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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1097196
審判番号 不服2000-12861  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-03-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-08-14 
確定日 2004-05-18 
事件の表示 平成10年特許願第192922号「表面粘着性および表面張力の小さい可撓性のある被覆材」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 3月16日出願公開、特開平11- 71549]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年7月8日(パリ条約による優先権主張1997年7月8日、フランス国)の出願であって、原審において、平成11年2月22日付けで拒絶理由が通知され、平成11年9月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成11年9月27日付けで再度拒絶理由が通知され、平成12年4月5日付けで意見書が提出され、平成12年4月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成12年8月14日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたもので、その請求項1〜5に係る発明は、平成11年9月1日付け手続補正書により補正された明細書からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものである。(以下、請求項1に係る発明を本願発明という。)
「【請求項1】 下記Aのモノマーと、Bの疎水性の(メタ)アクリルモノマーとからなるポリマーをベースとした表面被覆用組成物:
A.下記(a)〜(e)で構成される群の中から選択される少なくとも1種のモノマー60〜99.5重量%:
(a) 1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート、
(b) (メタ)アクリル酸
(c) アクリルアミドおよびその誘導体
(d) スチレンおよびその誘導体
B. 下記(f)または(g)から選択される少なくとも1種のモノマー0.5〜40重量%:
(f) 下記〔化1〕の一般式で表されるポリフルオロモノマー(B1):
【化1】


(ここで、R1は水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R2は1〜16個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖を有するパーフルオロアルキル基を表し、Xは炭素原子を介してOに結合した二価の鎖で、1つ以上の酸素、硫黄および/または窒素原子を含むことができる)
(g) 下記〔化2〕の一般式で表される(メタ)アクリルモノマー(B2):
【化2】


(ここで、R1は水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R3は8〜30個の炭素原子を有するアルキル基を表す)
ただし、Aとして8個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレートを用いた場合には、Bはポリフルオロモノマー(B1)を用いる。
【請求項2】 モノマー(A)が2―エチルへキシルアクリレートである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】 モノマー(B)が2―エチルパーフルオロオクチルアクリレートまたはベヘニルアクリレートである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】 得られた塗装膜が下記の特徴1)〜3)を同時に有する請求項1に記載の組成物
1) 破断点伸びが1000%以上、
2) 表面粘着性が95J/m2以下、
3) 水滴との接触角が90°以上、
【請求項5】 得られた塗装膜のガラス転移温度が約-40℃である請求項4に記載の組成物。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に国内において頒布された刊行物である特開平2-132101号公報(以下、「刊行物A」という。)及び特開昭54-43244号公報(以下、「刊行物B」という。)には以下の事項が記載されている。

