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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01G |
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管理番号 | 1097972 |
異議申立番号 | 異議2002-72061 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-02-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-08-23 |
確定日 | 2004-04-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3259686号「セラミック電子部品の製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3259686号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第3259686号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成10年7月27日に特許出願され、平成13年12月14日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人熊崎勝子より特許異議の申立てがなされたものである。 以後の主な手続きの経緯は、次のとおりである。 取消理由通知(第1回):平成14年11月5日 意見書・訂正請求書 :平成15年1月14日 訂正拒絶理由通知書 :平成15年10月16日 意見書・補正書 :平成15年12月26日 取消理由通知(第2回):平成16年1月20日 訂正請求取下書 :平成16年3月5日 意見書・訂正請求書 :平成16年3月5日 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 訂正事項a 発明の名称を「セラミック電子部品の製造方法」と訂正する。 訂正事項b 請求項1ないし4を削除する。 訂正事項c 請求項5を「セラミック焼結体内に複数の内部電極がセラミック焼結体層を介して重なり合うように配置されているセラミック電子部品の製造方法であって、内部電極を構成するための導電ペーストをセラミックグリーンシートの一方主面上に印刷する工程と、導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシート及び導電ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの上下に配置される無地のセラミックグリーンシートを積層、加圧して積層体を得る工程と、得られた積層体を焼成することにより、セラミック焼結体を得る工程とを備え、前記積層体は、前記積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して、内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるように、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいセラミックス及び導電ペーストを用いることを特徴とする、セラミック電子部品の製造方法。」と訂正するとともに、請求項1として繰り上げる。 訂正事項d 段落0010、0012、0013、0014、0045、0046、0047、0048、及び0049を削除する。 訂正事項e 段落0001における「セラミック電子部品及びその製造方法」を、「セラミック電子部品の製造方法」(2箇所あり)と訂正する。 訂正事項f 段落0015を、「【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、セラミック焼結体内に複数の内部電極がセラミック焼結体層を介して重なり合うように配置されているセラミック電子部品の製造方法であって、内部電極を構成するための導電ペーストをセラミックグリーンシートの一方主面上に印刷する工程と、導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシート及び導電ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの上下に配置される無地のセラミックグリーンシートを積層、加圧して積層体を得る工程と、得られた積層体を焼成することにより、セラミック焼結体を得る工程とを備え、前記積層体は、前記積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して、内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるように、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいセラミックス及び導電ペーストを用いるを用いることを特徴とする。」と訂正する。 訂正事項g 段落0050を、「【発明の効果】請求項1に記載の発明に係るセラミック電子部品の製造方法では、内部電極を構成するための導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシートと無地のセラミックグリーンシートを積層、加圧して積層体を得る工程と、得られた積層体を焼成することにより、セラミック焼結体を得る工程とを備え、前記積層体は、前記積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して、内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるようにしているため、デラミネーションの発生を効果的に抑制することができる。」