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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1097023
審判番号 不服2000-5850  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-04-24 
確定日 2004-05-10 
事件の表示 平成 8年特許願第518108号「不能症の治療用の二環式複素環式化合物」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年 6月 6日国際公開、WO96/16657、平成 9年12月22日国内公表、特表平 9-512835]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年10月16日に国際特許出願され(PCT/EP95/04065、優先権主張1994年、英国)、特許請求の範囲請求項1〜5に係る発明は、平成12年5月2日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認められる。なお、式中の記号の説明では記号中の添字も通常の文字で表記した。

【請求項1】 式(I)
【化1】

(式中、R1はメチルまたはエチルであり;
R2はエチルまたはn-プロピルであり;そして
R3およびR4は、それぞれ独立して、Hであるか、またはC1-C6アルキルであって、場合により、C5-C7シクロアルキルによって若しくはモルホリノによって置換される)
を有する化合物;
式(II)
【化2】

(式中、R1はC1-C6アルキルであり;
R2はH;メチルまたはエチルであり;そして
R3はC2-C4アルキルであり;
R4はH;C1-C4アルキルであって、場合により、NR5R6、CN、CONR5R6またはCO2R7によって置換される;C2-C4アルケニルであって、場合により、CN、CONR5R6またはCO2R7によって置換される;C2-C4アルカノイルであって、場合により、NR5R6によって置換される;SO2NR5R6;CONR5R6;CO2R7またはハロであり;
R5およびR6は、それぞれ独立して、HまたはC1-C4アルキルであり;またはそれらが結合している窒素原子と一緒になって、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、4-(NR8)-1-ピペラジニル基若しくは1-イミダゾリル基を形成し、ここにおいて、前記基は、場合により、1個または2個のC1-C4アルキル基によって置換され;
R7はHまたはC1-C4アルキルであり;そして
R8はH;C1-C3アルキルまたは(ヒドロキシ)C2-C3アルキルである)
を有する化合物;
式(III)
【化3】

(式中、R1はH;C1-C4アルキル;C1-C4アルコキシまたはCONR5R6であり;
R2はHまたはC1-C4アルキルであり;
R3はC2-C4アルキルであり;
R4はH;C2-C4アルカノイルであって、場合により、NR7R8によって置換される;(ヒドロキシ)C2-C4アルキルであって、場合により、NR7R8によって置換される;CH=CHCO2R9;CH=CHCONR7R8;CH2CH2CO2R9;CH2CH2CONR7R8;SO2NR7R8;SO2NH(CH2)nNR7R8またはイミダゾリルであり;
R5およびR6は、それぞれ独立して、HまたはC1-C4アルキルであり;
R7およびR8は、それぞれ独立して、HまたはC1-C4アルキルであり;またはそれらが結合している窒素原子と一緒になって、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基若しくは4-(NR10)-1-ピペラジニル基を形成し、ここにおいて、前記基はいずれも、場合により、CONR5R6によって置換され;
R9はHまたはC1-C4アルキルであり;
R10はH;C1-C3アルキルまたは(ヒドロキシ)C2-C3アルキルであり;そして
nは2、3または4であり;
但し、R1がH、C1-C4アルキルまたはC1-C4アルコキシである場合、R4はHではないという条件付きである)
を有する化合物;
式(IV)
【化4】

(式中、R1はC1-C4アルキルであり;
R2はC2-C4アルキルであり;
R3はHまたはSO2NR4R5であり;
R4およびR5は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基または4-(NR6)-1-ピペラジニル基を形成し;そして
R6はHまたはC1-C3アルキルである)
を有する化合物;または
式(V)
【化5】

