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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1097911
異議申立番号 異議2003-70218  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-10-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-24 
確定日 2004-03-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3306976号「熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3306976号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第3306976号は、平成5年3月29日に出願され、平成14年5月17日にその特許の設定登録がなされ、その後、岩田直子より特許異議の申立てがなされ、それに基づく取消理由通知がなされ、それに対し特許異議意見書とともに、訂正請求書が提出され、さらに、特許権者及び特許異議申立人両者に審尋がなされ、それぞれ、両者から回答書が提出され、その後、第2回目の取消理由通知がなされ、それに対し、第2回目の特許異議意見書とともに、その指定期間内である平成16年2月3日に、先の訂正請求書を取り下げ、新たに訂正請求書が提出されたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲の訂正
a-1、請求項1を削除し、請求項2の
「【請求項2】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化ビスフェノールA型樹脂、(C)アンチモン化合物、(D)ハイドロタルサイト類化合物、(E)リン酸トリエステル、および(F)カルボジイミド類化合物を含んでなることを特徴とする熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物。」を、
「【請求項1】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、(C)アンチモン化合物、(D)ハイドロタルサイト類化合物、(E)リン酸トリエステル、および(F)カルボジイミド類化合物を含んでなることを特徴とする熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物。」と訂正する。
a-2、請求項3を削除し、請求項4〜10を以下のとおりに訂正する。
「【請求項2】 前記請求項1記載の成分に加えて、更に(G)収束剤としてノボラック型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールA型エポキシ樹脂をガラス繊維表面に付着させたガラス繊維を含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】 (B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量が1500〜10000の範囲である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項4】 (C)アンチモン化合物が、三酸化アンチモンである請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】 (D)ハイドロタルサイト類化合物が、下記一般式Mg1-yAly(OH)2An-y/n・mH2O(但し、式中An-はn価のアニオンを、y及びmはそれぞれ0<y<0.5、0<m<1を示す。)で示されるハイドロタルサイト類化合物である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】 (E)リン酸トリエステルが、芳香族系リン酸トリエステルである請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】 トリフェニルホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェートである請求項6記載の組成物。
【請求項8】 (F)カルボジイミド類化合物が、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。」
訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正
b-1、特許明細書の段落【0005】を、
「【課題を解決するための手段】本発明者らは、熱可塑性ポリエステル樹脂とハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂とアンチモン化合物とからなる難燃化熱可塑性ポリエステル組成物にハイドロタルサイト類化合物とリン酸トリエステルおよびカルボジイミド類化合物を含有したものは成形性、耐湿性に優れる難燃化熱可塑性ポリエステル組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するにいたった。」と訂正する。
b-2、特許明細書の段落【0006】を、
「即ち、本発明は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、(C)アンチモン化合物、(D)ハイドロタルサイト類化合物、(E)リン酸トリエステルおよび(F)カルボジイミド類化合物を含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物であり、更にこれら成分に加えて(G)特定の収束剤によって処理されたガラス繊維等をも含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物を提供するにある。」と訂正する。
b-3、特許明細書の段落【0029】中の
「121℃/2.1kg/cm」を、
「121℃/2.1kg/cm2」と訂正する。
イ、訂正の適否
