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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C08G |
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管理番号 | 1097898 |
異議申立番号 | 異議2002-71723 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-06-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-07-09 |
確定日 | 2004-03-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3247368号「電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3247368号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本件特許第3247368号の発明は、平成2年11月7日に特許出願され平成13年11月2日にその特許の設定登録がなされたものであり、その後、荒井 純子より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、平成15年1月6日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。 [2]訂正の適否についての判断 [訂正の内容] 訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。 訂正事項1: 特許請求の範囲の請求項1〜3の「【請求項1】主たる成分として(A)構造式が で示されるエポキシ樹脂および(B)骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物(但し、構造式が (Iは0〜5の整数)で示される化合物を除く)および(C)60体積%以上の無機充填剤を含有することを特徴とする電子部品封止用工ポキシ樹脂成形材料。 【請求項2】(B)の化合物の軟化点が100℃以上である請求項1に記載の電子部品封止用工ポキシ樹脂成形材料。 【請求項3】(A)の工ポキシ樹脂と(B)の化合物をあらかじめ加熱混合した後、硬化促進剤、充填剤などを添加し、混練を行うことで製造することを特徴とする請求項1および2に記載の電子部品封止用工ポキシ樹脂成形材料。」を 「【請求項1】主たる成分として(A)構造式が で示される工ポキシ樹脂および(B)骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物(但し、構造式が (Iは0〜5の整数)で示される化合物を除く)および(C)60体積%以上の無機充填剤を含有し、(A)のエポキシ樹脂がエポキシ樹脂全体に対して30重量%以上配合されていることを特徴とする電子部品封止用工ポキシ樹脂成形材料。 【請求項2】(B)の化合物の軟化点が100℃以上である請求項1に記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項3】(A)の工ポキシ樹脂と(B)の化合物をあらかじめ加熱混合した後、硬化促進剤、充填剤などを添加し、混練を行うことで製造することを特徴とする請求項1および2に記載の電子部品封止用工ポキシ樹脂成形材料。」と訂正する。 訂正事項2: 特許明細書4頁20行〜5頁17行(本件特許公報2頁4欄24行〜3欄42行)の「〔課題を解決するための手段〕発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ベース樹脂としてビフエニル骨格を有する特定の工ポキシ樹脂を配合することにより上記の目的を達成しうることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の電子部品封止用工ポキシ樹脂成形材料は主成分として(A)構造式が で示される工ポキシ樹脂、(B)骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物および(C)60体積%以上の無機充填剤からなることを特徴とする。」を「〔課題を解決するための手段〕発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ベース樹脂としてビフェニル骨格を有する特定の工ポキシ樹脂を配合することにより上記の目的を達成しうることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の電子部品封止用工ボキシ樹脂成形材料は主成分として (A)構造式が で示される工ポキシ樹脂、 (B)骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物(但し、構造式が (Iは0〜5の整数)で示される化合物を除く)および(C)60体積%以上の無機充填剤からなり、(A)のエポキシ樹脂がエポキシ樹脂全体に対して30重量%以上配合されていることを特徴とする。」と訂正する。 [訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否、拡張・変更の存否] 訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明に「(A)のエポキシ樹脂がエポキシ樹脂全体に対して30重量%以上配合されている」との限定事項を付加するものである。 上記訂正事項1については、特許明細書の特許請求の範囲に記載された「(A)構造式で示されるエポキシ樹脂」の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料として使用するエポキシ樹脂全体に対する配合比率を付加することにより、より明確に限定しようとするものである。