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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1097052 |
審判番号 | 不服2002-1145 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-10-08 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-01-22 |
確定日 | 2004-05-10 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第 88881号「インクジェットプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月 8日出願公開、特開平 8-258369〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明の認定 本願は、平成7年3月22日の出願であって、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成13年12月5日提出の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載のとおりの次のものと認める。 「用紙の搬送方向と直交する方向に伸びるガイド軸と、このガイド軸に案内されて往復動するキャリッジと、このキャリッジに搭載され、前記用紙にノズルからインクを吐出して印字するノズル部を有するインクジェットヘッドとを備えたインクジェットプリンタにおいて、 前記キャリッジに回動可能に設けられ、前記インクジェットヘッドのノズル部と当接する偏心カムと、前記キャリッジに設けられ、前記偏心カムに向けて前記インクジェットヘッドを付勢する付勢部材とを備えたことを特徴とするインクジェットプリンタ。」 第2 当審の判断 1.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-220951号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜キの記載が図示とともにある。 ア.「キャリッジ走査軸に沿って駆動されるキャリッジと、上記キャリッジに支持されて、媒体駆動軸に沿って駆動される印刷媒体に印刷を行う複数のインクジェットノズルを備えるプリントヘッドカートリッジとを備えたスウォース型プリンタにおいて、上記プリントヘッドカートリッジの保持シューと、上記キャリッジへ上記保持シューを固定すると共に、垂直軸に沿って上記保持シューのノズルが移動するように、上記キャリッジに対する上記保持シューの移動を可能とする位置調整支持手段と、上記キャリッジに対して固定されたカム軸に関して回転し、その回転に従って接触した保持シューを上記キャリッジに対して移動可能にするカムと、上記カムに固定されたカムレバーと、上記カムレバーに選択的に接触し、上記キャリッジ走査軸に沿うキャリッジの移動に従って上記カムを回転させるよう上記カムレバーを動作させるアクチュエータと、からなることを特徴とするプリントヘッドカートリッジの位置調整機構。」(【請求項1】) イ.「【産業上の利用分野】本発明は、一般にスウォース(swath)形プリンタに関し、更に詳細には多重プリントヘッドスウォース形プリンタのプリントヘッドを垂直および水平に位置合せする装置および方法に関する。」(段落【0001】) ウ.「スウォースプリンタは、印刷媒体を横断して可動印刷カートリッジを1回だけ走査することにより複数のドット列を印刷できるラスタ形または行列形のプリンタである。スウォースプリンタの印刷カートリッジは、複数のドット列を印刷することができるよう互いに媒体の運動方向に設置される複数の印刷要素(たとえば、インクジェットノズル)を備えているのが普通である。」(段落【0002】) エ.「多重プリントヘッドカートリッジスウォースプリンタに伴う問題点は、プリントヘッドの機械的公差(たとえば、プリントヘッドカートリッジのプリントヘッドカートリッジに対する位置決めの不確かさ、およびカートリッジの挿入による変動の不確かさ)、およびプリントヘッドカートリッジ間の滴下速度の相違の結果としての印刷品位の低下であり、このような品位の低下は双方向印刷および一方向印刷の双方で発生し得る。プリントヘッドと印刷媒体との間の隙間の機械的公差も、一つまたは複数のプリントヘッドカートリッジを用いる双方向印刷では印刷品位の低下を生ずる。」(段落【0003】) オ.「本発明によれば、プリントヘッドカートリッジ間の媒体走査軸に沿う位置補正は、該媒体走査軸に沿う一方のプリントヘッドカートリッジのノズル列の位置に対して、他方のプリントヘッドカートリッジのノズル列の位置を調整することによって行われる。」(段落【0007】) カ.「第2の保持シュー92はカートリッジ51(審決注;「キャリッジ51」の誤記と認める。)に固定されており、一方第1のカートリッジ保持シュー91は、弾性的に変形可能なトーションバー状支持部材93によりカートリッジ51(審決注;「キャリッジ51」の誤記と認める。)に枢軸回転可能に固定されており、このトーションバー状支持部材93は、第1のプリントヘッドカートリッジC1のノズル板の平面近くで保持シュー91の下部後方部分にカートリッジ走査軸にほぼ平行に設置されている。実施例によれば、トーションバー状支持部材93は第1のカートリッジ保持シュー91の背面板95およびカートリッジ枠の一部と一体に形成されているので、第1の保持シュー91はトーションバー状支持部材93を通過する枢軸PAの周りを枢軸回転することができる。