訂正事項aは、特許請求の範囲に関する訂正であり、訂正a-1は、請求項1を削除し、請求項2を請求項1とするとともに、(B)のハロゲン化ビスフェノールA型樹脂を、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂と訂正するものであり、明細書の段落【0088】に記載の内容に一致させるものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においての特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
また、訂正a-2は、請求項3を削除し、それによって、請求項4〜10を請求項2〜8と繰り上げ、引用する請求項を整理したものであるから、同様に、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においての特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
上記訂正事項bは発明の詳細な説明に関する訂正であり、訂正b-1及びb-2は、特許請求の範囲の訂正である訂正a-1に伴い、特許請求の範囲との整合性を図るための、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、上記訂正a-1と同様に、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認められる。
また、訂正b-3は、圧力の単位を正しい単位に訂正するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での誤記の訂正と認められる。
そして、上記訂正事項a(a-1〜a-2)及びb(b-1〜b-3)は、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、申立て理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証(特開平2-245057号公報)、甲第2号証(特開昭57-5745号公報)、甲第3号証(特開昭60-1241号公報)、甲第4号証(特開平3-121157号公報)、甲第5号証(特開平4-345655号公報)、甲第6号証(特開平4-202360号公報)、甲第7号証(特開昭59-6251号公報)及び甲第8号証(特開昭59-129253号公報)を提出し、訂正前の請求項1〜10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
イ、訂正明細書の請求項1〜8に係る発明
訂正明細書の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、(C)アンチモン化合物、(D)ハイドロタルサイト類化合物、(E)リン酸トリエステル、および(F)カルボジイミド類化合物を含んでなることを特徴とする熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】 前記請求項1記載の成分に加えて、更に(G)収束剤としてノボラック型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールA型エポキシ樹脂をガラス繊維表面に付着させたガラス繊維を含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】 (B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量が1500〜10000の範囲である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項4】 (C)アンチモン化合物が、三酸化アンチモンである請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】 (D)ハイドロタルサイト類化合物が、下記一般式Mg1-yAly(OH)2An-y/n・mH2O(但し、式中An-はn価のアニオンを、y及びmはそれぞれ0<y<0.5、0<m<1を示す。)で示されるハイドロタルサイト類化合物である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】 (E)リン酸トリエステルが、芳香族系リン酸トリエステルである請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】 トリフェニルホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェートである請求項6記載の組成物。
【請求項8】 (F)カルボジイミド類化合物が、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。」
ウ、引用刊行物等に記載された事項
当審が通知した第2回目の取消理由に引用された刊行物1〜11は、次のとおりである。
刊行物1:特開平2-245057号公報
(特許異議申立人提出甲第1号証)
刊行物2:特開昭57-5745号公報
(同甲第2号証)
刊行物3:特開昭60-1241号公報
(同甲第3号証)
刊行物4:特開平3-121157号公報
(同甲第4号証)
刊行物5:特開平4-345655号公報
(同甲第5号証)
刊行物6:特開平4-202360号公報
(同甲第6号証)
刊行物7:特開昭59-6251号公報
(同甲第7号証)
刊行物8:特開昭59-129253号公報
(同甲第8号証)
刊行物9:特開昭60-186561号公報
刊行物10:特開平3-39351号公報
刊行物11:特開平3-290459号公報
a、刊行物1
「(1)(A)芳香族ポリエステル100重量部に対して、(B)平均分子量3000以上の有機臭素化合物1〜60重量部、(C)アンチモン化合物1〜50重量部、(D)スズ酸、メタスズ酸およびそれらの金属塩から選択されたスズ化合物の少なくとも1種0.01〜10重量部および、(E)分子量500以上のヒンダードフェノール化合物0.01〜5重量部を含有せしめてなることを特徴とする難燃性ポリエステル組成物。
(2)さらに(F)リン酸、亜リン酸およびそれらのエステルから選択されたリン化合物の少なくとも1種0.01〜5重量部を含有せしめてなることを特徴とする請求項(1)に記載の難燃性ポリエステル組成物。」(特許請求の範囲請求項1及び2)