(1)特開平2-132101号公報(刊行物A)
A.「1.含フッ素単量体単位を5〜95重量%含有する含フッ素樹脂からなる平均粒子径0.001〜0.2μの水性エマルション0.2〜80重量%(固形分)の存在下にビニル系単量体20〜99.8重量%をシード重合させることを特徴とする含フッ素樹脂水性分散体の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
B.「各種高分子物質のいわゆる乳濁液であるエマルションは溶媒として水を使用するため、溶剤型の製品に比べ環境や人体に対する安全性の面で有利であり、塗料、繊維加工剤、接着剤、紙加工剤等として現在広く使用されている。」(第1頁右下欄第6〜10行)
C.「含フッ素樹脂水性エマルション中の樹脂を構成する含フッ素単量体相当単位の含量は5〜95重量%であり、5重量%未満では含フッ素単量体濃度が低すぎて含フッ素単量体の特性の1つである撥水撥油性能が十分発揮されない。又95重量%を越えると続いて行うシード重合においてフッ素の強い撥油性能によりモノマーの可溶化がさまたげられシード重合が円滑に進行しない。この含フッ素単量体と共重合される単量体としてはラジカル重合可能な不飽和結合を有する単量体の何れでもよく、(メタ)アクリレートが一般に使用される。また含フッ素樹脂水性エマルションとビニル系単量体との混合比は、ビニル系単量体99.8〜20重量%に対して、含フッ素樹脂水性エマルションは0.2〜80重量%(固形分)である。含フッ素樹脂水性エマルションの使用量が0.2重量%未満では適度の重合速度と乳化分散安定性を保つことが難しく、又、80重量%を越えるとフッ素含量が多くなり経済的に不利である。本発明に使用される含フッ素樹脂水性エマルションは含フッ素モノマー単独又は他のモノマーとの混合物をフッ素化活性剤や水溶性有機溶剤共存下、公知の乳化重合法を用いて重合させて製造することができる。」(第2頁右下欄第1行〜第3頁左上欄第5行)
D.「本発明における含フッ素樹脂水性エマルションの製造に用いられる含フッ素単量体としては、フルオロカーボン基及びポリフルオロアルキル基やパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート、ビニルエステル、ビニルエーテルなどの公知の化合物を挙げることができる。これらの化合物の例としては、例えば、
CH2=CHCO2C2H4C6F13,CH2=CHCO2C2H4C8F17,CH2=CHCO2C2H4C10F21,CH2=C(CH3)CO2C2H4C6F13,CH2=C(CH3)CO2C2H4C8F17,CH2=C(CH3)CO2C2H4C10F21,・・・」(第3頁左下欄第5〜14行)
E.「本発明における含フッ素樹脂水性エマルションの製造に際しては含フッ素単量体以外にこれと共重合する単量体を併用してもよい、この種の単量体としてはイオン性単量体、(メタ)アクリレート、ビニルエステル、・・・などの公知の化合物を挙げることができる。これらの化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、・・・、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのメタクリル酸エステル類、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、1-ブチルスチレン、クロルスチレンなどのスチレン系モノマー・・・などのモノマーの他に、上記に示した単量体のマクロモノマーがある。」(第4頁左下欄第5行〜第5頁左上欄第15行)
