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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1097969
異議申立番号 異議2002-72691  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-11-13 
確定日 2004-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3280437号「縦型ボート」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3280437号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3280437号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年11月27日に特許出願され、平成14年2月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、服部和子(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月8日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を「複数の支持部材を縦方向に配列して、それらの支持部材に所定の間隔で形成された複数のスリットにそれぞれ複数の半導体ウエハを積載するための縦型ボートにおいて、1対の支持部材がウエハ挿入始端側に位置し、2本の支持部材がウエハ挿入後端側に位置するように配置され、これら支持部材を断面直線形状の実質的に平坦な板で構成し、スリットを数多く板幅の約2/3以上にわたって切り込んで形成し、支持部材の全体をほぼ櫛形にして、しかもスリットによって画成された支持アームの先端部分に支持突起を設けて、支持突起がウエハの外周縁部を超えてウエハの半径の65〜85%の領域を支持し、かつ、上記1対の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が30〜80度の位置に配置され、上記2本の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置され、ウエハがウエハ挿入始端側からウエハ挿入後端側まで挿入可能になっていることを特徴とする縦型ボート。」と訂正する。
訂正事項b
明細書の段落【0013】を「【課題を解決するための手段】
本願発明は複数の支持部材を縦方向に配列して、それらの支持部材に所定の間隔で形成された複数のスリットにそれぞれ複数の半導体ウエハを積載するための縦型ボートにおいて、1対の支持部材がウエハ挿入始端側に位置し、2本の支持部材がウエハ挿入後端側に位置するように配置され、これら支持部材を断面直線形状の実質的に平坦な板で構成し、スリットを数多く板幅の約2/3以上にわたって切り込んで形成し、支持部材の全体をほぼ櫛形にして、しかもスリットによって画成された支持アームの先端部分に支持突起を設けて、支持突起がウエハの外周縁部を超えてウエハの半径の65〜85%の領域を支持し、かつ、上記1対の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が30〜80度の位置に配置され、上記2本の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置され、ウエハがウエハ挿入始端側からウエハ挿入後端側まで挿入可能になっていることを特徴とする縦型ボートを要旨としている。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(2-1)訂正事項aについて
訂正事項aは、
(訂正事項a-1)
請求項1において、「1本以上の支持部材がウエハの後端側に位置するように配置され」を、「2本の支持部材がウエハの後端側に位置するように配置され」と、
(訂正事項a-2)
請求項1において、「上記1本以上の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が75〜180度の位置に配置されたことを特徴とする縦型ボート。」を、「上記2本の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置され、ウエハがウエハ挿入始端側からウエハ挿入後端側まで挿入可能になっていることを特徴とする縦型ボート。」とするものである。
訂正事項a-1は、ウエハの後端側に位置するように配置される支持部材の本数を「1本以上」から「2本」に変更するものであり、しかも、願書に添付した明細書の段落【0027】、図1には、ウエハの後端に位置する支持部材の本数が2本であるものについて記載されている。