と訂正する。 訂正事項h 段落0051における「請求項5に記載の発明」を、「請求項1に記載の発明」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項bは、特許異議申立に係る一部の請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであって、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項cは、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいセラミックス及び導電ペーストを用いるに当たって、「積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して、内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるように」する点を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。そして該訂正事項cは、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 次に旧請求項1ないし4の削除に伴い、請求項5を請求項1に繰り上げることは、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項a及びd〜hは、旧請求項1〜4が削除され、また旧請求項5が訂正されるとともに請求項1として繰り上がったことに伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。そして、訂正事項a及びd〜hは、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 3 特許異議の申立てについて (1)申立ての理由の概要 特許異議申立人は、下記の甲第1ないし7号証及び参考資料1〜3を提出して、特許第3259686号の請求項1ないし4に係る発明は甲第1ないし4号証に記載された発明に基づいて、請求項5に係る発明は甲第5ないし7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、また、請求項1に係る発明についての明細書の記載には不備があり、本件特許は、特許法第36条第4項及び第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである旨を主張している。 記 甲第1号証:特開平9-190947号公報 甲第2号証:ISHM ’92 Proceedings PROCEEDINGS of the 1992 INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON MICROELECTRONICS October 19-21,1992 pp.263-268 甲第3号証:ISHM ’92 Proceedings PROCEEDINGS of the 1992 INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON MICROELECTRONICS October 19-21,1992 pp.607-612 甲第4号証:ISHM ’94 Proceedings Proceedings of the 1994 International Symposium on Microelectronics pp.243-247 甲第5号証:特開平7-142904号公報 甲第6号証:特開平7-297074号公報 甲第7号証:ISPS ’97 PROCEEDINGS 1997 International Systems Packaging Symposium December 2-5,1997 pp.135-140 (2)旧請求項1に係る発明は、訂正により削除されているので、異議申立に係る特許法第36条第4項及び第36条第6項第2号に規定する要件の不備は解消している。 (3)本件発明 特許第3259686号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成16年3月5日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】セラミック焼結体内に複数の内部電極がセラミック焼結体層を介して重なり合うように配置されているセラミック電子部品の製造方法であって、 内部電極を構成するための導電ペーストをセラミックグリーンシートの一方主面上に印刷する工程と、導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシート及び導電ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの上下に配置される無地のセラミックグリーンシートを積層、加圧して積層体を得る工程と、得られた積層体を焼成することにより、セラミック焼結体を得る工程とを備え、前記積層体は、前記積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して、内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるように、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいセラミックス及び導電ペーストを用いることを特徴とする、セラミック電子部品の製造方法。」 (4)甲号証記載の発明 旧請求項1ないし4に係る発明は訂正により削除されており、旧請求項5に関連する甲号証記載の発明は次のとおりである。 甲第5号証には、誘電体積層フィルタが図面と共に開示されており、さらに次の事項が記載されている。 