F.「本発明に係わる含フッ素樹脂水性分散物は、上記の如き方法により得られる含フッ素樹脂水性エマルションの存在下に、ビニル系単量体をシード重合させることにより得られるが、本発明に用いられるビニル系単量体としては、(メタ)アクリレート、ビニルエステル、ビニルエーテルなどの公知の化合物を挙げることができる。これらの化合物の例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、・・・、アクリルアミド、・・・、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、・・・スチレンに代表される芳香族ビニル化合物、・・・等で代表される単量体の群から選択される一種以上の単量体が使用される。」(第6頁左下欄第1行〜第7頁左上欄第3行)
G.「本発明の方法により製造される含フッ素樹脂水性分散物は含フッ素単量体の特徴、即ち、耐熱性、耐候(光)性、耐薬品性、非粘着性及び離型性、撥水撥油性、低屈折率、低誘電率、低摩擦率、高気体透過性、低表面張力性等をいかす分野で有利に使用することが出来る。例えば、撥水撥油防汚加工用途、・・・、塗料・・・等の分野に利用でき、・・・、金属、・・・、コンクリート、・・・、ガラス、・・・プラスチックスなどに含浸させるか、或いはこれらの表面に塗布して乾燥することに依り利用することが出来る。」(第8頁左上欄第7行〜右上欄第6行)
H.「参考例7 ・・・反応器にメチルエチルケトン:イソプロピルアルコール=4:1混合物100部、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート12部、メチルメタクリレート28部、アクリル酸10部を仕込み、チッ素ガスを流し溶存酸素を除去する。反応器を80℃に加熱後、アゾビスイソブチロニトリル0.13部をメチルエチルケトン2部に溶解したものを加え重合を開始し、さらに滴下ロートより1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート15部、メチルメタクリレート35部のメチルエチルケトン:イソプロピルアルコール=4:1混合物100部溶液、及びアゾビスイソブチロニトリル0.07部のメチルエチルケトン10部溶液を3時間にわたって添加した。モノマーを添加終了後、アゾビスイソブチロニトリル0.2部をメチルエチルケトン3部に溶解したものう加え、更に2時間熟成を続け、均質な共重合体を得た。次にこの共重合体にトリエチルアミン14部を加え中和し、続いてイオン交換水300部を加えた後、減圧下50℃以下でメチルエチルケトン及びイソプロピルアルコールを留去し、固形分25%、粘度30cPの自己分散型含フッ素樹脂水性エマルションを得た。」(第9頁右下欄第16行〜第10頁右上欄第2行)
I.「実施例1 参考例1で得たウレタンエマルションの表5に記載された量を、窒素導入管、攪拌機、温度計を備えた反応器にとり、イオン交換水500部、スチレン/ブチルアクリレート=1/1混合物100部を加え、室温にて窒素置換した。次で液温度を30℃に調整後2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸塩(0.1部)水溶液(以下開始剤と略す。)を加え、反応器を70℃オイル浴に浸して重合を開始した。2時間後、開始剤(0.1部)水溶液を加え重合を続け、1時間重合後、冷却しモノマー臭の少ないエマルションを得た。」(第12頁右上欄下から第12行〜左下欄第1行)
J.「実施例16 表5に示したシードエマルション、開始剤を用い同表記載の時間重合を行う以外は実施例1に従い乳化重合を行った。得られたエマルションの物性についても同表にまとめて示す。」(第12頁右下欄第1〜5行)
K.「<撥水撥油性> ガラス板上にエマルションを塗布し、70℃で1晩乾燥して得た塗膜をエルマゴニオメータ式接触角測定器(G-I型)を用い接触角を測定した。なお、撥水性は蒸留水で測定し、撥油性はサラダ油で測定した。」(第13頁左上欄第17行〜右上欄第2行)
L.「表5