(A)構造式で示されるエポキシ樹脂の配合比率が「エポキシ樹脂全体の30重量%以上」であることについては、特許明細書7頁13〜16行(本件特許公報3頁5欄9〜11行)の「これらのエポキシ樹脂を併用する場合、・・・本発明の(A)エポキシ樹脂の配合比は、エポキシ樹脂全体の30重量%以上が好ましく、・・・」に記載されていた事項である。 従って、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項2は、訂正事項1により特許請求の範囲が訂正された結果、不一致になった説明内容を是正して一致させたものである。 従って、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項1、2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項〜第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3]特許異議の申立についての判断 『訂正後の本件特許発明』 訂正後の請求項1〜3に係る本件特許発明(以下、「訂正後の本件発明1」〜「訂正後の本件発明3」という。)は、訂正明細書の請求項1〜3に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】主たる成分として(A)構造式が で示されるエポキシ樹脂および(B)骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物(但し、構造式が (Iは0〜5の整数)で示される化合物を除く)および(C)60体積%以上の無機充填剤を含有し、(A)のエポキシ樹脂がエポキシ樹脂全体に対して30重量%以上配合されていることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項2】 (B)の化合物の軟化点が100℃以上である請求項1に記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項3】(A)のエポキシ樹脂と(B)の化合物をあらかじめ加熱混合した後、硬化促進剤、充填剤などを添加し、混練を行うことで製造することを特徴とする請求項1および2に記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。」 『特許異議申立の理由の概要』 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件の出願日前の出願であって、その出願後に出願公開された下記1、2の願書に最初に添付した明細書に記載された発明(以下、「先願明細書記載の発明1、2」という。)と同一であると認められ、しかも、本件特許の発明者が先願明細書記載の発明1、2の発明をした者と同一であるとも、また、本件出願の時にその出願人が先願明細書記載の発明1,2の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 記 1.特願平2ー292715号(特開平4-164917号公報参照)(甲第1号証) 2.特願平2ー160489号(特開平4-50223号公報参照)(甲第2号証) 『先願明細書の記載事項』 先願明細書1: 「1.(1)(a)一分子中にエポキシ基を少なくとも2個有するエポキシ樹脂と、 (b)下記一般式(I) (但し、式中Rは水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の1価炭化水素基であり、nは0〜5の整数である。)で示されるエポキシ樹脂とを重量比で(a)/(b)=0〜95/100〜5の割合で混合したエポキシ樹脂、及び(2)フェノール樹脂を含有し、かつ、前記エポキシ樹脂(a)及び/又はフェノール樹脂の一部又は全部が置換又は非置換のナフタレン環を一分子中に少なくとも1個有するものであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。 2.請求項1記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置。」 (特許請求の範囲、請求項1、2) 「産業上の利用分野 本発明は、流動性が良好な上、膨張係数が小さく、高ガラス転移温度を有しながら低応力性であり、しかも、接着性、低吸湿性に優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物及びこのエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置に関する。」(第1頁右欄下から第10〜5行) 「このような(I)式のエポキシ樹脂として具体的には、下記構造の化合物を挙げることができる。・・・ ・・・(上記式中、n1=0〜5、・・・である。)」(第4頁右上欄第8行〜右下欄第7行) 「ここで、ナフタレン環を有するフェノール樹脂としては、具体的に下記構造の化合物を例示することができる。・・・ 」(第5頁左上欄第20行〜右上欄第5行) 「この場合、(a)成分のエポキシ樹脂及び硬化剤としてのフェノール樹脂中におけるナフタレン環の含有量は5〜80重量%、特に10〜60重量%の範囲とすることが好ましい。ナフタレン環の含有量が10重量%未満であると硬化物の低吸湿化、また、ガラス転移温度以上の温度領域での低弾性率効果が顕著でないため、吸湿後の熱衝撃時の耐クラック性が十分改善されないことがある。またナフタレン環の含有量が80重量%を超えると,製造時の分散性あるいは成形性などにおいて不利になる場合がある。」(第5頁右下欄第16行〜第6頁左上欄第6行) 「本発明のエポキシ樹脂組成物には、無機質充填剤を配合することが好ましい。ここで、無機質充填剤としては、通常エポキシ樹脂組成物に配合されるものを使用し得、例えば溶融シリカ,結晶シリカ等のシリカ類、アルミナ、カーボンブラック、マイカ、クレー、カオリン、ガラスビーズ、ガラス繊維、AIN、SiC、亜鉛華、三酸化アンチモン、炭化カルシウム、水酸化アルミニウム、BeO、ボロンナイトライド、酸化チタン、炭化ケイ素、酸化鉄等を挙げることができる。