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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1097248
審判番号 不服2001-8107  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-05-16 
確定日 2004-05-20 
事件の表示 平成 5年特許願第118525号「エレベータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年11月29日出願公開、特開平 6-329352〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、
(1)平成5年5月20日の出願であって、平成13年4月6日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成13年4月17日)、
(2)それに対し、平成13年5月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされた、
ものである。

II.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成11年3月1日、平成13年3月19日、及び平成13年6月13日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータ運行の予測を行なうエレベータ装置において、前記記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータのホール呼びの発生時刻を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いてホール呼び発生予定階にかごを先行配置するかご配置手段とを設けたことを特徴とするエレベータ装置。」

III.刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である昭和61年6月18日に頒布された「特開昭61-130188号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、
・「本発明はエレベータの群管理に利用するのに好適な交通需要の予測方法に関するもので、特に各階における乗場呼び発生頻度の予測方法に関するものである。」(1頁下左欄13〜16行)
・「本発明は、或る階へのかご呼びによる到着頻度とその後のその階での乗場呼び発生頻度との相関関係(ビルへの出入口階は別として、例えば5階で乗場呼びが生じた場合、その前に必ず他の階から5階へのかご呼びが存在したはずであり、両者の発生頻度には密接な関係がある。)に着目したもので、過去の平均的なかご呼び発生頻度と現在のかご呼び発生頻度との比率から今後の乗場呼び発生頻度を予側する点に大きな特徴を有する。」(1頁下右欄19行〜2頁上左欄8行)
・「このように本発明によれば、過去の所定時間帯における平均かご呼び発生数と、同一時間帯における現在のかご呼び発生数との比率を、過去の平均乗場呼び発生数に乗じることによつて、現在或いは今後の乗場呼び発生頻度を予測するようにしたので、例えば或る日のビルの利用状況が何らかの理由で通常と異なる場合であつても、精度の高い予測を行なうことができ、しかもかご呼びの状況を検出した時点で予測を行うので、従来の学習による予測のような遅れを生じることもない。 こうして各階における乗場呼びの発生頻度が予測されると、今度はその値に基づいて、各エレベータの運転モードを切り換えたり、或いは特定階を優先的にサービスしたり、運転台数を変更したり、評価値の演算に組み込んだりして、より一層効率のよい運転を行うことができる。」(3頁上右欄1〜17行)
・「その他表4の乗場呼び発生頻度或いはそれに基づく乗場呼びの発生確率の利用の仕方には種々の方法が考えられる。 以上のように本発明によれば、乗場呼び発生頻度をより早くしかも精度よく得られるので、特にエレベータの群管理に利用すれば大きな効果を発揮することができる。 なお、以上の説明において、呼びの発生頻度を1時間を単位として求めているが、勿論これに限られるものではなく、その他過去の平均呼び発生数は各曜日毎に異なつた値を用いるようにしてもよい。」(4頁上左欄1〜13行)
と記載されている。
上記各記載、並びに第1図及び第2図の記載からみて、刊行物1には、
記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータ運行の予測を行なうエレベータ装置において、前記記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータの乗場呼びの発生頻度を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いてかごを配置するかご配置手段とを設けたエレベータ装置。
が記載されていると認められる。