(式中、R1はH;C1-C4アルキル;CNまたはCONR4R5であり;
R2はC2-C4アルキルであり;
R3はSO2NR6R7;NO2;NH2;NHCOR8;NHSO2R8またはN(SO2R8)2であり;
R4およびR5は、それぞれ独立して、HおよびC1-C4アルキルから選択され;
R6およびR7は、それぞれ独立して、HおよびC1-C4アルキルから選択され、場合により、CO2R9、OH、ピリジル、5-イソキサゾリン-3-オニル、モルホリノまたは1-イミダゾリジン-2-オニルによって置換され;またはそれらが結合している窒素原子と一緒になって、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、1-ピラゾリル基若しくは4-(NR10)-1-ピペラジニル基を形成し、ここにおいて、前記基はいずれも、場合により、C1-C4アルキル、CO2R9、NH2およびOHから選択される1個または2個の置換基によって置換されていてよく;
R8はC1-C4アルキルまたはピリジルであり;
R9はHまたはC1-C4アルキルであり;そして
R10はH;C1-C4アルキルまたは(ヒドロキシ)C2-C3アルキルである)
を有する化合物;または
それらの薬学的に許容しうる塩の少なくとも一種を有効成分として含有する、ヒトを含めた雄性動物における勃起機能不全の治療的または予防的処置用の薬剤組成物。

【請求項2】 R3がH;メチルまたはエチルであり;R4がC1-C6アルキルであり、場合により、シクロヘキシルによってまたはモルホリノによって置換され;そしてR1およびR2が、請求項1で前に定義された通りである式(I)を有する化合物;R1がN-プロピルであり;R2がHまたはメチルであり;R3がエチルまたはn-プロピルであり;R4がH;CONR5R6またはCO2R7によって置換されたエチル;CONR5R6またはCO2R7によって置換されたビニル;NR5R6によって置換されたアセチル;SO2NR5R6;CONR5R6;CO2R7またはブロモであり;R5およびR6が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、モルホリノ基、4-(NR8)-1-ピペラジニル基または2,4-ジメチル-1-イミダゾリル基を形成し;R7がHまたはt-ブチルであり;そしてR8がメチルまたは2-ヒドロキシエチルである式(II)を有する化合物;R1がH;メチル;メトキシまたはCONR5R6であり;R2がHまたはメチルであり;R3がエチルまたはn-プロピルであり;R4がH;アセチルであって、場合により、NR7R8によって置換される;NR7R8によって置換されたヒドロキシエチル;CH=CHCO2R9;CH=CHCONR7R8;CH2CH2CO2R9;SO2NR7R8;SO2NH(CH2)3NR7R8または1-イミダゾリルであり;R5およびR6が、それぞれ独立して、Hまたはエチルであり;R7およびR8が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、ピペリジノ基、4-カルバモイルピペリジノ基、モルホリノ基または4-(NR10)-1-ピペラジニル基を形成し;R9がHまたはt-ブチルであり;そしてR10がH;メチルまたは2-ヒドロキシエチルであり;但し、R1がH、メチルまたはメトキシである場合、R4はHではないという条件付きである式(III)を有する化合物;R1およびR2が、それぞれ独立して、エチルまたはn-プロピルであり;R4およびR5が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、4-(NR6)-1-ピペラジニル基を形成し;そしてR3およびR6が、請求項1で前に定義された通りである式(IV)を有する化合物;またはR1がH;n-プロピル;CNまたはCONH2であり;R2がエチルであり;R3がSO2NR6R7;NO2;NH2;NHCOCH(CH3)2;NHSO2CH(CH3)2;NHSO2(3-ピリジル)またはN[SO2(3-ピリジル)]2であり;R6がH;メチルまたは2-ヒドロキシエチルであり;R7が、メチルであって、場合により、2-ピリジルまたは5-イソキサゾリン-3-オニルによって置換されるか;またはエチルであって、OH、CO2CH2CH3、モルホリノまたは1-イミダゾリジン-2-オニルによって2-置換され;またはR6およびR7が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、(4-CO2R9)ピペリジノ基、5-アミノ-3-ヒドロキシ-1-ピラゾリル基または4-(NR10)-1-ピペラジニル基を形成し;R9がHまたはエチルであり;そしてR10がH;メチルまたは2-ヒドロキシエチルである式(V)を有する化合物、を有効成分として含有する請求項1に記載の薬剤組成物。