これら無機質充填剤はその1種を単独で使用でき、また2種以上を併用するようにしてもよく、その配合量は特に制限されないが、第一成分の工ポキシ樹脂と第二成分のフェノール樹脂との合計量1000部(重量部、以下同じ)に対して100〜1000部、特に200〜700部の範囲とすることが好ましい。」(第6頁左上欄第14行〜右上欄第10行) 先願明細書2: 「1.(A)1分子中にエポキシ基を少なくとも2個以上有するエポキシ樹脂、 (B)1分子中に置換もしくは非置換のナフタレン環を少なくとも1個以上有するフェノール樹脂、(C)無機質充頃剤を含有してなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。 3.請求項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置。」(特許請求の範囲、請求項1、3) 「産業上の利用分野 本発明は、流動性が良好であると共に、膨張係数が小さく、高いガラス転移温度を有しながら低吸湿性の硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物及び該エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置に関する。」(第1頁右欄下から第19行〜14行) 「(A)成分のエポキシ樹脂は、・・・、ビフエニル型エポキシ樹脂」(第2頁右下欄8〜16行) 「このナフタレン環を有するフェノール樹脂の具体例として次の化合物を挙げることができる。・・・ 」(第3頁左下欄第18〜右下欄第3行) 「なお、本発明において、エポキシ樹脂及び硬化剤としてのフェノール樹脂中におけるナフタレン環の含有量は5〜80重量%、特に10〜60重量%の範囲とすることが好ましい。」(第4頁左上欄第18行〜右上欄第2行) 「これら無機質充填剤はその1種を単独で使用でき、また2種以上を併用するようにしてもよく、その配合量は特に制限されないが、(A)成分と(B)成分との合計量100部(重量部、以下に同じ)に対して100〜1000部、特に200〜700部の範囲とすることが好ましい。」(第4頁左下欄第4〜9行) 『判断』 先願明細書1には、訂正後の本件発明1と共通する、エポキシ樹脂および骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物および無機充填剤を含有した電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料の発明が記載されており、そのエポキシ樹脂の一例として構造式 (上記式中、n1=0〜5)が記載され、実施例でエポキシ樹脂(3)(エポキシ当量730)が具体的に開示されている。 ところで、訂正後の本件発明1の(A)構造式に該当する、先願明細書1に記載された構造式のn1=0場合は、エポキシ当量が188であるから、先願明細書1の実施例のエポキシ樹脂(3)(エポキシ当量730)は、n1>0であることは明らかであり、また、先願明細書1の実施例でこのエポキシ樹脂(3)(エポキシ当量730)を使用した、実施例3,5,6においては、このエポキシ樹脂(3)(エポキシ当量730)の全エポキシ樹脂に対する配合量はそれぞれ17.9、26.5、27.0重量%であり、このエポキシ樹脂(3)(エポキシ当量730)にn1=0のものも含まれていたとしても、訂正後の本件発明1の必須の構成である「(A)構造式に該当する、すなわち、先願明細書1に記載された構造式のn1=0を全エポキシ樹脂に対し30重量%以上含む」ものでないことは明確である。 そして、先願明細書1にはこの実施例以外の発明の詳細な説明において、先願明細書1に記載された構造式のn1=0を全エポキシ樹脂に対しどの程度含ませるかの記載はないし、いわんや、これを30重量%以上含むとの記載はない。 そして、訂正後の本件発明1は、先願明細書1には記載のない特定のエポキシ樹脂を特定量に選択することにより、それ以外の場合に比較して格別の効果を奏するものであることが、本件特許明細書及び平成15年1月6日付け特許異議意見書の比較実験で裏付けられている。 したがって、訂正後の本件発明1は、先願明細書1に記載された発明と同一であるとはいえない。 また、先願明細書2には、訂正後の本件発明1と共通する、エポキシ樹脂および骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物および無機充填剤を含有した電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料の発明が記載されてはいるが、エポキシ樹脂として単に「ビフェニル型エポキシ樹脂」という例示があるだけで、それ以上の記載はなく、訂正後の本件発明1の特定のエポキシ樹脂の記載すらなく、いわんやそれを特定量とすることについての記載はない。 したがって、上記先願明細書1に関すると同様の理由により、訂正後の本件発明1は、先願明細書2に記載された発明と同一であるとはいえない。 また、訂正後の本件発明2、訂正後の本件発明3は、訂正後の本件発明1の発明を引用しその構成を限定するものであるから、訂正後の本件発明1と同様の理由により、先願明細書1、先願明細書2に記載された発明と同一であるとはいえない。 [4]結び したがって、特許異議申立人の主張および挙証によっては、本件の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 主たる成分として(A)構造式が で示されるエポキシ樹脂および (B)骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物(但し、構造式が (lは0〜5の整数)で示される化合物を除く)および (C)60体積%以上の無機充填剤 を含有し、(A)のエポキシ樹脂がエポキシ樹脂全体に対して30重量%以上配合されていることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項2】 (B)の化合物の軟化点が100℃以上である請求項1に記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項3】 (A)のエポキシ樹脂と(B)の化合物をあらかじめ加熱混合した後、硬化促進剤、充填剤などを添加し、混練を行うことで製造することを特徴とする請求項1および2に記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料に関するもので、とくに、表面実装用プラスチックパッケージICが対象となる。 