「本発明において(B)成分として用いられる平均分子量3,000以上の有機臭素化合物とは、……具体的には……臭素化エポキシあるいは臭素化フェノキシ化合物(たとえば臭素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジエポキシ化合物や臭素化エポキシオリゴマー、臭素化エポキシポリマー、臭素化フェノキシポリマー)、……が挙げられる。」(第3頁左下欄9行〜同右下欄8行)
b、刊行物2
「ポリエチレンテレフタレート40〜90重量%とポリテトラメチレンテレフタレート60〜10重量%からなるポリエステル樹脂100重量部に対しリン酸トリアリール0.5〜20重量部および無機充填剤5〜200重量部を配合せしめてなるポリエステル組成物。」(特許請求の範囲)
「本発明のポリエステル組成物には、更に必要に応じ他の種々の添加剤を加えることができる。……難燃化を目的としては……ハロゲン化エポキシ化合物(例えば4-臭素化ビスフェノールAのエポキシ化合物及びそのオリゴマー)等の如きハロゲン化合物を三酸化アンチモン等の難燃助剤と併用して用いることができる。」(第3頁左下欄9〜20行)
c、刊行物3
「1.(A)熱可塑性もしくは硬化性樹脂…100重量部
(B)ハロゲン含有有機難燃剤…約1〜約50重量部
(C)BET比表面積が約30m2/g以下のハイドロタルサイト類安定剤…約0.05〜約10重量部
及び
(D)上記(B)以外の難燃助剤…0〜約20重量部
を含有して成ることを特徴とする難燃性樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
「本発明の難燃性樹脂組成物に利用する樹脂としては、……ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートの如きポリエステル樹脂;……を挙げることが出来る。」(第5頁右上欄11行〜同右下欄11行)
「このような(D)上記(B)以外の難燃助剤の例としては、たとえば、酸化アンチモン、……トリメチルホスフェート、…トリクレジルホスフェート、…等をあげることが出来る。」(第6頁右上欄4〜13行)
d、刊行物4
「1.(A)ポリブチレンテレフタレート又はブチレンテレフタレートを60.0重量%以上含有する共重合体、
(B)臭素化フェノキシ難燃剤2.0〜25.0重量%(全組成物中)、
(C)三酸化アンチモン及び/又は五酸化アンチモンを主成分とする難燃助剤2.0〜15.0重量%(全組成物中)、
(D)マグネシウムとアルミニウムとの含水塩基性炭酸塩化合物0.01〜10.0重量%(全組成物中)、および
(E)無機充填剤0〜70.0重量%(全組成物中)からなる難燃性樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
e、刊行物5
「【請求項1】(A)ポリブチレンテレフタレート及び/又はブチレンテレフタレートモノマーを60.0wt%以上含有する共重合体、及び/又はポリブチレンテレフタレートを60.0wt%以上含有する熱可塑性ポリエステル混合物、(B)臭素化エポキシ樹脂難燃剤及び/又は臭素化ポリカーボネート系難燃剤2.0〜25.0wt%(全組成物中)、(C)三酸化アンチモン及び/又は五酸化アンチモンを主成分とする難燃助剤2.0〜15.0wt%(全組成物中)、(D)エチレン-エチルアクリレート共重合体2.0〜20.0wt%(全組成物中)、(E)マグネシウムとアルミニウムとの含水塩基性炭酸塩化合物0〜10.0wt%(全組成物中)、(F)無機充填剤0〜70.0wt%(全組成物中)からなる難燃性樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
f、刊行物6
「(1)(A)ナイロン46が15〜97重量%と(B)ポリアリレートが1〜70重量%と(C)高分子量ハロゲン化難燃剤が1〜40重量%と(D)ハイドロタルサイトが1〜40重量%とからなる樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
g、刊行物7
「(A)ハロゲンで難燃化された熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)無機系難燃助剤0.1〜20重量部、(C)アルカリ土類金属酸化物0.05〜5重量部、(D)カルボジイミド化合物0.1〜10重量部、(E)強化充填剤0〜150重量部を配合してなる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
h、刊行物8
「テレフタル酸系ポリエステル樹脂の100重量部に対し、(A)……高分子量ハロゲン化ビスフェノールA型共重合フェノキシ樹脂3〜50重量部、
(B)無機系難燃助剤0.1〜20重量部、
(C)強化充填剤0〜150重量部
(D)必要に応じエポキシ化合物およびまたはカルボジイミド化合物0.1〜10重量部
を含めてなる強化難燃性ポリエステル樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
i、刊行物9〜11
刊行物9には、ポリ(アリーレンサルファイド)にハイドロタルサイトを加え、加水分解安定性を向上することが、また、刊行物10及び11には、ポリアセタール樹脂にハイドロタルサイトを加え、耐熱水特性に優れることが、それぞれ記載されている。
エ、対比・判断
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、熱可塑性ポリエステル樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、アンチモン化合物、リン酸トリエステルを含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物である点で一致し、本件発明1では、更にハイドロタルサイト類化合物およびカルボジイミド類化合物を含んでなるとするのに対し、刊行物1には、そういったことの記載はない点で相違するものと認める。
そこで、上記相違点について検討する。
刊行物2も、刊行物1と同様に、ハイドロタルサイト類化合物及びカルボジイミド類化合物の記載はなく、示唆も認められない。
刊行物3〜6には、ハイドロタルサイト類化合物の記載はあるものの、カルボジイミド類化合物については記載はなく、示唆も認められない。
刊行物7及び8には、カルボジイミド類化合物の記載はあるものの、ハイドロタルサイト類化合物についての記載はなく、示唆も認められない。
刊行物9〜11は、ハイドロタルサイト類化合物の記載はあるものの、本件発明1のポリエステル樹脂についての記載は認められず、また、カルボジイミド類化合物の記載も認められない。