第1のカートリッジ保持シューの最上部は保持シューの背面板95と構造的に一体を成すカムフォロワーフランジ97を備えている。カムフォロワーフランジ97は、キャリッジの最上部と第1の保持シューの最上部の間に接続されている1対の保持ばね113により位置調節カム111に向って後方に片寄せられている。」(段落【0015】) キ.「調節カム111はキャリッジ51にあるピン115に回転可能に取付けられており、上方から見てカムの時計方向の回転を増すとカムピン115と保持シューフランジ97との間の距離が増大するように形成されている。・・・カムレバー117がカム止め119から離れるよう反時計方向に回転するにつれて、第1のカートリッジC1のノズル板101は枢軸PAの周りを下向きに回転するが、これにより第1のカートリッジのノズル板は、その印刷区域が媒体走査軸に沿って第2のカートリッジの印刷区域に一層近くなるよう補助される。」(段落【0016】) 2.引用例記載の発明の認定 記載ア〜キを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例にはスウォース型プリンタとして次の発明が記載されているものと認められる。 「キャリッジ走査軸に沿って駆動されるキャリッジと、前記キャリッジに支持されて、媒体駆動軸に沿って駆動される印刷媒体に印刷を行う複数のインクジェットノズルを備えるプリントヘッドカートリッジとを備えたスウォース型プリンタであって、 前記プリントヘッドカートリッジは保持シューに保持されるものであり、 前記キャリッジへ前記保持シューを前記プリントヘッドカートリッジのノズル板の平面近くでトーションバー状支持部材により前記キャリッジに枢軸回転可能に固定し、前記保持シューの最上部にはカムフォロワーフランジが設けられており、前記キャリッジには回転するように設けられた位置調節カムが設けられており、前記キャリッジの最上部と前記保持シューの最上部の間には1対の保持ばねが接続されており、前記カムフォロワーフランジは1対の保持ばねにより前記位置調節カムに向かうように片寄せられているスウォース型プリンタ。」(以下「引用例発明」という。) 3.本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定 本願発明の「ノズル部」との用語の意味は、必ずしもその用語自体から明らかではない。そこで本願明細書の発明の詳細な説明をみるに、「インクジェットヘッド60は、ノズル部61と、ケース部62とを有している。」(段落【0034】)及び「ケース部62にはインクカートリッジ63が収納される。」(段落【0036】)との各記載があり、これら記載によれば、インクカートリッジ収納部を除く部分が「ノズル部」であると解され、ノズルだけでなく、ノズルに至るまでのインク室やインク路も「ノズル部」に含まれると解さなければならない。そして、引用例発明の「プリントヘッドカートリッジ」は、ノズル及びノズルに至るまでのインク室やインク路からなる部分並びにそうでない部分をともに有することが明らかであるから、本願発明の「ノズル部を有するインクジェットヘッド」と異ならない。 したがって、引用例発明が本願発明の前提となる「用紙の搬送方向と直交する方向に伸びるガイド軸と、このガイド軸に案内されて往復動するキャリッジと、このキャリッジに搭載され、前記用紙にノズルからインクを吐出して印字するノズル部を有するインクジェットヘッドとを備えたインクジェットプリンタ」であることは明らかである。 引用例の記載キからみて、引用例発明の「位置調節カム」と本願発明の「偏心カム」には構造上の相違はなく、機能的には「インクジェットヘッド」の位置調整用部材である点で一致する。また、引用例発明の「1対の保持ばね」は、偏心カム(位置調節カム)と当接する部材を偏心カム(位置調節カム)方向に付勢する部材である点で、本願発明の「付勢部材」と一致する。 以上によれば、本願発明と引用例発明とは、 「用紙の搬送方向と直交する方向に伸びるガイド軸と、このガイド軸に案内されて往復動するキャリッジと、このキャリッジに搭載され、前記用紙にノズルからインクを吐出して印字するノズル部を有するインクジェットヘッドとを備えたインクジェットプリンタにおいて、 前記キャリッジに回動可能に設けられ、前記インクジェットヘッドの位置調整用偏心カムと、前記偏心カムと当接する部材を前記偏心カム方向に付勢する付勢部材とを備えたインクジェットプリンタ。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉偏心カムと当接する部材につき、本願発明が「インクジェットヘッドのノズル部」としているのに対し、引用例発明ではプリントヘッドカートリッジを保持する保持シューの最上部に設けられたカムフォロワーフランジとしている点。 〈相違点2〉付勢部材が、本願発明ではキャリッジに設けられているのに対し、引用例発明ではキャリッジの最上部と保持シューの最上部の間に接続されている点。 4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 (1)相違点1について 引用例発明は、媒体走査軸に沿うプリントヘッドカートリッジのノズル列の位置を調整することを目的として(記載オ参照。)、「前記キャリッジへ前記保持シューを前記プリントヘッドカートリッジのノズル板の平面近くでトーションバー状支持部材により前記キャリッジに枢軸回転可能に固定し、前記保持シューの最上部にはカムフォロワーフランジが設けられており、前記キャリッジには回転するように設けられた位置調節カムが設けられており、前記キャリッジの最上部と前記保持シューの最上部の間には1対の保持ばねが接続されており、前記カムフォロワーフランジは1対の保持ばねにより前記位置調節カムに向かうように片寄せられている」との構成を採用したものである。