〔従来の技術〕 従来から、トランジスタ、ICなどの電子部品封止の分野ではエポキシ樹脂成形材料が広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂が電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性などの諸特性にバランスがとれているためである。とくに、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とフェノールノボラック硬化剤の組み合わせばこれらのバランスに優れており、IC封止用成形材料のベース樹脂として主流になっている。 〔発明が解決しようとする課題〕 近年、電子部品のプリント配線板への高密度実装化が進んでいる。これに伴い、電子部品は従来のピン挿入型のパッケージから、表面実装型のパッケージが主流になっている。IC、LSIなどの表面実装型ICは実装密度を高くし、実装高さを低くするために薄型、小型のパッケージになっており、素子のパッケージに対する占有体積が大きくなり、パッケージの肉厚は非常に薄くなってきた。さらに、これらのパッケージは従来のピン挿入型のものと実装方法が異なっている。即ち、ピン挿入型パッケージはピンを配線板に挿入した後、配線板裏面からはんだ付けを行うため、パッケージが直接高温にさらされることがなかった。しかし、表面実装型ICは配線板表面に仮止めを行い、はんだバスやリフロー装置などで処理されるため、直接はんだ付け温度にさらされる。この結果、ICパッケージが吸湿した場合、はんだ付け時に吸湿水分が急激に膨張し、パッケージをクラックさせてしまう。現在、この現象が表面実装型ICに係わる大きな問題となっている。 現行のベース樹脂組成で封止したICパッケージでは、上記の問題が避けられないため、ICを防湿梱包して出荷するしたり、配線板へ実装する前に予めICを十分乾燥して使用するなどの方法がとられている。しかし、これらの方法は手間がかかり、コストも高くなる。 本発明はかかる状況に鑑みなされたもので、配線板への実装の際、特定の前処理をすることなく、はんだ付けを行うことができる電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料を提供しようとするものである。 〔課題を解決するための手段〕 発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ベース樹脂としてビフェニル骨格を有する特定のエポキシ樹脂を配合することにより上記の目的を達成しうることを見いだし、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料は主成分として(A)構造式が で示されるエポキシ樹脂、 (B)骨格中にナフタレン環を20重量%以上含み、なおかつ1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物(但し、構造式が (lは0〜5の整数)で示される化合物を除く)および (C)60体積%以上の無機充填剤からなり、(A)のエポキシ樹脂がエポキシ樹脂全体に対して30重量%以上配合されていることを特徴とする。 本発明における(A)のエポキシ樹脂は骨格中にビフェニル骨格を有するものであり、エポキシ樹脂の純度、特に加水分解性塩素量はICなど素子上のアルミ配線腐食に係わるため少ない方がよく、耐湿性の優れた電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料を得るためには500ppm以下であることが好ましいが、特に限定するものではない。ここで、加水分解性塩素量とは試料のエポキシ樹脂1gをジオキサン30mlに溶解し、1N-KOHメタノール溶液5mlを添加して30分間リフラックス後、電位差滴定により求めた値を尺度としたものである。(A)のエポキシ樹脂は、4,4’-ビスヒドロキシ3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニルをエピクロルヒドリンを用いてエポキシ化することで得ることができる。 本発明においてもちいられるエポキシ樹脂としては上記(A)の構造式で示されるものの他に、電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料で一般に使用されているものと組合せて使用してもよい。それをフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのジグリシジルエーテル、フタル酸、ダイマー酸などの多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフエニルメタン、イソシアヌル酸などのポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸などの過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、及び脂環族エポキシ樹脂などがあり、これらを適宜何種類でも併用することができる。 これらのエポキシ樹脂を併用する場合、特に限定するものではないが本発明の(A)エポキシ樹脂の配合比は、エポキシ樹脂全体の30重量%以上が好ましく、さらには50重量%以上が好ましい。この理由としては、30重量%未満では本発明の目的である耐リフロー性に対して効果が少なく、特に有効な効果を発揮するためには50重量%以上が必要となるためである。 