「複数枚の誘電体シートの上に、焼成時の収縮率が前記誘電体シートより小さい電極材料を用いてそれぞれストリップライン共振器電極とシールド電極を形成し、前記誘電体シートを積層して一体焼成したことを特徴とする誘電体積層フィルタ。」(特許請求の範囲の請求項34) 「焼成により、誘電体シートと各電極層は縦方向と横方向にそれぞれ数10%収縮して小さくなる。もし、電極層の収縮率が誘電体シートの収縮率よりも大きいと電極の端子が積層体の端面において内部に引っ込んでしまうため、側面に形成する端子電極との接続ができなくなってしまう。これを避けるために、焼成時の収縮率が誘電体シートよりわずかに小さい電極材料を用いて、複数枚の誘電体シートの上にそれぞれストリップライン共振器電極とシールド電極を形成し、誘電体シートを積層して一体焼成を行う。この様にすることにより、積層体の端面に電極の端子が数μmから数十μm突き出た状態になって側面に形成される端子電極との接続がうまくできることになる。」(段落0013) 甲第6号証には、積層セラミック電子部品が図面と共に開示されており、さらに次の事項が記載されている。 「本発明は、セラミックシートの加圧後の収縮率を増大させ、内部電極による積層体の中心部と周辺部の厚み差をなくし、積層不良や、デラミネーション(層間剥離)、クラック(割れ)等の不良のない積層セラミック電子部品を提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、本発明は、セラミックシート中のセラミック粉体の占める体積を60%以下にし、空気を多く含有させて膜厚を厚くするものである。 【作用】上記構成により、セラミックシートの加圧後の収縮率が増大するので、内部電極による積層体の中心部と周辺部の凹凸を吸収し、積層不良や、デラミネーション(層間剥離)、クラック(割れ)等の不良の発生を防ぐことができる。」(段落0005〜0007) 甲第7号証には、低温同時焼成セラミック技術(LTCC)について開示されている。そして、再結晶のバリウムアルミノシリケートガラスと銀による多層回路基板が例示されている。 (5)対比・判断 本件発明と甲第5ないし7号証記載の発明とを対比すると、甲第5ないし7号証には本件発明に係る、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいセラミックス及び導電ペーストを用いて積層体の積層、加圧に当たり、「内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して、内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるように」する点について、記載も示唆もない。 そして本件発明は、上記の点により「デラミネーションの発生を効果的に抑制することができる。」という明細書記載の効果を奏するものである。 よって、本件発明は、甲第5ないし7号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 なお甲第1ないし4号証及び参考資料1〜3を参酌しても上記の結論は変わらない。 4 むすび 以上のとおりであるから、本件発明についての特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セラミック電子部品の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 セラミック焼結体内に複数の内部電極がセラミック焼結体層を介して重なり合うように配置されているセラミック電子部品の製造方法であって、内部電極を構成するための導電ペーストをセラミックグリーンシートの一方主面上に印刷する工程と、導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシート及び導電ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの上下に配置される無地のセラミックグリーンシートを積層、加圧して積層体を得る工程と、得られた積層体を焼成することにより、セラミック焼結体を得る工程とを備え、前記積層体は、前記積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して、内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるように、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいセラミックス及び導電ペーストを用いることを特徴とする、セラミック電子部品の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、例えば積層コンデンサのようなセラミック電子部品の製造方法に関し、より詳細には、内部電極外周縁の形状が改良されているセラミック電子部品の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】図6は、従来の積層コンデンサの一例を示す断面図である。積層コンデンサ51は、誘電体セラミックスよりなるセラミック焼結体52を有する。セラミック焼結体52内には、セラミック層を介して厚み方向に重なり合うように複数の内部電極53a〜53dが形成されている。内部電極53a,53cは、端面52aに引き出されており、内部電極53b,53dは、端面52bに引き出されている。端面52a,52bを覆うように外部電極54,55がそれぞれ形成されている。 【0003】ところで、上記積層コンデンサ51に用いられるセラミック焼結体52は、以下の方法で製造されている。すなわち、内部電極53a〜53dを形成するための導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシートを積層し、上下に無地のセラミックグリーンシートを適宜の枚数積層し、積層体を得る。