」(第13頁下欄;なお、実施例16に関する部分のみを示した。)

(2)特開昭54-43244号公報(刊行物B)
A.「1.金属表面に、一般式RfQCH2-(但し、式中のRfは炭素数4〜20のパーフルオロアルキル基、Qは-CnH2n-、・・・を示し、nは1〜5・・・を示す)で表わされる末端基を有する側鎖を持つ含フッ素重合体の塗膜または該含フッ素重合体を含有する塗膜を形成せしめることを特徴とする金属表面の防湿防錆方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
B.「本発明は、金属表面の防湿防錆方法に関し、更に詳しく言えば、特定のパーフルオロアルキル基含有側鎖を持つ含フッ素重合体の塗膜又は該含フッ素重合体を含有する塗膜を金属表面に形成せしめることからなる防湿防錆方法に関するものである。パーフルオロアルキル基は、その低表面エネルギーの故に、固体表面に種々の優れた性質、例えば撥水撥油性などを付与せしめ得る。かゝる性質を利用して、パーフルオロアルキル基含有側鎖を持つ含フッ素重合体が、繊維織物などの撥水撥油剤として採用されている。また、パーフルオロアルキル基含有の熱硬化性樹脂を、撥水撥油性、耐汚染性、耐候性の優れた硬化塗膜の形成材として使用することも提案されている。」(第2頁左上欄第13行〜右上欄第8行)
C.「本発明方法によれば、金属表面を撥水撥油性にすることができる・・・。本発明においては、・・・塗膜の撥水撥油性により、塗膜面に対する水の付着拡散を防止することができると共に、塗膜内にも特定含フッ素重合体が存在することから、塗膜内への水の拡散も防止され得る。・・・かくして、塗膜劣化が防止され、金属表面の保護効果が発揮される。・・・しかも、・・・非粘着性なども付与され得るものであり、金属表面の保護塗膜として極めて有利である。」(第2頁右下欄第9行〜第3頁左上欄第15行)
D.「本発明において、含フッ素重合体としては、一般式RfQCH2-で表される末端基を有する側鎖を持つことが重要である。Rfは炭素数4〜20のパーフルオロアルキル基を示し、・・・Qは-CnH2n-、・・・から選ばれる。特にQが-CnH2n-である場合が望ましい。nは1〜5・・・を表わす。RfとCH2の間にQが存在することにより、塗膜形成性、塗膜形成樹脂基質との相溶性、表面配向性、媒体への溶解性、表面張力低下能などが良好になると共に、塗膜の平滑性を向上せしめ得る。」(第3頁左上欄第16行〜右上欄第16行)
E.「前記の如き特定の側鎖を与えるビニルモノマーとしては種々のものが例示され得る。・・・具体的に例示するならば、CH2=CHCOOCH2CH2Rf、CH2=C(CH3)COOCH2CH2Rf、CH2=CHCOOCH2CH2CH2Rf、CH2=C(CH3)COOCH2CH2CH2Rf、・・・などがある。特に好ましくは、CH2=C(R)COOCH2CH2Rfなるアクリレート又はメタクリレートが例示され得る。」(第3頁右上欄第17行〜左下欄第15行)
F.「本発明における含フッ素重合体は、前記特定のパーフルオロアルキル基含有側鎖と共に芳香核含有側鎖又はシクロヘキシル環含有側鎖を持つのが特に好ましい。かゝる芳香核含有側鎖を与えるビニルモノマーとしては、種々のものが例示され得る。好適な具体例は、スチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン、・・・などである。」(第3頁左下欄第16行〜右下欄第10行)
G.「本発明における含フッ素重合体は、パーフルオロアルキル基含有側鎖を与えるビニルモノマーを適宜手段にて重合せしめることによって得られる。而して、本発明においては、前記のパーフルオロアルキル基含有側鎖を与えるビニルモノマーに、前記の芳香核含有側鎖又はシクロヘキシル環含有側鎖を与えるビニルモノマーを共重合させることが出来ると共に、これらの他に・・・、アクリル酸とその低級アルキルエステル、メタクリル酸とその低級アルキルエステル、アクリルアミド、・・・の如きパーフルオロアルキル基を含まない重合し得る化合物の一種又は二種以上を、共重合体の構成単位として共重合させることも可能である。これらのパーフルオロアルキル基を含まない重合し得る化合物を共重合させることによって、撥水撥油性、溶解性以外に、引張強度、表面硬度、屈曲抵抗、表面電気抵抗、金属基材との接着性などの種々の特性を適当に改善し得るものである。」(第4頁左上欄第2行〜右上欄第16行)
H.「本発明の含フッ素重合体を得るためには、原料の重合し得る化合物を、適当な有機溶剤に溶かし重合開始源(・・・)の作用により、溶液重合させる方法が通常採用される。・・・種々の重合反応の方式や条件が任意に選択でき、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、放射線重合など各種の重合方式も採用可能である。例えば重合しようとする化合物の混合物を陰イオン性、陽イオン性あるいは非イオン性の界面活性剤などの存在下に水に乳化させ攪拌下に共重合させる乳化重合方式などでも良い。この場合、重合開始源として、有機過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩の如き各種の重合開始剤、更にはγ-線の如き電離性放射線などが採用され得る。」(第4頁右上欄第17行〜左下欄第15行)
I.「本発明において、含フッ素重合体重量の3%以上がパーフルオロアルキル基のフッ素原子にもとづくものである様にパーフルオロアルキル基含有側鎖を与えるビニルモノマーが採用され・・・る。このためには、前記の如きパーフルオロアルキル基含有側鎖を与えるビニルモノマーの重合割合は、5重量%以上、好ましくは20重量%以上、特に30〜95重量%程度が適当である。また、芳香核又はシクロヘキシル環含有側鎖を与えるビニルモノマーを採用する場合には、10〜95重量%程度、好ましくは20〜80重量%が採用され得る。本発明においては、前記の如き含フッ素重合体の塗膜を金属表面に形成せしめる・・・」(第4頁左下欄第16行〜右下欄第11行)
J.「実施例1〜5及び比較例1〜2 下記第1表に示す各重合体を、メチルクロロホルムに溶解し、この溶液にアルミニウム板(JIS A-1100)を浸漬処理し、引き上げた後、70℃にて3分間乾燥処理した。得られた各アルミニウム板について、処理液濃度、接触角、耐塩水性を下記第1表にまとめて示した。
第1表


なお、第1表中、FAはCH2=CHCOOCH2CH2C8F17、・・・、MMAはメチルメタクリレート、BAはブチルアクリレート、・・・を夫々示す。」(第6頁左上欄第6行〜左下欄第4行;なお、第1表については、実施例2に関する部分のみを示した。)