したがって、訂正事項a-1は、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項a-2は、訂正事項a-1に伴い、「上記1本以上の支持部材」を「上記2本の支持部材」とするとともに、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度を「75〜180度の位置」から「95〜140度の位置」と減縮するものである。そして、願書に添付した明細書の段落【0032】には、「ウエハ1の挿入後端側に位置する支持部材6の突起14と、ウエハ1の中心1aと、ウエハ1の挿入方向Xとのなす角度Aが約95〜140度(好ましくは120度)になるようには位置する。」と記載されている事項に基づくものである。
したがって、訂正事項a-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2-2)訂正事項bについて
訂正事項bは、段落【0013】において、「1本以上の支持部材がウエハの後端側に位置するように配置され」、及び「これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が75〜180度の位置に配置されたことを特徴とする縦型ボート」を、「2本の支持部材がウエハの後端側に位置するように配置され」、及び「これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置され、ウエハがウエハ挿入始端側からウエハ挿入後端側まで挿入可能になっていることを特徴とする縦型ボート」と訂正するものである。
したがって、訂正事項bは、請求項1が訂正されたことに伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正で、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証(実願平2-402499号(実開平4-92645号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(特開平2-17633号公報)、及び甲第3号証(実願昭62-175823号(実開平1-79828号)のマイクロフィルム)を提出し、特許第3280437号の請求項1に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できる発明であり、当該発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたもので、同法第113条第1項第2号の規定より取り消されるべきものである旨主張している。(以下、「申立ての理由1」という。)
また、申立人は、本件発明の構成要件である「1本以上の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が75〜180度の位置に配置された」について以下のように主張している。
願書に最初に添付した明細書の段落【0032】では、「ウエハ1の挿入始端側に位置する支持部材6の突起14と、ウエハ1の中心1aと、ウエハ1の挿入方向Xとのなす角度Aが約95〜140度(好ましくは120度)になるように配置する。」と記載され、平成4年11月30日付け手続補正書で、「…Xとのなす角度Aが約75〜180度(好ましくは95〜140度)になるように配置する。」としているが、本件特許公報は前記角度Aが140〜180度の範囲にある縦型ボートの構造についての具体的な説明がない上に、明細書の要旨は変更していることが明らかであるので、該要件について請求項1に係る発明を不明確にしており、特許請求の範囲の記載は、特許発明を明確に記載しないものであり、特許法第36条第5項第2号(異議申立書には第36条第6項第2号とあるが、本件出願の出願年からみて、第36条第5項第2号の誤記と認定した。)の規定に違反し、本件特許は、同法第113条第1項第4項の規定により取り消されるべきものである。(以下、「申立ての理由2」という。)

(2)異議申立てについての検討
(2-1)申立ての理由2について
上記訂正事項a-2により、本件訂正前発明の構成要件は、本件発明の構成要件「2本の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置された」と訂正され、上記角度Aの範囲は、願書に最初に添付した明細書の記載の範囲内においてしたものとなり、しかも本件発明の構成要件の上記角度Aの範囲は140〜180度の範囲を含まないものとされたので、異議申立に係る特許法第36条第5項第2号に規定する要件の不備は解消している。

(2-2)申立ての理由1について
(2-2-1)本件の請求項1に係る発明
特許第3280437号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成16年3月8日付けの上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(上記2.(1)の訂正事項a参照)
(2-2-2)申立人が提出した甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明
