有量が200ppm以下であり、水溶性塩化物含有量が50ppm以下であり、該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、且つ、該多層板紙の加速負荷回が200回以上であることを特徴とする。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【発明の実施の形態】 以下本発明のキャリアテープ用紙について詳細に説明する。本発明では原料パルプとしては無塩素漂白化学パルプを用いる。ここでいう無塩素漂白化学パルプとは漂白工程において分子状塩素を使用ぜずに製造した化学パルプを意味する。通常、ECF、TCFと呼ばれるパルプを包含している。前者はElementary Chlorine Freeの略であり、分子状塩素(Cl2)を使用せずに、二酸化塩素(ClO2)を主体として漂白する方法の総称であり、後者はTotalChlorineFreeの略であり塩素系化合物を全く使用せず漂白する方法の総称である。いずれも、漂白工程にてダイオキシン等の有機塩素化合物の生成が著しく抑えられる。また漂白パルプ自体も塩素化合物の含有量が少なく、低温焼却されたとしてもダイオキシン等の有機塩素化合物生成の危険性は極めて低くなることから環境に配慮したパルプとして近年注目されている。これらのパルプ中の塩素含有量は、従来の塩素を使用して漂白されたパルプ中の全塩素含有量が400〜1000ppm程度存在するのに対して、200ppm以下程度まで抑えることができる。
【0021】 上記した3種の漂白工程の代表例を以下に示す。下記において、Cは塩素漂白、Hは次亜塩素酸ソーダ、Dは二酸化塩素漂白、Eはアルカリ抽出、Oは酸素、Pは過酸化水素、Zはオゾンを示し、(-)は中間洗浄段、nはアルカリ添加を示す。
[従来の漂白工程]C-E-H-D、C-(EO)-H-D、C-E-D-E-D、C-E-H-E-D[ECF漂白工程]D-E-D、D-(EO)-D、D-(EOP)-D、D-(EOP)-DnD、D-E-D□E-D、D-(EOP)-D-E-D、[TCF漂白工程]Z-E-P、Z-(EO)-P、(EOP)-(PO)
【0022】 TCF漂白パルプとECF漂白パルプとを比較すると、TCFの方が含有塩素化合物量を低く抑えることが可能であるが反面強度低下が大きく、本発明では剥離強度の観点からECF漂白パルプを使用する。ECF漂白の場合、通常の塩素を使用する漂白方法に比べ、繊維への化学的ダメージが少ない。従って、抄紙用原料として叩解して使用した場合、従来の漂白パルプを用いて製造したパルプに比べ同一叩解度でより強度の高い紙を得ることが可能になる。この点は本発明で無塩素漂白パルプであるECF漂白パルプを選択する大きな理由の一つである。
【0023】 より強度発現性の良いパルプを使用することで、内添で使用するカチオン澱粉やポリアクリルアマイド等紙力向上剤及びそれらを定着させるために使用する硫酸バンド等の低分子量カチオン化剤の使用量を減少させることが可能になる。硫酸バンドの使用量に比例して、生成する硫酸イオンの紙中残存量が増加することから、使用量は極力下げる必要がある。キャリアテープ台紙中に存在する硫酸イオンは塩素イオンとともにチップ状電子部品の腐蝕を起こす原因物質であることからこのことは重要な意味がある。硫酸イオンの量は紙の冷水抽出pHと密接な関係があり、腐蝕の観点からJIS P8133で規定される冷水抽出pHが6未満にならない範囲で、抄紙工程での硫酸バンドの使用量を制限する必要がある。