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である昭和59年8月9日に頒布された「特開昭59-138580号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、
・「本発明はエレベーターの群管理制御装置に係り、特にサービス性を向上できる分散待機を行わせるのに好適な群管理制御装置に関するものである。」(1頁下右欄14〜16行)
・「本発明の特徴は、ビル内交通量の収集,記憶手段は、各階床別に乗り降りする人数を収集,記憶するように構成し、この収集,記憶手段に記憶された階床別交通需要に応じてエレベーターを待機させる待期階床を演算する待期階床演算手段および当該待機階床に待機させる待機エレベーターの台数を演算する待機台数演算手段とを具備させ、この2つの演算手段での演算結果にもとづいて上記エレベーターを分散待期させる構成とした点にある。」(なお、平成1年7月19日に発行された、平成1年3月31日付け手続補正書では「待期」(3箇所)は「待機」に訂正されている。)(2頁上右欄1〜10行)
・「ホール呼び装置HDからの呼び信号HCが並列入出力回路PIAを介して入力され」(2頁下左欄9〜10行)
・「ステツプA20からA40ではループ処理を行うが、指定された待機階床に指定台数のエレベーターが待機するまで繰り返す。ステツプA30で待機階床への各エレベーターの到着予測時間を演算し、ステツプA40で到着予測時間の最小のエレベーターを選択する。そして、もし、ステツプA20で待機階床に指定台数のエレベーターが待機していると判断したときは、このプログラムを終了する。」(4頁上右欄20行〜同頁下左欄8行)
・「シミユレーシヨン用データ演算プログラムSF22は、周期起動され、シミユレーシヨン用データをオンライン計測したデータと過去のデータとを適当な結合変数γを加味して予測演算している。」(5頁上右欄9〜12行)
・「そして、このプログラムで演算された予測データをもとにしてシミユレーシヨン実行プログラムSF35を起動させる。」(5頁下左欄3〜5行)
・「第11図は第4図の混雑階待機演算プログラムSF37の一実施例を示すフローチヤートである。ステツプD5で乗り込み人数Ssi,乗りかご定員Ca,所定係数α,時間Ti等を設定し、ステツプD10で交通需要は5秒前と同一か否かを判定し、もし、“YES”であれば、このプログラムを終了する。もし、“NO”であれば、次の交通需要Sをセツトし(ステツプD20)、方向j別,階床i別,号機k別にステツプD60,D70で図示のような演算を行い、その結果を第4図の混雑階テーブルSF38に収集する。すなわち、ステツプD60ではサービスエレベーター台数nmを演算し、ステツプD70ではテーブルTRの内容とステツプD60で求めたサービスエレベーター台数nmを乗算して待機台数niを決定する。以上の処理を行い、これらの値を運転制御プログラムSF14で使用する。 上記した本発明の実施例によれば、シミユレーシヨン系ソフトウエアSF2を設けて、少なくとも各階床別に乗りまたは降り人数を収集,記憶し、この記憶された階床別,方向別交通需要に応じて待機階床を決定し、かつ、待機エレベーター台数を決定して分散待機させるようにしたので、サービス性のよい群管理制御が可能になる。 なお、上記した実施例では、過去のデータ、特に階床別,方向別の乗り込み人数に応じて待機階床,待機台数を決定するようにしたが」(5頁下右欄7行〜6頁上左欄13行)
と記載されている。
上記各記載、及び第1図ないし第11図の記載からみて、刊行物2には、
「シミユレーシヨン用データ演算プログラムSF22は、周期起動され、シミユレーシヨン用データをオンライン計測したデータと過去のデータとを適当な結合変数γを加味して予測演算している」(5頁上右欄9〜12行)こと、「このプログラムで演算された予測データをもとにしてシミユレーシヨン実行プログラムSF35を起動させる」(5頁下左欄3〜5行)こと、及び「上記した実施例では、過去のデータ、特に階床別,方向別の乗り込み人数に応じて待機階床,待機台数を決定するようにした」(6頁上左欄11〜13行)こと
「この収集,記憶手段に記憶された階床別交通需要に応じてエレベーターを待機させる待期階床を演算する待期階床演算手段」(2頁上右欄3〜5行)、及び「シミユレーシヨン用データ演算プログラムSF22は、周期起動され、シミユレーシヨン用データをオンライン計測したデータと過去のデータとを適当な結合変数γを加味して予測演算している」(5頁上右欄9〜12行)こと
並びに
「この収集,記憶手段に記憶された階床別交通需要に応じてエレベーターを待機させる待期階床を演算する待期階床演算手段および当該待機階床に待機させる待機エレベータの台数を演算する待機台数演算手段とを具備させ、この2つの演算手段での演算結果にもとづいて上記エレベーターを分散待期させる構成とした」(2頁上右欄3〜9行)こと、及び「シミユレーシヨン用データ演算プログラムSF22は、周期起動され、シミユレーシヨン用データをオンライン計測したデータと過去のデータとを適当な結合変数γを加味して予測演算している」(5頁上右欄9〜12行)こと
が記載されているものと認められる。