【請求項3】 R1がメチル;CONH2またはCONHCH2CH3であり;R2がHであり; R3がエチルまたはn-プロピルであり;R4がH;アセチル;1-ヒドロキシ-2-(NR7R8)エチル;CH=CHCO2C(CH3)3;CH=CHCONR7R8;SO2NR7R8または1-イミダゾリルであり;R7およびR8が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、4-(NR10)-1-ピペラジニル基を形成し;そしてR10がメチルまたは2-ヒドロキシエチルであり;但し、R1がメチルである場合、R4はHではないという条件付きである式(III)を有する化合物;R1がn-プロピルであり;R2がエチルであり;そしてR3が1-ピペラジニルスルホニルまたは4-メチル-1-ピペラジニルスルホニルである式(IV)を有する化合物;またはR1がn-プロピルまたはCNであり;R2がエチルであり;R3がSO2NR6R7;NHSO2CH(CH3)2;NHSO2(3-ピリジル)またはN[SO2(3-ピリジル)]2であり;R6がHまたはメチルであり;R7がメチル;またはCO2CH2CH3;モルホリノ若しくは1-イミダゾリジン-2-オニルによって2-置換されたエチルであり;またはR6およびR7が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、(4-CO2R9)ピペリジノ基若しくは4-(NR10)-1-ピペラジニル基を形成し;R9がHまたはエチルであり;そしてR10がH;メチルまたは2-ヒドロキシエチルである式(V)を有する化合物、を有効成分として含有する請求項2に記載の薬剤組成物。

【請求項4】 式(I)、(II)、(III)、(IV)または(V)を有する化合物が、
1-エチル-5-[5-(n-ヘキシルスルファモイル)-2-n-プロポキシフェニル]-3-メチル-1,6-ジヒドロ-7H-ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン-7-オン;
1-エチル-5-(5-ジエチルスルファモイル-2-n-プロポキシフェニル)-3-メチル-1,6-ジヒドロ-7H-ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン-7-オン;
5-[5-(N-シクロヘキシルメチル-N-メチルスルファモイル)-2-n-プロポキシフェニル]-1-エチル-3-メチル-1,6-ジヒドロ-7H-ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン-7-オン;
6-(5-ブロモ-2-n-プロポキシフェニル)-3-メチル-1-n-プロピル-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン;
3-メチル-6-(5-モルホリノスルホニル-2-n-プロポキシフェニル)-1-n-プロピル-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン;
6-[5-(2-カルボキシビニル)-2-n-プロポキシフェニル]-3-メチル-1-n-プロピル-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン;
6-[5-(2-t-ブトキシカルボニルビニル)-2-n-プロポキシフェニル]-3-メチル-1-n-プロピル-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン;
3-メチル-6-[5-(2-モルホリノカルボニルビニル)-2-n-プロポキシフェニル]-1-n-プロピル-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン;
3-メチル-6-[5-(2-モルホリノカルボニルエチル)-2-n-プロポキシフェニル]-1-n-プロピル-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン;
2-{2-エトキシ-5-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニルスルホニル]フェニル}-8-メチルキナゾリン-4-(3H)-オン;
2-{5-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニルスルホニル]-2-n-プロポキシフェニル}-8-メチルキナゾリン-4(3H)-オン;
8-メチル-2-{5-[2-(4-メチル-1-ピペラジニルカルボニル)エテニル]-2-n-プロポキシフェニル}キナゾリン-4(3H)-オン;
8-カルバモイル-2-{2-エトキシ-5-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニルスルホニル]フェニル}キナゾリン-4(3H)-オン;
8-エチルカルバモイル-2-(2-n-プロポキシフェニル)キナゾリン-4(3H)-オン;
2-[2-エトキシ-5-(4-エトキシカルボニルピペリジノスルホニル)フェニル]-8-n-プロピルピリド[3,2-d]ピリミジン-4(3H)-オン;
2-[5-(4-カルボキシピペリジノスルホニル)-2-エトキシフェニル]-8-n-プロピルピリド[3,2-d]ピリミジン-4(3H)-オン;
2-{2-エトキシ-5-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニルスルホニル]フェニル}-8-n-プロピルピリド[3,2-d]ピリミジン-4(3H)-オン;または
2-{2-エトキシ-5-[(ビス-3-ピリジルスルホニル)アミノ]フェニル}-8-n-プロピルピリド[3,2-d]ピリミジン-4(3H)-オン
を有効成分として含有する請求項2または請求項3に記載の薬剤組成物。