【0024】 無塩素漂白パルプの使用量は使用パルプの全量であることが好ましい。ECF漂白パルプを全量原料パルプとして使用し、他の塩素含有薬品を使用しない場合にはキャリアテープ台紙中の全塩素含有量は100〜200ppm程度になる。無塩素漂白パルプ以外のパルプは極力使用しないことが好ましい。特に、古紙を再生して得られる古紙パルプや木材を機械的に処理して得られる機械パルプは漂白工程で塩素を使用するかしないかを問わず、また多層抄き板紙の中層に使用するか表層に使用するかを問わず本発明では実質的には使用しない。これらパルプの第一の問題点は繊維自体が漂白化学パルプに比べて繊維間結合力が劣ることから紙層強度が弱く、それを補うために紙力向上剤の使用量が増えることにある。またこれらパルプの第二の問題点はアニオン性不純物の含有量が多く、紙力剤を繊維上に留めるためには硫酸バンドの使用量が増えることになる点にある。これら薬品類の使用量増加は前記したようにチップ状電子部品の腐蝕に悪影響を及ぼす紙中のイオン類を増加させることになる。古紙パルプの別な問題点は古紙自体の履歴が不明確であり、腐蝕性に関係する塩素イオンや硫酸イオンの紙中含有量が変動すること、また強度が変動すればそれにより抄紙時の薬品使用量が変動しやすい点にある。このことは、重要な特性のひとつである剥離強度を基準内に収めることができたとしても紙の抽出pHを変動させる原因になり、包装された電子部品の保管条件等で悪条件が重なった場合には電子部品を腐蝕させる危険性がある。さらに、古紙パルプや機械パルプは漂白化学パルプに比べ、印刷インキ成分や木材中に元々存在する抽出成分に由来する揮発性有機化合物の含有量が多い。これら揮発性有機化合物の電子部品への影響については明確になってはいないが、包装材としてガス状物質(アウトガス)の発生が少ないということはそれだけ被包装物の汚染の危険性が減ることであり、好ましい特性と考えられる。本発明においては、多層板紙から発生するアウトガス量は、多層板紙0.1gを不活性ガス気流中で40℃30分間加熱する条件にて、200ng/g以下である。
【0025】 腐蝕性の観点から好ましくない物質である水溶性塩化物含有量はできるだけ減らす必要があり、50ppm以下に制御することが望ましい。50ppmという数値は無塩素パルプを使用し、なおかつその他使用薬品からの塩素を極力避けた結果達成できるレベルである。本発明における水溶性塩化物量とは、JIS P8144で規定される抽出条件で紙より抽出し、イオンクロマトグラフで測定した紙1gあたりに換算した値である。無塩素漂白パルプの使用は水溶性塩化物の減少という点で不可欠であるが、キャリアテープ台紙中の水溶性塩化物含有量を50ppm以下に制御するためには、パルプ以外に起因する塩素化合物含有薬品の使用を避けるか、極力減らすといった方法を併用する必要がある。
【0026】 また、紙中の全塩素含有量も重要である。分解して水溶性塩化物になることも考えられ、また低温焼却時の有害有機塩素化合物の発生とも関連して200ppm以下に制御することが好ましいが、この数値を達成するには無塩素漂白パルプの使用が前提となる。
【0027】 カチオン性の紙力向上剤、例えばカチオン澱粉、カチオン性ポリアクリルアマイド等は紙力向上的には優れた薬品であるが、対イオンとして塩素イオンを著量含有しているものが多く、これらの薬品を使用すると添加量によっては無塩素パルプを使用したとしても、水溶性塩化物含有量を規定値以下に制御できなくなる場合がある。
【0028】 アニオン性の紙力向上剤の多くは塩素イオンを含まない点で有利であるが、繊維に定着させるためには硫酸バンド等のカチオン性の薬品が必要であり、その結果,紙の抽出pHを下げることになり不適である。紙力向上剤としては、塩素化合物を含まず、あるいは含有していても少量であり、繊維への定着が良好で紙力向上効果の優れた両性澱粉、両性ポリアクリルアマイドの使用が好ましい。
【0029】 化学パルプとしては通常BKPと呼ばれる広葉樹材、針葉樹材を原料とする漂白クラフト(硫酸塩)パルプを単独または混合して使用するが、強度が許容される範囲内で亜硫酸塩パルプ等を併用することもできる。
【0030】 上記パルプは叩解して使用され、叩解度は米坪で変化するが,カナダ標準濾水度(CSF)で350〜600mlの範囲が適している。叩解した原料には吸水性を制御するためのサイズ剤、紙力向上剤が添加されるが、必要最小量の添加とする。硫酸バンドは無添加が好ましいが冷水抽出pHが6未満とならない範囲内で少量添加しても良い。