(a)甲第1号証には、
「天板と台板との間に垂直に立設して所定箇所にウエーハを水平に支持する溝を設けた複数の支持部材からなるウエーハ支持装置において、前記支持部材の断面は長軸を有する楕円形状とされ、その長軸が台板の中心に向うようにかつ点対称に配置されることを特徴とするウエーハ支持装置。」(実用新案登録請求の範囲の請求項1)と記載されている。
(b)甲第2号証には、
「ウエハー主面をほぼ水平とし、且つ複数枚のウエハーをほぼ一定の間隔で保持する縦型ウエハーボートにおいて、ウエハー主面にほぼ垂直にたてられた複数本の支持棒につけられたウエハー保持部でウエハー端部がウエハーボートに接触せず、かつ該ウエハー保持部がウエハー裏面と点接触することによってウエハーを保持することを特徴とする縦型ウエハーボート。」(特許請求の範囲)と記載されている。
(c)甲第3号証には、
「ほぼ垂直に立設して所定箇所にウエハ保持用の溝を設けた複数本の支持部材の上下両端に、天板および台板を固着し、台板前方向からウエハを前記溝内に挿入してウエハの端部を保持するように構成された縦型熱処理炉用のウエハ支持装置であって、前記支持部材を切り込みの深い溝を設けた板状材としたことを特徴とするウエハ支持装置。」(実用新案登録請求の範囲)と記載されている。
(2-2-3)対比・判断
本件発明と申立人が提出した甲第1号証乃至甲第3号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証乃至甲第3号証には、本件発明の構成要件である、支持部材に形成されたスリットによって画成された支持アームの先端部分に設けられた支持突起であって、「上記1対の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が30〜80度の位置に配置され、上記2本の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置」される点について記載も示唆もされていない。
(甲第1号証及び甲第3号証には、支持部材の支持突起を設ける点について記載も示唆もされていない。甲第2号証には、支持突起とウエハ中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度について記載も示唆もされていない。)
さらに、本件発明は、上記の点を備えることにより、「例えば、半導体ウエハをボートの所定位置に積載した状態で、ウエハの重心がウエハの挿入始端側に位置する対向する2つの支持部材の支持部分間から相当に奥に入ったところに位置するので、ウエハの挿入始端側に位置する支持部材への荷重負担が軽減される。換言すれば、全ての支持部材に荷重が適当に分散されるのである。それゆえウエハがスリップを起こす危険が確実に回避される。」(明細書段落【0015】)という明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明が甲第1号証乃至甲第3号証に記載の発明から容易に発明をすることができたとはいえない。


4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
縦型ボート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の支持部材を縦方向に配列して、それらの支持部材に所定の間隔で形成された複数のスリットにそれぞれ複数の半導体ウエハを積載するための縦型ボートにおいて、1対の支持部材がウエハ挿入始端側に位置し、2本の支持部材がウエハ挿入後端側に位置するように配置され、これら支持部材を断面直線形状の実質的に平坦な板で構成し、スリットを数多く板幅の約2/3以上にわたって切り込んで形成し、支持部材の全体をほぼ櫛形にして、しかもスリットによって画成された支持アームの先端部分に支持突起を設けて、支持突起がウエハの外周縁部を超えてウエハの半径の65〜85%の領域を支持し、かつ、上記1対の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が30〜80度の位置に配置され、上記2本の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置され、ウエハがウエハ挿入始端側からウエハ挿入後端側まで挿入可能になっていることを特徴とする縦型ボート。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、複数の支持部材を縦方向に配列して、それらの支持部材に所定の間隔で形成された複数のスリットにそれぞれ複数の半導体ウエハを積載するための縦型ボートに関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体ウエハの酸化・拡散処理工程では、多数の半導体ウエハをウエハ用ボートに積載して、そのままウエハ用ボートを拡散炉内部に搬入して、そこで所望の熱処理を行う。
【0003】