そうすると、刊行物1〜11には、ハイドロタルサイト類化合物とカルボジイミド類化合物を併用することについての記載はなく、示唆も認められず、それに対して、本件発明1は、ハイドロタルサイト類化合物とカルボジイミド類化合物を併用することにより耐加水分解性がさらに向上するものと認められる。
よって、本件発明1は、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、収束剤としてノボラック型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールA型エポキシ樹脂をガラス繊維表面に付着させたガラス繊維を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件発明3〜6及び8は、本件発明1を引用し、本件発明1における各成分(ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、アンチモン化合物、ハイドロタルサイト類化合物、リン酸トリエステル及びカルボジイミド化合物)について、それぞれを限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件発明7は、本件発明6を引用し、芳香族系リン酸トリエステルをさらに限定するものであるから、本件発明6と同様の理由により、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、(C)アンチモン化合物、(D)ハイドロタルサイト類化合物、(E)リン酸トリエステル、および(F)カルボジイミド類化合物を含んでなることを特徴とする熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】 前記請求項1記載の成分に加えて、更に(G)収束剤としてノボラック型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールA型エポキシ樹脂をガラス繊維表面に付着させたガラス繊維を含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】 (B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量が1500〜10000の範囲である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項4】 (C)アンチモン化合物が、三酸化アンチモンである請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】 (D)ハイドロタルサイト類化合物が、下記一般式Mg1-yAly(OH)2An-y/n・mH2O(但し、式中An-はn価のアニオンを、y及びmはそれぞれ0<y<0.5、0<m<1を示す。)で示されるハイドロタルサイト類化合物である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】 (E)リン酸トリエステルが、芳香族系リン酸トリエステルである請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】 トリフェニルホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェートである請求項6記載の組成物。
【請求項8】 (F)カルボジイミド類化合物が、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)である請求項1〜2のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電気・電子部品、自動車部品、機械部品用の成形材料として供せられる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物に関する。特に、耐湿性が要求されるこれら分野での成形材料として好適に利用されうる。
【0002】
【従来の技術】
現在、電気・電子機器部品、自動車部品用成形材料として熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物が使用されているが、今後も益々該樹脂組成物の使用量の増加が見込まれている。しかしながら、成形品に使用される機能が増すにつれ、成形材料への要求性能も多く、かつ厳しくなっている。このため要求されたいろいろな性能を満たすために熱可塑性ポリエステル樹脂には種々の添加剤が配合される。例えば、難燃化処理した熱可塑性ポリエステル樹脂の成形加工時の分解を阻止する或いは耐加水分解性を向上する等の目的でエポキシ樹脂を添加する(特開昭54-149756号、特開昭57-5745号)、耐熱性(耐沸水性)の改良を目的として熱可塑ポリエステル樹脂にリン酸トリアリールとガラス繊維を含有せしめる(特開昭57-5745号)、耐薬品性特に耐アルコール混合ガソリン性の改良を目的として熱可塑性ポリエステル樹脂にカルボジイミド化合物とエポキシ系化合物とガラス繊維とを含有させる(特開昭56-161452号)等がある。
【0003】
ところで、高温下、とりわけ、例えば炊飯器や車のボンネット等に用いられるポリエステル樹脂成形部品のように水蒸気圧による高圧と高温下にある環境下(高温多湿環境下となることが多い)で長期間使用される場合、ポリエステル樹脂成形部品は加水分解による物性の低下が著しい。この加水分解を防止し、耐湿特性を向上させるためには前記したようなエポキシ系化合物や該エポキシ系化合物とカルボジイミド系化合物とを併用して用いることが一般的である。しかしエポキシ系化合物は耐加水分解性の向上効果が十分でない上、材料の溶融粘度が高くなり成形性が悪くなって実用性に耐えない。またカルボジイミド系化合物の併用でも耐加水分解性の向上効果は不十分である。またリン酸トリアリールは、これ単独では耐湿性向上効果は認められなかった。このため、成形性が良く、耐湿性に優れた熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物を得ることは、従来の技術ではなかなか困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した課題を解決し、成形性、耐湿性に優れた熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、熱可塑性ポリエステル樹脂とハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂とアンチモン化合物とからなる難燃化熱可塑性ポリエステル組成物にハイドロタルサイト類化合物とリン酸トリエステルおよびカルボジイミド類化合物を含有したものは成形性、耐湿性に優れる難燃化熱可塑性ポリエステル組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するにいたった。