ところで、この引用例発明の構成によれば、位置調節カムの回動操作によって直接的に変位するのは、それと当接するカムフォロワーフランジであり、ノズル列はトーションバー状支持部材を枢動軸として回動するだけであり、その枢動軸とノズル列はほぼ同一平面であるから、ノズル列は回動することにより媒体走査軸に沿う位置が調整されるものの、その調整量はあまり大きくなく、しかもノズル列が傾くことが明らかである。プリントヘッドと印刷媒体との間の隙間の機械的公差が印刷品位低下の原因と記載されていること(記載エ参照。)をも考慮すると、このことは、引用例発明の上記目的からすれば、必ずしも好ましいといえないことも明らかである。 一般に、ある部材の特定の位置を並進させようとした場合、並進させるべき面からかなり離れた位置を回動軸として同部材を回動させれば、わずかの傾きはあっても、概ね前記特定の位置を並進させることができることは広く知られており、慣用技術となっているものである。そうであれば、引用例発明の目的をより達成し、かつプリントヘッドと印刷媒体との間の隙間変動を小さくするために、回動軸となっている「トーションバー状支持部材」の位置を変更することは、当業者であれば当然試みることといわなければならない。さらに、ノズル列の位置調整を行うに当たり、ノズル及びノズルに至るまでのインク室やインク路からなる部材に、位置調整部材を当接させることは周知である(例えば、特開平3-234534号公報、特開昭64-78845号公報又は特開昭57-100081号公報参照。)ことを考慮すれば、ノズル及びノズルに至るまでのインク室やインク路からなる部材と近接した位置にある「トーションバー状支持部材」の位置を「カムフォロワーフランジ」・「位置調節カム」の位置とすることも当業者であれば当然試みることといわなければならない。この場合、相違点1についての検討では不要であるが、「カムフォロワーフランジ」・「位置調節カム」の位置を新たな「トーションバー状支持部材」の位置とすることも検討対象に入るであろう。 その場合、相違点1に係る本願発明の構成とは、「ノズル部」に近い位置で偏心カム(位置調節カム)と当接部材が当接する点で一致することになるが、当接部材が「インクジェットヘッド」自体であるのか、それを保持する保持シュー(又はそこに設けられたカムフォロワーフランジ)であるのかの点は依然として相違点として残る。しかし、前掲各周知例にみられるように、インクジェットヘッド自体に位置調整部材を当接させることは周知であって(そのことは、本願明細書に従来技術として「キャリッジ1102に位置決め部1104および1105を設け、これら位置決め部に向けてバネ等の力Fによりヘッド1103を付勢し、一方の位置決め部1105とヘッド1103との間にはスペーサ1106を介在させ」(段落【0005】)と記載されていることからも明らかである。ここに記載の従来技術では、スペーサ1106が位置調整部材である。)、引用例発明のようにインクジェットヘッドを保持する保持シュー(又はそこに設けられたカムフォロワーフランジ)に当接させなければならないわけではない。当接対象をインクジェットヘッド自体とすることは設計変更程度といわなければならない。 以上のとおりであるから、相違点1に係る本願発明の構成をなすことは、周知慣用技術に基づいて当業者が容易に想到できたことである。 (2)相違点2について 引用例発明では、1対の保持ばねがキャリッジの最上部と保持シューの最上部の間に接続されているのであるが、「カムフォロワーフランジは1対の保持ばねにより前記位置調節カムに向かうように片寄せられている」こと、及び引用例の【図1】若しくは【図5】を参酌すると、1対の保持ばねは自然状態よりも伸びた状態にあり、ばねが縮もうとする復元力を利用して、カムフォロワーフランジ(又は保持シュー)を位置調節カム方向に付勢するものである。他方、ばねを自然状態よりも縮んだ状態にしておいて、ばねが伸びようとする復元力を用いて、ばねを設けた部材のばねと対向する位置に向けて別の部材を付勢することは、例えば電池ボックスと電池の関係にみられるようにありふれた周知技術である。このように、ばねが伸びようとする復元力を用いるのであれば、そのばねは当接すべき対象の両者に接続する必要はなく、そのうちの一方に設けることができる。相違点2に係る本願発明の構成とは、まさにばねが伸びようとする復元力を用いたことに起因する構成にすぎず、当然当業者にとって想到容易である。 (3)本願発明の進歩性の判断 相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成に至ることは当業者にとって想到容易であり、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用例発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができない以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-03-16 |
結審通知日 | 2004-03-17 |
審決日 | 2004-03-30 |
出願番号 | 特願平7-88881 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 湯本 照基 |
特許庁審判長 |
小沢 和英 |
特許庁審判官 |
中村 圭伸 津田 俊明 |
発明の名称 | インクジェットプリンタ |
代理人 | 佐渡 昇 |