拡散炉の種類に応じて縦型ボートを使用したり、横型ボートを使用したりしている。
【0004】
従来の縦型ボートは、複数のウエハを水平又はそれよりも少し傾斜した状態に支持するために複数(例えば4本)の棒形状の支持部材が縦方向に配列されている。それらの支持部材には所定の間隔で複数のスリットが形成されている。それらの複数のスリットにそれぞれ複数の半導体ウエハを積載する。
【0005】
従来の縦型ボートは、通常、全ての支持部材が同一断面形状の棒材であった。例えば、断面形状は円形や四角形などであった。このような断面形状の棒材に形成されたスリットは、その奥底がウエハの外周に沿ったアーク形状となっていた。換言すれば、スリットによって形成された支持面のウエハ円周方向の幅が小さかった。
【0006】
棒形状の支持部材に代えて支持棒に固定された円弧形状の板の内面にスリットを形成する従来例も知られている。この場合も、スリットによって形成された支持面のウエハ円周方向の幅が小さかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ボートは、支持部材が棒形状であっても板形状であっても支持部材によってウエハを支持した状態で熱処理時に高温にさらされる。すると、従来の縦型ボートは、ウエハ外周縁部を支持するものであるため、特にウエハが大きな寸法のものになるにつれて、ウエハはその重量で撓み量が増大する。その結果、ウエハが変形したりスリップしたりして、いわゆる結晶転移が発生し、製品歩留に悪い影響を及ぼす。
【0008】
さらに、支持部材の支持面がウエハの外周縁部のみと接触していると、特定の支持部材に荷重応力が集中する。そのため、特にウエハが大きな寸法のものになるにつれて、スリップの発生頻度が増加する。
【0009】
ウエハをボートに出し入れするために、ウエハの挿入始端側に位置する1対の支持部材の間隔をウエハの外径よりも大きくしていた。そのため、ウエハをボートの所定位置に積載した状態で、ウエハの挿入始端側に位置する支持部材の前方端と、ウエハの中心と、ウエハの挿入方向とのなす角度が90度を僅かに(例えば数度)越す構造にするのがせいぜいであるが、その様なものであると、ウエハの重心がウエハの挿入始端側に位置する対向する2つの支持部材の前方端間又はその近傍に位置することになり、ウエハの挿入始端側に位置する支持部材に荷重負担が偏ってしまう。例えば、ウエハの挿入始端側に位置する1対の支持部材に70〜90パーセントの荷重応力が負荷される。
【0010】
また、熱処理時にボートの支持部材の支持部分とウエハとの温度差による熱応力も複合的に加わって、特にウエハが大きな寸法のものになるにつれて、スリップの発生頻度が増加する。
【0011】
ウエハを熱処理するに際しては、拡散炉からの熱の伝達は輻射あるいは伝熱によるが、棒形状の支持部材に所定の間隔で形成された複数のスリット(溝)のところからのウエハへの伝熱もあり、局部的なウエハ内部の温度分布の要因となっている。ウエハ自重及び熱的温度分布による熱応力が、ウエハの挿入始端側に位置する対向する1対の支持部材でのウエハのスリップ転移の原因となり、ウエハの熱処理歩留を低下させていた。
【0012】
この発明は、このような従来技術の欠点を解消して、大きな寸法のウエハを積載して熱処理をしてもスリップが生じないとともに、ウエハの撓み量を小さくできる縦型ボートを提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願発明は複数の支持部材を縦方向に配列して、それらの支持部材に所定の間隔で形成された複数のスリットにそれぞれ複数の半導体ウエハを積載するための縦型ボートにおいて、1対の支持部材がウエハ挿入始端側に位置し、2本の支持部材がウエハ挿入後端側に位置するように配置され、これら支持部材を断面直線形状の実質的に平坦な板で構成し、スリットを数多く板幅の約2/3以上にわたって切り込んで形成し、支持部材の全体をほぼ櫛形にして、しかもスリットによって画成された支持アームの先端部分に支持突起を設けて、支持突起がウエハの外周縁部を超えてウエハの半径の65〜85%の領域を支持し、かつ、上記1対の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が30〜80度の位置に配置され、上記2本の支持部材の支持突起が、これとウエハの中心とウエハ挿入方向挿入側とのなす角度が95〜140度の位置に配置され、ウエハがウエハ挿入始端側からウエハ挿入後端側まで挿入可能になっていることを特徴とする縦型ボートを要旨としている。
【0014】
【発明の効果】
この発明の縦型ボートによれば、ウエハの撓み、反り、スリップ発生を低減する効果がある。とくにスリップ発生の抑制効果は非常に大きい。この発明の縦型ボートを使用すれば、製品の歩留まり及び信頼性の向上と、熱処理工程の時間短縮が実現できる。
【0015】