3.対比・判断
(1)本願発明と刊行物Aに記載された発明との対比・判断
(ア)本願発明における「Aのモノマー」について
本願発明と刊行物Aに記載された発明とを対比すると、前者のAのモノマーのうち、(a)の「1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート」は、後者の「アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチルなどのメタクリル酸エステル類」(上記2.(1)E.)及び「アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル」(上記2.(1)F.)に対応する。
また、前者のAのモノマーのうち、(b)の「(メタ)アクリル酸」は、後者の「アクリル酸、メタクリル酸」(上記2.(1)E.及び上記2.(1)F.)に対応する。
また、前者のAのモノマーのうち、(c)の「アクリルアミドおよびその誘導体」は、後者の「アクリルアミド」(上記2.(1)F.)に対応する。
また、前者のAのモノマーのうち、(d)の「スチレンおよびその誘導体」は、後者の「スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、1-ブチルスチレン、クロルスチレンなどのスチレン系モノマー」(上記2.(1)E)及び「スチレンに代表される芳香族ビニル化合物」(上記2.(1)F.)に対応する。
そして、後者においては、前記各モノマーを列挙した上で、「本発明における含フッ素樹脂水性エマルションの製造に際しては含フッ素単量体以外にこれと共重合する単量体を併用してもよい」(上記2.(1)E)、「本発明に用いられるビニル系単量体としては、・・・等で代表される単量体の群から選択される一種以上の単量体が使用される。」(上記2.(1)F.)としているから、後者で用いられる単量体は、一種又はそれ以上選択されるものである。
さらに、後者は「含フッ素単量体単位を5〜95重量%含有する含フッ素樹脂からなる・・・水性エマルション0.2〜80重量%(固形分)の存在下にビニル系単量体20〜99.8重量%をシード重合させる」(上記2.(1)A)ものであるところ、換算すると、後者の含フッ素樹脂における、前者のAのモノマーに対応するモノマーの割合は、24〜99.99重量%に相当する。

次に、本願発明と刊行物Aの実施例16に記載されたものとを対比すると、前者のAのモノマーのうち、(a)の「1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート」は後者の「メチルメタクリレート」(上記2.(1)H.)及び「ブチルアクリレート」(上記2.(1)I.)に対応し、(b)の「(メタ)アクリル酸」は後者の「アクリル酸」(上記2.(1)H.)に対応し、(d)の「スチレンおよびその誘導体」は後者の「スチレン」(上記2.(1)I.)に対応する。
そして、刊行物Aの実施例16に記載されたものにおいては、前者のAのモノマーのうち、(a)、(b)、及び(d)の各モノマーに対応するものからなっている。
また、刊行物Aの実施例16に記載されたものにおいて、後者の含フッ素樹脂における、前者のAのモノマーに対応するモノマーの割合は約98重量%に相当する。

(イ)本願発明における「Bのモノマー」について
本願発明と刊行物Aに記載された発明を対比すると、前者のBのモノマーのうち、
「(f) 下記〔化1〕の一般式で表されるポリフルオロモノマー(B1):
【化1】


(ここで、R1は水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R2は1〜16個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖を有するパーフルオロアルキル基を表し、Xは炭素原子を介してOに結合した二価の鎖で、1つ以上の酸素、硫黄および/または窒素原子を含むことができる)」は、後者の「含フッ素単量体単位を5〜95重量%含有する含フッ素樹脂」(上記2.(1)A.)、及び「CH2=CHCO2C2H4C6F13,CH2=CHCO2C2H4C8F17,CH2=CHCO2C2H4C10F21,CH2=C(CH3)CO2C2H4C6F13,CH2=C(CH3)CO2C2H4C8F17,CH2=C(CH3)CO2C2H4C10F21」(上記2.(1)D.)に対応する。
そして、後者においては、「本発明における含フッ素樹脂水性エマルションの製造に用いられる含フッ素単量体としては、フルオロカーボン基及びポリフルオロアルキル基やパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート、ビニルエステル、ビニルエーテルなどの公知の化合物を挙げることができる。これらの化合物の例としては、例えば、CH2=CHCO2C2H4C6F13,CH2=CHCO2C2H4C8F17,CH2=CHCO2C2H4C10F21,CH2=C(CH3)CO2C2H4C6F13,CH2=C(CH3)CO2C2H4C8F17,CH2=C(CH3)CO2C2H4C10F21,・・・」(上記2.(1)D.)としているから、これらのうちの何れか1種のモノマーを含むものである。
さらに、後者は、特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、「含フッ素単量体単位を5〜95重量%含有する含フッ素樹脂からなる・・・水性エマルション0.2〜80重量%(固形分)の存在下にビニル系単量体20〜99.8重量%をシード重合させる」(上記2.(1)A)ものであるところ、換算すると、後者の含フッ素樹脂における、前者のBのモノマーに対応するモノマーの割合は、0.01〜76重量%に相当する。