【0006】
即ち、本発明は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、(C)アンチモン化合物、(D)ハイドロタルサイト類化合物、(E)リン酸トリエステルおよび(F)カルボジイミド類化合物を含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物であり、更にこれら成分に加えて(G)特定の収束剤によって処理されたガラス繊維等をも含んでなる熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物を提供するにある。
【0007】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステル樹脂(A)は、テレフタル酸またはそのエステル類と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、1,4-ジメチロールテトラブロモベンゼンまたはTBA-EOなどの如きグリコール類とから得られるテレフタル酸系熱可塑性ポリエステルである。本発明で用いるに好ましい熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。通常、フェノールと四塩化エタンとの6対4なる重量比の混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度[η]が0.3〜1.5dl/gなる範囲のものが用いられる。固有粘度[η]がかかる範囲にあると溶融時の流動性が良好であり、また成形品の機械的強度、表面外観等も優れる。
【0008】
本発明で使用されるハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)は、知られた難燃剤の一つであり、下記一般式
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xはハロゲン原子、特に塩素原子又は臭素原子を示し、nは平均重合度2以上を示す。)で示される化合物である。本発明においてはエポキシ当量1500〜10000の範囲のものがよい。このような樹脂は、例えばテトラハロゲン化ビスフェノールAをエピクロヒドリンと反応させて得ることができる。nが2未満のものは熱変形温度等の耐熱性が低下する。又、エポキシ当量1500未満では溶融粘度の上昇又は樹脂のゲル化が起こり、成形性が低下し、実用性に乏しい。エポキシ当量10000をこえると高分子量のために均一に分散し難く、樹脂特性の低下、特に耐湿性低下の原因になりやすい。好ましくはエポキシ当量1800〜7000のハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂がよい。添加量は樹脂組成物に対して5〜25重量%、好ましくは7〜20重量%である。
【0011】
これと併用するアンチモン化合物(C)としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンが挙げられる。好ましくは三酸化アンチモンである。添加量は、樹脂組成物に対して1〜10重量%、好ましくは1.5〜7重量%である。
【0012】
本発明で使用されるハイドロタルサイト類化合物(D)としては、下記一般式Mg1-yAly(OH)2An-y/n・mH2O(但し、式中An-はn価のアニオンを、y及びmはそれぞれ0<y<0.5、0<m<1を示す。)で示されるものである。好ましくは前記した一般式においてy及びmがそれぞれ0.2≦y≦0.4、0<m<1の範囲にあるハイドロサルタイト類化合物である。また、上記一般式中、An-であらわされるn価のアニオンの好ましい例としてはCO32-、HPO42-、SO42-、OH-等をあげることができる。
【0013】
このハイドロタルサイト類化合物の添加量としては、5重量%以下好ましくは0.01〜3重量%からなる範囲が適当である。この範囲であると充分な耐湿性が得られ、難燃組成物の機械的強度の低下や成分の表面への移行(ブリード現象)が少ない。
【0014】
リン酸トリエステル(E)は、リン酸または一般式PO(X)3(但し、Xはハロゲン原子を示す)で示されるオキシハロゲン化リンとOH基含有化合物との縮合反応や脱ハロゲン化反応などの公知の方法にて製造することができる。
【0015】
OH基含有化合物としては、メタノール、エタノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ステアリルアルコール、2-エチルヘキシルアルコールなどのアルコール類;フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ビスフェノールAなどのフェノール類;等を1種類又は2種類以上を併用することも可能である。好ましくはフェノール性OH基含有化合物がよい。
【0016】
具体的には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリセチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。特に好ましいリン酸トリエステルとしてはトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェートなどの芳香族系リン酸トリエステルである。
【0017】
これらリン酸トリエステルが前記ハイドロタルサイト類化合物とともに難燃組成物中に存在するとき耐湿性の向上効果は著しいものがある。添加量は樹脂組成物に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%である。添加量がかかる範囲であると耐湿性の向上効果が良好であるばかりか該成分の成形品表面への移行(ブリード現象)や成形品の強度の低下も少ない。