さらに詳細に述べると、支持突起がウエハの外周縁部を超えてウエハの中央寄りの部分を支持するので、熱処理時に被熱処理物であるウエハの外周縁部に支持部材の支持部分が接触しない。その結果、ウエハ外周縁部を支持する従来の縦型ボートにみられた欠点が解消される。例えば、半導体ウエハをボートの所定位置に積載した状態で、ウエハの重心がウエハの挿入始端側に位置する対向する2つの支持部材の支持部分間から相当に奥に入ったところに位置するので、ウエハの挿入始端側に位置する支持部材への荷重負担が軽減される。換言すれば、全ての支持部材に荷重が適当に分散されるのである。それゆえウエハがスリップを起こす危険が確実に回避される。
【0016】
また、この発明の縦型ボートによれば、支持突起がウエハの外周縁部を超えてウエハの中央寄りの部分を支持するので、ウエハの外周縁部を支持する従来例に比較して、ウエハの重量による撓み量を抑制する。この効果は特にウエハが大きな寸法のものになるにつれて顕著になる。その結果、ウエハが変形したりスリップしたりして結晶転移が発生することが防止でき、製品歩留まりが向上する。
【0017】
さらに、支持突起がウエハの外周縁部を超えてウエハの中央寄りの部分を支持するので、棒形状の支持部材に形成された複数の溝のところからのウエハへの伝熱がなくなり、局部的なウエハ内部の温度分布が極力押えられ、熱処理時にボートの支持部材の支持部分とウエハの外周部分との温度差による熱応力の発生が効果的に抑制される。したがって、ウエハ自重及び熱的温度分布による熱応力が原因となるウエハのスリップ転移がなくなり、ウエハの熱処理歩留まりが向上する。
【0018】
前述のように顕著な効果を奏する縦型ボートを極めて容易にかつ高い精度で作ることができる。特に高精度のスリット幅及びスリット間隔を有する縦型ボートを多量生産するときに、この発明は抜群の効果を発揮する。
【0019】
【実施例】
図1〜2はこの発明の好適な実施例による縦型ボートを示している。縦型ボートは、多数のウエハ1を積載するものであり、上下一対の板状固定手段2の間に3本以上(代表的には4本)の支持部材5、6が縦方向に配列されている。それらの支持部材5、6に所定の間隔で縦方向に沿って形成された複数のスリット9、10にウエハ1を積載するようになっている。支持部材5、6は、いずれも断面直線形状の実質的に平坦な板で構成している。
【0020】
スリット9、10が板状支持部材5、6の板幅(つまり板の横方向の長さ)の約2/3以上(好ましくは3/4以上)にわたって切り込んで形成してある。その結果、スリット9、10によって画成された支持部分がアーム部分を構成して在る。そのアーム部分の先端部に狭い面積の支持突起13、14が設けてある。アーム部分がウエハ1の外周縁部を超えて延びて、支持突起13、14がウエハ1の中央寄りの部分を支持するようになっている。例えば、これらの支持突起13、14によるウエハ1の支持ポイントが、ウエハ1の半径の50〜90パーセントに来てウエハ1の外周縁部を超えてウエハ1の中央寄りの部分を支持するように配置するのが好ましい。しかも、支持ポイントがウエハ1の中心1aから同心円状に配置されるのが好ましい。
【0021】
板状支持部材は、図示しなかった形状を含めて、いろいろと組み合わせて使用できる。
【0022】
支持突起を設けることにより、ウエハ外周縁部との接触を避け、ウエハ外周縁部での応力集中及びボートからの熱伝導を避けることができる。
【0023】
支持突起の高さはウエハの外周縁部が触れない程度で良いが、ガス置換を考えると、1〜5mm程の高さの方が望ましい。更に図に示すように比較的幅の広いスリットを設けることにより、ボートからウエハへの熱伝導と、ウエハ及びアーム部分間のガス滞留を防ぐことができる。
【0024】
ボートの材質は、石英ガラス、炭化珪素、炭素、単結晶、多結晶シリコン、シリコン含浸炭化珪素等が挙げられる。また、ボートは、純度、耐熱性、耐腐食性の高いものが望ましい。石英ガラスの場合、溶接が容易であるが、他の材質の場合は組立式も考えられる。
【0025】
また、図示した実施例では4本の支持部材が使用されているが、本発明はこれに限定されない。
【0026】
さらに、本発明の実施例を詳細に説明すると、2対の同一の断面直線状の支持部材5、6が縦方向に互いに平行に配置されている。これらの支持部材5、6の上方端部と下方端部にはそれぞれ固定手段2が設けられているが、一方の固定手段2だけを示し、他方の固定手段は図示を省略している。
【0027】
長さと厚みの異なる2種類の断面ほぼ直線状の板状支持部材5、6が使用されている。ウエハ1の挿入始端側に位置する2つの対向する支持部材5は、薄くて長い断面ほぼ直線状の板状支持部材であり、多数のスリット9を所定の間隔(図2)ごとに板状支持部材5の幅の約4/5まで切り込んで多数の互いに平行なアーム部分を形成してあり、全体が櫛形になっている。他方、ウエハ1の挿入後端側に位置する2つの対向する支持部材6は、厚くて短い断面ぼぼ直線状の板状支持部材であり、多数のスリット10を前述の支持部材5と同一の間隔ごとに板状支持部材6の幅の約3/4まで切り込んで多数の互いに平行なアーム部分を形成してあり、全体が櫛形になっている。
【0028】