【0031】 叩解パルプに薬品を添加した紙料は通常の多層可能な抄紙機を用いて抄紙される。抄紙機のワイヤパートとしては円網、長網、短網あるいはそれらを組み合わせた多層抄紙機が使用できるが、層の数は通常4〜6層の範囲内が好ましい。3層以下では層間強度的には良好であるが、地合不良となり易くカバーテープの均一な接着を阻害する恐れがある。一方7層以上では均一な地合形成という観点からは有利であるが、層の数が多いと層間での剥離が起こりやすく、それを避けるために紙力剤の層間スプレーが必要になる。層間スプレーを多用すると紙が硬くなり、また面内及び厚さ方向の強度不均一性の原因となりやすく、リールでの巻取り時及び高速の自動機械で曲げ、しごきなどの力を受けた際に部分的な折れじわが発生し易くなる。本発明では使用する原料パルプを特定し、繊維がもつ水素結合による繊維間結合力を最大限に発揮させること及び後記するサイズプレスを使用することで、曲げに対して悪影響のある層間スプレーを省くことができる。
【0032】 ワイヤパート、プレスパートを経て形成された多層抄き紙は通常のドライパートで乾燥されるが、ドライパートの中間に設置されるサイズプレス装置で澱粉を主体とする表面サイズ処理が行なわれる。表面サイズ処理を行うことで、カバーテープをはがす時に起こりやすい毛羽の発生を抑えることができる。
【0033】 通常の2ロールサイズプレスの他、ゲートロールサイズプレスやメタリングサイズプレスも使用できるが、表面強度、紙層強度向上効果とカバーテープの接着性の観点からは2ロールサイズプレスの使用が好ましい。
【0034】 表面サイズ処理用の澱粉としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉などが使用できる。その他の薬品としてポリビニルアルコール、ポリアクリルアマイド、樹脂ポリマーなどを添加しても良いが、塩素化合物を含有しない薬品を使用することが好ましい。通常澱粉単独かポリビニールアルコールを併用したサイズ液が好ましい。
【0035】 サイズプレスでの塗布量は、両面で乾燥固形分重量、0.5〜4g/m2、好ましくは1〜3g/m2である。キャリアテープ台紙の厚さは0.28〜1.43mmであり、充填されるチップの形状によって適宜厚みが選択される。米坪は特に限定されるものではないが通常230〜1200g/m2の範囲にある。キャリアテープ台紙の表層はテープと接着されるため、表面強度と適度な平滑性が必要である。表面強度はwax強度(TAPPI T459)として2A以上、平滑性はベック平滑度で5秒以上が好ましい。
【0036】
【実施例】 以下、本発明のチップ型電子部品収納台紙(キャリアテープ台紙)の具体的な構成を、実施例に基づいて説明する。本発明はこれら実施例によって制限を受けるものではない。なお特に断らない限り例中の配合%、添加%及び重量%は固形分換算での重量%を示す。また全ての例について抄造した紙は、JIS-P8111に準じて前処理を行った後、紙質試験を行った。実施例及び比較例の分析は下記の方法で行った。
【0037】 <冷水抽出pH>JIS P8133の冷水抽出法に準じて行った。
<紙中全塩素量>試料を燃焼試験装置により燃焼させ、発生するガスを活性炭に吸着後、塩素分析装置にて全塩素量を測定した。塩素分析装置は三菱化学製、TOX-10を用いた。
<紙中水溶性塩化物量>JIS P8144に準拠して得られた抽出液をイオンクロマト法で行った。装置はDIONEX製DX320を用いた。
<Z軸強度>JAPAN TAPPI No.18に準じて行った。
<加速負荷試験>エレクトロニクス実装技術(‘90 Vol.6、No.7 p51-56)に記載された装置、方法に準じて行った。試料の幅は8mmとし、試験装置にセットしスタート後CCDカメラで断面を観察し、剥離が発生した時点で装置を止め、そのときの回数を記録した。
<アウトガス発生量>試料0.1gを不活性ガス気流中で、40℃30分間加熱し、試料から発生したアウトガスを吸着剤で捕集濃縮した後、GC-MSで測定した。この値を本発明におけるアウトガス発生量とし、トルエン検量線によって相対評価した。