次に、本願発明と、刊行物Aに記載された発明のうち、刊行物Aの実施例16に記載されたものについて対比すると、前者のBのモノマーのうち(f)のモノマーは、後者の「1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート」に対応する。
そして、刊行物Aの実施例16に記載されたものにおいては、前者のBのモノマーのうち、(f)のモノマー(1種)からなっている。
また、刊行物Aの実施例16に記載されたものにおいて、後者の含フッ素樹脂における、前者のBのモノマーに対応するモノマーの割合は約2重量%に相当する。

(ウ)本願発明における「下記Aのモノマーと、Bの疎水性の(メタ)アクリルモノマーとからなるポリマーをベースとした表面被覆用組成物」について
本願発明と刊行物Aに記載された発明を対比すると、本願発明の「Aのモノマー」と「Bの(メタ)アクリルモノマー」が刊行物Aに開示されていることは、上記(ア)及び(イ)で指摘したとおりである。
また、刊行物Aに記載された「1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート」は本願発明における「Bの(メタ)アクリルモノマー」と差異がないし、しかも、刊行物Aには含フッ素単量体が撥水撥油性を有する旨が記載されている(上記2.(1)C.及び2.(1)G.)から、刊行物Aに記載された「1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート」は「疎水性」を有するものである。
また、刊行物Aには、含フッ素単量体等を公知の乳化重合法を用いて重合させた(上記2.(1)C)後、含フッ素樹脂水性エマルションの存在下にビニル系単量体をシード重合させることにより得られる(上記2.(1)F)ことが記載されているから、「ポリマーをベース」とするものである。
さらに、刊行物Aの含フッ素樹脂水性分散物は、塗料等の分野に利用でき、金属、コンクリート、ガラス、プラスチックスなどに含浸させるか、あるいはこれらの表面に塗布して乾燥することにより利用することができるものである(上記2.(1)G.)から、「表面被覆用組成物」として用いられるものである。

次に、本願発明と、刊行物Aに記載された発明のうち、刊行物Aの実施例16に記載されたものについて対比すると、本願発明の「Aのモノマー」と「Bの(メタ)アクリルモノマー」が刊行物Aの実施例16に開示されていることは、上記(ア)及び(イ)で指摘したとおりである。
また、刊行物Aの実施例16における「1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート」は本願発明における「Bの(メタ)アクリルモノマー」と差異がないし、しかも、刊行物Aには含フッ素単量体が撥水撥油性を有する旨が記載されている(上記2.(1)C.及び2.(1)G.)から、刊行物Aに記載された「1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート」は「疎水性」を有するものである。
また、刊行物Aの実施例16では、均質な共重合体を得た後、更に重合を行ってエマルションを得ている(上記2.(1)H.、2.(1)I.及び2.(1)J.)から、「ポリマーをベース」とするものである。
さらに、刊行物Aの実施例16では、ガラス板上にエマルションを塗布して撥水撥油性を測定している(上記2.(1)K.)から、「表面被覆用組成物」として用いられるものである。

(エ)小括
したがって、本願発明は刊行物Aに記載された発明である。

(オ)審判請求人の主張について
審判請求人は、「引例4(特開平2-132101号公報)(注.刊行物Aに対応する。)には有機溶剤を用いて得られる水性エマルジョンが記載されているが、本発明のラテックスは有機溶剤を用いて得られたものではないので、特性が相違する。」と主張している。
しかしながら、本件出願の特許請求の範囲の請求項1には、有機溶剤を用いて得られたものでないことは規定されていないので、審判請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
しかも、有機溶剤を用いないで得られる水性エマルジョンが、有機溶剤を用いて得られるものと比較して格別顕著な技術的効果を奏することを、審判請求人が技術的に裏付けているわけでもない。
したがって、審判請求人の主張を考慮しても上記判断に変わりはない。