【請求項5】 式(I)、(II)、(III)、(IV)若しくは(V)を有する化合物またはその薬学的に許容しうる塩の有効量を、薬学的に許容しうる希釈剤または担体と一緒に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤組成物。

2.原査定の理由
これに対する原査定の拒絶の理由の概要は、「本願の発明の詳細な説明中には、請求項1〜5に記載される多数の化合物の中からどの化合物を選択して試験を行ない、どのような薬理データが得られたのかについては明確かつ十分に記載されておらず、ヒトを含めた雄性動物における勃起機能不全における治療的または予防的処置用の医薬に用いることができることについて、当業者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。よって、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているとは認められないので特許を受けることはできない。」というものである。

3.当審の判断
(1)請求項1及び請求項1を直接的又は間接的に引用している請求項2〜5に係る発明(以下、全体を「本願発明」ともいう。)は、各請求項に記載の化合物について、「ヒトを含めた雄性動物における勃起機能不全の治療または予防する」という薬理効果を専ら利用する医薬用途発明である。そして、上記化合物自体は、本願優先権主張日前に公知の化合物であるが、上記の具体的な薬理効果については知られていない。
一般に、化学物質自体が知られていても、それがどのような薬理効果を有するものであるかは、化学物質の構造から直ちに予測することが困難であり、その化学物質が特定の薬理効果を奏する医薬用途発明として有用性を有することを当業者が理解するためには、明細書において薬理データ又はそれと同視できる程度の記載によってその用途としての有用性が裏付けられている必要がある。特許請求の範囲に記載された医薬用途発明について、発明の詳細な説明中にこのような記載がなければ、その発明について当業者がその実施をすることができる程度に記載されているとは言えない。
そして、本願発明における医薬用途である上記の「ヒトを含めた雄性動物における勃起機能不全の治療または予防する」という薬理効果も、明細書薬理データ又はそれと同視できる程度の記載がなければ、当業者がその薬理効果を正しく理解できないものである。
そこで、本願明細書に本願発明に係る医薬用途としての有用性を当業者が理解できるように、薬理データ又はそれと同視できる程度の記載がされているか否かを以下に検討する。

(2)本願明細書の記載
a.本願明細書第2頁第4行〜第18行には、本願発明の化合物がcGMP PDEの強力な阻害剤であり、勃起機能不全の治療において有用であること、更に、この化合物は経口投与することができる旨記載されている。
b.同第10頁第15行〜20行には、「式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)を有する化合物およびそれらの薬学的に許容し得る塩、それらの製造法、それらのcGMP PDEおよびcAMP PDE阻害活性を測定するin vitro試験法、それらの薬剤組成物、並びにヒト用途の投与経路は、本願明細書中に援用されるWO-A-93/06104号、WO-A-93/07149号、WO-A-93/12095号、WO-A-94/00453号およびWO-A-94/05661号でそれぞれ記載されている。」と記載されている。
c.同第10頁第21行〜第12頁第10行には、ヒト海綿体のサイクリックヌレオチドPDEを単離し且つ特性決定するために行われた予備研究に関する記載がある。具体的には、ヒト陰茎から切り取った海綿体からPDEを溶離し、3つの異なる活性フラクションに分離したこと、第一のフラクションに存在する主要なPDEは、cGMPに対して基質として極めて選択的であり、このフラクションはカルシウム/カルモジュリンによる刺激に対して感受性でないことが分かり、PDEvと分類されたことが記載されている。
d.同第12頁第11〜15行には、「本発明の化合物は、in vitroで試験され、そしてcGMP特異的PDEvの強力で且つ選択的阻害剤であることが判った。したがって、海綿体組織の弛緩および結果として起こる陰茎勃起は、本発明の化合物のPDE阻害プロフィールによって、前記組織中のcGMP濃度が上昇することによって媒介されると考えられる。」と記載されている。
e.同第12頁第20行〜21行には「典型的なヒトに対する好ましい投薬計画は、5〜75mgの化合物を1日3回である。」と記載されている。