【0038】 (実施例1)混合広葉樹材の未漂白クラフトパルプを下記漂白シーケンス(ECF)で漂白し、白色度86%のLBKP、無塩素漂白化学パルプを製造した。
D-E(OP)-DnDここで、Dは二酸化塩素漂白、Eはアルカリ抽出、Oは酸素、Pは過酸化水素、(-)は中間洗浄段、nはアルカリ添加を示す。市販のECF漂白により製造されたNBKP(全塩素含有量120ppm)を前記パルプに20%配合して、リファイナーによりカナディアンスタンダードフリーネス500mlまで叩解して原料とした。ついで紙力向上剤として両性澱粉を対原料0.5%、合成サイズ剤を対原料0.1%添加し、目標紙厚0.75mmの板紙を5層抄きのマシンで各層の米坪が均等になるよう該紙料を分配して抄紙した。2本ロールサイズプレスにて濃度5%の酸化澱粉を両面で2g/m2となるように塗布し、乾燥後、本発明のキャリアテープ台紙を得た。これを実施例1とした。
【0039】 (実施例2)実施例1において、目標紙厚を0.95mmとした以外は、実施例1と同様にして本発明のキャリアテープ台紙を得て、実施例2とした。
【0040】 (実施例3)実施例2において、硫酸バンドを対原料0.05%添加した以外は、実施例2と同様にして本発明のキャリアテープ台紙を得て、実施例3とした。
【0041】 (実施例4)実施例2において、両性澱粉の代わりに両性ポリアクリルアマイド(両性PAM)を対原料0.2%添加した以外は、実施例2と同様にして本発明のキャリアテープ台紙を得たて、実施例4とした。
【0042】 (比較例1)実施例2において、無塩素漂白パルプのかわりに下記漂白シーケンスで漂白した塩素漂白パルプを製造し、使用した以外は、実施例2と同様にしてキャリアテープ台紙を得て、比較例1とした。
C-E(O)-H-DここでCは塩素漂白、Dは二酸化塩素漂白、Eはアルカリ抽出、Oは酸素、Hは次亜塩素酸ソーダ、(-)は中間洗浄段を示す。
【0043】 (比較例2)比較例1において、硫酸バンドを対原料0.3%添加した以外は、比較例1と同様にしてキャリアテープ用原紙台紙を得て比較例2とした。
【0044】 (比較例3)比較例2において、カチオン性ポリアクリルアマイド(カチオン性PAM)を対原料0.3%添加した以外は、比較例2と同様にしてキャリアテープ台紙を得て、比較例3とした。
【0045】 (比較例4)実施例2において、第1層及び第5層は実施例1の原料を用い、第2、3、4層は実施例1で製造した無塩素漂白パルプLBKP50%と市販のTMP(サーモメカニカルパルプ)50%を混合し、カナディアンフリーネス400mlまで叩解した原料を用いた以外は実施例2と同様にして本発明のキャリアテープ台紙を得て、比較例4とした。
【0046】 (比較例5)比較例4において、硫酸バンド0.3%、カチオン性ポリアクリルアマイド0.3%添加した以外は比較例4と同様にしてキャリアテープ台紙を得て比較例5とした。
【0047】 (比較例6)実施例2において、第1層及び第5層は実施例1の原料を用い、第2、3、4層は実施例1で製造した無塩素漂白パルプLBKP50%と新聞古紙再生パルプ50%を混合し、カナディアンフリーネス300mlまで叩解した原料を用いた以外は実施例2と同様にして本発明のキャリアテープ台紙を得て比較例6とした。
【0048】 (比較例7)比較例6において、硫酸バンド0.4%、カチオン性ポリアクリルアマイド0.4%添加した以外は比較例6と同様にしてキャリアテープ台紙を得て比較例7とした。
【0049】 以上の結果を表1、表2に示した。
【表1】

【表2】

【0050】 本発明に関わる実施例1〜4のキャリアテープ台紙は、従来の塩素漂白パルプを使用した比較例1〜3の紙に比べZ軸強度、加速負荷試験における耐剥離性が優れ、水溶性塩化物、全塩素量ともに少ない。漂白化学パルプ以外のパルプを中層に配合した比較例4〜7と比較すると、強度面、水溶性塩化物、全塩素量、アウトガス量すべての面で優れている。不足する強度を薬品で補うべく添加量を増やしても(比較例5,7)、本発明の強度には到達しないばかりか、冷水pHが低下し、塩素含有量の増加をきたす。