(カ)補正案について
審判請求人は請求項1の補正案を提出しているので、この補正案についても検討する。
審判請求人が提出した補正案は、(i)「(a) 1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート、」を「(a) メチルメタクリレート(MAM)、ブチルメタクリレートおよび2―エチルへキシルアクリレート(AE2H)で構成される群の中から選択されるモノマー」に補正し、(ii)「B. 下記(f)または(g)から選択される少なくとも1種のモノマー 0.5〜40重量%:」を「B. 下記〔化1〕の一般式で表されるポリフルオロモノマー(B1): 0.5〜40重量%:」する、即ち(g)を削除する補正事項を含むものである。
まず、上記(i)の点については、刊行物Aにはモノマーとして「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸ブチル」(以上、上記2.(1)F)及び「アクリル酸2-エチルヘキシル」(上記2.(1)E)が記載されているが、これらは、それぞれ、補正案の「メチルメタクリレート(MAM)」、「ブチルメタクリレート」、及び「2―エチルへキシルアクリレート(AE2H)」に対応する。
また、刊行物Aの実施例16に記載されたものについても、「メチルメタクリレート」(上記2.(1)H.)は補正案の「メチルメタクリレート(MAM)」に対応する。
そして、刊行物Aの実施例16における「ブチルアクリレート」(上記2.(1)I.)については、刊行物Aにはビニル単量体化合物の例として「・・・、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、・・・」(上記2.(1)F.)と、「ブチルアクリレート(アクリル酸ブチル)」と「ブチルメタクリレート(メタクリル酸ブチル)」とが隣り合わせで記載されていること、及び「ブチルアクリレート」と「ブチルメタクリレート」とは化学構造や化学的性質等が類似しており、両者は極めて関連性が高いこと、を考慮すると、刊行物Aの実施例16には「ブチルメタクリレート」についても実質的に開示されているに等しいものである。
(なお、上記(i)に関する以外のモノマーについては、先に(ア)〜(ウ)で指摘したとおりである。)
次に、上記(ii)の点については、(g)を削除しても、先に(ア)〜(ウ)で指摘した内容に変わりはない。
したがって、補正案の発明も、刊行物Aに記載された発明である。

(2)本願発明と刊行物Bに記載された発明との対比・判断
(ア)対比
以下、本願発明と刊行物Bの実施例2に記載されたものとを対比する。
刊行物Bの実施例2に記載された「FA(CH2=CHCOOCH2CH2C8F17)」、「MMA(メチルメタクリレート)」、「BA(ブチルアクリレート)」、「スチレン」は、それぞれ、本願発明の「(f) 下記〔化1〕の一般式で表されるポリフルオロモノマー(B1)」、「(a) 1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート」、「(a) 1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート」、「(d) スチレンおよびその誘導体」に対応する。
また、刊行物Bの実施例2では「FA-MMA-BA-スチレン」からなる重合体をメチルクロロホルムに溶解した溶液にアルミニウム板を浸漬処理し、引き上げた後、70℃にて3分間乾燥処理していることからみて、刊行物Bの実施例2に記載されたものでは「FA-MMA-BA-スチレン」からなる重合体を「表面被覆用組成物」として使用しているものと認められる。
そこで、本願発明と刊行物Bの実施例2に記載されたものとを対比すると、両者は、
「下記Aのモノマーと、Bの(メタ)アクリルモノマーとからなるポリマーをベースとした表面被覆用組成物:
A.下記(a)及び(d)で構成される群の中から選択されるモノマー:
(a) メチルメタクリレートおよびブチルアクリレート
(d) スチレン
B. 下記(f)から選択されるモノマー:
(f) CH2=CHCOOCH2CH2C8F17 」
である点で差異はなく、(i)Bの(メタ)アクリルモノマーについて、前者が「疎水性の」と規定するのに対し、後者には特に疎水性である点は記載されていない点、及び(ii)前者がAのモノマーを「60〜99.5重量%」、Bの疎水性の(メタ)アクリルモノマーを「0.5〜40重量%」と規定するのに対し、後者は、前者のAに対応するモノマーを「30重量%」、前者のBに対応するモノマーを「70重量%」用いている点、で相違している。