【0018】
本発明で使用されうるポリカルボジイミド類化合物(F)は、分子中に(-N=C=N-)なるポリカルボジイミド基を有する化合物である。具体的には、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジ-O-トリイルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジ-P-トリイルカルボジイミド、ジ-P-メトキシフェニルカルボジイミド、P-フェニレン-ビス-ジ-O-トリイルカルボジイミド、P-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物、及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルビジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド化合物が挙げられる。これらは二種以上併用することもできる。
【0019】
これらの中でも特にジシクロヘキシルカルボジイミド、ジ-2,6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、O-トリイルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)の使用が好適である。
【0020】
これらカルボジイミド化合物の添加量は樹脂組成物に対して5重量%以下、好ましくは0.01〜3重量%である。添加した場合は耐湿性の改良効果が更に一層良好となる。
【0021】
本発明組成物には更にガラス繊維(G)を添加することもできる。このガラス繊維(G)としては、収束剤(バインダー)としてノボラック型エポキシ樹脂又は/及びビスフェノールA型エポキシ樹脂をガラス繊維表面に0.1〜2.0重量%塗布したものが好適である。ここで用いるノボラック型エポキシ樹脂は、フェノール性化合物、ホルマリン、エピクロヒドリンを原料として公知の方法にて製造することができる。フェノール性化合物としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ビスフェノールA、ハイドロキノン、カテコール、フロログルシノール等のフェノール性OH基をもつ化合物1種類又は2種類以上を併用することも可能である。好ましいノボラック型エポキシ樹脂又は/及びビスフェノールA型エポキシ樹脂はフェノール系エポキシ樹脂、クレゾール系エポキシ樹脂、ビスフェノールA系エポキシ樹脂である。
【0022】
該エポキシ樹脂のガラス繊維表面への塗布量は0.1〜2.0重量%、好ましくは0.3〜1.8重量%である。かかる範囲にあるとが強度、耐湿性に優れ、また樹脂組成物の溶融粘度を高くして成形が困難となるようなことがない。組成物中おけるガラス繊維の使用量は、通常50重量%以下である。
【0023】
本発明の組成物には、更にその他の添加剤として、結晶核剤、顔料、染料、可塑剤、離型剤、滑剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発砲剤、またはカップリング剤などを併用してもよい。
【0024】
本発明組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、好ましくは組成物の成分を予め均一に混合した後、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点以上の温度において、単軸又は多軸押出機を用いて溶融混練され、ついでカッターでカッティングされペレットとして供される方法がよい。
【0025】
こうして得られた組成物は、通常公知の射出成形、押出成形などの任意の方法で成形でき、成形品は優れた難燃性を有するだけではなく、成形性に優れ、また耐湿性にも優れており、工業的価値は極めて大きく、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品等の成形用途に使用できる。
【0026】
【実施例】
次に、本発明を具体的な実施例及び比較例によって説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1〜9、比較例1〜2[η]が0.9dl/gなるポリブチレンテレフタレート(PBT)を用い、表1に示した配合組成物(但し、配合は重量部を単位とする)を予め均一に混合した後、250℃に設定された65mm単軸ベント付押出機によって混練した後、ストランドとして引き出し冷却し、カッターにてカッティングしてペレットを得た。このペレットを用いて、100mm×100mm×1mmのシート及び150mm×12mm×3mmの角棒を射出成形(樹脂温度:250℃,金型温度:60℃)にて作製した。
【0028】
絶縁破壊電圧と曲げ強度について、初期値と耐湿試験300時間後とを測定した。結果を下表1に示す。なお、耐湿試験条件および各物性値の測定は以下の通りである。
【0029】
〔耐湿試験条件〕121℃/2.1kg/cm2の高温高圧容器中に100mm×100mm×1mmシート及び150mm×12mm×3mmの角棒を所定時間(300時間)放置する。
【0030】
〔物性値の測定〕
1)絶縁破壊電圧測定試料:100mm×100mm×1mmシート耐電圧測定:ASTM D-149に準拠電圧上昇速度:AC 0.5KV/sec.
2)曲げ強度試験ASTM D-790に準拠試料:150mm×12mm×3mm角棒
【0031】
【表1】

【0032】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性難燃ポリエステル組成物は、成形性がよくしかも耐湿性が特に優れるので、耐湿性が要求される電気・電子部品、自動車部品、機械部品用の分野での成形材料として有用である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-27 
出願番号 特願平5-69948
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3306976号(P3306976)
権利者 大日本インキ化学工業株式会社
発明の名称 熱可塑性難燃ポリエステル樹脂組成物  
代理人 高橋 勝利  
代理人 高橋 勝利  

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