IV.対比判断
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「乗場呼び」は、本願発明の「ホール呼び」に相当するので、両者は、
記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータ運行の予測を行なうエレベータ装置において、前記記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータのホール呼びの発生を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いてかごを配置するかご配置手段とを設けたエレベータ装置。
の点で一致し、
本願発明では、ホール呼びの発生時刻を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いてホール呼び発生予定階にかごを先行配置するかご配置手段とを設けたのに対して、刊行物1に記載された発明では、ホール呼びの発生頻度を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いてかごを配置するかご配置手段とを設けた点、
で相違する。
相違点について検討する。
刊行物1には、更に、「同様に、例えば発生頻度が10回/1時間 すなわち平均発生間隔が6分の場合は、呼びの未発生時間が3分以上になると発生確率が0.5以上となり、呼びが発生するものと予測するのである。」(3頁下右欄10〜14行)と、発生頻度(確率)と発生時刻についての関連も記載されており、そこで例示されていることに沿っていえば、発生頻度が10回/1時間である場合には、呼びが発生するものと予測するのは、呼びの未発生時間が3分以上になるときであることが指摘されていることになる。
この場合、i)ホール呼びの発生頻度がより高い階と予測されるのはホール呼びの発生時刻がより前である階と予測されることも示唆されていることになる。
そして、ii)予測した予測結果を用いてかごを配置する場合には、(例えば、刊行物1には「或いは特定階を優先的にサービスしたり」(3頁上右欄14〜15行)と記載されているのであるが、優先的に配置する場合には)予測した予測結果である発生頻度を用いて(発生頻度がより高い予定階の順に応じて優先的に)かごを配置することは、予測した予測結果である発生時刻を用いて(発生時期がより前である予定階の順に応じて優先的に)かごを配置することになることも示唆されていることになる。なお、本願発明では、「予測した予測結果を用いてホール呼び発生予定階にかごを先行配置する」と記載されているのみで、例えば、「優先的にサービス」することも含め、どのような順序で、どのような周期で、何時、ホール呼び発生予定階にかごを配置するのかの限定はなされていない。
すなわち、発生頻度を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いることは、発生時刻を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いることに対応していることも示唆していることになる。
しかも、記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータ運行の予測を行なうエレベータ装置において、発生時刻を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いてかごを配置するかご配置手段とを設けたことは、周知事項である(必要なら、特開昭59-153770号公報〈2頁下右欄18行〜3頁上左欄5行等〉等参照。)。
一方、刊行物2には、「シミユレーシヨン用データ演算プログラムSF22は、周期起動され、シミユレーシヨン用データをオンライン計測したデータと過去のデータとを適当な結合変数γを加味して予測演算している」(5頁上右欄9〜12行)こと、「このプログラムで演算された予測データをもとにしてシミユレーシヨン実行プログラムSF35を起動させる」(5頁下左欄3〜5行)こと、及び「上記した実施例では、過去のデータ、特に階床別,方向別の乗り込み人数に応じて待機階床,待機台数を決定するようにした」(6頁上左欄11〜13行)こと、が記載されていると認められので、「記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータ運行の予測を行なうエレベータ装置において」ということが記載されていると認められ、
「この収集,記憶手段に記憶された階床別交通需要に応じてエレベーターを待機させる待期階床を演算する待期階床演算手段」(2頁上右欄3〜5行)、及び「シミユレーシヨン用データ演算プログラムSF22は、周期起動され、シミユレーシヨン用データをオンライン計測したデータと過去のデータとを適当な結合変数γを加味して予測演算している」(5頁上右欄9〜12行)こと、が記載されていると認められので、「予測する予測手段」ということが記載されていると認められ、
「この収集,記憶手段に記憶された階床別交通需要に応じてエレベーターを待機させる待期階床を演算する待期階床演算手段および当該待機階床に待機させる待機エレベータの台数を演算する待機台数演算手段とを具備させ、この2つの演算手段での演算結果に基づいて上記エレベーターを分散待機させる構成とした」(2頁上右欄3〜9行)こと、及び「シミユレーシヨン用データ演算プログラムSF22は、周期起動され、シミユレーシヨン用データをオンライン計測したデータと過去のデータとを適当な結合変数γを加味して予測演算している」(5頁上右欄9〜12行)こと、が記載されていると認められので、「前記予測手段によって予測した予測結果を用いて需要発生予定階にかごを先行配置するかご配置手段とを設けた」ということ、が記載されていると認められ、
結局、刊行物2には、「記憶されている過去の交通情報を用いてエレベータ運行の予測を行なうエレベータ装置において、予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いて需要発生予定階にかごを先行配置するかご配置手段とを設けたエレベータ装置」が記載されていると認められる。
そして、ホール呼び装置が設けられる場合には、乗り込み人数に関しては、需要発生予定階とは、ホール呼び発生予定階でもあることは明らかである。
そうすると、刊行物1に記載された発明において、刊行物1及び刊行物2に記載された上記の点並びに周知事項を勘案して、ホール呼びの発生時刻を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測した予測結果を用いてホール呼び発生予定階にかごを先行配置するかご配置手段とを設けたこと、とすることは当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに周知事項から当業者であれば予測できる程度のものである。

V.むすび
したがって 本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-16 
結審通知日 2004-03-23 
審決日 2004-04-05 
出願番号 特願平5-118525
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 鈴木 充
亀井 孝志
発明の名称 エレベータ装置  
代理人 武 顕次郎  

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