この積層体を厚み方向に加圧した後、焼成する。 【0004】従って、上記内部電極53a〜53dは、印刷された導電ペーストが焼き付けられることにより構成されているため、ほぼ均一な厚みを有する。内部電極53aの先端、すなわち図6の円Aで示す部分を、図7(a)に拡大して示す。 【0005】図7から明らかなように、内部電極53aでは、その先端まで厚みがほぼ均一とされている。また、図7(b)に示すように、内部電極53aの先端が若干丸みを帯びている場合もある。 【0006】ところが、上記のような内部電極形状を有するため、従来の積層コンデンサ51では、セラミック焼結体52を得た際に、ときとしてセラミック層間の剥がれやデラミネーションと称されている現象が生じることがあった。これは、焼成に先立ち、積層体を加圧した際に、内部電極が存在する部分では厚み方向に強く加圧されて密度が高められるのに対し、内部電極周縁近傍及び内部電極が存在しない部分では十分に加圧されないためと考えられる。すなわち、図7(a)中のB〜Dで示す部分においては、焼成前に、B>D>Cの関係で密度差が生じるので、得られた焼結体において該密度差に起因するデラミネーションや層間剥離が生じているものと考えられる。特に、高い信頼性を得るため、内部電極の厚みを3μm以上とした場合にこれらの現象が顕著となっていた。 【0007】そこで、図7(a)のCで示す部分における密度の低下を緩和する方法として、特開平8-58259号公報には、特殊なスクリーン印刷板を用いて導電ペーストを印刷する方法が提案されている。ここでは、特殊なスクリーン印刷板を用いて導電ペーストを印刷することにより、内部電極外周縁近傍の厚みを残りの部分に比べて薄くする方法が示されている。この方法で形成された内部電極の断面形状を、図8に示す。図8に示す内部電極56では、内部電極56の外周縁近傍において、段差56aを介して段差56aよりも外周縁側部分56bの厚みが薄くされている。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平8-58259号公報に開示されている方法においても、得られた焼結体におけるデラミネーションや層間剥離を完全に防止することはできず、その改善が強く求められていた。 【0009】本発明の目的は、積層コンデンサのようなセラミック電子部品において、内部電極形状を改良することにより、デラミネーションや層間剥離現象を効果的に防止し得るセラミック電子部品及びその製造方法を提供することにある。 【0010】 【0011】 【0012】 【0013】 【0014】 【0015】【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、セラミック焼結体内に複数の内部電極がセラミック焼結体層を介して重なり合うように配置されているセラミック電子部品の製造方法であって、内部電極を構成するための導電ペーストをセラミックグリーンシートの一方主面上に印刷する工程と、導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシート及び導電ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの上下に配置される無地のセラミックグリーンシートを積層、加圧して積層体を得る工程と、得られた積層体を焼成することにより、セラミック焼結体を得る工程とを備え、前記積層体は、前記積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在するものであり、前記セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動して内部電極の先端が断面視した場合に、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるように、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいセラミックス及び導電ペーストを用いることを特徴とする。 【0016】 【発明の実施の形態】図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施例としての積層コンデンサを示す側面断面図及び(a)中の円Eで示す部分を拡大して示す部分切欠断面図である。 【0017】積層コンデンサ1は、誘電体セラミックスよりなるセラミック焼結体2を有する。セラミック焼結体2内には、複数の内部電極3〜6がセラミック層を介して厚み方向に重なり合うように配置されている。セラミック焼結体2の端面2aには、内部電極3,5が引き出されている。内部電極4,6は、端面2bに引き出されている。端面2a,2bを覆うように、それぞれ、外部電極7,8が形成されている。 【0018】本実施例の特徴は、上記内部電極3〜6の外周縁の内、端面2a,2bに引き出されている端縁を除く残りの端縁が、断面視した際に、楔形の形状を有するように構成されていることにある。これを、内部電極3を代表して図1(b)に基づき説明する。 【0019】図1(b)に示されているように、内部電極3の先端においては、端縁3a近傍部分が、断面視したときに、楔形の形状を有するように構成されている。この楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたとき、L>2tとされている。 【0020】なお、楔形の長さLとは、内部電極中心部から内部電極端縁に向かう方向に沿う楔形形状の長さ寸法をいうものとする。本実施例では、L>2tとされているため、後述の実験例から明らかなように、セラミック焼結体2におけるデラミネーションや層間剥離が効果的に抑制される。 【0021】また、図1のF,F線に沿う断面図である図2から明らかなように、内部電極3〜6は、その外周縁のうち側端縁についても、上記と同様にL>2tを満たす楔形形状の断面構造を有する。 