さらに、本発明の(B)の化合物としては、ナフトールとアルデヒドの縮合により得られる樹脂や、ナフトール類とフェノール類のアルデヒド類を用いた共縮合樹脂、さらにはナフトールとジメトキシパラキシレンから合成されるキシリレン基を有するナフトール・アラルキル樹脂などがあるが、特に限定するものではない。ここで、ナフタレン環を骨格に有する樹脂を用いる場合、ナフタレン環の比率が耐リフロー性に及ぼす影響が大きく、本発明の効果を発揮するためには、(B)の化合物に対し、(B)の化合物に含まれるナフタレン環の比率は20重量%以上であることが必要である。 また、(A)のエポキシ樹脂は結晶性であるため、単独では常温固形であるが、硬化剤など他の化合物と相溶すると低粘度化するため、得られた成形材料が半固形状態であったり、ブロッキングしやすいといった問題が生じ易い。そこで、このような不都合を生じないためには軟化点の高い(B)の化合物を使用することが好ましい。この場合、軟化点は100℃以上が好ましいが、高すぎると成形時の流動性に支障が生じるため、上限は150℃以下が適当である。さらに、これらの軟化点の高い(B)の化合物と(A)のエポキシ樹脂を配合して混練した場合、混練装置の中で両樹脂系の粘度が大きく違うため、均一な成形材料が得にくい。そこで、特に限定するものではないが、(A)のエポキシ樹脂と(B)の化合物をあらかじめ加熱混合した後、硬化促進剤、充填剤などを添加し、混練を行うことで製造することが好ましい。加熱混合の条件としては、(A)のエポキシ樹脂の粘度が十分低くなる80℃以上で、エポキシ基とフェノール基の反応が比較的穏やかな140℃以下が好ましく、加熱混合の時間は(A)(B)の両樹脂が均一に相溶する必要最少限が好ましい。 本発明においては(B)成分の他に、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物を併用して用いることができる。ここで、併用可能な樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドなどのアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、ポリパラビニルフェノール樹脂などがあり、単独又は2種類以上併用してもよい。 本発明に用いられる、(A)に代表されるエポキシ樹脂と(B)に代表されるフェノール性水酸基を有する化合物の当量比は、特に限定するものではないが硬化性、耐熱性等の点から、0.6〜1.4の範囲が望ましい。 また、エポキシ樹値とフェノール性水酸基を有する化合物の硬化反応を促進する硬化促進剤を使用することができる。この硬化促進剤としては、例えば、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N-メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。 ここで、本発明の目的でありリフロー時のクラックに対し鋭意検討した結果、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7および、そのフェノール類の誘導体またはテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート類を硬化促進剤として使用することが特に有効であることを見いだした。さらに、テトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレートとしては、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートが好ましい。この理由としては、硬化促進剤が硬化物特性に及ぼす影響は大きなものであり、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7および、そのフェノール類の誘導体またはテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート類を用いた場合、耐熱性の指標であるTg(ガラス転移温度)が比較的高く、吸水率が小さくなるため、一定時間加湿したICパッケージをはんだ処理してもクラックが発生しなくなったと推察できる。したがって、本発明の樹脂系の効果を有効に発現するためには、上記硬化促進剤との組み合わせが好ましいが、特に限定するものではない。 また、充填剤としては吸湿性低減および強度向上の観点から無機充填剤を用いることが必要である。無機充填剤としては結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素、ジルコニア、ジルコン、フェステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニアなどの粉体、またはこれらを球形化したビーズなどが上げられ、1種類以上用いることができる。充填剤の配合量としては同様の理由から、60容量%以上が必要であり、さらには、65容量%以上が好ましい。 その他の添加剤として高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、エステル系ワックスなどの離型剤、カーボンブラックなどの着色剤、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、アルキルシラン、有機チタネート、アルミニウムアルコレートなどのカップリング剤および難燃剤などを用いることができる。 以上のような原材料を用いて成形材料を作製する一般的な方法としては、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機などによって混練し、冷却、粉砕することによって、成形材料を得ることができる。 本発明で得られる成形材料を用いて、電子部品を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法によっても可能である。 