ウエハ1の挿入始端側に位置する2つの対向する支持部材5は、スリット9の底9aがウエハ1の挿入方向Xと垂直になるように形成してある。ウエハ1の挿入後端側に位置する2つの支持部材6は、スリット10の底10aがウエハ1の外周円の接線と垂直になるように形成してある。
【0029】
これらのスリット9、10によって画成されたアーム部分の先端部に狭い面積(例えば12mm2)の支持突起13、14が設けて在る。アーム部分はウエハ1の外周縁部を超え、支持突起13、14はウエハ1の中央寄りの部分Pを支持するようになっている。
【0030】
図2に示すように、これらのスリット9、10は、それぞれ幅の比較的広い第1スリット9aと、幅の比較的狭い第2スリット9bとからなる。
【0031】
好ましくは、ウエハ1をボートの所定位置に積載した状態で、前述の支持突起13、14によるウエハ1の支持ポイントは、すべてウエハ1の中心1aから同心円状に配置され、その同心円はウエハ1の半径の50〜90パーセント(好ましくは50〜90パーセント)の領域Pに来るようにし、ウエハ1の支持ポイントが全てウエハ1の外周縁部を超えるように配置する。
【0032】
また、これらの支持突起13、14によるウエハ1の支持ポイントの好ましい配置方法あるいは分配方法を述べると、ウエハ1の挿入後端側に位置する支持部材6の突起14と、ウエハ1の中心1aと、ウエハ1の挿入方向Xとのなす角度Aが約95〜140度(好ましくは120度)になるように配置する。他方、ウエハ1の挿入始端側に位置する2つの対向する支持部材5の突起13と、ウエハ1の中心1aと、ウエハ1の挿入方向Xとのなす角度Bが約30〜80度(好ましくは60度)になるように配置する。
【0033】
これとは違った支持ポイントの配置方法あるいは分配方法の考え方を採用して、ウエハ1をボートの所定位置に積載した状態で、ウエハ1の挿入始端側に位置する2本の支持部材5の突起13と、他方の、ウエハ1の挿入後端側に位置する2つの対向する2本の支持部材6の突起14とが、ウエハ1の中心1aを通りかつウエハ1の挿入方向Xと平行な線Mに対して線対称になっていると共に、ウエハ1の中心1aを通りかつウエハ1の挿入方向Xと直角方向の線Nに対しても線対称になっていると、すべての支持ポイントに等しい荷重がかかり、4本の突起の荷重バランスが良好になる。
【0034】
支持部材5、6の製造方法の一例を説明すると、まず図1に示すような断面形状と所望の長さを有する板状支持部材を形成する。続いて、このような断面形状の板状支持部材5、6に所定の間隔(例えば3mm)毎に所定の幅(例えば29×5.35mm)を有する第1スリット9aをウォータージェット等の手段を使って開ける。そのとき、板状支持部材5、6の両方の側端面5a、5bに残部を残す。一方の側端面5a側の残部にその側端面5aから第1スリット9aまで所定の幅(例えば3mm)の第2スリット9bをダイヤモンドカッターで切り込むことにより、図2に示すように、支持部材の全体を櫛形状にして、主として第1スリット9aによって形成されたアーム部分の先端部に狭い面積のウエハ用の支持突起13、14を形成する。支持突起13、14の高さは、例えば1mmである。他方の側端5bの残部は支柱として機能する。
【0035】
なお、支持部材5、6の製造方法において、第1スリットを形成した後、全ての支持部材を固定手段に固定し、その後で、第2スリットを形成すると、スリット全体の精度が向上する。また、第1スリットを形成した後、Siを含浸して、そのあとに、第2スリットを形成すると、加工が容易となる。
【0036】
本発明のボートは従来のボートと比較してウエハのたわみ、そりおよびスリップ発生の低減に効果が認められた。特にスリップ発生の抑制効果は大きく、突起を有することによってボート支柱との接触を避けたことが大きな要因となっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の好適な実施例による縦型ボートの概略を示す断面図。
【図2】
図1の縦型ボートの一方の支持部材を示すIX-IX線に沿った断面図。
【符号の説明】
1 ウエハ
1a ウエハの中心
5、6 支持部材
9、10 スリット
9a、10a 第1スリット
9b、10b 第2スリット
13、14 支持突起
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-25 
出願番号 特願平4-339553
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
P 1 651・ 534- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 恩田 春香
松本 邦夫
登録日 2002-02-22 
登録番号 特許第3280437号(P3280437)
権利者 東芝セラミックス株式会社
発明の名称 縦型ボート  
代理人 田辺 徹  
代理人 田辺 徹  

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