【0022】上記のように、内部電極の端縁において、L>2tを満たす楔形の断面形状を実現するには、内部電極及びセラミック焼結体を構成しているセラミックスとして、焼成に際してのセラミックスの収縮率が内部電極の収縮率よりも大きくなるようにこれらの材料を選択することにより実現することができる。これを、図3及び図4を参照して説明する。 【0023】図3は、焼結前のセラミック積層体における内部電極とセラミックグリーンシートとの関係を模式的に示す部分切欠断面図である。ここでは、積層体11は、内部電極3,4を介して積層されたセラミックグリーンシート12〜14を有する。内部電極3,4は、それぞれ、セラミックグリーンシート13,14の上面に導電ペーストを印刷することにより形成されている。 【0024】積層体11を得、厚み方向に加圧した場合、内部電極3,4が積層されている部分においては、積層体11は十分に加圧される。ところが、図3の矢印G,Hで示す部分では内部電極3,4が重なり合っている部分に比べて十分に大きな圧力が加わらない。従って、内部電極3,4の先端3a,4aの外側において密度の低い部分が存在する。 【0025】上記積層体11を焼成した場合には、セラミックスの焼成に際しての収縮率が、内部電極3,4の焼成に際しての収縮率よりも大きくされている。従って、焼成に際して上記収縮率の差によって、セラミックスが移動し、図4に示すように、内部電極3,4の先端3a,4aが、楔形の断面形状を有するように変形されることになる。その結果、内部電極3,4の先端3a,4a近傍において、セラミックスが緻密に焼結されることになり、層間剥離やデラミネーションが抑制される。 【0026】上記のように、セラミックスの収縮率を内部電極の収縮率よりも大きくする方法としては、特に限定されるわけではないが、例えば、▲1▼内部電極を構成するための導電ペーストとして、焼成後に飛散されるバインダーの含有割合を低め、金属粉末の含有割合を高める方法、あるいは▲2▼内部電極を構成する導電ペーストに、Ni、MoまたはWなどの高融点金属を添加する方法などを挙げることができる。 【0027】▲1▼内部電極におけるバインダー含有率を低下させる方法では、特に限定されるわけではないが、例えば、セラミックスとして低温焼結性セラミックス(CaZrO3+ガラス材料)を用いる場合、金属粉末100重量%に対し、有機バインダーの含有割合を2〜5重量%程度とすればよい。また、▲2▼内部電極に高融点金属を添加する方法としては、例えば、セラミックスとして低温焼結性セラミックス(CaZrO3+ガラス材料)を用い、かつ融点が1083℃であるCuを主体とする導電ペーストを用いる場合、Cu100重量%に対し、融点がCuに比べてかなり高い、Ni、Mo、Wなどの少なくとも1種を0.5〜10重量%程度添加する方法が挙げられる。 【0028】もっとも、上記のような内部電極の組成の調整は、使用するセラミックスの収縮率に応じて選ばれるものであり、従って、特に限定されるものではない。次に、具体的な実験例を挙げることにより、本発明に係るセラミック電子部品の製造方法を明らかにすると共に、本発明による効果を説明する。 【0029】(実施例1,2)セラミック焼結体2を得るために、低温焼結性セラミックス(CaZrO3+ガラス材料)系セラミック粉末を主体とするセラミックスラリーを用いて、矩形のセラミックグリーンシートを成形した。このセラミックグリーンシート上に、内部電極3〜6を形成するために、平均粒径1.0μmのCu粉末100重量%に対して有機バインダー3.0重量%の組成の導電ペーストをスクリーン印刷した。しかる後、導電ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、上下に無地の上記セラミックグリーンシートを積層し、厚み方向に加圧することにより、積層体を得た。この積層体を1000℃の温度で焼成し、1.6×0.8×0.8mmのセラミック焼結体2を得た。なお、内部電極の積層数は4とした。 【0030】得られたセラミック焼結体2の両端面に、導電ペーストを塗布し、焼き付けることにより、外部電極7,8を形成し、実施例の積層コンデンサ1を得た。なお、この外部電極7,8の形成は、積層体の焼成と同様に行われてもよい。 【0031】この実施例の積層コンデンサにおける内部電極の焼成後の最終的な厚みは3μmであった。すなわち、t=3μmであった。また、得られた焼結体を破断して内部電極端縁を観察したところ、端縁は楔形の形状を有し、L=10μmであった。 【0032】また、上記と同様にして、但し、最終的な内部電極の中心部分の厚みを10μmとした実施例2の積層コンデンサを作製した。実施例2の積層コンデンサについても、得られた焼結体を破断して内部電極の端縁を観察したところ、図5に顕微鏡写真で示すように、内部電極の先端近傍が断面楔形の形状を有していた。この場合、楔形形状において、t=10μmであり、L=25μmであった。比較のために、以下の要領で、比較例1,2,3,4の積層コンデンサを用意した。 【0033】(比較例1)内部電極として、平均粒径1.0μmのCu粉末100重量%に対して有機バインダー10重量%よりなる組成のものを用いたことを除いては、実施例1と同様にして積層コンデンサを得た。この場合、最終的な内部電極の厚みは3μmであり、得られた焼結体を破断して内部電極の端縁を観察したところ、内部電極の外周端縁までほぼ3μmの厚みであった。 【0034】(比較例2)内部電極の厚みを10μmとしたことを除いては、比較例1と同様にして積層コンデンサ1を得た。比較例2においても、得られた焼結体を破断して内部電極の端縁を観察したところ、内部電極の厚みは、10μmであり、外周縁も10μm程度の厚みとなっていた。 【0035】(比較例3)特開平8-58259号公報に従って内部電極を印刷したことを除いては、実施例1と同様にして積層コンデンサを得た。