〔作用〕 ICパッケージがリフロー時に受けるダメージは、ICの保管時に吸湿した水分がリフロー時に急激に膨張することが原因であり、この結果、パッケージのクラックおよび素子やリードフレームと樹脂界面の剥離を生じる。従って、リフローに強い樹脂としては、吸水率が低いこと、高温で強度が高いこと、および接着力が高いことが要求される。 本発明の主成分となるエポキシ樹脂はテトラメチルビフェノールをベースにしたジエポキシ樹脂であり、硬化剤は骨格にナフタレン環を有するため、ベース樹脂骨格の剛直性、疎水性により、耐熱性、吸湿特性、接着性に優れた組成物を得ることができたと推察できる。この効果により、耐リフロークラック性が向上したと考えられる。 〔実施例〕 以下実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。 構造式 を主成分とするエポキシ当量188のエポキシ樹脂80重量部と 構造式 (n:m=35:65、重量平均分子量750) で示される水酸基当量127、軟化点110℃の水酸基当量106、重量平均分子量1020のβナフトール/フェノール共縮合ノボラック樹脂59重量部を120℃、30分の条件で溶融混合し、冷却後に得られた均一な固形樹脂と、臭素比率50重量%、エポキシ当量375の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂20重量部、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(3重量部)、カルナバワックス(2重量部)、カーボンブラック(1重量部)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(2重量部)、石英ガラス粉(75重量%)を配合し、10インチ径の加熱ロールを使用して、混練温度80〜90℃、混練時間7〜10分の条件で実施例(1)のエポキシ樹脂成形材料を作製した。実施例(2)は実施例(1)のβナフトール/フェノール共縮合ノボラック樹脂を 構造式 を主成分とする、水酸基当量140、軟化点115℃の樹脂65重量部に置き換えた以外は実施例(1)と同様に作製した。 実施例(3)は実施例(1)のβナフトール/フェノール共縮合ノボラック樹脂を で示される水酸基当量220、軟化点108℃の樹脂102重量部に置き換えた以外は実施例(1)と同様に作製した。 比較例(1)は実施例(1)のβナフトール/フェノール共縮合ノボラック樹脂を水酸基当量106、重量平均分子量660、軟化点85℃のフェノールノボラック樹脂63重量部をベース樹脂とし、予め溶融混合せずに使用した以外は実施例(1)と同様に作製した。 比較例(2)は比較例(1)のビフェニル骨格のジエポキシ樹脂をエポキシ当量200、軟化点73℃のオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂80重量部に置き換えた以外は比較例(1)と同様に作製した。 実施例(1)〜(3)および比較例(1)〜(2)の特性を表1に、試験法の詳細を表2に示す。実施例は比較例と比べ、吸水率が小さく、接着強度に優れることがわかる。 本発明の効果を明確にするために、評価用ICパッケージを用いたリフロー時の耐クラック性およびリフロー後の耐湿性の結果を示す。耐クラック性評価に用いたICは外形が19×14×2.0(mm)のフラットパッケージであり、8×10×0.4(mm)の素子を搭載した80ピン、42アロイリードのものである。試験条件は85℃、85%RHで所定時間加湿した後、215℃のベーパーフェーズリフロー炉で90秒加熱するものである。評価は外観を顕微鏡観察し、パッケージクラックの有無を判定することにより行った。 また、耐湿性の評価に用いたICは350mil幅、28ピンのスモールアウトラインパッケージであり、10μm幅のアルミ配線を施した5×10×0.4(mm)テスト素子を搭載し、25μmの金線を用いたワイヤボンディングしたものである。試験条件は85℃、85%RHで72時間加湿し、215℃のべーパーフェーズリフロー炉で90秒加熱した後、2気圧、121℃、100%RHの条件で所定時間加湿し、アルミ配線腐食による断線不良を調べたものである。 なお、ICパッケージの成形は180℃、90秒、70kgf/cm2の条件で行い、成形後180℃、5時間の後硬化を行った。 表3にリフロー時の耐クラック性およびリフロー後の耐湿性の結果を示す。表3から実施例(1)〜(3)に示すように、本発明のエポキシ樹脂を用いることにより、従来樹脂系と比較してリフロー時の耐クラック性およびリフロー後の耐湿性を大幅に改善できる。 〔発明の効果〕 本発明によって得られたエポキシ樹脂成形材料はリフロー時の耐クラック性およびリフロー後の耐湿性が従来のものと比べ大きく改善できる。電子部品の分野、とくにFP(フラットパッケージ)、SOP(スモールアウトラインパッケージ)などのICではパッケージが薄形、小形になり、素子の大形化と相俟って耐パッケージクラック性が強く要求されており、これらの製品へも広く適用でき、その工業的価値は大きい。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-02-25 |
出願番号 | 特願平2-301672 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YA
(C08G)
|
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
中島 次一 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2001-11-02 |
登録番号 | 特許第3247368号(P3247368) |
権利者 | 日立化成工業株式会社 |
発明の名称 | 電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 若林 邦彦 |
代理人 | 若林 邦彦 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 豊田 武久 |