【0051】
【発明の効果】 本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、チップ状電子部品の運搬に用いるチップ状電子部品収納台紙において、前記台紙は多層板紙であり、該多層板紙の各層の繊維原料は、従来よりも強度が高く且つ、全塩素含有量が少ない無塩素漂白化学パルプであるECF漂白パルプのみを用いると共に、紙力向上剤として塩素含有化合物を含まず或いは含有していても少量である両性澱粉及び/又は両性ポリアクリルアマイドを選択し、かつ硫酸バンドを含めた該紙力向上剤の使用量を少なくして多層板紙を得ることで、該多層板紙の冷水抽出pHが6.0から中性近辺までの範囲であり、全塩素含有量が200ppm以下及び水溶性塩化物含有量が50ppm以下であり、更に古紙パルプや機械パルプなどを用いないで該多層板紙から発生するアウトガス量が200ng/g以下であり、且つ、加速負荷回が200回以上である、即ち、該板紙の品質の構成要件である水抽出pH、全塩素含有量、水溶性塩化物含有量、アウトガス及び加速負荷回の各要因を同時に全て満たす多層板紙とすることができ次のような特有の効果を奏する。
本件発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、比較例で示す従来のようにパルプ原料として塩素漂白化学パルプを使用したものあるいは板紙の中層に古紙パルプや機械パルプを配合したものと比較して、被包装物である電子部品の金属腐食等のチップへの悪影響をより低減することができると共に、比較例で示す従来のチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、定着させるための硫酸バンド及びカチオン性ポリアクリルアマイド(カチオン性PAM)を添加させることによってZ軸強度は向上するにもかかわらず、加速負荷回は190回以下で剥離するという結果であるのに比べ本件発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙はZ軸強度も良好で、加速負荷回が200回以上であるという高い実用的層間剥離強度を付与することができる。
また、廃棄物の焼却処理にあたっては、ダイオキシン等有機塩素化合物発生の危険性が少なくなり、環境にも配慮した製品を提供できる。
【0052】
【0053】 本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、従来の漂白パルプを用いて製造したパルプに比べ同一叩解度でより強度の高い、チップ状電子部品用キャリアテープ台紙を提供することができる
【0054】 本発明に係るチップ状電子部品用キャリアテープ台紙は、揮発性有機化合物のアウトガスの少ないチップ状電子部品用キャリアテープ台紙を提供することによって、被包装物の汚染の危険性を低減することができた。これにより、よりクリーンな包装材として電子部品の有機物汚染の危険性を減ずることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2004-03-26 
出願番号 特願2001-115726(P2001-115726)
審決分類 P 1 41・ 832- Y (B65D)
P 1 41・ 121- Y (B65D)
P 1 41・ 856- Y (B65D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 鈴木 公子
特許庁審判官 山崎 勝司
杉原 進
登録日 2002-03-22 
登録番号 特許第3289244号(P3289244)
発明の名称 チップ状電子部品用キャリアテープ台紙  
代理人 鴇田 將  
代理人 鴇田 將  

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