(3)式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の化合物(以下、本願化合物という。)は公知化合物であって、これらの化合物がcGMP PDEvの阻害剤であることも本願出願前に知られている(引用文献1〜5参照:平成10年9月14日付拒絶理由通知における引用文献、以下同じ)ことは、審判請求書の請求の理由4.2において、請求人も認めるとおりである。
また、陰茎平滑筋の弛緩及び勃起がcGMPに媒介されており、cGMP PDEの阻害剤によって勃起が生じることがあることも知られている(例えば、引用文献6参照)。
そうすると、一般にcGMP PDEの阻害剤には、勃起機能不全の治療剤としての潜在的可能性があることまでは、本願出願前に当業者に知られていたということができるが、一方、実際にある化合物が勃起機能不全の治療剤としての有用性を有するものであることを当業者が理解できるためには、明細書において薬理データ又はそれと同視できる程度の記載によってその用途としての有用性が裏付けられていることが必要である。
そこで、本願明細書の記載を検討すると、本願化合物が、本件発明の医薬用途である勃起機能不全の治療剤であるとする根拠は、単に、上記化合物がcGMP PDEvの阻害剤であることのみであって、極めて広範かつ多数の化合物を包含する本願化合物のいずれか1種の化合物についてさえ、本件医薬用途である勃起機能不全男性の陰茎勃起誘発に関する薬理試験が行われたことを窺わせる記載はなく、本願化合物によって勃起機能不全男性の陰茎勃起が誘発されることを裏付けるような薬理データ又はこれと同視できる程度の記載は見出せない。
結局、本願明細書には、本願化合物によって本願発明の具体的な医薬用途である勃起機能不全がどの程度治療されるのかについては、全く明らかにされていないというほかない。

(4)したがって、本願明細書は、本願発明の医薬用途についての薬理データ又はこれと同視できる程度の記載を欠いており、本願発明の医薬用途である「ヒトを含めた雄性動物における勃起機能不全の治療的または予防的処置用の薬剤」としての有用性を当業者が理解できないものであるから、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

なお、審判請求書の請求の理由(平成12年10月12日付け手続補正書)の4.3において、請求人は、引用文献1〜5に本願化合物と同一の化合物がPDEvに対する強力かつ選択的な阻害剤であることが記載され、本願明細書はヒト海綿体に存在するPDEvが存在することを開示しているから、本願明細書には、本願発明を当業者が容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載している旨主張している。
しかし、引用文献1〜5における記載を本願明細書の記載に代えることはできない(しかも、引用文献1〜5に記載されているのはcGMP PDEv阻害活性のデータであって、本願発明の医薬用途である「ヒトを含めた雄性動物における勃起機能不全」についてのデータではない。)ものである上、本願明細書で開示したとする「男性の海綿体組織中にはcGMP PDEvが存在する」という点も、本願優先日前に既に知られていたことである(J. Urology, 149(4),285A,(1993,April)参照)から、請求人の上記主張は到底採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-12-08 
結審通知日 2003-12-09 
審決日 2003-12-24 
出願番号 特願平8-518108
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 松浦 新司
深津 弘
発明の名称 不能症の治療用の二環式複素環式化合物  
代理人 村上 清  
代理人 小林 泰  
代理人 今井 庄亮  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 社本 一夫  
代理人 増井 忠弐  

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