(イ)判断
上記の相違点について検討する。
上記(i)の点については、後者の実施例2で用いられているCH2=CHCOOCH2CH2C8F17は本願発明における「Bの(メタ)アクリルモノマー」と差異がないし、しかも、刊行物Bには「パーフルオロアルキル基は・・・撥水撥油性などを付与せしめ得る。」(上記2.(2)B.)ことが記載されているから、後者の実施例2で用いられているCH2=CHCOOCH2CH2C8F17は疎水性であると認められる。
したがって、上記(i)の点は実質的な相違点ではない。
次に、上記(ii)の点については、刊行物Bには、パーフルオロアルキル基含有側鎖を与えるビニルモノマーの重合割合について、芳香核含有側鎖を与えるビニルモノマーを採用する場合には、10〜95重量%程度が採用され得ることが記載されている(上記2.(2)I.)ので、後者において、前者のAに対応するモノマーを「60〜90重量%」、CH2=CHCOOCH2CH2C8F17を「10〜40重量%」、とすることは当業者が容易になし得ることである。
しかも、本願発明が前記相違点に基づき格別顕著な技術的効果を奏し得たものとも認められない。

(ウ)小括
したがって、本願発明は刊行物Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(エ)補正案について
審判請求人は請求項1の補正案を提出しているので、この補正案についても検討する。
補正案は、(i)「(a) 1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート、」を「(a) メチルメタクリレート(MAM)、ブチルメタクリレートおよび2―エチルへキシルアクリレート(AE2H)で構成される群の中から選択されるモノマー」に補正し、(ii)「B. 下記(f)または(g)から選択される少なくとも1種のモノマー 0.5〜40重量%:」を「B. 下記〔化1〕の一般式で表されるポリフルオロモノマー(B1): 0.5〜40重量%:」する、即ち(g)を削除する補正事項を包含するものである。
まず、上記(i)の点については、刊行物Bの実施例2に記載された「メチルメタクリレート」(上記2.(1)J)は補正案の「メチルメタクリレート(MAM)」に対応する。
そして、刊行物Bの実施例2に記載されている「ブチルアクリレート」については、刊行物Bには、パーフルオロアルキル基を含まない重合し得る化合物の例として「・・・アクリル酸とその低級アルキルエステル、メタクリル酸とその低級アルキルエステル・・・」(上記2.(2)G.)と、アクリル酸の低級アルキルエステル(注.ブチルアクリレートが包含される。)とメタクリル酸の低級アルキルエステル(注.ブチルメタクリレートが包含される。)とが隣り合わせで記載されていること、及び「ブチルアクリレート」と「ブチルメタクリレート」とは化学構造や化学的性質等が類似しており、両者は極めて関連性が高いこと、を考慮すると、刊行物Bの実施例2には「ブチルメタクリレート」についても実質的に開示されているに等しいものであるし、また、「ブチルアクリレート」に代えて「ブチルメタクリレート」を用いることは当業者が容易になし得ることである。
しかも、補正案の発明が、「ブチルアクリレート」に代えて「ブチルメタクリレート」を用いることに基づき格別顕著な技術的効果を奏し得たものとも認められない。
(なお、上記(i)に関する以外のモノマーについては、先に(ア)、(イ)で指摘したとおりである。)
次に、上記(ii)の点については、(g)を削除しても、先に(ア)、(イ)で指摘した内容に変わりはない。
したがって、補正案の発明も、刊行物Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、その余の請求項に記載された発明について検討するまでもなく、本願発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができず、また、本願発明は、刊行物Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-11-26 
結審通知日 2003-12-02 
審決日 2003-12-16 
出願番号 特願平10-192922
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 113- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川上 美秀近藤 政克  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 唐木 以知良
後藤 圭次
発明の名称 表面粘着性および表面張力の小さい可撓性のある被覆材  
代理人 越場 隆  
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