ここでは、内部電極外周縁近傍は、図8に示す断面形状を有するように構成されていた。 【0036】(比較例4)内部電極の厚みを10μmに変更したことを除いては、比較例3と同様にして積層コンデンサを得た。この積層コンデンサにおいても、内部電極外周縁の断面形状は、図8に示した内部電極56と同様であった。 【0037】(比較例5)内部電極を構成する材料として平均粒径1.0μmのCu粉末100重量%に対して有機バインダー7.0重量%の組成からなる導電ペーストを用いたことを除いては、実施例1と同様にして、積層コンデンサを作製した。この積層コンデンサにおける焼結体を破断して内部電極端縁を観察したところ、t=3μmであり、L=3μmであった。すなわち、L<2tとなっていた。 【0038】(比較例6)導電ペーストとして、平均粒径1.0μmのCu粉末100重量%に対して有機バインダー7.0重量%の組成を用いたことを除いては、実施例2と同様にして積層コンデンサを作製した。得られたセラミック焼結体を破断して内部電極の端縁を観察したところ、楔形の形状を有することが認められた。もっとも、t=10μmであり、L=5μmであった。すなわち、L<2tであった。 【0039】上記のようにして得た実施例1,2及び比較例1〜6の各積層コンデンサ100個における焼結体のデラミネーション発生率を下記の表1に示す。 【0040】 【表1】 【0041】表1から明らかなように、内部電極の外周縁の厚みが内部電極中央部分とほとんど変化していない比較例1,2では、デラミネーションの発生率が高く、特に内部電極の厚みが10μmと厚くなると、ほとんどの焼結体でデラミネーションが発生していた。 【0042】同様に、比較例3,4においても、比較例1,2に比べれば、デラミネーションの発生率は低下し得るものの、デラミネーションの発生を避けることができず、さらに内部電極の厚みが10μmと厚くなると、かなりの割合でデラミネーションが発生していた。 【0043】また、比較例5,6では、L<2tであったためか、デラミネーション発生率は、それぞれ、10,80%であった。これに対して、実施例1,2では、内部電極の厚みの如何に係わらず、デラミネーションの発生は皆無であった。 【0044】なお、上記実施例は、積層コンデンサについて説明したが、本発明は、積層インダクタ、積層バリスタ、積層圧電セラミック部品などの様々なセラミック電子部品に同様に適用することができ、同様にセラミック焼結体におけるデラミネーションを効果的に防止することができる。 【0045】 【0046】 【0047】 【0048】 【0049】 【0050】 【発明の効果】請求項1に記載の発明に係るセラミック電子部品の製造方法では、内部電極を構成するための導電ペーストが印刷された複数枚のセラミックグリーンシートと無地のセラミックグリーンシートを積層、加圧して積層体を得た後に、該積層体を焼成することによりセラミック焼結体を得るにあたり、積層体は、積層、加圧時に内部電極の先端の外側に密度の低い部分が存在し、セラミックグリーンシート及び導電ペーストを構成する材料として、焼成工程におけるセラミックスの収縮率が、内部電極の収縮率よりも大きいようにセラミックグリーンシート及び導電ペーストを選択して焼成時にセラミックスが内部電極の先端側に移動し、前記内部電極の先端側の端縁を、断面視したときに、楔形の形状で、前記楔形の長さをL、楔形の基部における内部電極厚みをtとしたときに、L>2tの関係となるようにしているため、デラミネーションの発生を効果的に抑制することができる。 【0051】特に、請求項1に記載の発明に係る製造方法では、内部電極及び導電ペーストを構成する材料を選択するだけで、特殊なスクリーン印刷板などの治具を必要とすることなく、従来の積層セラミック電子部品の製造方法と同じ工程で、本発明に係るセラミック電子部品を提供することができる。従って、セラミック電子部品のコストを上昇させることなく、信頼性に優れたセラミック電子部品を提供すすることが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 (a)及び(b)は、本発明の第1の実施例に係るセラミック電子部品としての積層コンデンサの側面断面図及び図1(a)中の円Eで示す部分を拡大して示す部分切欠断面図。 【図2】 図1のF-F線に沿う部分を示す断面図。 【図3】 本発明に係るセラミック電子部品の作用を説明するための図であり、焼成前のセラミック積層体を説明するための模式的断面図。 【図4】 図3に示した積層体を焼成することにより得られた焼結体を説明するための模式的部分切欠断面図。 【図5】 実施例2で得られた積層コンデンサの内部電極端縁形状を説明するための顕微鏡写真。 【図6】 従来の積層コンデンサの一例を示す断面図。 【図7】 (a)及び(b)は、従来の積層コンデンサにおける内部電極端縁の形状を説明するための部分拡大断面図。 【図8】 従来の積層コンデンサの内部電極端縁の形状を説明するための部分拡大断面図。 【符号の説明】 1…積層コンデンサ 2…セラミック焼結体 2a,2b…端面 3〜6…内部電極 3a,4a…先端 7,8…外部電極 11…積層体 12,13,14…セラミックグリーンシート |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-03-25 |
出願番号 | 特願平10-211235 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(H01G)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 江畠 博 |
特許庁審判長 |
内野 春喜 |
特許庁審判官 |
恩田 春香 小田 裕 |
登録日 | 2001-12-14 |
登録番号 | 特許第3259686号(P3259686) |
権利者 | 株式会社村田製作所 |
発明の名称 | セラミック電子部品の製造方法 |